目次
「家族に魚鱗癬の人がいる」「上の子が魚鱗癬と診断された」「道化師様魚鱗癬という病気を知って心配になった」。そうした方がまず知りたいのは、妊娠中に赤ちゃんの魚鱗癬がわかるのか、ということでしょう。結論からお伝えすると、魚鱗癬はNIPT(新型出生前診断)ではわかりません。エコー(超音波検査)で道化師様魚鱗癬の所見が見えることはありますが、報告されているのは妊娠後期です。一方、ご家族の原因遺伝子の変化がわかっていれば、絨毛検査や羊水検査で妊娠中に診断できます。この記事では、魚鱗癬の種類と遺伝のしかた、NIPT・エコー・確定検査でそれぞれ何がどこまでわかるのかを、臨床遺伝専門医が順に解説します。
- ➤魚鱗癬の主な種類と原因遺伝子、遺伝のしかた
- ➤魚鱗癬がNIPTでわからない理由と、当院のNIPTで調べられる範囲
- ➤道化師様魚鱗癬はエコーでわかるのか、わかるのはいつごろか
- ➤絨毛検査・羊水検査で診断できる条件(原因遺伝子の変化がわかっていること)
- ➤魚鱗癬の赤ちゃんが生まれる確率と、妊娠前にできる保因者検査
⏱️ 30秒でわかる要約
🔎 Q. 魚鱗癬は妊娠中にわかりますか?エコーでわかりますか?
型と方法によります。道化師様魚鱗癬は、エコーで口やまぶたの変化、握ったままの手などが見えることがありますが、出生前に診断された13例の報告では妊娠27〜34週で見つかっており、妊娠初期・中期のエコーでは異常が見えていませんでした。ご家族の原因遺伝子の変化がわかっていれば、絨毛検査(妊娠11〜13週ごろ)や羊水検査(妊娠15〜18週ごろ)で診断できます。
🧬 Q. ダウン症候群だけ調べれば大丈夫ですか?
大丈夫とは言えません。魚鱗癬を心配して調べ始めた方にも知っていただきたいのは、出生前検査で調べる病気の中で、ご家族の子育ての負担を最も大きく左右するのが、知的障害の程度よりも行動の問題(攻撃的な行動・自傷・睡眠の問題)だという点です。行動の問題を伴いやすい病気は微小欠失症候群や単一遺伝子疾患に多く、三大トリソミーだけの検査では調べられません。当院のNIPTは、魚鱗癬は対象外ですが、こうした病気まで調べられます。
🩸 Q. 魚鱗癬はNIPTでわかりますか?
わかりません。道化師様魚鱗癬(ABCA12遺伝子)など主な魚鱗癬の原因遺伝子は、当院のNIPTを含めて、NIPTの対象に入っていません。心配な方は、妊娠前の保因者検査や魚鱗癬の遺伝子パネル検査で原因を確かめ、妊娠中は絨毛検査・羊水検査で診断する、という順になります。
📊 Q. 魚鱗癬の赤ちゃんが生まれる確率は?
型で違います。道化師様魚鱗癬などの常染色体潜性(劣性)遺伝の型は、両親がともに保因者のとき、妊娠ごとに25%です。X連鎖性魚鱗癬は、お母さんが保因者なら男の子の50%に、尋常性魚鱗癬は、親のどちらかにあれば子の50%に受け継がれます。
\ ダウン症候群だけで大丈夫ですか? /
魚鱗癬は対象外ですが、当院のNIPTは、子育ての負担につながりやすい微小欠失症候群や単一遺伝子疾患まで調べられます。妊娠9週から(妊娠6〜8週は臨床研究として)受けられ、どこまで調べるかは、90分の受診枠の中で臨床遺伝専門医と決められます。
魚鱗癬(ぎょりんせん)とは
魚鱗癬は、皮膚のいちばん外側にある角層がうまく作られない、あるいははがれ落ちにくいために、皮膚が乾いて厚くなり、魚のうろこのようにはがれる病気の総称です。多くは遺伝子の変化で起こります。国際的な分類では、皮膚だけに症状が出る型と、ほかの臓器の症状を伴う型(魚鱗癬症候群)に分けます。皮膚だけの型はさらに、よくみられる型(尋常性魚鱗癬・X連鎖性魚鱗癬)、常染色体潜性先天性魚鱗癬(道化師様魚鱗癬・葉状魚鱗癬・先天性魚鱗癬様紅皮症)、ケラチン症性魚鱗癬(表皮融解性魚鱗癬など)に分けられています[1]。
このうち、生まれたときから症状がある型をまとめて「先天性魚鱗癬」と呼びます。症状の出方は型によって大きく異なります。尋常性魚鱗癬は、乳児期以降にすねや腕の乾燥として気づかれることが多い型です。道化師様魚鱗癬は、生まれた直後から新生児集中治療が必要になります。主な症状は、皮膚の乾燥、厚み、うろこ状のはがれ(鱗屑:りんせつ)、かゆみなどです。
魚鱗癬の主な種類と関連遺伝子
魚鱗癬は、遺伝のしかたと原因遺伝子によっていくつかの型に分けられます。主な型は次のとおりです。
🧬 魚鱗癬の主な種類・遺伝形式・原因遺伝子
| 種類 | 遺伝形式 | 主な原因遺伝子 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 尋常性魚鱗癬 | 常染色体顕性(優性)遺伝 (変化が2つあると症状が強く出やすい) |
FLG(フィラグリン) | もっとも多い型。乳児期以降に、すねや腕の乾燥と細かい鱗屑で気づかれる[2] |
