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「せっかく高い検査を受けたのだから、少しでも戻ってきてほしい」——そう思って調べはじめた方に、まず結論からお伝えします。NIPTの費用そのものは、医療費控除の対象になりません。国税庁がはっきりとそう示しています。ただし、がっかりして画面を閉じないでください。妊娠・出産にかかる医療費の多くは対象になり、そちらで還付を受けられる方はたくさんいらっしゃいます。この記事では、その線引きと、実際にいくら戻るのかを、順番に整理してお伝えします。
- ➤ NIPTの費用は医療費控除の対象になりません(国税庁が個別に見解を示しています)
- ➤ 「陽性ならあとから対象になる」という説明は、その国税庁の見解と食い違います
- ➤ 一方で、妊婦健診・分娩費用・通院の交通費などは対象になります
- ➤ よく誤解される「10万円ルール」の正しい読み方と、所得別に戻る金額の目安
- ➤ 確定申告の手順と、過去の年でも5年さかのぼって申告できること
NIPTの費用は医療費控除の対象になりません ― 国税庁の回答
はじめに、いちばん知りたいところからお答えします。NIPT(新型出生前診断)[9]にかかった費用は、医療費控除の対象になりません。これは「たぶん難しい」「ケースによる」といったあいまいな話ではなく、国税庁が「母体血を用いた出生前遺伝学的検査の費用」という表題で、NIPTを名指しで取り上げて公表している見解です[1]。
そこには、次のように整理されています。NIPTは胎児の染色体の生まれつきの変化を調べる診断の一環であり、検査によって変化が見つかったとしても、それが治療に結びつくものではないとされている。したがって、妊婦さんや胎児の治療に先だって行われる診断等とは解することができない——だから対象にならない、という筋道です。
医療費控除…1年間(1月1日〜12月31日)に自分や生計を一にするご家族のために支払った医療費が一定額を超えたとき、その分だけ課税される所得を減らせる制度です[2]。税金が直接その額だけ戻るわけではなく、所得が減った結果として税額が下がるしくみです。
対象になるのは、原則として医師による診療または治療の対価です[3]。逆にいえば、健康診断のように治療を伴わないものは、たとえ医療機関で受けたものであっても対象になりません。この「治療かどうか」という一本の線が、この記事の全体を貫いています。
この線引きに納得しづらいお気持ちは、私もよく分かります。妊娠中の検査は決して安いものではありませんし、ご夫婦にとっては人生に関わる決断です。それでも税務の世界では、支払った金額の大きさや気持ちの重さではなく、「その支出が治療に向けられたものかどうか」だけで判断されます。NIPTは、その意味では健康診断に近い位置づけとして扱われている、ということになります。
⚠️ よく見かける説明にご注意ください:「陽性だったあと確定検査や処置に進めば、NIPTの費用もさかのぼって対象になる」という解説を見かけることがあります。次の章でくわしく説明しますが、この説明は国税庁の見解と食い違います。そのまま申告に使うことはおすすめできません。
なぜ対象外なのか ― 「健診で病気が見つかれば対象」の例外が使えない理由
ここは、インターネット上でもっとも誤情報が多いところです。少し丁寧に順を追います。
たしかに「健診でも対象になる」例外は存在します
人間ドックや健康診断の費用は、通常は医療費控除の対象になりません[3]。ところが例外があります。健診の結果、重大な病気が見つかり、引き続きその病気の治療を行った場合には、その健診費用も「治療に先だって行われる診察」と同じように考えて、医療費控除に含めることができるとされています[1]。
所得税基本通達73-4…税務署が実際の判断に使う内部の取扱い基準のひとつで、「健康診断で重大な疾病が見つかり、その治療を行った場合には、健診費用も医療費控除に含める」という考え方を示したものです。
つまり、この例外が使えるかどうかの分かれ目は「そのあと治療をしたか」にあります。検査を受けたかどうかではありません。ここを取り違えると、結論が正反対になってしまいます。
その例外は、NIPTには当てはまらないと明記されています
ここが決定的なところです。国税庁は、いま説明した例外の考え方をわざわざ先に示したうえで、NIPTにはこの例外を当てはめることはできないと続けています[1]。理由は、NIPTで染色体の変化が見つかったとしても、それが治療に結びつくものではないとされているからです。
