この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

マシャド・ジョセフ病(脊髄小脳失調症3型、SCA3)は、ATXN3遺伝子の中にある「CAG」という3文字の繰り返しが長くなって起こる、遺伝性の脊髄小脳変性症です。この検査では、その繰り返しの長さを測り、マシャド・ジョセフ病かどうかを確かめます。生まれ持った遺伝子は一生変わりません。一度の検査でわかったことは、ご自身の健康管理だけでなく、結婚や妊娠の計画、ご家族の健康を考えるときにも、ずっと使える情報になります。このページでは、症状と経過、遺伝のしかた、発症前診断の考え方、検査でわかること・わからないことを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. この検査で何がわかりますか?
ATXN3遺伝子のCAGリピートの長さを測り、マシャド・ジョセフ病(脊髄小脳失調症3型)の原因となる伸長があるかどうかを確かめます。症状のある方では診断の確定に、症状のない方では発症前診断になります。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
ふらつき・ろれつの回りにくさなど小脳の症状がある方、ご家族にマシャド・ジョセフ病の方がいて、ご自身が受け継いでいるか知りたい方、結婚や妊娠を考えていて家族歴が気になる方です。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
結果までは2週間(至急オプションで約7日短くなります)。検体は血液・唾液・頬の内側の粘膜などで、オンライン診療でも受けられます。検査費用はお問い合わせください。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。伸長があれば、お子さんに受け継がれる確率は1人ごとに2分の1です。ご家族の検査や妊娠の計画、判断の難しい「中間型」の結果の扱いもご説明します。
1. マシャド・ジョセフ病(脊髄小脳失調症3型)とは
マシャド・ジョセフ病は、小脳や脳幹・脊髄などの神経が少しずつ傷んでいき、ふらつきやろれつの回りにくさが進む遺伝性の病気です。脊髄小脳失調症3型(SCA3)と同じ病気で、ATXN3遺伝子のCAGリピートが長くなることで起こります[1]。
「マシャド・ジョセフ病」という名前は、ポルトガル領アゾレス諸島から移住した家系で最初に報告されたことに由来します。その後、別に「脊髄小脳失調症3型」と呼ばれていた病気と、同じ遺伝子のCAGリピートの伸長で起こる同じ病気だとわかりました[1]。このページでは両方の名前を使いますが、指しているのは同じ病気です。
日本で頻度の高い遺伝性の脊髄小脳変性症
脊髄小脳変性症は、小脳を中心とした神経の病気の総称です。難病情報センターによると、日本の脊髄小脳変性症のうち67.2%は遺伝しないタイプ(孤発性)で、27%が常染色体顕性(優性)遺伝のタイプです。遺伝性のなかで日本で頻度が高いのは、SCA3(マシャド・ジョセフ病)、SCA6、SCA31、DRPLA(歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症)とされています(2026年10月時点で確認)。
遺伝性疾患の解説書GeneReviewsは、SCA3を世界で最も多い脊髄小脳失調症と考えられるとし、脊髄小脳失調症の家系の20〜50%を占めるとしています。日本はSCA3が最も多い国のひとつとして挙げられ、その割合は28〜63%と記載されています[1]。
原因:ATXN3遺伝子のCAGリピートが長くなる
1994年、京都大学などの日本の研究グループが、マシャド・ジョセフ病の原因遺伝子を14番染色体(14q32.1)に見つけ、患者さんではCAGの繰り返しの数が増えていることを報告しました[2]。この遺伝子が、いまATXN3と呼ばれている遺伝子です。
ATXN3遺伝子は、アタキシン3というタンパク質の設計図です。アタキシン3は、不要になったタンパク質に付く「目印」(ユビキチン)を外す酵素として働き、脳を含む全身で作られています[1]。CAGはアミノ酸のグルタミンを指定する暗号なので、CAGの繰り返しが長くなると、グルタミンが長くつながったアタキシン3ができます。このアタキシン3は固まりやすく、神経細胞の中で本来とは違う場所にたまりやすくなります[1]。
💡 用語解説:リピート伸長
遺伝子の中には、同じ短い配列が何回も続く「繰り返し配列」があります。この繰り返しの数が増えすぎて病気が起こることをリピート伸長(トリプレットリピート病)といいます。遺伝子の文字(塩基)が1つ変わるのとは違い、「長さ」の変化なので、測るには専用の方法が必要です。
2. 症状と経過:ふらつきから始まり、ゆっくり進む
