目次
“`html
📍 クイックナビゲーション
かつて脂肪は、あまったエネルギーをただ貯めておくだけの倉庫だと考えられていました。その常識をくつがえしたのが、LEP遺伝子がつくる食欲ホルモン「レプチン」です。レプチンは血液に乗って脳に届き、「もう十分に食べた」「エネルギーは足りている」という信号を伝えます。このLEP遺伝子の両方のコピーが壊れると、生まれてまもなくから止まらない食欲と重い肥満をきたす、まれな病気「先天性レプチン欠損症」が起こります。この記事では、LEP遺伝子がどんな遺伝子で、レプチンをどうつくり、なぜ肥満の人ほど効きにくくなるのか、そして遺伝性の肥満との関わりと治療までを、遺伝専門医の視点でやさしく解説します。
Q. LEP遺伝子とはどんな遺伝子ですか?まず結論だけ知りたいです
A. LEP遺伝子は、脂肪細胞がつくる食欲ホルモン「レプチン」の設計図となる遺伝子です。第7染色体にあり、レプチンを通じて脳の視床下部に「エネルギーは足りている」という信号を送り、食欲とエネルギー消費を調整します。この遺伝子の両方のコピー(両アレル)に変化があると、レプチンがつくれない、あるいは働かない「先天性レプチン欠損症」となり、乳児期からの重い肥満が生じます。ごくまれな常染色体潜性(劣性)遺伝の病気で、レプチン欠乏例では組換えレプチンによる補充療法で著明な改善が報告されています。ただし、米国でのメトレプチンの承認適応は全身性脂肪萎縮症に伴うレプチン欠乏症であり、先天性レプチン欠損症はFDA承認適応とは区別して考える必要があります。
- ➤正体 → 第7染色体(7q32.1)にある、3つのエクソンからなる遺伝子。産物はレプチンという16 kDaのホルモン
- ➤はたらき → レプチンを通じて脳に「エネルギー残量」を伝え、食欲・エネルギー消費・省エネへの切り替えを調整する
- ➤病気とのつながり → 両アレル変異で先天性レプチン欠損症(重い早期発症肥満)。常染色体潜性遺伝のまれな病気
- ➤受容体側の病気 → レプチンの受け皿をつくるLEPR遺伝子の変異でも、よく似た重症肥満が起こる(鑑別が重要)
- ➤治療 → レプチン欠乏型の先天性レプチン欠損症では組換えレプチン補充療法の有効性が報告されている。一方、一般の肥満(レプチン抵抗性)にレプチン補充は適さない
🧬 LEP遺伝子の基本情報
各項目の根拠と詳しい解説は、本文の該当セクションをご覧ください。
1. LEP遺伝子とは ─ 脂肪が「臓器」だと証明した遺伝子
LEP遺伝子は、脂肪細胞(白色脂肪組織)でつくられるホルモン「レプチン」の設計図となる遺伝子です。長いあいだ脂肪組織は、あまったエネルギーを中性脂肪として蓄えるだけの受け身の組織だと思われてきました。その見方を大きく変えたのが、1994年にロックフェラー大学のフリードマンらが報告した、この遺伝子の発見です[1]。
研究の主役になったのは、ふつうのマウスの3倍近くまで太り、食欲が止まらない「ob(obese=肥満)マウス」という系統でした。研究チームは、この肥満の原因となる未知の遺伝子を、染色体上の位置をたよりに一つずつ絞り込んでいくポジショナルクローニングという手法で探し当てました[1]。その遺伝子が、いまLEP遺伝子(当時は ob 遺伝子)と呼ばれるものです。遺伝子の産物は、ギリシャ語で「痩せた」を意味する leptos にちなんでレプチンと名づけられました。これにより、脂肪組織が全身のエネルギー代謝を能動的にあやつる巨大な「内分泌器官」であることが証明され、肥満研究は大きく方向を変えました。
💡 用語解説:遺伝子とホルモン
遺伝子とは、体をつくるタンパク質の設計図となるDNAの一区画です。ホルモンとは、体のある場所でつくられ、血液に乗って離れた場所に「指令」を届ける物質のこと。LEP遺伝子は「レプチンというホルモンをつくりなさい」という指示書で、その指示に従って脂肪細胞がレプチンを合成し、血液中に放出します。指示書(遺伝子)が壊れると、ホルモン(レプチン)が十分につくれなくなったり、つくられても正常に働かなくなったりすることがあります。
レプチンの存在は、遺伝子が見つかるずっと前から予想されていました。1953年にケネディが唱えた「リポスタット仮説」は、脂肪の量に応じた何らかの血中因子が脳の摂食中枢に働きかけ、体重を一定に保っているという考え方でした。LEP遺伝子とレプチンの発見は、この長年の予想を分子のレベルで裏づけたのです。血液中のレプチン濃度は一般に脂肪量と正の相関を示し、脂肪量が増えると高く、減ると低くなる傾向があります。つまりLEP遺伝子は、体に蓄えられたエネルギーの量を脳に知らせる「燃料計」をつくる遺伝子だといえます[2]。
