目次
- ➤ NIPT検査における胎児分画(FF)とは何か、なぜ重要なのか
- ➤ 低い胎児分画でも検査結果を出すリスクと問題点
- ➤ イルミナVeriSeq NIPT Solution v2におけるFF要件と検出精度
- ➤ 各検出対象(トリソミー)ごとの必要FFと精度の関係
- ➤ 信頼性の高いNIPT検査を選ぶための基準と注意点
近年、日本国内でNIPT(非侵襲的出生前検査)の需要が高まり、多くの医療機関で検査が提供されるようになりました。しかし、一部のクリニックでは研究用のシークエンサー(遺伝子解析装置)を使用し、胎児分画(FF)が臨床試験の基準を満たさない低い場合でも検査結果を出しているという問題があります。このような状況は検査の信頼性に関わる重大な問題です。
この記事では、NIPT検査における胎児DNA割合(胎児分画FF)の重要性について解説し、低いFFでも結果を出すことのリスクや問題点について詳しく説明します。これからNIPT検査を検討される方や医療従事者の方々に、正確で信頼性の高いNIPT検査を選ぶための参考にしていただければ幸いです。
わかりやすく動画で紹介
NIPT検査における胎児分画(FF)の重要性について、ミネルバクリニック院長が詳しく解説します。低い胎児分画で検査結果を出すことの問題点や、信頼性の高いNIPT検査を選ぶためのポイントを分かりやすく説明しています。
胎児分画(FF)とは何か?NIPT検査における役割
胎児分画(Fetal Fraction, FF)とは、妊婦さんの血液中に含まれる胎児由来のDNA断片の割合を示す指標です。厳密には「胎児」そのものではなく、胎盤(栄養膜)から母体血中に放出されたDNA断片を指すため、NIPTは胎盤の「リキッド・バイオプシー(液体生検)」とも考えられています。このDNAを分析することでNIPT検査は染色体異常の有無を調べます。
胎児分画(FF)の基本知識
- 妊婦さんの血液中に含まれる全DNAのうち、胎児由来のDNAの割合を示す
- 通常、妊娠10週以降で4%以上になることが多い
- 妊娠週数が進むにつれて上昇する傾向がある
- 母体の体格(BMI)、胎盤の状態、胎児の状態などによって変動する
- NIPT検査の精度に直接影響する重要な因子
なぜ胎児分画(FF)が重要なのか?
胎児分画(FF)はNIPT検査の検出精度に直接影響する重要な因子です。FFが低すぎる場合、胎児由来のDNAシグナルが薄まり、染色体異常の検出が困難になります。多くのNIPT検査では、正確な結果を得るために約4%を最低必要FF値としています。
FFが低い場合のリスク
- → 偽陰性(染色体異常を見逃す)のリスクが増加
- → 判定保留(結果が出ない)の可能性が高まる
- → 偽陽性(実際には異常がなくても陽性と判定)の可能性も上昇
- → 結果の信頼性が全体的に低下
十分なFFがある場合のメリット
- → 高い検出感度(99%以上)を確保可能
- → 偽陰性リスクが最小化される
- → 結果の信頼性が高まる
- → 精密検査の必要性判断が適切に行える
日本におけるNIPT検査の問題点:低FF検体の扱い
日本国内では、一部のクリニックが研究用のイルミナのシークエンサーを使用し、胎児分画が低い(4%未満)にもかかわらず検査結果を出しているという問題があります。これは検査の質と結果の信頼性に関わる重大な問題です。
低FF検体で結果を出すことによる問題点:
- 1 検出感度の低下:特にFF≤4%では、トリソミーの検出感度が著しく低下
- 2 偽陰性リスク:染色体異常があるにもかかわらず、「陰性」と判定される危険性
- 3 臨床的判断の誤り:不正確な結果に基づいて重要な医療判断がされる可能性
- 4 医療倫理の問題:精度が保証できない検査結果を患者に提供する倫理的問題
研究用シークエンサーの使用と基準値の問題
本来、NIPT検査には厳格な品質管理と適切な基準値の設定が不可欠です。しかし、一部のクリニックでは以下のような問題が見られます:
イルミナVeriSeq NIPT Solution v2における胎児分画(FF)要件
イルミナ社のVeriSeq NIPT Solution v2は、世界的に広く使用されているNIPT検査プラットフォームです。このシステムにおける胎児分画(FF)の要件と精度について詳しく見ていきましょう。
最小許容胎児分画(FF)値
一般にNIPT検査では、約4%を下限値(最低必要FF)とすることが多く、これ未満では検出精度が保証できないとされています。VeriSeq NIPT Solution v2では、固定のカットオフ値を設ける代わりにiFACT(individualized Fetal Aneuploidy Confidence Test)という動的な閾値を導入しています。
iFACTシステムとは
iFACTは各試料のFFに応じて必要なシーケンスカバレッジ量を判断し、十分なデータ品質が得られた場合に結果報告を可能とする仕組みです。これによりVeriSeq NIPT v2では低FFサンプルでも検査失敗(no-call)率を低く抑えつつ、結果を報告できるようになっています(臨床試験ではQC失敗は約1.2%)。
しかし、iFACTを採用していてもFFが極端に低い(2~3%以下)場合は、サンプルによってはQC不合格となり再検査が必要になる可能性があります。また、FFが低すぎる場合は母体条件や胎児異常(例:胎児側無染色体や胎盤モザイク)の影響も考慮する必要があります。