マシャド・ジョセフ病の中心となる症状は、少しずつ進む小脳失調(ふらつき・手足の動きのぎこちなさ・ろれつの回りにくさ)です。これに加えて、足のつっぱり、筋肉のこわばり、手足のしびれなど、人によってさまざまな症状が加わります[1]。
はじめに気づきやすい症状
歩くときのふらつき、まっすぐ歩きにくい、つまずきやすい、ろれつが回りにくい、といった小脳の症状から気づかれることが多い病気です。症状はゆっくり進み、進むにつれて飲み込みにくさが出てきます。飲み込みの力が落ちると、せきでたんを出す力も弱くなり、むせや肺炎に気をつける必要が出てきます[1]。
マシャド・ジョセフ病に特徴的な症状
GeneReviewsは、小脳失調に加えて、次のような症状がさまざまな組み合わせでみられるとしています[1]。
- ●目が大きく見開いたように見えること(英語でbulging eyes。日本では「びっくり眼」と表現されることもあります)
- ●目を動かしにくくなる(進行性の外眼筋麻痺)
- ●足のつっぱり・反射が強くなる(痙縮。遺伝性痙性対麻痺に似ることがあります)
- ●体がねじれるようにこわばる(ジストニア)や、パーキンソン病に似た動きにくさ。パーキンソン症状の一部は、パーキンソン病の薬が効くことがあります
- ●顔や舌の筋肉の細かいぴくつき、手足の筋肉のやせ、しびれなどの末梢神経の症状
ジストニアは若いうちに発症した方に、末梢神経の症状や筋肉のやせは遅く発症した方に多いとされています[1]。ポルトガルの研究者は症状の組み合わせからいくつかの型に分けましたが、GeneReviewsは、一人ひとりを特定の型に当てはめることに臨床的な意味はあまりないとしています[1]。症状の出方は人によって違う、と受け止めていただくのがよいと思います。
何歳ごろ発症するか
発症は10代から50代までが多く、アゾレス諸島の大きな研究では平均37歳、ブラジルの研究では平均36歳でした[1]。CAGリピートが長いほど、発症が早い傾向があります。ただし、この関係はゆるやかで、遺伝子以外の要因も関わるため、リピートの長さから一人ひとりの発症年齢を言い当てることはできません[1]。
進行と余命の見通し
GeneReviewsによると、肺の合併症や体力の低下によって亡くなるまでの期間は、発症から6〜29年と大きな幅があります。ブラジルの研究では、発症からの平均の生存期間は21年でした[1]。
数字は多くの方の平均であり、目の前の一人の経過を決めるものではありません。飲み込みやせきの力が落ちてきたときに早めに手を打つことが、合併症を防ぐうえで大切になります。
治療とリハビリの現状
現時点では、病気の進行を遅らせることが証明された薬はありません[1]。治療の中心は、ふらつき・ろれつ・飲み込みなどの症状に合わせた、リハビリを含む多職種の支えです[1]。
日本では、難病情報センターによると、失調症状に対して甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)やTRH誘導体が使われます(2026年10月時点で確認)。どの治療が合うかは、神経内科の主治医とご相談ください。
3. 遺伝のしかた:お子さんへは2分の1、世代で早まることも
マシャド・ジョセフ病は常染色体顕性(優性)遺伝で、患者さんのお子さんは、1人ごとに2分の1の確率でCAGリピートの伸長を受け継ぎます[1]。性別には関係しません。上のお子さんが受け継いだかどうかで、下のお子さんの確率が変わることもありません。
常染色体顕性(優性)遺伝とは
常染色体顕性(優性)遺伝では、両親から1本ずつ受け継いだ2本の遺伝子のうち、1本に原因があれば発症しうる、というしくみです。親が伸長をもっていれば、お子さんに渡るのは「伸長のある1本」か「伸長のない1本」のどちらかなので、確率は2分の1になります。
お孫さんへの確率は、間のお子さんが伸長を受け継いでいるかどうかで変わります。お子さんが受け継いでいれば、お孫さんへは1人ごとに2分の1です。お子さんが受け継いでいなければ、その方からお孫さんへ、この家系の伸長が伝わることはありません。受け継いでいるかどうかは、症状の有無だけでは判断できません。
表現促進現象:世代を経て、早く発症することがある
CAGリピートは、親から子へ受け継がれるときに長さが変わることがあり、短くなるより長くなることが多いとされています。そのため、マシャド・ジョセフ病では、世代を経るごとに早く発症する「表現促進現象」が起こります[1]。
伸長が大きくなりやすいのは、お父さんから受け継いだときです。ただし、GeneReviewsは、ハンチントン病とは違い、マシャド・ジョセフ病ではこの父親側への偏りははっきりしたものではないとしています[1]。「お母さんから受け継いだなら伸びない」とは言えません。
⚠️ 「親が軽いから、子どもも軽い」とは言えません
リピートは受け継がれるときに長くなることがあり、長いほど早く発症する傾向があります。親御さんが遅い年齢で発症した、あるいはまだ症状がない場合でも、お子さんの発症の時期や症状の重さが同じになるとは限りません。だからこそ、ご家族の誰かがマシャド・ジョセフ病とわかったときは、知ったうえで計画することに意味があります。
