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NIPTで陽性結果を受けた女性へのカウンセリング | 医師として一人の女性として


最近、特に印象に残るカウンセリングがありました。ミネルバクリニックでNIPT検査を受け、T21(ダウン症)の陽性結果が出た未婚女性との時間です。この記事では、実際の遺伝カウンセリングの現場から、医師として、そして一人の女性として感じたことをお伝えします。

結果を受け止める瞬間

彼女はまだ結婚前で、パートナーとなる男性は子どもを持つことにあまり積極的ではなかったようです。それでも彼女は「健常なお子さんなら、自力でも育てよう」という強い気持ちを持っていました。

ミネルバクリニックでは、NIPT検査の結果はマイページを通じて患者さんに通知されます。T21陽性という結果を受け取った後、彼女は必須のカウンセリングのために来院されました。そこで、今後の選択肢について話し合うことになりました。

ミネルバクリニックの検査では、T21の場合の陽性的中率はほぼ100%です。信頼性の高い検査結果ではありますが、それでも確定診断ではありません。

妊娠7週で検査を受け、現在9週目。確定検査(絨毛検査)は早くても11週からになります。

涙を受け止める大切さ

カウンセリングの間、彼女は涙を流してしまいました。ミネルバクリニックでは、検査結果はマイページで患者さんに受け取っていただき、陽性結果が出た場合には必ずカウンセリングを行う体制をとっています。つまり、彼女は結果を知った上で、今後についての相談に来られたのです。

安心して泣ける場を提供することが、医療者として非常に大切な役割だと思っています。もともと私はがん専門医として働いていた経験があり、がんと診断された患者さんたちの涙とお付き合いしてきました。その経験から、安心して泣けることが現実を受け止めて、次のステップに踏み出せることにどれだけ貢献するのかを知っています。

涙を流すことは、時に「弱さ」と思われがちですが、実は自分の感情と向き合う強さの表れでもあります。特に人生の大きな岐路に立たされた時、感情を素直に表現できることは、その後の前向きな決断につながることが多いのです。

カウンセリングルームという、安全な空間で思い切り感情を解放することで、心の整理ができ、冷静に判断する力が戻ってくる。そんな過程を何度も目の当たりにしてきました。

決断の時

彼女は全ての選択肢について考えました。確定検査を受けるか、このまま妊娠を継続するか、あるいは中絶を選ぶか。身体的にも精神的にも経済的にも、初期と中期では負担が大きく異なります。

様々な要素を考慮した結果、彼女は妊娠を継続しない選択をしました。

希望を見出す言葉

カウンセリングの中で、以前にお会いした別の方のことをお話ししました。その方は「もう妊娠できない可能性が高い」と医師から説明を受けていたため、T21(ダウン症)と診断されたお子さんであっても、貴重な命として産み育てる道を選ばれました。

今回の方には、こんな言葉をかけました。

「子どもを望んでいない男性との間に子どもを作っても、将来的に多くの苦労が待っているかもしれません。今回のことは、T21のお子さんが『今はまだ時期じゃないよ』と教えてくれたのかもしれません。ママ思いの素敵な赤ちゃんなのかもしれませんよ。いいほうに考えましょう。」

「今は様々な出会いの場があります。マッチングアプリなどを通じて出会い、結婚に至るカップルも多いです。『この人との子供が欲しい』とお互いに思える違う人と出会って、また妊娠してきてくれることを願っています。今はアプリ婚の人も多いので、新しい出会いの可能性は十分にありますよ」と伝えました。

女性が子どもを望む気持ちは尊重されるべきですが、パートナーとの関係性や将来設計も含めて総合的に考えることが大切です。新しい可能性に目を向け、自分自身の幸せを第一に考えることを勧めることも、カウンセリングの重要な役割の一つだと考えています。

医師としての責任と思い

NIPTのカウンセリングは、単に医学的な情報を伝えるだけではありません。そこには人生の大きな選択、家族のあり方、そして未来への希望が詰まっています。

わたしの言葉で患者さんの人生が分かれていくことに対して、怖さがないかと言うと、怖いです。でも、医師として、遺伝専門医として、そして「一人の女性」として、目の前の女性の幸福をちゃんと考えて責任をもって提案できる人でありたいと思います。

わたしたち医師は神にはなれません。でも、堕天使くらいになってもいいかなって。それで患者さんが救われた気持ちになって、ちょっとでも明るく前を向いて人生歩いてくれたらいいかなと思っています。

とにかく、私に会った後、患者さんの気持ちが1グラムでも軽くなるようなカウンセリングを提供できるように頑張っています。重い決断を迫られている方の心の負担を少しでも和らげること、それが私の使命だと感じています。辛い結果を受け止めながらも、その先に希望を見出せるよう、全力でサポートすることを心がけています。

一人ひとりのケースに正解はなく、その方の状況や価値観、将来設計に合わせた選択を支援することが私たちの役目です。今日のカウンセリングも、その方が自分自身で納得のいく決断をするための小さな支えになれたなら幸いです。

時には厳しい結果を受け止めなければならない瞬間もありますが、そこから新たな可能性や希望を見出していくことができる。そんな人間の強さと柔軟さを、日々のカウンセリングで感じています。

ダウン症(T21)のNIPT検査についてよくある質問

Q: NIPTのT21検査の精度はどのくらいですか?

A: ミネルバクリニックの検査では、T21(ダウン症)の場合、陽性的中率はほぼ100%と非常に高い精度を示しています。ただし、あくまで確率的な検査であり、確定診断には絨毛検査や羊水検査などの侵襲的検査が必要です。

Q: 陽性結果が出た場合、必ず確定検査を受ける必要がありますか?

A: 確定診断を得るためには確定検査が必要ですが、受けるかどうかは完全にご本人の判断によります。妊娠継続や中絶を考える際の判断材料として確定検査を選ぶ方もいれば、NIPTの結果だけで決断される方もいらっしゃいます。

Q: 検査結果を受けてショックを感じています。どうすればよいですか?

A: そのような感情を抱くことは非常に自然なことです。専門的な遺伝カウンセリングを受けることで、正確な情報と精神的なサポートを得ることができます。また、同じ経験をした方々のサポートグループも心の支えになることがあります。

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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