目次
妊娠初期・妊娠超初期に眠れなくなるのは、めずらしいことではありません。排卵後から増えるプロゲステロン(黄体ホルモン)は日中の眠気を招き、体温を高めに保つ作用があります。また、妊娠中は深い睡眠が減り、中途覚醒が増えるなど睡眠の質が低下しやすくなります。そこに、つわりの気持ち悪さ、夜中のトイレ、妊娠が続くかどうかの不安が重なると、「昼は眠いのに夜は眠れない」「夜中に何度も目が覚める」という状態になります。眠れないことが流産の原因になるとは考えにくく、早い時期の流産の多くは受精卵の染色体の変化によって起こります。この記事では、眠れなくなる仕組み、夜中に目が覚める・眠りが浅いときの考え方、薬に頼らない過ごし方、市販の睡眠改善薬の注意点、受診を考える目安を順に解説します。
Q. 妊娠初期・超初期に眠れなくなることはありますか?
A. あります。妊娠初期はプロゲステロンの影響で日中は眠くなりやすい一方、体温が下がりにくい、つわり、夜間の頻尿、不安などが重なって、寝つけない・夜中に目が覚める・眠りが浅いと感じる人がいます。ただし生理前にも似た変化が起こるため、眠れないことだけで妊娠かどうかは判断できません。
- ➤昼眠く夜眠れない理由 → プロゲステロンの「眠気を招く作用」と「体温を上げる作用」が同時に働く
- ➤主な原因 → ホルモンの変化、つわり、頻尿、期待と不安
- ➤過ごし方 → 昼寝は短く、ぬるめの入浴、夜は暗く朝は明るく、ノンカフェイン
- ➤避けたいこと → 市販の睡眠改善薬の自己判断での服用、寝酒、熱い長風呂
- ➤流産との関係 → 不眠が流産の原因になるとは考えにくい
妊娠初期・超初期に眠れないのはよくあること?

妊娠中に眠りの質が落ちるのはよくあることで、妊娠初期から起こりえます。妊娠中の睡眠の質を調べた24の研究(妊婦さん計11,002人)をまとめた解析では、睡眠の質が悪いと評価された人は平均で45.7%にのぼりました[1]。この解析では、妊娠が進むほど睡眠の質は下がる傾向も示されています。日本精神神経学会の一般向け資料でも、約8割の妊産婦が妊娠中に不眠障害(不眠症)にかかるといわれていると説明されています[2]。数字に幅があるのは、「睡眠の質が悪い」と「不眠障害」という物差しの違いや、調べた時期の違いによるものです。どちらにしても、妊娠中に眠れない人が少数派ではないことは共通しています。
妊娠週数は、最後の生理が始まった日を妊娠0週0日として数えます。妊娠初期は妊娠15週まで、妊娠中期は16〜27週、妊娠後期は28週以降です。妊娠2週ごろに排卵と受精が起こり、妊娠3週ごろに受精卵が子宮内膜に着床して妊娠が成立します。厚生労働省のe-ヘルスネットでは、妊娠初期はプロゲステロンの影響に加えて、夜間の頻尿、吐き気、腰痛、乳房の痛みなどで睡眠の質が下がり、妊娠中期にはホルモンの変化に体が慣れて比較的安定し、妊娠後期にはお腹が大きくなることなどから再び眠りにくくなると説明されています[3]。
つまり、妊娠初期の不眠は「何かがおかしいサイン」というより、妊娠にともなう体の変化の一つとして起こりやすいものです。眠れないこと以外に妊娠初期・超初期にどのような変化が起こりうるかは、妊娠超初期の症状チェックリストにまとめています。
妊娠超初期から眠れなくなることはある?
妊娠超初期(妊娠0〜3週ごろ)でも、着床のあとであれば眠れなくなることはありえます。妊娠超初期は医学用語ではなく、はっきりした定義はありませんが、一般に生理予定日ごろまでの時期を指して使われています。妊娠が成立すると、本来なら次の生理に向けて減っていくプロゲステロンとエストロゲンが減らずに分泌され続け、hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)の分泌も始まります。基礎体温は高温期のまま続きます。
ただし、この時期の体の状態は、妊娠していない場合の生理前(黄体期)とほとんど同じです。黄体期にもプロゲステロンは高く、眠気や寝つきの悪さ、気分の揺れは生理前にもよく起こります。そのため、「妊娠超初期に眠れなかった」という体験談は、妊娠していた人の話としても、生理が来た人の話としても、どちらも成り立ちます。眠れないことは妊娠のサインになりえますが、妊娠を見分ける決め手にはなりません。見分け方は生理前の不眠と妊娠初期の違いで解説します。
昼は眠いのに夜眠れないのはなぜ?

