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魚鱗癬はNIPTでわかりますか?|最新の出生前診断と遺伝子検査の可能性


この記事では、魚鱗癬という遺伝性皮膚疾患がNIPT(非侵襲的出生前検査)で検出可能かどうかについて詳しく解説します。魚鱗癬の種類や遺伝子異常、現在利用可能な出生前診断法について最新の医学情報をもとに説明します。

魚鱗癬(ぎょりんせん)とは

魚鱗癬は、皮膚の角化異常を特徴とする遺伝性疾患の総称です。皮膚が魚のうろこのように乾燥してひび割れ、鱗状に剥がれ落ちることからこの名前がつけられました。主な症状は乾燥肌、皮膚の肥厚、鱗状の皮膚、かゆみなどです。

魚鱗癬の主な種類と関連遺伝子

魚鱗癬はその遺伝形式と原因遺伝子によって複数のタイプに分類されます。主な種類と関連する遺伝子は以下の通りです。

種類 遺伝形式 主な原因遺伝子 特徴
尋常性魚鱗癬 常染色体優性遺伝 FLG, KRT1, KRT10, KRT2 最も一般的な型。全身に細かい鱗状の皮膚を生じる
伴性遺伝性魚鱗癬 X連鎖性劣性遺伝 STS(ステロイドスルファターゼ) 男性に発症。黒褐色の大型の鱗屑が特徴
層板状魚鱗癬 常染色体劣性遺伝 TGM1, ALOX12B, ALOXE3 深刻な型。大型の板状鱗屑と紅斑が特徴
先天性魚鱗癬様紅皮症 常染色体劣性遺伝 ABCA12, CYP4F22 重度の型。「ハーレクイン胎児」として生まれる場合も
表皮融解性魚鱗癬 常染色体優性遺伝 KRT1, KRT10 水疱形成や表皮剥離を伴う

魚鱗癬の遺伝形式について

魚鱗癬の遺伝形式は複数あり、それによって家族内での遺伝リスクや発症パターンが異なります。

  1. 常染色体優性遺伝: 親の一方が変異遺伝子を持っていれば、子どもがその遺伝子を受け継ぐ確率は50%です。変異遺伝子を持つ人は症状を示します。尋常性魚鱗癬などがこの形式をとります。
  2. 常染色体劣性遺伝: 両親ともに変異遺伝子の保因者である場合、子どもが疾患を発症する確率は25%、保因者になる確率は50%、変異遺伝子を受け継がない確率は25%です。層板状魚鱗癬などがこの形式をとります。
  3. X連鎖性劣性遺伝: 変異遺伝子がX染色体上にあります。母親が保因者の場合、男児が発症する確率は50%、女児が保因者になる確率は50%です。伴性遺伝性魚鱗癬がこの形式をとります。女性は通常発症しませんが、保因者となることがあります。

魚鱗癬の症状や重症度は種類によって大きく異なり、生活の質に影響を与える場合もあれば、軽度で日常生活にほとんど支障をきたさない場合もあります。また、同じ遺伝子変異を持っていても、症状の現れ方には個人差があります。

NIPTとは

NIPT(Non-Invasive Prenatal Testing、非侵襲的出生前検査)は、妊婦の血液中に含まれる胎児由来のDNA断片(cell-free DNA)を分析して、胎児の染色体異常を検査する方法です。主に、ダウン症候群(21トリソミー)、エドワーズ症候群(18トリソミー)、パトー症候群(13トリソミー)などの染色体数的異常を検出するために用いられます。

NIPTの特徴

  • 妊婦の静脈血を採取するだけで検査可能(羊水検査のように胎児に直接アプローチしない)
  • 一般的には妊娠10週以降から実施可能
  • 染色体数的異常に対して高い検出率と特異度
  • あくまでスクリーニング検査であり、確定診断には羊水検査などが必要

