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葉酸サプリはいつからいつまで?妊婦に必要な理由と効果、1日の摂取量

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・がん薬物療法専門医・総合内科専門医。

葉酸サプリは、妊娠を考え始めたとき(妊娠の1か月以上前)から飲み始め、妊娠3か月(妊娠11週ごろ)までは毎日400μgを続けるのが基本です。日本の食事摂取基準では、妊娠中期以降と授乳中は食事からの葉酸に付加量が設定されています。葉酸の効果として確かめられているのは、おなかの赤ちゃんの脳や脊髄のもとになる「神経管」の病気のリスクを下げることです。一方で、妊娠しやすくなる、ダウン症を防げるといった効果は確かめられていません。この記事では、葉酸をいつから・いつまで・どれだけ摂るのか、妊婦さんになぜ必要なのか、何が期待できて何が期待できないのかを、国の基準と研究をもとに臨床遺伝専門医が解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
🌱 いつから・いつまで・1日の量
★ 臨床遺伝専門医監修

Q. 葉酸サプリはいつからいつまで飲めばいいですか?

A. 妊娠の1か月以上前から妊娠3か月(妊娠11週ごろ)まで、食事に加えてサプリなどで1日400μgを摂るのが国の推奨です。妊娠中期・後期は食事からふだんより240μg多く、授乳中は100μg多く摂ることが目安になります。妊娠の時期は予測できないため、「妊活を始めた日」が飲み始めの日と考えるのが確実です。

  • ➤いつから → 妊活を始めたら。遅くとも妊娠の1か月前には
  • ➤いつまで → NTD予防目的の日本の400μg付加推奨は妊娠初期まで。中期以降は食事の付加量が設定
  • ➤なぜ必要 → 神経管は、妊娠に気づくころ(最終月経から数えて5〜6週ごろ)に閉じるため
  • ➤期待できないこと → 妊娠率・着床率の向上、ダウン症や流産の予防は確かめられていない

1. 葉酸サプリはいつから飲む?妊活を始めたら

葉酸サプリは、妊娠を計画し始めた時点、遅くとも妊娠の1か月以上前から飲み始めるのが国の推奨です。厚生省(現・厚生労働省)は2000年、妊娠を計画している女性に対し、妊娠の1か月以上前から妊娠3か月までの間、通常の食事に加えて栄養補助食品から1日400μgの葉酸を摂るよう情報提供を始めました[1]。現在の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」も、妊娠を計画している女性、妊娠の可能性がある女性、妊娠初期の妊婦は、神経管閉鎖障害のリスクを下げるために、通常の食品以外の食品に含まれる葉酸を1日400μg摂ることが望まれるとしています[2]。

ここでいう「通常の食品以外の食品」とは、サプリメントや葉酸を加えた食品のことです。ふだんの食事から摂る葉酸(推奨量は成人で1日240μg)に上乗せする形で、サプリなどから400μgを摂るという意味になります。

妊活を始めたら:妊娠の1か月以上前から

いつ妊娠するかは前もって分からないため、「妊活を始めた日」を飲み始めの日と考えるのが最も確実です。国の推奨の対象には、妊娠を計画している女性だけでなく「妊娠の可能性がある女性」も含まれています[2]。避妊をしていない期間は、妊娠の可能性がある期間と考えておくとよいでしょう。

「妊娠の1か月以上前」という表現は、妊娠に気づく前の大切な時期を、確実にカバーするための目安です。妊活が数か月から1年以上にわたることも珍しくありません。その間は毎日続けることになりますが、推奨量の400μgは、後で説明する上限量に比べて十分に少ない量です。

なぜ「妊娠前から」なのか:神経管は妊娠に気づくころに閉じる

妊娠前から飲むのは、赤ちゃんの脳や脊髄のもとになる神経管が、多くの人が妊娠に気づくころにはもう閉じているためです。米国国立衛生研究所(NIH)の栄養補助食品局によると、神経管閉鎖障害は、受精後21〜28日の間に神経管の上端または下端が閉じないことで起こります[3]。妊娠週数は最終月経の開始日から数えるので、受精後21〜28日は妊娠5週〜6週ごろにあたります。

