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葉酸を飲んでいたのにダウン症は発症する?

妊娠中の葉酸の摂取がダウン症を予防すると言われることがありますが、実際のところはどうなのでしょうか?本記事では、実際に発表されている論文や公式な情報を元に、葉酸とダウン症の関係性について詳しく解説しています。
また、葉酸の効果、副作用リスクや症状、適切な葉酸摂取の方法、赤ちゃんのダウン症の有無を調べる方法についても触れています。

葉酸を飲んでいてもダウン症になることはある?

結論からお伝えすると「葉酸の摂取がダウン症を予防する」という明確な証明や根拠はない、というのが実際のところです。
もともと妊娠前や妊娠中の葉酸の摂取には、胎児の神経管閉鎖障害を予防したり、成長を促したりする効果が期待されており、厚生労働省からも葉酸摂取による神経管閉鎖障害の発症リスク低減の可能性について通知が出されています。(*1)

近年の研究には、ダウン症を出産した母親に葉酸欠乏症の可能性があることを示唆したものや、神経管閉鎖障害児出産経験のある母親のダウン症児の妊娠可能性の高さを示したものがあることは事実ですが、いずれも“可能性”の話に留まっています。今後の研究によっては、ダウン症と葉酸の関係性が明確になっていくことも考えられますが、現段階では、葉酸の摂取はダウン症を予防するものではないといえるでしょう。
*1 厚生労働省 | 神経管閉鎖障害の発症リスク低減のための妊娠可能な年齢の女性等に対する葉酸の摂取に係る適切な情報提供の推進について

妊娠中の葉酸摂取に期待できる効果

妊娠中の葉酸摂取に期待できる効果については次のことが挙げられます。

・神経管閉鎖障害のリスクを軽減する
・胎児の成長を促す
・細胞の生産や再生に役立つ

以下では、期待できるそれぞれの効果について詳しく解説していきます。

神経管閉鎖障害のリスクを軽減する

妊娠前後の葉酸の摂取は、赤ちゃんの神経管閉鎖障害のリスクを予防する効果があります。神経管閉鎖障害とは、脳や脊椎に先天性異常が起こる障害です。具体的には、脳の欠損や発育不良が見られる無脳症や、脊椎が飛び出してしまう二分脊椎などが挙げられます。

神経管閉鎖障害は赤ちゃんの神経管がつくられる妊娠初期(妊娠4~12週目)に発生する疾患であるため、多くの研究報告では妊娠の1か月以上前から妊娠3か月まで葉酸摂取が推奨されています。実際には妊娠4週目を過ぎてから妊娠に気付く方が大半ですので、大切な時期の葉酸摂取を逃さないためにも、妊娠前からの葉酸摂取が推奨されています。

胎児の成長を促す

葉酸は、代謝(*2)に関わる働きを持っているビタミンB群のひとつです。
*2 代謝とは:生物が生存や機能するために必要な活動エネルギーを生み出すこと。

代謝は細胞分裂やたんぱく質の合成をつかさどる働きでもあるため、葉酸を適切に摂取することで、胎児の健やかな成長を促すことができると考えられます。反対に、妊娠中に葉酸が不足してしまうと代謝がスムーズにいかず、赤ちゃんの発育不全を招いてしまう恐れがあります。

細胞の生産や再生に役立つ

葉酸はDNARNAなどの核酸の合成にも深く関わっています。核酸は細胞を生産したり再生したりと、人間が生きていく上で必要不可欠な役割を担っており、生命の源になる成分と言っても過言ではありません。
つまり、妊娠中の葉酸の摂取は、赤ちゃんの身体や器官の元となる細胞を作り出すためにも、非常に大切な役割を持つということです。葉酸は、赤ちゃんにも大人にも大切な栄養素ではありますが、体内で作り出すことができないため、食事やサプリメントなどを使って外から摂取するしかありません。

葉酸の適切な摂取量はどのくらい?

