この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

「昔から血小板が少ない」「血が止まりにくい」という体質は、生まれつきの遺伝子の変化が原因のことがあります。この検査は、血小板の数が少なくなる病気と、数は普通でも働きが悪い病気(グランツマン血小板無力症など)に関わる44の遺伝子を、一度に調べる検査です。生まれ持った遺伝子は一生変わりません。原因がわかれば、免疫性血小板減少症(ITP)と思って続けてきた治療を見直すきっかけになり、手術・出産の準備やご家族の検査にも、この先ずっと使える情報になります。このページでは、検査でわかること・わからないこと、結果が出たあとにできることを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. 血小板減少症は遺伝しますか?この検査で何がわかりますか?
遺伝する血小板の病気があります。この検査では、血小板の数が少なくなる病気と、働きが悪くなる病気の原因となる44遺伝子をまとめて調べ、遺伝子の変化が原因かどうかを確かめます。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
ITPとして治療しても血小板が増えない方、ご家族にも血小板が少ない人がいる方、巨大血小板・小さい血小板と言われた方、血小板の機能検査で異常を指摘された方です。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の内側の粘膜で、唾液・粘膜ならオンライン診療でも受けられます。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。原因がわかれば、避けたい薬・手術や出産の準備・ご家族の検査を具体的に考えられます。意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。
1. 遺伝性の血小板の病気とは:「数が少ない型」と「働きが悪い型」
遺伝性の血小板の病気は、生まれつきの遺伝子の変化によって、血小板の数が少なくなる「遺伝性血小板減少症」と、数は普通でも働きが悪い「血小板機能異常症」に大きく分けられます。どちらも、けがをしたときに血を止める最初の役目を担う血小板がうまく働かないため、出血しやすくなります。
血小板は、血管が傷つくとその場所に貼り付き、互いにくっつき合って傷口をふさぎます。この「貼り付く」「くっつき合う」「中の物質を出して仲間を呼ぶ」のどこかがうまくいかないのが機能異常症で、骨髄で血小板を作る段階がうまくいかないのが減少症です。ひとつの病気が両方の性質をもつこともあります。
血小板の数が少ない型(遺伝性血小板減少症):大きさが手がかりになる
遺伝性血小板減少症では、血小板の大きさが原因をしぼる手がかりになります。たとえばMYH9関連疾患では大きな血小板(巨大血小板)がみられ[2]、ウィスコット・アルドリッチ症候群では小さな血小板がみられます[9]。一方、ANKRD26による血小板減少症の血小板の大きさは普通とされています[5]。大きさだけでは病気を決められないため、多くの遺伝子をまとめて調べる意味があります。
巨大血小板を伴う病気には、MYH9関連疾患のほか、ベルナール・スーリエ症候群などがあります。ベルナール・スーリエ症候群がはっきり疑われる場合は、その原因遺伝子だけを調べる専用の検査もあります(第3章の選び方を参照)。
数は普通でも働きが悪い型:グランツマン血小板無力症など
グランツマン血小板無力症は、血小板の数も大きさも普通なのに、血小板どうしがくっつき合えないために出血しやすくなる病気です。原因は、血小板の表面で「接着の受け皿」として働くインテグリン(αIIbβ3)を作るITGA2B・ITGB3遺伝子の変化で、常染色体潜性(劣性)遺伝です。頻度は約100万人に1人と推定され、血縁どうしの結婚が多い地域ではより多いと報告されています[6]。
数が普通なので、ふつうの血液検査では見逃されやすく、血小板の凝集能検査などで初めて気づかれます。血小板の中の顆粒の異常(灰色血小板症候群など)や、血小板が信号を受け取る受容体の異常も、この型に入ります。
血小板以外にも症状が出る病気
遺伝性の血小板の病気の中には、血小板以外の臓器にも症状が出るものがあります。代表的なものを挙げます。
- ●腎臓・耳・目:MYH9関連疾患では、経過の中で腎臓の病気(約25%)、感音難聴(評価の時点で約50%、時間がたつとほぼ全員)、若いうちの白内障(約20%)が起こりうるとされています[2]。