| X連鎖性魚鱗癬 (伴性遺伝性魚鱗癬) |
X連鎖潜性(劣性)遺伝 | STS(ステロイドスルファターゼ) | 主に男性に出る。褐色の大きめの鱗屑が特徴 |
| 道化師様魚鱗癬 (ハーレクイン魚鱗癬) |
常染色体潜性(劣性)遺伝 | ABCA12 | 生まれたときから全身が厚い板のような角質でおおわれ、まぶたや唇が外側に反り返る[3] |
| 葉状魚鱗癬(層板状魚鱗癬)・先天性魚鱗癬様紅皮症 | 常染色体潜性(劣性)遺伝 | TGM1、ALOX12B、ALOXE3、NIPAL4、CYP4F22、ABCA12 など | 生まれたとき薄い膜におおわれている(コロジオン児)ことが多く、その後、全身の鱗屑や赤みが続く |
| 表皮融解性魚鱗癬 | 常染色体顕性(優性)遺伝 | KRT1、KRT10 | 生まれたときから水ぶくれや皮膚のはがれを伴い、成長とともに厚い角質が目立つ |
分類と原因遺伝子は、国際的な分類[1]にもとづいています。
魚鱗癬の遺伝形式について
魚鱗癬の遺伝のしかたは型によって違い、それによって家族の中での受け継がれ方が変わります。
常染色体顕性(優性)遺伝:親のどちらかが遺伝子の変化を持っていれば、子どもがその変化を受け継ぐ確率は50%です。変化を1つ受け継ぐと症状が出ます。尋常性魚鱗癬や表皮融解性魚鱗癬がこの形式です。表皮融解性魚鱗癬は、両親に変化がなく、赤ちゃんに新しく起こった変化(de novo変異)で生じることもあります。
常染色体潜性(劣性)遺伝:両親がともに保因者(変化を1つ持っているが症状はない人)の場合、子どもが発症する確率は25%、保因者になる確率は50%、変化を受け継がない確率は25%です。道化師様魚鱗癬や葉状魚鱗癬がこの形式です。保因者には症状がないため、家族に魚鱗癬の人がいなくても、お二人がともに保因者であることはありえます。
X連鎖潜性(劣性)遺伝:原因遺伝子がX染色体にあります。お母さんが保因者の場合、男の子が発症する確率は50%、女の子が保因者になる確率は50%です。X連鎖性魚鱗癬がこの形式で、女性は通常発症しません。
保因者と潜性遺伝のしくみは、劣性遺伝(潜性遺伝)とは?保因者の仕組みと子どもへ遺伝する確率で図を使って解説しています。なお、同じ遺伝子の変化を持っていても、症状の出方には個人差があります。
道化師様魚鱗癬(ハーレクイン魚鱗癬)の寿命と見通し
道化師様魚鱗癬は、以前は新生児期を越えることが難しい病気でした。現在は、新生児集中治療と、レチノイド(ビタミンAに似た働きをする飲み薬)によって見通しが変わってきています。45例を調べた報告では、生存していたのは56%で、年齢は生後10か月から25歳でした。亡くなった例の多くは生後3か月以内で、亡くなった例の75%は敗血症や呼吸不全が原因でした。レチノイドの内服を受けた赤ちゃんでは、83%が生存していました[4]。
尋常性魚鱗癬やX連鎖性魚鱗癬は、皮膚の症状が中心で、通常は寿命に影響しないとされています。「魚鱗癬」とひとくくりにせず、どの型なのかを確かめることが、見通しを知るための出発点になります。
NIPTとは
NIPT(非侵襲的出生前検査、新型出生前診断)は、お母さんの血液に含まれる赤ちゃん(胎盤)由来のDNAの断片を調べて、赤ちゃんの染色体に変化がある可能性を調べる検査です。主な対象は、ダウン症候群(21トリソミー)、エドワーズ症候群(18トリソミー)、パトウ症候群(13トリソミー)など、染色体の数の変化です。
🩸 NIPTの特徴
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 方法 | お母さんの腕からの採血だけ。お腹に針を刺さないので、検査による流産のリスクがない |
| 受けられる時期 | 当院では妊娠9週から(妊娠6〜8週は臨床研究として受けられます) |
| 得意なこと | 染色体の数の変化を高い精度で調べる |
| 限界 | スクリーニング検査なので、陽性のときは絨毛検査・羊水検査で確かめる必要がある |
ミネルバクリニックの早期NIPT
当院のNIPTは妊娠9週から受けられます。できるだけ早い時期に結果を知りたい方のために、妊娠6〜8週は臨床研究として受けられる体制も整えています。ただし、週数が早いほど血液中の赤ちゃん由来のDNAが少なく、判定できずに再検査になることがあります。結果が出るまでの目安は10〜14日です(インペリアルプランの単一遺伝子の結果だけは3〜4週間)。
⚠️ 重要ポイント
NIPTは主に染色体の数の変化を調べる検査です。1つの遺伝子の変化で起こる病気(単一遺伝子疾患)は、調べられるものが限られています。早い週数で受けても、魚鱗癬がわかるようにはなりません。
魚鱗癬はNIPTで検出できるか?
