この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

脊髄小脳変性症8型(SCA8)は、遺伝性脊髄小脳変性症のひとつで、ATXN8OSとATXN8という2つの遺伝子が重なる場所の繰り返し配列(リピート)が長くなって起こります。脊髄小脳変性症の遺伝のなかでも、SCA8はリピートが長くなっていても発症しない人が多いという、少し珍しい特徴をもつ型です。そのため「親が発症していないのに子が発症した」「祖父母の代から飛んだように見える」ということも起こります。生まれ持った遺伝子は一生変わりません。ご自身がリピート伸長をもっているかを一度知っておくと、仕事・結婚や出産・住まいなど、これからの計画を立てる手がかりになります。このページでは、子どもや孫に遺伝する確率、結果の読み方、当院で受けられる2種類の検査の選び方を、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. この検査で何がわかりますか?
SCA8の原因となるATXN8OS・ATXN8のリピートが長くなっているかを調べます。ご家族に脊髄小脳変性症8型の方がいる場合、ご自身が同じ変化を受け継いでいるかがわかります。ただし、リピート伸長があっても、発症するかどうか・いつ発症するかは予測できません。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
ご家族がSCA8と診断されていて、ご自身も受け継いでいるか知りたい方、ふらつき・ろれつの症状があり型を確かめたい方、結婚や妊娠を前に子どもに遺伝する確率を知りたい方です。型がわからない場合は、運動失調リピート伸長パネルが向いています。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
ATXN8OSだけの検査は税込275,000円、ATXN8とATXN8OSの2遺伝子の検査は税込330,000円で、結果まではどちらも約2週間です。検体は血液・唾液・口の内側の粘膜などで、オンライン診療でも受けられます。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。リピート伸長が見つかった場合、お子さんに受け継がれる確率は2分の1です。ご家族の検査、出生前診断(当院で絨毛検査・羊水検査)、海外でのPGT-Mに使える英語の報告書についてもご相談いただけます。
1. 脊髄小脳変性症8型(SCA8・脊髄小脳失調症8型)とは
脊髄小脳変性症8型(SCA8)は、リピートが長くなっていても発症しない人が多い型です。発症した場合は、歩くときのふらつきや、ろれつが回りにくいことから始まり、ゆっくり進むことが多いとされています[1]。原因は13番染色体の長腕(13q21)にある繰り返し配列で、1999年に新しい型として報告されました[2]。
SCA8は、英語のspinocerebellar ataxia type 8に対応する病名で、日本語では「脊髄小脳変性症8型」とも「脊髄小脳失調症8型」とも呼ばれます。日本の指定難病の名前は「脊髄小脳変性症」です。小脳や脊髄などの神経がゆっくり弱っていく病気をまとめた呼び名で、原因の遺伝子によって「〇型」と番号がついています。
症状と、発症する年齢
遺伝性疾患の解説書GeneReviewsによると、SCA8の発症は20代〜40代に多く、1歳未満から60歳を超えてからまで幅があります。寿命は通常短くならないとされています[1]。主な症状は次のとおりです[1]。
- ●歩行と手足の運動失調:歩くときのふらつき、手足の動きのぎこちなさ
- ●構音障害:ことばが途切れ途切れになり、ゆっくり引き延ばしたような話し方になる(最初の症状として多い)
- ●目の動きの異常:眼振(目が細かく揺れる)、ものを追う目の動きの異常など
- ●認知の症状:段取りを立てて行動する力(実行機能)の低下、考えや動作がゆっくりになるなど
頭部のMRIやCTでは、小脳(小脳半球と虫部)の萎縮がみられるとされています[1]。症状だけで「何型か」を見分けるのは難しく、型を確かめるには遺伝子検査が必要です。
原因:ATXN8OSとATXN8が重なる場所の繰り返し配列
SCA8の原因は、ATXN8OSとATXN8という2つの遺伝子が、DNAの表と裏で重なっている場所にある繰り返し配列(CTA/CTG・TAG/CAG)が長くなることです[1]。同じ場所を、片方の鎖から読むとATXN8OSのCTGリピート、反対の鎖から読むとATXN8のCAGリピートになります。
