目次
- ➤ 出生前診断の対象疾患は「幼少期発症」「ADL著しく障害」「生命に重大影響」の3条件をすべて満たすもののみ
- ➤ 国際的な医学専門機関が科学的根拠と倫理的配慮に基づいて厳格に選定
- ➤ 軽微な遺伝的特徴や成人発症疾患は意図的に除外されている
- ➤ 真の目的は適切な医療準備と家族サポートの実現
出生前診断の対象疾患に関する一般的な誤解
「出生前診断で異常が見つかったら産むか産まないかを決める検査」と考える方が多くいらっしゃいますが、実際の出生前診断には極めて厳格な医学的・倫理的基準があります。対象となる疾患は、国際的な専門機関による厳しい審査を経て選定されたもののみに限定されているのです。
出生前診断の対象疾患は「それなりに重たいもの」だけに厳格に限定されています。軽微な遺伝的特徴や治療可能な疾患、成人発症疾患は意図的に除外されているのです。
対象疾患選定の3つの基本条件
出生前診断(NIPT)の対象疾患は、以下の条件をすべて満たすものに限定されています:
1. 幼少期までに発症する
成人になってから症状が現れる疾患は対象外。将来の医学の進歩や本人の自己決定権を尊重するため。
2. ADL(日常生活動作)が著しく障害される
軽度の障害や治療により改善する疾患は除外。重大な生活への影響がある疾患のみが対象。
3. 生命に関わる重大な影響がある
生存や健康に深刻な影響を与える疾患のみ。医療的介入が必要な重篤な状態に限定。
国際的な基準策定機関と選定プロセス
各国の専門機関による厳格な基準
- ★ ACOG(米国産婦人科学会):全妊婦への染色体異常スクリーニング勧告を策定
- ★ SMFM(母体胎児医学会):胎児医学の専門的見地から検査対象疾患を選定
- ★ 基準:「出生後ただちに深刻な健康問題をもたらすもの」に限定
- ★ NHS(国民保健サービス):国家レベルで統一されたスクリーニングプログラムを運営
- ★ UK NSC(英国国家スクリーニング委員会):科学的証拠に基づいて対象疾患を決定
- ★ 明確な基準:「11の重要な身体的異常」を法的に規定し、生命に関わるもの、出生直後に治療介入が必要なもののみを対象
フランス:公衆衛生法L.2131-1条等により「特に重篤で治療不可能な疾患」に法的に限定
ドイツ:「出生後生存不可能か極度に重篤な疾患」に限定し、遺伝カウンセリングを法的義務化
日本の制度的制約
日本では以下の機関が厳格な基準を設けています:
- → 日本産科婦人科学会:NIPT対象を21, 18, 13トリソミーの3疾患のみに厳格に限定
- → 日本医学会:遺伝学的検査に関する指針を策定
- → 出生前検査認証制度等運営委員会:精度が十分に検証されているのは3つの疾患のみと明言
日本では母体保護法により胎児異常自体は中絶の合法理由とされておらず、検査の目的は医療準備と家族支援に重点が置かれています。
基準決定の科学的プロセス
1. 科学的エビデンスの厳格な検証
2. 倫理委員会での厳格な審議
- 1 障害者の権利保護:既存の障害者への配慮と社会的偏見の防止
- 2 妊婦の自己決定権:インフォームドチョイスの実現
- 3 社会的価値観との整合性:ノーマライゼーションの理念との両立
- 4 医療資源の適切な配分:公的医療制度の持続可能性
なぜ軽微な疾患や成人発症疾患は除外されるのか
成人発症疾患が対象外とされる医学的・倫理的理由
- → 遺伝性がんの素因(BRCA1/2変異など)
- → 色覚異常
- → 軽度の聴覚障害
- → 成人発症の神経変性疾患(ハンチントン病など)
除外される理由
- • 将来の不確実性:成人になるまでに治療法が進歩する可能性が高い
- • 生活の質への影響が限定的:多くは成人期まで正常な発達・生活が可能
- • 本人の自己決定権:将来本人が検査や治療の選択をする機会を奪うべきではない
- • 差別の防止:軽微な遺伝的特徴による社会的偏見を助長する恐れ
治療可能な疾患が対象外とされる理由
- → 口唇口蓋裂(単独):外科的修復により正常な生活が可能