妊娠初期に「昼は眠いのに夜は眠れない」状態になる背景には、プロゲステロンによる眠気や体温上昇に加え、妊娠中に深い睡眠が減り、中途覚醒が増えるなどの睡眠変化が関係します。e-ヘルスネットでも、妊娠中はプロゲステロンの増加に加えて、徐波睡眠(深いノンレム睡眠)が減り、中途覚醒が増えると説明されています[3]。同じホルモンが、昼と夜で逆向きの困りごとを起こしているわけです。
眠気のほうは、プロゲステロンが体内で変化してできるアロプレグナノロンという物質が関わっていると考えられています。アロプレグナノロンは、脳の興奮を鎮める仕組み(GABA-A受容体)の働きを強め、鎮静的に作用します。妊娠初期にだるさや強い眠気を訴える人が多いのは、この作用によるところが大きいと考えられています。
一方、体温のほうは、プロゲステロンが脳の体温調節の中枢に働いて体温を高めに保つ作用です。排卵後の基礎体温が低温期より0.3〜0.5℃上がるのはこの作用によるもので[4]、妊娠が成立すると高温期がそのまま続きます。人は寝つくとき、手足から熱を逃がして体の深部の温度を下げることで眠りに入ります。入浴後に体温が下がっていくタイミングで寝つきがよくなるのも、この仕組みを利用したものです[5]。妊娠初期は夜になっても深部の体温が下がりにくいため、「眠いはずなのに寝つけない」「体が熱くて眠りが浅い」という状態になりやすいのです。
💡 用語解説:プロゲステロン(黄体ホルモン)
排卵後の卵巣(黄体)から分泌され、妊娠が成立すると、その後は胎盤からも分泌される女性ホルモンです。子宮内膜を受精卵が着床しやすい状態に整え、妊娠を続けるために欠かせません。体温を上げる作用があるため、基礎体温の高温期をつくります。代謝されてできるアロプレグナノロンには鎮静作用があり、眠気やだるさの原因の一つと考えられています。
さらに、日中の強い眠気に任せて長い昼寝をすると、夜に必要な「眠りへの圧力」が減ってしまいます。眠りへの圧力は、起きている時間が長くなるほどたまり、眠ると解消されるものです。昼に長く眠ると夜にその分が足りなくなり、寝つきがさらに悪くなります。こうして「昼に寝る→夜眠れない→翌日また昼に眠い」という悪循環ができあがります。妊娠初期の不眠の対策で昼寝の取り方が大事になるのは、このためです。
🩺 院長コラム【眠気と不眠は同じホルモンから来ています】
妊娠初期の「昼は眠い、夜は眠れない」は、矛盾しているように見えて、プロゲステロンの増加が日中の眠気に関わる一方、妊娠中には深い睡眠の減少や中途覚醒の増加もみられます。また、プロゲステロンの体温を高める作用は、寝つきに影響する可能性があります。
仕組みがわかると、対策の向きも見えてきます。夜は体の深部の熱を逃がしやすくし、昼は眠りをためすぎない。妊娠初期の不眠では、この二つを意識した生活上の工夫が対策の一部になります。
妊娠初期に眠れない4つの原因

妊娠初期に眠れなくなる原因は、主に次の4つです。一つだけが原因ということは少なく、いくつかが重なっていることがほとんどです。
🌙 妊娠初期に眠れない主な原因と起こりやすい眠りの困りごと
| 原因 | 起こりやすいこと | ポイント |
|---|---|---|
| ホルモンの変化 | 寝つけない、体が熱い、眠りが浅い | 体温が下がりにくい。昼の長い昼寝で悪化 |
| つわり | 気持ち悪くて眠れない、空腹で目が覚める | 妊娠5〜6週ごろから。夜や明け方に強まる人も |
| 頻尿 | 夜中にトイレで起きる、その後眠れない | 妊娠初期から尿がつくられやすくなる |
| 期待と不安 | 考えごとで寝つけない、早く目が覚める | 妊娠が続くかどうかの心配、気分の揺れ |
ホルモンの変化(体が熱い・ほてって眠れない)
妊娠が成立すると、エストロゲンとプロゲステロンの分泌が増えていきます。どちらも妊娠を続けるために欠かせないホルモンです。前の章で説明したとおり、プロゲステロンには体温を高めに保つ作用があり、寝つきの悪さや眠りの浅さにつながります。「妊娠初期に体が熱くて眠れない」「足がほてって眠れない」という悩みは、この作用で説明できることが多いものです。
