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ダウン症胎児の流産メカニズムと自然流産率:母体年齢との関係性を解説

NIPTを提供している当クリニックでは、「ダウン症候群ではどれくらいが流産に至るのか」「どの時期に流産に至るのか」という質問を多く受けます。そこで本記事では、ダウン症候群(21トリソミー)胎児における流産(自然流産)の頻度とメカニズム、さらに妊娠全般における流産の確率や母体年齢の影響について、最新の医学研究と統計データに基づいて解説します。

ダウン症胎児の流産:メカニズムと確率

ダウン症候群(21トリソミー)は、21番染色体が通常の2本ではなく3本存在する染色体異常です。この染色体異常は胎児の発育に重大な影響を与え、多くの場合、特に妊娠初期に流産に至る可能性が高いことが知られています。

ダウン症胎児の流産率

ダウン症候群(21トリソミー)の胎児の多くは妊娠初期に流産します。研究によると、ダウン症胎児の流産率は約85%と推定されています。つまり、ダウン症胎児のうち約95%は流産し、5%のみが出生に至るという報告もあります。これは他の染色体異常に比べると出生率が高い方です。

ダウン症胎児が流産するメカニズム

ダウン症胎児が高い確率で流産する主なメカニズムには、以下のような要因が関与しています:

1. 染色体異常による発育不全

染色体異常は胎児の正常な発育を妨げます。例えば、重要な臓器の形成不全や機能不全が起こり、胎児が妊娠を継続することが困難になります。21番染色体に含まれる遺伝子は比較的少ないため、他の染色体異常に比べると出生に至る確率が高いのが特徴です。

2. 胎盤機能不全

染色体異常を持つ胎児では、胎盤の形成や機能にも異常が生じやすくなります。ダウン症胎児の場合、胎盤の発達異常により胎児への十分な栄養・酸素供給ができなくなることが流産の重要な要因です。胎盤の異常には以下のような特徴があります:

  • 栄養膜細胞(絨毛膜細胞)の融合不全
  • 合胞体栄養膜への転化障害
  • 酸化ストレスの亢進
  • 組織の早期老化(石灰化の増加)

3. 免疫系の関与

自然淘汰の一環として、母体は発育に重大な異常を持つ胎児を早期に排除する傾向があります。これは、母体の健康を保つための自然の防御機構と考えられます。

4. ホルモンバランスの異常

染色体異常を持つ胎児は、母体のホルモンバランスにも影響を与え、妊娠の維持が困難になることがあります。

図1:正常胎盤とダウン症胎盤の比較図

図1:正常胎盤とダウン症胎盤の比較図

一般的な自然流産の確率

確認された妊娠全体における自然流産の確率は以下のようになっています:

通常、妊娠が確認された後、約15%(10人に1.5人)が流産します。このうち、約80%は妊娠12週までの初期に起こります。

妊娠週数別の自然流産率

妊娠週数 流産率 特徴
〜12週(第1三半期) 約12% 最も流産リスクが高い時期
13〜19週(第2三半期前半) 約1〜5% リスクは大幅に低下
20週以降 約0.5% この時期の喪失は「死産」と呼ばれる

流産の原因

流産した原因を調べると、約70%に流産胎児の染色体異常(主に数の異常)が認められ、このことが原因で流産したと考えられます。この染色体異常は偶発的に発生し避けられないものです。

残りの30%には染色体異常が認められず、主に母体側に原因があると考えられています。しかし、これら30%のなかにも染色体そのものの異常(遺伝子の異常など)が10%くらい含まれていると考えられていて、全体で約80%は胎児の染色体異常が原因での流産、20%が母体側が原因での流産と考えられています。

流産の主な原因と割合

母体年齢と流産率の関係

母体の年齢は流産リスクと直接的な関係があり、特にダウン症などの染色体異常リスクも年齢とともに上昇します:

図3:母体年齢による自然流産率とダウン症児出生率の変化

図3:母体年齢による自然流産率とダウン症児出生率の変化

母体年齢別の流産率およびダウン症出生リスクは以下の通りです:

母体年齢別の流産率とダウン症出生率

母体年齢 一般的な流産率 ダウン症の出生率
20代前半 約10% 約1/1,500
30歳 約15% 約1/960 (0.1%)
35歳 約20% 約1/340 (0.3%)
40歳 約40% 約1/85 (1%)
45歳以上 80〜90% 約1/35 (3%)

40歳でダウン症候群の児が生まれる確率はおおよそ84人に1人くらい(約1%)です。30歳でダウン症候群の児が生まれる確率は959人に1人くらい(約0.1%)です。40歳は30歳より10倍くらい確率が上がります。

母体年齢が高くなるほど流産率やダウン症リスクは上昇しますが、別の見方をすると、40歳は99.0%、30歳は99.9%で正常の児が生まれます。正常の児が生まれる確率は0.9%くらいしか下がらないとも言えます。

母体年齢による影響のメカニズム

母体の高年齢化による流産率やダウン症リスクの上昇は、主に以下の要因によります:

  1. 卵子の老化:女性の場合、母親の胎内にいる時に卵巣に一生分の卵子が作られ、その後生まれてから年齢を経るごとに卵子の数は減って質も低下していきます。
  2. 染色体分離異常:卵子の染色体やDNAにも影響を及ぼし、染色体の減数分裂が正常にいかないことで染色体の数の異常も起こりやすくなるのです。
  3. 近年の研究では通常型の発症リスクは母親の年齢に由来していることがわかってきました。高齢出産であればあるほど、ダウン症候群の赤ちゃんの出生の確率が高くなってしまうのです。なお、父親の年齢はダウン症候群の発症率にはほとんど関係ありません。

重要なのは、ダウン症候群児の大多数は35歳未満の女性から出生しているという報告もありますので、一概に「高齢出産の女性が増えたことでダウン症候群の新生児が増えている」といえるわけではありません。これは単純に出産全体に占める若年層の割合が高いためです。

自然妊娠とIVF(体外受精)における流産率の違い

IVF(体外受精)による妊娠と自然妊娠では、流産リスクに若干の違いがあるとされています:

  • IVF妊娠の流産率:若干高い傾向(自然妊娠と比べて2~5%程度高い)
  • IVF自体が流産リスクを高めるというより、IVFを受ける母体側の要因(高齢、基礎疾患など)が影響している可能性が高い
  • 母体年齢や健康状態が同等であれば、IVFと自然妊娠の流産率に大きな差はない

その他の流産リスク因子

母体の年齢や妊娠方法以外に、流産リスクに影響を与える因子には以下のようなものがあります:

1. 過去の流産歴

過去に自然流産を経験した女性は、次の妊娠でもやや高い確率で流産する傾向があります:

  • 一度も流産したことがない場合の流産率:約15%
  • 一度流産した後の次の妊娠での流産率:約25%
  • 2回流産が続く確率は4%、3回流産が続く確率は0.8%となり、かなり頻度が下ってきます。

2. 母体の持病・健康状態

以下のような母体の疾患や状態は流産リスクを高める可能性があります:

  • 糖尿病(血糖コントロール不良)
  • 甲状腺機能異常
  • 全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患
  • 重度の腎疾患
  • 先天性心疾患

3. 子宮の形態的要因

子宮構造の異常は特に中期以降の流産リスクを高めます:

  • 子宮奇形(中隔子宮など)
  • 大きな子宮筋腫
  • 子宮頸管無力症(子宮頸部が妊娠中期に無痛で開大してしまう状態)

4. 感染症

母体の特定の感染症は胎児に感染して流産を引き起こす可能性があります:

  • トキソプラズマ症
  • 風疹
  • サイトメガロウイルス感染
  • 単純ヘルペス(TORCH感染症)

5. 生活習慣要因

以下のような生活習慣要因も流産リスクに影響します:

  • 喫煙
  • 過度の飲酒
  • 薬物乱用
  • 重度の栄養不良
  • 高線量の放射線被曝

流産に関する誤解

母体の精神的ストレスや適度な運動、正常な性的活動などは流産の直接の原因とは考えられていません。ほとんどの流産は偶発的な染色体異常など胎児側の問題によって起こるため、妊娠中の母親の行動で防ぎきれない場合が多いのが現実です。

流産を経験した場合でも自分を責める必要はなく、必要に応じて医療者のサポートを受けながら心身をいたわることが重要です。

出生前診断の役割

ダウン症のリスクが心配される場合、様々な出生前診断が提供されています:

1. 非侵襲的検査

  • NIPT(新型出生前診断):妊娠10週から検査可能で、ダウン症に対する検査精度が非常に高い特徴があります。
  • 超音波検査(NT測定):胎児の首の後ろにある透明な組織の厚さを測定するもので、この部分が通常より厚い場合、ダウン症などの染色体異常や心臓の構造的な異常など、特定の先天性疾患のリスクが高まる可能性があります。
  • 母体血清マーカー検査:母体の血液中のホルモンやタンパク質の測定により胎児の異常リスクを評価します。

2. 確定診断

  • 羊水検査:腹部に注射器を刺して羊水を採取する検査方法で、99%以上の確実性があると言われていて、ダウン症の確定診断に使われています。ただし、注射器を腹部に刺すことになるため、流産リスクが0.3%ほどあります。
  • 絨毛検査:腹部に針を刺し、胎盤になる前の組織を採取する検査です。羊水検査と同じく流産リスクがあります。

35歳以上では染色体異常の児が生まれるというリスクの確率が、検査で流産するというリスクの確率より高くなります。35歳未満では検査で流産するというリスクの確率のほうが、染色体異常の児が生まれるというリスクの確率より高くなります。このため、35歳を境に羊水検査などの対象となることが多いのです。

まとめ

ダウン症胎児の流産確率は高く(約85%)、これは染色体異常による胎児発育不全と胎盤機能不全が主な原因です。一般的な自然流産率は確認された妊娠の約15%であり、その大部分(約80%)は第1三半期に発生します。母体年齢の上昇は流産リスクとダウン症リスクの両方を高めますが、適切な産前ケアや検査によってリスク評価が可能です。

ダウン症について理解を深め、妊娠・出産に関する適切な知識を持つことで、より健やかな妊娠期間を過ごす一助となれば幸いです。心配な点がある場合は、産婦人科医や遺伝カウンセラーに相談することをお勧めします。

参考文献・リンク

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  8. ミネルバクリニック minerva-clinic.or.jp/nipt/label/21trisomy/
プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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