最終月経の開始妊娠0週0日
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排卵・受精妊娠2週ごろ
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生理予定日妊娠4週ごろ
▶
神経管が閉じる妊娠5〜6週ごろ
▶
サプリ推奨期間の終わり妊娠3か月(11週ごろ)

生理が遅れて妊娠検査薬を使うのは妊娠4〜5週ごろ、医療機関で妊娠が確認されるのはさらにその後です。つまり、妊娠が分かってから葉酸を飲み始めたのでは、神経管が閉じる時期に間に合わない可能性があります。妊娠前から体の中の葉酸を十分な状態にしておくことが、国が「妊娠の1か月以上前から」と勧めている理由です。

妊娠が分かってから飲み始めても遅い?

遅すぎるということはありません。気づいた時点で飲み始めて大丈夫です。推奨期間は妊娠3か月までなので、妊娠が分かった時点はまだその期間の中にあります。

また、葉酸を飲んでいなかったからといって、赤ちゃんに必ず病気が起こるわけではありません。厚生労働省のe-ヘルスネットによると、日本での二分脊椎(神経管閉鎖障害の一種)の発症は、2007〜2011年で出生1万人あたり5.59人でした[4]。葉酸を飲んでいなかった妊娠でも、ほとんどの赤ちゃんは神経管の病気なく生まれています。妊娠に気づいた時点から推奨量の摂取を始めることが重要です。飲んでいなかったと気づいたときの考え方は、葉酸サプリは飲まないほうがいい?正しい摂取方法でも解説しています。

2. 葉酸サプリはいつまで飲む?妊娠3か月までが目安

神経管閉鎖障害(NTD)のリスク低減を目的とした日本の400μgの付加推奨は、妊娠を計画している時期から妊娠初期までが対象です。「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、妊娠中期・後期には食事から+240μg、授乳中には+100μgの付加量が設定されています[2][5]。時期ごとの考え方を図にまとめます。

妊活中食事+サプリ400μg
▶
妊娠初期(〜3か月)食事+サプリ400μg
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妊娠中期・後期食事で+240μg
▶
授乳中食事で+100μg

NTD予防目的の400μg付加推奨は妊娠初期まで

日本で示されているサプリ等からの400μgの付加は、神経管閉鎖障害のリスク低減を目的として、妊娠を計画している女性、妊娠の可能性がある女性および妊娠初期の妊婦を対象としています。神経管は受精後およそ3〜4週という非常に早い時期に閉じるため、妊娠前から十分な葉酸を摂ることが重要です[1][3]。

日本の妊娠月数の数え方では、妊娠3か月は妊娠8週0日〜11週6日にあたります。妊娠12週に入るころを、サプリの推奨期間の区切りと考えるとよいでしょう。

妊娠中期・後期は食事で推奨量+240μg

妊娠中期・後期は、ふだんの推奨量240μgに240μgを足した、1日480μgを食事から摂ることが目安です。「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、妊婦の付加量は中期・後期に設定されています。妊娠初期の付加量はゼロで、その代わりにサプリなどからの400μgが勧められている、という組み立てです[2][5]。

妊娠中期以降も付加量が設けられているのは、赤ちゃんと胎盤が育つにつれて細胞がどんどん増え、お母さんの血液の量も増えるため、葉酸の必要量が高い状態が続くからです。

「妊娠3か月を過ぎたら、葉酸サプリはやめるべきですか?」という疑問もよく聞かれます。日本の食事摂取基準では、NTD予防を目的とする400μgの付加推奨は妊娠初期が対象です。ただし、妊娠初期を過ぎたらサプリを必ず中止しなければならないという意味ではありません。一方、食事だけで480μgを毎日満たせるか心配な場合や、医師から妊婦用のマルチビタミンを勧められている場合は、続けても構いません。その場合は、サプリなどからの葉酸が後で説明する上限量を超えないよう、成分表示を確認してください。