GeneReviewsによると、ATXN8OSから作られるCUGリピートをもつRNAは、RNAそのものが細胞に害を与える仕組みに関わり、ATXN8から作られるCAGリピートのRNAからは、グルタミンが長く連なったタンパク質(ポリグルタミン病と同じ種類の変化)が作られると考えられています[1]。開始の目印を使わずにタンパク質が作られるRAN翻訳など、ほかの仕組みも研究されています。小脳のプルキンエ細胞など、運動の調節に関わる神経が影響を受けると考えられています。
💡 用語解説:リピート伸長
DNAの中で、3文字の並び(例:CTG)が何回もくり返されている場所を「繰り返し配列(リピート)」といいます。この回数が普通より多くなることを「リピート伸長」といい、SCA8のほかにハンチントン病や筋強直性ジストロフィーなどもこの仕組みで起こります。遺伝子の文字が1つ変わる変化とは違い、「長さ」の変化なので、測るには専用の方法が必要です。くわしくはリピート伸長病(トリプレットリピート病)とはをご覧ください。
日本での頻度と指定難病(2026年10月時点)
脊髄小脳変性症は指定難病18「脊髄小脳変性症(多系統萎縮症を除く)」に含まれます。難病情報センター(情報更新:令和7年12月)によると、医療受給者証をもつ方は25,447人(平成24年度)で、平成15年の調査では孤発性(家族に同じ病気の人がいない)が67.2%、常染色体顕性(優性)遺伝性が27%、常染色体潜性(劣性)遺伝性が1.8%でした。同じページでは、日本で頻度が高い遺伝性の型はSCA3(マシャド・ジョセフ病)・SCA6・SCA31・DRPLAとされています(2026年10月時点で確認)。
SCA8は、日本では多い型ではありません。日本の運動失調症の方797人を調べた研究(厚生労働科学研究の報告書、平成29年度)では、SCA8のリピート伸長が見つかったのは14人(1.76%)でした。海外では、SCA8は常染色体顕性遺伝の運動失調症の2〜5%を占めると考えられています[1]。一方で、50回を超えるリピートは、さまざまな集団で染色体100〜1,200本に1本ほどの割合で見つかるとされ[1]、症状のない方がもっていることも珍しくありません。
医療費の助成を受けるには、診断基準と重症度の条件を満たし、申請する必要があります。くわしくは難病情報センターや、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。
2. 脊髄小脳変性症8型は遺伝する?子ども・孫に伝わる確率
SCA8は常染色体顕性(優性)遺伝で、リピート伸長をもつ親から子へ伝わる確率は、お子さん1人ごとに2分の1です。ただし、受け継いでも発症するとは限りません[1]。「遺伝する確率」と「発症する確率」が大きく違うことが、SCA8のいちばんの特徴です。
親から子へは2分の1。受け継いでも発症するとは限らない
常染色体顕性(優性)遺伝では、対になった2本の染色体のうち1本にリピート伸長があれば、その1本が子に伝わるかどうかは毎回2分の1です。性別には関係せず、上のお子さんが受け継いだかどうかで、下のお子さんの確率が変わることもありません。きょうだいの場合も、親がリピート伸長をもっていれば、1人ごとに2分の1です[1]。
一方でSCA8は、リピート伸長をもっていても発症しない人が多い病気です。原因をもっていても発症しない人がいることを、浸透率が100%ではない(不完全浸透)といいます。GeneReviewsは、どの長さのリピートでも浸透率の低下がみられるとしています[1]。そのため、ご家族の中で発症した方がSCA8の最初の1人のように見えることもよくあります。
父親から・母親から伝わるとき:リピートが伸びやすい・縮みやすい
「父親から遺伝するのか」というご質問への答えは、「父親からも母親からも、同じ2分の1の確率で伝わる」です。違いが出るのは、伝わるときのリピートの長さの変わり方です。GeneReviewsによると、SCA8のリピートは母親から伝わるときに長くなりやすく、父親から伝わるときに短くなりやすいとされています。父親から伝わる場合は、発症しにくい長さまで短くなることもあると記載されています[1]。
リピートの長さが世代を経て変わり、子の世代で早く・重く出やすくなることを表現促進現象といいます。SCA8では、母親から伝わるときに長くなりやすい点が特徴です(母親から伝わるときにリピートが長くなりやすい例としては、筋強直性ジストロフィー1型のCTGリピートがあります)。ただしSCA8では、リピートの長さと発症の年齢・重さとのあいだに、はっきりした関係は見られていません[1]。「長くなったから必ず早く重く出る」とは言えないことも覚えておいてください。
