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なぜ、母体血で胎児の病気が分かるのか | NIPT(非侵襲的出生前検査)の仕組みと歴史

NIPT(非侵襲的出生前検査)とは何ですか?:NIPT(Non-Invasive Prenatal Testing)は母体の血液だけで胎児の染色体異常を検査できる最新技術です。本記事では、この革新的な検査の仕組みや開発背景、日本での状況について詳しく解説します。

「cell-free DNA」とは?母体血中の浮遊DNAの発見

私たちの体内には、細胞の中に閉じ込められていないDNAが存在します。これを「cell-free DNA(無細胞DNA、cfDNA)」と呼びます。1948年に初めて人間の血液中にこのDNAが存在することが確認されましたが、長い間その医学的意義は明らかではありませんでした。

1990年代に入り、がん患者の血液中に腫瘍由来のDNAが検出できることが分かり、この分野の研究が進みました。この発見が、その後の出生前検査の革命的進歩に繋がります

🔍 よくある質問: cell-free DNAとは何ですか?

cell-free DNAは、細胞の外部で血液などの体液中に浮遊しているDNA断片のことです。健康な人でも存在しますが、がん患者や妊婦の血液中では特定のパターンが見られます。妊婦の場合、そのDNAの一部は胎児由来(正確には胎盤由来)であり、これが非侵襲的出生前検査の科学的基盤となっています。

細胞から解き放たれたDNA – 母体血中の胎児DNA

1990年代初頭、出生前診断の分野では「母体の血液だけで胎児の遺伝情報を得られないか?」という問いが世界中の研究者の間で模索されていました。すでに、腫瘍や移植医療の研究では、「cell-free DNA(cfDNA)」と呼ばれる血中DNA断片が注目されていたため、「胎児のcfDNAも同様に存在するのではないか」という仮説がありました。

1997年、香港の研究者デニス・ロー博士はこの問いに真剣に取り組み、胎児から母体へとDNAが移行する可能性に着目した数少ない研究者のひとりでした。そして、彼は革命的な発見をしました。妊婦の血液中に胎児由来のDNAが存在することを世界で初めて証明したのです。この「cell-free fetal DNA(無細胞胎児DNA)」は主に胎盤から母体の血液中に放出されています。

🧪 Lo博士の実験方法と技術的工夫(1997年)

Lo博士は以下のようなアプローチで発見に至りました:

  1. Y染色体をターゲットにしたPCR法の活用
    • 対象は男児を妊娠中の女性
    • 男児にはY染色体があるが、母体(女性)にはY染色体がないため、Y染色体特有のDNA配列(例:SRY遺伝子)を検出できれば、それは胎児由来のものに違いないという論理です。
    • これにより、「母体の血漿中に胎児の遺伝情報が存在するかどうか」を明確に調べることができました。
  2. 血清ではなく「血漿」を使用
    • Lo博士は血中の細胞成分を除いた「血漿(plasma)」を用いました。
    • 当時、多くの研究は「血清」を使っており、細胞が壊れて母体DNAが混入しやすく、胎児DNAの検出に不利でした。
    • 血漿は、混入DNAが少なく、精度の高い検出が可能だったため、これが成功のカギとなりました。
  3. 非常に高感度なPCR技術(定量PCR)の導入
    • 微量な胎児DNAを検出するため、感度の高いポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を駆使。
    • 胎児DNAは妊娠早期では非常に少ないため、1回の採血に含まれるDNAは数ピコグラムレベル。高度な定量技術が求められました。

💡 発表と反響

1997年、Lo博士とチームは研究成果を権威ある医学誌「The Lancet」に発表し、世界中の注目を集めました。

この論文では:

  • 妊婦の血漿中からY染色体のDNAを検出したこと
  • 胎児DNAは妊娠早期から存在すること
  • 分娩後には急速に血中から消失すること(≒一過性である)

などが明示されており、「母体に危険を与えずに胎児の遺伝子を調べられる」という道が理論上可能であることを証明しました。

1997年

デニス・ロー博士が母体血液中の胎児DNAを発見し、『Lancet』誌に論文を発表。

1998年

母体血漿中のcell-free胎児DNAが高濃度で存在することが示される。

2000年代初頭

RhD血液型や性染色体関連疾患の非侵襲的検査法が開発される。

2008年

次世代シーケンシング技術を用いたトリソミー21(ダウン症候群)検出の方法が開発される。

2011年

アジアと米国でNIPT(非侵襲的出生前検査)の臨床利用が始まる。

2013年

日本で日本産科婦人科学会によるNIPTガイドラインが策定され、臨床研究として開始。

NIPTの仕組み – どのようにして母体血から胎児の染色体異常を検出するのか?

NIPTの科学的仕組みをわかりやすく説明します:

NIPTの検査プロセス

  1. 母体血液中のDNAを分析:妊婦の血液中には、自分自身のDNAと胎児(正確には胎盤)由来のDNAが混在しています。妊娠10週頃から、全体の約5〜20%が胎児由来のDNAと言われています。
  2. 次世代シーケンシング技術で解析:高度な解析技術を用いて、そのDNAを染色体ごとに分類し、量的な異常がないかを調べます。
  3. 染色体の数的異常を検出:例えば、通常より21番染色体由来のDNAが多い場合、それは胎児がダウン症候群(トリソミー21)である可能性を示唆します。
  4. 結果の解釈とカウンセリング:結果は単なる確率であり、確定診断のためには羊水検査などが必要です。結果の解釈や今後の選択肢についての専門的なカウンセリングが重要です。

NIPTは侵襲的検査と比較して非常に安全です。妊婦の血液を採取するだけのため、流産リスクなどの心配がありません。感度(検出率)も高く、ダウン症候群の場合は99%以上と報告されています。ただし、これはあくまでスクリーニング検査であり、確定診断ではないことに留意が必要です。