葉酸の適切な摂取量については、厚生労働省が定めている「日本人の食事摂取基準」を参考にしましょう。
■葉酸の適切な摂取量 ※サプリメント=狭義の葉酸

1日あたりの目標摂取値
妊娠の計画・可能性がある女性
(妊娠1カ月以上前から)
食品から240㎍+サプリメントから400㎍
妊娠初期の妊婦
(妊娠直後から3カ月まで)
食品から240㎍+サプリメントから400㎍
妊娠中期・後期の妊婦 食品から480㎍
授乳婦 食品から340㎍
妊娠予定のない12歳以上の男女 240㎍

引用元:「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書p237,262

ここでのポイントは、葉酸には「食品から摂取する食事性葉酸」と「サプリメントから摂取する狭義の葉酸」の2種類があり、妊娠前~授乳中の期間はどちらの葉酸をどれだけ摂取すべきかまで指導されている点です。

■2種類の葉酸の違い

・食事性葉酸:葉野菜や果物などから摂取できる葉酸です。水や熱に弱く、調理段階で約50%の葉酸が流失してしまいます。
・狭義の葉酸:人工的につくられており、主にサプリメントに使われている葉酸です。体内への吸収率は85%であり、食事性葉酸よりもダイレクトに身体へ働きかけます。
参照:「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書p237,262

また、神経管閉鎖障害の予防には妊娠直後の積極的な葉酸摂取が有効であるため、妊娠を予定しているのであれば、妊娠1カ月以上前からの摂取が推奨されている点にも注意しましょう。

葉酸の過剰摂取によるリスク

食べ物に含まれる葉酸は調理段階で大半が流失してしまう特性があるため、過剰摂取の心配は少なく、厚生労働省からも摂取上限を定められてはいません。
しかし、サプリメントに含まれる葉酸は体内の吸収率が高いことから摂取量に上限が定められており、上限を超えての摂取は副作用のリスクが高まると注意喚起されています。

■葉酸の耐容上限量(男女共通)

年齢 1日あたりの耐容上限量
(狭義の葉酸)
12~29歳 900μg
30~64歳 1000μg

参考:「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書p237,262

過剰摂取の原因

葉酸の過剰摂取の原因の多くは、サプリメントでの葉酸のとりすぎによるものです。特に、次のようなケースでは葉酸サプリの過剰摂取がしばしば見られます。

うっかり飲みすぎた

葉酸サプリは商品によって1粒ごとに含まれる葉酸量が異なります。間違って飲みすぎてしまわないよう、記載されている用法用量をしっかりと確認するようにしましょう。

他のサプリに葉酸が配合されていた

サプリメントの中には、商品名に葉酸と表記されていなくても葉酸が配合されているものがあります。例えば、マルチビタミンと称した商品の中には1粒400㎍の葉酸が含まれているものがあります。こういったサプリメントと葉酸サプリを併用することで過剰摂取に繋がる可能性があります。

葉酸をサプリのみに頼ろうとする

食品から葉酸を摂取できないからといってサプリメントですべて補おうとするのは危険です。先述の通り、食品に含まれる葉酸とサプリメントの葉酸は体内での吸収率が異なるため、すべてをサプリメントで補おうとすると、過剰摂取による副作用のリスクが高くなります。

推奨摂取量を無視して飲んでしまう

いくら葉酸が妊婦さんや胎児に良いといっても、サプリメントで大量に摂取してしまうと逆効果となってしまいますので、摂取量は必ず守るようにしてください。

葉酸の過剰摂取による主なリスク

葉酸の過剰摂取には、次のような副作用やリスクがあることが報告されています。

アナフィラキシー症状

葉酸過敏症の反応として、蕁麻疹や痒み、発熱などの症状が見られます。原因は不明であることが多く、誰にも起こりうる可能性があります。

肝機能への影響

片寄った成分の過剰摂取は肝臓の負担となり、肝機能障害を起こしてしまう可能性があります。症状は倦怠感、発熱、黄疸、発疹、吐き気、嘔吐、かゆみなど多岐にわたります。

肺がんリスクの上昇

葉酸摂取が肺がんリスクを高めることを示唆した研究がありますが、いずれも男性を対象にしたものであり、女性においては葉酸と肺がんリスクの関連は確認されていません。

ビタミンB12欠乏症の診断が困難になる

葉酸とビタミンB12は働きがよく似ているため、葉酸の過剰摂取のためにビタミンB12欠乏症が見落とされてしまうケースがしばしば見受けられます。ビタミンB12欠乏症の症状には、手足のしびれ、神経障害、貧血などがあります。

葉酸は自閉症の原因になる?