ご家族に患者さんがいないのに見つかることがある理由
ご家族に同じ病気の方が見当たらなくても、マシャド・ジョセフ病と診断されることがあります。GeneReviewsは、その理由として、ご家族の病気が気づかれていなかった場合、親御さんが発症する前に亡くなっていた場合、親御さんの発症が遅い場合を挙げています。また、症状のない親御さんが、伸長する前段階の「中間型」のリピートをもっていて、それが受け継がれるときに伸びることもあります[1]。
両親とも伸長が見つからない場合でも、きょうだいのリスクは低いものの一般の方よりは高いとされています。親御さんの卵子や精子のもとになる細胞にだけ伸長がある「性腺モザイク」の可能性があるためです[1]。生殖細胞のうちどれくらいに伸長があるかは、実際の診療ではわかりません。「両親が陰性だったから、次のお子さんは大丈夫」と小さく見積もらないことが大切です。
4. どんな人がこの検査を受けるとよいか
小脳の症状があってマシャド・ジョセフ病かどうか確かめたい方、ご家族にマシャド・ジョセフ病の方がいる方、結婚や妊娠を考えている方に向く検査です。見た目や家族歴だけでは判断できないことが多いので、迷ったら、まず遺伝カウンセリングで状況をお聞かせください。
症状があり、原因を確かめたい方
次のような症状がある方は、この検査で原因を確かめられる可能性があります。
- ●歩くときのふらつき、つまずきやすさ、ろれつの回りにくさがゆっくり進んでいる方
- ●小脳の症状に、足のつっぱり・目の動きにくさ・こわばり・しびれなどが加わっている方
- ●脊髄小脳変性症と言われたが、どの型かがわかっていない方
病名がはっきりすると、気をつけたい合併症、使える制度(第8章)、ご家族への影響が決まります。GeneReviewsは、症状のある方の検査は、年齢にかかわらず考えてよいとしています[1]。
ご家族に患者さんがいて、ご自身が受け継いでいるか知りたい方(発症前診断)
症状のない方が、将来発症する可能性を調べる検査を「発症前診断(予測的検査)」といいます。ご家族のどなたかでATXN3の伸長がわかっていれば、ほかのご家族は同じ場所を調べることで、受け継いでいるかどうかを確かめられます[1]。
当院は、ライフステージごとに患者さんの人生をサポートするという考え方で診療しており、知りたいと願う方を拒むことはしません。遺伝カウンセリングで十分に考えたうえで、ご本人が知りたいと決めた場合は、その意思を尊重して検査まで行います。知らないでいる選択も、同じように尊重します。
先が見えないまま過ごすより、わかったうえで、仕事・結婚や出産・住まい・介護の準備・ご家族との話し合いなど、これからの人生を計画したいと考える方もいます。英国でハンチントン病の発症前検査を受けた人の理由として最も多かったのは「不確実さを減らすため」(70.5%)でした[3]。病気は違いますが、同じように成人してから発症する遺伝性の神経の病気で、「知ることで計画を立てたい」という思いは、マシャド・ジョセフ病のご家族にも通じるものだと考えています。
一方で、この検査で伸長が見つかっても、いつ発症するか、どの程度の症状になるか、どのくらいの速さで進むかまではわかりません[1]。また、結果を知ったあとの気持ちの変化は、陽性でも陰性でも起こりえます。GeneReviewsも、検査の前に遺伝カウンセリングで、知ることの影響を話し合うべきとしています[1]。当院では、結果をお伝えしたあとも、遺伝カウンセリングで相談を続けていただけます。
💡 未成年のお子さんの発症前診断について
日本医学会の「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」(2022年3月改定)は、成年期以降に発症する病気の発症前の遺伝学的検査は、原則として本人が成人し自分で判断できるまで延期すべきで、両親などの代わりの同意で行うべきではないとしています。当院も、この考え方に沿って、症状のない未成年のお子さんの発症前診断は原則として行いません。症状のあるお子さんの診断のための検査は別に考えますので、ご相談ください。
結婚・妊娠を考えている方
結婚するか、子どもを持つかは、その人の生き方そのものに関わる大きな選択です。マシャド・ジョセフ病の当事者の方にとっても、親やきょうだいに患者さんのいる方にとっても、ご自身が伸長を受け継いでいるかどうかを知ってから決めるのと、知らずに決めるのとでは、意味が違ってきます。
ご家族で伸長がわかっていれば、妊娠中に赤ちゃんを調べる出生前検査は技術的に可能とされています[1]。成人してから発症する病気の出生前診断をどう考えるかも含めて、妊娠を考える段階から当院でご相談いただけます(第7章)。
この検査より別の検査が向いている場合
