目次
📍 クイックナビゲーション
すぐ妊娠できる人に共通するのは、特別な「体質」ではありません。女性の年齢が若いこと、排卵が規則的にあること、卵管が通っていて子宮に着床の妨げがないこと、そしてパートナーの精子に問題がないこと。この条件がそろっているカップルです。令和6年の日本では、第1子を出産したときの母親の平均年齢は31.0歳でした[1]。30代で妊娠を考える人が増え、「自分は妊娠しやすいほうなのか」は妊活における重要な疑問の一つです。この記事では、男女それぞれの特徴、年齢と妊娠率の関係、妊娠しにくくなる原因(生まれつきの染色体・遺伝子の要因を含む)、根拠のある体づくり、受診の目安を、臨床遺伝専門医の立場から解説します。
Q. すぐに妊娠できる人の特徴は?
A. 女性の年齢が若い、排卵が規則的、卵管と子宮に病気がない、パートナーの精子が正常、夫婦とも喫煙しない、体重が適正範囲、という条件がそろっている人です。排卵日に合わせて性交したカップルでは、約4割が最初の周期で、約9割が1年以内に妊娠したという報告があります[2]。妊娠のしやすさは女性だけで決まるものではなく、不妊の原因の約半数には男性側の要因が関わっています[3]。
- ➤女性の特徴 → 年齢・規則的な排卵・卵管と子宮の状態・適正体重・禁煙
- ➤男性の特徴 → 精子の数と運動率・年齢・禁煙・適正体重・精巣の病気の有無
- ➤年齢 → 1日あたりの妊娠確率は、19〜26歳が35〜39歳のおよそ2倍
- ➤受診の目安 → 35歳未満は1年、35歳以上は6か月、40歳を超えたら早めに
1. すぐ妊娠できる人の特徴とは?
すぐ妊娠できる人の特徴は、「排卵する」「卵子と精子が出会う」「受精卵が着床する」という流れのどこにも妨げがないことです。体質という言葉で語られることが多いテーマですが、医学的には、この流れのどこか一か所でもつまずきがあると妊娠までに時間がかかる、と考えるとわかりやすくなります。
どのくらい「すぐ」妊娠するのかを示すデータもあります。ドイツの前向き研究では、排卵日の前後に合わせて性交したカップルの累積妊娠率は、1周期で38%、3周期で68%、6周期で81%、12周期で92%でした[2]。一般のカップルを1年間追跡した米国の研究では、82%が期間内に妊娠し、1周期あたりの妊娠率は最初の2周期で最も高く、約30%でした[4]。つまり、条件がそろっていても最初の1周期で妊娠する人は半分に届きません。数か月かかるのは珍しいことではないのです。
妊娠が成立するまでの5つのステップ
妊娠は、排卵から着床までの5つのステップがすべて順調に進んだときに成立します。すぐ妊娠できる人は、この5つがいずれもスムーズに進んでいる人だといえます。
卵巣から排卵された卵子は卵管に取り込まれ、卵管の中で精子と出会って受精します。受精卵は細胞分裂をくり返しながら卵管を通って子宮へ移動し、厚くなった子宮内膜にもぐりこむと着床です。どのステップにつまずきがあるかによって、原因も対処も変わります。
妊娠しやすい女性の特徴
妊娠しやすい女性の特徴は、年齢が若いこと、月経周期が安定していて排卵していること、卵管や子宮に病気がないこと、体重が適正範囲にあること、たばこを吸わないことです。このうち最も影響が大きいのが年齢で、詳しくは第2章で説明します。
🌸 妊娠しやすい女性の特徴
| 特徴 | 理由 |
|---|---|
| 年齢が若い | 卵子の数が多く、染色体の数の異常をもつ卵子が少ない |
| 月経周期が安定している | 毎月排卵している可能性が高い |
| 卵管・子宮に病気がない | 卵子と精子が出会い、受精卵が着床する通り道が保たれている |
| 体重が適正範囲(BMI 18.5以上25未満) | やせすぎも太りすぎも排卵が乱れる原因になる |
| たばこを吸わない | 喫煙は卵巣の老化を早め、妊娠しにくくする |
※BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)。18.5以上25未満は日本肥満学会の「普通体重」にあたります。
