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基礎体温グラフの見方|理想の形・妊娠したとき・ガタガタや高温期が短いときの目安

目次

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医として遺伝医療に携わっています。

基礎体温グラフを見るときのポイントは、①低温期と高温期の2つに分かれているか、②2つの差がおよそ0.3℃以上あるか、③高温期がおよそ2週間続いているか、の3つです。ただし、グラフの形だけで排卵の有無や病気を決めることはできません。この記事では、理想の基礎体温グラフ、妊娠したときのグラフ、ガタガタ・一相性・高温期が短いといった注意したい型、多嚢胞性卵巣症候群のときのグラフを、型ごとの受診の目安とあわせて解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
🌡️ 基礎体温グラフの見方・型・受診の目安
★ 臨床遺伝専門医監修

Q. 基礎体温グラフはどこを見ればよいですか?

A. 低温期と高温期の二相に分かれているか、その差がおよそ0.3℃以上あるか、高温期がおよそ2週間(11〜17日)続いているかを見ます。周期全体の長さが25〜38日に収まっているかもあわせて確認します。グラフは排卵が「あったらしい」ことを後から推し量る手がかりで、排卵日の特定や、黄体機能不全・多嚢胞性卵巣症候群の診断には使えません。気になる形が数周期続くときは、婦人科で血液検査や超音波検査を受けて確かめます。

  • ➤理想のグラフ → 低温期と高温期の二相。高温期はおよそ2週間
  • ➤妊娠したとき → 生理予定日を過ぎても高温期が続く。確認は妊娠検査薬で
  • ➤注意したい型 → 一相性、高温期が短い・不安定、低温期が長い(周期が長い)
  • ➤多嚢胞性卵巣症候群 → 低温期が長い・一相性になりやすいが、グラフだけでは診断できない

1. 基礎体温グラフで分かること・分からないこと

基礎体温グラフから分かるのは、「排卵のあとに黄体ホルモンが出ていたらしい」という体のリズムの推測です。病気の有無や正確な排卵日を示す検査ではありません。まずこの前提を押さえておくと、グラフの形に一喜一憂しすぎずに済みます。

基礎体温とは、朝目が覚めてすぐ、体を起こす前の安静な状態で測る体温のことです。食事や運動の影響をできるだけ除いた体温なので、女性ホルモンによるわずかな変化が表に出やすくなります。基礎体温そのものの意味は基礎体温と体温の違いで、記録のしかたは基礎体温表のつけかたで解説しています。

グラフから推測できること

グラフから推測できるのは、排卵がありそうか、高温期がどのくらい続いたか、妊娠の可能性があるか、の3点です。体温が上がるのは、排卵のあとに卵巣にできる黄体(おうたい)がプロゲステロン(黄体ホルモン)を分泌するためです。プロゲステロンや、尿中に出てくるその代謝物を測れば排卵を後から確かめられ、プロゲステロンが体温を上げることから、基礎体温も排卵の判定に使われてきました[1]。

つまり、グラフが低温期から高温期へはっきり切り替わっていれば、「この周期は排卵があり、そのあと黄体が働いていたらしい」と考えることができます。高温期が何日続いたかを数えれば、黄体が働いていた期間のおおよその長さもわかります。生理予定日を過ぎても高温期が続いていれば、妊娠している可能性を考えるきっかけになります。

グラフだけでは分からないこと

グラフだけでは、正確な排卵日も、黄体機能不全や多嚢胞性卵巣症候群といった病気の有無も判断できません。体温が上がるのは排卵の「あと」なので、グラフで排卵に気づいた時点では、妊娠しやすい数日間はすでに過ぎていることが多いのです。

排卵のタイミングを知る方法としての基礎体温は、以前から信頼性が低いと指摘されてきました。1981年の研究は、基礎体温を排卵を見つける方法として頼りにならないと結論づけています[2]。体温がはっきり上がるまでに時間がかかる人もいて、排卵から3日後まで明確な上昇が見られない場合があることも知られています[3]。

基礎体温は、発熱や体調不良、ストレス、飲酒、睡眠不足、時差ぼけなどの影響も受けます[3]。月経が不規則な人では排卵の時期そのものが読みにくいため、グラフの解釈はさらに難しくなります[3]。排卵を事前に知りたい場合は、尿中のLH(黄体形成ホルモン)を調べる排卵検査薬などと組み合わせて考えます。