- ●皮膚・目の色素と肺・腸:ヘルマンスキー・パドラック症候群では、色素が薄くなる白皮症に加え、型によって肺線維症や肉芽腫性大腸炎が起こります[7]。
- ●免疫:ウィスコット・アルドリッチ症候群やチェディアック・東症候群では、感染症にかかりやすいなど免疫の異常を伴います[8][9]。
- ●血液のがんのなりやすさ:RUNX1やANKRD26の変化では、白血病や骨髄異形成症候群になりやすいことが知られています[4][23](第7章)。
出血の症状
血小板の病気による出血は、皮膚や粘膜に出やすいのが特徴です。あざができやすい、鼻血が止まりにくい、歯ぐきから出血する、月経の量が多い、抜歯や手術のあとに血が止まりにくい、といった形で現れます。グランツマン血小板無力症の女性では、月経の量が多い方が60〜90%にのぼると報告されています[6]。一方で、ANKRD26による血小板減少症のように、出血が軽く、大きな出血を起こさない方が多い病気もあります[5]。
2. 免疫性血小板減少症(ITP)と間違われやすい理由と、遺伝子検査で見分ける意味
遺伝性血小板減少症は、免疫の働きで血小板が壊される免疫性血小板減少症(ITP)と間違われやすく、効かない治療を続けてしまうことがあります。どちらも「血小板が少ない」という同じ検査結果から始まるため、見た目だけでは区別がつきにくいのです。
トルコの複数の施設で、遺伝性の血小板の病気と診断された50人(主に子ども、血縁どうしの結婚が多い集団)を振り返った2025年の研究では、遺伝子検査の前に40%が慢性ITPと診断されていました。遺伝子検査の前と後で診断が合わなかった人は76%にのぼりました[1]。
MYH9関連疾患では、イタリアの登録をもとにした報告で、最初に見つかった患者さんの約60%が以前にITPと診断され、30%が適切でない治療を、12%が必要のない脾臓の摘出を受けていました。ITPと誤診されると、必要のない免疫を抑える治療が行われやすいとされています[2]。
遺伝性を考える手がかり
- ●ITPの治療をしても血小板が増えない
- ●ご両親・きょうだい・お子さんにも血小板が少ない人がいる
- ●血小板が大きい・小さいと言われた
- ●難聴・腎臓の病気・白皮症・感染症のかかりやすさなど、血小板以外の症状がある
希少な病気では、診断にたどり着くまでに時間がかかりがちです。欧州の希少疾患の患者さんを対象にした調査では、最初に症状が出てから診断までの平均は4.7年でした[15]。遺伝子検査で原因がわかれば、ITPと思って続けてきた治療を主治医と見直すきっかけになります。ただし、遺伝子検査で原因が見つからないこともあり、その場合もITPと決まるわけではありません(第6章)。
3. どんな人がこの検査を受けるとよいか
血小板が少ない、または血が止まりにくい原因を知りたい方で、ITPの治療が効かない方や、ご家族にも同じ体質の方がいる方に向く検査です。見た目や検査値だけでは判断できないことが多いので、遺伝カウンセリングで経過をお聞きしてから決めます。
この検査が向いている人
- ●子どもの頃から血小板が少ない、またはITPとして治療しても血小板が増えない方
- ●血小板の数は普通なのに、あざ・鼻血・月経の量の多さ・抜歯後の出血がある方
- ●巨大血小板・小さい血小板と言われた方、血小板の機能検査で異常を指摘された方
- ●ご家族に血小板の病気の方がいる方、ご家族で原因の遺伝子がわかっている方
- ●手術・出産などの前に、出血しやすさの原因を知っておきたい方
血小板が少なくなる原因・出血しやすさの原因を絞り込めた患者さんを対象にした英国などの研究では、80〜96遺伝子のパネル検査で、血小板の数の異常の47.8%、血小板の働きの異常の26.1%で遺伝子の原因が見つかりました。一方、検査値に異常がなく原因のわからない出血では3.2%にとどまりました[3]。検査値で異常が確かめられているほど、遺伝子の原因が見つかりやすいと考えられます(調べる遺伝子が当院の検査とは違うため、数字はそのまま当てはまりません)。
この検査より別の検査が向いている場合
血小板の病気と見当がついていて、病名までは絞れていないなら、この検査が向いています。症状によっては、次の検査のほうが合うことがあります。
🔍 症状に合わせた検査の選び方
※どの検査が合うかは、検査値・症状・ご家族の情報で変わります。遺伝カウンセリングで一緒に決めます。