妊娠しやすい男性の特徴
妊娠しやすい男性の特徴は、精子の数と運動率が十分にあること、たばこを吸わないこと、体重が適正範囲にあること、精巣の病気の既往がないことです。欧州泌尿器科学会(EAU)のガイドラインによると、子どもができないカップルの50%に男性側の要因が見つかり、男性側だけに原因があるケースは約20%です[3]。「すぐ妊娠できるかどうか」は、女性だけの問題ではありません。
年齢は男性にも関係します。女性の年齢の影響を差し引いて分析した研究でも、35歳を超える男性では妊孕性(妊娠させる力)が有意に低下していました[5]。ただし、その影響は女性の年齢ほど大きくはありません。
👨 妊娠しやすい男性の特徴
| 特徴 | 理由 |
|---|---|
| 精子の数・運動率が十分 | 卵子にたどり着ける精子が多い |
| たばこを吸わない | 喫煙で精子の濃度や運動率が下がる |
| 体重が適正範囲 | 肥満は男性の不妊とも関連する |
| 精巣の病気の既往がない | 精索静脈瘤や、思春期以降のおたふくかぜによる精巣炎は精子をつくる力に影響しうる |
| 年齢が35歳以下 | 35歳を超えると妊孕性がゆるやかに下がる |
2. 年齢と妊娠率:1周期で妊娠する確率はどのくらい?
女性が最も妊娠しやすいのは20代から30代前半で、その後は年齢とともに妊娠率が下がります。年齢は「すぐ妊娠できるかどうか」を左右する最大の要因で、生活習慣では取り戻せない部分でもあります。
20代・30代・40代の妊娠率の目安
妊娠しやすい時期に性交したときの1日あたりの妊娠確率は、19〜26歳の女性では35〜39歳の女性のおよそ2倍でした。ヨーロッパ7か所のカップルを対象にした研究では、妊娠の確率は20代後半から下がり始めていました。一方で、妊娠しやすい期間の長さはどの年代でもほぼ6日間で、年齢によって変わるのは「期間」ではなく、その期間の「妊娠のしやすさ」でした[5]。
米国生殖医学会(ASRM)の見解では、40歳の女性の妊娠率は、20代後半〜30代前半の女性のおよそ半分とされています[6]。
💡 「20代なら1回で◯%」の数字について
インターネットでは「20代は1回の性交で25〜30%」のような数字がよく見られますが、研究によって対象や条件(妊娠しやすい日に合わせたかどうか、妊娠をどの時点で確認したか)が異なり、1つの数字にまとめることはできません。集団で得られた数字は、目の前のカップル1組の確率を示すものでもありません。年齢による差は「およそ2倍」「40歳でおよそ半分」という大きな傾向としてとらえてください。
年齢で妊娠率が下がる理由:卵子の数と染色体
年齢とともに妊娠率が下がる主な理由は、卵子の数が減ることと、染色体の数に異常がある卵子の割合が増えることです。卵子は生まれる前につくられ、その後は新しく増えることがありません。年齢を重ねるにつれて残っている卵子の数(AMHで目安がわかる)が減り、卵子が分裂するときに染色体を正しく分けられず、数に過不足が生じる染色体の異数性も起こりやすくなります。
染色体の数に異常がある受精卵は、着床しなかったり、妊娠のごく初期に流産したりすることが多くなります。そのため、年齢が上がると「妊娠しにくい」と「流産しやすい」が同時に起こりやすくなります。これは生活習慣の工夫で変えられるものではないため、妊娠を望むなら年齢を意識して早めに動くことが大切です。
3. セルフチェック:妊娠しにくい要因がないか確認する
妊娠しやすいかどうかを自分で確定することはできませんが、妊娠しにくくなる要因がないかはある程度チェックできます。当てはまる項目が多いほど、早めに医療機関で相談する意味が大きくなります。逆に、1つも当てはまらなくても「必ず妊娠できる」ことを保証するものではありません。卵管が詰まっているかどうかや精子の状態は、検査をしないとわからないためです。
✅ 女性のセルフチェック