ミネルバクリニックの早期NIPT

一般的なNIPTは妊娠10週以降からの実施が標準とされていますが、ミネルバクリニックでは臨床試験として妊娠6週から早期NIPTを承っています。これにより、より早い段階で染色体異常に関する情報を得ることが可能になります。ミネルバクリニックでは、検査の質を保証するため、血液中の胎児由来DNAの割合(fetal fraction)が基準値未満の場合は検査結果を出さず、再検査の対象となります。これにより、早期検査でも高い精度を維持する取り組みがなされています。

重要ポイント

NIPTは主に染色体の数的異常(トリソミーなど)を検出するための検査であり、単一遺伝子疾患の検出には限界があります。ミネルバクリニックの早期NIPTについても、魚鱗癬のような単一遺伝子疾患の検出は対象外です。

魚鱗癬はNIPTで検出できるか?

結論から言うと、一般的なNIPTでは魚鱗癬を検出することはできません。

その理由は以下の通りです。

  1. 魚鱗癬は単一遺伝子疾患である: 魚鱗癬は、特定の遺伝子の変異によって引き起こされる単一遺伝子疾患です。一方、NIPTは主に染色体全体の数的異常を検出するために設計されています。
  2. 関連遺伝子の多様性: 魚鱗癬には複数の種類があり、それぞれ異なる遺伝子の変異が関わっています。上記の表にあるように、FLG、KRT1、KRT10、STS、TGM1、ABCA12など、多数の遺伝子が関与しており、標準的なNIPTではこれらの特定の遺伝子変異を検出するようには設計されていません。
  3. 点変異の検出限界: 魚鱗癬の多くは点変異(単一塩基置換)やごく小さな欠失・挿入によって引き起こされますが、標準的なNIPTではこのような微細な変異を検出することはできません。
  4. 遺伝形式の複雑さ: 魚鱗癬は常染色体優性、常染色体劣性、X連鎖性劣性など様々な遺伝形式をとります。特にX連鎖性の場合、胎児の性別によって発症リスクが異なるため、遺伝カウンセリングがより重要になります。

魚鱗癬の出生前診断の可能性

魚鱗癬の出生前診断を希望する場合、以下の方法が考えられます。

1. 拡張型NIPT(エクソーム解析)

近年の技術の進歩により、標準的なNIPTを拡張して単一遺伝子疾患も検出しようとする試みがあります。しかし、これはまだ研究段階であり、一般的な臨床現場ではあまり普及していません。また、検出できる遺伝子変異も限られています。

2. 絨毛検査(CVS)

妊娠11〜13週頃に、胎盤の一部である絨毛組織を採取して遺伝子検査を行います。魚鱗癬に関連する特定の遺伝子変異を検出することが可能です。ただし、流産のリスク(約1%)を伴う侵襲的な検査です。

3. 羊水検査

妊娠15〜18週頃に、羊水を採取して遺伝子検査を行います。魚鱗癬の原因となる遺伝子変異を検出できます。こちらも流産のリスク(約0.5%)を伴う侵襲的な検査です。

検査方法 時期 侵襲性 魚鱗癬の検出可能性
標準的なNIPT 妊娠10週以降 非侵襲的 不可
ミネルバクリニック早期NIPT 妊娠6週以降(臨床試験) 非侵襲的 不可
拡張型NIPT 妊娠10週以降 非侵襲的 限定的(研究段階)
絨毛検査(CVS) 妊娠11〜13週 侵襲的 可能
羊水検査 妊娠15〜18週 侵襲的 可能