孫への確率と「隔世遺伝」に見える理由
お孫さんへの確率は、間の世代(お子さん)がリピート伸長を受け継いでいるかどうかで決まります。お子さんが受け継いでいなければ、そのお子さんの系統からお孫さんへ伝わることはありません。お子さんが受け継いでいれば、お孫さん1人ごとに2分の1です。つまり、祖父母がSCA8の場合、まだ誰も検査を受けていない段階では、お孫さんが受け継いでいる確率は4分の1(2分の1×2分の1)と計算できます。
SCA8では、受け継いでいても発症しない人が多いため、「祖父が発症し、父は元気で、孫が発症した」というように、世代を飛ばして遺伝したように見えることがあります。実際には、元気に見える親の世代もリピート伸長をもっていて、それが次の世代に伝わっています。GeneReviewsも、伝えた親に症状があることもないこともある、としています[1]。家族に同じ病気の人が見当たらないからといって、SCA8を否定することはできません。
リピートの数の表:正常・意味がはっきりしない範囲・発症した人に見つかる範囲
🧬 SCA8のリピートの数(ATXN8OS/ATXN8のCTA/CTG・TAG/CAGをあわせた数)
※GeneReviews[1]による。ある家系では、発症した方のリピートは平均117回、発症していない血縁者は平均92回で、90回を超える長さは運動失調症の方に多く見つかるとされています。ただし、リピートの数から、症状のない方が将来発症するかどうかを予測することはできません[1]。
3. どんな人がこの検査を受けるとよいか
ご家族がSCA8と診断されていて、ご自身も受け継いでいるか知りたい方、症状があって型を確かめたい方、結婚や妊娠を前にお子さんへの影響を知りたい方に向く検査です。あなたの1回の検査結果は、ご両親・きょうだい・お子さんが自分のことを考える手がかりにもなります。
ご家族にSCA8の方がいて、ご自身も同じ変化をもっているか知りたい方
ご家族でSCA8のリピート伸長がわかっている場合、ほかのご家族は同じ場所を調べることで、受け継いでいるかどうかを確かめられます。症状のない方が受ける検査は「発症前の検査(予測的検査)」になります。SCA8では、リピート伸長がわかっても発症するかどうか・いつ発症するかは予測できない[1]ことを理解したうえで受けていただくことが大切です。考え方は第7章でくわしくご説明します。
ふらつき・ろれつの症状があり、型を確かめたい方
歩くときのふらつき、ろれつの回りにくさ、目の揺れなどがあり、脊髄小脳変性症が疑われる方です。GeneReviewsは、家族に顕性遺伝の病歴がないことを理由にSCA8を否定してはいけないとしています[1]。ご家族の診断名がSCA8とわかっている場合は、この検査で直接確かめられます。
結婚・妊娠を考えていて、子どもに遺伝するかが心配な方
結婚するか、子どもを持つかは、その人の生き方そのものに関わる大きな選択です。ご自身がリピート伸長をもっているかどうかを妊娠の前に知っておくと、お子さんに伝わる確率を具体的に考えられ、妊娠したときの出生前診断などの選択肢も計画できます。GeneReviewsは、ご家族でリピート伸長がわかっていれば、出生前検査や着床前検査が可能としています[1]。くわしくは第6章でご説明します。
「自分もなるかもしれない」という不安を抱えながら暮らしている方へ
親やきょうだいが発症するのを見てきた方のなかには、少しつまずいただけ、ことばが少しもつれただけで「始まったのでは」と感じながら暮らしている方もいます。こうした不安を抱えるのは、決して特別なことではありません。
検査で、ご家族の原因のリピート伸長を受け継いでいないとわかれば、GeneReviewsはその方をSCA8の発症リスクがある人には当たらないとしています[1]。つまり、SCA8については、ご家族と同じ確率を心配する必要はなくなります(ほかの病気や、ほかの型の脊髄小脳変性症まで否定されるわけではありません)。受け継いでいるとわかった場合も、発症しない人が多い型であること、見張りや生活の計画など次にできることがあること(第6章)をお伝えします。知らないでいることも選べます。検査の前後で、臨床遺伝専門医と時間をかけて考えていただけます。
この検査より別の検査が向いている場合
ご家族の型がSCA8とわかっているなら、まずこの検査です。型がわからない場合は、リピート伸長をまとめて調べる検査が向いています。リピート伸長は、遺伝子の配列を読む一般的なパネル検査やエクソーム検査では見つけられないとされています[1]。
🔍 症状・ご家族の状況に合わせた検査の選び方
※どの検査が合うかは、症状・診察所見・ご家族の情報で変わります。遺伝カウンセリングで一緒に決めましょう。