Q&A: NIPTで分かることと分からないこと

Q: NIPTではどのような染色体異常がわかりますか?
A: 主に検査できるのは、トリソミー21(ダウン症候群)、トリソミー18(エドワーズ症候群)、トリソミー13(パトー症候群)の3つと、オプションで性染色体異常です。それ以外の染色体異常や、染色体の微小欠失・重複は通常検出できません。

Q: NIPTの精度はどのくらいですか?
A: ダウン症候群(トリソミー21)の検出率は99%以上と非常に高いものの、偽陽性も0.1〜0.2%程度あります。エドワーズ症候群やパトー症候群も高い検出率ですが、やや低くなります。

Q: いつ頃から検査できますか?
A: 胎児DNAが十分な量になる妊娠10週頃から検査可能です。早い時期の方が検出率が高いとされています。

ミネルバクリニックの高精度NIPT

当クリニックのNIPTは一般的なNIPTよりも検査項目が充実しており、より多くの胎児の疾患を検出できます:

  • 微小欠失12か所13疾患陽性的中率ほぼ100%で検査可能
  • 56の遺伝子変異による重篤な疾患を陽性的中率ほぼ100%で検査可能
  • 通常のNIPTに比べ赤ちゃんの疾患検出頻度が1.6倍

※陽性的中率とは、検査で陽性と判定された場合に実際に疾患がある確率のことです。

確定検査のサポート体制

当院は、確定検査を希望される場合、必ず受けられるように手配することが可能ですので、安心して検査をお受けいただけます。

  • NIPTで陽性結果が出た場合の確定検査(羊水検査・絨毛検査)への連携
  • 検査前から検査後まで一貫した専門医によるサポート
  • 結果に関わらず継続的なフォロー体制を整備

認定施設に属さない理由

ミネルバクリニックは、従来の認定施設制度に制約されず、常に世界最先端の技術を取り入れた検査を提供するという理念に基づいて運営されています。

  • 認定施設の枠組みにとらわれず、その時々の最先端検査技術を柔軟に採用
  • 臨床遺伝専門医の専門知識に基づき、世界水準の検査方法を選択
  • より多くの染色体異常や遺伝子疾患の検出が可能な高精度・広範囲な検査を実現

臨床遺伝専門医が対応する3つのメリット

1. 専門医による一貫したケア
  • 他の施設では珍しい、同一医師(臨床遺伝専門医)による終始一貫した対応
  • カウンセリングから検査、結果説明、フォローまで同じ医師が担当
2. 安心感の提供
  • 専門知識を持つ医師が直接対応することによる信頼性
  • 一貫した説明による混乱の防止
3. 個別化された医療の提供
  • 患者さんの状況を総合的に把握した対応が可能
  • 医学的見地からの適切な情報提供

お問い合わせ先: 03-4578-3768(予約受付:平日9:00-18:00)

参考文献:

  • Lo YM, et al. Presence of fetal DNA in maternal plasma and serum. Lancet. 1997;350:485-487.
  • 日本産科婦人科学会. NIPT指針2013年版、2022年改定版
  • 日本医学会. 出生前検査認証制度等運営委員会 指針

よくある質問(FAQ)

NIPT(非侵襲的出生前検査)とは何ですか?

NIPTは母体の血液を採取するだけで、胎児の染色体異常(ダウン症候群など)を高い精度で検出できる新しい検査方法です。妊娠10週頃から検査可能で、従来の羊水検査などと異なり流産リスクがない安全な検査です。

なぜ母体の血液で胎児の染色体異常がわかるのですか?

妊娠中の女性の血液中には、胎盤から放出された胎児由来のDNA断片(cell-free fetal DNA)が存在します。このDNAを高度な次世代シーケンシング技術で分析することで、染色体の数的異常を検出できます。1997年にデニス・ロー博士によって発見されたこの原理が、現在のNIPT技術の基盤となっています。

NIPTはどのような染色体異常を検出できますか?

一般的なNIPTでは、主にトリソミー21(ダウン症候群)、トリソミー18(エドワーズ症候群)、トリソミー13(パトー症候群)の3種類の染色体異常を検出できます。オプションで性染色体異常(ターナー症候群やクラインフェルター症候群など)も検査可能です。ミネルバクリニックでは、微小欠失症候群や特定の遺伝子変異も検査できる拡張型NIPTも提供しています。

NIPTの精度はどのくらいですか?

NIPTの検出率(感度)はトリソミー21(ダウン症候群)で99%以上と非常に高精度です。偽陽性率も0.1〜0.2%程度と低いですが、確定診断ではないため、陽性結果が出た場合は羊水検査などの確定検査が必要です。ミネルバクリニックで提供する拡張NIPTでは、特定の微小欠失症候群や遺伝子変異の陽性的中率がほぼ100%と高精度です。

いつからNIPT検査を受けられますか?

NIPTは一般的に妊娠10週(妊娠10週0日)以降から検査可能です。これは、この時期から母体血中の胎児由来DNAが検査に十分な量になるためです。早期に検査することで、より早く結果を知り、必要に応じて次のステップを計画する時間的余裕が生まれます。ミネルバクリニックでは妊娠6週からの早期NIPT検査にも対応しています。

NIPT検査後、結果はいつわかりますか?

一般的にNIPT検査の結果は、検査後1〜2週間程度でわかります。ミネルバクリニックでは、通常10~14日程度で結果をお伝えしています。結果は、患者さん用のマイページからダウンロードしていただき、陽性になった場合には臨床遺伝専門医が直接カウンセリングを対面またはオンラインで行い、必要性やご希望に応じて今後の対応についても詳しくご説明します。

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プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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