授乳中の葉酸:推奨量+100μg

授乳中は、ふだんの推奨量に100μgを足した、1日340μgを食事から摂ることが目安です。母乳には葉酸が含まれていて、赤ちゃんへ移る分を補う必要があるため、授乳婦にも付加量が設けられています[2][5]。

授乳中に葉酸サプリを飲まなければならない、という決まりはありません。食事から必要量を摂るのが基本です。産後は忙しく食事が偏りがちなので、葉酸を多く含む野菜や豆類を取り入れる工夫をしましょう。サプリを使う場合も、上限量を超えないように注意します。

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3. 妊婦・妊活中の葉酸の1日の摂取量

葉酸の1日の摂取量は、妊活中から妊娠3か月までが「食事から240μg+サプリなどから400μg」、妊娠中期・後期が「食事から480μg」、授乳中が「食事から340μg」です。いずれも「日本人の食事摂取基準(2025年版)」に基づく目安です[2][5]。

時期別の摂取量の早見表

🌱 時期別の葉酸の摂取量(1日あたり)

時期 食事からの推奨量 サプリなどから
妊娠を考えていない成人(男女) 240μg 不要
妊活中〜妊娠3か月 240μg 400μg
妊娠中期・後期 480μg(240μg+付加量240μg) 必須ではない
授乳中 340μg(240μg+付加量100μg) 必須ではない
上限(耐容上限量) 食事からの葉酸には設定なし 18〜29歳900μg/30〜64歳1,000μg

※「日本人の食事摂取基準(2025年版)」[2]および健康長寿ネット[5]による。耐容上限量は、サプリや葉酸を加えた食品など「通常の食品以外の食品」に含まれる葉酸に適用されます。

表の「サプリなどから」の400μgは、食事の240μgと置き換えるものではなく、足し合わせる量です。サプリを飲んでいるから食事は気にしなくてよい、ということにはならない点に注意してください。

飲むタイミングは?朝でも夜でもよい

葉酸サプリを飲む時間帯に決まりはありません。大切なのは、毎日欠かさず続けることです。NIHの栄養補助食品局によると、サプリの葉酸は食事と一緒に摂っても少なくとも85%、空腹時ならほぼ100%が体に利用されます[3]。どちらでも十分に吸収されるため、朝食後、寝る前など、自分が忘れにくい時間に決めて習慣にするのがおすすめです。

つわりで吐き気が強い時期は、体調のよい時間帯に飲む、粒の小さい製品を選ぶといった工夫も考えられます。飲めない日が続く場合は、妊婦健診で相談してください。

食事だけでは補いにくい理由

食品に含まれる葉酸は、体に利用される割合がサプリの葉酸よりも低く、調理でも失われやすいため、食事だけで400μgを上乗せするのは難しいのです。NIHの栄養補助食品局によると、食品にもともと含まれる葉酸で体に利用されるのは約50%です[3]。葉酸は水に溶けやすく熱に弱いビタミンで、ゆでたり水にさらしたりすると減ってしまいます。

国の推奨が、妊娠を計画している時期の400μgを「通常の食品以外の食品から」としているのは、こうした性質を踏まえたものです[1][2]。もちろん、食事からの葉酸も大切です。葉酸の多い野菜や豆類、調理のコツについては、葉酸を含む食べ物とは?で詳しく紹介しています。

摂りすぎの目安:上限はサプリ由来の葉酸に適用

サプリなどからの葉酸の上限は、18〜29歳で1日900μg、30〜64歳で1日1,000μgです。食事からの葉酸には上限は設けられていません。[2][5]