結論から言うと、魚鱗癬はNIPTではわかりません。一般的なNIPTだけでなく、当院のNIPTでも、道化師様魚鱗癬をはじめとする主な魚鱗癬は対象に入っていません。理由は次の4つです。
1. 魚鱗癬は単一遺伝子疾患である:魚鱗癬は、特定の1つの遺伝子の変化で起こります。一方、NIPTは染色体全体の数の変化を調べるために作られた検査です。
2. 原因遺伝子が多い:上の表のとおり、FLG、STS、ABCA12、TGM1、KRT1、KRT10など、型ごとに違う遺伝子が関わっています。
3. 変化がとても小さい:魚鱗癬の多くは、DNAの文字が1つ入れ替わる変化(点変異)や、ごく小さな欠失・挿入で起こります。染色体の本数を数える方法では、こうした小さな変化は見えません。
4. 潜性遺伝・X連鎖の型は、血液では見分けにくい:潜性遺伝の型では、お母さん自身も同じ変化を1つ持っています。お母さんの血液中のDNAは大部分がお母さん由来なので、赤ちゃんがその変化を2つ受け継いだかどうかを血液から見分けるのは、技術的に難しいのです。X連鎖の型では、赤ちゃんの性別によっても確率が変わります。
当院のNIPTの単一遺伝子検査と魚鱗癬
当院のNIPTには、単一遺伝子の変化を調べるプランがあります。ダイヤモンドプランは56遺伝子、インペリアルプランは最大155遺伝子・202疾患が対象です。ただし、対象は、両親から受け継いだものではなく赤ちゃんに新しく起こる変化(de novo変異)で発症する、顕性(優性)の病気です[5][6]。魚鱗癬の主な原因遺伝子であるABCA12、TGM1、ALOX12B、ALOXE3、NIPAL4、CYP4F22、STS、FLG、KRT1、KRT10は、当院が公開している対象遺伝子・対象疾患の中に入っていません。
対象に入っているのは、魚鱗癬に似た皮膚の症状を伴う2つの症候群です。CHILD症候群(NSDHL遺伝子)と、点状軟骨異形成症(コンラーディ・ヒューナーマン症候群、EBP遺伝子)で、どちらもダイヤモンドプランとインペリアルプランで調べられます。ただし、これらは骨や手足の変化を伴う別の病気で、道化師様魚鱗癬や尋常性魚鱗癬とは原因も遺伝のしかたも違います。「魚鱗癬が心配だからNIPTを受ける」という目的には合いません。単一遺伝子を調べるNIPTの考え方は、NIPTと単一遺伝子疾患で解説しています。
魚鱗癬の出生前診断の可能性
魚鱗癬を妊娠中に調べる方法は、次の4つに分けて考えると整理しやすくなります。
1. 拡張型NIPT(単一遺伝子を調べるNIPT)
お母さんの血液で単一遺伝子の病気を調べるNIPTは、de novo変異による顕性の病気については実際の診療で使われており、当院でも提供しています[5][6]。一方、魚鱗癬の多くを占める潜性遺伝やX連鎖の型を血液で調べる方法は研究の段階で、一般の診療では使えません。
2. 絨毛検査(CVS)
妊娠11〜13週ごろに、胎盤のもとになる絨毛(じゅうもう)を少量採って、赤ちゃんの遺伝子を調べます。ご家族の原因遺伝子の変化がわかっていれば、その変化が赤ちゃんにあるかどうかを直接確かめられます。道化師様魚鱗癬では、赤ちゃんのDNAでABCA12遺伝子を調べる出生前診断が報告されています[7]。
3. 羊水検査
妊娠15〜18週ごろに、羊水を少量採って、羊水に含まれる赤ちゃんの細胞の遺伝子を調べます。絨毛検査と同じく、原因遺伝子の変化がわかっていれば診断できます。
絨毛検査と羊水検査は、お腹に針を刺す検査です。流産のリスクについては、近年の大規模な解析で、検査を受けなかった妊婦さんと比べた流産の上乗せはほとんどみられないと報告されています[8]。
💡 大切な前提:調べる遺伝子の変化がわかっていること
絨毛検査・羊水検査で魚鱗癬を診断できるのは、どの遺伝子のどの変化を調べるかが、あらかじめわかっている場合です。「念のため魚鱗癬も調べる」という検査ではありません。上のお子さんやご本人、パートナーの遺伝子検査で原因を確かめておくことが出発点になります。当院では、44遺伝子を調べる魚鱗癬NGS遺伝子パネル検査を行っています。
当院では羊水検査・絨毛検査を院内で行っています。染色体の主要な検査項目は3日以内に、マイクロアレイ検査は2週間ほどで結果が出ます。特定の遺伝子を調べる検査の日数は、遺伝子と方法によって異なります。
4. エコー(超音波検査)― 道化師様魚鱗癬はエコーでわかる?いつわかる?