4. 2種類の検査:ATXN8OSだけか、ATXN8とATXN8OSの両方か
当院では、SCA8の検査を2種類ご用意しています。どちらも、SCA8の原因となるリピートの場所を同じ方法(リピートプライムドPCR法とPCR産物の長さの解析)で調べます。SCA8の原因のリピートは、ATXN8OSとATXN8が重なっている1か所にあるとされています[1]。違いは、検査の対象として挙げる遺伝子が1つか2つかと、料金です。
🧪 SCA8の2種類の検査
※遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)は検査料とは別にかかります。
どちらを選ぶかは、ご家族ですでにわかっている結果と、調べたい範囲で決めます。ご家族の結果報告書があれば、遺伝カウンセリングで拝見し、ご家族と同じ形の検査を選ぶのが基本です。ご家族の検査の内容がわからない場合や、ATXN8とATXN8OSの両方を対象とした報告書を希望される場合は、2遺伝子の検査を選べます。迷ったときは、遺伝カウンセリングで一緒に決めましょう。
この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、SCA8の原因となるリピートが長くなっているかどうかです。一方で、遺伝子検査には必ず限界があります。
- ●発症の予測はできません:リピート伸長が見つかっても、症状のない方が将来発症するかどうか、いつ・どの程度発症するかは予測できません[1]。
- ●正確な回数が出ないことがあります:リピートがとても長い場合は、正確な回数まではわからないことがあります。
- ●調べていないこと:遺伝子の配列を読む検査(シーケンス)や、遺伝子の一部が欠けたり増えたりしていないかの検査、メチル化の検査は含まれていません。
- ●モザイクと腫瘍の組織:体の一部の細胞にだけ変化がある状態(モザイク)を見つけることは目的としておらず、腫瘍の組織の検査には使えません。
- ●ほかの型の脊髄小脳変性症はわかりません:この検査で調べるのはSCA8だけです。SCA8でなかった場合でも、ほかの型の可能性は残ります。
- ●調べた目的と別の病気が見つかったとき:この検査はSCA8のリピートに絞って調べるものですが、当院の結果の伝え方の考え方は二次的所見の開示方針にまとめています。
5. 結果の読み方:SCA8は結果の解釈がとくに難しい型
SCA8の結果は、「リピート伸長があるか・ないか」だけでなく、症状の有無・ご家族の情報とあわせて読む必要があります。結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。
リピート伸長が見つかったとき
症状がある方では、ほかの原因が除かれていれば、SCA8の診断を支える結果になります。ただ、SCA8の長さのリピートは症状のない方にも見つかるため[1]、症状の特徴やご家族の情報とあわせて、ほかの型や病気の可能性も含めて判断します。
症状のない方では、SCA8のリピート伸長を受け継いでいることがわかりますが、将来発症するかどうか、いつ・どの程度発症するかは予測できません[1]。お子さんに伝わる確率は2分の1です。
意味がはっきりしない範囲(51〜70回)だったとき
GeneReviewsは、51〜70回のリピートの臨床的な意味は、今のところはっきりしないとしています[1]。こうした結果は、それだけで診断に使ったり、ご家族の検査の根拠にしたりはしません。遺伝子の配列の変化で意味がわからないものをVUS(意義がまだわからない変化)と呼ぶのと同じように、研究が進んで意味がはっきりすることもあります。結果をどう受け止めればよいかは、遺伝カウンセリングでご説明します。
リピート伸長が見つからなかったとき
ご家族のリピート伸長がわかっていて、ご自身では見つからなかった場合は、SCA8については、ご家族と同じ確率を心配する必要はなくなります[1]。お子さんにSCA8が伝わることもありません。
症状があって受けた方で見つからなかった場合は、SCA8の可能性は低くなりますが、ほかの型の脊髄小脳変性症の可能性は残ります。症状やご家族の情報に合わせて、運動失調リピート伸長パネルや、SCA1・SCA2・SCA3・SCA6・SCA7・SCA10・SCA12・SCA17・SCA27B・SCA31・SCA36・DRPLAの検査、遺伝子パネル検査を考えます。
6. 病的なリピート伸長が見つかったら、次にできること
SCA8には、今のところ病気そのものを治す治療はありません。それでも、わかったあとにできることはあります[1]。読む方の立場ごとにまとめます。当院は治療を行っていないため、治療やリハビリは専門の医療機関で受けていただきます。