💡 用語解説:黄体とプロゲステロン

排卵で卵子が飛び出したあとの卵胞は、黄体(おうたい)という組織に変わります。黄体はプロゲステロン(黄体ホルモン)を分泌し、子宮内膜を受精卵が着床しやすい状態に整えます。プロゲステロンには体温を上げる働きもあるため、黄体が働いているあいだ基礎体温は高くなります。妊娠しなければ黄体はおよそ2週間で役目を終え、プロゲステロンが減って体温が下がり、月経が始まります。

2. 理想(正常)の基礎体温グラフ

理想の基礎体温グラフは、月経から排卵までの低温期と、排卵から次の月経までの高温期がはっきり分かれた「二相性」の形です。高温期はおよそ2週間続き、周期全体は25〜38日に収まります。次の図は、周期28日の典型的な形を模式的に描いたものです。

理想的な二相性の基礎体温グラフの模式図(低温期のあと体温が上がり、約2週間の高温期が続く)

※模式図。横軸は周期の日数(月経開始日が1日目)、縦軸は基礎体温(℃)、赤い帯は月経の期間。以下の図も同じです。

月経周期の1日目
▶
卵胞期(低温期)卵胞が育つ
▶
排卵LHサージが引き金
▶
黄体期(高温期)約2週間
▶
次の月経妊娠すれば高温期が続く

低温期と高温期の二相に分かれる

基礎体温が二相に分かれるのは、排卵のあとに黄体が出すプロゲステロンが体温を上げるためです。月経が始まってから排卵までの時期は卵胞期と呼ばれ、卵巣の中で卵胞(卵子を包む袋)が育ちながらエストロゲン(卵胞ホルモン)を出しています。この時期はプロゲステロンがほとんど出ていないので、体温は低いまま推移します。これが低温期です。

卵胞が十分に育つと、脳の下垂体からLH(黄体形成ホルモン)が一気に分泌されます。これをLHサージといい、排卵を起こす引き金になります。排卵後、卵胞は黄体に変わってプロゲステロンを分泌し始め、その作用で基礎体温が上がります[3]。ここから次の月経までが黄体期、つまり高温期です。体温を上げているのはLHそのものではなく、排卵後の黄体が出すプロゲステロンだという点が、グラフを読むうえでの基本になります。

二相に分かれたグラフは、その周期に排卵があり、黄体が働いていたことをうかがわせる形です。ただし、きれいな二相でも排卵が確かめられたわけではなく、反対に排卵していてもはっきり二相にならない周期もあります[2]。

低温期と高温期の差は0.3℃以上が目安

低温期と高温期の体温差は、およそ0.3〜0.5℃が目安です。海外の資料では、排卵後に華氏で約0.5〜1度(摂氏でおよそ0.3〜0.5℃)上がると説明されています[3]。

この差はとても小さいため、測る時刻がずれたり、起きてから動いたりすると埋もれてしまいます。差がはっきりしないときは、まず測り方がそろっているかを見直します。

なお、0.3℃は目安であって、診断の基準ではありません。差が0.25℃だったから異常、0.35℃だったから正常、というように線を引いて判定するものではない点に注意してください。低温期・高温期がそれぞれ何度くらいかという「数値」の目安は、高温期は何度から?基礎体温の平均で詳しく解説しています。

高温期はおよそ12〜14日続く

高温期(黄体期)の長さは平均14日で、11〜17日の幅は正常の範囲とされています。米国生殖医学会(ASRM)の委員会見解は、黄体期の平均の長さを14日、正常なばらつきを11〜17日と示しています[4]。

高温期の長さがほぼ一定なのは、黄体の寿命がおおむね決まっているためです。妊娠が成立しなければ、黄体は約2週間で小さくなってプロゲステロンの分泌が減り、体温が下がって月経が始まります。そのため、高温期の日数は周期ごとの差が小さく、周期の長さの違いは主に低温期の長さの違いから生まれます。

高温期の日数は、体温が上がった日から、月経が始まる前日までを数えます。何日目を「上がった日」とするかで1〜2日ずれることがあるので、1周期の数字にこだわらず、数周期の傾向で判断します。高温期が10日以下の周期が続く場合の考え方は、第4章で説明します。

低温期の長さは人によって違う

低温期の長さには決まった「理想の日数」はなく、周期全体が25〜38日に収まっていれば、低温期が長め・短めでも心配はいりません。日本産科婦人科学会の定義では、正常な月経周期は25〜38日で、周期ごとの変動は6日以内とされています[5]。