ご家族でマシャド・ジョセフ病とわかっている場合や、症状からマシャド・ジョセフ病が強く疑われる場合は、この検査が向いています。一方、脊髄小脳変性症の型がしぼれていない場合は、日本で多いほかの型もまとめて調べる検査のほうが向いていることがあります。
注意したいのは、遺伝子の文字を読むタイプのパネル検査や全エクソーム検査・全ゲノム検査では、CAGリピートの伸長は見つけられないことです[1]。リピート伸長が原因の脊髄小脳変性症を調べるときは、リピートの長さを測る検査を選ぶ必要があります。
🔍 状況に合わせた検査の選び方
※どの検査が合うかは、症状・診察所見・ご家族の情報で変わります。遺伝カウンセリングで一緒に決めましょう。
5. この検査で調べること
この検査では、ATXN3遺伝子の1つだけを対象に、CAGリピートの長さを測ります。繰り返し配列のはしからはしまでを増やして長さを測る方法(repeat-primed PCR法)と、増やした断片の長さを測る方法(アンプリコン長解析)を組み合わせて、伸長があるかどうかを調べます。
🧪 ATXN3リピート伸長検査で調べる遺伝子
※対象遺伝子は当院の検査内容による(1遺伝子)。病気と遺伝のしかたはGeneReviews[1]による。
CAGリピートの数の読み方
GeneReviewsは、ATXN3のCAGリピートの数を、次の3つに分けています[1]。健康な方のリピートの93.5%は31回未満です。
📏 ATXN3のCAGリピート数の意味
※GeneReviews[1]による。発症する範囲の上限は、同じ資料の中でも表によって86・87・97回などと書き方が分かれています。古い資料では別の区切りが使われていることがあります。
1994年の最初の報告では、健康な方は13〜36回、患者さんは68〜79回でした[2]。その後、多くの方の測定が重なって、いまの区切りが使われています。
6. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、ATXN3のCAGリピートの長さが、正常・中間型・発症する範囲のどれに当たるかです。一方で、遺伝子検査には必ず限界があります。
- ●ほかの型は調べていません:この検査はATXN3のリピート伸長だけを調べます。SCA1・SCA2・SCA6・SCA31・DRPLAなど、ほかの型の原因は見つかりません。
- ●リピート伸長以外の変化:ATXN3の文字1つの変化や、遺伝子の一部が欠けたり重なったりする変化は、この検査には含まれていません(別にご依頼いただくことはできます)。
- ●とても長い伸長の正確な数:伸長がとても大きい場合、正確なリピートの数まではわからないことがあります。測れる長さの上限は、検査の方法や検体によって変わります[1]。
- ●モザイク:体の一部の細胞にだけ変化がある状態(モザイク)を見つけることを目的には作られていません。
- ●いつ・どの程度発症するか:伸長が見つかっても、発症の時期、症状の種類や重さ、進む速さまでは予測できません[1]。
- ●判断の難しい結果:この検査は遺伝子の文字を読む検査ではないため、文字の変化の意義がまだわからない「VUS」が報告されることは通常ありません。ただし、45〜59回の中間型は、発症するかどうかが一定しないため、VUSと同じように慎重な判断が必要な結果です。
- ●陰性でもすべてが否定されるわけではありません:伸長が見つからなければマシャド・ジョセフ病の可能性は低くなりますが、症状の原因がほかの型やほかの病気にあることは残ります。
7. 結果が出たあと
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。発症する範囲・中間型・正常の範囲のそれぞれで、次にできることが違います。
発症する範囲の伸長があったとき
症状のある方では、マシャド・ジョセフ病の診断が確定します。病名がはっきりすると、飲み込みや呼吸など気をつけたい合併症、リハビリの方針、使える制度(第8章)が決まり、主治医と具体的な相談ができるようになります。
症状のない方では、将来発症する可能性が高いことを意味します。ただ、いつ発症するかはわかりません[1]。結果を知ったあとの気持ちの変化に寄り添いながら、仕事や住まい、ご家族との話し合いなど、これからの計画を一緒に考えていきます。
ご家族への影響と、ご家族が検査を受けるとき
伸長がわかった場合、ご両親・きょうだい・お子さんも同じ伸長をもっている可能性があります。あなたの1回の検査が、ご家族が自分の状態を知る手がかりになります。症状のないご家族の検査は発症前診断になるため、検査の前に遺伝カウンセリングで、知ることの意味をよく考えていただきます(第4章)。
中間型(45〜59回)だったとき
中間型は、発症するかどうか、どのような症状になるかが一定しない範囲です。GeneReviewsは、中間型でマシャド・ジョセフ病の典型的な症状が出ない場合があること、むずむず脚症候群だけがみられた例があることを記載しています。また、中間型は受け継がれるときに伸びることがあり、症状のない親御さんから伸長したリピートを受け継ぐことがあります[1]。症状とご家族の情報をあわせて、結果の意味を一緒に考えます。