エコーでわかる可能性があるのは、道化師様魚鱗癬です。厚くなった皮膚が、口やまぶた、手足の形と動きに影響するためです。報告されている主な所見は次のとおりです[9]。
🔎 道化師様魚鱗癬で報告されているエコーの所見
| 見る場所 | 報告されている所見 |
|---|---|
| 顔 | 大きく開いたままの口、まぶたの外反、平たい鼻、小さい耳 |
| 手足 | 握ったままの手、内反足、手の指の骨が短い |
| 皮膚・羊水 | 皮膚がはがれて見える、羊水の中に細かい粒が浮いて白っぽく見える、羊水過多 |
| 発育 | 赤ちゃんが小さめ(胎児発育不全) |
出典:Liu・Jing(An Bras Dermatol, 2023)[9]。1例の報告と、出生前に診断された13例のまとめです。
では、いつわかるのでしょうか。出生前にエコーで診断された13例をまとめた報告では、所見が見つかったのは妊娠27〜34週で、妊娠後期に集中していました。妊娠初期・中期のエコーでは、はっきりした異常は見つかっていませんでした[9]。また、13例のうち家族歴があったのは3例だけでした[9]。つまり、妊娠初期・中期のエコーで異常がなくても、道化師様魚鱗癬がないとは言えません。妊娠後期に見つかった場合は、新生児集中治療のできる施設での出産など、赤ちゃんを迎える準備につなげられます。
尋常性魚鱗癬やX連鎖性魚鱗癬は、生まれたときの皮膚にはっきりした変化がないことが多く、通常、エコーではわかりません。なお、当院のNIPTに含まれる4Dエコーは、妊娠初期から中期に赤ちゃんの様子を確認するもので、魚鱗癬を調べる検査ではありません。エコーで赤ちゃんを詳しくみる検査の全体像は、胎児ドック(胎児超音波スクリーニング検査)とはをご覧ください。
📋 検査ごとの比較:魚鱗癬はどこまでわかるか
| 検査方法 | 時期 | お腹に針を刺すか | 魚鱗癬がわかるか |
|---|---|---|---|
| 一般的なNIPT | 妊娠初期から | 刺さない(採血) | わからない |
| ミネルバクリニックのNIPT | 妊娠9週から(妊娠6〜8週は臨床研究) | 刺さない(採血) | 主な魚鱗癬はわからない。CHILD症候群と点状軟骨異形成症は、ダイヤモンドプラン・インペリアルプランの対象 |
| 潜性遺伝の病気を調べるNIPT | ― | 刺さない(採血) | 研究の段階 |
| 絨毛検査(CVS) | 妊娠11〜13週ごろ | 刺す | 原因遺伝子の変化がわかっていれば、わかる |
| 羊水検査 | 妊娠15〜18週ごろ | 刺す | 原因遺伝子の変化がわかっていれば、わかる |
| エコー(超音波検査) | 所見の報告は妊娠27〜34週 | 刺さない | 道化師様魚鱗癬は、妊娠後期に所見が出ることがある。妊娠初期・中期はわからない |
魚鱗癬の遺伝カウンセリングと検査の重要性
ご家族に魚鱗癬の方がいる場合や、上のお子さんが魚鱗癬の場合、次の妊娠で出生前診断を考える方もいらっしゃいます。その場合は、次の順で進めます。
① 臨床遺伝専門医に相談する:魚鱗癬は型によって遺伝のしかたが違うため、まず「どの型か」を確かめます。それによって、次の妊娠での確率と、使える検査が決まります。
② 家族の原因遺伝子の変化を特定する:魚鱗癬のあるご家族の遺伝子検査で、どの遺伝子のどの変化が原因かを確かめます。X連鎖性魚鱗癬ならSTS遺伝子、道化師様魚鱗癬ならABCA12遺伝子、葉状魚鱗癬ならTGM1遺伝子などが候補になります。
③ 出生前診断の方法を選ぶ:原因の変化がわかれば、絨毛検査や羊水検査で、赤ちゃんがその変化を受け継いでいるかを調べられます。妊娠週数によって使える検査が変わるので、できれば妊娠前、遅くとも妊娠がわかった時点で準備を始めるのが確実です。
遺伝形式別の遺伝リスク評価(魚鱗癬の赤ちゃんが生まれる確率)
赤ちゃんに受け継がれる確率は、魚鱗癬の型によって大きく違います。下の表の数字は、どれも「妊娠1回ごと」の確率です。
📊 遺伝形式別:子どもに受け継がれる確率
| 遺伝形式 | 親の状態 | 子どもに受け継がれる確率 |
|---|---|---|
| 常染色体顕性(優性) (尋常性魚鱗癬など) |
親のどちらかに症状がある | 子どもに症状が出る確率:50% |
| 両親ともに症状がある | 子どもに症状が出る確率:75% (そのうち変化を2つ受け継ぐ25%は、症状が強く出やすい) |
|
| 常染色体潜性(劣性) (道化師様魚鱗癬・葉状魚鱗癬など) |
両親ともに保因者 | 発症する確率:25% 保因者になる確率:50% 変化を受け継がない確率:25% |