| チェック項目 | 関係するステップ |
|---|---|
| 35歳以上で、まだ妊娠したことがない | 卵子の数と質 |
| 月経周期が不規則、または3か月以上月経が来ないことがある | 排卵 |
| 基礎体温に高温期がない、または短い | 排卵・黄体の働き |
| BMIが18.5未満、または25以上。短期間で急にやせたことがある | 排卵 |
| 月経痛が強い、または以前よりひどくなった。経血の量が変わった | 子宮内膜症・子宮の病気 |
| クラミジアや淋菌などの性感染症にかかったことがある | 卵管 |
| 虫垂炎、卵巣嚢腫、子宮筋腫などの下腹部の手術を受けたことがある | 卵管・子宮 |
| 甲状腺の病気、糖尿病などの持病がある | 排卵・妊娠の維持 |
| 自分やパートナーがたばこを吸う(受動喫煙を含む) | 卵子の数・受精 |
✅ 男性のセルフチェック
| チェック項目 | 関係すること |
|---|---|
| たばこを吸う | 精子の濃度・運動率 |
| 肥満(BMI 25以上)である | 精子の質・ホルモン |
| 思春期以降におたふくかぜで精巣が腫れたことがある | 精子をつくる力 |
| 陰嚢に静脈のこぶ(精索静脈瘤)を指摘されたことがある | 精子をつくる力 |
| 勃起や射精に悩みがある | 性交の成立 |
喫煙は、チェック項目のなかでも影響がはっきりしている要因です。ASRMの見解によると、喫煙によって妊娠しにくさは1.4〜2.3倍になり、閉経が1〜4年早まる可能性があります。卵巣に残っている卵子の数の目安となるAMHは、たばこを吸う人では吸わない人より44%低い値でした。受動喫煙でも、喫煙者と同じくらいの影響がありうるとされています[7]。
4. 妊娠しにくい人の特徴と原因
妊娠しにくい人の多くには、排卵・卵管・子宮・精子のどこかに、はっきりした原因があります。「妊娠しにくい体質」と呼ばれているものの中には、実際には病気やホルモンの異常が隠れていることが少なくありません。原因がわかれば、治療で対処できる場合も多くあります。
排卵の問題(PCOS・やせ・肥満・甲状腺)
排卵がきちんと起きていないと、卵子と精子が出会う機会そのものがなくなります。排卵障害の原因として多いのは多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)で、卵巣の中で卵胞が育ちきらず、排卵が起こりにくくなります。
体重も排卵に大きく影響します。短期間の極端なダイエットでやせすぎると、脳から卵巣への指令が弱まり、排卵が止まることがあります。一方、肥満も排卵を乱します。ASRMの見解では、BMIが27を超える女性は、排卵障害による不妊のリスクが3.1倍でした[8]。このほか、甲状腺の病気も月経の乱れや流産に関わることがあります。
卵管の問題(性感染症・子宮内膜症・手術)
卵管が詰まったり、周りと癒着して動きが悪くなったりすると、卵子と精子が出会えなくなります。卵管の癒着を起こす代表的な原因は、クラミジアや淋菌などの性感染症と、子宮内膜症です。性感染症は自覚症状がないまま進むことがあり、気づかないうちに卵管が傷んでいる場合もあります。虫垂炎などの下腹部の手術のあとに癒着が起こることもあります。月経痛がだんだん強くなっている場合は、子宮内膜症が隠れていることがあるので、婦人科で相談しましょう。
子宮の問題(ポリープ・粘膜下筋腫・癒着)
子宮の内側に受精卵がもぐりこむのを妨げるものがあると、着床しにくくなります。子宮内膜ポリープや、子宮の内側に向かって突き出す粘膜下筋腫がその代表です。また、人工妊娠中絶などの子宮内の処置のあとや、その後の感染によって子宮の内膜どうしが癒着すると、着床の場所が狭くなることがあります。
男性側の問題(精子数・運動率・精索静脈瘤)
男性側の問題は、精子の数が少ない、動きが悪い、形の正常な精子が少ない、の3つに大きく分けられます。精子の状態は見た目ではわからず、精液検査をしないと判断できません。検査や治療の流れは男性不妊の原因と検査で詳しく解説しています。
