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妊娠初期の仕事がしんどいのは甘えじゃない|休み方・職場への報告・妊婦を守る法律

仲田洋美 医師

この記事の執筆・監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医として遺伝医療に携わっています。

妊娠初期に仕事がしんどいのは、ホルモンの急な変化やつわりによる体の反応で、甘えではありません。妊娠初期でも仕事は続けられますが、つらいときに無理をする必要はなく、医師の指導に基づく勤務の軽減や休業を会社に求める仕組みが法律で定められています。妊娠初期の流産の多くは赤ちゃんの染色体の偶然の変化によるもので、仕事をしたことが原因になることはほとんどありません。この記事では、妊娠初期の体の変化、避けたい作業、職場への報告のタイミング(安定期まで言わない理由を含む)、妊婦を守る法律、働き方の相談のしかたを解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約12分
🤰 妊娠初期・仕事・職場への報告
★ 臨床遺伝専門医監修

Q. 妊娠初期に仕事がしんどくて休むのは甘えですか?

A. 甘えではありません。妊娠初期はhCGやプロゲステロンといったホルモンが急に増え、つわり、眠気、だるさが出やすい時期です。主治医から勤務の軽減や休業の指導を受けた場合、会社はその指導を守れるよう措置をとることが男女雇用機会均等法で義務づけられています[1]。妊娠や、つわりで休んだことを理由に解雇や退職の強要などの不利益な扱いをすることは、法律で禁止されています。

  • ➤避けたい作業 → 重い物を持つ作業、長時間の立ちっぱなし、夜勤の連続、薬剤・化学物質・感染症に触れる作業
  • ➤職場への報告 → つらいなら安定期を待たず、直属の上司へ。会社が知らないと配慮を受けにくい
  • ➤使える制度 → 健診時間の確保、時差通勤・時短・休業、時間外・深夜業の免除、軽易な業務への転換
  • ➤すぐ連絡すべき症状 → 生理のような量の出血や強い腹痛は、夜間・休日でも産婦人科へ

妊娠初期に仕事がしんどいのは甘えではない

妊娠初期に「仕事がしんどい」「だるくて動けない」と感じるのは、気持ちの問題ではなく、妊娠による体の変化そのものです。この章では、妊娠初期に体で何が起きているのか、休みすぎではないかと悩むときの考え方、仕事と流産の関係を順に説明します。

📅 妊娠の時期と週数

時期 妊娠週数 仕事との関係で起こりやすいこと
妊娠初期 〜15週6日 つわり、眠気、だるさ、においへの敏感さ。流産の多くもこの時期に起こる
妊娠中期 16週0日〜27週6日 つわりが落ち着く人が多い一方、お腹が大きくなり始める
妊娠後期 28週0日〜 お腹の張りやむくみが出やすく、産前休業に入る時期

※妊娠週数は最終月経の初日を0週0日として数えます。産前休業は出産予定日の6週間前(双子以上は14週間前)から請求できます[1]。

妊娠初期(〜15週)に体で起きていること

妊娠初期の体調の変化には、主にhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)、プロゲステロン(黄体ホルモン)、エストロゲン(卵胞ホルモン)の3つのホルモンが関わっています。受精卵が着床すると、のちに胎盤になる組織からhCGが分泌されます。hCGは卵巣の黄体を維持してプロゲステロンを出し続けさせるため、妊娠すると月経が来ず、基礎体温の高温期が続きます。hCGは妊娠初期に急速に増えます。

プロゲステロンには子宮の筋肉をゆるめて妊娠を保つ働きがありますが、同時に眠気や体温の上昇、腸の動きを遅くして便秘を起こす作用もあります。日中に強い眠気が来て仕事に集中できない、少し動いただけで疲れる、という感覚の背景にはこうしたホルモンの作用があります。妊娠中は血液の量が増えて薄まり、鉄の必要量も増えるため、貧血による立ちくらみも起こりやすくなります。

つわり(妊娠に伴う吐き気・嘔吐)は特に多い症状です。重症化し、脱水や体重減少などを伴う状態は妊娠悪阻と呼ばれます。米国の33研究をまとめたメタ解析では、妊娠中に吐き気や嘔吐を経験する人は68.6%と報告されています[2]。においに敏感になり、満員電車や職場の食べ物のにおいで気分が悪くなることもあります。つわりの仕組みはまだ完全にはわかっていませんが、多くの妊婦さんに起こる、ありふれた体の反応です。妊娠初期によくみられる症状は「妊娠超初期症状のチェックリスト」にもまとめています。