| 片方の親に症状があり、もう片方が保因者 | 発症する確率:50% 保因者になる確率:50% |
|
| 片方の親に症状があり、もう片方は保因者でない | 全員が保因者になる(発症はしない) | |
| X連鎖潜性(劣性) (X連鎖性魚鱗癬) |
お母さんが保因者 | 男の子が発症する確率:50% 女の子が保因者になる確率:50% |
| お父さんに症状がある | 男の子は発症しない 女の子は全員が保因者になる |
潜性遺伝の型は、両親のどちらか一方しか保因者でなければ、通常は発症しません。逆に、ご家族に魚鱗癬の方がいなくても、お二人がともに保因者であれば25%の確率があります。お二人が保因者かどうかは、妊娠前の保因者検査で調べられます。
将来の展望と技術の進歩
お母さんの血液から単一遺伝子の病気を調べる技術は、研究が続いています。現在研究されている方法には、母体血中の赤ちゃん由来DNAを1分子ずつ数えるデジタルPCR法、次世代シーケンシングを使って対象の遺伝子を深く読む方法、母体血中にわずかに含まれる赤ちゃん由来の細胞を取り出して調べる方法などがあります。
こうした技術が進めば、将来は潜性遺伝の魚鱗癬も採血で調べられるようになる可能性があります。ただし、現時点では、道化師様魚鱗癬などを採血だけで診断できる検査は、一般の診療にはありません。今できる確実な方法は、保因者検査で備えることと、絨毛検査・羊水検査で確かめることです。
ダウン症候群だけで大丈夫? ― 「値段」ではなく「調べられる範囲」で選ぶ
魚鱗癬について調べている方の中にも、妊娠中の検査は「まずはダウン症候群を」と考えている方が少なくありません。出生前検査で調べる病気は、どれも赤ちゃんとご家族の暮らしに大きくかかわるものです。そして、ご家族の子育ての負担を最も大きく左右するのは、知的障害の程度よりも、攻撃的な行動や自傷、睡眠の問題といった「行動の問題」だと分かっています[10]。こうした行動の問題を伴いやすい病気は、微小欠失症候群や単一遺伝子疾患に多く含まれます[10][11]。三大トリソミーだけを調べる検査では、これらの病気は調べられません。
知的障害を伴う病気のお子さんのご家族を比べた研究では、スミス・マゲニス症候群、ウィリアムズ症候群、プラダー・ウィリー症候群のご家族は、ダウン症候群のご家族より子育てのストレスが高いと報告されています[10]。当院では、スミス・マゲニス症候群、プラダー・ウィリー症候群、アンジェルマン症候群はすべてのプランで、コルネリア・デ・ランゲ症候群はダイヤモンドプランとインペリアルプランで、ウィリアムズ症候群はインペリアルプランと双子マックスプランで調べられます。
出生前検査は、その後の人生を左右するかもしれない検査です。「安さ」だけで選んで大丈夫でしょうか。プランを比べる見方の1つとして、調べられる病気の数で割ってみます。三大トリソミーだけを調べる検査を仮に10万円とすると、1つの病気あたりは約3万3千円です。当院のインペリアルプランは、全常染色体と性染色体の数の異常、92種類の微小欠失・重複、202の単一遺伝子疾患が対象で、数えられる病気だけで320になり、1つの病気あたりは約1,719円です。5Mbを超える欠失・重複はすべての染色体で調べているので、実際の対象はさらに多くなります。
🧮 1つの病気あたりで考えると
| プラン | 主に調べる範囲 | 数えた病気の数 | 1つの病気あたり |
|---|---|---|---|
| 三大トリソミーだけを調べる検査 (仮に10万円とした場合) |
13・18・21トリソミー | 3 | 約33,333円 |
| スタンダード (220,000円) |
13・18・21トリソミー、性染色体の数の異常、微小欠失6種類7疾患 | 14 | 約15,714円 |
| プレミアム (264,000円) |
13・18・21・15・16・22トリソミー、性染色体の数の異常、微小欠失12種類13疾患 | 23 | 約11,478円 |
| ダイヤモンド (407,000円) |
プレミアムの範囲+単一遺伝子56 | 79 | 約5,152円 |
| 双子マックス (440,000円) |
全常染色体の数の異常、92種類の微小欠失・重複、5Mbを超える構造異常 | 114+α | 約3,860円 |
| インペリアル (550,000円) |
全常染色体の数の異常、性染色体の数の異常、92種類の微小欠失・重複、5Mbを超える構造異常、単一遺伝子202疾患 | 320+α | 約1,719円 |
