この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

先天性全身性脂肪萎縮症(ベラルディネリ・サイプ症候群)は、生まれたときから全身の脂肪組織がほとんどなく、筋肉が目立つ体つきになり、やがて糖尿病・中性脂肪の上昇・脂肪肝などが起こりやすくなる遺伝性の病気です。この検査では、1型の原因であるAGPAT2遺伝子と、2型の原因であるBSCL2遺伝子の2つを調べます。原因の遺伝子がわかると、病名が確定し、レプチン補充療法などの治療や合併症の見張りの予定を、専門の医療機関で立てる手がかりになります。また、潜性(劣性)遺伝の病気なので、次のお子さんで同じ病気が起こる確率や、妊娠したときの備えを具体的に考えられるようになります。このページでは、脂肪萎縮症の症状・遺伝のしかたと、遺伝子検査でわかること・そのあとにできることを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. 先天性全身性脂肪萎縮症の遺伝子検査で何がわかりますか?
脂肪萎縮症の原因が、1型(AGPAT2遺伝子)か2型(BSCL2遺伝子)かを、2つの遺伝子を一度に調べて確かめます。遺伝子の小さな変化に加えて、欠失・重複も調べます。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
生まれたときから全身の脂肪が少なく筋肉が目立つ方、やせているのに糖尿病・中性脂肪の上昇・脂肪肝がある方、ご家族に脂肪萎縮症の方がいる方、次のお子さんを考えている親御さんです。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の内側の粘膜などで、オンライン診療でも受けられます。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。原因が確定すれば、ご両親が保因者の場合、次のお子さんが同じ病気になる確率は4分の1です。きょうだいの検査や、意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。
1. 先天性全身性脂肪萎縮症(ベラルディネリ・サイプ症候群)とは
先天性全身性脂肪萎縮症は、生まれつき全身の脂肪組織がほとんど作られない、常染色体潜性(劣性)遺伝の病気です。脂肪をためる場所がないため、糖尿病・高中性脂肪血症(高トリグリセリド血症)・脂肪肝などの代謝の合併症が起こりやすくなります[2]。英語では congenital generalized lipodystrophy(CGL)と呼ばれ、報告した医師の名前から、ベラルディネリ・サイプ症候群(Berardinelli-Seip congenital lipodystrophy)とも呼ばれます。
体の脂肪が減る・なくなる病気をまとめて「脂肪萎縮症(リポジストロフィー)」といいます。脂肪萎縮症には、生まれつきの遺伝によるものと、生まれたあとに起こるもの(後天性)があり、また、全身から脂肪がなくなる「全身性」と、体の一部だけで脂肪が減る「部分性」があります。先天性全身性脂肪萎縮症は、このうち「生まれつき・全身性」の型です。一部だけで脂肪が減る遺伝性の型には、家族性部分性脂肪萎縮症2型(ダニガン型)などがあります。
どれくらいの人がなる病気か
難病情報センターは、遺伝性の脂肪萎縮症を「数百万人に1人」の病気としています。また、日本の先天性全身性脂肪萎縮症では、BSCL2遺伝子の変化が最も多く報告されているとしています(いずれも2026年10月時点で確認)。とてもまれな病気なので、近くの医療機関で診断にたどり着くまでに時間がかかることがあります。
原因の遺伝子と、1型・2型の違い
先天性全身性脂肪萎縮症は、原因の遺伝子によって1型〜4型に分けられ、多いのは1型(AGPAT2遺伝子)と2型(BSCL2遺伝子)です[2][4]。米国などの45家系を調べた研究では、AGPAT2の変化が26家系、BSCL2の変化が11家系で見つかり、8家系ではどちらにも原因となる変化が見つかりませんでした[4]。どちらの遺伝子が多いかは、地域や民族によって違います。
🧬 先天性全身性脂肪萎縮症1型と2型の違い
※遺伝子の場所・働きと遺伝のしかたはOMIM、1型と2型の違いは文献[2][4][5]による。
なぜ脂肪がないと、糖尿病や脂肪肝になるのか
脂肪組織は、余ったエネルギーを中性脂肪としてためておく「倉庫」です。倉庫がないと、行き場のない中性脂肪が肝臓や筋肉にたまり、インスリンが効きにくくなって、糖尿病や脂肪肝が起こります[2]。