正常の範囲だったとき
ご家族で伸長がわかっていて、ご自身が正常の範囲だった場合は、その伸長を受け継いでいないと考えられます。症状があって検査を受けた方で正常の範囲だった場合は、ほかの型のリピート伸長の検査や、遺伝子パネル検査を考えます(第4章の表)。
妊娠を考えている方:出生前診断の相談
GeneReviewsは、ご家族で伸長がわかっていれば、出生前検査は可能としています。ただし、出生前の検査でも、発症の時期や症状の重さ、進む速さは予測できないとしています[1]。
当院では、羊水検査・絨毛検査を院内で行っています(2025年6月から産婦人科を併設)。成人してから発症する病気の出生前診断は、国内の指針や条件も含めて慎重に考える必要があります。妊娠を考えるときは、出生前診断ができるかも含めて、当院でご相談いただけます。パートナーの方とご一緒の遺伝カウンセリングも行っています。あらかじめご家族の伸長を確かめておくことが、出生前診断を計画するための出発点になります。
遺伝子検査の結果の伝え方や、目的とは別の病気の原因が見つかった場合の扱いについては、当院の二次的所見の開示方針もあわせてご覧ください。
8. 日本の制度(2026年10月時点)
マシャド・ジョセフ病は、指定難病18「脊髄小脳変性症(多系統萎縮症を除く。)」に含まれます。難病情報センターの脊髄小脳変性症のページ(情報更新日:令和7年12月)では、日本で頻度の高い遺伝性脊髄小脳変性症のひとつとしてSCA3(マシャド・ジョセフ病)が挙げられています(2026年10月時点で確認)。医療費の助成を受けるには、認定の基準を満たし、申請する必要があります。
また、脊髄小脳変性症は、介護保険法施行令で定める「特定疾病」のひとつに含まれています(厚生労働省、2026年10月時点で確認)。介護保険の利用の条件は、お住まいの市区町村の窓口でご確認ください。
認定の基準や申請の方法は、難病情報センターやお住まいの自治体の窓口でご確認ください。診断を確定させておくことは、こうした制度を使うときの手がかりにもなります。
9. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
結果までは2週間です。至急オプションを使うと、結果までの期間が約7日短くなります。唾液・頬の内側の粘膜・血液のいずれでも、オンライン診療で受けられます。
ご予約
▶
遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
▶
検体の採取お支払い後にキット送付
▶
結果のご説明2週間後・マイページへ
💴 費用・日数・検体
※ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。
オンライン診療(ビデオ通話)で遺伝カウンセリングを行ったあと、検体を当院にお送りいただく流れです。検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいたあとにお送りします。ご自身の判断で先に検体を採らないでください。決められたキットと手順で採らないと、検体の取り違えや品質の低下で、正しい結果が出せなくなるおそれがあるためです。
遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。
10. 院長コラム
🩺 院長コラム【結婚や出産は、知ってから決めてよい】
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。
遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。マシャド・ジョセフ病は、受け継がれるときにリピートが伸びて、次の世代で早く発症することがある病気です。「親は遅く発症したから」「自分にはまだ症状がないから」という印象だけで、将来を決めてしまわないでほしいと考えています。
結婚するか、子どもを持つかは、その人の生き方そのものに関わる大きな選択です。知ってから決めるのと、知らずに決めるのとでは、同じ選択でも意味が違います。知りたいと願う方を、当院は拒みません。遺伝カウンセリングで十分に考えたうえで知りたいと決めた方には、その意思を尊重して検査まで行います。知らないでいることを選ぶ方の気持ちも、同じように大切にします。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。知ったうえで結婚や妊娠を考えたい方には、出生前診断の相談まで当院で続けて支えられる体制を整えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. マシャド・ジョセフ病は子どもに遺伝しますか?