「仕事に行きたくない」「休みすぎかも」と感じたとき

妊娠初期は、外見からは妊娠していることがわかりにくい時期です。外見から体調の変化がわかりにくくても、つわり、眠気、だるさなどによって「仕事に行きたくない」「休みすぎではないか」と感じることがあります。休みが増えることは、妊娠に伴う症状への対応として必要になる場合があります。

休むかどうかを判断するときは、気持ちではなく体の状態を基準にします。水分がとれない、通勤中にふらつく、仕事中に何度も吐いてしまう、といった状態であれば、休む必要があるサインです。反対に、横になれば回復する、時間帯によっては働ける、という場合は、時差通勤や業務の調整で乗り切れることもあります。どちらの場合も、健診のときに主治医に今の状態を伝えておくと、必要に応じて勤務の軽減の指導を受けられます。

「休みすぎ」と感じたときは、休んだ日数より、休んだあとに体調が戻っているかを見てください。休んでも回復しない、体重が減り続ける、尿の量が減るといった場合は、つわりが重くなった妊娠悪阻の可能性があり、仕事より受診を優先します。

働き続けると流産しやすい?仕事と流産の関係

妊娠初期の流産の多くは赤ちゃんの染色体の偶然の変化によるもので、普段どおり仕事をしたことが原因で起こることはほとんどありません。日本産科婦人科学会によると、妊娠の約15%は自然流産に終わり、妊娠したことがある女性の38%が流産を経験しているという報告もあります。妊娠12週未満の流産で最も多い原因は赤ちゃん側の異常で、流産した組織の染色体を調べると約80%に異常を認めたと報告されています[3]。

染色体の数の変化は、主に卵子や精子ができるときの細胞分裂で偶然に起こります。受精した時点ですでに決まっていることが多く、その後に母親がどう働いたかで変えられるものではありません。したがって、通常の就労そのものを妊娠初期流産の原因とみなす医学的根拠はありません。

一方で、出血や腹痛など流産が進みそうな徴候がある切迫流産の場合は話が別です。日本産科婦人科学会は、安静や勤務の緩和が必要かどうかを主治医と相談するよう勧めています[3]。また、後で説明するように、夜勤の連続や重い物を扱う作業については、流産との関連を調べた研究があります。仕事全般が危険なのではなく、負担の大きい作業を減らすことに意味があると考えてください。

🚨 仕事を中断して産婦人科へ連絡してほしいサイン

・生理のような量、またはそれ以上の出血がある
・がまんできないほどの強い腹痛、痛みがだんだん強くなる
・ふらつく、意識が遠のく
・水分もとれないほど吐いてしまう
これらがある場合は、夜間や休日であっても産婦人科に連絡してください[3]。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【流産を「仕事のせい」と考えないでほしい】

妊娠初期の流産の多くは、受精卵の段階で起きた染色体の偶然の変化によるもので、その時点で妊娠が続かないことがすでに決まっていると考えられています。仕事を続けたことや、休まなかったことが原因になるものではありません。

それでも、体がつらいときに無理を重ねる必要はありません。休むことは赤ちゃんのためだけでなく、妊娠している本人の体を守るためのものです。法律で定められた制度は、遠慮せずに使ってよいものだと考えています。

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妊娠初期の仕事で気をつけること・避けたい作業

妊娠初期の仕事で気をつけたいのは、重い物を持つ作業、長時間の立ちっぱなし、夜勤の連続、そして薬剤・化学物質・感染症に触れる作業です。一部は法律で妊婦の就業が制限されています。仕事以外も含めた生活全般の注意点は「妊娠初期症状のチェックリストと生活上の注意点」にまとめています。

立ちっぱなし・座りっぱなしの仕事

販売、飲食、医療・介護など、立ちっぱなしの仕事は妊婦さんの負担になりやすい働き方です。厚生労働省の母性健康管理サイトでは、小売業で働いた妊婦の約6割が立ち仕事を「つらかった」と答え、症状では「お腹が張った・痛かった」が最も多く、診断された病気では切迫流産・切迫早産が目立ったと紹介されています。むくみ、貧血、腰痛、膀胱炎も起こりやすいとされています[4]。