ですから、「NIPTが陽性で、そのあと羊水検査・絨毛検査[10]に進んだ」「そのあと処置を受けた」といった経過があっても、NIPTの費用がさかのぼって対象になるわけではありません。よく見かける「一連の流れなら対象」という説明は、この例外規定をNIPTに流用してしまった誤りです。国税庁が名指しで否定しているものを根拠にすると、申告後に指摘を受ける可能性があります。
💡 整理すると:NIPTが対象外なのは「高額だから」でも「自費だから」でもありません。結果が治療に直結しない検査だからです。逆にいえば、治療につながる医療費であれば、自費であっても対象になり得ます。
NIPTは対象外でも、妊娠・出産の医療費は控除できます
ここからが、実際にお金が戻る話です。NIPTが対象外だからといって、その年の医療費控除そのものをあきらめる必要はまったくありません。むしろ出産のあった年は、医療費控除を使える方が非常に多い年です。国税庁も、出産にかかる費用の扱いを個別にまとめています[4]。
妊娠と診断されてからの定期健診・検査の費用…自治体の補助券を使ってなお自己負担が出た分が対象になります[4]。
通院のための交通費…電車やバスなど公共交通機関の運賃です。領収書が出ないことが多いので、家計簿などに記録を残しておいてください[4]。
出産で入院するときのタクシー代…陣痛が始まったときなど、電車やバスでは困難な状況で利用した場合は対象になります[4]。
分娩・入院の費用、医師の処方による薬代…治療・診療の対価にあたるものは対象です[3]。ご家族の分も、生計を一にしていれば合算できます。
入院中の食事代…病院に対して支払う入院中の食事代は、入院費用の一部として一般的に対象になります。出前を取ったり外食したりした分は対象になりません[4]。
母体保護法に基づいて医師が行う人工妊娠中絶の費用…国税庁は、母体保護法の規定に基づいて医師が行うものに係る費用は医療費控除の対象になる、と示しています[11]。
NIPTの費用…国税庁が個別に見解を示しています[1]。
人間ドック・健康診断…健康診断の費用は原則として含まれません[3]。重大な病気が見つかり、引き続き治療を行った場合だけが例外です[1]。
里帰り出産のための帰省交通費…実家に帰るための費用は対象になりません[4]。
入院中の身の回り品…寝巻きや洗面具などの購入費は対象外です[4]。
自家用車のガソリン代・駐車場代…国税庁は、自家用車で通院する場合のガソリン代や駐車場の料金は対象に含まれないと明記しています[3]。あわせて、公共交通機関が利用できる状況で使ったタクシー代も対象になりません[3]。
羊水検査・絨毛検査はどうなるのか
よくいただくご質問です。正直にお伝えすると、国税庁は羊水検査・絨毛検査について、NIPTのような個別の見解を公表していません。したがって「確定検査だから当然に対象です」と言い切ることも、「対象外です」と決めつけることも、どちらも正確ではありません。
考え方の軸は、これまでと同じです。その支出が治療に向けられたものと整理できるかどうか。妊娠中に医師の判断のもとで行われた検査という側面もあれば、NIPTと同様に「結果が治療に直結しない」と評価される可能性もあります。ここは個別の事情によって判断が変わり得るところですので、領収書を保管したうえで、お住まいの地域の税務署にご確認いただくのが確実です。
⚠️ この記事の位置づけ:ここでご説明しているのは、公表されている資料にもとづく一般的な整理です。最終的な判断は個別の事情によって変わることがありますので、具体的な申告にあたっては税務署または税理士にご確認ください。
計算式 ―「10万円ルール」の正しい読み方
「医療費が10万円を超えないと使えない」という言い方が広まっていますが、これは正確ではありません。実際の計算式はこうです[2]。
医療費控除額 =(1年間に支払った医療費の合計)-(保険金などで補てんされる金額)-(10万円)
最後の10万円のところが大切です。その年の総所得金額等が200万円未満の方は、10万円ではなく「総所得金額等の5%」を差し引きます。たとえば総所得金額等が150万円の方なら、差し引くのは7万5,000円です。
つまり、医療費が10万円未満でも控除を受けられる方がいらっしゃいます。控除額の上限は200万円です。
総所得金額等…年収そのものではありません。会社員の方であれば、給与収入から給与所得控除を差し引いたあとの金額がもとになります。源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」がおおよその目安になります。
