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CPM(限局性胎盤モザイク)診断の最新エビデンス | 羊水穿刺検査の有効性とNIPTとの関連

重要なポイント: 16週での羊水穿刺検査で胎児の核型が正常であれば、CPMを否定できるという従来の見解は最新の研究でも支持されています。科学的エビデンスに基づく適切な検査と診断の流れについてご説明します。

CPM(限局性胎盤モザイク)とは

CPM(Confined Placental Mosaicism:限局性胎盤モザイク)とは、胎盤の細胞に染色体異常が見られるものの、胎児自体の染色体は正常である状態を指します。これは絨毛採取(CVS)などで偶然発見されることが多く、妊娠管理に影響を与える重要な所見となります。

CPMには主に3つのタイプがあります:

  • タイプI:細胞栄養膜(直接調製)にのみ異常が見られる
  • タイプII:間葉系細胞(培養後)にのみ異常が見られる
  • タイプIII:細胞栄養膜と間葉系細胞の両方に異常が見られる

CPMの診断における羊水穿刺検査の役割

診断プロトコルの妥当性

● 絨毛採取(CVS)で染色体異常が検出された場合、羊水穿刺による胎児核型の確認が標準的な手順とされています。

● 羊水細胞の核型が正常であれば、胎盤に限定されたモザイク(CPM)と診断され、胎児自体は正常と判断されます。

● この診断プロトコルは複数の研究によって妥当性が確認されており、現行の産婦人科診療において確立された方法です。

絨毛採取で染色体異常が見つかった場合、それが胎盤のみに限局しているのか(CPM)、あるいは胎児にも影響しているのかを判別することが重要です。この判別において、羊水穿刺検査は決定的な役割を果たします。

CPM診断の流れ

CPMの胎児への影響

● CPMは胎盤機能不全(子宮内発育遅延・低出生体重など)のリスク要因ではあるものの、胎児の染色体異常を伴わない限り、先天性疾患の直接的な原因とはなりません

● 特にトリソミー16のCPMでは、羊水検査で胎児核型が正常でも、34%の症例で出生体重<3パーセンタイル、54%で<10パーセンタイルとの報告があります。

● このため、CPMと診断された場合でも、超音波による胎児発育の慎重な経過観察が必要となります。

CPMの臨床的影響は、染色体異常の種類や胎盤におけるモザイクの割合、胎児への影響の程度によって異なります。主な影響は以下の通りです:

  • 胎盤機能不全:胎盤の血流低下により、胎児への栄養供給が不十分になる可能性
  • 子宮内発育遅延(IUGR):胎児の成長が標準より遅れる状態
  • 低出生体重児:正期産でも体重が標準より少ない状態
  • 妊娠高血圧症候群:一部のCPMで発症リスクが上昇

例外ケースと追加検査の必要性

稀なケースと追加検査

● 稀に胎盤モザイクが胎児の一部組織に波及する「真の胎児モザイク(TFM)」の可能性がありますが、羊水検査の精度は98%以上とされ、見逃しリスクは極めて低いと評価されています。

● 染色体6・7・15・16番のCPMでは片親性ダイソミー(UPD)の追加検査が推奨されますが、これらは羊水検査とは別の遺伝学的検査で判定されます。

UPD(片親性ダイソミー)とは、通常は父親と母親の両方から1本ずつ受け継ぐはずの染色体が、どちらか一方の親からのみ2本受け継がれる状態です。特定の染色体でUPDが生じると、インプリンティング異常や劣性遺伝子疾患のリスクが高まる可能性があります。

主にUPDが懸念される染色体と関連する症候群:

  • 染色体7:Silver-Russell症候群(母親性UPD)
  • 染色体11:Beckwith-Wiedemann症候群(父親性UPD)
  • 染色体14:Temple症候群(母親性UPD)、Kagami-Ogata症候群(父親性UPD)
  • 染色体15:Prader-Willi症候群(母親性UPD)、Angelman症候群(父親性UPD)

結論:16週羊水穿刺検査の有効性

現行の診断フロー(CVS異常→羊水検査で胎児核型確認)は科学的に妥当であり、16週時点の羊水検査で正常核型が確認されればCPMを否定する根拠として十分です。ただし、CPM自体が妊娠合併症リスクを高めるため、超音波による胎児発育の厳重な経過観察が必要です。

羊水穿刺検査は胎児の染色体異常を高い精度で検出できる検査法です。16週での検査は胎児の細胞を直接分析するため、CPMが胎児に影響しているかどうかを確実に判定できます。最新の研究においても、この診断方法の信頼性は支持されており、臨床現場での標準的なプロトコルとして確立されています。

まとめ

  • ● CPM(限局性胎盤モザイク)は胎盤の細胞にのみ染色体異常が見られる状態です
  • ● 絨毛採取で染色体異常が見つかった場合、羊水穿刺検査による胎児の染色体確認が標準的な手順です
  • ● 16週での羊水穿刺検査で胎児の核型が正常であれば、CPMと診断でき、胎児の染色体は正常と判断できます
  • ● CPMでは胎盤機能不全のリスクがあるため、超音波による胎児発育の慎重な経過観察が必要です
  • ● 特定の染色体(6、7、15、16番など)でCPMが見られる場合は、UPD(片親性ダイソミー)の追加検査が推奨されます

参考文献

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  7. 日本産科婦人科学会. 産婦人科診療ガイドライン 産科編 2023. 日本産科婦人科学会.
  8. 日本医学会. 遺伝学的検査に関するガイドライン. 2021.
  9. 厚生労働省. 母子保健医療対策総合研究事業. www.mhlw.go.jp/
  10. 国立成育医療研究センター. 胎児診断科. www.ncchd.go.jp/

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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