同じ姿勢を続けると足の血流が滞り、むくみや疲れ、立ちくらみの原因になります。同サイトは、立ち仕事の時間を短縮し、つらいと感じたら適宜休憩をとるよう勧めています[4]。何時間までなら大丈夫という一律の基準は示されていないため、お腹の張りやめまいを感じたら座る、という体のサインを優先してください。座りっぱなしの事務仕事でも、ときどき立って足を動かすことで血流の滞りを防げます。

立ち仕事と流産の関係を調べた研究も複数あります。夜勤、重い物の持ち上げ、長時間の立位、身体的な負荷、長時間労働などをまとめた解析では、固定夜勤を除くと流産のリスクの上昇は小さく、相対リスク(危険度の倍率)は1.12〜1.36の範囲でした[5]。この結果を解説した論説は、明確な上限値は示せないとしたうえで、妊娠初期には身体的に負担の大きい作業を避けるよう助言するのが賢明だろうと述べています[5]。

重い物を持つ仕事

一定以上の重さの物を扱う業務は、妊娠中の女性を就かせてはならないと法律で定められています。女性労働基準規則では、満18歳以上の女性について、断続作業で30kg以上、継続作業で20kg以上の重量物を扱う業務が制限されており、妊婦はこの業務に就かせてはならない対象です[6]。

法律の基準より軽い物でも、何度も持ち上げる作業や、前かがみで持ち上げる作業はお腹に力がかかります。介護での移乗介助、倉庫での荷物の積み下ろし、保育での抱っこなどは、つらいときには同僚に代わってもらいましょう。医師から作業の制限を指導された場合は、会社はそれを守るための措置を講じる必要があります[1]。

夜勤・長時間労働・満員電車

夜勤は、睡眠のリズムが乱れることで体調を崩しやすく、つわりも悪化しやすい働き方です。デンマークで病院などに勤める妊婦22,744人を調べた研究では、前の週に2回以上夜勤をした人は、妊娠8週以降の流産のリスクが32%高く、週の夜勤回数や連続夜勤日数が多いほどリスクが高い傾向でした[7]。ただしこれは観察研究で、夜勤が流産の直接の原因だと証明したものではありません。

妊娠中の人は、労働基準法により、時間外労働、休日労働、深夜業(午後10時〜午前5時)の免除を会社に請求できます[8]。夜勤のある職場では、妊娠初期のうちから夜勤の回数を減らす、連続させないといった相談をしておくと負担を減らせます。満員電車での通勤は、においや人混みでつわりが悪化しやすく、転倒の危険もあります。医師の指導があれば、時差通勤や勤務時間の短縮を会社に求めることができます[1]。

薬剤・化学物質・放射線・感染症に触れる仕事【遺伝の視点】

妊娠初期は赤ちゃんの体の器官がつくられる「器官形成期」にあたり、薬剤や感染症などの影響を最も受けやすい時期です。受精後3〜8週ごろが器官形成期にあたり、この時期の胎児は催奇形因子(胎児の形態異常を起こしうる要因)に対して最も感受性が高いとされています[9]。妊娠週数でいうと、おおむね妊娠5〜10週ごろです。

💡 用語解説:器官形成期と催奇形因子

器官形成期とは、心臓、脳、手足などの体の器官の基本的な形がつくられる時期で、受精後およそ3〜8週にあたります。催奇形因子とは、この時期に曝露すると胎児の形態異常を起こしうる薬剤・感染症・放射線などの要因のことです。同じ要因でも、曝露した時期と量によって影響の有無や程度が変わります。

仕事で触れる可能性がある要因には、次のようなものがあります。女性労働基準規則では、鉛、水銀、クロム、砒素などの有害物質が発散する場所での業務や、身体に著しい振動を与える機械を使う業務に妊婦を就かせてはならないとされています[6]。医療機関で抗がん剤などの薬剤を扱う職種、放射線を扱う職種では、職場の管理基準に従い、妊娠を早めに申し出て業務の調整を受けることが大切です。

感染症では、保育や医療の現場で注意したいのがサイトメガロウイルス(CMV)です。CMVは幼い子どもの唾液や尿に含まれることがあり、おむつ交換や食事介助のあとに手を介して感染します。米国労働安全衛生局(OSHA)は、石けんと流水で少なくとも15秒手を洗う、使い捨て手袋を使うなどの予防策を示し、妊娠中の労働者は医療者と相談のうえ年長児の担当への配置転換を検討するよう勧めています[10]。妊娠中にはじめて感染すると、赤ちゃんに先天性サイトメガロウイルス感染症が起こることがあります。