ただし、ほてりと発熱は分けて考えてください。妊娠初期は基礎体温の高温期が続きますが、基礎体温の上昇と感染症などによる発熱は同じではありません。38℃前後の熱が出ている、寒気や喉の痛み、排尿時の痛みなどほかの症状をともなう、という場合は、感染症など別の原因を考える必要があります。
つわり(気持ち悪くて眠れない)
妊娠初期に眠れない原因として見落とされやすいのが、つわりです。つわりは妊娠5〜6週ごろから始まることが多く、吐き気や胃のむかつき、においへの敏感さが出てきます。「朝のつわり」というイメージがありますが、実際には時間帯を問わず起こり、夕方から夜にかけて強くなる人や、明け方に気持ち悪さで目が覚める人もいます。e-ヘルスネットでも、妊娠初期に睡眠の質を下げる要因として吐き気が挙げられています[3]。
空腹で気持ち悪くなる「食べづわり」のタイプでは、夜中に胃が空になると吐き気が強まり、目が覚めてしまうことがあります。枕元にクラッカーなど少量つまめるものを置いておくと、夜中や起きぬけの気持ち悪さがやわらぐことがあります。反対に、寝る直前にたくさん食べると、胃が張ったり胸やけがしたりして眠りにくくなります。少量ずつ回数を分けて食べるのが基本です。つわりの時期や症状、つらいときの対応はつわり(悪阻)とはで詳しく解説しています。
水分もとれないほど吐いてしまう、尿の量が明らかに減った、体重が急に減ってきた、という場合は、つわりが重症化した妊娠悪阻の可能性があります。眠れないことよりも脱水への対応が先になるので、かかりつけの産婦人科に連絡してください。
頻尿(夜中にトイレで起きる)
妊娠すると、早い時期からトイレが近くなる人がいます。妊娠初期には腎臓を流れる血液の量が増えて尿がつくられやすくなることや、ホルモンの影響で膀胱まわりの筋肉がゆるむことが関係すると考えられています。子宮が大きくなって膀胱を圧迫することによる頻尿は、妊娠超初期よりもう少しあと、子宮が大きくなってから目立ってきます。
夜中に尿意で目が覚めたり、トイレに行ったあと目がさえて眠れなくなったりすることが、不眠につながります。水分を控えすぎると脱水や便秘につながるので、日中にしっかり飲み、寝る前の1〜2時間は量を少し控えるという配分にすると、夜中に起きる回数を減らしやすくなります。トイレに起きたときは、部屋の明かりを全部つけず、足元灯程度の暗い光で済ませると、目がさえにくくなります。
期待と不安・気分の揺れ
妊娠への期待と不安が、眠れない原因になっていることもあります。妊娠超初期は、まだ妊娠検査薬で正しい判定が出ない時期です。妊娠しているかどうかをまだ確定できない時期であり、心理的な緊張や不安が睡眠を妨げることがあります。妊娠がわかったあとも、妊娠経過への不安が強い場合には、寝つきの悪さや中途覚醒につながることがあります。
また、排卵後から生理前にかけてのホルモンの変動は、気分の落ち込みやイライラ、涙もろさといった月経前症候群(PMS)の症状と関わっています。妊娠初期にも似た気分の揺れが起こることがあり、心が落ち着かないまま眠りにくくなる場合があります。
夜中に目が覚める・眠りが浅い・早朝に目が覚めるとき
妊娠初期の眠りの困りごとは、「寝つけない」「夜中に目が覚める」「眠りが浅い」「朝早く目が覚める」の4つに分けると原因と対策を考えやすくなります。このうち妊娠初期に多いのは、夜中に目が覚めることと、眠りが浅いと感じることです。
💡 用語解説:中途覚醒と早朝覚醒
中途覚醒は、いったん眠ったあとに夜中に何度も目が覚め、その後なかなか寝つけない状態です。早朝覚醒は、起きるつもりの時刻よりかなり早く目が覚めて、そのまま眠れない状態を指します。寝つけない「入眠困難」、ぐっすり眠った感じがしない「熟眠障害」とあわせて、不眠のタイプを分けるときに使われる言葉です。