脂肪組織は、食欲や代謝を調節するホルモンのレプチンも出しています。先天性全身性脂肪萎縮症では、レプチンがとても少なくなるため、強い食欲が起こり、代謝の乱れがさらに悪くなると考えられています[2]。このしくみがわかっていることが、足りないレプチンを補う治療(第7章)につながっています。なお、脂肪はあるのにレプチンそのものが作られない病気は先天性レプチン欠損症といい、こちらは重い肥満になる別の病気です。
2. 脂肪萎縮症の症状:初期症状・発症年齢・寿命
先天性全身性脂肪萎縮症では、生まれたときから全身の脂肪が少なく筋肉質に見え、肝臓が大きくなります。糖尿病は10歳前後から目立ってくることが多いとされています。症状の現れ方や重さには幅があります。
初期症状:生まれたときから気づく見た目の特徴
難病情報センターは、出生時から全身の脂肪組織がなく、筋肉質な外見になることを特徴に挙げています。小児慢性特定疾病情報センターの解説では、生まれたときから全身の脂肪組織の消失と肝臓の腫れ(肝腫大)がみられ、10歳前後でインスリンが効きにくいことによる糖尿病がはっきりしてくるとされています(いずれも2026年10月時点で確認)。
- ●顔・体・手足の脂肪がとても少なく、筋肉が浮き出て見える(スポーツ選手のような体つき)
- ●おなかがふくらんで見える(肝臓が大きくなるため)
- ●食欲がとても強い[2]
- ●首やわきの下の皮膚が黒っぽく厚くなる(黒色表皮腫。インスリンが効きにくいサイン)[4]
何歳ごろから何が起こるか:糖尿病・中性脂肪・脂肪肝・心臓
45家系を調べた研究では、1型・2型のどちらでも、糖尿病・高中性脂肪血症・黒色表皮腫がよくみられました[4]。70人を調べた別の研究では、肝臓の障害、血液中の脂質の異常、糖尿病、心臓の筋肉が厚くなる肥大型心筋症が、どの型でも大きな負担になっていました[5]。
脂肪肝は、進むと肝臓が硬くなる肝硬変につながることがあり、国際的な診療指針は、2型では早い時期に肝硬変になるリスクが高いとしています[1]。脂肪肝の考え方はNASH/MASH(代謝機能障害関連脂肪性肝炎)のページでも解説しています。中性脂肪がとても高くなると、急性膵炎(おなかの強い痛み)を起こすことがあるため、指針は中性脂肪を少なくとも年1回、腹痛があるときにも測るよう勧めています[1]。
2型(BSCL2)で気をつけたい発達と神経のこと
BSCL2遺伝子が原因の2型では、1型より知的な発達の遅れを伴う方の割合が高いことが報告されています[4][5]。45家系の研究では「軽い知的障害」が2型でより多くみられました[4]。ただし、同じ型でも程度には個人差があります。
BSCL2遺伝子には、両方のコピーに変化があると脳の働きが少しずつ失われていく「進行性脳症(脂肪萎縮症を伴う場合と伴わない場合がある)」という、より重い病気が起こる場合も知られています(OMIMで確認)。どの病気かは、見つかった変化の種類によって判断します。
脂肪萎縮症の寿命・予後の見通し
ブラジルで1997〜2017年に亡くなった先天性全身性脂肪萎縮症の20人を調べた研究では、亡くなった年齢の平均は27.1歳で、主な原因は感染症と肝臓の病気(それぞれ35%)でした[6]。そのほか、腎不全や突然死、急性膵炎も原因になっていました。
この数字は、特定の地域で、レプチン補充療法が十分に使われていなかった時期を含む小さな研究の結果で、今の日本で診断された方の見通しをそのまま表すものではありません。大切なのは、合併症を早く見つけて治療につなげることです。そのための見張りの予定は、第7章でご説明します。
3. 脂肪萎縮症の遺伝のしかた:常染色体潜性(劣性)遺伝
先天性全身性脂肪萎縮症は常染色体潜性(劣性)遺伝で、ご両親がどちらも同じ遺伝子の保因者のとき、お子さん1人ごとに4分の1の確率で発症します。ご両親はふつう症状のない保因者です。
ご両親は保因者、きょうだいは4分の1
常染色体潜性(劣性)遺伝では、対になった2本の遺伝子の両方に原因となる変化があるときに発症します。片方だけに変化がある人は「保因者」で、ふつう症状は出ません。ご両親がどちらも保因者の場合、お子さん1人ごとの確率は次のとおりです。
- ●発症する:4分の1(25%)
- ●症状のない保因者になる:2分の1(50%)
- ●保因者でもない:4分の1(25%)