レプチンというホルモンそのものの多彩な働きについては、レプチンの用語解説ページでも詳しくまとめています。このページでは、そのレプチンをつくる「遺伝子」の側に焦点をあてて解説していきます。
2. 遺伝子とタンパク質の構造 ─ 設計図からホルモンへ
ヒトのLEP遺伝子は、第7染色体の長腕、7q32.1という場所にあります[18]。現在のGRCh38ではNC_000007.14の128,241,278~128,257,629付近に位置し、3つのエクソンからなる遺伝子です。古い文献では7q31.3と記載されていることもありますが、現在のNCBI Geneでは7q32.1とされています。
💡 用語解説:エクソンとイントロン
遺伝子の中には、タンパク質の設計情報そのものを担う「エクソン」と、そのあいだにはさまる「イントロン」があります。イントロンは最終的な設計図から切り取られ、エクソンだけがつなぎ合わされてタンパク質がつくられます。LEP遺伝子は3つのエクソンを持ち、そのうち2番目と3番目のエクソンがレプチンのアミノ酸情報を担っています。
LEP遺伝子から実際にレプチンがつくられる過程には、ひと手間あります。まず、167個のアミノ酸をつなげた「前駆体」としてレプチンがつくられます[12]。この前駆体の先頭には、タンパク質を細胞の外へ運び出すための短い目印(シグナルペプチド)が21アミノ酸ぶん付いています。これが切り離されることで、146アミノ酸・分子量およそ16 kDaの成熟したレプチンとなり、血液中に放出されます[12]。後で述べる遺伝子変異の中には、この「外へ運び出す」過程がうまくいかず、レプチンが細胞の中にとどまってしまうタイプもあります。
できあがったレプチンの立体構造は、免疫や炎症に関わるインターロイキン-6などのサイトカインとよく似ており、4本のらせん(αヘリックス)が束になった球状のかたちをしています[2]。構造の中には、C末端付近のシステインどうしがつくるジスルフィド結合という「留め具」があり、これがレプチンの立体構造と機能の維持に重要です。後述するように、この結合に影響する変異ではレプチンの分泌や働きが損なわれることがあります。
鍵と鍵穴 ─ レプチン受容体(LEPR)
LEP遺伝子がつくるレプチンが働くには、細胞の表面にある専用の受け皿、レプチン受容体にはまり込む必要があります。鍵(レプチン)と鍵穴(受容体)の関係です。この受容体をつくるのがLEPR遺伝子で、そこからは細胞内部の長さが異なる複数の型(アイソフォーム)がつくり分けられます。役割の違いを整理すると、次のようになります。
ここで大切なのは、食欲やエネルギー代謝を調節する主要な細胞内シグナルを伝える中心が長い型(LEPRb)だという点です[3]。後で述べる遺伝性の肥満も、レプチン抵抗性も、この長い型の受容体を起点とした信号の異常が重要になります。つまり、レプチンをつくるLEP遺伝子と、受け皿をつくるLEPR遺伝子は、鍵と鍵穴として一組で働いているのです。
3. レプチンが脳に届くしくみ ─ JAK-STATというリレー
レプチンが受容体にはまると、細胞の中では信号を次々にバトンタッチしていく反応が始まります。この一連の流れをシグナル伝達といいます。レプチン受容体の代表的な経路が、JAK-STAT経路です[3]。
レプチンが長鎖型受容体LEPRbに結合すると、受容体に会合しているJAK2が活性化され、LEPRbの細胞内領域にあるチロシン残基がリン酸化されます。そのうちTyr1138を足場としてSTAT3が動員され、JAK2によってリン酸化されたSTAT3は二量体を形成して細胞核へ移動し、遺伝子発現を調節します[3]。視床下部では、このシグナルがPOMC系を活性化し、AgRP/NPY系を抑制する方向に働くことで、摂食抑制とエネルギー恒常性の維持に寄与します。
レプチンが「もう食べなくていい」を伝える流れ
LEP遺伝子がレプチンをつくり血中へ放出
長い型LEPRbにレプチンが結合
信号が核へ伝わり遺伝子発現を調節
POMC系の活性化・AgRP/NPY系の抑制
この経路には、働きすぎを防ぐ「ブレーキ役」も組み込まれています。STAT3が働くと、こんどはSOCS3という抑制役のタンパク質が誘導され、レプチンシグナルを抑えます。さらに、PTP1Bという脱リン酸化酵素もJAK2などのリン酸化状態を調整し、シグナルを弱めます。ふだんはこのブレーキが過剰なシグナルを防いでいますが、後で述べるレプチン抵抗性では、こうした負の制御が過剰になることが問題の一つになります[3]。
4. 本当の役割は「飢餓を生き延びる」信号
レプチンは「痩せホルモン」と呼ばれることがありますが、その生理学的な重要性は、単に「太りすぎを止める」ことだけではありません。絶食や体脂肪の減少によってレプチンが低下したとき、中枢神経系や内分泌系はエネルギー不足に適応する方向へ強く反応します。