低温期は卵胞が育つのにかかる期間なので、卵胞の育ち方によって長さが変わります。たとえば周期が35日の人は、高温期を14日とすると低温期はおよそ21日になります。これは「低温期が長すぎる」のではなく、その人の周期に合った長さです。「低温期は14日が理想」という説明を見かけることがありますが、そうした固定の基準はありません。

一方、周期が24日以内の状態は頻発月経、39日以上の状態は希発月経と呼ばれ[5]、排卵がうまく起きていない可能性を考えるきっかけになります。低温期の長さを見るときは、低温期だけを切り取らず、周期全体の長さとセットで確認してください。

ゆるやかに上がる型も正常の範囲

低温期から高温期への切り替わりに数日かかる「ゆるやかに上がる型」も、正常の範囲に入ります。体温がはっきり上がるまでに時間がかかる人がいて、排卵から3日後まで明確な上昇が見られない場合があります[3]。

低温期から高温期へ数日かけてゆるやかに上がる基礎体温グラフの模式図

※模式図。数日かけて体温が上がっています。

プロゲステロンの分泌は排卵後に少しずつ増えていくため、体温の上がり方にも個人差が出ます。1〜2日で一気に上がる人もいれば、階段を上るように数日かけて上がる人もいます。上がりきったあとに高温期がおよそ2週間続いていれば、黄体は働いていると考えられます。

この型では排卵のタイミングを推し量りにくくなりますが、基礎体温はもともと排卵日を言い当てる方法ではありません。詳しくは高温期に体温がゆっくり上昇する原因で解説しています。

グラフのどこで排卵している?

排卵は、低温期から高温期へ切り替わるあたりで起きていると推測されますが、グラフからどの日と特定することはできません。体温の上昇は排卵を起こす仕組みではなく、排卵後に黄体ができた「結果」なので、上がり始めた日と排卵日は一致しないことがあります。

「低温期の最終日にガクッと下がる日が排卵日」と言われることもありますが、この落ち込みはすべての周期に見られるわけではなく、排卵日と一致するとも限りません。体温の上昇が排卵から数日遅れることもあります[3]。

グラフは、あとから「このあたりで排卵があったらしい」と振り返り、次の周期の見通しに生かすのに向いています。排卵日を前もって知る方法は、排卵日はいつ?排卵日の計算方法でまとめています。

生理前には体温が下がる

妊娠していない周期では、黄体が役目を終えてプロゲステロンが減るため、生理が始まる前後に体温が下がって低温期に戻ります。高温期の終わりに体温が下がり、それに続いて月経が始まるのが、二相性グラフの一周期の締めくくりです[1]。

体温が下がるタイミングは、生理の1〜2日前のこともあれば、生理が始まった日と重なることもあり、人によって違います。

反対に、生理予定日になっても体温が下がらず高温期が続く場合は、妊娠の可能性を考えます(次の章で説明します)。生理前の体温の下がり方については、生理前の基礎体温はいつ頃から変化する?で詳しく解説しています。

3. 妊娠したときの基礎体温グラフ

妊娠したときの基礎体温グラフは、高温期がいつもの長さを超えて続き、生理予定日を過ぎても体温が下がらない形になります。ただし、グラフで分かるのは「妊娠の可能性」までです。

妊娠したときの基礎体温グラフの模式図(高温期が生理予定日を過ぎても続く)

※模式図。高温期が生理予定日(28日目ごろ)を過ぎても続いています。

高温期が生理予定日を過ぎても続く

妊娠すると高温期が続くのは、黄体が働き続けてプロゲステロンが出続けるためです。排卵後に黄体が出すプロゲステロンは、胎盤が十分なプロゲステロンを出せるようになるまでのあいだ、妊娠を成り立たせ、維持するのに欠かせません[6]。

妊娠が成立しない周期では、黄体は約2週間で小さくなり、プロゲステロンが減って体温が下がります。受精卵が着床すると、そこから出るhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)というホルモンが黄体を刺激し続けるため、黄体は小さくならずにプロゲステロンを出し続けます。その結果、生理予定日を過ぎても体温が下がらず、高温期が続くのです。

高温期が何日続いたら妊娠を考える?