🏥 職種別に気をつけたいこと(妊娠初期)

職種の例 気をつけたいこと
看護師・医療職 夜勤、患者の移乗、抗がん剤など薬剤の取り扱い、放射線、感染症
保育士 抱っこなどの重量物、子どもの唾液・尿を介したCMVなどの感染症
介護職 移乗介助や入浴介助などの力仕事、夜勤
美容師・ネイリスト 長時間の立ち仕事、薬剤や溶剤のにおい(換気・手袋を)
販売・飲食 長時間の立ちっぱなし、重い商品の運搬、食べ物のにおい
事務職 座りっぱなしによる血流の滞り、満員電車での通勤

※職場の作業環境によって異なります。具体的な業務の可否は、職場の安全衛生担当者や主治医に確認してください。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「触れてしまったかもしれない」と思ったら】

妊娠に気づく前に、職場で薬剤や溶剤に触れていたと気づいて心配になる人もいます。催奇形性の考え方では、何に、いつ、どのくらいの量で曝露したかによって、影響があるかどうかが大きく変わります。「触れた」ことと「赤ちゃんに影響が出る」ことの間には、量と時期という大きな条件がはさまっています。

臨床遺伝専門医としては、まず曝露した物質と時期を具体的に確かめ、その物質についてわかっている医学的データと照らし合わせることが大切だと考えています。漠然とした不安のまま仕事を辞めると決める前に、主治医に相談してください。

職場への妊娠報告はいつ?安定期まで言わないのはなぜ

明るい会議室で同僚の報告を聞く人たち

職場への妊娠報告に決まった時期はありませんが、つわりなどで配慮が必要なら、安定期を待たずに直属の上司へ伝えるのがひとつの目安です。会社が妊娠を知らなければ、法律で定められた措置を受けにくくなるからです。この章では、安定期まで言わない人が多い理由と、早めに伝えたほうがよい場合を整理します。

安定期まで言わない人が多い理由

安定期は医学用語ではなく、一般に妊娠16週ごろからの、つわりが落ち着き胎盤が完成する時期を指す言葉です。安定期まで職場に言わない人が多いのは、流産の多くが妊娠12週未満に起こるためです[3]。流産の多くが妊娠12週未満に起こることなどから、妊娠がある程度進むまで報告範囲を限定する人もいます。

また、職場によっては、妊娠を伝えたあとの扱いや評価に不安があり、言い出しにくいこともあります。しかし、妊娠したことや、つわりで休んだことを理由に解雇や降格などの不利益な扱いをすることは法律で禁止されています[1]。不利益な扱いを恐れて報告を遅らせる必要はありません。

つらいなら安定期を待たずに伝えたほうがよい理由

妊娠初期は、つわりや眠気が最もつらい時期と重なります。職場が妊娠を知らないままだと、業務の調整や勤務時間の短縮を相談しにくく、体調不良で休むたびに理由を説明できずに苦しくなります。厚生労働省も、出産予定日や休業の予定を早めに会社に申し出るよう勧めています[1]。

2025年10月からは、育児・介護休業法の改正により、労働者から妊娠・出産等の申し出があったとき、会社は勤務時間帯や勤務地、両立支援制度の利用期間などについて本人の意向を個別に聴き、配慮することが義務づけられました[11]。早めに伝えることで、こうした仕組みを使いやすくなります。重い物を扱う、夜勤がある、薬剤に触れるといった職場では、体調にかかわらず早めの報告を考えてください。

誰に・何を・どう伝える?

最初に伝えるのは直属の上司です。同僚への報告は、伝える範囲とタイミングを上司と相談してからにするとスムーズです。報告のときは、次のことを伝えられるよう準備しておきましょう。

  • 現在の妊娠週数と出産予定日
  • 今の体調と、配慮してほしいこと(重い物、夜勤、通勤など)
  • 産休・育休の予定と、出産後に復帰するかどうかの見通し
  • 業務の引き継ぎのスケジュール

上司や同僚は、今後の業務の分担や人員配置を考える必要があります。見通しを早めに共有しておくと、お互いに準備がしやすくなります。予定は体調で変わってよいので、現時点での見通しとして伝えましょう。