レプチンが一定の水準を下回ると、体は「エネルギーが足りない」と判断し、食欲を高め、エネルギー消費を抑え、生殖や甲状腺系などエネルギーを必要とする生理機能を抑制する方向へ切り替わります。ラットを使った研究では、低レプチン状態がHPA軸を介して肝臓と脂肪組織の代謝を再編し、飢餓時の血糖恒常性を保つ仕組みに関与することが示されています[4]。このため、レプチンは「満腹ホルモン」であると同時に、エネルギー貯蔵量の低下を生体に知らせる重要な飢餓適応シグナルでもあります。
💡 「減ることが信号」という発想
レプチンは、多いときに「エネルギーは十分にある」と伝えるだけでなく、少なくなったときに「エネルギー不足に備えろ」と伝える役割を持ちます。この非対称なしくみは、減量に伴って食欲が増し、エネルギー消費が抑えられ、体重を維持しにくくなる現象にも関係しています。
この「飢餓シグナル」としての性質は、進化のうえでも古くから保たれています。レプチンに似た遺伝子は、哺乳類だけでなく魚類や両生類にも見つかっています。ただし魚では、レプチンは脂肪組織よりも主に肝臓でつくられ、絶食時のレプチン動態も哺乳類とは異なる例が報告されています[13]。生き物が置かれた環境に応じて、レプチン系が異なる代謝調節に利用されてきたことがうかがえます。
5. 全身への多彩な作用 ─ 食欲だけではない
LEP遺伝子がつくるレプチンの働きは、脳での食欲調整にとどまりません。全身のさまざまな臓器や細胞にレプチン受容体が発現し、免疫・骨・心血管・造血・生殖など幅広い生理機能に関与しています。ここでは代表的なものを紹介します。
熱をつくる ─ 褐色脂肪との連携
レプチンは中枢神経系を介した自律神経調節にも関与し、褐色脂肪組織の熱産生などエネルギー消費側の調節にも影響します。褐色脂肪は、ミトコンドリアに豊富なUCP1を利用して化学エネルギーを熱へ変換する組織です。レプチンの作用は、摂食抑制だけでなく、こうしたエネルギー消費系の調節とも結びついています。
免疫・造血 ─ 骨髄のなかの脂肪
近年注目されているのが、骨の中にある「骨髄脂肪組織」とレプチンの関係です。骨髄は血液細胞をつくる場所ですが、加齢や肥満、代謝ストレスに伴って骨髄内の脂肪が増えていきます。ヒト骨髄脂肪組織が局所的な造血ニッチとして機能し、レプチンを介して単球系細胞の産生に関与する可能性が報告されています[14]。これは、加齢や肥満に伴う慢性的な炎症状態との関係を考えるうえでも興味深い知見です。またレプチンはT細胞、単球・マクロファージなど多くの免疫細胞の機能調節にも関わります。
骨・心臓・生殖 ─ 二面性を持つ調整役
レプチンは骨代謝にも関与し、中枢神経系を介する作用と末梢での作用の双方が研究されています[5]。心血管系でも、レプチンと心筋肥大・代謝・心血管リスクとの関連が報告されており、その作用は病態や組織の状態によって一様ではありません[6]。さらに、レプチンは思春期の発来や生殖機能とも深く関わっています。レプチンが極端に不足すると、性成熟が障害されることがあり、これは先天性レプチン欠損症でも重要な臨床所見です。
6. なぜ肥満の人ほど効かないのか ─ レプチン抵抗性
肥満の人の多くは、脂肪量の増加に伴ってレプチンの血中濃度も高くなっています。それにもかかわらず、レプチンによる食欲抑制やエネルギー消費促進が十分に働かない状態をレプチン抵抗性と呼びます。糖尿病における「インスリン抵抗性」とよく似た考え方です。その背景には複数の仕組みが関与すると考えられています[3]。
この「レプチンは高いのに効きにくい」という状態が、一般的な肥満に対する単純なレプチン補充が十分な減量効果を示さない大きな理由です[2]。そのため肥満治療の研究では、レプチンを単純に足すのではなく、レプチン感受性を回復させる、あるいは下流の食欲調節経路を別の方法で標的とする戦略が検討されています[3]。ここが、レプチンそのものが不足する先天性レプチン欠損症とは根本的に異なる点です。
7. 先天性レプチン欠損症 ─ LEP遺伝子が働かないとき
🔍 関連記事:先天性レプチン欠損症/LEPR遺伝子
LEP遺伝子の両方のコピー(両アレル)に機能を失わせる変化があると、レプチンそのものが十分につくれない、あるいはつくられても正常に働かない先天性レプチン欠損症という、きわめてまれな病気になります[11]。ヒトの先天性レプチン欠損症は1997年に、血縁関係のあるパキスタン系家系でLEP遺伝子のホモ接合変異を持つ小児に重度早期発症肥満が認められたことで報告されました[11]。
💡 用語解説:両アレル変異と常染色体潜性遺伝
