この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

脂肪萎縮症(リポジストロフィー)は、体の脂肪が全身または一部でなくなる病気です。やせて見えるのに、糖尿病・中性脂肪の強い上昇・脂肪肝が起こりやすいのが特徴です。原因の遺伝子がわかると、型と遺伝のしかたがはっきりし、レプチン補充療法を考える手がかりや、LMNA遺伝子なら心臓の見張りの計画につながります。生まれ持った遺伝子は一生変わらないので、一度の検査でわかったことは、ご自身の治療だけでなく、ご家族の健康や、これからの結婚・妊娠の計画にもずっと使える情報になります。このページでは、原因の10遺伝子を一度に調べる遺伝子検査でわかることを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. この検査で何がわかりますか?
脂肪萎縮症(リポジストロフィー)の原因として知られる10遺伝子(AGPAT2・AKT2・BSCL2・CAV1・CAVIN1・CIDEC・LMNA・PPARG・TBC1D4・ZMPSTE24)をまとめて調べ、遺伝子の変化が原因かどうか、どの型か、遺伝のしかたはどうかを確かめます。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
手足やお尻の脂肪が少なく筋肉が目立つ方、やせて見えるのに糖尿病・中性脂肪の強い上昇・脂肪肝があり、治療がうまくいかない方、ご家族に脂肪萎縮症の方がいる方です。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の内側の粘膜などで、オンライン診療にも対応しています。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。原因がわかれば、治療と合併症の見張りの計画、ご家族の検査、妊娠のときの選択肢まで具体的に考えられます。意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。
1. 脂肪萎縮症(リポジストロフィー)とは:やせて見えるのに糖尿病・脂肪肝になる病気
脂肪萎縮症(リポジストロフィー)は、皮下や内臓の脂肪組織が全身または体の一部でなくなる、または少なくなる病気の総称です。食べる量が少ないためにやせる「ふつうのやせ」とは違い、脂肪組織そのものがうまく作られない・保てないことが原因です。英語の lipodystrophy から「リポジストロフィー」とも呼ばれ、国の指定難病(265「脂肪萎縮症」)に指定されています(第8章)。
原因には、生まれつきの遺伝子の変化による「遺伝性(先天性・家族性)」と、自己免疫などが関わる「後天性」があります。このページの遺伝子検査で調べられるのは、遺伝性の脂肪萎縮症です。
脂肪が少ないのに、なぜ糖尿病・中性脂肪・脂肪肝になるのか
脂肪組織は、余ったエネルギーをしまっておく「倉庫」であり、食欲や血糖を調えるレプチンというホルモンを出す臓器でもあります。倉庫がないと、行き場をなくした脂肪は血液中に中性脂肪としてあふれたり、肝臓や筋肉にたまったりします。そこにレプチンの不足が重なり、インスリンが効きにくい状態(インスリン抵抗性)が強くなります。
小児慢性特定疾病情報センターの解説も、脂肪萎縮症に伴う糖や脂質の代謝の異常の主な原因は、脂肪組織から出るレプチンの不足だとしています(2026年10月時点で確認)。そのため、レプチンを注射で補う治療(レプチン補充療法)が使われています(第7章・第8章)。
脂肪萎縮症の4つの型
脂肪萎縮症は、脂肪がなくなる範囲(全身か一部か)と原因(遺伝性か後天性か)で、大きく4つに分けられます。
🧬 脂肪萎縮症の型と、この検査との関係
※型の特徴は多学会の診療指針[1]と難病情報センターの解説(2026年10月時点で確認)による。
どれくらいの人がなる病気か
脂肪萎縮症はとてもまれな病気です。米国と欧州の診療記録・文献を調べた研究では、診断されている人は人口100万人あたり1.3〜4.7人と推定されました。専門家が診療記録を1件ずつ確かめた方法では、全体で100万人あたり3.07人、そのうち全身性が0.23人、部分性が2.84人でした[2]。部分性のほうが多いこと、気づかれていない人がいる可能性があることも、この研究は指摘しています。
難病情報センターは、遺伝性の脂肪萎縮症を「数百万人に1人」としています。また、日本では先天性全身性脂肪萎縮症の原因としてBSCL2の変化が最も多く報告されていると書かれています(2026年10月時点で確認)。
「ふつうの糖尿病・肥満」とは違います