高温期が「いつもの自分の高温期」より長く続き、生理予定日を過ぎても下がらない場合に、妊娠の可能性を考えて妊娠検査薬で確かめます。「何日続いたら妊娠」と日数で決まる基準はありません。

高温期の正常な長さは11〜17日とされています[4]。これを超えて高い体温が続いていれば、「普段より高温期が長い」とは言えます。インターネット上では「18日以上」「21日以上」続けば妊娠、といった日数を見かけますが、こうした日数を診断の基準として示した医学的な根拠は確認できません。

生理予定日を過ぎても体温が下がらないときは、妊娠検査薬を使うタイミングの目安を確認したうえで検査します。検査薬の使い方やタイミングは、妊娠検査薬はいつから使える?で解説しています。陽性であれば、産婦人科で子宮の中に妊娠しているかを確かめます。

妊娠初期に体温が37℃を超えることも

妊娠初期は、プロゲステロンの作用で高温期と同じくらいの体温が続き、人によっては37℃を超える微熱のように感じることがあります。これは妊娠を維持するホルモンの働きによるもので、それ自体は病気のサインではありません。

高温期の体温が何度になるかには個人差があり、同じ妊娠初期でも36℃台後半の人もいれば37℃を超える人もいます。「37℃を超えないから妊娠していない」「37℃を超えたから妊娠している」とは言えないので、数値そのものより、生理予定日を過ぎても下がらずに続いているかどうかを見ます。

38℃近い発熱や、寒気・のどの痛みを伴う場合は、感染症などによる発熱のことがあるので、妊娠の可能性を伝えたうえで医療機関に相談してください。妊娠初期の体温については、妊娠初期の基礎体温は何度がいいの?で詳しく解説しています。

高温期のあとで体温が下がったとき

いつもより長く続いた高温期のあとで体温が下がった場合、ごく早い時期の流産(化学流産)が起きた可能性もありますが、基礎体温だけでは判断できません。化学流産とは、妊娠検査薬で陽性になるものの、超音波で妊娠を確認できる前に妊娠が終わってしまう状態のことです。

測った時刻のずれや寝不足でも1日だけ低く出ることがあるので、翌日以降も下がったままか、出血があるかをあわせて見ます。

妊娠検査薬で陽性が出たあとに体温が下がって出血があった場合や、陽性のあとに強い腹痛がある場合は、産婦人科を受診してください。化学流産と基礎体温の関係は、化学流産したときの基礎体温表の変化で詳しく解説しています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【グラフは「振り返る」ための記録】

基礎体温グラフは、毎朝の数字を積み重ねてはじめて意味を持つ記録です。1日の上がり下がりに気持ちが揺れやすいのですが、医学的に読み取れるのは、周期全体の形と、高温期がどのくらい続いたかという大まかな情報です。

とくに妊娠を望んでいる時期は、高温期の日数を数えて結論を急ぎたくなるものです。グラフは妊娠を判定する道具ではなく、自分のリズムを知り、必要なときに医療機関へ正確な情報を持っていくための記録だと考えています。

4. 注意したい基礎体温グラフの型と受診の目安

注意したいのは、「二相に分かれない」「高温期が短い・不安定」「周期が長い」といった形が、数周期にわたって続く場合です。1周期だけ形が崩れることは珍しくありません。ここでは型ごとに、考えられることと受診の目安を説明します。

ガタガタ:まず測り方を見直す

グラフが上下にガタガタしていても、全体として低温期と高温期に分かれていれば、多くは心配のいらない範囲です。基礎体温は非常に小さな変化を見ているため、発熱や体調不良、ストレス、飲酒、睡眠不足、時差ぼけなど、さまざまな要因で上下します[3]。

ガタガタが気になるときは、まず測り方を見直します。確認したいのは、毎朝同じ時刻に測れているか、目が覚めてすぐ体を起こす前に測れているか、体温計を舌の下の同じ位置に当てているか、夜中に何度も起きていないか、前の晩にお酒を飲んでいないか、といった点です。二度寝したり、夜中にトイレに起きたりした日は、その旨をメモしておくと、あとで見返すときに外れ値として扱えます。

測り方を整えても、全体として二相に分かれない周期が続く場合は、次の「一相性」の型として考えます。ガタガタになる原因や、ガタガタでも妊娠できるかについては基礎体温がガタガタな人に考えられる原因と対処法で、毎朝の測り方や記録のコツは基礎体温表のつけかたで解説しています。

二相に分かれない(一相性):無排卵の可能性

周期を通して高温期らしい時期が現れない「一相性」のグラフは、その周期に排卵がなかった(無排卵周期)可能性を示します。排卵がなければ黄体ができず、プロゲステロンによる体温の上昇も起こらないためです。