夜中に何度も目が覚める(中途覚醒)
妊娠初期に夜中に目が覚める理由として多いのは、尿意、つわりの気持ち悪さ、体の熱っぽさです。妊娠中は深い睡眠が減り、中途覚醒が増えることが報告されており[3]、少しの刺激でも目が覚めやすくなることがあります。目が覚めたあとに時計を見て「あと何時間しか眠れない」と計算すると、それ自体が緊張を生んで再び寝つきにくくなります。時計は見えない位置に置き、目が覚めても「横になって体を休めているだけでもよい」と考えるほうが、結果的に眠りに戻りやすくなります。
眠りが浅い・夢をよく見る
「眠りが浅い」「夢ばかり見る」という感覚も、深い睡眠が減ることと関係しています。眠りが浅いと、本来は覚えていない夢の途中で目が覚めやすくなるため、夢をよく見るように感じます。妊娠初期には妊娠や出産に関する夢を見る人もいますが、夢の内容が赤ちゃんの状態を表しているわけではありません。眠りが浅い感じが続いても、日中の生活がなんとか回っているなら、妊娠中期に向けて落ち着いていくことが多いものです。
朝早く目が覚めてしまう(早朝覚醒)
朝早く目が覚めてしまう場合、つわりの気持ち悪さや尿意で目が覚めているのであれば、ほかの中途覚醒と同じように考えてよいでしょう。一方で、明け方に目が覚めてから不安なことばかり考えてしまう、それに加えて気分の落ち込みや、何をしても楽しめない感じが続いている、という場合は注意が必要です。早朝覚醒は、うつ病でみられやすい不眠のタイプでもあるためです。妊娠中にもうつ病は起こりえます。こうした状態が続くときは、産科医、精神科医、心療内科医などに相談してください[2]。
妊娠初期に眠れないときの過ごし方

妊娠初期の不眠の多くは一時的なものです。薬に頼る前に、まずは生活の中でできる工夫を試してみましょう。考え方の軸は、前の章で説明した「夜は深部の熱を逃がしやすくする」「昼は眠りをためすぎない」の二つです。
昼寝は短く、早い時間に
妊娠初期の強い眠気を、気合いで我慢する必要はありません。ただし、昼寝は短めにするのがコツです。厚生労働省のe-ヘルスネットでは、短い昼寝は15分程度がよいとされています[5]。長く眠ると深い眠りに入ってしまい、起きたときにかえってぼんやりするうえ、夜の寝つきにも響きます。夕方近くになってからの昼寝も、夜の眠りへの圧力を減らしてしまうので避けたほうがよいでしょう。
仕事をしている人は、昼休みに短く目を閉じるだけでも眠気がやわらぐことがあります。一方で、つわりで日中ほとんど動けない時期には、横になる時間が長くなるのはしかたがありません。その場合も、起きる時刻だけはできるだけ一定にしておくと、体内時計が崩れにくくなります。
ぬるめのお湯で入浴する(長湯・サウナは避ける)
入浴で体の深部の温度がいったん上がり、その後下がっていくことが、寝つきをよくし深い眠りを増やすことがわかっています。e-ヘルスネットでは、40℃程度のお湯に10〜15分ほど浸かり、就寝の1〜2時間前に入浴するのが効果的だとしています[5]。妊娠初期は夜になっても体温が下がりにくい時期なので、この「上げてから下げる」流れをつくることは理にかなっています。
ただし、妊娠の可能性があるときは、熱いお湯での長湯やサウナは避けてください。妊娠初期の母体高体温(maternal hyperthermia)は、赤ちゃんの神経管閉鎖障害(二分脊椎など)のリスク上昇と関連することが、複数の研究をまとめた解析で報告されています[6]。神経管は妊娠のごく早い時期に閉じるため、妊娠に気づく前後の時期がちょうど影響を受けやすい時期にあたります。ぬるめのお湯で、のぼせない程度の時間にとどめておきましょう。立ちくらみが起きやすい時期でもあるので、湯船から出るときはゆっくり立ち上がりましょう。
夜は光を減らし、朝は光を浴びる