上限が設けられている主な理由は、大量の葉酸がビタミンB12の不足を見えにくくすることです。ビタミンB12が不足すると貧血と神経の障害が起こりますが、葉酸を大量に摂ると貧血だけが改善し、神経の障害は進んでしまうことがあります[3][5]。葉酸サプリとマルチビタミン、葉酸入りの食品を重ねて摂ると、知らないうちに上限に近づくことがあります。摂りすぎのリスクや注意点は、葉酸摂取の副作用はある?摂りすぎリスクやサプリの注意点で詳しく解説しています。

4. 妊婦に葉酸はなぜ必要?葉酸サプリの効果

妊婦さんに葉酸が必要なのは、葉酸が細胞の分裂に欠かせないビタミンで、妊娠初期の赤ちゃんの体づくり、特に神経管の形成に深く関わるからです。葉酸は水溶性のビタミンB群の一つで、遺伝情報であるDNAをつくる材料の合成に関わっています[3]。細胞が分裂するときにはDNAをまるごと写し取るDNA複製が必要なので、細胞が急速に増える場所ほど葉酸がたくさん必要になります。

妊娠初期の赤ちゃんは、1つの受精卵から数週間のうちに脳や脊髄、心臓などの器官のもとを次々につくっていきます。この時期に葉酸が足りないと、細胞分裂がうまく進まないおそれがあります。葉酸サプリの効果として科学的に確かめられているのは、次に説明する神経管閉鎖障害のリスク低下です。

神経管閉鎖障害のリスクを下げる

妊娠前から妊娠初期に葉酸を摂ると、赤ちゃんの神経管閉鎖障害のリスクが下がることが、複数のランダム化比較試験で確かめられています。神経管閉鎖障害は、脳や脊髄のもとになる神経管がうまく閉じないことで起こる生まれつきの病気で、代表的なものに二分脊椎と無脳症があります。病気の詳しい内容や、いつ分かるかについては、神経管閉鎖障害の原因と葉酸の関係で解説しています。

💡 用語解説:神経管閉鎖障害(NTD)

神経管は、妊娠初期に赤ちゃんの背中側にできる管状の構造で、やがて脳と脊髄になります。この管の上端が閉じないと無脳症、下端が閉じないと二分脊椎になります。二分脊椎では、足の運動や感覚の障害、排せつの障害、水頭症などが起こることがあります。英語の neural tube defects の頭文字から、NTDと略されます。

葉酸の効果を最初にはっきり示したのは、英国医学研究評議会(MRC)が7か国33施設で行った試験です。以前に神経管閉鎖障害の赤ちゃんを妊娠したことがある女性を対象に、妊娠前から葉酸を飲むグループと飲まないグループを比べたところ、葉酸のグループでは再発が72%少なくなりました(相対リスク0.28)[6]。続いてハンガリーで、神経管閉鎖障害の妊娠歴がない女性を対象に、葉酸0.8mgを含むマルチビタミンの効果を調べた試験が行われました。神経管閉鎖障害は、マルチビタミンのグループで0件、比較のグループで6件でした[7]。

これらの試験をまとめたコクラン・レビュー(2015年)では、妊娠前後の葉酸の補充によって神経管閉鎖障害のリスクが約3分の1になっていました(相対リスク0.31、5試験・6,708出生)[8]。米国予防医療専門委員会(USPSTF)は2023年、妊娠を計画している人や妊娠する可能性のある人は、葉酸0.4〜0.8mg(400〜800μg)を含むサプリを毎日摂ることを、最も推奨度の高い「A」として改めて推奨しています[9]。

日本では、二分脊椎の発症が1987〜1991年の出生1万人あたり3.10人から、2007〜2011年の5.59人へと増えていたことが報告されています[4]。葉酸を妊娠前から摂ることの大切さが、今も呼びかけられ続けているのはこのためです。

血液をつくる働き:巨赤芽球性貧血を防ぐ

葉酸には、ビタミンB12と協力して赤血球をつくる働きもあります。葉酸が不足すると、骨髄で赤血球のもとになる細胞が正常に分裂できず、大きく未熟な細胞(巨赤芽球)のまま壊れてしまいます。その結果起こるのが巨赤芽球性貧血です[5][3]。