VeriSeq NIPT v2自体は厳密な「4%カットオフ」を設定していないものの、実質的な目安として4%前後のFFが検査の精度保証に必要と考えられます。Illumina社の公式資料でも、他社NIPTでは4%が下限とされることに言及しつつ、VeriSeq NIPT v2はFF 4%以下でも検出可能であるとしています。
FF低下時の精度への影響
胎児分画が低下(4%未満)すると検査精度は低下します。Illumina社の臨床性能試験データによれば、FF≤4%のサンプルでは検出感度が低下していました。
このように胎児DNA量が十分確保できない場合、見逃し(偽陰性)のリスクが高まることが示唆されます。また、13,000件以上の大規模症例解析においても、FF <4%の「低リスク」判定例では陰性的中率(NPV)が98.1%とやや低く、1例の染色体異常が見逃されていました。一方、FFが4%以上の症例ではNPVが99.9%以上(実質的に偽陰性なし)であり、十分なFFが確保された場合の信頼性の高さが示されています。
FFが4%を下回る場合は検査結果の解釈に慎重を期し、必要に応じて再採血や精密検査を検討することが推奨されます。特にトリソミー18やトリソミー13では胎盤由来DNAが少ない傾向が報告されており、FF低値そのものがこれら異常のリスク因子になる場合があるため、より注意が必要です。
検出対象別の必要FFと精度
NIPT検査で検出対象となる各染色体異常によって、必要とされる胎児分画(FF)の目安や検出精度は異なります。一般的に、21トリソミー(ダウン症候群)の胎児妊娠では平均胎児分画が高くなる傾向がある一方で、18トリソミーや13トリソミーでは胎児分画が低くなる傾向が報告されています。そのため、特に18・13トリソミーの検出においては、十分なFF値が確保されているかどうかが検査精度を大きく左右します。以下に詳細を示します。
常染色体の全数異常(T21/T18/T13)については、概ねFFが4%以上あれば高い精度で検出可能です。VeriSeq NIPT v2の臨床試験ではFF>4%のサンプルでT21/T13は100%、T18は93.3%の感度が報告されています。一方、FFが低い場合は特にT21/T18で検出漏れが発生しており、Illumina社も「低FFでは検出性能が低下しうる」ことを注意喚起しています。T13やT18では胎児由来DNAが少なくなりがちなため、FFが閾値付近(4%前後)の場合は慎重な評価が必要です。
部分的コピー数変異(CNV)検出への影響
部分的なコピー数変異(大規模な欠失・重複)の検出精度は、全染色体異常に比べてさらに厳しいFF要件があります。
部分的CNV検出における精度低下
- VeriSeq NIPT v2は約7Mb以上の異常を検出可能だが、臨床試験では検出感度が約74.1%(27例中20例検出)と報告
- 検出漏れの要因として、胎盤モザイク(一部の細胞のみに異常がある状態)や低FFによる胎児シグナルの希釈
- FFが低い検体では微小なコピー数変化の検出力が制限される
- 高精度な部分的欠失・重複検出には、できるだけ高いFF(4%以上、可能なら8~10%以上)が望ましい
信頼性の高いNIPT検査を選ぶための基準
NIPT検査を検討する際には、検査の信頼性と品質を確保するために以下のポイントに注意することが重要です。
信頼性の高いNIPT検査を選ぶためのチェックリスト
- ✓ 認定された医療機関か:出生前検査認証制度等運営委員会の認証を受けた施設であるか
- ✓ 医療用認証機器の使用:研究用ではなく医療用として認証されたシークエンサーを使用しているか(実は国内には厚生労働省が認証したシークエンサーは一つもありません)
- ✓ FF値の明示:検査結果に胎児分画(FF)の値が明示されるか
- ✓ FFの適切な基準値:4%未満の低FFサンプルについての取り扱い方針が明確か
- ✓ 適切な検査前カウンセリング:検査の限界や結果の解釈について説明があるか
- ✓ 精度検証データの開示:検出感度、特異度、陽性的中率などの精度データが公開されているか
- ✓ フォローアップ体制:陽性結果や判定保留時の対応体制が整っているか
以下のような場合は特に注意が必要です:
- ! 臨床使用認可のない研究用シークエンサーを使用しているクリニック
- ! FFの値を検査結果に明示していない場合
- ! FFの最低基準値について説明がないあるいは基準値が明確でない場合
- ! 低FF検体の取り扱いに関する情報開示が不十分な施設
適切なNIPT検査機関を選ぶことは、正確な診断結果を得るために非常に重要です。不明点がある場合は、必ず医療機関に質問し、十分な情報を得た上で検査を受けることをお勧めします。
NIPT検査における質問すべき重要事項
NIPT検査を検討する際には、以下のような質問を医療機関にすることで、検査の質と信頼性を確認することができます。
よくある質問(FAQ)
ミネルバクリニックでは、医療用として認証されたシステムを使用し、適切な胎児分画(FF)基準に基づいた信頼性の高いNIPT検査を提供しています。検査前後の遺伝カウンセリングでは、検査の内容や意味、結果の解釈について詳しくご説明します。不安やご質問があれば、専門医にご相談ください。
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