夕方から夜にかけて浴びる光は体内時計を遅らせ、寝つきを悪くします。e-ヘルスネットでは、白色LEDなどには体内時計に強く作用するブルーライト(青色光)が多く含まれるため、夜は照明を暗めにしたり暖色系の明かりにしたりすることがすすめられています[5]。スマホやタブレットの画面も同じで、布団の中で画面を見続ける習慣は寝つきを悪くします。寝る前のメールやSNSのチェックは布団に入る前に済ませ、スマホは手の届かない場所に置いておくとよいでしょう。
反対に、朝起きてすぐに光を浴びると、体内時計が早まり、夜の決まった時間に眠くなりやすくなります[5]。体内時計を調整し、夜に眠気をもたらすホルモンであるメラトニンは、朝の光で分泌のリズムが整います。起きたらまずカーテンを開け、日中もできるだけ明るい場所で過ごすことが、遠回りのようで夜の眠りに効いてきます。
食事とメラトニンの材料(つわり中は無理をしない)
メラトニンは、トリプトファンという必須アミノ酸から、セロトニンを経てつくられます。トリプトファンは体内でつくれないため、食事からとる必要があります。卵、納豆・豆腐などの大豆製品、牛乳・ヨーグルトなどの乳製品、かつお、鶏肉、バナナなど、たんぱく質を含む食品に多く含まれています。食べ物だけで不眠が治るわけではありませんが、朝食をとることは体内時計を整えることにもつながります。
ただし、つわりの時期に「眠るために食べなければ」と考える必要はありません。食べられるものを、食べられるときに少しずつとれば十分です。なお妊娠中は、加熱していないナチュラルチーズや生ハムなど、食中毒の原因になりうる食品に注意が必要です。
飲み物はノンカフェインで
カフェインには覚醒作用があり、e-ヘルスネットでは、カフェインを含む飲食物は寝る5〜6時間前から避けることがすすめられています[5]。夕方以降のコーヒー・緑茶・紅茶などは控え、寝る前に何か飲みたいときは、ホットミルクや白湯、麦茶などノンカフェインのものを選びましょう。
カモミールやラベンダーなどのハーブティーを好む人もいますが、ハーブの種類によっては妊娠中の安全性が十分に確かめられていないものもあります。毎日たくさん飲むのは避け、気になる場合は妊婦健診で確認してください。
体を動かし、無理に眠ろうとしない
日中に体を動かすことも、夜の眠りを助けます。e-ヘルスネットでは、妊婦さんでは週1〜3回、20〜60分程度のウォーキングや水泳、マタニティヨガなどが睡眠の改善に役立つ可能性があると紹介されています[3]。ただし妊娠初期は、つわりで体調が安定しないことも多い時期です。妊娠経過に問題がなく、医師から運動を止められていない場合に、散歩程度から体調に合わせて行ってください。
また、眠れないまま布団の中で長く過ごすと、「布団=眠れない場所」という結びつきができ、かえって寝つきが悪くなります。しばらく眠れなければいったん布団を出て、暗めの部屋で静かに過ごし、眠気が来てから戻るほうが、結果的に早く眠れることがあります。「早く寝なければ」と焦るほど目がさえるので、眠れない夜があってもかまわないと考えておくと気持ちが楽になります。
眠れないときに避けたいこと
眠れない日が続くと、何とかして眠ろうとして、かえって妊娠初期には避けたい方法を選んでしまうことがあります。ここでは、特に注意してほしいものをまとめます。
市販の睡眠改善薬・睡眠薬を自己判断で使わない
妊娠の可能性があるときに、市販の睡眠改善薬を自己判断で飲むのは避けてください。ドラッグストアで買える睡眠改善薬の多くは、抗ヒスタミン薬のジフェンヒドラミン塩酸塩を有効成分としています。代表的な製品の添付文書では、「してはいけないこと」として、妊婦または妊娠していると思われる人は服用しないよう明記されています[7]。同じ添付文書では、日常的に不眠の人や不眠症の診断を受けた人も服用の対象外とされており、市販の睡眠改善薬は「一時的な不眠」に限って使う薬という位置づけです。
💡 用語解説:抗ヒスタミン薬と睡眠改善薬
抗ヒスタミン薬は、本来はアレルギーの症状を抑える薬です。脳の覚醒にかかわるヒスタミンの働きも弱めるため、眠気という副作用が出ます。この眠気の作用を利用したのが市販の睡眠改善薬で、医師が処方する睡眠薬とは成分も位置づけも異なります。
