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中絶後は不妊になる?手術の妊娠への影響とリスクを臨床遺伝専門医が解説
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「過去に中絶手術を受けたから、もう赤ちゃんは授かれないのではないか」と、一人で怯えていませんか?自責の念からネットのネガティブな情報ばかりを集めてしまい、不安に押しつぶされそうになっている女性は非常に多くいらっしゃいます。今回は、臨床遺伝専門医・産婦人科医としての見地から、医学的根拠に基づいた真実をお伝えします。
Q. 過去に中絶をしたせいで、不妊症になりますか?
A. いいえ、現代の適切な医療環境下での手術であれば、その後の妊娠率を下げることはほぼありません。
世界保健機関(WHO)や北欧の大規模データでも、安全な中絶が直接的な不妊の原因になることは極めてまれであると証明されています。ご自身を過度に責める必要はありません。
- ➤事実 → 安全な手術1回で妊娠しにくくなるエビデンスはない
- ➤噂の理由 → 昔の古い手術法によるダメージや、不衛生な環境での感染症が原因
- ➤注意点 → 複数回繰り返すことのリスクと、確実な避妊の大切
- ➤これからのケア → 次の妊娠の不安を取り除くNIPTなどの選択肢
結論:安全な中絶手術が「不妊」の直接的な原因になることはほぼありません
私はこれまで、過去の中絶経験による罪悪感から「妊娠できないのではないか」と涙を流す女性を数多く診てきました。しかし、医学的な結論から申し上げますと、合併症を伴わない適切な環境での人工妊娠中絶が、その後の妊娠率を下げることはほぼありません。
フィンランドで行われた約5万7000人を対象とした大規模なレジストリ研究では、過去に中絶経験がある女性が不妊治療を受ける割合はわずか1.95%であり、経験のない女性(5.14%)よりもむしろ低いという結果が出ています。これは、中絶という処置そのものが続発性不妊(一度妊娠した後に妊娠できなくなる状態)の原因にはならないことを、強力に裏付けるデータです。
もちろん「いかなる状況でもリスクが完全にゼロ」というわけではありませんが、基本的には「妊娠する能力」が失われるわけではないという事実を、まずは知って安心してください。
なぜ「中絶=不妊・妊娠しにくい」という噂が広まっているの?
では、なぜこれほどまでに「中絶すると不妊になる」という恐ろしい噂が社会に根付いているのでしょうか。それには、過去の医療背景と世界の現状という2つの明確な理由があります。
過去の日本で主流だった「掻爬(そうは)術」は、金属製の器具で子宮内膜を強く掻き出す方法でした。この際、子宮内膜の深い層(基底層)まで傷つけてしまうと、子宮の壁同士がくっついてしまう「子宮腔の癒着」が起こります。これをアッシャーマン症候群と呼びます。これが物理的に受精卵の着床を妨げ、深刻な不妊の原因となっていました。これが噂の最大の元凶です。
もう一つの理由は、世界的に問題視されている「不安全な中絶(Unsafe Abortion)」のデータが混同されていることです。医療インフラが整っていない国で不衛生な器具を用いたりすることで、細菌が感染し、骨盤内炎症性疾患(PID)を引き起こして卵管が完全に塞がってしまうケースが後を絶ちません。
しかし、現代の日本の衛生的なクリニックで行われる手術において、術後感染によってPIDに至る確率は極めて低く、過度に怯える必要はありません。
現代の安全な中絶アプローチと、知っておくべき合併症リスク
噂の元となった危険な処置を避けるため、世界保健機関(WHO)は現在、以下のより安全な方法を強く推奨しています。良心的な婦人科クリニックでは、こうした身体に優しい術式が採用されています。
- ➤薬物流産(経口中絶薬):お薬の力で排出を促します。器具を子宮内に入れないため、子宮内膜を傷つけるリスクがなく、将来の妊娠への影響が最も少ないとされています。
- ➤真空吸引法(MVA/EVA):細い管を入れて陰圧で吸い出す方法です。昔の掻爬術に比べて、子宮へのダメージを最小限に抑えることが可能です。
複数回の手術が与える「用量依存的」な影響
1回の手術であれば影響はほぼありませんが、専門医として誠実にお伝えしなければならない事実もあります。それは、「外科的手術」を3回以上など複数回繰り返すと、将来の妊娠において早産(妊娠28週未満での極早産)や子宮頸管無力症のリスクが統計的に有意に上昇するということです。
