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NIPT陽性後羊水検査せず中絶|2つの検査で陽性(1)

NIPTを2つの会社で受けて同じ結果だと非常に正確性が増すので、陽性の結果を受けてそのまま中絶することを選んだ症例をご紹介します。この方は大学病院も同じ判断で大学で中絶しました。やはり一人一人個別具体的事情を勘案して、絶対羊水検査などと妊婦さんを追い込まないほうが良いしみじみ感じた症例でした。

NIPTでは陽性の結果は確定できません。羊水検査をしないといけないのですが。羊水検査を受けずに中絶を選んだ人たちがいます。どういうお気持ちでそうなってしまったのかをケースレポートしたいと思います。

2箇所の検査機関でNIPT陽性の結果

当院では2020年1月より第三世代NIPT単一遺伝子疾患をチェックできるスーパーNIPTを提供しています.

なかには全染色体もしたいということで,スーパーNIPTの検査会社は全染色体を検査していないのでイルミナと2か所に出す人もいます.このケースはそういう2か所に出した患者さんの初めての陽性事例です.

2か所で陽性にどういう意味があるのか?

NIPTはもともとベリナタ,シーケノム,ナテラ,アリオサが開発しました.現在ではより多くの検査機関が行っていますが,大まかに2種類あると思ってください.

  • 1.こうした開発元から技術供与を受けて行っている検査会社
  • 2.自分で開発した技術で検査している検査会社

日本国内の衛生検査所(厚生労働省に認可されている検査機関.免許がないと医療機関から受託することができません.)が認可施設に提供している検査はすべて技術供与を受けて計測しているものになります.

こうした会社たちは衛生検査所の協会に入っていて,無認可(認可外)施設と契約しないように取り決めています.

追記:その後、イルミナ社がシークエンサーを衛生検査所に売り、そのシークエンサーで測定できるVeriseq2というNIPTメニューを認可施設外でやっているところもあります。

ですので,当院のような【臨床遺伝専門医がやっているのに】無認可(認可外)な施設は海外に出すしかないのです.もしくは自前で検査をするしかないのですが.
自前で検査をする問題点については別に記載します.

というわけで,当院では 2. の自分で開発した技術で検査している検査会社 2か所に検査を提出しています.

NIPTと一口に言っても検査会社により内容は実は様々です.コンビニと一口に言ってもセブンイレブン、ファミマ、ローソンなど全然違うのがお判りでしょう。それと同じことなのですが、なかなかわかりにくいようですね。

今回,新型コロナの抗体検査で問題になったように同じ 抗体検査 でも内容が全く違うので,確認してみたら90%外れてた,とかニュースにありましたよね.それと同じで,NIPTという「検査ジャンル」に入っていても手法(アッセイ,検査方法)は企業により様々です.

そしてその 検査方法 でしのぎを削っているのが検査会社です.

※イルミナは塩基配列を決定する機械(シークエンサー)の会社ですが,ベリナタを買収して子会社にしています.

NIPTは,新型コロナで有名になったPCRを血液中を流れているDNAの断片に対して行うのですが.DNAの断片をPCRにかけて増やせばどの場所も同じように増えるのなら全く苦労はないのですが実は,場所により増えやすかったり増えにくかったりするんですよね.なので,経験的にそれに係数をかけて平らになるようにしています.たとえば増えやすいところには0.8を掛ける,増えにくいところには1.3を掛ける,という感じです.どの部位にそういう係数をかけてなだらかにしているのかについては,企業秘密なので明らかにはされていませんし,技術供与を受けている会社にも明らかにされません.ブラックボックスです.

そうしたブラックボックスであっても,今まで数万,数十万と検体があり,精度もきちんと出されてきますので,それは信用してもいいと思います.

当院ではWGS法のベリナタと,第3世代の検査との2つを採用しています.(その後第2世代の検査会社も追加になりました)
第3世代はどこが違うのかというと,塩基配列を決定する段階ではなく,DNAを取り出す段階で赤ちゃんの分だけを正確に取り出して計測する,ということにあります.
第1・2世代の検査ではお母さんのDNAと赤ちゃんのDNAを細かく分離する技術がなかったので,一緒に計測していました.
これを改善しているので,第3世代のほうが若干精度が上がっていますが,第1世代ももともと精度が非常に高いものでしたので大きなそん色はありません.

ですが,この アッセイ方法の違う検査会社 で同様に陽性と出る,と確からしさがほぼ100%に増します.

同じ検査会社の同じ検査を2回繰り返しても検査結果は変わらないので意味がありませんが
違う会社の違うやり方で同じ結果が出ると,陽性的中率はほぼ100%となります.

担当医として仲田が患者さんにお伝えしたこと

以上の点を患者さんに伝え,さらに,結果が出た時には12週くらいでしたので,羊水検査まで4週間待たねばならないのですが
そこからFISH法で検査しても中絶するのに速くても17週になってしまう.

以前聞いた患者さんの話では,やはり,20週近くなって中絶することになると,生きたまま出てくるので本当に罪悪感が強くなり、非常に傷ついてしまう,ということがあります.なので,産婦人科の先生とよく話をしてください,わたしとしては障害のあるお子さんを持つ気がないということがはっきりしているのであれば,このまま中絶してもいいのかなと思います,という話をしました.

その後

患者さんは,普段いっていた産婦人科から大学病院に紹介されました.

そこで,トリソミーの特徴である心臓の奇形などがエコーで見つかったためと,やはり大学病院産婦人科でも,うちでやってた2か所の検査の陽性ということを重視し,中期中絶の母体に対する影響も鑑み,羊水検査をせずに中絶することとなりました.