症状がある方:見張り・リハビリ・転倒予防
- ●リハビリ:GeneReviewsは、理学療法・作業療法、歩行を助ける道具、住まいの工夫、ことばの訓練(言語療法)、飲み込みの評価、体を動かす習慣を勧めています[1]。
- ●定期的な診察:年に1回ほど、運動失調の程度を決まった尺度で評価する神経の診察が勧められています[1]。
- ●避けたいもの:アルコールは避けるよう勧められています[1]。
- ●日本で使われている薬:難病情報センターによると、日本では失調症状全般に、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)やTRH誘導体が使われています(2026年10月時点で確認)。使えるかどうかは神経内科の主治医にご相談ください。
- ●制度:脊髄小脳変性症は指定難病18に含まれます。条件を満たせば、医療費の助成を受けられます(第1章)。
症状のない方:仕事・運転・住まいの計画
リピート伸長を受け継いでいるとわかっても、SCA8は発症しない人が多い型です[1]。そのうえで、気になる症状が出たときに早く気づけるよう、神経内科で相談できる先を決めておくこと、アルコールを控えることは、今日からできます。先が見えないまま過ごすより、わかったうえで、仕事・運転・住まい・ご家族の介護の準備など、これからの人生を計画したいと考える方もいます。英国でハンチントン病の発症前の検査を受けた人が挙げた理由で最も多かったのは「不確実さを減らすため」(70.5%)でした[3]。病気は違いますが、「知って計画を立てたい」という思いはSCA8のご家族にも通じるものだと考えています。
治験・研究(2026年10月時点)
GeneReviewsは、SCA8に特有の治療は今のところないとしています[1]。脊髄小脳変性症の遺伝子治療や新しい薬は研究の段階です。GeneReviewsは、SCA8を含むいくつかの型を対象に、トロリルゾール(troriluzole)の第3相臨床試験が行われたことを記載しています[1]。この薬について、米国食品医薬品局(FDA)は2025年11月4日付で、脊髄小脳変性症の治療薬として「有効性の十分な証拠が示されていない」として、現在の申請のままでは承認できないと判断しています。研究や治験の状況は時期によって変わるため、最新の情報は神経内科の主治医にご確認ください。
ご家族の検査:きょうだい・親・お子さん
ご家族の中でリピート伸長がわかっていると、ほかのご家族は同じ場所を調べることで、受け継いでいるかを確かめられます。症状のないご家族の検査は発症前の検査になるため、ご本人の同意のうえで、検査の前に遺伝カウンセリングで、知ることの意味をよく考えていただきます。なお、日本医学会の「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」(2022年3月改定)は、成年期以降に発症する病気の未成年者への発症前の検査は、原則として本人が成人し自分で判断できるまで延期すべきとしています。GeneReviewsも、症状のない未成年者の検査は一般に適切でないとしています[1]。お子さんの検査は、この考え方を踏まえてご相談ください。
子どもを持つときの選択肢
ご家族でリピート伸長がわかっていれば、妊娠したときに赤ちゃんが同じ変化を受け継いでいるかを調べられます。GeneReviewsは、出生前検査と着床前検査(PGT)が可能としたうえで、出生前の結果からは、赤ちゃんが将来発症するかどうかは予測できないとしています[1]。子どもを持つときの選択肢には、次のようなものがあります。
- ●自然に妊娠して出生前診断を受ける:妊娠中に絨毛検査や羊水検査で赤ちゃんの細胞を調べます。成人してから発症し、発症しない人も多い病気の出生前診断をどう考えるかは、ご夫婦によって違います。妊娠を考えている段階からご相談ください。
- ●PGT-M(着床前遺伝学的検査):体外受精でできた受精卵を調べる方法です。日本では日本産科婦人科学会の審査を経て行われ、海外で受ける方もいます(次の節)。当院は体外受精・PGT-Mを行っていません。
- ●何もしないで産む:検査を受けずに妊娠・出産することも、そのまま選べる選択肢です。
ご家族で原因の遺伝子の変化がわかっていれば、妊娠したときに赤ちゃんで同じ変化があるかを調べられます。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。ATXN8OS・ATXN8は、当院のNIPT(ダイヤモンドプラン・インペリアルプラン)の対象遺伝子には入っていません。