「やせているのに糖尿病」「中性脂肪が高いのは遺伝?」と心配になって、このページにたどり着いた方もいると思います。ただ、ふつうの2型糖尿病や中性脂肪の上昇は、たくさんの遺伝子と生活習慣が少しずつ関わって起こるもので、遺伝子1つで決まるものではありません。約90万人を調べた研究では、2型糖尿病のなりやすさに関わる場所がゲノムの243か所で見つかっています[7]。やせ型の方の糖尿病の多くは、脂肪萎縮症ではありません。
遺伝子1つの変化による脂肪萎縮症を疑うのは、体の脂肪の付き方そのものに特徴があるとき(第4章の目安)や、ご家族に同じ体型と代謝の異常が重なっているときです。迷うときは、遺伝カウンセリングで、まずこの検査が合うかどうかから一緒に考えます。
2. 脂肪萎縮症の症状と初期症状:見た目・血液検査・寿命
脂肪萎縮症の症状は、「脂肪の減り方」という見た目の特徴と、「糖尿病・中性脂肪・脂肪肝」という血液検査や臓器の異常の2つに分けて考えるとわかりやすくなります。見た目の変化はゆっくりなので、先に血液検査の異常で見つかることも少なくありません。
見た目の特徴:お腹・太もも・顔の変化
多学会の診療指針は、脂肪萎縮症を疑う手がかりとして、筋肉が目立つこと、手足の静脈が浮き出て見えること、首やわきの皮膚が黒ずむ黒色表皮腫が強いこと、早老症のような外見などを挙げています[1]。
- ●全身性の型:生まれたときから全身の脂肪がほとんどなく、筋肉が目立つ体つきになります。肝臓が大きくなることもあります[1]。
- ●部分性の型:幼いころの体型はふつうで、思春期ごろから太もも・ふくらはぎ・腕・お尻の脂肪が減り、手足が細く筋肉質に見えるようになります。一方で、顔やあご、首、背中の上のほうに脂肪がたまることがあります[1]。
「脂肪萎縮症 写真」「太もも 写真」で調べる方も多いのですが、脂肪の減り方は人によって違い、写真の見た目だけで診断することはできません。遺伝子検査で原因を確かめることが、診断を確かなものにします。
血液検査の異常と合併症
脂肪萎縮症では、糖尿病、中性脂肪の強い上昇、脂肪肝が起こりやすく、重くなりやすいことが知られています。診療指針は、大量のインスリン(1日200単位以上、または体重1kgあたり1日2単位以上)が必要な糖尿病や、中性脂肪がとても高いことも、脂肪萎縮症を疑う手がかりに挙げています[1]。
- ●糖尿病:インスリンが効きにくく、薬を増やしても血糖が下がりにくいことがあります。
- ●中性脂肪の上昇と膵炎:中性脂肪がとても高くなると、急性膵炎を起こすことがあります[1]。
- ●脂肪肝:お酒を飲まなくても肝臓に脂肪がたまり、脂肪性肝炎(MASH)から肝硬変へ進むことがあります。
- ●心臓・腎臓:診療指針は、心臓病と腎不全を主な死因の一つに挙げ、尿たんぱくを年1回調べることを勧めています[1]。
女性と男性で、気づかれ方が違う
難病情報センターによると、家族性部分性脂肪萎縮症は男性では症状が出にくいことがあり、報告は女性が圧倒的に多いとされています。女性では、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)や無月経がみられることもあります(2026年10月時点で確認)。診療指針も、男性では脂肪の減り方がふつうの体型の違いと重なり、代謝の異常も軽いため、見つけにくいとしています[1]。「男性だから違う」とは言い切れないので、ご家族で調べるときは性別で判断しないことが大切です。
脂肪萎縮症の寿命と予後
難病情報センターの解説では、糖尿病の合併症、脂肪肝から進む肝硬変・肝がん、肥大型心筋症が死因になることが多く、治療しない場合の平均寿命は30〜40歳と言われている、と書かれています。同じ解説は、レプチン製剤による治療で、代謝の異常の改善だけでなく予後の改善も期待されるとしています(2026年10月時点で確認)。
ただし、型や原因の遺伝子によって、合併症の出方や重さは大きく違います。寿命の数字は治療を受けていない場合の目安で、一人ひとりの見通しを決めるものではありません。原因の遺伝子がわかると、見張るべき合併症がはっきりし、早めの対応につなげられます(第7章)。
3. 脂肪萎縮症の原因遺伝子と遺伝のしかた
遺伝性の脂肪萎縮症は、型によって遺伝のしかたが違います。全身性の型は主に潜性(劣性)遺伝、部分性の型は主に顕性(優性)遺伝です。どの遺伝子のどの変化かがわかると、ご家族の誰に、どれくらいの確率で関係するかを具体的に考えられます。
顕性(優性)遺伝の型:お子さんへは2分の1
