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2月10日、22時からのクローズアップ現代に、当院も取材を受けていたのですが。
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出生前診断を受けた人の心のケアにピアサポートを、というのが話題になっていました。
わたしは、これ、反対です。
がんの患者さんたちのピアサポートとはちょっと違うので。
ピアサポートとは?
「ピア」とは仲間を意味しています。ピアサポートとは、精神疾患や学習障害といった特定の生活経験を持つ人々が、当該特定の困難に際してお互いに与えることのできる助けや支援と定義することができます。
社会的、感情的、または実践的な支援を得られる可能性がありますが、重要なのは、この支援は相互に提供され、互恵的なものであり、ピアが支援を与えているか受けているかにかかわらず、その支援から恩恵を得ることができます。支援を与えている側も、自分が役に立っているのだと実感できることでその支援から恩恵を得ることができるというわけです。
ピアサポートの言語は、英国では比較的新しいですが、実際には自助グループと相互サポートでは、長年にわたって行われています。カナダ、米国では、その様々な形でのピアサポートは、1960年代から広く認識され、利用されています。
わが国でもたとえばがん患者の患者会、遺族会のような形でピアサポートがあります。
出生前診断とピアサポート
胎児異常という出生前診断を得ることは、急激な悲しみと心理的苦痛を伴います。
出生前診断の経験のある人たちがインターネット空間でバーチャルに相談しあう、ということが掲示板やブログを通して行われたいますが、妊娠中絶すると決める場面では非難が起こり、それを擁護する人たちもいたりとまちまちです。
専門家でも難しい出生前診断後の意思決定の支援過程をピアサポートで大丈夫なのか?
これは、わたしの個人的な経験から、出生前診断のピアサポートに対して抱く疑問です。
わたしのクリニックでも、出生前検査から最終診断(出生前診断)に至り、なかなかどうするのかを決められないご夫婦がいます。
出生前診断は、ご家族の「未来を創造する」という役割があります。
そのご夫婦がいったい何を望んでいて、どういう宗教観や人生観を持っているのか?今、本当に本音を言っているのか?隠していることはないのか?
わたしたち医師は様々な質問テクニックでそれらを引き出していきます。
それと同時に、遺伝カウンセリングは特に、ご本人たちの意思決定ができるようにご自身と向き合ってもらうというスキルが必要で、「指示しない」つまり、「非指示性」が重要視される理由はここにあります。
ああしたほうがいいよ、こうしたほうがいいよ、と言わないのが鉄則です。
しかし、症例によっては「背中を押さないと」一歩も動けない、という人たちがいて。そういう場合は、本音を一生懸命質問した結果で引き出し、「本当はこういうことをお望みなんじゃないですか?」と投げかけるようにしています。
何が言いたいかと言うと、悩みが軽い症例はピアサポートでよいかもしれないけど、全く身動きもできないくらい悩んでいる二人には、専門家が必要で、悩みが軽い症例はピアサポートをわざわざ受けようとするのか疑問だし、そうすると出生前診断におけるピアサポートの役割は非常に限定されるのでは、という気がします。
今日も、「決められない」二人のために、私実は電話でいろんな今までの経験をお話ししたりしてましたので。
医師じゃないと難しいとこってあるんですよ。
それとやっぱ、アブノーマルな経過をたどる重症なダウン症候群(21トリソミー)のお子さんはいるので。
ピアサポートで 産んでみたら ってなって生まれて3週間で亡くなってしまったら、それこそ、サポートした側もされた側も傷つくんじゃないでしょうか?
以下、ダウン症候群のお子さんを以前出産して3週間でICUで亡くなってしまった例をご紹介いたしましょう。
ダウン症のお子さんで10%程度に合併する一過性骨髄異常増殖症(TAM)を合併していました
それまで何の異常も指摘されていませんでしたが、妊娠30週を過ぎて、突然、あかちゃんの腎臓に異常があるということで帝王切開で出産することになりました。
腎臓のほうは生まれてからは処置もしたので問題なかったのですが、染色体検査の結果、ダウン症候群のお子さんだと判明しました。21トリソミーです。
ネットでダウン症候群について調べると、昔とはちがって平均寿命も60歳くらいに延びているとしって、ちょっと安心しました。
ところが、突然、「血小板が少ない」と言われて、赤ちゃんは一過性骨髄異常増殖症(TAM)を合併していることがわかったのです。
一過性骨髄異常増殖症(TAM)とは
ダウン症候群のお子さんの新生児期に10%程度にみられる白血病様芽球と呼ばれる細胞が末梢血中に増加する状態のことを一過性骨髄異常増殖症(TAM)といいます。臓器障害をおこして早期死亡する例が20-30%ということがわかってきて、また、良くなっても数年後に急性白血病や骨髄異形成症候群を発症したりすることもわかってきて、全体像を把握したり、どういう症例が重症になるのかを予測するための予測因子の開発、治療指針の確立が急務となっています。
一過性骨髄異常増殖症(TAM)の原因とは
一過性骨髄異常増殖症(TAM)では造血転写因子GATA1に遺伝子変異があることがわかっていますが、GATA1遺伝子の変異がTAM発症にどのようにつながるのかという機序はまだわかっていません。
一過性骨髄異常増殖症(TAM)の症状とは
TAMでみられる主な症状は、肝臓や脾臓という造血臓器(赤ちゃんの間は骨髄ではなく肝臓や脾臓で血液細胞を作ります)が腫れて大きくなる、白血球が増える、血小板が減少する、などがあり、肝臓脾臓がはれることで腹部が膨満したり、血小板が減少することで出血傾向がみられることがあります。またダウン症候群では高頻度に先天性心臓疾患を伴うため、チアノーゼから心不全をおこしたりもします。重症の場合は黄疸、播種性血管内凝固症候群、全身の浮腫を来します。
このお子さんは3週間でNICUから出ることなくなくなりました
さて。このお子さんはレアケースかもしれません。
ですが、「産んでみたらどうでしょうか?」というアドバイスをして生まれたお子さんがこういう経過をたどったら、どうでしょうか?
今までのピアサポートは、がん、精神疾患など「自分自身のこと」が対象でしたが、お子さんのことになると親御さんは本当に大変な思いをします。
それを、「素人な仲間」で本当に大丈夫かと言うとわたしにはそう思えません。
このご夫婦も時間経過はしているのですが、時間経過じゃないんですよ。子供を失うっていう経験は。
わたしも初めての出産で一卵性双生児の一人をなくし、29年近くたった今でも傷ついています。
人間にとって一番深い悲しみは我が子を失うことではないのでしょうか。
出生前診断ピアサポートの問題点
- 1.軽症のダウン症のお子さんの御両親だけがピアサポートに入ることにより、産む産まないの決断が産む方に引きずられる
- 2.重症のダウン症のお子さんのご両親たちはお子さんが常に介助が必要なので心情的にも時間的にもピアサポートに入るなどの余裕がないため軽症者の話しか聞けない
- 3.自分の経験からこうしたほうがいいああしたほうがいいと進める傾向にあるため、フラットな意見が聞けない
まとめ
以上、述べてきたように、わたしの経験から出生前診断のピアサポートは、ちょっと役割が非常に限られるのではないかと思います。