これは、手術のたびに子宮の入り口(子宮頸管)を無理に広げることで、筋肉や組織に微小なダメージが蓄積してしまうためです。だからこそ、次に述べる「術後の避妊」があなた自身の身体を守るために極めて重要になります。
術後の生理再開と、確実な避妊の大切さ
「手術をした後、生理がなかなか来ないから不妊になったのでは?」と心配される声もよく聞きます。通常、術後1ヶ月から1ヶ月半ほどで生理は再開します。遅れている場合は、ホルモンバランスの乱れや強いストレスが原因であることが多いため、まずはリラックスすることが大切です。
ここで絶対に知っておいていただきたいのは、「術後の次の生理が来る前に、すでに排卵が再開していることが多い」ということです。つまり、生理が来ていなくても性交渉をすればすぐに妊娠する可能性があります。しかし、子宮が完全に回復する前に妊娠することは、母体への負担が非常に大きいです。
身体への物理的なダメージを蓄積させないためにも、低用量ピルの内服や、ミレーナ(子宮内黄体ホルモン放出システム)の挿入など、女性自身が主体となってコントロールできる確実な避妊方法を婦人科で相談することを強くお勧めします。
過去を責めないで。これからの妊娠に向けてできることとNIPTの選択肢
「妊娠できないのは過去のバチが当たったからだ」というような、自責の念や強いストレスそのものが、排卵障害やホルモンバランスを崩す原因(心因性の不妊)になり得ます。どうか、過去の自分を許し、これからの心と体の健康に目を向けてあげてください。もし1年以上(年齢によっては半年)妊娠しない場合は、過去の手術とは無関係な一般的な不妊の原因が隠れているかもしれないので、怖がらずに専門医を頼ってください。
そして、また新しい命を授かった時、「過去の手術のせいで赤ちゃんに何か異常があったらどうしよう」と不安に思うかもしれません。そんな時は、お母さんの血液だけでお腹の赤ちゃんの染色体異常や遺伝子変異を調べるNIPT(新型出生前診断)が一つの安心材料になります。
当院は非認証施設ではありますが、臨床遺伝専門医がお一人1.5時間の枠を確保してカウンセリングから判定、その後のケアまで一貫して行う極めて稀有な体制を敷いています。最新のCOATE法を用いたダイヤモンドプランでは、ダウン症などの染色体異常だけでなく、父親の加齢などに起因する56種類の単一遺伝子疾患(重度の合併症を伴う症候性自閉症の原因を含む)まで、陽性的中率>99.9%という高い精度でスクリーニングすることが可能です。
(父親由来の遺伝子変異が子へ伝わるイメージ)
万が一、陽性の結果が出た場合でも見捨てることは決してありません。NIPTのアフターサポートとして、何度でも遺伝カウンセリングを受けていただけます(費用は初期費用に含まれます)。また、互助会制度(8,000円)により、確定診断となる羊水検査の費用は全額補助される体制を整え、金銭的・心理的なリスクヘッジを徹底しています。
よくある質問(FAQ)
🏥 過去の不安を、未来の安心に変えるために
ご自身を責めず、まずは専門医にご相談ください。
私たちは正確な診断と心のケアで、あなたの未来に寄り添います。
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参考文献
- [1] World Health Organization (WHO). Abortion care guideline. [WHO]
- [2] Mayo Clinic. Elective abortion: Does it affect subsequent pregnancies? [Mayo Clinic]
- [3] American College of Obstetricians and Gynecologists (ACOG). Medication Abortion Up to 70 Days of Gestation: Practice Bulletin, Number 225. [PubMed]
- [4] Klemetti R, et al. Reproductive outcomes following induced abortion: a national register-based study. [BMJ Open]
- [5] Asherman Syndrome overview and risks associated with surgical procedures. [NCBI Bookshelf]