よくある原因の一つが、陰嚢の静脈がこぶ状にふくらむ精索静脈瘤です。EAUのガイドラインによると、一般の男性の約15%に見られますが、不妊で受診した男性では35〜40%にみられます[3]。また、思春期以降にかかったおたふくかぜによる精巣炎は、精巣を萎縮させて精子をつくる力に影響することがあります。肥満の男性では、そうでない男性に比べて不妊のオッズが1.66倍でした[8]。
抗精子抗体が受精に影響する場合もありますが、原因不明不妊に対して一律に行う基本検査ではありません。検査の必要性は、これまでの検査結果や治療経過を踏まえて判断されます。
生まれつきの要因:染色体と遺伝子
妊娠しにくさの原因の中には、生まれつきの染色体や遺伝子の違いによるものがあります。多くは本人に自覚症状がなく、妊娠しにくい、または流産をくり返すことをきっかけに初めて見つかります。「生まれつきの体質はまれ」と一言で片づけられがちですが、以下のように、頻度が無視できないものもあります。
🧬 妊娠しにくさに関わる主な染色体・遺伝子の要因
| 要因 | 主な影響 | わかっていること |
|---|---|---|
| 早発卵巣不全(POI) | 40歳未満で卵巣の働きが失われる | 近年の報告では非医原性POIの有病率は最大約3.5%。原因不明の非医原性POIでは染色体検査とFMR1前変異検査が推奨される |
| FMR1遺伝子の前変異 | 卵巣の働きが早く衰える(FXPOI) | CGGの繰り返しが70〜100回程度の人で最もリスクが高い |
| ターナー症候群(とくにモザイク型) | 卵巣の働きが早く失われやすい | 自然妊娠は480人中27人(5.6%)。モザイク型は自然妊娠と関連 |
| 均衡型転座 | 本人は健康だが、流産をくり返すことがある | 流産を2回以上くり返したときに夫婦の染色体検査が検討される |
| Y染色体AZF微小欠失(男性) | 精子をつくる力が大きく落ちる | 無精子症の8〜12%、乏精子症の3〜7% |
| クラインフェルター症候群(男性) | 精子がつくられないことが多い | 無精子症の男性の13.7% |
※出典:POI[9]、FMR1[10]、ターナー症候群[11]、均衡型転座[12][13]、AZF・クラインフェルター[3]
女性側の要因で代表的なのは、40歳未満で卵巣の働きが失われる早発卵巣不全(POI)です。2024年の国際ガイドラインでは、非医原性POIの有病率は古い研究の約1%から近年の報告では3.5%まで幅があり、集団の民族的背景などによって異なるとされています。このガイドラインは、原因がはっきりしない非医原性POIの女性に、染色体検査とFMR1遺伝子の前変異の検査を強く推奨しています[9]。FMR1の前変異をもつ女性では、CGGという塩基の繰り返しが70〜100回程度の人で卵巣の機能が早く衰えるリスクが最も高く、閉経がおよそ7〜10年早まっていました[10]。
性染色体の一部が欠けているターナー症候群では、卵巣の働きが早く失われることが多くあります。ただしフランスの480人の調査では、27人(5.6%)に自然妊娠があり、モザイク型(正常な細胞が混ざっているタイプ)であることと、自然に初経を迎えたことが自然妊娠と関連していました。一方で流産は30.8%と、一般より高い割合でした[11]。詳しくはターナー症候群と妊娠で解説しています。
染色体の一部が入れ替わっている均衡型転座は、遺伝情報の過不足がないため本人は健康です。しかし、卵子や精子をつくるときに染色体の量に過不足が生じやすく、流産をくり返す原因になることがあります。欧州のガイドラインでは、2回以上の流産を「反復流産」と定義しています[12]。ASRMは、流産した組織から不均衡な構造異常が見つかった場合や、流産組織の検査ができなかった場合に、夫婦の染色体を調べるよう推奨しています[13]。すべての反復流産のカップルに検査すべきかどうかは、学会によって意見が分かれています。