この確率は、お子さんが何人目でも毎回同じです。上のお子さんが発症したから下のお子さんは大丈夫、ということはありません。保因者のしくみと確率は、劣性遺伝(潜性遺伝)とは?保因者の仕組みと子どもへ遺伝する確率で詳しく解説しています。
BSCL2では、片方だけの変化で別の神経の病気が起こることも
BSCL2遺伝子は、変化の種類によって、まったく違う病気を起こすことが知られています。OMIMには、先天性全身性脂肪萎縮症2型(常染色体潜性)のほかに、片方の遺伝子の変化だけで起こる神経の病気として、遠位型遺伝性運動ニューロパチーや、シルバー症候群(遺伝性痙性対麻痺の一つ)が常染色体顕性(優性)遺伝の病気として載っています(OMIMで確認)。
これらの神経の病気は、脂肪萎縮症の保因者のほとんどがもつ「働きを失う変化」とは別の種類の変化で起こるとされます。同じ遺伝子で顕性と潜性の両方の病気が起こるしくみは、なぜ同じ遺伝子から優性と劣性の両方の遺伝が起こるのかで解説しています。手足のしびれ・足の突っ張りなど神経の症状がある方は、遺伝性痙性対麻痺(HSP)遺伝子検査パネルや遠位型遺伝性運動ニューロパチー遺伝子検査のほうが向いています(どちらもBSCL2を含みます)。
保因者に症状は出る?結婚・ご家族の不安について
脂肪萎縮症の保因者は、ふつう症状がありません。きょうだいに患者さんがいる方が「自分も保因者かもしれない」「結婚相手やその家族にどう伝えればよいか」と悩むことがあります。保因者であることは、ご自身の健康の問題ではなく、お子さんへの確率の問題です。そして、その確率はパートナーが同じ遺伝子の保因者かどうかで大きく変わります。
ご家族で原因の遺伝子の変化がわかっていれば、ご自身がその変化をもっているかをピンポイントで調べられます。保因者だった場合も、パートナーの検査で同じ遺伝子の保因者かどうかを確かめれば、お子さんへの確率を具体的に考えられます。知ったうえで選べることは増えます(第7章)。
4. どんな人が先天性全身性脂肪萎縮症の遺伝子検査を受けるとよいか
全身の脂肪がとても少なく、やせているのに糖尿病・中性脂肪の上昇・脂肪肝がある方や、ご家族に先天性全身性脂肪萎縮症の方がいる方に向く検査です。国際的な診療指針も、遺伝性の脂肪萎縮症が疑われるときは確認のための遺伝子検査が役立つとし、リスクのあるご家族の遺伝子検査も考えるよう勧めています[1]。
症状から先天性全身性脂肪萎縮症を疑う方
- ●生まれたときから、顔・体・手足の脂肪がとても少なく、筋肉が目立つ
- ●子どものうちから肝臓が大きい、脂肪肝と言われた
- ●若いうちから糖尿病がある、インスリンを使っても血糖が下がりにくい
- ●中性脂肪がとても高い、膵炎を起こしたことがある
- ●首やわきの下の皮膚が黒っぽく厚い(黒色表皮腫)
- ●脂肪萎縮症と言われたが、原因の型がわかっていない
ふつうの2型糖尿病や肥満は、多くの遺伝子と生活習慣が関わって起こり、遺伝子1つで決まるものではありません(2型糖尿病の遺伝的背景)。この検査が役に立つのは、「脂肪がとても少ないのに、代謝の病気が重い」という、遺伝子1つの原因を疑う手がかりがあるときです。
ご家族に患者さんがいる方・次のお子さんを考えている親御さん
お子さんが先天性全身性脂肪萎縮症と診断された、または疑われているご両親にとって、原因の遺伝子を確かめることは、お子さんの治療と見張りの予定を立てるためだけでなく、次のお子さんで同じ病気が起こる確率を知り、次の妊娠でどう備えるかを考えるための出発点になります。原因の遺伝子の変化がわかっていないと、妊娠中に赤ちゃんを調べるときの「的」を決められません。
遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。ご両親が保因者だったとわかっても、それはご両親が何かをしたからではありません。
この検査より別の検査が向いている場合
全身性の脂肪萎縮がはっきりしていて1型・2型を確かめたいなら、この2遺伝子の検査が向いています。一方、脂肪が減っているのが体の一部だけの場合や、3型・4型も含めてまとめて調べたい場合は、10遺伝子を調べるリポジストロフィー(脂肪萎縮症)NGS遺伝子検査パネルのほうが向いています。このパネルにはAGPAT2とBSCL2も含まれ、当院では検査費用も同じ(税込330,000円)です。
🔍 症状・検査の結果から選ぶ、脂肪と代謝の遺伝子検査
※対象遺伝子は当院の各検査ページによる(2026年10月時点で確認)。どの検査が合うかは、症状・診察所見・血液検査・ご家族の情報で変わります。遺伝カウンセリングでご相談ください。