海外でPGT-M(着床前遺伝学的検査)を考えている方へ:英語の検査結果をお渡しできます
PGT-Mは、体外受精でできた受精卵(胚)の一部の細胞を調べ、ご家族でわかっている遺伝子の変化を受け継いでいない胚を選んで子宮に戻す検査です。当院は体外受精・PGT-Mを行っていません。当院でできるのは、原因の確定、英語の検査結果の用意、遺伝カウンセリング、ご家族の遺伝子検査、妊娠後の絨毛検査・羊水検査です。結果は基本的に日本語版でお渡ししていますが、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。
欧州ヒト生殖学会(ESHRE)の指針は、PGT-Mの準備として、①病気の原因と確かめられた遺伝子の変化があること、②どの遺伝子のどの変化かが書かれた元の報告書(認定を受けた検査室のもの)、③ご家族の検体、を挙げています[4]。受精卵から取れるDNAはごくわずかで、変化を直接読むだけでは、2本あるうちの片方が読み取れない「アレルドロップアウト」などで判定を誤るおそれがあります。そのため、変化のある場所の両側にある目印(多型マーカー)で「変化をもつ染色体」を家系の中でたどる方法(ハプロタイプ解析)を組み合わせます。顕性遺伝の病気では、発症した方少なくとも1人(できれば2人)、および/または発症していない方1人の検体が目安とされています[4]。
ご本人の検査結果だけでは、PGT-Mの準備はふつう整いません。血縁者の検体が得られない場合の方法も指針には挙げられていますが[4]、できるかどうかは施設や家系の状況で大きく変わり、受けられないこともあります。くわしくはPGT-Mはなぜ本人だけでは検査できないのかで解説しています。海外でPGT-Mを考えている方は、ご本人の検査の段階から、検査に協力していただけるご家族(とくに同じ変化をもつ方)がいるかを考えておくことが大切です。当院では、ご家族の遺伝子検査も、遺伝カウンセリングのうえでお受けしています。
臨床遺伝専門医としての判断として、SCA8では、受け継いでいても発症していないご家族が多いため、「発症していない方」が実はリピート伸長をもっていることがあります。どなたの検体を使えるかは、ご家族の検査結果を確かめてから考える必要があります。51〜70回のような意味がはっきりしない結果は、そのままPGT-Mの対象にするのは難しいと考えます。海外の施設によって求められる書類や検体は違うので、受ける予定の施設にも前もって確認してください。
⚠️ PGT-Mは診断ではなく、スクリーニング検査です
PGT-Mは受精卵のごく一部の細胞を調べる検査で、結果が赤ちゃんの状態と食い違うことがあります。ESHREの指針は、多くの施設で誤った結果になる割合は全体で1〜3%まで下げられているとしたうえで、PGTのあとに妊娠したすべての方に出生前診断を提案すべきとしています[5]。
PGT-Mで選んだ胚で妊娠した場合も、妊娠中に赤ちゃんそのものを調べる確定検査(絨毛検査・羊水検査)で確かめることが望ましいと考えています。当院では絨毛検査・羊水検査を院内で行っており、海外でPGT-Mを受けたあとの妊娠でもご相談いただけます。
PGT-Mの対象になる病気は、国によって違います。日本では、日本産科婦人科学会の「重篤な遺伝性疾患を対象とした着床前遺伝学的検査(PGT-M)に関する指針」(2026年9月改定)にもとづき、症例ごとに学会の審査を受け、そのうえで実施施設の倫理委員会が承認して行われます。この指針の「重篤」は、原則として、成人に達する前に日常生活が著しく損なわれる、または生存が危ぶまれる状態になる疾患で、有効な治療法がないか、あっても高度かつ侵襲度の高いもの、とされています。審査が続いている申請も多く、学会の発表では、2025年7月〜2026年6月の1年間に審査した73件のうち、37件が審査継続中でした(2026年9月発表)。
英国では、公的機関(HFEA)がPGT-Mを使える病気の一覧を公表しており、2,000を超える病気が載っています(2026年9月17日更新の一覧で2,067)。一覧にない病気は、施設を通じて申請し、HFEAが審査します。米国では、PGTを直接規制する連邦や州の法律はなく、主に医師・施設の判断で行われています[6]。米国生殖医学会(ASRM)の倫理委員会は2024年、大人になってから発症する病気に対するPGT-Mも倫理的に許容されうるとする意見を出しています[7]。どの病気がPGT-Mの対象になるかは、国や制度、施設によって違います。同じ病気でも、ある国では対象になり、別の国では個別の審査が必要になることがあります。受ける国の制度と、施設の条件を前もって確かめてください。くわしくは遺伝性疾患をお持ちで海外でPGT-Mを考えている方へをご覧ください。