この症例で考えたこと

今回,初めてのケースで産婦人科がどのような判断をするのかが大変興味深かったですが,やはりわたしと判断が同じだったということで安堵しました.

そして,やはり同じ結論に至った背景としては,産婦人科ではないが,わたしも遺伝専門医という産婦人科領域の遺伝にまつわる専門家であることが大きな要因だったと患者さんからは聞いています.

うちは,認定外なのですが,実はいろんな病院の産婦人科医たちが 無認可(認可外)に行くんだったらミネルバにして と言ってくれるようなんですよね.紹介状はもちろん持ってきませんが.患者さんたちからそう聞いています.

とてもありがたいことだと思ってます.

また,うちは縛りにとらわれず,いろんな挑戦をしているので,その分,緊張感も漂うのですがやはり,ひとりひとりの患者さんのために 何が一番いいのか? ということを追求するとわたしの考えも,産婦人科の考えも同じになるんだな,と実感して,自信が持てました.

これからも, 一人一人に向き合って 歩んでいきたいと思います.

患者さんからのメール

個人情報を抜いてそのまま転載しています。

ミネルバクリニック 仲田洋美先生 先日はお電話でお話させていただき、どうもありがとうございました。詳しく教えていただき、安心できました。 ■トリソミー陽性の結果から後のご報告をさせていただきます。 *** 仲田先生においでいただいた翌日、●月×日月曜日 分娩予定の■■■■クリニックに陽性結果と今後について相談に行ったところ、そのまま■■大学■■病院への紹介状をいただく。■■大学■■病院、先生に◎×先生受診。30分ほどかけて、数人の先生でエコーを見ていただく。心疾患、首や背中の浮腫、肺や脳へ水が溜まり縮小や圧迫が見られる、耳の低位置、手の握り、かかとの尖りなど、■トリソミー由来の症状を複数見つけていただきました。但しこの所見は、妊婦健診でわからなかったり見つけられなかったとしても、おかしくはないそうです。 99.9%精度のNIPT検査の2つと、エコーの所見とを併せると、FISH法でも2週間かかり、胎盤を貫通させなければならないためリスクのある羊水検査は絶対ではない、16週と19週での負担はかなり違います、とのことでした。 後日、夫と一緒に■■大学■■病院を再診。前回と同じく複数の先生でエコーを30分ほど見ていただき、前回と診断変わらず。 いつ流産するか、それとも出産できるのか、それは誰にもわかりませんとのこと。中期中絶を希望しました。 〇月×日入院 4日後、17週6日で分娩。155g、19cm 耳の低位置と成形不足、首から背中への浮腫以外は、外見の症状はありませんでした。 翌日退院。1週間後の術後の検診では子宮などに特に問題はなく、一度生理を見送った後から妊活可能とのこと。〇+2月×日に最後の受診予定です。 *** 今回、■■大学■■病院でご対応いただけたのは、とても幸運だったと思っています。 ■■大学付属病院に遺伝子診療科があり、産科と連携してNIPT検査を実施しているからか、NIPT検査結果についてすぐに理解していただけたこと、エコー所見と併せれば羊水検査は絶対ではないと言っていただけたこと、処置まで迅速に進行していただいたことは、身体的にきっと、とてもありがたかったです。 何より、先生と看護師さん皆さんが最後まで、私だけでなく子供にも優しく接してくださったことに、本当に感謝しております。 本当は、中期中絶なんか対応したくないはずなのに。同じ中期中絶を選択された方のブログで、怒られたり酷い扱いを受けたことを読んだので余計に、幸せだったんだなと感じます。 また、術後検診の受診で最後だと思っていたら、2か月後にもまた来てくださいと言われたので、ここまで丁寧なんだと驚きました。 以上、どこまで書いたら良いかわからず長くなってしまいましたが、ご報告とさせていただきます。 アラフォー応援コースの新設に、私も一役かえたのかな、と思って嬉しく思います。私も受けたかったです(笑) もし次がありましたら、その時はどうぞよろしくお願いいたします。 妊婦さんが1人でも前に進めたり幸せになれるのと、それを支えてくださる先生のご活躍を、影ながら応援しております。

この方は、緊急事態宣言をうけてネット結果開示のみにしていた期間に出た陽性例だったのと、様子が気になったので、お宅まで説明に押しかけたんですよね。悲しい結果でしたが、その中でも落ち着いて前向きに見えますので安堵しました。とはいえ、やっぱり当時はだいぶ混乱して、同じ説明を何度もしたりしましたが。よくある事なので、わたしは大丈夫です。

患者さんが一番つらい時にいつでもわたしに手が届くように、少しでも落ち着いて過ごしていただけるようにと配慮しています。結果、前向きに過ごされ、次の妊娠も前向きに検討されているご様子に本当にうれしく感じます。私自身は誰もこういうケアをしてくれなかったので、1回目の妊娠で死産してしまった後、次の妊娠は精神的に負担が大きくて5年かかってしまいました。結婚年齢が上がっている昨今、悠長に心の傷をいやしていられない現実があります。妊娠可能な年齢は限られているので。そんななか、自分なりにこうした女性たちに手を差し伸べて頑張ろうねって言えることを、わたしはとてもうれしく感じています。当院にお越しいただきありがとうございました。また会えるのを楽しみにしています。

追記:この方はしばらくして、無事に妊娠し、次は正常なお子さんでしたので、その後ご無事に出産されました。

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 (がん薬物療法専門医認定者名簿)、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医(臨床遺伝専門医名簿:東京都)として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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