5. 調べる遺伝子と、それぞれの遺伝子でわかる病気
この検査では、先天性全身性脂肪萎縮症1型の原因のAGPAT2遺伝子と、2型の原因のBSCL2遺伝子の2つを調べます。BSCL2では、脂肪萎縮症以外の病気の原因となる変化が見つかることもあります。
🧪 先天性全身性脂肪萎縮症1型・2型パネルで調べる2遺伝子
※対象遺伝子は当院の検査内容(2遺伝子)による。病名・遺伝のしかたはOMIMの遺伝子の項(Gene-Phenotype Relationships)による。病名は英語名を日本語に訳したもの。
AGPAT2遺伝子は、2002年に先天性全身性脂肪萎縮症の原因として報告されました。脂肪組織でよく働く遺伝子で、中性脂肪とリン脂質を作る途中の段階を担う酵素の設計図です[3]。BSCL2遺伝子が作るセイピンは、脂肪細胞の中で脂肪をためる「脂肪滴」を作ることに関わります[2]。
6. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、AGPAT2とBSCL2の遺伝子の中の小さな変化(1文字の置きかわりや、小さな挿入・欠失)と、遺伝子の一部または全体がなくなる・増える変化(欠失・重複)です。一方で、遺伝子検査には必ず限界があります。
AGPAT2では、大きな範囲の欠失が原因になる方もいます。ブラジルの9人を調べた研究では、遺伝子の数の変化(コピー数の変化)を調べる解析で、AGPAT2の大きな欠失が3人で見つかりました。研究者は、こうした欠失は、遺伝子の文字を1か所ずつ読む従来の方法(サンガー法)では見逃されていた可能性があるとしています[7]。当院のこの検査には、欠失・重複の解析が料金に含まれています。
- ●調べる範囲:遺伝子のうちタンパク質の設計図になる部分(エクソン)と、その境目を読みます。遺伝子のスイッチの部分(プロモーター)や、エクソンから20塩基以上離れた部分の変化は、ほとんど調べられません。
- ●欠失・重複の大きさ:遺伝子全体の欠失・重複は、血液でも頬の粘膜でも見つけられます。連続した2つ以上のエクソンにまたがる欠失・重複は、血液の検体で見つけられます。エクソン1つだけの欠失・重複は、見つかることもありますが、ふつうは検出の対象外です。見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します。
- ●調べられない変化:染色体の一部が入れかわる転座や逆位、同じ配列の繰り返しが長くなる変化、体の一部の細胞にだけある変化(モザイク)は、この検査の対象外です。
- ●調べていない遺伝子:3型(CAV1遺伝子)・4型(CAVIN1遺伝子、旧名PTRF)や、部分性の脂肪萎縮症の遺伝子は含まれていません。必要なときはリポジストロフィーパネルで調べます。
- ●意義がまだわからない変化(VUS):病気の原因かどうか、今の研究ではまだ判断できない変化が見つかることがあります。
- ●陰性でも否定はできません:原因が見つからなくても、この検査で見つけられない変化や、ほかの遺伝子が原因の可能性が残ります。国際的な診療指針も、遺伝子検査が陰性でも遺伝性の病気は否定できないとしています[1]。
💡 用語解説:カバレッジ(読み取りの深さ)
次世代シーケンサー(NGS)は、同じ場所を何回も読んで、読み間違いを防ぎます。この検査では、調べる部分の99%以上を、20回以上読み取ります(≥99% at 20x)。読み取りが足りない部分や、結果の質が低い部分は、サンガー法で読み直して補います。
7. 結果が出たあと
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。結果の報告書の読み方はNIPT/遺伝子検査結果の見かたで解説しています。
病的変異が見つかったら、次にできること
原因となる変化(病的バリアント)がAGPAT2またはBSCL2の両方のコピーにそれぞれ見つかり、病気の原因となる組み合わせであることが確認できれば、先天性全身性脂肪萎縮症の型を分子遺伝学的に確定できます。わかるだけで終わりではなく、次のことにつながります。
① ご本人(症状がある方):治療と見張りの予定が立つ
国際的な診療指針は、全身性の脂肪萎縮症の代謝や内分泌の異常に対して、食事療法とあわせたメトレレプチン(レプチンを補う注射薬)を第一の治療として勧めており、生後6か月のお子さんに使われた例もあるとしています[1]。日本でもメトレレプチン(遺伝子組換え)は脂肪萎縮症の治療薬として2013年から使われています(PMDAの医薬品情報で効能・効果「脂肪萎縮症」を確認、2026年10月時点)。治療は、内分泌・代謝の病気を専門とする医療機関で行われます(当院では治療は行っていません)。