はい。マシャド・ジョセフ病は常染色体顕性(優性)遺伝で、患者さんのお子さんは、1人ごとに2分の1の確率でCAGリピートの伸長を受け継ぎます。父親・母親のどちらから受け継ぐかや、お子さんの性別で確率は変わりません。
Q2. 孫にも遺伝しますか?
間のお子さんが伸長を受け継いでいれば、お孫さんへは1人ごとに2分の1の確率で伝わります。お子さんが受け継いでいなければ、その方からお孫さんへ、この家系の伸長が伝わることはありません。受け継いでいるかどうかは、症状の有無だけでは判断できません。
Q3. 父親から遺伝すると重くなりますか?
CAGリピートは、受け継がれるときに長くなることが多く、世代を経て早く発症する表現促進現象が起こります。伸長はお父さんから受け継いだときに大きくなりやすいとされますが、マシャド・ジョセフ病ではこの偏りははっきりしたものではありません。お母さんから受け継いだ場合でも伸びることがあります。
Q4. 余命はどれくらいですか?
遺伝性疾患の解説書(GeneReviews)によると、肺の合併症や体力の低下で亡くなるまでの期間は、発症から6〜29年と大きな幅があります。ブラジルの研究では、発症からの平均の生存期間は21年でした。数字は平均であり、一人ひとりの経過を決めるものではありません。
Q5. 症状がなくても検査を受けられますか?
はい。ご家族で伸長がわかっていれば、症状のない方も発症前診断として検査を受けられます。当院は知りたいと願う方を拒まず、遺伝カウンセリングで十分に考えたうえで、ご本人の意思を尊重して検査まで行います。ただし、伸長が見つかっても、いつ発症するか、どの程度の症状になるかまではわかりません。
Q6. 未成年の子どもに検査を受けさせられますか?
症状のない未成年のお子さんの発症前診断は、原則として行いません。日本医学会のガイドライン(2022年3月改定)は、成年期以降に発症する病気の発症前の検査は、原則として本人が成人し自分で判断できるまで延期すべきとしています。症状のあるお子さんの診断のための検査は、別に考えますのでご相談ください。
Q7. 保険は使えますか?
当院のこの検査は自費診療です。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が検査費用とは別にかかります。マシャド・ジョセフ病は指定難病18「脊髄小脳変性症(多系統萎縮症を除く。)」に含まれ、認定の基準を満たせば医療費の助成を受けられます(2026年10月時点)。
Q8. ほかの型の脊髄小脳変性症も調べられますか?
この検査はATXN3のリピート伸長だけを調べます。型がしぼれていない場合は、ATXN3を含む複数のリピート伸長をまとめて調べる運動失調リピート伸長遺伝子パネル検査が向いています。遺伝子の文字を読むパネル検査や全エクソーム検査では、リピート伸長は見つけられません。
🧬 一度の検査で、ご自身とご家族のこれからを考える
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。マシャド・ジョセフ病の原因がわかれば、ご自身の合併症への備えだけでなく、ご家族の検査や、結婚・妊娠の計画を考える手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。
お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768
参考文献
- [1] Paulson H, Shakkottai V. Spinocerebellar Ataxia Type 3. In: GeneReviews®. University of Washington, Seattle; 1998 Oct 10 (Updated 2020 Jun 4). [NCBI Bookshelf NBK1196]
- [2] Kawaguchi Y, Okamoto T, Taniwaki M, et al. CAG expansions in a novel gene for Machado-Joseph disease at chromosome 14q32.1. Nat Genet. 1994;8(3):221-228. [DOI: 10.1038/ng1194-221]
- [3] Baig SS, Strong M, et al. 22 Years of predictive testing for Huntington’s disease: the experience of the UK Huntington’s Prediction Consortium. Eur J Hum Genet. 2016;24(10):1396-1402. [DOI: 10.1038/ejhg.2016.36]
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