※価格は事前学習動画を見て来院した場合の当日割引後の税込価格です。最新の料金は料金ページをご確認ください。※病気の数は、数の異常・微小欠失・重複・単一遺伝子疾患を1つずつ数えたものです。性染色体の数の異常は4種類(ターナー症候群・クラインフェルター症候群・トリプルX症候群・XYY症候群)として数えています(性染色体を調べるのはスタンダード・プレミアム・ダイヤモンド・インペリアル。双子マックスは調べません)。5Mbを超える構造異常は数に入れていないため、双子マックスとインペリアルは実際にはさらに多くの変化を調べています。※「三大トリソミーだけを調べる検査」は計算のための仮の例で、特定の施設の価格ではありません。
各プランで調べる内容は、それぞれのページで確認できます:スタンダードプラン | プレミアムプラン | ダイヤモンドプラン | 双子マックスプラン | インペリアルプラン
ただし、調べる病気の数が多いほど良い検査、というわけではありません。範囲が広がると、陽性になる可能性も、確定検査が必要になる場面も増えます。だからこそ、プランは検査前の遺伝カウンセリングで選びます。当院では、90分の受診枠の中で、常駐する臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行います。
NIPTはスクリーニング検査なので、陽性のときは確定検査で確かめます。微小欠失は染色体の数の異常より陽性的中率が低めなので、この確認は欠かせません。当院では、陽性のあとの遺伝カウンセリングは何度でも無料で、確定検査(絨毛検査・羊水検査)も院内で受けられます。主要な検査項目は3日以内に、マイクロアレイ検査は2週間ほどで結果が出ます。陽性的中率の考え方は、感度・特異度と陽性的中率・陰性的中率で解説しています。
まとめ
魚鱗癬は、NIPTではわかりません。魚鱗癬は1つの遺伝子の変化で起こる病気で、NIPTは主に染色体の数の変化を調べる検査だからです。当院のNIPTの単一遺伝子検査も、道化師様魚鱗癬などの主な魚鱗癬は対象にしていません。
妊娠中に魚鱗癬を診断できるのは、絨毛検査と羊水検査です。ただし、ご家族の原因遺伝子の変化があらかじめわかっていることが条件になります。エコーで道化師様魚鱗癬の所見が見えることはありますが、報告されているのは妊娠27〜34週で、妊娠初期・中期のエコーではわかりません。
ご家族に魚鱗癬の方がいる場合は、妊娠前に臨床遺伝専門医の遺伝カウンセリングを受け、原因遺伝子の検査と保因者検査で備えておくことをお勧めします。
🧬 ミネルバクリニックの保因者検査
当院では保因者検査を行っています。拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子)の対象には、道化師様魚鱗癬の原因であるABCA12と、葉状魚鱗癬・先天性魚鱗癬様紅皮症の原因になるTGM1、ALOX12B、ALOXE3、NIPAL4、CYP4F22が含まれています。パートナーの男性には、X連鎖の遺伝子を除いた男性版(714遺伝子)があります。お二人がともに同じ病気の保因者とわかった場合は、妊娠中に絨毛検査・羊水検査で赤ちゃんを調べることができます。X連鎖性魚鱗癬の原因であるSTSは、このスクリーニングの対象に入っていません。ご家族にX連鎖性魚鱗癬の方がいる場合や、魚鱗癬の型がわかっていない場合は、STSを含む44遺伝子を調べる魚鱗癬NGS遺伝子パネル検査をご案内しています。ご予約は予約ページから、ご質問はお問い合わせから承ります。
🏥 赤ちゃんの検査を、調べられる範囲から選ぶために
当院のNIPTは妊娠9週から受けられ(妊娠6〜8週は臨床研究として受けられます)、ダウン症候群だけでなく、微小欠失症候群や単一遺伝子疾患まで調べられます。90分の受診枠の中で、常駐する臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行い、陽性の場合は確定検査(絨毛検査・羊水検査)まで院内で受けられます。魚鱗癬が心配な方には、保因者検査と魚鱗癬の遺伝子パネル検査をご案内しています。来院が難しい方は、オンラインNIPT(Zoomでの遺伝カウンセリング+全国110か所の提携施設で採血)もご利用いただけます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 魚鱗癬は妊娠中(生まれる前)にわかりますか?
