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一人ひとりの「最善」を見つけるために ―コルネリア・デ・ランゲ症候群のお子さんとご家族との歩み―

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。2025年国際誌『Global Woman Leader』表紙抜擢など、世界基準の出生前診断と遺伝カウンセリングを提供。

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この記事でわかること
📖 読了時間:約8〜10分
📊 約4,500文字
臨床遺伝専門医監修

  • コルネリア・デ・ランゲ症候群とはどのような疾患か
  • あるご家族との出会いが生んだ、医師としてのデノボ変異検査への決意
  • 2020年6月から始まったデノボ変異検査への取り組みの軌跡
  • 25遺伝子から56遺伝子へ──検査技術進化の4年間
  • 現在のコルネリア・デ・ランゲ症候群検出率(約85%)と今後の展望

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ミネルバクリニックでは、出生前診断や遺伝子検査を通じて、患者様一人ひとりのライフステージにおける様々なお悩みに寄り添っています。私たちが大切にしているのは、どのような状況であっても患者様とご家族に寄り添い、共に歩むことです。

今回は、コルネリア・デ・ランゲ症候群のお子さんを授かったご家族との経験を通じて、改めて感じた想いと、それがきっかけとなって始まった当院の「デノボ変異検査」への取り組みの軌跡をお伝えしたいと思います。

転機となったコルネリア・デ・ランゲ症候群との出会い

数年前、コルネリア・デ・ランゲ症候群のお子さんがお生まれになったケースがありました。このケースのご家族は、NIPTの染色体検査は受けられていましたが、当時はまだ当院でコルネリア・デ・ランゲ症候群の遺伝子検査ができる体制が整っていませんでした

🔬 用語解説:コルネリア・デ・ランゲ症候群とは

コルネリア・デ・ランゲ症候群(Cornelia de Lange syndrome;CdLS)は、発達遅延・特徴的な顔貌・成長障害などを特徴とする先天性の希少疾患です。多くの場合、複数の臓器に影響を及ぼし、お子さんとご家族にとって大きな挑戦を伴います。発症頻度は約10,000〜30,000人に1人とされており、原因遺伝子としてNIPBL遺伝子(60%以上)のほか、SMC1A・SMC3・HDAC8・RAD21・BRD4・ANKRD11などが知られています。その多くは親から受け継ぐのではなく、精子や卵子の形成過程で新たに生じる「デノボ変異」が原因です。

この疾患の多くは、父親の高齢化により起こる精子の突然変異(デノボ変異)が原因とされています。

💡 用語解説:デノボ変異とは

デノボ変異(de novo mutation)とは、両親が正常な遺伝子を持っているにもかかわらず、精子や卵子の形成過程で新たに生じる遺伝子変異のことです。特に父親の年齢が高くなるほど精子におけるデノボ変異のリスクが増加することが知られており、高齢男性のご夫婦にとって特に関係性の高い検査項目です。

コロナ禍での特別な困難と、深いトラウマ

特にこのケースが心に残っているのは、ちょうどコロナ禍の時期と重なったことです。感染対策のため直接お会いしてお話しすることができず、電話での状況確認が中心となりました。

お子さんは1歳頃に天国へと旅立たれました。その間、何度も電話でお話しする中で、お母様から聞かせていただいた言葉が今でも心に深く刻まれています。

お母様の言葉

「目を覚ましたら子どもが息をしていないかもしれない」

そう思いながら毎日を過ごす大変さ、その重みを思い知らされました。医師として多くの患者様と接してきましたが、このお母様の言葉は、ご家族が抱えておられる不安や恐怖の深さを改めて実感させてくれました。

様々なお声がけをさせていただきましたが、お子さんを亡くされたことがご夫婦にとって深いトラウマとなってしまいました。「次の妊娠を考えたくない」「もう二度と妊娠したくない」というお気持ちが固くなってしまわれたのです。

一つの命を失う悲しみ、それまでの不安に満ちた日々への恐怖。ご夫婦のそのお気持ちは当然のことだと思います。同時に、医師として強く思ったのは、「もし事前にデノボ変異の検査ができていたらどうだったのだろうか」ということでした。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「もっとできることがあったはずだ」という医師としての問い】

お子さんを失ったご夫婦が「もう妊娠したくない」とおっしゃるとき、私はその言葉の重さをそのまま受け止めます。その悲しみは当然のものであり、それを否定することなど決してできません。