LMNA・PPARG・AKT2による家族性部分性脂肪萎縮症は、常染色体顕性(優性)遺伝です[1]。対になった2本の遺伝子のうち1本に変化があれば発症しうるため、親から子へ伝わる確率は、お子さん1人ごとに2分の1です。性別には関係しません。
ただし、同じ変化をもっていても、症状の重さは人によって違います。前の章のとおり、男性では症状が目立たないこともあります。親御さんが軽い症状で気づいていなくても、同じ変化を受け継いだお子さんが同じ程度になるとは限りません。だからこそ、「自分は軽いから」で判断せず、知ったうえで計画することに意味があります。
潜性(劣性)遺伝の型:きょうだいで4分の1
AGPAT2・BSCL2・CAVIN1による先天性全身性脂肪萎縮症と、CIDECによる部分性の型は、常染色体潜性(劣性)遺伝です[1]。両親から1本ずつ変化を受け継いだときに発症し、ご両親はふつう症状のない保因者です。ご両親とも保因者のとき、お子さん1人ごとに4分の1の確率で発症し、2分の1の確率で保因者になります。
CAV1は、遺伝のしかたが1つに決まらない遺伝子です。両方の遺伝子に変化があると先天性全身性脂肪萎縮症3型(潜性遺伝)になる一方で[1]、片方の遺伝子の変化だけで部分性の脂肪萎縮と中性脂肪の強い上昇が起き、父から娘へ受け継がれた家系も報告されています(顕性遺伝の形)[9]。CAV1の変化が見つかったときは、変化の数と種類から、ご家族への確率を個別に考えます。
結婚・妊娠を考えるとき
ご家族に脂肪萎縮症の方がいても、結婚や妊娠ができないわけではありません。遺伝の確率は、型・原因の遺伝子・ご家族の状況によって違い、検査で「わかること」があります。ご自身が変化をもっているか、潜性の型ならパートナーが同じ遺伝子の保因者か、お子さんへの確率はどれくらいか、です。
多学会の診療指針も、病気のある家系では、結婚前に遺伝カウンセリングと保因者を調べる遺伝子検査を考えてよいとしています[1]。知ったうえで、出生前診断などの選択肢を考えることも、何もせずに自然に任せることも、どちらも尊重されるべき選択です。
4. どんな人がこの検査を受けるとよいか
脂肪の付き方に特徴があって脂肪萎縮症を確かめたい方、やせて見えるのに糖尿病・中性脂肪・脂肪肝の治療がうまくいかない方、ご家族に脂肪萎縮症の方がいる方に向く検査です。多学会の診療指針は、家族性の脂肪萎縮症が疑われる方には、確認のための遺伝子検査が役に立つと、最も強い推奨で示しています[1]。
やせているのに糖尿病・中性脂肪が高い・脂肪肝がある方
次のような方は、脂肪萎縮症を考えて検査する意味があります。診療指針が疑う手がかりに挙げているものをもとにしています[1]。
- ●体の全体、または手足・お尻の脂肪が少なく、筋肉や静脈が目立つ方
- ●大量のインスリンが必要な糖尿病の方、黒色表皮腫が強い方
- ●中性脂肪がとても高い方、膵炎を起こしたことがある方
- ●お酒を飲まないのに脂肪肝がある、肝臓が大きいと言われた方
- ●思春期以降に手足が細くなり、顔や首に脂肪がついてきた方
「糖尿病と言われ、努力しても良くならない」と悩みながら、原因がわからないまま治療を続けている方もいます。原因がわかれば、病名と次の一手が決まります。エクソーム・ゲノム検査の研究167件をまとめた米国臨床遺伝・ゲノム学会(ACMG)の系統的レビューでも、最も多く報告された結果は「診療方針の変化」でした[8](対象は先天異常や知的障害のあるお子さんの研究で、変化の中身や大きさは研究ごとに違います)。
ご家族に脂肪萎縮症の方がいて、「自分も」と不安な方
診療指針は、病気のリスクがあるご家族にも遺伝子検査を考えるべきとしています[1]。親やきょうだいが脂肪萎縮症とわかり、ご自身の体型の変化や健診の数字が気になりながら暮らしている方もいます。
ご家族の原因となる変化がわかっていれば、ご自身がその変化を受け継いでいるかを調べられます。受け継いでいないとわかれば、その変化については、ご家族と同じ確率を心配しなくてよくなります。受け継いでいるとわかった場合は、症状が出る前から糖尿病・中性脂肪・肝臓・心臓を見張る計画を立てられます(第7章)。当院は、知りたいと願う方を拒むことはしません。遺伝カウンセリングで十分に考えたうえで、ご本人が知りたいと決めた場合は、その意思を尊重して検査まで行います。知らないでいる選択も、同じように尊重します。
症状・検査の結果から、どのパネルを選ぶか
このパネルは、脂肪萎縮症の型をまだしぼれないときに、全身性と部分性の原因遺伝子をまとめて調べる「広い」検査です。症状に合わせて、次の検査のほうが向くこともあります。
🔍 症状・検査の結果に合わせた検査の選び方
※どの検査が合うかは、症状・検査の結果・ご家族の情報で変わります。遺伝カウンセリングで一緒に決めましょう。
