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妊娠がわかって赤ちゃんが生まれるまでの間は、赤ちゃんとの対面を楽しみにする反面、健康で生まれてきてくれるかと心配になります。妊娠中に受けられる出生前診断のなかには、さまざまな検査がありますが、そのなかのひとつである胎児ドックをご存知ですか?
胎児ドックは、赤ちゃんの内蔵奇形、先天性心疾患、染色体異常による障害の可能性を調べられる検査で、流産や死産のリスクがない検査として注目されています。
胎児ドックで調べる内容のなかに含まれるNTの値は、赤ちゃんの異常を確認する一つの指標となります。
この記事では、胎児ドックとNTについて、詳しくご紹介します。
出産前に赤ちゃんが健康に生まれてくる確率を調べたいと考えている方は、ぜひ参考にしてみてください。
胎児ドックとは
胎児ドックは非確定的検査となるので、陽性が出ても診断確定のため確定検査を受ける必要があります。
施設によって「胎児超音波検査」「胎児初期精密検査」「ベビードック」など名称はさまざまです。
通常の妊婦検診で使われる超音波よりも精密な機械を使って行うので、胎児ドックが受けられる医療機関は限られています。
さらに計測にはFMFというイギリスの資格認定が推奨されているため、検査を受ける際は資格を持っている医師が担当しているのかを確認するようにしましょう。
まずは、胎児ドックで行う検査について詳しくご紹介します。
検査時期
胎児ドックは施設によって内容が異なりますが、大きくは妊娠初期、中期、後期の3回に分けて行われます。
それぞれ受ける時期は以下のようになります。
- 妊娠初期…妊娠11週~妊娠13週
- 妊娠中期…妊娠19週~妊娠26週
- 妊娠後期…妊娠28週~妊娠30週
このような検査の他にも、妊娠初期にクアトロテストを組み合わせて実施している施設もあります。
これらを組み合わせて検査することで、より高い確率でリスクを算出できます。
検査内容
検査内容は各時期によって違うため、以下を参考にしてみてください。
- 妊娠初期…全身の形態、脳の構造、顔の構造、心臓の構造、腹部、膀胱、臍帯、四股の確認など
- 妊娠中期…大脳、小脳、顔、心臓、肺、肝臓、胃腸、腎臓、膀胱、外性器、背骨、四股、臍帯、胎盤、性別など
- 妊娠後期…妊娠中期の検査内容をさらに細かく確認
妊娠初期に赤ちゃんは人間としての形が形成されます。それらを大まかに検査することに加え、マーカー(NT、鼻骨、静脈管逆流、三尖弁逆流)と呼ばれるサインをチェックして染色体異常の確率を調べます。
妊娠中期、後期には胎児の発育、形態的な異常、胎盤、臍帯、個々の臓器を細かく検査し、異常がないかを確認します。
心臓を含めた大きな奇形がないか、後遺症を残す脳の異常がないかなどを調べられるので、出産前に赤ちゃんの健康状態を知ることができます。
胎児ドックでわかること
胎児ドックでは以下のことがわかります。
- 推定体重
- 臍帯の血液の流れ
- 心臓の動き
- 成長具合
- 13トリソミー、18トリソミー、21トリソミーの胎児形態異常の確率
胎児ドックで行われる超音波スクリーニング検査では、主に「NT、鼻骨の有無、三突弁逆流、静脈管逆流」を検査します。
13トリソミー(パトー症候群)、18トリソミー(エドワーズ症候群)、21トリソミー(ダウン症候群)の可能性は以下のように判定されます。
- NTが3.5mm以上の胎児…染色体異常、胎児奇形、胎児死亡との関連
- 鼻骨がない胎児…パトー症候群の40%、エドワーズ症候群の50%、ダウン症候群の60%に認められる
- 三突弁逆流が起きている胎児…パトー症候群の30%、エドワーズ症候群の30%、ダウン症候群の55%に認められる
- 静脈管逆流が起きている胎児…パトー症候群の55%、エドワーズ症候群の55%、ダウン症候群の65%に認められる
このように、超音波スクリーニング検査で異常が認められたケースでは、胎児の染色体異常の確率があがるため、さらに詳しい検査を行うこととなります。
胎児ドックを受ける理由
胎児ドックを受ける方は以下のような理由から検査を受けます。
- 高齢妊娠
- 前回の妊娠で赤ちゃんに染色体異常が見つかった
- 家族や血縁者に染色体異常の方がいる
- 赤ちゃんの健康状態を知りたいが羊水検査を受ける前に非確定的検査を受けたい
高齢出産は赤ちゃんの染色体異常の確率が上がると言われているため、初産婦で35歳以上の方、経産婦で40歳以上の方は胎児ドックを受けたいと考える方が多いようです。
さらに、前回の妊娠で赤ちゃんに染色体異常が見つかり、流産や死産を経験している方や、赤ちゃんの健康状態に不安を感じていても、羊水検査を受けるのは抵抗があるという方が、胎児ドックを受ける傾向にあります。
NTについて
胎児ドックで調べられるNTとは「Nuchal Translucency」の頭文字をとった言葉で、胎児頚部浮腫とも言われます。
ここからは、NTについて詳しくご紹介します。
NTとは?