方法によって、わかる場合があります。ご家族の原因遺伝子の変化がわかっていれば、絨毛検査(妊娠11〜13週ごろ)や羊水検査(妊娠15〜18週ごろ)で、赤ちゃんが同じ変化を受け継いでいるかを調べられます。道化師様魚鱗癬はエコーで所見が見えることがありますが、報告では妊娠27〜34週でした[9]。NIPTでは、道化師様魚鱗癬などの主な魚鱗癬はわかりません。
Q2. ダウン症候群だけ調べれば大丈夫ですか?
ダウン症候群だけを調べれば大丈夫、とは言えません。魚鱗癬がNIPTの対象外であるように、検査ごとに調べられる病気は決まっています。知的障害を伴う病気のお子さんのご家族を比べた研究では、スミス・マゲニス症候群、ウィリアムズ症候群、プラダー・ウィリー症候群のご家族は、ダウン症候群のご家族より子育てのストレスが高く、ストレスを最も強く左右していたのは知的障害の程度よりも行動の問題でした[10]。こうした病気は三大トリソミーだけを調べる検査ではわかりません。当院ではスタンダードプランから22q11.2欠失症候群やプラダー・ウィリー症候群、アンジェルマン症候群などの微小欠失を、ダイヤモンドプラン・インペリアルプランでは単一遺伝子疾患まで調べられます。どこまで調べるかは、検査前の遺伝カウンセリングで決められます。
Q3. 道化師様魚鱗癬はエコーでわかりますか?いつわかりますか?
わかることがありますが、時期は遅めです。出生前にエコーで診断された13例をまとめた報告では、所見が見つかったのは妊娠27〜34週で、妊娠初期・中期のエコーでははっきりした異常が見つかっていませんでした[9]。主な所見は、大きく開いた口、まぶたの外反、平たい鼻、握ったままの手、羊水過多、羊水が白っぽく見えることなどです。妊娠初期・中期のエコーで異常がないことは、道化師様魚鱗癬がないことの保証にはなりません。
Q4. 魚鱗癬はNIPTでわかりますか?
わかりません。魚鱗癬は1つの遺伝子の変化で起こる病気で、染色体の数の変化を調べる一般的なNIPTの対象外です。当院には単一遺伝子を調べるプラン(ダイヤモンドプラン56遺伝子、インペリアルプラン最大155遺伝子)がありますが、ABCA12・TGM1・STS・FLG・KRT1・KRT10など魚鱗癬の主な原因遺伝子は対象に入っていません。魚鱗癬に似た皮膚の症状を伴うCHILD症候群と点状軟骨異形成症(コンラーディ・ヒューナーマン症候群)は対象ですが、道化師様魚鱗癬などとは別の病気です。
Q5. 魚鱗癬の赤ちゃんが生まれる確率はどのくらいですか?
遺伝のしかたで違います。道化師様魚鱗癬や葉状魚鱗癬などの常染色体潜性(劣性)遺伝の型は、両親がともに保因者のとき、妊娠ごとに25%です。X連鎖性魚鱗癬は、お母さんが保因者なら男の子の50%が発症し、女の子の50%が保因者になります。尋常性魚鱗癬は、親のどちらかにあれば子の50%に受け継がれます。両親のどちらか一方しか保因者でなければ、潜性遺伝の型を発症することは通常ありません。
Q6. 道化師様魚鱗癬(ハーレクイン魚鱗癬)の寿命はどのくらいですか?