この検査より別の検査が向いている場合・受けなくてよい場合
ふつうの2型糖尿病や、体重の増加とともに出てきた中性脂肪の上昇・脂肪肝で、脂肪の付き方に特徴がなく、ご家族にも同じ体型の方がいない場合は、この検査を急ぐ必要はないことが多いです(第1章)。また、後天性の脂肪萎縮症は遺伝子の病気ではないので、この検査ではわかりません。症状が多くの臓器にわたって病気をしぼれないときは、全エクソーム検査などのより広い検査を考えます。
5. 調べる10遺伝子と、それぞれの遺伝子でわかる病気
この検査では、脂肪萎縮症の原因として知られる10遺伝子を、次世代シーケンサー(NGS)で一度に調べます。1つずつ順番に調べる必要がないので、型をしぼれないときでも、1回の検査で原因にたどり着ける可能性があります。
先天性全身性脂肪萎縮症は、乳幼児期から全身の脂肪がほとんどなく、肝臓が大きくなり、早くから糖尿病や中性脂肪の上昇が起こる型です[1]。家族性部分性脂肪萎縮症は、思春期ごろから手足とお尻の脂肪が減っていく型で、なかでもLMNAによるダニガン型がよく知られています。病気そのものを詳しく知りたい方は、各疾患ページもご覧ください。このページでは、検査を受けるかどうかを決めるために必要なことを中心にお伝えします。
6. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、10遺伝子のたんぱく質を作る部分(エクソン)とその境目にある、遺伝子の小さな変化(1文字の置き換わり・小さな挿入や欠失)です。2つ以上続くエクソンの欠失・重複も調べます。一方で、遺伝子検査には必ず限界があります。
- ●調べていない遺伝子:脂肪萎縮症の原因遺伝子は、この10個だけではありません。診療指針には、PLIN1・LIPE・PCYT1Aなど、このパネルに入っていない遺伝子も挙げられています[1]。FBN1遺伝子によるマルファン・リポジストロフィー症候群も、この検査の対象ではありません。
- ●後天性の脂肪萎縮症:自己免疫などによる後天性の型は、遺伝子検査ではわかりません。
- ●見つけにくい変化:エクソン1つだけの欠失・重複は、見つからないことがあります。染色体の組み換え(転座・逆位)、繰り返し配列の伸び、遺伝子の働きを調節する領域やエクソンから離れた部分(20塩基より奥)の変化は調べられません。
- ●モザイク:体の一部の細胞にだけ変化がある状態(モザイク)や、がん組織の変化を見つけるようには作られていません。
- ●意義がまだわからない変化(VUS):病気の原因かどうか、今の知識では判断できない変化が見つかることがあります。
- ●陰性でも否定はできません:原因が見つからなくても、脂肪萎縮症ではないとは言い切れません。
💡 用語解説:欠失・重複の確かめ方
見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します。また、読み取りの質が低かった部分は、サンガー法という別の方法で確かめます。検査では、調べる範囲の99%以上を、同じ場所を20回以上読み取る精度で解析します。1回だけの読み取りより、読み間違いを減らせるためです。
7. 病的変異が見つかったら、次にできること
原因の遺伝子がわかると、病名が決まり、治療の選び方・見張る合併症・ご家族の検査・妊娠のときの選択肢までが具体的になります。わかるだけで終わらせず、次の行動につなげることが、この検査のいちばんの意味です。治療や定期的な検査は、糖尿病・内分泌(代謝)を専門とする医療機関で受けていただきます(当院は治療を行っていません)。
①ご本人:レプチン補充療法と、合併症の見張りの計画
レプチンが少ないタイプの脂肪萎縮症では、レプチンを補う注射薬(メトレレプチン)が使われます。米国で行われた研究では、脂肪萎縮症の女性9人に4か月使ったところ、糖尿病のある8人でHbA1cが平均1.9ポイント下がり、中性脂肪は平均60%、肝臓の大きさは平均28%減りました[3]。日本でも、全身性脂肪萎縮症の7人を対象にした研究で、空腹時血糖・中性脂肪の低下と脂肪肝の改善が報告され、最長36か月の観察で大きな副作用はみられませんでした[4]。
多学会の診療指針は、全身性の型ではメトレレプチン(と食事療法)を代謝の異常に対する第一の治療とし、部分性の型でもレプチンが低く代謝の異常が重い方では考えてよいとしています。同じ指針は、メトレレプチンを急にやめたり減らしたりして急性膵炎が起きた例があることも記しています[1]。日本での承認の状況は第8章にまとめました。
合併症の見張りについて、診療指針は次を勧めています[1]。