魚鱗癬の遺伝カウンセリングと検査の重要性

魚鱗癬の家族歴がある場合、または既に魚鱗癬の子どもがいる場合、次の妊娠で出生前診断を希望されるかもしれません。その場合は、以下のステップが推奨されます。

  1. 遺伝専門医に相談する: 専門の遺伝専門医に相談し、家族の具体的な状況や遺伝形式、リスク、検査オプションについて詳しく説明を受けましょう。特に、魚鱗癬のタイプによって遺伝形式が異なるため、遺伝リスクの評価が重要です。
  2. 家族の遺伝子変異を特定する: 魚鱗癬のある家族メンバーの遺伝子検査を行い、具体的にどの遺伝子のどのような変異が原因となっているかを特定すると、その後の出生前診断が容易になります。例えば、伴性遺伝性魚鱗癬(X連鎖性)の場合はSTS遺伝子、層板状魚鱗癬の場合はTGM1遺伝子などを調べます。
  3. 適切な出生前診断方法を選択する: 家族の状況や遺伝子変異の種類、妊娠週数などを考慮して、最適な出生前診断方法を選びましょう。特定された遺伝子変異に対して、羊水検査や絨毛検査を通じて直接的な遺伝子解析が可能です。

遺伝形式別の遺伝リスク評価

魚鱗癬の種類によって、子どもへの遺伝リスクは大きく異なります。

遺伝形式 親の状態 子どもへの遺伝リスク
常染色体優性
(尋常性魚鱗癬など)
片親が罹患 子どもが罹患する確率:50%
両親とも罹患 子どもが罹患する確率:75%
重症化する確率:25%
常染色体劣性
(層板状魚鱗癬など)
両親とも保因者 子どもが罹患する確率:25%
保因者になる確率:50%
正常な確率:25%
片親が罹患、片親が保因者 子どもが罹患する確率:50%
保因者になる確率:50%
片親が罹患、片親が正常 子どもが保因者になる確率:100%
X連鎖性劣性
(伴性遺伝性魚鱗癬)
母親が保因者 男児が罹患する確率:50%
女児が保因者になる確率:50%
父親が罹患 男児は罹患しない
女児は全員保因者になる

将来の展望と技術の進歩

遺伝子検査技術は急速に進歩しており、将来的には非侵襲的な方法で単一遺伝子疾患をより正確に検出できるようになる可能性があります。現在研究されている技術には以下のものがあります。

  • 母体血中の胎児DNAを用いたデジタルPCR法
  • 次世代シーケンシング技術を活用した拡張型NIPT
  • 母体血中の胎児細胞を単離して分析する技術

これらの技術が発展することで、将来的には魚鱗癬のような単一遺伝子疾患も非侵襲的な方法で高精度に検出できるようになるかもしれません。

まとめ

魚鱗癬は、現在一般的に行われているNIPTでは検出することができません。魚鱗癬は単一遺伝子疾患であり、標準的なNIPTは主に染色体の数的異常を検出するために設計されているためです。

魚鱗癬の出生前診断を希望する場合は、絨毛検査や羊水検査などの侵襲的な検査方法が必要となります。ただし、これらの検査は流産のリスクを伴うため、検査を受けるかどうかは慎重に検討する必要があります。

魚鱗癬の家族歴がある場合は、専門の遺伝専門医に相談し、適切な検査方法や対応について相談することをおすすめします。将来的には技術の進歩により、非侵襲的な方法でも魚鱗癬を含む単一遺伝子疾患の出生前診断が可能になることが期待されています。

ミネルバクリニックの保因者検査

ミネルバクリニックでは保因者検査も行っております。カップルの双方が魚鱗癬などの遺伝性疾患の保因者であると分かった場合、NIPT以外の方法で胎児の検査をすることも可能です。遺伝性疾患についてのご不安やご質問がある方は、ミネルバクリニックの遺伝専門医にご相談ください。

参考資料

  1. 日本皮膚科学会. 魚鱗癬診療ガイドライン
  2. 日本産科婦人科学会. 出生前診断に関する見解
  3. American College of Obstetricians and Gynecologists. Cell-free DNA Screening for Fetal Aneuploidy.
  4. National Society of Genetic Counselors. Position Statement: Prenatal Testing for Adult-Onset Conditions.

※この記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の医学的アドバイスではありません。魚鱗癬や出生前診断に関するご質問は、必ず医師または遺伝カウンセラーにご相談ください。

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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