一方で、医師が処方する睡眠薬については、日本精神神経学会の資料で、医師と相談して使用する限り赤ちゃんへの影響はほとんどないと説明されています[2]。つまり問題は「薬を使うこと」そのものより、「妊娠の可能性を伝えないまま、自己判断で使うこと」です。眠れない状態が続いてつらい場合は、妊娠の可能性があることを伝えたうえで医師に相談すれば、妊娠中でも使える選択肢が検討されます。すでに持病の治療で睡眠薬や安定剤を飲んでいる人は、妊娠がわかったからといって自己判断で急にやめると、かえって体調を崩すことがあります。やめる前に、処方している医師に相談してください。
寝酒・熱い長風呂・寝る直前のスマホ
寝つきをよくするつもりでお酒を飲むのは、妊娠の可能性があるときは避けてください。アルコールは寝つきを一時的によくしても、深い睡眠を減らして眠りの質を下げます[5]。そもそも妊娠中の飲酒は、赤ちゃんへの影響があるため控えるべきものです。
熱いお湯での長湯やサウナは、先に説明したとおり、妊娠初期には避けたいものです。また、眠れないからと布団の中でスマホを見続けると、画面の光で体内時計が遅れ、ますます眠れなくなります。「眠れないから〇〇する」が、かえって次の夜の眠りを悪くしていないか、一度見直してみてください。
眠れないと流産や赤ちゃんに影響する?
眠れないことが、おなかの赤ちゃんに直接影響したり、流産を引き起こしたりするとは考えにくいです。日本産科婦人科学会によると、妊娠の約15%は自然流産に終わり、妊娠12週未満の早い時期の流産では、赤ちゃん側の問題が最も多い原因です。流産した組織(将来胎盤になる絨毛組織)の染色体を調べると、約80%に異常が見つかったと報告されています[8]。その多くは、卵子や精子ができる過程や受精の段階で偶然に起こるものです。
つまり、早い時期の流産の多くは、受精卵ができた段階で決まっていたと考えられ、お母さんの行動や睡眠が原因になったわけではありません。流産した組織の何割に染色体の変化が見つかるかは、調べた方法や時期によって幅がありますが、妊娠12週未満の流産の半数を超える組織に染色体の変化がみられるという点は、多くの報告で共通しています。どの染色体のどんな変化が多いのかは、下の関連記事で詳しく解説しています。
ただし、睡眠不足が長く続くと、日中のだるさや気分の落ち込みにつながり、お母さん自身がつらくなります。「眠れなかったから流産するのでは」と心配して、それでさらに眠れなくなる必要はありませんが、眠れない状態が何週間も続く、日中の生活に支障が出ている、という場合は、我慢せずに医療機関に相談してください。
🩺 院長コラム【「眠れなかったせい」と自分を責めないで】
早い時期の流産の多くは、受精卵の染色体の変化によって起こり、お母さんの過ごし方で防げるものではありません。眠れない夜があったことと、流産とを結びつけて考える必要はないと考えています。染色体の数の変化は、卵子や精子ができる細胞分裂の過程で偶然に起こるもので、眠り方や生活習慣で起こるものではないからです。
そのうえで、眠れないことへの不安が強いときは、その気持ち自体を妊婦健診で医師や助産師に伝えてよいと考えています。不安の中身がはっきりすると、それだけで夜の考えごとが減ることもあるからです。
生理前の不眠と妊娠初期の違い・妊娠の確かめ方

生理前の不眠と妊娠初期の不眠は、眠れ方だけでは区別できません。どちらもプロゲステロンが高い時期に起こるため、寝つきの悪さ、眠りの浅さ、日中の眠気が共通してみられます。違いが出るのは、その後の経過です。生理前であれば、生理が始まってプロゲステロンが下がると、眠りの問題も落ち着いていくことが多いものです。妊娠していれば、高温期が続き、生理予定日を過ぎても生理が来ません。
🔍 生理前の不眠と妊娠初期の不眠の見分け方
| 項目 | 生理前(黄体期) | 妊娠初期 |
