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拡大型NIPTで軟骨無形成症と判明したケース


この記事のポイント

  • 拡大型NIPTでFGFR3遺伝子変異を検出 – ダイヤモンドプランにより軟骨無形成症が判明
  • 軟骨無形成症の心理社会的影響 – 身体的特徴による社会的・心理的困難を考慮
  • きょうだい児としての体験 – 家族の過去の経験が意思決定に影響
  • 包括的な情報提供とカウンセリング – 遺伝専門医による総合的なサポート
  • 家族の価値観に基づいた選択 – 個人的な体験と将来への配慮を重視した決断

要約:拡大型NIPTを通じて軟骨無形成症が判明したケースでは、医学的な情報だけでなく、心理社会的な側面や家族の価値観を総合的に考慮した意思決定が重要であることが示されています。

近年、出生前診断の選択肢が広がり、妊婦さんとそのパートナーが様々な情報を元に意思決定をする機会が増えています。今回は、当クリニックの拡大型NIPT(ダイヤモンドプラン)を受けられたAさんの経験談をご紹介します。

拡大型NIPTとは

従来のNIPTが主に染色体数の異常(13、18、21トリソミー)を検査するのに対し、拡大型NIPTでは特定の遺伝子変異も検査することができます。ダイヤモンドプランでは、FGFR3を含む複数の疾患関連遺伝子の変異と、微細欠失12か所を検査します。

Aさんのケース

Aさんは妊娠中期に拡大型NIPT(ダイヤモンドプラン)を受検されました。その結果、胎児のFGFR3遺伝子に病的変異が検出され、追加検査により軟骨無形成症であることが確定しました。

軟骨無形成症は骨の成長に影響を与える遺伝性疾患で、四肢が短く、身長が著しく低くなる特徴があります。一般的に知能の発達には影響がなく、平均寿命もほぼ健常者と変わらないとされています。

検査結果を受け、Aさんは遺伝専門医との複数回にわたる相談を経て、妊娠を継続しないという決断をされました

Aさんの思い

「知能は正常で容姿に問題があるだけのお子さんをあきらめるなんて…」と言う意見があるかもしれませんが、Aさんにとって、この決断には深い背景がありました。

Aさんは自身のきょうだいに障害があり、「きょうだい児」として育ってきました。幼少期から、きょうだいのことでいろいろと言われたり、いじめられたりするつらい経験をしてきたのです。家族の事情により、Aさんは幼い頃から家庭内での役割を担い、時に過度な責任感を抱えながら成長してきました。

「その思いを今いるお子さんにさせたくない」というのがAさんの強い気持ちでした。さまざまな選択肢を検討した結果、Aさんはご自身のこれまでの体験を踏まえ、お子さんの将来に起こりうる困難を考慮し、最終的にはその思いを優先されました。

また、Aさんが医師との相談の中で懸念されていたのは、軟骨無形成症の場合、知能が正常であるからこそ、成長するにつれて自分と他者との身体的な違いを強く意識し、社会的・心理的な困難に直面する可能性が高いという点でした。医学的な研究によれば、このような希少な身体的特徴を持つ方々は、一般集団と比較して約3倍の精神疾患発症リスクがあるとも言われています。

「幼少期は周囲の理解もあり比較的適応できても、思春期以降に自己像の形成が難しくなったり、社会的な壁にぶつかったりすることが多い」と説明を受け、Aさんは長期的な視点からお子さんの人生を考慮されました。学校でのいじめや社会での偏見、就学・就労における困難など、子どもが将来直面するかもしれない様々な課題を想像し、自身のきょうだい児としての経験と重ね合わせ、深く悩まれた末の決断でした。

軟骨無形成症と心理社会的側面

軟骨無形成症者が直面する心理社会的課題

軟骨無形成症は知的発達に影響しない疾患ですが、身体的特徴による様々な心理社会的課題が生じることが研究で示されています。主な困難としては以下のようなものがあります。

  • いじめや偏見への対処:学校や社会で注目を集めたり、からかいやいじめの対象になることがあります。思春期の子どもの中には「小学校で始まったいじめが少し収まっても、また後を追ってきて未だに傷ついている」と語るケースもあります。
  • 自己概念と外見の受容:小児期には概して健全な自己概念を維持できていても、年齢とともに変化する可能性があります。成人当事者では自己評価の低下や抑うつ傾向が報告されています。
  • 社会経済的な困難:研究では軟骨無形成症の方は平均より学歴が低く、就職も十分に成功しておらず、収入も少ない傾向があることが報告されています。
  • QOLの低下:米国の成人当事者を調査した研究では、一般人口の約3倍という高い割合で精神疾患の診断を受けており、抑うつや不安障害などの精神的負担が大きいことが示されています。

これらのことから、軟骨無形成症患者には身体面だけでなく精神面を含めた包括的ケアが必要であると専門家は強調しています。また、家族全体のQOLにも配慮した特別な支援が重要とされています。

軟骨無形成症とFGFR3遺伝子について

軟骨無形成症は約5,000~10,000人に1人の割合で発症する希少疾患です。この疾患は骨系統疾患の中で最も頻度が高いものの一つです。80%は両親に疾患がなく、新生突然変異によるものとされています。

FGFR3(線維芽細胞増殖因子受容体3)遺伝子の突然変異により引き起こされ、特に注目すべき点として、父親の年齢が高いほど精子形成過程での突然変異率が上昇することが知られています。つまり、父親の高齢化に伴い、この遺伝子変異のリスクが高まる傾向があります。