「葉酸の過剰摂取が自閉症のリスクを上げる」という情報があるようですが、今のところ、葉酸と自閉症の因果関係を紐づける明確な結論や証明はありません。
たしかに、母体の葉酸値の高さと自閉症児の関連性を示す研究があったのは事実ですが、それだけで「葉酸は自閉症の原因になる」と結論付けることはできません。むしろ、近年の研究では妊娠中の葉酸摂取は自閉症のリスク低下に有益と報告されているものが多く見られます。

In the study, mothers who had very high blood levels of folate at delivery were twice as likely to have a child with autism compared to mothers with normal folate levels.

引用元:HealthDay News 「Too Much Folic Acid in Pregnancy Tied to Raised Autism Risk in Study」

Use of prenatal folic acid supplements around the time of conception was associated with a lower risk of autistic disorder in the MoBa cohort. Although these findings cannot establish causality, they do support prenatal folic acid supplementation.

引用元:Association between maternal use of folic acid supplements and risk of autism spectrum disorders in children

近年の研究報告では、自閉症スペクトラムの予防・防止には葉酸サプリメントがむしろ有益との報告が多い、カナダと中国からは、母親が妊娠初期に葉酸サプリメントを摂取すると、子どもの重篤な先天性心臓奇形の発症リスクを低減できると報告された。

引用元:令和3年1月22日受理/葉酸による神経管閉鎖障害の予防:発生率,リスク因子,葉酸サプリメントの摂取,行政への要望-日本周産期・新生児学会雑誌第57巻第1号-

葉酸は神経管閉鎖障害だけでなくさまざまな先天性疾患を予防する可能性があるため、米国の自閉症学会でも適切な葉酸摂取の重要性が強調されています。

Use of prenatal folic acid supplements around the time of conception was associated with a lower risk of autistic disorder in the MoBa cohort. Although these findings cannot establish causality, they do support prenatal folic acid supplementation.

引用元:Association between maternal use of folic acid supplements and risk of autism spectrum disorders in children

大切なのは、過剰摂取とならないよう、容量を守って葉酸を適切に摂取することです。

お腹の赤ちゃんのダウン症の有無を調べるならNIPTで

妊娠前後の積極的な葉酸の摂取は、赤ちゃんの健やかな成長の手助けになるものの、ダウン症を直接予防する効果を期待できるものではありません。
もし、お腹の赤ちゃんにダウン症があるかどうかを知りたい場合は、NIPT検査を利用する方法があります。

NIPTとは、母体の血液を利用し赤ちゃんのダウン症をはじめとする染色体異常の有無を調べることができる検査です。妊娠9~10週と妊娠初期に検査できるほか、安全性や精度性の高さからも、NIPT検査を利用する妊婦さんが増えています。
当院ミネルバクリニックでもNIPTを実施しており、臨床遺伝専門医である院長による遺伝カウンセリングや万が一陽性だった場合のフォロー体制の充実など患者に寄り添ったサポートを強みとしています。また、通常よりも早い妊娠6週目からの検査を実施しております。
ダウン症やその他の染色体異常について調べたいという方は、当院に一度ご相談ください。

>>ミネルバクリニックのNIPTについて詳しく

まとめ

ダウン症と葉酸についてはこれまで複数の研究が報告されているものの、「葉酸の摂取がダウン症を予防する」という明確な証明はなされていません。妊娠前後の葉酸の積極的な摂取が推奨されているのは、赤ちゃん神経管閉鎖障害の予防や適切な発達を手助けする効果が認められているためです。

葉酸を摂取するにあたっては、食物に含まれる食事性葉酸とサプリメントに使われる狭義の葉酸の2種類が存在する点や、それぞれの摂取量に注意して葉酸を摂取するようにしましょう。
また、赤ちゃんにダウン症がないかを調べるには、母体の採血のみで行えるNIPT検査が適しています。当院ミネルバクリニックでも、ダウン症をはじめとする染色体異常の有無を検査できるNIPTを実施しています。NIPTをご検討の際は、ミネルバクリニックまでお気軽にご相談ください。

この記事の著者:仲田洋美(医師)

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ミネルバクリニックでは、以下のNIPT検査を提供しています。少子化の時代、より健康なお子さんを持ちたいという思いが高まるのは当然のことと考えています。そのため、当院では世界の先進的特許技術に支えられた高精度な検査を提供してくれる検査会社を遺伝専門医の目で選りすぐりご提供しています。

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プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 (がん薬物療法専門医認定者名簿)、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医(臨床遺伝専門医名簿:東京都)として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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