遺伝子は、父由来と母由来の2つのコピー(アレル)を持っています。常染色体潜性(劣性)遺伝とは、両方のコピーに病的変化がそろって発症するタイプの遺伝です。片方だけに病的変化を持つ人は保因者と呼ばれ、通常は先天性レプチン欠損症そのものを発症しません。同じ変化が両方にそろうホモ接合だけでなく、異なる2種類の病的変化を1つずつ持つ複合ヘテロ接合でも発症しうるため、遺伝カウンセリングでは両アレルの評価が重要です。
典型的な患者さんは、出生時の体重は必ずしも異常ではないものの、生後早期から著しい過食と急速な体重増加を示し、幼児期から重度肥満になります[11]。食べ物を強く求める過食が目立ち、高インスリン血症、免疫機能の異常、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症による思春期発来の障害などを伴うことがあります。
「量」だけでなく「質」の異常もある
LEP遺伝子の病的変異には、レプチンの産生量そのものが大きく低下するタイプと、レプチンタンパク質はつくられるものの生物学的活性が低下するタイプがあります。フレームシフト変異やナンセンス変異などではレプチンがほとんどつくられず、血中レプチンが著しく低値となることがあります。一方、ミスセンス変異ではタンパク質の分泌量や受容体結合能、活性が変化し、血中濃度だけでは機能を判断できない場合があります。
💡 用語解説:ミスセンス変異
ミスセンス変異とは、DNAの塩基配列の変化によって、タンパク質を構成するアミノ酸の1つが別のアミノ酸に置き換わる変化です。たった1つのアミノ酸置換でも、その場所がタンパク質の構造や受容体との結合に重要であれば、機能が大きく損なわれることがあります。
代表的なミスセンス変異の一つが、p.N103Kです。これはレプチンの103番目のアミノ酸であるアスパラギンがリジンに置き換わる変異で、エジプトやパキスタンの患者さんで報告されています[12][15]。重要なのは、p.N103Kを「血中レプチンが高値になる変異」と単純化できない点です。エジプトおよびパキスタンの報告では、ホモ接合例の血中レプチンは著しく低値でした[12][15]。一方で、LEPの別のミスセンス変異では、血中に免疫測定可能なレプチンが存在していても受容体を十分に活性化できない「生物学的に不活性なレプチン」が報告されています[16]。したがって、先天性レプチン欠損症の評価では血中レプチン濃度だけではなく、臨床像と遺伝子変異の種類をあわせて判断することが重要です。
さらに、両アレルではなく片方のコピーだけに病的または病的可能性の高い変異を持つ人についても、変異のない人と比べて血中レプチン、体脂肪率、肥満傾向に差がみられる可能性を示した研究があります[17]。ただし、これは先天性レプチン欠損症のような明確な常染色体潜性疾患とは別の問題であり、ヘテロ接合変異を持つだけで病気と判断できるわけではありません。
LEPR欠損症との違い ─ 鑑別が大切
見た目がよく似た病気に、受け皿の側が壊れるLEPR遺伝子の欠損症(レプチン受容体欠損症)があります[7]。どちらも乳児期からの重度肥満・過食・性腺機能低下などをきたしうるため、表現型だけでは区別が難しい場合があります。LEP欠損症ではレプチンそのものの産生や活性に異常があり、典型例では血中レプチンが低値です。一方、LEPR欠損症では受容体側に問題があるため、レプチン補充だけでは受容体シグナルを回復できません。この違いは治療選択に直結します。
8. 遺伝子検査と治療 ─ 欠けている場所で薬が変わる
重い早期発症肥満の背景に、LEP遺伝子やLEPR遺伝子などの単一遺伝子の病的変化が隠れていることがあります。こうした遺伝的原因を明らかにすることは、診断だけでなく治療選択にもつながる可能性があります。治療は、レプチンからメラノコルチン系へ続く経路の「どこに異常があるか」によって考え方が変わります。
メトレプチンは、組換えヒトレプチンアナログです。米国FDAでは2014年に、先天性または後天性の全身性脂肪萎縮症に伴うレプチン欠乏の合併症に対する食事療法の補助療法として承認されています[8]。全身性脂肪萎縮症では脂肪組織の著しい減少によってレプチンが不足し、重いインスリン抵抗性、高中性脂肪血症、脂肪肝などをきたすため、レプチン補充が代謝改善につながります。一方、一般的な肥満はメトレプチンのFDA承認適応ではありません。
先天性レプチン欠損症については、組換えヒトレプチンを投与した小児で過食の著明な改善と体重減少が得られた臨床報告があり、レプチン欠乏を補う治療の有効性が実証されています[19]。ただし、これは米国FDAにおけるメトレプチンの承認適応とは区別して記載する必要があります。