- ●糖尿病の検査を年1回、中性脂肪を少なくとも年1回(腹痛や黄色腫が出たときも)
- ●肝臓の数値(AST・ALT)を年1回、肝臓の超音波を診断のときに
- ●尿たんぱくを年1回
- ●先天性全身性の型と早老症の型では、心電図と心臓の超音波を年1回
食事は、炭水化物50〜60%・脂質20〜30%・たんぱく質約20%のバランスを基本に、砂糖などの単純な糖を控えて食物繊維の多い炭水化物を選び、食べすぎを避けることが勧められています[1]。体質に合った食事の工夫は、主治医や管理栄養士と相談できます。
②LMNAの変化が見つかった方:心臓の見張り
LMNAによるダニガン型で心筋症がある方では、不整脈の見張り(心電図のモニター)と虚血の評価を考えるよう、診療指針が勧めています。また、心筋症や不整脈と関係する特定のLMNAの変化をもつご家族では、遺伝子を調べることがとくに大切になりうる、とされています[1]。LMNAは心臓の病気の原因遺伝子でもあるので、循環器の専門医とも情報を共有しておくと安心です。心臓の遺伝子をさらに調べるときは、拡張型心筋症遺伝子検査パネルもあります。
③症状のないご本人・ご家族:同じ変化をピンポイントで調べる
ご家族の誰かで原因の変化がわかると、ほかのご家族は、その場所だけを調べて受け継いでいるかを確かめられます。診療指針も、家族の遺伝子を調べることで、症状の目立たない方が見つかることがあるとしています[1]。顕性の型では、ご両親・きょうだい・お子さんが、それぞれ2分の1の確率で関係します。潜性の型では、きょうだいが4分の1の確率で発症し、保因者かどうかもわかります。
症状のない方の検査は、将来のことを知る検査(予測的検査)になります。検査の前に遺伝カウンセリングで、知ることの意味をよく考えていただきます。受け継いでいるとわかった方は、症状が出る前から①の見張りを始められます。
④子どもを持つときの選択肢:保因者検査・出生前診断・NIPT
ご家族の原因の変化がわかっていれば、妊娠したときに、赤ちゃんで同じ変化があるかを調べられます。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。その病気で出生前診断を行うかどうかは、病気の重さや国内の指針を踏まえて個別に考えるため、妊娠を考えている段階からご相談ください。当院の羊水検査・絨毛検査は院内で受けられます(2025年6月から産婦人科を併設)。詳しくは単一遺伝子疾患の出生前診断をご覧ください。
潜性の型では、パートナーが同じ遺伝子の保因者かを知ることが出発点になります。当院の拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子・男性版714遺伝子、女性版1009遺伝子・男性版911遺伝子)には、AGPAT2(1型)とCAVIN1(4型)が含まれています。一方、BSCL2(2型)とCAV1(3型)は含まれていません(各ページの遺伝子一覧で2026年10月20日に確認)。ご家族の原因がBSCL2やCAV1のときは、パートナーの検査の方法を遺伝カウンセリングで一緒に考えます。妊娠中の方には、NIPTと同じ日に採血できるカップルの保因者検査「ファミリーセーフティ プラス」(女性787遺伝子・男性714遺伝子。単独では受けられません)もあります。
また、10遺伝子のうちLMNAは、当院のNIPT(ダイヤモンドプラン・インペリアルプラン)の対象遺伝子に入っています。当院のNIPTは妊娠9週から受けられ、妊娠6〜8週は臨床研究として受けられます。陽性のときは確定検査(羊水検査・絨毛検査)を院内で受けられます。ほかの9遺伝子は、当院のNIPTでは調べられません。ただし、NIPTで単一遺伝子を調べるしくみは、主に赤ちゃんに新しく起きた変化(de novo)を見つけるためのもので、LMNAが関わるすべての病気や、すべての種類の変化がわかるわけではありません。ご家族の原因の変化がわかっている場合に赤ちゃんで確かめるのは、絨毛検査・羊水検査です。
知ったうえで出生前診断を受けることも、受けずに自然に任せることも、どちらもそのまま選べる選択肢です。
陰性・VUSだったとき
原因が見つからなかった場合は、このパネルに入っていない遺伝子や後天性の脂肪萎縮症の可能性を考え、症状に合わせて、ほかのパネル検査や全エクソーム検査を検討します(第6章)。VUSは、それだけで診断に使ったり、ご家族の検査に使ったりはしません。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。調べた目的とは別の病気の原因が見つかったときの扱いは、当院の二次的所見の開示方針をご覧ください。