男性側の要因としては、精子をつくるのに必要な遺伝子が並ぶY染色体のAZF領域の微小欠失と、X染色体が1本多いクラインフェルター症候群が知られています。EAUのガイドラインによると、AZF微小欠失は無精子症の男性の8〜12%、重度乏精子症の男性の3〜7%に見つかります。染色体検査は無精子症または精子濃度が1mLあたり500万未満の男性で推奨されます。Y染色体微小欠失検査は精子濃度が1mLあたり100万以下では推奨され、500万未満では検討されます[3]。
🩺 院長コラム【「体質だから」で終わらせない】
妊娠しにくいことを「体質」という言葉で説明すると、どこか仕方のないもののように聞こえます。けれども、その中には、排卵の問題、卵管の癒着、精子の問題、そして染色体や遺伝子の違いのように、名前のつく原因が含まれています。
原因に名前がつけば、打てる手が見えてきます。染色体や遺伝子の要因は、本人だけでなく、きょうだいや将来の子どもにも関わることがあるため、結果の意味を家族全体の視点で考えることが大切だと考えています。
5. 生理がぴったりくる人は妊娠しやすい?
生理が毎月ぴったりくることは、排卵している可能性が高い目安にはなります。ただし、それだけで妊娠しやすいとは言い切れません。月経周期がおおむね一定であれば、毎月排卵が起きていると考えられます。ここまでの5つのステップのうち、「排卵」については条件がそろっている可能性が高いといえます。
一方で、卵管が通っているかどうか、子宮の内側にポリープや筋腫がないか、パートナーの精子が十分かどうかは、月経周期からはわかりません。卵子の数や、染色体に異常のある卵子の割合も、周期が規則的かどうかとは別に年齢とともに変わっていきます。
反対に、周期が大きく乱れている場合は注意が必要です。ASRMは、月経不順や無月経がある場合は、不妊期間を待たずに検査を始めるよう勧めています[14]。
6. 妊娠しやすい体づくり:根拠のあること
妊娠しやすい体づくりで効果の根拠がはっきりしているのは、適正体重、禁煙、飲酒とカフェインを控えめにすること、葉酸の摂取、そして妊娠しやすい時期に性交することです。インターネットにはさまざまな「妊活法」が紹介されていますが、ここでは医学的な根拠が確認できるものに絞って紹介します。
適正体重を保つ
BMI 18.5以上25未満の適正体重を保つことは、排卵を整える基本です。やせすぎの人は、急激なダイエットをやめて体重を戻すことで排卵が回復することがあります。肥満の人については、ASRMの見解で、体重の5〜10%を減らすと排卵がない女性の排卵率が改善したと報告されています[8]。大幅な減量を目指す必要はなく、数kgの変化でも意味があります。
夫婦そろって禁煙する
禁煙は、夫婦のどちらにとっても効果が期待できる対策です。喫煙は女性の卵巣の老化を早め、男性の精子の濃度や運動率を下げます。受動喫煙でも影響がありうるため、どちらか一方だけでなく、夫婦そろって禁煙することが勧められます[7]。
飲酒とカフェインは控えめに
飲酒とカフェインは、完全にやめなくても「控えめ」にすれば十分です。ASRMの見解では、1日1〜2杯程度のコーヒーには明らかな悪影響はありません。一方、1日500mgを超える大量のカフェイン(コーヒー5杯以上)は妊娠しにくさと関連していました。飲酒は、1日2杯以上の多量飲酒を避けるよう勧められています[6]。詳しくは妊活中のお酒の記事もご覧ください。
葉酸をとり、持病を管理する(プレコンセプションケア)
妊娠を考え始めたら、妊娠の1か月以上前から妊娠3か月まで、食事とは別にサプリメントなどで葉酸を1日400μgとることが勧められています。厚生労働省は、赤ちゃんの神経管閉鎖障害のリスクを減らすため、妊娠を計画している女性に葉酸の摂取を呼びかけています[15]。葉酸は妊娠しやすくするためのものではありませんが、妊娠がわかってからでは間に合わない時期に必要な栄養素です。いつから・いつまで・どのくらいとればよいかは葉酸サプリはいつから?いつまで?で解説しています。