ただ同時に、「あのとき、デノボ変異の検査ができていたなら」という問いが頭から離れませんでした。検査によって何かが変わっていたかはわかりません。でも少なくとも、ご夫婦には選択肢があったはずなのです。その「選択肢を渡せなかった」という悔恨が、私をデノボ変異検査の導入へと向かわせました。

この経験から生まれた決意

「なんとかデノボ変異を扱わないといけない」

デノボ変異検査への道のり:2020年6月の始まり

このご家族との出会いを機に、私たちは世界からデノボ変異の検査を出せるところを必死で探しました。当時、日本国内でNIPTによるデノボ変異検査を提供できる機関はほとんどありませんでした。

様々な海外の検査機関と交渉を重ね、技術的な課題や検査精度、コストの問題などを一つひとつクリアしていきました。そして、2020年6月、ついに25個の遺伝子をNIPTで検査できる体制を整えることができました

2020年6月 第一段階
  • 25個の遺伝子によるデノボ変異検査開始
  • コルネリア・デ・ランゲ症候群関連遺伝子を含む
  • 日本初のNIPTによる包括的デノボ変異検査

さらなる進歩:2024年、56遺伝子による高精度検査

2020年から4年間、デノボ変異検査の経験を積み重ね、さらなる技術革新を追求し続けました。そして2024年、56個の遺伝子が検査できる「NEWデノボ(ダイヤモンドコース)」を採用することができました。

この新しい検査体制により、検出力は飛躍的に向上し、より多くの単一遺伝子疾患を妊娠早期から検出することが可能になりました。

検査技術の進歩の軌跡

時期 検査内容 意義
〜2020年5月 染色体検査のみ デノボ変異は検出不可
2020年6月〜 25遺伝子によるデノボ変異検査 コルネリア・デ・ランゲ症候群など主要疾患を検出可能に
2024年〜 56遺伝子による高精度検査
(NEWデノボ・ダイヤモンドコース)
検出力が飛躍的に向上、30以上の単一遺伝子疾患を検出

コルネリア・デ・ランゲ症候群の検出力向上

原因遺伝子 検出率 現在の検査状況
NIPBL遺伝子 60%以上 高精度検査可能
その他の遺伝子
(SMC1A・SMC3・HDAC8・RAD21・BRD4・ANKRD11)
約25% 複数遺伝子検査可能
原因不明 約15% 今後の技術革新に期待

現在では、コルネリア・デ・ランゲ症候群の約85%のケースを検出可能となり、数年前のあのご家族にお伝えできなかった選択肢を、今なら提供できるようになりました。

「健常なお子さんを抱かせてあげたい」という想いの実現

このご家族との出会いを通じて生まれた想いは、技術革新とともにより具体的な形となりました。

院長の想い

「健常なお子さんを抱かせてあげたい」

この想いが、技術革新を通じて現実のものとなりました

もちろん、どのようなお子さんであっても、生まれてくる命は尊いものです。しかし同時に、ご家族が安心して妊娠期間を過ごし、お子さんを迎えられる環境を整えることも、私たちの大切な役割だと感じています。そして今、その想いを実現する技術を提供できるようになったことを、心から嬉しく思っています。

現在の検査体制が提供できること

1
早期発見による心の準備

妊娠6週から検査可能で、ご家族が十分な時間をかけて情報を整理できます

2
包括的な疾患検出

30以上の単一遺伝子疾患を一度の検査で検出可能

3
高齢男性への特別な配慮

父親の年齢が高い場合のデノボ変異リスクに対応

4
専門的なカウンセリング

臨床遺伝専門医による継続的なサポート体制

私たちができること

検査前のカウンセリング

  • デノボ変異を含む検査の内容や限界について詳しくご説明
  • ご家族の価値観や希望を丁寧にお聞きします
  • 様々な選択肢について一緒に考えます

検査後のフォロー

  • 結果についての詳細な説明
  • 今後の選択肢についてのご相談
  • 継続的なサポート体制の提供
どのような選択も全力で支持
  • 患者様がどのような決断をされても支持します
  • 判断に迷われる場合は、一緒に考えます
  • 一人ひとりの「最善の選択」を見つけるお手伝いをします

最後に

コルネリア・デ・ランゲ症候群のお子さんとそのご家族との出会いは、私にとって医師としての使命を改めて考える大きなきっかけとなりました。そして、その経験から生まれた「なんとかデノボを扱わないといけない」という想いが、今日の56遺伝子による高精度検査体制につながっています。