⑤当院でのその後:結果のご説明と報告書
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。次にどの医療機関で何を調べるか、ご家族にどう伝えるかも、遺伝カウンセリングで一緒に考えます。
結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。報告書の読み方は遺伝子検査結果の見かたで解説しています。
8. 日本の制度と治療薬(2026年10月時点)
脂肪萎縮症は、指定難病265「脂肪萎縮症」に指定されています。小児慢性特定疾病でも、糖尿病の疾患群に「脂肪萎縮性糖尿病」が載っています(難病情報センター・小児慢性特定疾病情報センターで2026年10月に確認)。医療費の助成を受けるには、それぞれの制度の認定の条件を満たし、申請する必要があります。認定の基準や申請の方法は、各センターやお住まいの自治体の窓口でご確認ください。
レプチン補充療法の薬(メトレレプチン)は、日本で2013年3月25日に「脂肪萎縮症」を効能・効果として承認され、同年7月に発売されました。1日1回、皮下に注射します(医薬品医療機器総合機構〔PMDA〕の添付文書・再審査報告書で2026年10月に確認)。日本の承認は全身性・部分性のどちらの脂肪萎縮症も対象であることが、多学会の診療指針にも記されています[1]。この薬は、京都大学の医師主導治験をもとに承認された、日本で開発が進んだ治療でもあります。使えるかどうかは、型やレプチンの値、代謝の異常の重さで主治医が判断します。
9. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の内側の粘膜などで、オンライン診療にも対応しています。
ご予約
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遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
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検体の採取お支払い後にキット発送
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結果のご説明2〜3週間後・マイページへ
💴 費用・日数・検体
※当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。
この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
唾液・頬の内側の粘膜・血液のいずれでも、オンライン診療(ビデオ通話での診療)で遺伝カウンセリングを受けたあと、検体を当院にお送りいただけます。血液の場合は、全国の提携医療機関で採血をお願いします。検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいたあとにお送りします。検体の取り違えや品質の低下を防ぐため、キットが届く前にご自身で検体を採らないでください。
遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。
10. 院長コラム
🩺 院長コラム【「やせているのに」の理由を、見た目だけで決めない】
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。
脂肪萎縮症は、体型の変化がゆっくりで、男性では目立たないこともある病気です。そのため、「糖尿病が治らないのは努力が足りないから」と言われ続けてきた方や、ご家族の誰が同じ体質なのかわからないままの方がいます。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。原因がわかれば、レプチン補充療法を考える手がかりになり、LMNAなら心臓の見張りという、具体的な次の一手が決まります。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。家族歴が濃いものの、ご本人は大学を卒業して会社に勤めていた方が、念のため検査を受けたところ、染色体の微小欠失が見つかったこともあります。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。知ったうえで結婚や妊娠を考えたい方には、保因者検査や出生前診断まで当院で続けて支えられる体制を整えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 脂肪萎縮症の初期症状は?