二相に分かれない一相性の基礎体温グラフの模式図(体温が上下するだけで高温期が現れない)

※模式図。はっきりした高温期がありません。

注意したいのは、月経のような出血があっても、排卵しているとは限らないことです。排卵がなくても、エストロゲンで厚くなった子宮内膜がはがれて出血することがあり、これを無排卵月経といいます。背景には、ストレスや急な体重の変化、過度な運動、多嚢胞性卵巣症候群、甲状腺の病気、高プロラクチン血症(プロラクチンというホルモンが高くなる状態)などがあります。

一方で、一相性に見えても実際には排卵している周期もあります[2]。測り方のばらつきで二相が見えにくくなっているだけのこともあるので、1周期だけで「無排卵」と決めつける必要はありません。一相性の周期が2〜3周期続く場合や、月経周期が39日以上あく・不規則な場合は、婦人科で排卵の有無を確かめることを考えてください。

高温期が短い(10日以下):黄体機能不全の疑い

高温期が10日以下の周期が続く場合は、黄体の働きが十分でない「黄体機能不全」が疑われます。ただし、基礎体温のグラフで黄体機能不全を診断することはできません。ASRMの委員会見解(2026年改訂)は、黄体機能不全を、黄体期が10日以下であることに関連する臨床的な診断と位置づけています[6]。

高温期が短い基礎体温グラフの模式図(高温期が1週間ほどで下がる)

※模式図。高温期が7〜8日ほどで終わり、早めに体温が下がっています。

同じ見解は、黄体機能不全を見つける方法として提案されてきたもの、つまり基礎体温で見た短い高温期、排卵検査薬(LH)、血中プロゲステロンの測定、子宮内膜の組織検査のいずれも、妊娠できる人とできない人をはっきり区別できていないとしています[6]。さらに、黄体機能不全が単独で不妊や流産の原因になることは証明されていない、というのが現在の整理です[6]。

そのため、高温期が短いグラフを見たときに大切なのは、黄体の働きを乱す背景がないかを調べることです。黄体の働きの低下と関連が指摘されている状態には、甲状腺の病気、高プロラクチン血症、過度な運動、大幅な体重減少、摂食障害、ストレス、肥満、多嚢胞性卵巣症候群、子宮内膜症、加齢などがあります[6]。背景に病気があればその治療が優先され、明らかな原因がない場合に経験的に治療を行うことは、一般には勧められていません[6]。高温期が10日以下の周期が何周期か続く場合は、記録を持って婦人科に相談してください。

高温期が不安定・途中で下がる

高温期の途中で体温が何度も落ち込む不安定な形も、黄体の働きが弱い可能性を考えるきっかけになりますが、測定条件による上下との区別がつきにくい型です。高温期の体温は、プロゲステロンの量だけでなく、睡眠や体調にも左右されます。

高温期の途中で体温が上下する不安定な基礎体温グラフの模式図

※模式図。高温期の途中で何度か低い日があります。

1日だけ下がってすぐ戻る程度なら、測定条件の影響のことが多く、あまり気にしなくて大丈夫です。低温期に近い体温まで何度も下がり、それが数周期続く場合に、黄体の働きを確かめる意味が出てきます。

かつてはこうした形が黄体機能不全の手がかりとされてきましたが、現在は基礎体温で診断することはできないとされています[6]。前の項目と同じく、背景となる病気がないかを確かめる順序で考えます。

高温期が低い・差が小さい

高温期と低温期の差が小さい、高温期の体温そのものが低いといったグラフも、それだけで異常とは言えません。基礎体温の値には個人差があり、「高温期が何度以下なら異常」という基準はありません。

差が小さく見える原因として多いのは測り方です。舌の下の位置がずれる、口を開けて呼吸している、測る時間が短いといったことで、体温は低めに出やすくなります。まずは同じ体温計・同じ条件で測れているかを確認します。

そのうえで、差が小さい状態が続き、しかも高温期が短い、周期が不規則などの変化を伴う場合は、黄体の働きや排卵の状態を婦人科で確かめる意味があります。差の大きさだけで判断せず、高温期の長さや周期の長さとあわせて見てください。体温が低めであることへの対策は、基礎体温を上げる方法で解説しています。

低温期が長い(周期が長い)