甲状腺の病気や糖尿病などの持病がある人は、妊娠前に主治医と相談して、病状を安定させておくことも大切です。
排卵日の2日前から当日にタイミングをとる
妊娠しやすい期間は、排卵日を最終日とする6日間です。そのうち最も妊娠しやすいのは、排卵の1〜2日前です。精子は女性の体内で数日生きられますが、卵子が受精できる時間は短いため、排卵の前から精子が待っている状態が理想です[16]。
ASRMの見解では、妊娠しやすい期間には1〜2日おきに性交するのがよいとされています。毎日のほうがわずかに有利ですが、週2〜3回でもほぼ同じ結果が得られます[6]。排卵日をぴったり当てようとして負担が大きくなるより、この期間に無理のない頻度で続けるほうが現実的です。排卵日の見つけ方は一番妊娠しやすい日はいつかの記事で詳しく解説しています。
妊活中にやらないほうがよいこと
妊活中は、極端なダイエットや、医学的根拠の乏しい方法だけに頼ることは避けましょう。短期間で急にやせると排卵が止まることがあります。男性の精巣温度の上昇と精子形成の関係は研究されていますが、サウナやノートパソコンなど個々の生活習慣を避けることで自然妊娠率が上がると断定できる十分な根拠はありません。
また、「性交後に脚を上げてしばらく安静にすると妊娠しやすい」といった方法には科学的な根拠がありません。精子は性交後15分ほどで卵管まで届くため、姿勢を工夫する必要はありません[6]。特定の食材、アロマ、半身浴などで妊娠しやすくなるという確かな根拠も確認されていません。これらを行う場合も、医学的な不妊評価や受診時期の代わりにはなりません。
7. どのくらい妊娠しなければ受診する?
避妊をせずに性交していても妊娠しない場合、35歳未満なら1年、35歳以上なら6か月を目安に医療機関を受診しましょう。40歳を超えている場合は、より早く検査や治療を考えてよい時期です。ASRMは、この期間を目安に不妊の検査を始めるよう勧めています[17][14]。
🏥 受診の目安
| 女性の年齢・状況 | 受診の目安 |
|---|---|
| 35歳未満 | 避妊をしない性交を1年続けても妊娠しないとき |
| 35歳以上 | 6か月続けても妊娠しないとき |
| 40歳を超えている | 期間を待たず、早めに検査・治療を検討 |
| 月経不順・無月経、卵管や子宮の病気が疑われる、パートナーに精子の問題が疑われる | 年齢や期間にかかわらず、すぐに相談 |
※ASRMの見解[14][17]をもとに作成
不妊の検査は、女性だけでなく男性も一緒に受けることが大切です。第1章で紹介したとおり、原因の約半数には男性側の要因が関わっているためです[3]。
遺伝の視点で確かめておきたいこと
流産をくり返す、早発卵巣不全と診断された、精子がほとんど見つからない、といった場合には、染色体や遺伝子の検査が原因の手がかりになることがあります。流産をくり返している夫婦には夫婦の染色体検査が、原因のはっきりしない不妊には不妊症の遺伝子検査が選択肢になります。
また、妊娠を考え始めた段階で、ふたりが同じ病気の保因者でないかを調べる保因者検査と、不妊に関わる検査をあわせて受ける方法もあります。ミネルバクリニックの遺伝子ブライダルチェックでは、保因者検査と不妊に関わる遺伝子の検査を組み合わせて受けられます。検査の前後には、臨床遺伝専門医が結果の意味を説明します。
⚠️ 検査を受ける前に知っておきたいこと
染色体や遺伝子の検査でわかるのは、調べた範囲の変化だけです。異常が見つからなくても、妊娠しやすいことが保証されるわけではありません。反対に、異常が見つかった場合は、本人だけでなく血縁者にも関わる情報になることがあります。検査を受けるかどうかは、結果が出たときにどう受け止め、どう活かすかまで含めて、専門医と話し合ってから決めることをおすすめします。
よくある質問(FAQ)
Q1. 一度妊娠した人は、次も妊娠しやすいですか?