生命の尊さと、同時にご家族が直面する現実の重さ。その両方を深く理解し、患者様一人ひとりにとっての「最善」を一緒に探していくことが、私たちの役割だと考えています。

出生前診断は、単なる検査ではありません。ご家族の人生、お子さんの未来、そして家族全体の幸せを考える上での大切な情報提供ツールです。そして今、私たちはかつてそのご家族にお伝えできなかった選択肢を、多くの方々に提供できるようになりました。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「選択肢を渡す」ことの意味】

「検査によって何かが変わるかどうか」ではなく、「ご夫婦に選択肢があったかどうか」──私が大切にしているのはその一点です。デノボ変異の検査は、すべての妊婦さんに必要なわけではありません。ただ、必要としている方に必要な情報を届けることができる体制を持っていたいと、ずっと願ってきました。

妊娠について、遺伝的な不安について、将来への心配について何かお悩みがございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。私たちは、あなたとご家族にとっての「最善」を一緒に見つけてまいります。

よくある質問(FAQ)

Q1. デノボ変異とは何ですか?

デノボ変異とは、両親が正常な遺伝子を持っているにもかかわらず、精子や卵子の形成過程で新たに生じる遺伝子変異のことです。特に父親の年齢が高くなるほど、精子におけるデノボ変異のリスクが増加することが知られています。コルネリア・デ・ランゲ症候群の多くもこのデノボ変異が原因です。

Q2. ミネルバクリニックではいつからデノボ変異検査ができるようになりましたか?

当院では2020年6月から25遺伝子によるデノボ変異検査を開始しました。その後、2024年からは56遺伝子による高精度検査(NEWデノボ・ダイヤモンドコース)を提供しており、30以上の単一遺伝子疾患を検出可能となっています。

Q3. コルネリア・デ・ランゲ症候群はどの程度検出できますか?

現在の56遺伝子による検査体制では、コルネリア・デ・ランゲ症候群の約85%のケースを検出可能です。NIPBL遺伝子が原因の場合(60%以上)とその他の関連遺伝子が原因の場合(約25%)を合わせて包括的に検査します。ただし、約15%のケースでは現時点で原因が特定できないため、すべてのケースを検出できるわけではありません。

Q4. 父親の年齢が高い場合、特に注意すべきことはありますか?

父親の年齢が高くなるほど精子におけるデノボ変異のリスクが増加するため、デノボ変異検査の意義がより高くなります。当院では高齢男性のご夫婦に対して特に丁寧なカウンセリングを行い、デノボ変異検査の選択肢についてご説明しています。

Q5. 検査はいつから受けられますか?

当院では妊娠6週目からの検査を実施しています。より早い段階での情報提供により、ご家族により多くの時間と選択肢を提供できるよう努めています。早期検査により、十分な時間をかけて情報を整理し、様々な専門家と相談することができます。

🏥 NIPTと遺伝カウンセリングのご相談はミネルバクリニックへ

ミネルバクリニックでは、NIPT(新型出生前診断)を専門に提供しています。56遺伝子によるデノボ変異検査を含む包括的な検査体制で、検査前後の遺伝カウンセリングでは、検査の内容や意味、結果の解釈について詳しくご説明します。不安やご質問があれば、専門医にご相談ください。

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参考文献

  1. Kline AD, et al. “Diagnosis and management of Cornelia de Lange syndrome: first international consensus statement.” Nat Rev Genet. 2018;19(10):649-666. [DOI]
  2. Krantz ID, et al. “Missense mutations in the cohesin factor NIPBL causing Cornelia de Lange syndrome.” Nat Genet. 2004;38(6):631-635. [DOI]
  3. Kong A, et al. “Rate of de novo mutations and the importance of father’s age to disease risk.” Nature. 2012;488(7412):471-475. [DOI]
  4. Wou K, et al. “Cell-free DNA analysis as a screening tool for single-gene disorders in high-risk pregnancies.” Prenat Diagn. 2018;38(7):498-510. [DOI]
  5. OMIM – Cornelia de Lange Syndrome 1 (#122470). Online Mendelian Inheritance in Man. [OMIM]
  6. ミネルバクリニック「ダイヤモンドプラン(78項目の包括的出生前診断)」 [公式サイト]

プロフィール

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、
臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。
のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、
検査結果の数値そのものだけでなく、
「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、
一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、
日本人として異文化の中で生活した経験があります。
価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。
この経験は現在の診療においても、
「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、
36週6日で一人を死産した経験があります。
その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、
そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。
現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、
出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、
家族の未来に関わる重要な意思決定です。
年齢や統計だけで判断するのではなく、
医学的根拠と心理的支援の両面から、
ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/
日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。
2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け
複数の海外メディア・専門誌で特集掲載
されました。

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