保険金などで補てんされる金額…生命保険の入院給付金、健康保険の高額療養費、そして出産育児一時金などが該当します[2]。これらは医療費から差し引いて計算します。差し引くのは、その給付の対象となった医療費の範囲までで、引ききれない分をほかの医療費から差し引く必要はありません。なお、産休中に支給される出産手当金は医療費を補てんする性格のものではないため、差し引く必要はありません[4]。
⚠️ いちばん間違えやすいところ:出産育児一時金を受け取っている場合、それを差し引かずに分娩費用を全額計上してしまうと、控除額を多く申告することになります。あとから修正が必要になりますので、必ず差し引いてください。
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いくら戻る? ― 所得別のシミュレーション
ここがいちばん知りたいところだと思います。まず大前提として、医療費控除額がそのまま戻ってくるわけではありません。控除額に税率をかけた分だけ税金が軽くなる、というしくみです。
1年間に支払った医療費から、出産育児一時金などの補てん金を差し引いた残りが40万円だったとします。ここから10万円を引くと、医療費控除額は30万円です。
この30万円に対して、所得税は還付(お金が戻る)、住民税は翌年度分が軽くなるという形で効いてきます。住民税の税率はおおむね10%です。所得税の税率は課税される所得金額によって5%〜45%の7段階に分かれています[5]。
💰 医療費控除額30万円のときに軽くなる税額の目安
所得税の還付:約1万5,000円
住民税の軽減:約3万円
合計:約4万5,000円
所得税の還付:約6万円
住民税の軽減:約3万円
合計:約9万円
所得税の還付:約9万9,000円
住民税の軽減:約3万円
合計:約12万9,000円
💡 「所得税率20%」は年収ではありません:税率は年収ではなく課税される所得金額(年収から給与所得控除や各種の所得控除を引いたあとの金額)で決まります。ここを年収で当てはめてしまうと、実際より多い金額を見込んでしまいます。ご自身の税率は、源泉徴収票をもとに確認してください。
では、産休・育休に入っていて収入が少なかった年はどうでしょうか。この場合は差し引く金額が10万円ではなく総所得金額等の5%になるため、控除額そのものが増えます。たとえば総所得金額等が150万円で、補てん後の医療費が40万円だった場合、差し引くのは7万5,000円ですから、控除額は32万5,000円になります。
共働きの場合、どちらが申告するとよいのか
医療費控除は、生計を一にするご家族の医療費をまとめて、どなたか1人が申告できます。一般には所得税率の高い方が申告したほうが、戻る金額は大きくなります。控除額に高い税率がかかるためです。
ただし例外があります。医療費の合計が10万円台にとどまり、かつどちらかの総所得金額等が200万円未満という場合は、5%基準が使えるほうで申告すると控除額が大きくなり、結果的に有利になることがあります。産休・育休で収入が下がった年は、まさにこのケースに当てはまります。両方のパターンで計算してみて、有利なほうを選んでください。
確定申告のやり方と、5年さかのぼれる還付申告
医療費控除は年末調整では手続きできません。ご自身で確定申告をする必要があります。とはいえ、手順は一度覚えれば毎年同じです。
① 領収書を1年分そろえる…医療機関ごと、受診した方ごとに分けておくと、あとの入力が楽になります。通院の交通費は、日付・区間・目的をメモに残してください。
② 補てんされた金額を確認する…出産育児一時金や保険の給付金があれば、対応する医療費から差し引きます。
③「医療費控除の明細書」を作成する…医療機関名・支払額・補てん額を記入します[8]。健康保険から届く医療費通知を添付すれば、記載を簡略にできます[2]。
④ 確定申告書を提出する…国税庁の確定申告書等作成コーナーを使えば、画面の案内に沿って入力するだけで作成・提出まで自宅から進められます[7]。
⚠️ 領収書は捨てないでください:明細書を提出する場合、領収書の添付は不要です。ただし記載内容の確認のため、申告期限等から5年を経過する日までの間、提示や提出を求められることがあります[2]。
「もう間に合わない」とあきらめないでください
出産の前後は、確定申告どころではなかったという方がほとんどだと思います。それでも大丈夫です。還付を受けるための申告は、その年の翌年1月1日から5年間できます[6]。確定申告の期間とは関係ありません。