食事については、指針は炭水化物50〜60%・脂質20〜30%・たんぱく質約20%を目安とし、ふつうの体重にするために食べすぎると代謝の合併症や脂肪肝が悪くなりうること、乳児では中鎖脂肪酸(MCT)のミルクが役立つことを挙げています[1]。合併症の見張りとして、指針は次を勧めています[1]。
🩺 診療指針が勧める合併症の見張り(先天性全身性脂肪萎縮症)
※2016年の国際的な診療指針[1]による。実際の予定は主治医が決めます。
病名が確定すると、指定難病などの制度を使うときにも手がかりになります(第8章)。名前がつくことの意味について、ACMG(米国臨床遺伝・ゲノム学会)の系統的レビューでは、先天異常や知的障害のある小児を対象としたエクソーム・ゲノム検査について、診療方針への影響が報告されています[8]。これは先天性全身性脂肪萎縮症に限定した研究ではありませんが、原因がわかることは次の一手につながります。
② 症状のないご本人(家族歴で受けた方・保因者だった方)
片方のコピーだけに変化があった方は保因者で、ふつう脂肪萎縮症の症状は出ません。気をつけたいのはお子さんへの確率です。パートナーが同じ遺伝子の保因者かどうかを調べることで、お子さんが発症する確率(パートナーも保因者なら4分の1)を具体的に考えられます。AGPAT2は、当院の拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子)と男性版714遺伝子の対象に入っています。BSCL2は、この2つの遺伝子一覧には入っていません(2026年10月時点で確認)。ご家族で原因がわかっている場合は、パートナーの方もこのパネルで同じ2遺伝子を調べられます。
③ 子どもを持つときの選択肢(知ってから選べること)
ご家族の原因となる変化がわかっていれば、自然に妊娠して、妊娠中に赤ちゃんが同じ変化をもっているかを調べる出生前診断を考えられます。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。出生前診断を行うかどうかは、病気の重さや国内の指針を踏まえて個別に考えるため、妊娠を考えている段階からご相談ください。体外受精で受精卵を調べる着床前遺伝学的検査(PGT-M)という方法もあります。日本でも、日本産科婦人科学会の指針(2026年9月改定)にもとづく審査を経て、PGT-Mが行われています(当院は体外受精・PGT-Mを行っていません)。準備に必要なことは海外でPGT-M(着床前診断)を考えている方へで解説しています。何もせずにそのまま出産を迎えることも、同じように尊重される選択です。
④ ご家族:きょうだいも、ピンポイントで調べられる
ご家族の中で原因となる変化がわかっていると、症状のないきょうだいや親戚の方は、その変化をもっているかを調べられます(ご本人の同意のもとで)。国際的な診療指針も、リスクのあるご家族の遺伝子検査を考えるよう勧めています[1]。症状の出ていない小さなきょうだいが同じ型とわかれば、早くから合併症の見張りを始められます。
⑤ 当院でのその後
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングでご説明し、ご家族の検査・パートナーの検査・妊娠したときの出生前診断など、次にどうするかを一緒に考えます。遺伝カウンセリング料は30分22,000円(税込)、出生前診断の遺伝カウンセリングは30分33,000円(税込)です。
陰性だったとき
AGPAT2とBSCL2のどちらにも原因となる変化が見つからなかった場合は、3型・4型や部分性の脂肪萎縮症、後天性の脂肪萎縮症など、ほかの原因を考えます。45家系の研究でも、8家系ではこの2つの遺伝子に原因が見つかりませんでした[4]。次の検査として、リポジストロフィーパネルや全エクソーム検査を考えます。
意義がまだわからない変化(VUS)が見つかったとき
VUSは、それだけで診断に使ったり、ご家族の検査や出生前診断に使ったりはしません。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。原因が片方のコピーにしか見つからない場合も、もう片方に見つけにくい変化がないかを含めて、結果の意味をご説明します。検査の目的と別の病気の原因が見つかったときの扱いは、当院の二次的所見の開示方針をご覧ください。