一度妊娠できたことは、その時点で排卵・卵管・子宮・精子の条件がそろっていたという目安にはなります。ただし、次の妊娠までに年齢が上がれば妊娠率は下がりますし、出産や手術のあとに新たな原因が生じることもあります。一人目は自然に妊娠できたのに二人目ができない二人目不妊も珍しくありません。
Q2. 体の相性で妊娠しやすさは変わりますか?
いわゆる「体の相性」で妊娠しやすさが決まるという医学的な根拠はありません。医学的に「相性」に近いものとしては、精子の動きを止める抗精子抗体がありますが、ほかの原因が見つからない場合に検討される要因の一つです。妊娠しにくいときは、まず排卵・卵管・子宮・精子を順に調べることが基本になります。
Q3. 冷え性だと妊娠しにくいですか?
冷えそのものが妊娠率を下げるという信頼できる根拠は確認されていません。ただし、手足の冷えの背景に甲状腺の病気や、極端なダイエットによる低体重が隠れていることはあります。冷えが気になる場合は、体を温める工夫と並行して、体重や月経の状態も確認してみてください。
Q4. 1回の性交で妊娠する確率はどのくらいですか?
性交のタイミングによって大きく変わります。妊娠しやすいのは排卵日を最終日とする6日間だけで、それ以外の時期の性交ではほとんど妊娠しません。妊娠を目指すカップルを追跡した研究では、1周期あたりの妊娠率は最初の周期で最も高く、約30%でした。また、年齢によって妊娠のしやすさはおよそ2倍変わります。集団のデータから、個々のカップルの確率を正確に予測することはできません。
Q5. ストレスで妊娠しにくくなりますか?
強いストレスや急な環境の変化で月経が止まったり、周期が乱れたりすることはあります。一方、日常的なストレスが妊娠率をどのくらい下げるかについては、研究によって結果が一致していません。月経が乱れている場合は、ストレスのせいと決めつけずに婦人科で相談しましょう。妊活そのものが負担になっている場合は、パートナーと話し合って、無理のないペースを見つけることも大切です。
まとめ
すぐ妊娠できる人の特徴は、特別な体質ではなく、女性の年齢、規則的な排卵、通っている卵管と着床できる子宮、パートナーの十分な精子という条件がそろっていることです。条件がそろっていても最初の1周期で妊娠する人は半分に届かず、数か月かかるのは珍しくありません[2][4]。
年齢は最大の要因で、妊娠の確率は20代後半から下がり始めます[5]。体づくりでは、適正体重、夫婦そろっての禁煙、飲酒とカフェインを控えめにすること、葉酸の摂取、妊娠しやすい時期のタイミングに根拠があります。35歳未満は1年、35歳以上は6か月を目安に、男女一緒に受診しましょう。流産をくり返す場合や早発卵巣不全、無精子症などでは、染色体や遺伝子の要因が見つかることもあります。
🌱 妊娠を考え始めたら、遺伝のことも一緒に確かめませんか
ミネルバクリニックは、臨床遺伝専門医が在籍する遺伝診療の専門クリニックです。ふたりの保因者検査と不妊に関わる検査を組み合わせた遺伝子ブライダルチェック、夫婦の染色体検査、不妊症の遺伝子検査について、検査の前後に専門医が遺伝カウンセリングで結果の意味をご説明します。
参考文献
- [1] 厚生労働省. 令和6年(2024)人口動態統計月報年計(概数)の概況. [厚生労働省]
- [2] Gnoth C, Godehardt D, Godehardt E, Frank-Herrmann P, Freundl G. Time to pregnancy: results of the German prospective study and impact on the management of infertility. Hum Reprod. 2003;18(9):1959-1966. [PubMed 12923157]
- [3] European Association of Urology. EAU Guidelines on Sexual and Reproductive Health: Male Infertility. [EAU]
- [4] Zinaman MJ, Clegg ED, Brown CC, O’Connor J, Selevan SG. Estimates of human fertility and pregnancy loss. Fertil Steril. 1996;65(3):503-509. [PubMed 8774277]
- [5] Dunson DB, Colombo B, Baird DD. Changes with age in the level and duration of fertility in the menstrual cycle. Hum Reprod. 2002;17(5):1399-1403. [PubMed 11980771]