体調が悪くて休むときの伝え方

急に休むときは、始業前までに上司へ電話やメールで連絡し、休む理由(つわりなど体調不良)と、急ぎの業務の引き継ぎ先を簡潔に伝えます。たとえば「つわりの症状が強く、本日はお休みをいただきたいです。〇〇の件は△△さんに引き継いであります」のように、理由と業務の見通しをセットにすると伝わりやすくなります。休んだ日の体調や、復帰の見込みもこまめに知らせると、仕事を代わる同僚も予定を立てやすくなります。

つわりで休むときの具体的な例文、診断書との使い分け、休業中のお金については「つわりで仕事がつらいときは?休む目安・伝え方・母健連絡カード」で詳しく解説しています。

家族への報告

パートナーには、妊娠検査薬で陽性が出た時点で伝えてかまいません。陽性が出たら産婦人科を受診し、超音波検査で子宮の中に胎嚢(赤ちゃんが入っている袋)があるか、続いて心拍があるかを確かめます。つわりで家事や通院の協力が必要になることも多いため、いちばん身近な人には早めに伝えておくと助けを得やすくなります。両親や親戚への報告は、体調が落ち着いてからでもかまいません。

働く妊婦を守る法律と制度

妊婦のイメージ

働く妊婦を守る主な法律は、労働基準法と男女雇用機会均等法の2つです。会社に独自の規定がなくても、パートや契約社員でも、これらの措置を申し出ることができます[1]。主な制度を表にまとめます。

⚖️ 妊娠中に使える主な制度

制度 内容 根拠
健診の時間の確保 妊婦健診などを受けるための時間を確保してもらえる 男女雇用機会均等法第12条
医師の指導に基づく措置 時差通勤、休憩の延長、勤務時間の短縮、作業の制限、休業など 男女雇用機会均等法第13条
軽易な業務への転換 ほかの軽い業務に替えてもらうよう請求できる 労働基準法第65条
時間外・休日・深夜の労働の制限 残業、休日出勤、深夜業の免除を請求できる 労働基準法第66条
危険有害業務の制限 一定以上の重量物や有害物質を扱う業務などに就かせてはならない 労働基準法第64条の3
不利益な扱いの禁止 妊娠・出産、つわりで休んだことなどを理由とする解雇や退職の強要は違法 男女雇用機会均等法第9条第3項

※厚生労働省「働きながらお母さんになるあなたへ」[1]をもとに作成。

労働基準法

労働基準法は、働く人の労働条件の最低基準を定めた法律で、妊娠中の女性を守る規定も含まれています[8]。妊娠中の人は、ほかの軽易な業務への転換を請求でき(第65条)、時間外労働・休日労働・深夜業の免除も請求できます。変形労働時間制の職場でも、1日・1週間の法定労働時間を超えて働かないことを請求できます(第66条)。重量物を扱う業務や有害物質が発散する場所での業務などには、妊娠中の女性を就かせることが禁止されています(第64条の3)[1]。

労働基準法は、産前・産後の休業と解雇の制限も定めています。産前休業は出産予定日の6週間前(双子以上は14週間前)から請求すれば取得でき、出産の翌日から8週間は原則として働くことができません。産前・産後の休業期間とその後30日間は、解雇が禁止されています(第65条、第19条)[1]。

男女雇用機会均等法

男女雇用機会均等法は、妊娠中や出産後の女性の健康管理のために、会社がとるべき措置(母性健康管理措置)を定めています。第12条は、妊婦健診などを受けるために必要な時間の確保を会社に義務づけています。確保すべき回数は、妊娠23週までは4週間に1回、24週から35週までは2週間に1回、36週以後出産までは1週間に1回です[1]。

第13条は、健診などで医師から指導を受けた場合に、その指導を守れるよう、勤務時間の変更や勤務の軽減、休業などの措置を講じることを会社に義務づけています。さらに、妊娠・出産や、つわり・切迫流産で休んだことなどを「契機として」行われる不利益な扱いは、原則として違法とされています[12]。上司や同僚による妊娠・出産に関するハラスメントを防ぐ措置も、会社に義務づけられています[1]。

💡 用語解説:母性健康管理措置

母性健康管理措置とは、男女雇用機会均等法第12条・第13条に基づき、会社が妊娠中・出産後の女性のためにとらなければならない措置のことです。健診の時間の確保と、医師の指導事項を守るための措置(通勤緩和、休憩、勤務時間の短縮、作業の制限、休業など)の2つが柱です。正社員だけでなく、パートや派遣で働く人も対象です。