|---|---|---|
| 眠れ方 | 寝つきの悪さ、眠りの浅さ、日中の眠気 | 同じ。眠れ方だけでは区別できない |
| 基礎体温 | 高温期は通常12〜14日で終わる | 高温期が通常より長く続き、生理が来ない状態 |
| その後の経過 | 生理が始まると落ち着くことが多い | 生理が来ず、つわりなどが加わることも |
| 確かめ方 | 生理が来るかどうか | 生理予定日の1週間後以降に妊娠検査薬 |
※基礎体温の日数は女性の健康推進室 ヘルスケアラボの解説[4]による目安です。
目安のひとつになるのが基礎体温です。基礎体温は、生理開始から排卵までの低温期と、排卵後から次の生理までの高温期に分かれます。排卵後はプロゲステロンの働きで、低温期より0.3〜0.5℃ほど体温が上がった高温期に入り、通常は12〜14日続きます。高温期が通常より長く続き、生理が来ない場合は、妊娠の可能性があります[4]。
ただし、これはあくまで可能性を示すもので、妊娠を確実に示すものではありません。基礎体温がはっきり二相に分かれない場合(無排卵の疑い)や、高温期が短い場合(黄体機能不全の疑い)は、基礎体温から妊娠を判断するのは難しくなります[4]。妊娠を正しく確かめるには、生理予定日の1週間後を目安に妊娠検査薬を使うか、医療機関で検査を受けましょう。妊娠検査薬で陽性になったら、子宮の中に正常に妊娠しているかを確かめるために産婦人科を受診してください。
受診を考える目安
妊娠初期の不眠の多くは一時的で、妊娠中期に向けて落ち着いていきます。ただし、次のような場合は、生活の工夫だけで様子を見るのではなく、医療機関に相談してください。
⚠️ 医療機関に相談したほうがよいサイン
・眠れない状態が何週間も続き、日中の生活や仕事に支障が出ている
・気分の落ち込み、何をしても楽しめない感じ、強い不安が続いている
・大きないびきをかく、眠っている間に呼吸が止まっていると言われた
・夕方から夜に脚がむずむずして、じっとしていられず眠れない
・つわりで水分もとれない、尿の量が減った、体重が急に減った
・38℃前後の発熱、強い腹痛、出血など、眠れないこと以外の症状がある
眠っている間に呼吸が止まったり浅くなったりをくり返す睡眠時無呼吸症候群や、脚に不快な感覚が出てじっとしていられなくなるむずむず脚症候群は、妊娠中に起こりやすくなる睡眠障害です[3]。どちらも妊娠初期より、お腹が大きくなる妊娠中期以降に目立ちやすいものです。むずむず脚症候群は鉄分の不足が主な原因の一つとされており[3]、妊婦健診の血液検査で貧血がわかることもあります。
💡 用語解説:むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)
夕方から夜にかけて、脚の奥に「むずむずする」「虫がはうような」といった不快な感覚が出て、脚を動かさずにいられなくなる病気です。じっとしていると強まり、動かすと一時的に楽になるのが特徴で、寝つきを妨げます。妊娠中、特に後期に起こりやすく、鉄分の不足が関係します。多くは出産後に軽くなります。
相談先は、まずはかかりつけの産婦人科です。気分の落ち込みや不安が強い場合は、精神科や心療内科に相談することもすすめられています[2]。いびきや呼吸の停止が気になる場合は睡眠外来も選択肢です。どこを受診する場合も、妊娠していること(またはその可能性があること)を最初に伝えてください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 妊娠超初期に眠れないのは妊娠のサインですか?
妊娠超初期に眠れなくなる人はいますが、生理前にもプロゲステロンの影響で眠りが浅くなることがあるため、眠れないことだけで妊娠かどうかは判断できません。高温期が通常より長く続き、生理が来ない状態かどうかや、生理予定日の1週間後以降の妊娠検査薬で確かめましょう。
Q2. 妊娠初期に夜中に何度も目が覚めるのはなぜですか?