妊娠を考えている方:保因者検査と出生前診断
妊娠中の方には、NIPTと同じ日に採血できるカップルの保因者検査「ファミリーセーフティ プラス」(女性787遺伝子・男性714遺伝子。単独では受けられません)があり、AGPAT2はこの遺伝子一覧に含まれます。結婚前・妊娠前の方は、遺伝子ブライダルチェック(保因者検査)もご覧ください。ご夫婦とも保因者だった場合、妊娠したときの赤ちゃんの出生前診断(羊水検査・絨毛検査)まで、院内で受けられます。
8. 日本の制度:脂肪萎縮症は指定難病(2026年10月時点)
脂肪萎縮症は指定難病265で、先天性全身性脂肪萎縮症(ベラルディネリ・サイプ症候群)はその病型のひとつとして難病情報センターに載っています。小児慢性特定疾病では、糖尿病の疾患群に「脂肪萎縮性糖尿病」が掲載されています(いずれも2026年10月時点で確認)。
医療費の助成を受けるには、それぞれの制度の認定の条件を満たし、申請する必要があります。認定の基準や申請の方法は、難病情報センター・小児慢性特定疾病情報センターや、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。なお、当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
9. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。唾液・頬の内側の粘膜・血液のいずれでも、オンライン診療で受けられます。この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
ご予約
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遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
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検体の採取お支払い後にキット送付
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💴 費用・日数・検体
※ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
オンライン診療(ビデオ通話)で遺伝カウンセリングを行ったあと、検体を当院にお送りいただく流れです。オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいた後にお送りします。ご自身で勝手に検体を採取しないでください。検体の取り違えを防ぎ、検査に使える品質の検体を確実にお送りいただくためです。
結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。
遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。遺伝カウンセリングについては遺伝カウンセリングとはもご覧ください。
10. 院長コラム
🩺 院長コラム【原因がわかってはじめて、次のお子さんの計画が立てられる】
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。
先天性全身性脂肪萎縮症のような潜性遺伝の病気では、ご両親はふつう症状のない保因者で、お子さんが生まれるまで、ご自身が保因者だと知る機会はほとんどありません。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。そのうえで、原因の遺伝子と変化がわかれば、次のお子さんで同じことが起こる確率と、妊娠したときにどう備えられるかを、具体的に考えられるようになります。反対に、原因がわからないままでは、出生前に何を調べればよいかの的を決めることができません。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。一度の検査でわかったことは、お子さんの治療と見張りの予定だけでなく、ご家族の健康や、これからの妊娠・出産の計画を考えるときにも、ずっと役に立ちます。わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 先天性全身性脂肪萎縮症の初期症状は?