低温期が長く、周期全体が39日以上になる場合は、卵胞が育って排卵するまでに時間がかかっている状態で、希発月経にあたります。正常な月経周期は25〜38日で、39日以上あく月経は希発月経と呼ばれます[5]。

低温期が長く周期が40日ほどになる基礎体温グラフの模式図

※模式図。低温期が約25日続き、周期はおよそ40日です。

低温期が長くても、そのあと高温期がおよそ2週間続いていれば、排卵は起きていると考えられます。ただ、周期が長いと1年あたりの排卵の回数が少なくなります。ときどき一相性の周期が混じる場合は、排卵が不規則になっている可能性があります。

周期が長くなる原因には、多嚢胞性卵巣症候群、体重の急な変化、ストレス、甲状腺の病気、高プロラクチン血症などがあります。周期が39日以上になることが続く場合や、3か月以上月経がない場合は、婦人科で原因を確かめることを考えてください。多嚢胞性卵巣症候群のグラフについては、次の章で説明します。

📊 注意したいグラフの型と考えられること・受診の目安

グラフの型 考えられること 受診の目安
ガタガタ(全体は二相) 測る条件のばらつき。多くは心配のいらない範囲 まず測り方を見直す。二相が続いていれば様子を見てよい
一相性(二相に分かれない) 無排卵周期の可能性。測り方で見えにくいだけのことも 2〜3周期続く、または周期が不規則なら婦人科へ
高温期が短い(10日以下) 黄体機能不全の疑い。グラフだけでは診断できない 数周期続く場合、背景の病気がないか婦人科で確認
高温期が不安定 黄体の働きが弱い可能性。測定条件の影響との区別が難しい 低温期並みの落ち込みが数周期続く場合に相談
高温期が低い・差が小さい 個人差や測り方の影響が多い 高温期が短い・周期が不規則などを伴う場合に相談
低温期が長い(周期39日以上) 排卵までに時間がかかっている(希発月経) 39日以上の周期が続く、3か月以上月経がない場合

※どの型も、グラフだけで病気を診断することはできません。確かめるには、婦人科での血液検査(ホルモン測定)や超音波検査が必要です。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【形が気になったら、検査で確かめる】

黄体機能不全という言葉は、基礎体温の解説でよく目にします。けれども、米国生殖医学会の最新の見解では、基礎体温を含むどの方法でも、妊娠できる人とできない人をはっきり区別できていないとされています。グラフの形から病名を当てはめるより、背景にある甲状腺やホルモンの異常を確かめるほうが、医学的には筋の通った順序だと考えています。

気になる形が続くときは、グラフを「異常の証拠」として抱え込むのではなく、何周期分かの記録を持って婦人科を受診し、血液検査や超音波検査で実際の状態を確かめてください。

5. 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)のときのグラフ

多嚢胞性卵巣症候群(たのうほうせいらんそうしょうこうぐん:PCOS)では、排卵が起こりにくいため、低温期が長いグラフや、二相に分かれない一相性のグラフになりやすくなります。ただし、グラフの形でPCOSを診断することはできません。

この病気の名前については、2026年に大きな動きがありました。「卵巣にたくさんの嚢胞ができる病気」という印象を与える名称が実態に合わないとして、国際的な合意のもとで新しい名称 Polyendocrine Metabolic Ovarian Syndrome(PMOS)が定められ、その合意の過程が医学誌に報告されています[7]。日本内分泌学会も、今後はPMOSという名称が使われる予定であると案内しています[8]。日本語の正式な名称はまだ定まっていないため、この記事では検索で使われることの多い「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)」と表記します。

💡 用語解説:多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)

多嚢胞性卵巣症候群は、卵巣の中で卵胞が途中までしか育たず、排卵が起こりにくくなる病気です。男性ホルモンやLHが高めになる、インスリンが効きにくくなるといった変化を伴うことがあり、月経不順、にきび、毛深さ、不妊などをきっかけに見つかることが多い病気です。

PCOSで見られやすいグラフ

PCOSで見られやすいのは、低温期がだらだらと長く続く、二相に分かれない周期が混じる、周期ごとに長さが大きく変わる、といったグラフです。PCOSでは卵胞が育ちきらずに排卵が遅れたり、起こらなかったりするため、高温期に入るタイミングが遅れる、あるいは高温期が現れないという形になります。