一方、レプチン受容体が働かないLEPR欠損症では、レプチンを補っても受容体シグナルを正常化できません。そこで、経路のさらに下流にあるメラノコルチン4受容体(MC4R)を直接刺激するセトメラノチドという薬が使われます。MC4R作動薬であるセトメラノチドは、LEPR欠損症やPOMC欠損症を対象とした第3相試験で有効性が示されています[9]。米国FDAでは2026年3月時点で、2歳以上のPOMC・PCSK1・LEPR欠損症およびBardet-Biedl症候群、4歳以上の後天性視床下部性肥満に適応があります[10]。壊れた部分を飛び越えて、その先の経路を直接刺激するという発想の治療です。
こうした鑑別のためには、LEP・LEPRを含む肥満関連遺伝子をまとめて調べる検査が役立つ場合があります。当院では、体質や体重に関わる遺伝的な背景が気になる方に、糖尿病・肥満に関わる遺伝子検査もご案内しています。ただし、日常でよく見られる肥満の大半は、複数の遺伝的要因と生活習慣・環境が組み合わさった多因子性のもので、単一遺伝子疾患は肥満全体の一部にすぎません。検査の適応は発症年齢、肥満の程度、過食の有無、内分泌所見、家族歴などを含めて判断します。
9. 遺伝カウンセリングの視点から
LEP遺伝子による先天性レプチン欠損症は常染色体潜性遺伝です。両親がともに同じ疾患に関する病的変異の保因者である場合、各妊娠ごとに、お子さんが両方の病的アレルを受け継いで発症する確率は原則25%、保因者となる確率は50%、いずれの病的アレルも受け継がない確率は25%です。こうした再発リスクや、同胞が保因者かどうか、将来の家族計画をどう考えるかといった点は、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングの対象になります。
遺伝カウンセリングで話し合う内容は、検査で何が分かり何が分からないのか、結果がご本人やご家族にどのような意味を持つのか、そしてどのような選択肢があるのか、といった点です。検査を受けるかどうかを含め、決めるのはご本人であり、私たちは中立の立場で判断材料を整理する役割を担います。当院の遺伝カウンセリングは臨床遺伝専門医が担当します。
10. よくある誤解
誤解①「LEP遺伝子の変異=すぐ太る」
LEP遺伝子による先天性レプチン欠損症は、原則として両方のコピーに病的変異がある場合に発症する常染色体潜性遺伝のきわめてまれな病気です。片方だけに変異を持つ保因者は通常、先天性レプチン欠損症そのものを発症しません。
誤解②「レプチン値だけでLEP遺伝子の異常が分かる」
典型的なレプチン欠損症では血中レプチンが著しく低値ですが、LEPミスセンス変異の中にはタンパク質がつくられても生物学的活性が低下するものがあります。p.N103Kの報告例では低レプチン血症が示されています。血中濃度だけではなく、症状・家族歴・遺伝子検査を組み合わせて判断します。
誤解③「肥満はすべて遺伝子のせい」
LEPやLEPRの両アレル病的変異による単一遺伝子性肥満はきわめてまれです。多くの肥満は、複数の遺伝的要因と生活習慣・環境が組み合わさった多因子性のもので、単一遺伝子疾患はその一部にすぎません。
誤解④「レプチンを注射すれば誰でもやせる」
一般的な肥満では、レプチンが不足しているのではなく、レプチンが高くても効きにくいレプチン抵抗性がみられることがあります。レプチン補充療法は、レプチン欠乏という明確な病態を持つ疾患と区別して考える必要があります。
よくある質問(FAQ)
🏥 体重・代謝に関わる遺伝子診断のご相談
重い早期発症の肥満や、体質・代謝に関わる遺伝的な背景についての
遺伝子検査と遺伝カウンセリングは
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにご相談ください。
参考文献
- [1] Positional cloning of the mouse obese gene and its human homologue. Nature. 1994. [PubMed 7984236]
- [2] Leptin: a multifunctional hormone. Cell Res. 2000. [Cell Research]
- [3] Recent advances in understanding leptin signaling and leptin resistance. Am J Physiol Endocrinol Metab. 2009. [PMC2793049]
- [4] Leptin Mediates a Glucose-Fatty Acid Cycle to Maintain Glucose Homeostasis in Starvation. Cell. 2018. [PubMed 29307489]