生まれたときから全身の脂肪組織がほとんどなく、筋肉が目立つ体つきになり、肝臓が大きくなるのが特徴です。強い食欲や、首・わきの下の皮膚が黒っぽく厚くなる黒色表皮腫がみられることもあります。糖尿病は10歳前後から目立ってくることが多いとされています。
Q2. 脂肪萎縮症は指定難病ですか?
はい。脂肪萎縮症は指定難病265で、先天性全身性脂肪萎縮症はその病型のひとつです(2026年10月時点、難病情報センターの情報)。小児慢性特定疾病では、糖尿病の疾患群に「脂肪萎縮性糖尿病」が掲載されています。医療費の助成を受けるには、それぞれの制度の認定の条件を満たす必要があります。
Q3. 脂肪萎縮症の寿命・予後は?
ブラジルで1997〜2017年に亡くなった先天性全身性脂肪萎縮症の20人を調べた研究では、亡くなった年齢の平均は27.1歳で、主な原因は感染症と肝臓の病気でした。ただし、レプチン補充療法が十分に使われていなかった時期を含む小さな研究で、今の日本で診断された方の見通しをそのまま表すものではありません。合併症を早く見つけて治療につなげることが大切です。
Q4. 脂肪萎縮症は治りますか?治療薬はありますか?
脂肪組織そのものを元に戻す治療はありませんが、代謝の合併症には治療があります。国際的な診療指針は、全身性の脂肪萎縮症に対して、食事療法とあわせたメトレレプチン(レプチンを補う注射薬)を第一の治療として勧めています。日本でもメトレレプチンは脂肪萎縮症の治療薬として2013年から使われています。治療は内分泌・代謝の病気を専門とする医療機関で行われます。
Q5. 先天性全身性脂肪萎縮症は遺伝しますか?きょうだいの確率は?
常染色体潜性(劣性)遺伝の病気です。ご両親がどちらも同じ遺伝子の保因者の場合、お子さん1人ごとに、発症する確率は4分の1、症状のない保因者になる確率は2分の1です。この確率は何人目のお子さんでも同じです。ご家族で原因がわかっていれば、きょうだいも同じ変化をもっているかを調べられます。
Q6. 家族に脂肪萎縮症の人がいると、結婚や妊娠に影響しますか?
保因者の方はふつう症状がなく、ご自身の健康に影響することはほとんどありません。お子さんへの確率は、パートナーが同じ遺伝子の保因者かどうかで大きく変わります。ご家族の原因となる変化がわかっていれば、ご自身とパートナーの検査で確率を具体的に知り、妊娠したときの出生前診断などを考えたうえで、計画を立てられます。
Q7. リポジストロフィー(脂肪萎縮症)パネルとどちらを選べばよいですか?
全身の脂肪がはっきり少なく、1型か2型かを確かめたい場合はこの2遺伝子の検査が向いています。脂肪が減っているのが体の一部だけの場合や、3型・4型も含めてまとめて調べたい場合は、AGPAT2とBSCL2を含む10遺伝子のリポジストロフィーパネルが向いています。当院ではどちらも税込330,000円です。
Q8. 検査で原因が見つからなかった場合はどうなりますか?
この検査は1型(AGPAT2)と2型(BSCL2)だけを調べます。原因が見つからなくても、3型(CAV1)・4型(CAVIN1)や部分性の脂肪萎縮症など、ほかの原因の可能性があります。症状に合わせて、リポジストロフィーパネルや全エクソーム検査などの次の検査を考えます。
🧬 一度の検査で、お子さんとご家族のこれからを考える
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。先天性全身性脂肪萎縮症の原因がわかれば、専門の医療機関での治療や合併症の見張りの手がかりになるだけでなく、きょうだいの検査や、次のお子さんを考えるときの備えにもつながります。当院では臨床遺伝専門医が、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて担当します。
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参考文献
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