排卵のある周期とない周期が混ざることもあり、第4章の「低温期が長い」や「一相性」の型に当てはまりやすいのが特徴です。

ただし、こうした形はPCOSに特有のものではありません。ストレスや体重の変化、甲状腺の病気、高プロラクチン血症などでも、同じように低温期が長い・一相性のグラフになります。反対に、PCOSでも比較的規則的に排卵している人もいます。基礎体温はPCOSのような状態によって評価が影響を受けやすいことが指摘されており[1]、グラフの形から「PCOSだ」「PCOSではない」と判断することはできません。

グラフ以外の手がかりと検査

PCOSかどうかは、月経の状態に加えて、超音波検査で見た卵巣の様子と、血液検査のホルモン値をあわせて診断します。日本産科婦人科学会の診断基準は2023年12月に改定され(日産婦2024)、新たに多毛や、AMH(抗ミュラー管ホルモン)高値が項目に加わりました[9]。

グラフ以外の手がかりは、月経の間隔が長い・不規則、にきびや毛深さ、体重の増加といった体の変化です。

婦人科では、経腟超音波で卵巣の中の小さな卵胞の数を見たり、血液検査でLH、男性ホルモン、AMHなどを測ったりして、PCOSかどうかを判断します。日本の基準は国際的な基準と項目の組み合わせ方が異なるため、どの基準で診断されたかも含めて説明を受けてください。PCOSを疑うきっかけになる症状は、多嚢胞性卵巣症候群を疑うべき症状で詳しく解説しています。

6. 受診したほうがよいタイミング

受診を考える目安は、「同じ気になる形が数周期続く」「月経周期が25〜38日の範囲から外れる」「妊娠を望んでいるのに一定期間妊娠しない」のいずれかに当てはまるときです。型ごとの目安は第4章の表にまとめましたが、ここでは全体を通した目安を整理します。

妊娠を望んでいる場合の期間の目安として、国内の生殖医療ガイドラインの考え方を示した厚生労働省の審議会資料は、避妊せずに通常の性生活を続けても1年たって妊娠に至らない状態を不妊症としています。そのうえで、1年に満たなくても、女性の年齢が35歳以上の場合や、明らかな不妊の原因がある場合は検査や治療の対象になると説明しています[10]。ASRMも、35歳未満では12か月、35歳以上では6か月で検査を始めるよう示しています[11]。

🏥 基礎体温グラフから考える受診の目安

状況 目安
グラフの形 一相性、高温期が10日以下、高温期の大きな落ち込みなどが2〜3周期続く
月経周期 24日以内(頻発月経)、39日以上(希発月経)、周期が毎回大きく変わる
月経がない 妊娠していないのに3か月以上月経がない
妊娠を望んでいる 1年妊娠しない(35歳以上は6か月が目安)。月経不順など原因が思い当たる場合は期間を待たずに
妊娠の可能性 高温期が続き妊娠検査薬が陽性、または陽性後の出血・強い腹痛

※月経周期の定義は日本産科婦人科学会[5]、妊娠を望む場合の期間の目安は厚生労働省の審議会資料[10]とASRM[11]による。

受診するときは、基礎体温グラフを2〜3周期分持っていくと説明しやすくなります。婦人科では、血液検査で排卵後のプロゲステロンや甲状腺ホルモン、プロラクチンなどを測ったり、超音波で卵巣や子宮を確かめたりして、検査の結果にもとづいて診断します。

全体として二相に分かれ、周期が25〜38日に収まっているなら、細かなガタつきを理由に急いで受診する必要はありません。検査から治療までの流れは、不妊症の原因と診断から治療までの流れで解説しています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 基礎体温がガタガタでも妊娠できますか?

はい、妊娠することはあります。1日ごとにガタガタしていても、全体として低温期と高温期に分かれていれば、排卵が起きている可能性が高いと考えられます。二相に分かれない周期が続く場合は、婦人科で排卵の有無を確かめます。

Q2. 基礎体温がガタガタで生理がこないのはなぜですか?

高温期が現れないまま生理が遅れている場合、排卵がなかった、または遅れている可能性があります。妊娠の可能性があれば妊娠検査薬で確かめ、妊娠していないのに3か月以上生理がない場合や、39日以上の周期が続く場合は婦人科を受診してください。

Q3. 基礎体温で排卵していないと分かりますか?

基礎体温だけでは確定できません。一相性のグラフは無排卵の可能性を示しますが、排卵していてもはっきり二相にならない周期もあります。確かめるには、婦人科で血液検査や超音波検査を行います。

Q4. 基礎体温が上がらない・高温期がないときはどうすればよいですか?