7. 発症前に検査を受けるということ
当院は、ライフステージごとに患者さんの人生をサポートするという考え方で診療しており、知りたいと願う方を拒むことはしません。遺伝カウンセリングで十分に考えたうえで、ご本人が知りたいと決めた場合は、その意思を尊重して検査まで行います。知らないでいる選択も、同じように尊重します。
知る権利と、知らないでいる権利
発症前の検査は、受けるかどうかをご本人が決める検査です。SCA8は、リピート伸長がわかっても発症するかどうかを予測できない型なので[1]、「知って何が変わるのか」「知らないままでいたいか」を、検査の前に時間をかけて考えることがとくに大切です。遺伝カウンセリングでは、結果ごとに何が起こるか、ご家族にどう伝えるかまで含めてお話しします。同じように発症前の検査になるハンチントン病など単一遺伝子のリピート伸長検査も、当院では同じ考え方でお受けしています。
結果のあとの心の変化と、続けて相談できること
結果を知ったあとの気持ちの変化は、受け継いでいた場合にも、受け継いでいなかった場合にも起こりえます。当院では、結果をお伝えしたあとも、遺伝カウンセリングで相談を続けていただけます。
脊髄小脳変性症と結婚
ご家族に脊髄小脳変性症の方がいることが、結婚の話し合いのなかで不安や心配のもとになることがあります。遺伝する確率は病気の型とご家族ごとに違い、SCA8では受け継いでいても発症しない人が多いことがわかっています[1]。検査を受ければ、ご自身がリピート伸長をもっているか、お子さんに伝わる確率はどれくらいかを、事実として知ることができます。知ったうえで、妊娠したときの出生前診断などの選択肢も考えられます。結婚や妊娠をどう考えるかは、ご本人とパートナーが決めることです。当院は、パートナーと一緒の遺伝カウンセリングも含めて、どの選択も尊重してお手伝いします。
8. 費用・結果までの日数・検体と、検査の流れ
「脊髄小脳変性症の遺伝子検査はどこで受けられるか」とお探しの方へ。当院では、臨床遺伝専門医の遺伝カウンセリングのうえで、SCA8の検査を受けられます。結果まではどちらの検査も約2週間です。唾液・口の内側の粘膜・血液のいずれも、オンライン診療でお受けできます。
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💴 費用・日数・検体
※ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいた後にお送りします。検体の取り違えを防ぎ、検査に使える品質を保つため、ご自身で勝手に検体を採取しないでください。
結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。結果の報告書の読み方はNIPT/遺伝子検査結果の見かたをご覧ください。
遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。
9. 院長コラム
🩺 院長コラム【「発症しない人が多い」病気だからこそ、知ってから選ぶ】
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。
SCA8は、リピート伸長をもっていても発症しない人が多い型です。だからこそ、「親は元気だから自分は大丈夫」「家族に症状のある人はいないから関係ない」という見た目の印象だけで、将来を決めてしまわないでほしいと考えています。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。たとえば、家族歴が濃いものの、ご本人は大学を卒業して会社に勤めていた方が、念のため検査を受けたところ、染色体の微小欠失が見つかったことがあります。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
結婚するか、子どもを持つかは、その人の生き方そのものに関わる大きな選択です。知ってから決めるのと、知らずに決めるのとでは、同じ選択でも意味が違うと私は考えています。先が見えないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進めます。知ったうえで結婚や妊娠を考えたい方には、出生前診断まで当院で続けて支えられる体制を整えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 脊髄小脳変性症8型は父親から遺伝しますか?