- [5] Leptin regulation of bone resorption by the sympathetic nervous system and CART. Nature. 2005. [PubMed 15724149]
- [6] Lean heart: Role of leptin in cardiac hypertrophy and metabolism. World J Cardiol. 2015. [PMC4577678]
- [7] Clinical and Molecular Genetic Spectrum of Congenital Deficiency of the Leptin Receptor. N Engl J Med. 2007. [NEJM]
- [8] MYALEPT (metreleptin) Prescribing Information. Initial U.S. Approval 2014. U.S. Food and Drug Administration. [FDA Label]
- [9] Efficacy and safety of setmelanotide, an MC4R agonist, in individuals with severe obesity due to LEPR or POMC deficiency: single-arm, open-label, multicentre, phase 3 trials. Lancet Diabetes Endocrinol. 2020. [PubMed 33137293]
- [10] IMCIVREE (setmelanotide) Prescribing Information. Revised March 2026. U.S. Food and Drug Administration. [FDA Label 2026]
- [11] Entry *164160 – LEPTIN; LEP. OMIM (Online Mendelian Inheritance in Man). [OMIM 164160]
- [12] The p.N103K mutation of leptin (LEP) gene and severe early onset obesity in Pakistan. Biol Res. 2016. [PubMed 27075752]
- [13] Duplicated Leptin Receptors in Two Species of Eel Bring New Insights into the Evolution of the Leptin System in Vertebrates. PLoS One. 2015. [PLOS One]
- [14] Human Bone Marrow Adipose Tissue is a Hematopoietic Niche for Leptin-Driven Monopoiesis. bioRxiv. 2023. [PubMed 37693594]
- [15] A novel homozygous missense mutation of the leptin gene (N103K) in an obese Egyptian patient. Mol Genet Metab. 2009. [PubMed 19427251]
- [16] Severe Early-Onset Obesity Due to Bioinactive Leptin Caused by a Mutation in the Leptin Gene. J Clin Endocrinol Metab. 2015. [PubMed 26186301]
- [17] A fresh look to the phenotype in mono-allelic likely pathogenic variants of the leptin and the leptin receptor gene. Mol Cell Pediatr. 2021. [PMC8390564]
- [18] LEP leptin [Homo sapiens (human)]. NCBI Gene. Gene ID: 3952. [NCBI Gene 3952]
- [19] Effects of Recombinant Leptin Therapy in a Child with Congenital Leptin Deficiency. N Engl J Med. 1999;341:879-884. [PubMed 10486419]
関連記事
“`