- [6] Practice Committee of the American Society for Reproductive Medicine. Optimizing natural fertility: a committee opinion. Fertil Steril. 2022;117(1):53-63. [PubMed 34815068]
- [7] Practice Committee of the American Society for Reproductive Medicine. Tobacco or marijuana use and infertility: a committee opinion. Fertil Steril. 2024;121:589-603. [ASRM]
- [8] Practice Committee of the American Society for Reproductive Medicine. Obesity and reproduction: a committee opinion. Fertil Steril. 2021;116:1266-1285. [PubMed 34583840]
- [9] ESHRE, ASRM, CRE, IMS Guideline Group on POI, Panay N, et al. Evidence-based guideline: premature ovarian insufficiency. Hum Reprod Open. 2024;2024(4):hoae065. [DOI 10.1093/hropen/hoae065]
- [10] Sherman SL, et al. Refining the risk for fragile X-associated primary ovarian insufficiency (FXPOI) by FMR1 CGG repeat size. Genet Med. 2021;23(9):1648-1655. [DOI 10.1038/s41436-021-01177-y]
- [11] Bernard V, Donadille B, Zenaty D, et al. Spontaneous fertility and pregnancy outcomes amongst 480 women with Turner syndrome. Hum Reprod. 2016;31(4):782-788. [DOI 10.1093/humrep/dew012]
- [12] ESHRE Guideline Group on RPL. ESHRE guideline: recurrent pregnancy loss: an update in 2022. Hum Reprod Open. 2023;2023(1):hoad002. [DOI 10.1093/hropen/hoad002]
- [13] Practice Committee of the American Society for Reproductive Medicine. Recurrent pregnancy loss: a committee opinion. Fertil Steril. 2026;125:1023-1041. [ASRM]
- [14] Practice Committee of the American Society for Reproductive Medicine. Fertility evaluation of infertile women: a committee opinion. Fertil Steril. 2021;116:1255-1265. [PubMed 34607703]
- [15] 厚生労働省. 葉酸とサプリメント―神経管閉鎖障害のリスク低減に対する効果. e-ヘルスネット. [e-ヘルスネット]
- [16] Wilcox AJ, Weinberg CR, Baird DD. Timing of sexual intercourse in relation to ovulation. Effects on the probability of conception, survival of the pregnancy, and sex of the baby. N Engl J Med. 1995;333(23):1517-1521. [PubMed 7477165]
- [17] Practice Committee of the American Society for Reproductive Medicine. Definition of infertility: a committee opinion. Fertil Steril. 2023;120(6):1170. [Fertil Steril]
関連記事
※本記事は一般の方に向けた情報提供を目的とするもので、個別の診断・治療方針を示すものではありません。妊娠や不妊の検査・治療については、必ず主治医・専門医にご相談ください。