母健連絡カードの要点

母性健康管理指導事項連絡カード(母健連絡カード)は、医師から受けた指導の内容を、会社に正確に伝えるためのカードです。会社はカードの記載内容に応じて適切な措置を講じる必要があります[13][14]。

妊婦健診などを受ける
▶
医師がカードに記入措置が必要と判断した場合
▶
会社に提出して申し出る
▶
会社が措置を講じる時差通勤・時短など

カードの様式は改正され、「病名」ではなく「症状」で記入する形になりました。つわり、めまい・立ちくらみ、お腹の張りといった症状に応じて、通勤緩和、勤務時間の短縮、休憩、作業の制限、休業などの措置が記入されます[13]。様式は厚生労働省のサイトからダウンロードでき、ほとんどの母子健康手帳にも載っています[1]。カードの提出がなくても、本人の申し出などから指導の内容が明らかであれば、会社は必要な措置を講じる必要があります[13]。カードのもらい方や診断書との違いは、つわりと仕事の記事で詳しく説明しています。

休んだ日の給与はどうなる?

母性健康管理措置で休んだ時間や日の給与を支払うかどうかは、法律で決まっておらず、会社の規定によります[1]。有給休暇を使うか、無給の休みにするかは、会社の就業規則を確認しましょう。長く休む場合に使える健康保険の給付などは、つわりと仕事の記事でまとめています。

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体調に合わせた働き方の相談のしかた

制度は妊婦に認められた権利なので、使うことに遠慮はいりません。そのうえで、職場の理解を得ながら働き続けるための相談のしかたを紹介します。

時差通勤・時短・在宅勤務を相談する

いきなり休業するのが難しい場合は、時差通勤や勤務時間の短縮から相談してみましょう。医師から通勤緩和の指導を受けた場合、時差通勤や勤務時間の短縮は、男女雇用機会均等法第13条に基づいて会社が講じるべき措置にあたります[1]。出退勤を1時間ずらすだけでも満員電車を避けられ、においによるつわりの悪化を防ぎやすくなります。

在宅勤務ができる職場であれば、週に何日か在宅に切り替えてもらう方法もあります。在宅勤務は法律で義務づけられた措置ではありませんが、通勤の負担がなくなり、つらいときに横になれるため、体調を保ちやすくなります。

業務内容を調整してもらう

日頃から、どんなときにつらいのかを同僚に伝えておくと、困ったときに助けてもらいやすくなります。たとえば看護師であれば、「においに敏感で食事介助がつらい」と伝えておけば、配膳や食事介助を代わってもらえるかもしれません。「重い物を持つとお腹が張る」と伝えておけば、患者さんの移乗や体位変換を同僚に任せ、自分ができる仕事に集中できます。

助けてもらうだけでなく、体調と相談しながら自分にできる仕事を引き受けると、お互いに気持ちよく働けます。業務の転換が必要なときは、労働基準法に基づく軽易な業務への転換を請求することもできます[8]。

急に休んだときの連絡とフォロー

急に休んだときは、体調と復帰の見込みを上司にこまめに伝えましょう。休んだ分の仕事は誰かが代わりに担っています。休んだ理由や見通しがわかれば、仕事を代わる同僚も予定を立てやすくなります。復帰したときに、代わりに仕事を引き受けてくれた同僚に一言お礼を伝えることも、良い関係を保つコツです。

出産後の働き方の見通しを伝える

出産後の予定がわからないと、会社はこれからの業務や人員の見通しを立てにくくなります。たとえば、本人は出産後に退職するつもりでも、会社は復帰を前提に業務の割り振りを考えているかもしれません。直前に伝えると、手続きや引き継ぎが慌ただしくなります。体調や保育の状況によって予定が変わってもよいので、現時点の見通しとして伝え、変わったらその都度相談しましょう。産休に入る前のあいさつは「産休のメッセージを送るときのポイント」を参考にしてください。

妊娠初期の仕事に関するよくある質問

悩む妊婦

Q1. 仕事中でも休んだ方が良いお腹の張り方ってどんな感じですか?

妊娠初期は子宮が大きくなり始める時期で、下腹部が引っ張られるような感じや軽い張りを感じることがあります。張りを感じたら、まずは座るか横になって休ませてもらいましょう。休むとおさまる軽い張りであれば、多くは心配いりません。休んでも張りや痛みがおさまらない、痛みがだんだん強くなる、出血を伴うといった場合は、産婦人科に連絡してください。生理のような量の出血や強い腹痛があるときは、夜間や休日でも連絡が必要です。

Q2. 退職を勧められた時はどうすればいいですか?

