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NIPT陽性後の確定検査:絨毛検査と羊水検査の選び方


この記事のポイント

  • ●NIPT陽性後の確定検査には「絨毛検査」と「羊水検査」の2つの選択肢があります
  • ●羊水検査は偽陽性リスクが低く、多くの医療機関で第一選択として推奨されています
  • ●絨毛検査は早期診断が可能ですが、限局性胎盤モザイク(CPM)による偽陽性リスクがあります
  • ●最終的な選択は、妊娠週数・リスク許容度・結果を知りたい時期などを考慮して決定します

NIPT陽性後に確定検査が必要な理由

新型出生前診断(NIPT)は、母体血液から胎児の染色体異常の可能性を調べる非侵襲的な検査です。しかし、NIPTはあくまでもスクリーニング検査であり、陽性結果が出た場合には必ず確定検査が必要になります。

重要:NIPTの陽性結果は、赤ちゃんに染色体異常がある「可能性が高い」ことを示すものであり、確定診断ではありません。実際に、NIPT陽性例の約10%が偽陽性であることが報告されています。

確定検査には主に「絨毛検査」と「羊水検査」の2つの方法があります。この記事では、それぞれの検査の特徴、メリット・デメリット、選ぶべき状況について最新の医学的エビデンスに基づいて解説します。

絨毛検査と羊水検査の基本的な違い

絨毛検査(CVS) 羊水検査(Amniocentesis)
実施時期 妊娠10~14週 妊娠15~18週以降
採取部位 絨毛(胎盤の一部) 羊水(胎児が浮かぶ液体)
流産リスク 約1%(0.5~1.5%) 約0.3%(0.1~0.5%)
結果までの期間 3~7日(迅速法)
2~3週間(培養法)
2~3週間
CPMリスク 約1%(偽陽性の可能性) ほぼなし
主なメリット 早期診断が可能 偽陽性リスクが低い
安全性が高い

CPM(限局性胎盤モザイク)とは、胎盤の一部の細胞にのみ染色体異常が見られ、胎児自体には異常がない状態を指します。絨毛検査では胎盤の細胞を調べるため、このCPMによる偽陽性が生じることがあります。

医学会・専門機関の推奨

専門機関の見解

  • ●国際出生前診断学会(ISPD):羊水検査をゴールドスタンダードと位置付け、特に高リスク妊婦には羊水検査を推奨しています。
  • ●米国産科婦人科学会(ACOG):NIPT陽性後には超音波評価と遺伝カウンセリングを必須とし、その後の確定検査として羊水検査を推奨しています。
  • ●英国国立衛生研究所(NICE):CPMリスクを考慮し、特定のケースでは絨毛検査後も羊水検査が必要な場合があることを明示しています。

多くの専門機関が羊水検査を第一選択として推奨していますが、妊娠週数や個別の状況によっては絨毛検査が適切な場合もあります。

羊水検査が推奨される状況

以下のような状況では、羊水検査が特に推奨されます。

  • すでに妊娠15週以降である場合
  • 最も正確な結果を求める場合
  • ・ 流産リスクをできるだけ低く抑えたい場合
  • トリソミー21(ダウン症候群)などの一般的な染色体異常が疑われる場合
  • ・ 以前の妊娠でCPMの経験がある場合

羊水検査のデメリット:結果が出るまでに時間がかかること(2~3週間)と、検査可能な時期が妊娠15週以降と比較的遅いことが挙げられます。

絨毛検査が検討される状況

以下のような状況では、絨毛検査が適切な選択肢となる可能性があります。

  • ・ 妊娠早期(10~14週)で結果を知りたい場合
  • ・ 超音波検査で明らかな胎児異常が確認された場合
  • 重篤な遺伝子疾患が疑われ、早期の診断が治療計画に影響する場合
  • ・ 母体の年齢や医学的理由から早期の診断が必要な場合

注意点:絨毛検査で異常が検出された場合、CPMの可能性を除外するために、追加で羊水検査が必要になることがあります。

診断精度の比較:最新のエビデンス

最新のシステマティックレビューでは、各検査の診断精度について以下のようなデータが報告されています。

  • 羊水検査:診断精度は99.2~99.8%で、偽陽性率は0.1%未満
  • 絨毛検査:診断精度は98.1~99.5%で、CPMによる偽陽性率は約1%

両検査とも高い診断精度を持ちますが、羊水検査の方がより正確であるというエビデンスが多く報告されています。特に一般的な染色体異常(トリソミー21、18、13など)の診断においては、羊水検査がゴールドスタンダードとされています。

臨床現場での実際の選択基準

実際の臨床現場では、以下のような判断基準で確定検査の種類が選択されることが多いです。

一般的な臨床プロトコル

  1. 超音波所見が正常で、急いで結果を知る必要がない場合:羊水検査を第一選択
  2. 早期診断が望ましい場合:絨毛検査を実施し、異常が検出された場合は16週以降に羊水検査を追加
  3. NIPTで高リスクと判定された染色体異常の種類によって選択(例:トリソミー21の場合は羊水検査、希少な染色体異常の場合は状況に応じて)
  4. 妊娠中断を検討している場合:確定診断なしの判断は強く非推奨(必ず確定検査を受けること)

最終的な選択は、個々の妊婦さんの状況、価値観、優先事項を考慮して、医師と相談しながら決定することが重要です。

検査を受ける際の心構えと準備

確定検査を受ける際には、以下の点に注意しましょう。

  • 十分な情報収集と遺伝カウンセリングを受けること
  • ・ 検査当日は安静にできる環境を確保すること(検査後24時間は安静が推奨されます)
  • 検査結果を待つ間の心理的サポートを準備すること
  • ・ 検査後に異常な出血や腹痛、発熱などがあった場合は、すぐに医療機関に連絡すること

メンタルケアの重要性:NIPT陽性という結果自体が大きなストレスとなります。確定検査の選択や結果を待つ過程では、医療従事者や家族からの心理的サポートが非常に重要です。専門のカウンセラーに相談することも検討しましょう。

まとめ:どちらの検査を選ぶべきか

NIPT陽性後の確定検査として、羊水検査が一般的に推奨されますが、状況に応じた選択が必要です。

選択のポイント

羊水検査を選ぶ場合:

  • ・ 最も正確な結果を求める
  • ・ 流産リスクをできるだけ低くしたい
  • ・ すでに妊娠15週以降である

絨毛検査を選ぶ場合:

  • ・ 早期(10~14週)に結果を知りたい
  • ・ 超音波で明らかな異常が見られる
  • ・ 医学的理由から早期診断が必要

最終的には、「精度」「安全性」「時間的要素」のバランスを考慮し、医師と十分に相談した上で決定することが大切です。どちらの検査を選択する場合も、適切な遺伝カウンセリングを受けることで、より納得のいく決断ができるでしょう。

遺伝カウンセリングの予約について

NIPT陽性を受け取られた方へのメッセージ

NIPT検査で陽性結果を受け取り、驚きやショックを感じられることは、とても自然なことです。

しかし、この検査結果はあくまでもスクリーニングであり、確定診断ではありません。実際に、NIPT陽性の約10%は、確定検査で異常がないことが確認されています。

どんな不安や疑問も一人で抱え込まずに、専門家に相談してください。適切な確定検査を受けることで、より正確な情報を得ることができます。

あなたは一人ではありません。これからの妊娠期間も、医療チームがサポートいたします。一緒に最善の道を考えていきましょう。

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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