妊娠中は深い睡眠が減り、中途覚醒が増えることに加え、プロゲステロンの作用で体温が高めに保たれて寝苦しいこと、尿がつくられやすくなって夜中にトイレに起きること、つわりの気持ち悪さ、妊娠への不安などが重なると考えられます。昼寝が長すぎると夜に眠りにくくなるため、昼寝は短めにしましょう。
Q3. 眠れないと赤ちゃんに影響したり、流産したりしますか?
不眠が赤ちゃんに直接影響したり、流産の原因になったりするとは考えにくいです。妊娠12週未満の流産で最も多い原因は受精卵の染色体の異常で、その多くは偶然に起こります。ただし、眠れない状態が長く続いて日中の生活や気分に影響が出ている場合は、医療機関に相談しましょう。
Q4. 眠れないときに睡眠薬や市販の睡眠改善薬を飲んでもいいですか?
市販の睡眠改善薬は、添付文書で妊婦または妊娠していると思われる人は服用しないよう記載されているものがあるため、自己判断で飲むのは避けてください。医師が処方する睡眠薬は、妊娠していることを伝えたうえで相談すれば、使える選択肢が検討されます。持病で服用中の薬は、自己判断でやめずに処方医に相談しましょう。
Q5. 妊娠超初期の不眠で赤ちゃんの性別はわかりますか?
わかりません。眠れない、眠いといった妊娠中の症状の出方と、赤ちゃんの性別との関係は確かめられていません。症状の出方には個人差が大きく、同じ人でも妊娠ごとに違うことがあります。
Q6. 妊娠初期の不眠はいつまで続きますか?
個人差がありますが、ホルモンの変化に体が慣れ、つわりが落ち着いてくる妊娠中期には、眠りが比較的安定する人が多いとされています。妊娠後期になると、お腹が大きくなることや頻尿、こむら返りなどで、再び眠りにくくなることがあります。
Q7. 妊娠初期に暑くて眠れないときはどうすればいいですか?
妊娠初期はプロゲステロンの作用で体温が下がりにくいため、寝室の温度を少し低めにする、通気性のよい寝具やパジャマにする、就寝1〜2時間前にぬるめのお湯で入浴して体温が下がる流れをつくる、といった工夫が役立ちます。熱いお湯での長湯やサウナは避けてください。38℃前後の発熱がある場合は、ほてりとは別に考えて医療機関に相談しましょう。
まとめ

妊娠初期・超初期に眠れなくなるのは、めずらしいことではありません。プロゲステロンには日中の眠気を招く作用と、体温を上げて深い睡眠を減らす作用があり、そこにつわり、夜間の頻尿、妊娠への期待と不安が重なることで、「昼は眠いのに夜は眠れない」「夜中に何度も目が覚める」という状態が起こります。生理前にも似た変化が起こるため、眠れないことだけで妊娠かどうかは判断できず、基礎体温や妊娠検査薬で確かめることになります。
眠れない日が続くときは、昼寝を短くする、就寝1〜2時間前にぬるめのお湯で入浴する、夜は光を減らし朝は光を浴びる、夕方以降はノンカフェインにする、といった工夫を試してみてください。市販の睡眠改善薬は自己判断で使わず、つらいときは妊娠していることを伝えたうえで医師に相談しましょう。不眠が流産の原因になるとは考えにくく、早い時期の流産の多くは受精卵の染色体の変化によるものです。そのほかの妊娠超初期の変化は、妊娠超初期の症状チェックリストで確認できます。
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参考文献
- [1] Sedov ID, Cameron EE, Madigan S, Tomfohr-Madsen LM. Sleep quality during pregnancy: a meta-analysis. Sleep Med Rev. 2018;38:168-176. [PubMed 28866020]
- [2] 妊娠中・出産後に「眠れなく」なった方のためのQ&A. こころの不調や病気と妊娠・出産のガイド. 公益社団法人 日本精神神経学会. [日本精神神経学会]
- [3] 三島和夫. 女性の睡眠障害. e-ヘルスネット. 厚生労働省. [e-ヘルスネット]
- [4] 基礎体温. 女性の健康推進室 ヘルスケアラボ. [ヘルスケアラボ]
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