妊娠中は血液の量が増え、赤ちゃんと胎盤でも細胞がさかんに増えるため、葉酸の必要量が増えます。妊娠中期以降も食事からの付加量が設けられているのは、こうした理由からです。葉酸と貧血の関係は、葉酸は貧血予防にも効果あり!巨赤芽球性貧血を防ぐおすすめ食品で詳しく紹介しています。

リスクは下がるが「ゼロ」にはならない

葉酸を飲んでいても、神経管閉鎖障害のリスクがゼロになるわけではありません。コクラン・レビューでも、葉酸のグループで神経管閉鎖障害がまったく起こらなかったわけではなく、リスクが下がったという結果でした[8]。

神経管閉鎖障害は、複数の遺伝的な要因と環境の要因が重なって起こる、いわゆる多因子遺伝の病気と考えられています。葉酸が足りないことは要因の一つにすぎず、葉酸では防げないタイプもあります。また、コクラン・レビューでは、神経管閉鎖障害以外の先天異常全体(相対リスク0.94)、口唇裂・口蓋裂、心臓の病気について、はっきりした予防効果は認められていません[8]。

ですから、葉酸を飲んでいたのに赤ちゃんに病気が見つかったとしても、それは飲み方が悪かったからではありません。反対に、葉酸を飲まなかったことだけが原因とも言い切れません。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【葉酸は「お守り」ではなく「確率を下げる道具」】

妊娠前から妊娠初期に適量の葉酸を摂取することは、神経管閉鎖障害のリスクを低減することが確立している予防策の一つです。

ただし、葉酸を摂取しても神経管閉鎖障害のリスクがゼロになるわけではありません。また、摂取できなかったことだけで神経管閉鎖障害の原因を特定することもできません。葉酸によるリスク低減と、妊婦健診や必要な検査はそれぞれ役割が異なります。

5. 葉酸に「期待できないこと」—よくある誤解

葉酸で確かめられている効果は、神経管閉鎖障害のリスク低下と、葉酸不足による貧血の予防です。それ以外の効果として語られることの多くは、まだ確かめられていません。インターネットやサプリの広告で目にする主な説明を、研究で分かっていることと並べて整理します。

🔍 葉酸について分かっていること・分かっていないこと

よく聞く説明 研究で分かっていること
神経管閉鎖障害を防ぐ リスクが下がることは確立(ゼロにはならない)
妊娠しやすくなる・着床率が上がる 観察研究で関連の報告はあるが、効果は確かめられていない
流産を防ぐ 予防効果は認められていない
ダウン症を防ぐ 予防できるという根拠はない
男性が飲むと精子がよくなる ランダム化比較試験で改善は認められなかった

※根拠は本章の各項目で示す文献[8][10][11]による。

葉酸で妊娠しやすくなる?着床率は上がる?

葉酸で妊娠しやすくなる、着床率が上がるという効果は、確かめられていません。妊娠を計画中のデンマークの女性3,895人を追跡した研究では、葉酸サプリを使っていた女性のほうが、妊娠までの期間がやや短い傾向がありました(妊娠しやすさの比1.15)[10]。

ただし、これは観察研究で、サプリを飲む人は生活習慣全体に気を配っている、といった別の要因の影響を取り除ききれません。「関連がある」ことと「葉酸が原因で妊娠しやすくなる」ことは別です。また、コクラン・レビューでは、葉酸の補充による流産の予防効果は認められていません(相対リスク1.10)[8]。葉酸は、妊娠しやすくするためではなく、妊娠したときの赤ちゃんの神経管閉鎖障害のリスクを下げるために飲むもの、と理解しておくのが正確です。

葉酸でダウン症は防げる?