以前は新生児期を越えることが難しい病気でしたが、新生児集中治療とレチノイドの内服で見通しは変わってきています。45例を調べた報告では56%が生存しており、年齢は生後10か月から25歳でした。亡くなった例の多くは生後3か月以内で、レチノイドの内服を受けた赤ちゃんでは83%が生存していました[4]。尋常性魚鱗癬やX連鎖性魚鱗癬は皮膚の症状が中心で、通常は寿命に影響しないとされています。
Q7. 家族に魚鱗癬の人がいます。妊娠前にできる検査はありますか?
あります。まず、魚鱗癬のあるご本人の遺伝子検査で、どの遺伝子のどの変化が原因かを確かめます。当院には44遺伝子を調べる魚鱗癬NGS遺伝子パネル検査があります。原因がわかれば、ご自身やパートナーが保因者かどうかを調べられます。当院の拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子)の対象には、ABCA12、TGM1、ALOX12B、ALOXE3、NIPAL4、CYP4F22が含まれています。
Q8. 上の子が道化師様魚鱗癬でした。次の妊娠で出生前診断はできますか?
できます。常染色体潜性(劣性)遺伝なので、次の妊娠でも赤ちゃんが発症する確率は25%です。上のお子さんとご両親のABCA12遺伝子の変化がわかっていれば、絨毛検査や羊水検査で採った赤ちゃんのDNAを調べて診断できます[7]。原因の変化がまだわかっていない場合は、妊娠前に遺伝子検査を受けておくと、妊娠してからの検査が間に合いやすくなります。
関連記事
参考文献
- [1] Oji V, Tadini G, Akiyama M, et al. Revised nomenclature and classification of inherited ichthyoses: results of the First Ichthyosis Consensus Conference in Sorèze 2009. J Am Acad Dermatol. 2010;63(4):607-641. [DOI 10.1016/j.jaad.2009.11.020]
- [2] Smith FJD, Irvine AD, Terron-Kwiatkowski A, et al. Loss-of-function mutations in the gene encoding filaggrin cause ichthyosis vulgaris. Nat Genet. 2006;38(3):337-342. [DOI 10.1038/ng1743]
- [3] Akiyama M, Sugiyama-Nakagiri Y, Sakai K, et al. Mutations in lipid transporter ABCA12 in harlequin ichthyosis and functional recovery by corrective gene transfer. J Clin Invest. 2005;115(7):1777-1784. [DOI 10.1172/JCI24834]
- [4] Rajpopat S, Moss C, Mellerio J, et al. Harlequin ichthyosis: a review of clinical and molecular findings in 45 cases. Arch Dermatol. 2011;147(6):681-686. [DOI 10.1001/archdermatol.2011.9]
- [5] Zhang J, Li J, Saucier JB, et al. Non-invasive prenatal sequencing for multiple Mendelian monogenic disorders using circulating cell-free fetal DNA. Nat Med. 2019;25(3):439-447. [DOI 10.1038/s41591-018-0334-x]
- [6] Chen S, Xu W, Zhang L, et al. Expanded noninvasive prenatal screening for dominant single-gene disorders: proof-of-concept, performance, and challenges. Am J Obstet Gynecol. 2025;233(6):673.e1-673.e21. [PubMed 40550458]
- [7] Akiyama M, Titeux M, Sakai K, et al. DNA-based prenatal diagnosis of harlequin ichthyosis and characterization of ABCA12 mutation consequences. J Invest Dermatol. 2007;127(3):568-573. [DOI 10.1038/sj.jid.5700617]
- [8] Beta J, Zhang W, Geris S, Kostiv V, Akolekar R. Procedure-related risk of miscarriage following chorionic villus sampling and amniocentesis. Ultrasound Obstet Gynecol. 2019;54(4):452-457. [DOI 10.1002/uog.20293]
- [9] Liu Z, Jing C. Two- and three-dimensional sonographic findings of harlequin ichthyosis: case report and literature review. An Bras Dermatol. 2023;98(6):806-813. [DOI 10.1016/j.abd.2022.09.013]
- [10] Fitzgerald J, Gallagher L. Parental stress and adjustment in the context of rare genetic syndromes: a scoping review. J Intellect Disabil. 2022;26(2):522-544. [DOI 10.1177/1744629521995378]
- [11] Arron K, Oliver C, Moss J, Berg K, Burbidge C. The prevalence and phenomenology of self-injurious and aggressive behaviour in genetic syndromes. J Intellect Disabil Res. 2011;55(2):109-120. [DOI 10.1111/j.1365-2788.2010.01337.x]
※本記事は一般の方に向けた情報提供を目的とするもので、個別の診断・治療方針を示すものではありません。魚鱗癬や出生前診断については、主治医・臨床遺伝専門医にご相談ください。