はい。脊髄小脳変性症8型(SCA8)は常染色体顕性(優性)遺伝で、父親・母親のどちらからも、お子さん1人ごとに2分の1の確率でリピート伸長が伝わります。遺伝性疾患の解説書(GeneReviews)によると、父親から伝わるときはリピートが短くなりやすく、母親から伝わるときは長くなりやすいとされています。ただし、リピートの長さだけで発症するかどうかは予測できません。
Q2. 子どもや孫に遺伝する確率は?
リピート伸長をもつ方のお子さんが受け継ぐ確率は、1人ごとに2分の1です。お孫さんの確率は、間の世代(お子さん)が受け継いでいるかどうかで変わります。お子さんが受け継いでいなければ、そのお子さんの系統からお孫さんに伝わることはありません。SCA8は受け継いでも発症しない人が多いため、発症していない親から子へ伝わり、世代を飛ばしたように見えることがあります。
Q3. 何歳ごろ発症しますか?
GeneReviewsでは、発症は20代〜40代(third to fifth decade)に多く、1歳未満から60歳を超えてからまで幅があるとされています。最初の症状として多いのは、ろれつが回りにくいこと(構音障害)と歩くときのふらつきです。寿命は通常短くならないとされています。
Q4. リピート伸長があっても発症しないのはなぜですか?
SCA8は、リピート伸長があっても発症しない人が多い「浸透率が低い」病気です。GeneReviewsでは、発症した人と発症していない人の両方で、71回から1300回を超える長さのリピートが見つかっているとされています。リピートの中に別の配列が混ざっているかなど、ほかの要因も研究されていますが、症状のない方が将来発症するかどうかは、今の検査では予測できません。
Q5. ATXN8OSだけの検査と、ATXN8とATXN8OSの2遺伝子の検査は、どちらを選べばよいですか?
SCA8の原因となるリピートは、ATXN8OSとATXN8が重なっている1か所にあり、どちらの検査も同じ方法でこの場所を調べます。違いは、検査の対象として挙げる遺伝子が1つか2つかと、料金(税込275,000円/税込330,000円)です。ご家族の結果報告書があれば、その内容に合わせて遺伝カウンセリングで一緒に選びます。
Q6. 脊髄小脳変性症の遺伝子検査はどこで受けられますか?費用は?
当院では、臨床遺伝専門医の遺伝カウンセリングのうえで、SCA8の検査を受けられます。ATXN8OSだけの検査は税込275,000円、ATXN8とATXN8OSの2遺伝子の検査は税込330,000円で、結果まではどちらも約2週間です。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。型がわからない場合は、18遺伝子をまとめて調べる運動失調リピート伸長パネルもあります。
Q7. 家族に脊髄小脳変性症の人がいると、結婚に差し支えますか?
遺伝する確率は病気の型とご家族ごとに違い、SCA8では受け継いでも発症しない人が多いことがわかっています。検査を受ければ、ご自身がリピート伸長をもっているか、お子さんに伝わる確率はどれくらいかを、事実として知ることができます。知ったうえで、妊娠したときの出生前診断などの選択肢も考えられます。結婚や妊娠をどう考えるかは、ご本人とパートナーが決めることで、当院はどの選択も尊重します。
Q8. 海外でPGT-Mを受けたいのですが、英語の検査結果はもらえますか?
はい。結果は基本的に日本語版でお渡ししていますが、海外でPGT-Mを受けるなど英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。なお、当院は体外受精・PGT-Mを行っていません。また、ご本人の検査結果だけでは、PGT-Mの準備はふつう整いません。
🧬 一度の検査で、ご自身とご家族のこれからを考える
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。脊髄小脳変性症8型のリピート伸長をもっているかがわかれば、ご自身の見張りや生活の計画だけでなく、ご家族の検査や、結婚・妊娠の計画を考える手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談、海外でのPGT-Mに使える英語の報告書の用意まで、続けてお手伝いします。
お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768
参考文献
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