葉酸でダウン症を防げるという根拠はありません。ダウン症候群(21トリソミー)は、卵子や精子ができる過程で染色体がうまく分かれない染色体不分離によって、21番染色体が1本多くなることで起こります。神経管がうまく閉じない神経管閉鎖障害とは、起こる仕組みがまったく異なります。

コクラン・レビューでも、神経管閉鎖障害以外の先天異常について、葉酸の予防効果は認められていません[8]。「葉酸を飲んでいたのに」と悩む方に向けた詳しい解説は、葉酸飲んでたのに…ダウン症の原因とサプリの効果をご覧ください。

男性も葉酸を飲むべき?

神経管閉鎖障害を防ぐという目的で、男性が葉酸サプリを飲む必要はありません。精子の質がよくなるという効果も確かめられていません。神経管閉鎖障害のリスクを下げるのは、妊娠する女性の体内の葉酸です。

不妊治療中のカップル2,370組を対象にした米国のランダム化比較試験(FAZST試験)では、男性に葉酸5mgと亜鉛30mgを6か月間飲んでもらい、偽薬と比べました。その結果、精液の所見はほとんど変わらず、赤ちゃんが生まれた割合も34%と35%で差がありませんでした。一方、腹痛や吐き気などの消化器症状は、サプリのグループで多くみられました[11]。

男性も、ふだんの食事から推奨量の240μgを摂ることは大切です[2]。ただ、それ以上にサプリで大量に摂る根拠はありません。男性ができる妊活の準備は、妊活で男性がやるべきことで紹介しています。

6. より多くの葉酸が必要な人は医師に相談を

以前に神経管閉鎖障害の赤ちゃんを妊娠したことがある人や、抗てんかん薬を飲んでいる人は、一般の推奨量より多い葉酸が必要になることがあります。自己判断ではなく、妊娠前に主治医と量を相談してください。

⚠️ 妊娠前に主治医へ相談したい人

・以前に神経管閉鎖障害(二分脊椎・無脳症など)の赤ちゃんを妊娠したことがある
・抗てんかん薬(バルプロ酸など)を飲んでいる
・そのほか、持病があって薬を飲んでいる、栄養の吸収に影響する病気がある

神経管閉鎖障害の妊娠歴がある場合、2000年の厚生省の情報提供では、医師の管理のもとで、より多くの葉酸を摂ることが必要とされています[1]。先に紹介したMRCの試験で用いられたのは1日4mgで[6]、NIHの栄養補助食品局も、こうした女性には妊娠の1〜3か月以上前から1日4,000〜5,000μgの葉酸を摂るよう専門家が勧めていると紹介しています[3]。これは一般の上限量を大きく超える量なので、市販のサプリを何粒も重ねて自己判断で増やすのではなく、医師の処方と管理のもとで行う必要があります。

抗てんかん薬を飲んでいる場合、バルプロ酸などの一部の薬は葉酸の働きを妨げ、神経管閉鎖障害のリスクを上げることが知られています[12]。胎児期にバルプロ酸にさらされた赤ちゃんに起こりうる影響は、胎児バルプロ酸症候群で解説しています。勧められる葉酸の量は、1日0.4mg以上とするもの[13]から、4〜5mgを考慮するとするもの[12]まで資料によって幅があり、飲んでいる薬や量によって変わります。妊娠を考えたら、抗てんかん薬を自己判断でやめたり減らしたりせず、まず主治医に相談してください。薬の調整と葉酸の量を、妊娠前に一緒に決めておくことが大切です。

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7. MTHFR遺伝子多型と活性型葉酸:臨床遺伝専門医の視点

MTHFR遺伝子の一般的な多型があっても、通常の合成葉酸を利用できます。葉酸サプリを選ぶ目的でMTHFR多型検査を行う必要も、現時点ではありません。「MTHFRの多型がある人は葉酸を活用できないので、活性型葉酸を選ぶべき」という情報について、現在の公的機関・専門学会の見解を整理します。

MTHFR遺伝子は、体内で葉酸を働く形(5-メチルテトラヒドロ葉酸)に変える酵素をつくる遺伝子です。この変換は、体内でメチル基をやりとりする1炭素代謝の一部にあたります。MTHFR遺伝子には、C677Tなど酵素の働きがやや弱くなる多型があり、日本人にも珍しくありません。