まず測り方を確認してください。整えても高温期が現れない周期が2〜3周期続く場合や、月経周期が不規則な場合は、無排卵の可能性があるため婦人科に相談してください。

Q5. 高温期が何日続いたら妊娠ですか?

日数で妊娠を判定できる基準はありません。高温期の正常な長さは11〜17日とされており、いつもの自分の高温期より長く続き、生理予定日を過ぎても体温が下がらないときに妊娠の可能性を考えます。妊娠しているかどうかは、妊娠検査薬や医療機関での検査で確かめてください。

Q6. 何周期はかれば判断できますか?

1周期だけで判断せず、2〜3周期分の記録で傾向を見るのが一般的な考え方です。1周期の形が崩れても、次の周期では二相に分かれていることがあります。

まとめ

基礎体温グラフは、低温期と高温期の二相に分かれているか、その差がおよそ0.3℃以上あるか、高温期がおよそ2週間(11〜17日)続いているか[4]を、周期全体の形で見るのが基本です。周期の長さは25〜38日が正常の範囲で[5]、低温期の長さに決まった理想の日数はありません。妊娠すると、黄体が働き続けて高温期が生理予定日を過ぎても続きますが、何日続いたら妊娠という基準はなく、確認は妊娠検査薬で行います。

一相性、高温期が10日以下、周期が39日以上といった形が数周期続く場合は、無排卵や黄体の働きの低下、多嚢胞性卵巣症候群などの可能性を考えるきっかけになります。ただし、グラフの形だけでこれらを診断することはできず[6]、確かめるには婦人科での血液検査や超音波検査が必要です。

📘 基礎体温の乱れや排卵・月経の不調が気になる方へ

当院は、臨床遺伝専門医による遺伝子検査・遺伝診療を専門とするクリニックです。この記事は、基礎体温グラフを正しく読んでいただくための解説であり、当院での診療をご案内するものではありません。基礎体温の乱れ、排卵や月経の不調、多嚢胞性卵巣症候群が気になる場合は、婦人科・生殖医療を専門とする医療機関へご相談ください。

参考文献

  • [1] Detection of ovulation, a review of currently available methods. Bioeng Transl Med. 2017;2(3):238-246. [PMC5689497]
  • [2] Basal body temperature: unreliable method of ovulation detection. Fertil Steril. 1981;36(6):729-733. [PubMed 7308516]
  • [3] Physiology, Ovulation And Basal Body Temperature. StatPearls. [StatPearls]
  • [4] Practice Committee of the American Society for Reproductive Medicine. Diagnosis and treatment of luteal phase deficiency: a committee opinion. Fertil Steril. 2021;115(6):1416-1423. [ASRM]
  • [5] 日本産科婦人科学会 編. 産科婦人科用語集・用語解説集 改訂第4版. 2018.
  • [6] Practice Committees of the American Society for Reproductive Medicine and the Society for Reproductive Endocrinology and Infertility. Diagnosis and treatment of luteal phase deficiency: a Committee Opinion. Fertil Steril. 2026. [DOI]
  • [7] Polyendocrine metabolic ovarian syndrome, the new name for polycystic ovary syndrome: a multistep global consensus process. Lancet. 2026;407(10545):2329-2339. [PubMed 42119588]
  • [8] 日本内分泌学会. 多嚢胞性卵巣症候群(一般の皆様へ). [日本内分泌学会]
  • [9] PCOS診断基準の変遷と国際比較. 臨床婦人科産科. 2025;79(3):282-291. [医学書院]
  • [10] 生殖医療ガイドラインの考え方(中央社会保険医療協議会 資料 総-7-1参考1, 2021年11月17日). [厚生労働省]
  • [11] Practice Committee of the American Society for Reproductive Medicine. Definition of infertility: a committee opinion. 2023. [ASRM]

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プロフィール

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、
臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。
のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、
検査結果の数値そのものだけでなく、
「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、
一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、
日本人として異文化の中で生活した経験があります。
価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。
この経験は現在の診療においても、
「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、
36週6日で一人を死産した経験があります。
その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、
そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。
現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、
出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、
家族の未来に関わる重要な意思決定です。
年齢や統計だけで判断するのではなく、
医学的根拠と心理的支援の両面から、
ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/
日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。
2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、
複数の海外メディア・専門誌で特集掲載
されました。

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