妊娠・出産や、つわり・切迫流産で休んだことなどを理由に退職を強要することは、法律で禁止されています。退職を勧める理由を具体的に説明してもらい、働き続けたい場合は仕事を続ける意思をはっきり伝え、退職届にはサインしないでください。やりとりは日時と内容を記録しておきましょう。話し合いで解決しない場合は、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に相談できます。相談は無料で、匿名でも受け付けています。

Q3. 妊娠6週でも仕事を休めますか?

医師から休業の指導を受けた場合、男女雇用機会均等法に基づいて会社は休業などの措置を講じる必要があり、この措置には妊娠週数の制限がありません。これは産前休業(出産予定日の6週間前から)とは別の母性健康管理措置です。なお、会社独自の「休職制度」を利用できるかどうかは就業規則によります。休んだ日の給与の扱いも会社の規定によります。

Q4. 妊婦が週5日勤務するのはきついですか?

きついかどうかは、仕事の内容とつわりの程度で大きく変わり、個人差があります。事務仕事で体調が安定していれば週5日勤務を続ける人も多くいます。一方、夜勤の連続や重い物を扱う作業など負担の大きい仕事では、勤務日数や時間を減らす相談を考えてください。医師の指導があれば、勤務時間の短縮などを会社に求めることができます。

Q5. 妊娠初期はどのくらい仕事を休む人が多いですか?

休む期間に決まった目安はなく、つわりの程度によって数日から数週間以上まで幅があります。つわりは妊娠16週ごろまでに落ち着く人が多い一方、長引く人もいます。つわりで休む期間や手続きについては、つわりと仕事の記事で詳しく解説しています。

Q6. 妊娠中期以降の休み方は?

妊娠中期以降は、お腹の張りや切迫早産、貧血などが休む理由になることが多くなります。使える制度は妊娠初期と同じで、医師の指導に基づく措置や、産前休業(出産予定日の6週間前から)があります。妊娠中期に休む理由と伝え方は、妊娠中期に仕事を休むときの記事でまとめています。

まとめ:健康管理のために仕事を休むのは妊婦の権利

オフィスで働く妊婦の社員

妊娠初期に仕事がしんどいと感じるのは、ホルモンの変化によるつわりや眠気、だるさのためで、甘えではありません。妊娠初期の流産の多くは赤ちゃんの染色体の偶然の変化によるもので、仕事が原因になることはほとんどありませんが、体がつらいときに無理をする必要もありません[3]。

重い物を持つ作業、夜勤の連続、長時間の立ちっぱなし、薬剤や感染症に触れる作業は、できるだけ減らしましょう。職場への報告は、つらいなら安定期を待たずに直属の上司へ伝えると、法律で定められた措置を受けやすくなります。医師の指導に基づく勤務の軽減や休業、妊婦健診の時間の確保は、法律で保障された妊婦の権利です[1][13]。

🧬 NIPTを受ける方はご予約ください

妊娠初期は、仕事の調整と並行して、出生前検査を受けるかどうかを考える時期とも重なります。ミネルバクリニックのNIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)は、妊娠9週以降は通常の受付、妊娠6〜8週は臨床研究として受け付けています。検査でわかること・わからないことは、受検の際に常駐する臨床遺伝専門医がご説明します。
※NIPTのご相談のみでのご予約はお受けしていません。

参考文献

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  • [12] 厚生労働省. 「妊娠したから解雇」は違法です. [厚生労働省]
  • [13] 厚生労働省. 母健連絡カード(母性健康管理指導事項連絡カード)について. 働く女性の心とからだの応援サイト. [女性にやさしい職場づくりナビ]
  • [14] 厚生労働省. 母性健康管理指導事項連絡カードの運用方法について. [厚生労働省]

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プロフィール
仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、
臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。
のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、
検査結果の数値そのものだけでなく、
「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、
一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、
日本人として異文化の中で生活した経験があります。
価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。
この経験は現在の診療においても、
「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、
36週6日で一人を死産した経験があります。
その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、
そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。
現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、
出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、
家族の未来に関わる重要な意思決定です。
年齢や統計だけで判断するのではなく、
医学的根拠と心理的支援の両面から、
ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/
日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。

2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、
複数の海外メディア・専門誌で特集掲載
されました。

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