米国疾病予防管理センター(CDC)は、MTHFR遺伝子の多型がある人も、合成葉酸を含むすべての形の葉酸を利用できること、そして神経管閉鎖障害を防ぐ効果が示されているのは合成葉酸だけであることを明記しています。そのうえで、MTHFRの多型の有無にかかわらず、妊娠する可能性のある人には1日400μgの合成葉酸を勧めています[14]。

米国臨床遺伝・ゲノム学会(ACMG)も2013年の指針で、MTHFR多型の検査は臨床的な有用性が乏しく、血栓性素因の評価などでルーチンに行うべきではないとしました[15]。2020年の追補でも、多型検査を支持する根拠が乏しいという立場は変わっていません[16]。

活性型葉酸(メチル葉酸)は、MTHFRによる変換を経ずに使える形の葉酸です。ただし、神経管閉鎖障害の予防効果を大規模な試験で確かめられているのは合成葉酸のほうです[14]。活性型葉酸が「効かない」わけではありませんが、妊活中の葉酸として、根拠のある合成葉酸をわざわざ避ける理由はありません。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「遺伝子で選ぶ葉酸」に振り回されないために】

MTHFRの一般的な多型は集団中に広くみられ、多型があること自体は合成葉酸を利用できないことを意味しません。CDCは、MTHFR遺伝子多型がある人でも合成葉酸を利用できるとしています。

遺伝の情報は、使い方を誤ると不要な不安や出費につながります。妊活中の葉酸については、国や国際機関が勧める「妊娠前から合成葉酸400μg」を着実に続けることが、最も根拠のある選択だと考えています。持病やご家族の病気などで本当に遺伝の視点が必要なときには、専門医に相談していただくのがよいと考えています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 葉酸サプリを1日飲み忘れたらどうすればいい?

気づいた日から、いつもの量で飲むのを再開してください。飲み忘れた分を取り戻そうと、2日分をまとめて飲む必要はありません。1日飲み忘れただけで、赤ちゃんに影響が出るわけではありません。大切なのは、毎日続ける習慣をつくることです。時間帯に決まりはないので、忘れにくい時間に決めておきましょう。

Q2. 葉酸800μgのサプリは多すぎますか?

サプリなどからの葉酸の上限は、18〜29歳で1日900μg、30〜64歳で1日1,000μgなので、800μgはその範囲内です。米国予防医療専門委員会も、妊娠を計画している人に1日400〜800μgの葉酸を勧めています。ただし、マルチビタミンや葉酸入りの食品と重ねると上限を超えることがあるので、成分表示を確認してください(摂りすぎの注意点)。

Q3. 葉酸で流産は防げますか?

葉酸で流産を防げるという根拠はありません。複数のランダム化比較試験をまとめたコクラン・レビューでも、葉酸の補充による流産の予防効果は認められていません。妊娠初期の流産の多くは、赤ちゃんの染色体の偶然の変化によるもので、葉酸で防げるものではないと考えられています。

Q4. 葉酸を飲んでいたのに神経管閉鎖障害が起こることはありますか?

あります。葉酸は神経管閉鎖障害のリスクを大きく下げますが、ゼロにはしません。神経管閉鎖障害は複数の遺伝的・環境的な要因が重なって起こると考えられており、葉酸では防げないタイプもあります。葉酸を飲んでいたのに病気が見つかったとしても、飲み方が悪かったためではありません。

Q5. 葉酸サプリとマルチビタミンを両方飲んでもいいですか?

両方に葉酸が入っている場合は、合計量に注意してください。サプリなどからの葉酸の合計が、上限量(18〜29歳で900μg、30〜64歳で1,000μg)を超えないようにします。マルチビタミンに葉酸が400μg以上含まれていれば、葉酸サプリを別に飲む必要はありません。

Q6. 妊活中はサプリだけ飲めば食事は気にしなくていいですか?