身体的特徴としては、四肢の短縮、額の突出、脊柱の彎曲などがありますが、知能発達は通常影響を受けません。医療技術の進歩により、合併症の管理や生活の質の向上のための治療法も発展していますが、現時点では根本的な治療法はありません。

FGFR3遺伝子の変異は、軟骨無形成症以外にも、軟骨低形成症やタナトフォリック骨異形成症などの関連疾患を引き起こすことがあります。これらの疾患の重症度は変異の種類によって異なります。

支援の重要性

軟骨無形成症のお子さんをもつ家族には、様々なサポートが必要です。

  • 家族のサポート:家族は当事者の最も身近な心理的支えとなります。
  • 患者会やピアサポート:同じ境遇の人々との交流は、孤立感を和らげ自己受容を促進します。
  • 学校や社会での理解促進:いじめ防止や合理的配慮の提供が重要です。
  • 包括的医療:身体面だけでなく心理面も含めたトータルケアが必要です。

これらの支援があれば、当事者の生活の質は大きく向上する可能性があります。しかし、現実にはこうした支援が十分でないことも多く、家族は様々な困難に直面することがあります。

当クリニックからのメッセージ

出生前診断の結果に基づく決断について

出生前診断の結果に基づく決断は、それぞれの方の人生経験、価値観、家庭環境など様々な要素が関わる非常に個人的なものです。どのような選択をされても、私たちはその決断を尊重し、必要なサポートを提供いたします。

特に、障害や疾患を持つお子さんとそのご家族は、医学的な側面だけでなく、心理社会的な課題にも直面することがあります。専門家による適切な情報提供と支援が、よりよい選択と将来の準備につながると考えています。遺伝専門医によるカウンセリングでは、これらの側面も含めて総合的にお話しさせていただきます。

拡大型NIPTについてのご質問や、遺伝専門医によるカウンセリングをご希望の方は、どうぞお気軽にご相談ください。

ミネルバクリニックのNIPT検査

ミネルバクリニックでは、「健やかなお子さまを迎えてほしい」という想いを持つ臨床遺伝専門医の院長のもと、東京都港区青山にてNIPT検査を提供しています。少子化が進む現代において、より健康なお子さまを望むのは自然なことです。そのため、当院では世界最先端の特許技術を活用し、高精度かつ多様な疾患の検査を提供できる信頼性の高い検査会社を、遺伝専門医が厳選しています。さらに、全国どこからでもオンライン診療に対応し、採血はお近くの提携医療機関で受けることも可能です。

ミネルバクリニックでは、NIPTに関するカウンセリングを提供しています。まずはお気軽にご相談ください。

よくある質問(FAQ)

Q. 軟骨無形成症とは何ですか?
A. 軟骨無形成症は、FGFR3遺伝子の突然変異により引き起こされる骨系統疾患です。四肢の短縮、額の突出、脊柱の彎曲などの身体的特徴がありますが、知能発達は通常影響を受けません。約5,000~10,000人に1人の割合で発症する希少疾患です。

Q. 拡大型NIPTでFGFR3遺伝子変異はどの程度正確に検出できますか?
A. 拡大型NIPT(ダイヤモンドプラン)では、FGFR3遺伝子を含む複数の疾患関連遺伝子の変異を高精度で検査できます。ただし、陽性結果が出た場合は、確定診断のために追加検査が必要となります。検査の精度については、遺伝専門医との相談で詳しく説明いたします。

Q. 検査結果が陽性の場合、どのような選択肢がありますか?
A. 出生前診断の結果に基づく選択は、妊娠継続、妊娠終了、さらなる検査など様々です。どの選択も個人的な価値観、家庭環境、人生経験などに基づく非常に個人的な決断です。遺伝専門医が医学的・心理社会的な側面を含めて総合的にカウンセリングを行い、ご家族の意思決定をサポートします。

Q. 軟骨無形成症の子どもが直面する課題にはどのようなものがありますか?
A. 主な課題として、いじめや偏見への対処、自己概念と外見の受容、社会経済的な困難、QOLの低下があります。研究によると、一般人口と比較して約3倍の精神疾患発症リスクがあるとされています。しかし、適切な支援があれば生活の質は大きく向上する可能性があります。

Q. ミネルバクリニックではどのようなサポートを受けられますか?
A. 当クリニックでは、臨床遺伝専門医による無料カウンセリングから検査、結果説明まで包括的なサポートを提供しています。全国どこからでもオンライン診療に対応し、採血はお近くの提携医療機関で受けることも可能です。検査結果に関わらず、ご家族の決断を尊重し、必要なサポートを継続いたします。

その他のご質問について

上記以外にもご不明な点やご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。遺伝専門医が個別のご状況に応じて詳しくご説明いたします。

参考文献

  1. Constantinides C, et al. Quality of life, physical functioning, and psychosocial function among patients with achondroplasia: a targeted literature review. Disabil Rehabil. 2022 Oct;44(21):6166-6178. pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34403286/
  2. Striedner Y, et al. Exploring the Micro-Mosaic Landscape of FGFR3 Mutations in the Ageing Male Germline and Their Potential Implications in Meiotic Differentiation. Genes (Basel). 2024 Jan 30;15(2):191. www.mdpi.com/2073-4425/15/2/191
  3. Witt S, et al. Quality of life of children with achondroplasia and their parents – a German cross-sectional study. Orphanet J Rare Dis. 2019;14:194. ojrd.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13023-019-1171-9

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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