- → 軽度の先天性心疾患:医療技術の進歩により治療成績が向上
- → 治療により予後良好な代謝異常:早期診断・治療により正常発達可能
医療的介入の必要性による優先順位
出生前診断により医療準備が重要な疾患
1. 緊急手術が必要な疾患
- • 横隔膜ヘルニア:出生直後の呼吸管理と緊急手術が必要
- • 重篤な先天性心疾患:心臓外科チームの待機が必要
- • 腹壁破裂:新生児外科的処置の準備が必要
医療的メリット:専門医療チームの事前準備、適切な医療設備を持つ施設での分娩、出生直後からの迅速な治療開始、合併症の予防と生存率向上
2. 継続的な専門管理が必要な疾患
- • 嚢胞性線維症:生後早期からの呼吸器・栄養管理
- • 鎌状赤血球症:予防的ペニシリン投与、定期的輸血管理
- • 脊髄性筋萎縮症:早期の遺伝子治療や呼吸管理
3. 致死的疾患における尊厳あるケア(Dignity Care)
治癒が期待できない重篤な疾患を持つ新生児に対して提供される特別なケアアプローチで、生命の尊厳性を最大限に尊重し、苦痛の最小化と家族の絆を大切にするケア方法です。
具体的なケア内容:
- • 痛みと苦痛の管理:適切な鎮痛・鎮静、呼吸困難の緩和
- • 家族との時間の確保:抱っこや添い寝の時間、記念品作成
- • 環境の整備:静かで落ち着いた環境、宗教的・文化的配慮
- • 心理的サポート:多職種チームによる継続的支援
拡大型NIPTでも同じ基準が適用
近年登場している「拡大型NIPT」や「包括的出生前診断」でも、「それなりに重たい疾患しか対象になっていない」という基本原則は変わりません。
拡大型NIPTの対象疾患例(ミネルバクリニック ダイヤモンドプラン)
拡大型NIPTでも基本方針は同じです。検査範囲が広がったのは、より多くの重篤疾患を検出できるようになったためで、「軽微な疾患まで調べるようになった」わけではありません。
出生前診断の真の目的
1. 医療準備の最適化
- → 専門医療チームの事前編成と待機
- → 適切な医療設備を持つ施設での分娩計画
- → 出生直後からの迅速な治療開始
2. 家族の心理的準備と支援
- → 疾患について正しい知識の習得
- → 医療・社会支援体制の構築
- → 十分な情報に基づくインフォームドチョイスの実現
3. 妊娠管理の改善
- → 胎児の状態に応じた妊娠経過観察
- → 最適な分娩方法の選択
- → 周産期合併症の予防
当院は非認証施設で唯一、臨床遺伝専門医が常駐してNIPTを行っているクリニックです。2025年6月より産婦人科を併設し、確定検査も自院で実施可能になりました。
COATE法採用
最新技術により自院採用検査のなかで最高精度を実現
オンライン対応
全国どこからでも受検可能
24時間サポート
陽性時の手厚いフォロー体制
よくある質問(FAQ)
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参考文献・引用元
- • 国立成育医療研究センター産科. (2024). NIPT|東京・世田谷での出産・分娩なら国立成育医療研究センター産科. www.ncchd.go.jp/hospital/pregnancy/saniden/nipt.html
- • 出生前検査認証制度等運営委員会. (2024). 認証施設がNIPTで調べる病気を限定している理由. jams-prenatal.jp/testing/nipt/limitation/
- • ACOG/SMFM Practice Bulletin 226: Screening for Fetal Chromosomal Abnormalities. (2020).
- • 日本小児科学会. (2024). 母体血を用いた非侵襲性出生前遺伝学的検査(NIPT)の臨床研究に関する基本姿勢. www.jpeds.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=156