いいえ。国が勧めているのは、ふだんの食事から推奨量の240μgを摂ったうえで、サプリなどから400μgを上乗せすることです。サプリは食事の代わりではありません。野菜や豆類など葉酸を含む食品を取り入れ、主食・主菜・副菜のそろった食事を心がけてください。

まとめ

葉酸サプリは、妊活を始めたら(妊娠の1か月以上前から)飲み始め、妊娠3か月(妊娠11週ごろ)までは食事に加えて1日400μgを続けるのが国の推奨です[1][2]。妊娠中期・後期は食事から1日480μg、授乳中は1日340μgが目安で、サプリなどからの葉酸の上限は1日900〜1,000μgです[2]。

妊婦さんに葉酸が必要なのは、赤ちゃんの神経管が妊娠5〜6週ごろ、つまり妊娠に気づくころに閉じるからです。妊娠前からの葉酸で神経管閉鎖障害のリスクは大きく下がりますが[8]、ゼロにはならず、妊娠しやすくなる、ダウン症や流産を防げるといった効果も確かめられていません。神経管閉鎖障害の妊娠歴がある方や、抗てんかん薬を飲んでいる方は、妊娠前に主治医と葉酸の量を相談してください。

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参考文献

  • [1] 厚生省. 神経管閉鎖障害の発症リスク低減のための妊娠可能な年齢の女性等に対する葉酸の摂取に係る適切な情報提供の推進について(報道発表資料). 2000年12月28日. [厚生労働省]
  • [2] 厚生労働省. 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書. 2024. [厚生労働省]
  • [3] Folate: Fact Sheet for Health Professionals. Office of Dietary Supplements, National Institutes of Health. [NIH ODS]
  • [4] 三戸夏子. 葉酸とサプリメント―神経管閉鎖障害のリスク低減に対する効果. e-ヘルスネット(厚生労働省). [e-ヘルスネット]
  • [5] 葉酸の働きと1日の摂取量. 健康長寿ネット(公益財団法人長寿科学振興財団). [健康長寿ネット]
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  • [10] Cueto HT, Riis AH, Hatch EE, et al. Folic acid supplementation and fecundability: a Danish prospective cohort study. Eur J Clin Nutr. 2016;70(1):66-71. [DOI]
  • [11] Schisterman EF, Sjaarda LA, Clemons T, et al. Effect of Folic Acid and Zinc Supplementation in Men on Semen Quality and Live Birth Among Couples Undergoing Infertility Treatment: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2020;323(1):35-48. [DOI]
  • [12] 日本産婦人科医会. (1)てんかん合併妊娠の問題点. [日本産婦人科医会]
  • [13] 国立病院機構 静岡てんかん・神経医療センター てんかん情報センター. 妊娠前から注意することはありますか? [てんかん情報センター]
  • [14] MTHFR Gene Variant and Folic Acid Facts. Centers for Disease Control and Prevention. [CDC]
  • [15] Hickey SE, Curry CJ, Toriello HV. ACMG Practice Guideline: lack of evidence for MTHFR polymorphism testing. Genet Med. 2013;15(2):153-156. [DOI]
  • [16] Bashford MT, Hickey SE, Curry CJ, Toriello HV. Addendum: ACMG Practice Guideline: lack of evidence for MTHFR polymorphism testing. Genet Med. 2020;22(12):2125. [DOI]

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プロフィール

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、
臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。
のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、
検査結果の数値そのものだけでなく、
「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、
一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、
日本人として異文化の中で生活した経験があります。
価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。
この経験は現在の診療においても、
「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、
36週6日で一人を死産した経験があります。
その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、
そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。
現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、
出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、
家族の未来に関わる重要な意思決定です。
年齢や統計だけで判断するのではなく、
医学的根拠と心理的支援の両面から、
ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/
日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。
2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、
複数の海外メディア・専門誌で特集掲載
されました。

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