NTとは、超音波検査によって胎児の首の後ろに見えるリンパがたまっている黒いスペースのことで、どの胎児にも存在します。
NTの測定にはイギリスのFMFが認定したライセンスが必要となり、前述した鼻骨の有無、三突弁逆流、静脈管逆流とあわせて検査を行うことで、胎児の病気の可能性を示すものとなります。
NTが増大していると、染色体異常や先天性心疾患などのさまざまな病気が疑われると言われています。
そのため不安になってしまう妊婦さんも多いのですが、初期に認められたNTの厚みが中期や後期に正常化することも多いため、一度の検査でNTが増大していると言われたからといって、赤ちゃんに必ず異常があるというわけではないということは覚えておきましょう。
NTの正常値とは?厚さとリスクの関係
NTの厚さと染色体異常のリスクは以下のような関係性になっています
- 3.5mm~4.4mm…20%
- 4.5mm~5.4mm…33%
- 5.5mm~6.4mm…50%
- 6.5mm~65%
NTが異常に増大すると染色体異常がある確率は上がります。3.5mm以上から注意が必要とされているため、正常値という言い方をすれば3.5mm未満だと安心ということになります。
NT値が3.5mmであっても、80%の胎児は健康に生まれてきます。確かに、NTが厚いことは染色体異常の確率が上がるとされていますが、正常児の一時的な生理現象の可能性もあるため、NT値だけで不安になることがないようにしましょう。
NT値増加で心配な疾患
NT値が増加していると以下のようなさまざまな疾患の可能性があるとされています。
- 染色体異常
- 先天性心疾患
- 中枢神経疾患
- 消化器疾患
- 泌尿器疾患
- 神経筋疾患
- 代謝障害
染色体異常で最も多いのがダウン症候群です。ダウン症候群は21番染色体が余分に複製されることで発生し、発育の遅れや精神発達の遅れ、特異的な頭部や顔、低身長などが見られます。
染色体異常は、障害がひどいと流産や死産を引き起こしますが、ダウン症候群の胎児は、障害が軽度であれば出産までお母さんのお腹の中でしっかり育ってくれます。
ダウン症候群の方の現在の平均寿命は50歳を超えていて、家族や周りの方と協力しあいながら社会生活を楽しんでいる方もたくさんいます。
遺伝カウンセリングとは
胎児ドックを受けようと考えている方は、必ず遺伝カウンセリングを受けるようにしましょう。
遺伝カウンセリングでは、遺伝に関するさまざまな悩みの相談や、検査の意義、遺伝性の疾患についてわかりやすく説明してもらえます。
さらに、赤ちゃんが生まれてからどのような支援施設に頼ったらよいかといった、生活にかかわることも相談にのってくれます。
遺伝カウンセリングを行うのは、認定遺伝カウンセラーか臨床遺伝専門医です。
遺伝カウンセリングを受けずに胎児ドックを受けてしまうと、万が一赤ちゃんに染色体異常の可能性があると診断された際に、なんの知識もなくどうしたらよいかわからないという状態になってしまいます。
検査についての概要をしっかり説明してもらったうえで、先天性の疾患や染色体異常についての理解を深め、検査後の対処方法までを事前に把握して胎児ドックを受けることをおすすめします。
まとめ
胎児ドックとNTについて詳しくご紹介しましたが、参考になりましたか?
胎児ドックは、生まれてくる赤ちゃんの健康状態を知りたいと願う方が受けられる、非確定的検査です。
1990年代にイギリスで、NT値の高い胎児に染色体異常が増加していることが示されて以来、イギリスを含む欧米の先進国では妊娠初期に超音波スクリーニングを行う国が増加しました。
しかし日本では、FMFが認定した資格を所持している医師が少ないのが現状です。
胎児ドックを受けようと考えている方は、正しい知識をもったFMF認定の資格を持っている医師に診断してもらえる施設を選ぶようにしましょう。
さらに、胎児ドックの前に必ず遺伝カウンセリングを受け、検査の概要や検査後の対処方法などを学んでおきましょう。
NT値について記事内でご紹介しましたが、NT値が高いからといって赤ちゃんに必ず障害があるというわけではなく、NT値以外にもさまざまな検査の結果を総合して、赤ちゃんの異常の可能性は導き出されます。
胎児ドックを受けたいと考えている方は、丁寧な遺伝カウンセリングを行い、知識を身につけてから検査を受けるようにしましょう。