お子さんが数歳になっていても、当時の領収書が残っていれば申告できる可能性があります。まずは母子健康手帳のケースや、出産時の書類の封筒を確認してみてください。思いのほかまとめて残っていることが多いものです。
当院でできること
医療費控除が使えない以上、NIPTの費用は最初から最後まで自己負担になります。だからこそ、金額の内訳と、陽性だった場合にその先いくらかかるのかを、受ける前に確かめておいていただきたいと思います。ミネルバクリニックは臨床遺伝専門医が運営し、ご相談から検査、結果のご説明、その後のフォローまで終始責任をもって支援するクリニックです。2025年6月に産婦人科を併設し、確定検査まで院内で行える体制を整えました。
🏥 当院の検査・サポート体制
ご相談から結果のご説明まで、専門医が一貫して関わります
NIPTから確定検査までを院内で。転院の必要がありません
確定検査は基本的に日曜日か祝日に実施。遠方の方も予定を立てやすくなります
検査料に含まれるもの、追加で発生し得るものを事前にご説明します
遠方の方もご相談いただけます
結果が出たあとの時間こそ、いちばん支えが必要な時期だと考えています
検査前後の遺伝カウンセリングは、臨床遺伝専門医が担当します。また、当院でNIPTを受けられる方には互助会(8,000円)にご加入いただき、陽性となった場合の羊水検査・絨毛検査の費用に充てられます。検査料の一覧は料金ページに、検査の精度については精度と陽性的中率の解説にまとめています。オンラインNIPTにも対応しています。
まとめ
- • 結論:NIPTの費用は医療費控除の対象になりません。国税庁が個別に見解を示しています
- • 理由:結果が治療に結びつかない検査とされているため、「健診で病気が見つかれば対象」という例外も適用されません
- • それでも使えます:妊婦健診・分娩費用・通院の交通費などは対象。出産のあった年は控除を使える方が多くいらっしゃいます
- • 10万円ルール:総所得金額等が200万円未満なら、差し引くのは10万円ではなく5%。医療費が10万円未満でも使えることがあります
- • 忘れずに差し引く:出産育児一時金などの補てん金は、対応する医療費から差し引いて計算します
- • 5年さかのぼれます:還付のための申告は翌年1月1日から5年間。過ぎた年の分もあきらめないでください
検査を受けるかどうかで迷い、費用でも迷い、そのうえ制度まで調べなければならない——妊娠中にそれだけのことを抱えるのは、本当に大変なことだと思います。分からないことは、遠慮なくお尋ねください。医療のことも、費用のことも、一緒に整理してまいります。
よくある質問(FAQ)
🏥 ミネルバクリニックへのご相談
検査を受けるかどうか迷っていらっしゃる方も、費用のことが気がかりな方も、どうぞお気軽にご相談ください。臨床遺伝専門医が、答えを押しつけずにご一緒に整理します。
🏥 費用のご質問も遠慮なくどうぞ
✓ 臨床遺伝専門医が運営し、終始責任をもって支援します
✓ 産婦人科併設で、NIPTから確定検査まで院内対応(2025年6月〜)
✓ 検査料に含まれるもの・追加で発生し得るものを事前にご説明します
✓ 中立・非指示的な遺伝カウンセリングで、ご自身の決定に寄り添います
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参考文献
- 国税庁 質疑応答事例(所得税)「母体血を用いた出生前遺伝学的検査の費用」 [国税庁]
- 国税庁 タックスアンサー No.1120「医療費を支払ったとき(医療費控除)」 [国税庁]
- 国税庁 タックスアンサー No.1122「医療費控除の対象となる医療費」 [国税庁]
- 国税庁 タックスアンサー No.1124「医療費控除の対象となる出産費用の具体例」 [国税庁]
- 国税庁 タックスアンサー No.2260「所得税の税率」 [国税庁]
- 国税庁 タックスアンサー No.2030「還付申告」 [国税庁]
- 国税庁「確定申告書等作成コーナー」 [国税庁]
- 国税庁「申告書・申告書付表と税額計算書等 一覧(医療費控除の明細書)」 [国税庁]
- 出生前検査認証制度等運営委員会「NIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)とは」 [公式サイト]
- 出生前検査認証制度等運営委員会「羊水検査とは」 [公式サイト]
- 国税庁 質疑応答事例(所得税)「妊娠中絶の費用」 [国税庁]