型によって違います。部分性の型では、幼いころの体型はふつうで、思春期ごろから手足やお尻の脂肪が減り、筋肉や静脈が目立つようになります。顔やあご、首に脂肪がたまることもあります。全身性の型では、生まれたときから全身の脂肪がほとんどありません。体型の変化より先に、糖尿病・中性脂肪の強い上昇・脂肪肝で気づかれることもあります。
Q2. 脂肪萎縮症は遺伝しますか?遺伝する確率は?
遺伝性の型と後天性の型があります。遺伝性のうち、LMNA・PPARG・AKT2による部分性の型は顕性(優性)遺伝で、お子さん1人ごとに2分の1の確率で受け継ぎます。AGPAT2・BSCL2などによる全身性の型は潜性(劣性)遺伝で、ご両親とも保因者のとき、お子さん1人ごとに4分の1の確率で発症します。後天性の型は、遺伝子検査ではわかりません。
Q3. 脂肪萎縮症は指定難病ですか?
はい。指定難病265「脂肪萎縮症」に指定されています。小児慢性特定疾病でも、糖尿病の疾患群に「脂肪萎縮性糖尿病」が載っています(2026年10月時点)。医療費の助成を受けるには、それぞれの制度の認定の条件を満たし、申請する必要があります。
Q4. 脂肪萎縮症は治りますか?治療薬はありますか?
脂肪がなくなること自体を元に戻す確立した治療はありませんが、代謝の異常に対する治療があります。レプチンを補う注射薬(メトレレプチン)は、日本で2013年に脂肪萎縮症を効能・効果として承認されています。使えるかどうかは、型やレプチンの値、代謝の異常の重さで主治医が判断します。食事療法と、糖尿病・中性脂肪・肝臓・心臓の定期的な見張りも大切です。
Q5. 脂肪萎縮症の寿命は?
難病情報センターの解説では、治療しない場合の平均寿命は30〜40歳と言われているとされ、糖尿病の合併症、肝硬変・肝がん、肥大型心筋症が死因になることが多いと書かれています。同じ解説は、レプチン製剤による治療で予後の改善も期待されるとしています。型や原因の遺伝子で見通しは大きく違うため、一人ひとりの見通しは主治医とご確認ください。
Q6. やせているのに糖尿病です。この検査を受けるべきですか?
やせ型の方の糖尿病の多くは脂肪萎縮症ではなく、たくさんの遺伝子と生活習慣が関わる2型糖尿病です。手足やお尻の脂肪が少なく筋肉や静脈が目立つ、大量のインスリンが必要、中性脂肪がとても高い、ご家族に同じ体型の方がいる、といった特徴が重なるときに、この検査を考える意味があります。迷うときは、遺伝カウンセリングでこの検査が合うかからご相談ください。
Q7. 脂肪萎縮症は何科を受診すればよいですか?
診断と治療は、糖尿病・内分泌(代謝)を専門とする医療機関で受けます。当院では、遺伝子検査で原因を確かめることと、その結果をもとにご家族の検査や妊娠のときの選択肢を考える遺伝カウンセリングを行っています(治療は行っていません)。
Q8. 家族に脂肪萎縮症の人がいると、結婚に差し支えますか?
ご家族に脂肪萎縮症の方がいても、結婚や妊娠ができないわけではありません。遺伝の確率は型と原因の遺伝子で違い、ご自身が変化をもっているか、潜性の型ならパートナーが保因者か、を検査で知ることができます。病気のある家系では、結婚前に遺伝カウンセリングと保因者の検査を考えてよいとする国際的な診療指針もあります。知ったうえで、出生前診断などの選択肢を考えられます。
Q9. 費用と結果までの日数は?
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。唾液・頬の内側の粘膜・血液で検査でき、オンライン診療にも対応しています。
🧬 一度の検査で、ご自身とご家族のこれからを考える
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。脂肪萎縮症(リポジストロフィー)の原因がわかれば、レプチン補充療法や合併症の見張りの計画、ご家族の検査、結婚・妊娠の計画を考える手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。
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参考文献
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