4. 調べる44遺伝子と、それぞれでわかる病気
この検査では、血小板の数が少なくなる病気20遺伝子、働きが悪くなる病気14遺伝子、色素や免疫の症状を伴う病気10遺伝子の、あわせて44遺伝子を調べます。遺伝子ごとの病気と遺伝のしかたは、OMIM(遺伝性疾患のデータベース)の遺伝子と病気の対応にもとづいています。
血小板の数が少なくなる病気の遺伝子(20遺伝子)
🧬 血小板の数が少なくなる病気
※病気と遺伝のしかたは、OMIMの遺伝子と病気の対応(HPOの2026年9月版で確認)による。ITGA2B・ITGB3にも、血小板が大きく数が少なくなる顕性の型がある(次の表)。血小板が多くなる本態性血小板血症では、JAK2・CALR・MPLなどに生まれたあとに起きた変化がみられることが多く[17]、THPO・MPLの生まれ持った変化による家族性の血小板増加も報告されています[16]。FLNA遺伝子は、当院のNIPT(インペリアルプラン)でも調べる遺伝子に入っています(ダイヤモンドプランには入っていません。妊娠9週から、6〜8週は臨床研究として受けられます)。
血小板の働きが悪くなる病気の遺伝子(14遺伝子)
🧬 血小板の働きが悪くなる病気
※OMIMの遺伝子と病気の対応(HPOの2026年9月版で確認)による。
色素・免疫などの症状を伴う病気の遺伝子(10遺伝子)
🧬 色素・免疫などの症状を伴う病気
※OMIMの遺伝子と病気の対応(HPOの2026年9月版で確認)による。ヘルマンスキー・パドラック症候群をまとめて調べる場合は専用のパネル検査もあります。
5. 遺伝のしかたと、ご家族への影響
遺伝性の血小板の病気は、病気によって常染色体顕性(優性)・常染色体潜性(劣性)・X連鎖のどれかの形で遺伝し、ご家族への影響は原因の遺伝子と遺伝のしかたで決まります。そのため、原因の遺伝子を確かめることが、ご家族の確率を考える出発点になります(遺伝形式とは)。
常染色体顕性遺伝(ANKRD26・RUNX1・MYH9など)
常染色体顕性(優性)遺伝では、対になった遺伝子の片方に変化があれば発症しうるため、親から子へ伝わる確率は、お子さん1人ごとに2分の1です。MYH9関連疾患では、最初に見つかった患者さんの約35%はご家族に同じ病気の人がおらず、そのうち半数以上で、新しく起きた変化(de novo)であることが確かめられています[2]。
⚠️ 「自分が軽いから、子どもも軽い」とは言えません
MYH9関連疾患では、大きな血小板と白血球の封入体は変化をもつ全員にみられる一方、腎臓・耳・目の症状がどれくらい出るかは人によって違い、変化の場所によって重さも変わるとされています[2]。親御さんが軽い症状で気づいていなくても、お子さんが同じ程度になるとは限りません。だからこそ、知ったうえで計画することに意味があります。
常染色体潜性遺伝(グランツマン血小板無力症・ヘルマンスキー・パドラック症候群など)
常染色体潜性(劣性)遺伝では、両親から1つずつ変化を受け継いだときに発症します。ご両親がともに保因者(変化を1つもつが発症しない人)の場合、お子さん1人ごとに発症する確率は4分の1、保因者になる確率は2分の1です。TAR症候群は、片方が1q21.1の微小欠失、もう片方がRBM8A遺伝子の働きを弱める小さな変化という組み合わせで起こることが多くあります。きょうだいの発症確率が4分の1になるのは、片親が微小欠失などの機能を失わせる変化を1つもち、もう一方の親が働きを弱める変化を1つもつ場合です。ご両親の遺伝子の状態によっては2分の1になる場合もあるため、ご両親の検査結果を踏まえて判断します[10]。
この検査の遺伝子のうち、ITGA2B・ITGB3・GP1BA・GP9・HPS1・HPS3・HPS4・HPS5・HPS6・AP3B1・BLOC1S3・BLOC1S6・DTNBP1・LYST・WAS・MPL・NBEAL2の17遺伝子は、当院の拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子)の対象にも入っています(2026年10月に遺伝子一覧で確認)。妊娠を考えるご夫婦が保因者かどうかを調べることができます。
X連鎖遺伝(WAS・GATA1・FLNA)
X連鎖遺伝のうち、WASやGATA1のようなX連鎖潜性の病気は、主に男性に症状が出ます。お母さんが保因者の場合、息子さん1人ごとに発症する確率は2分の1、娘さんが保因者になる確率は2分の1です。ウィスコット・アルドリッチ症候群の保因者の女性はふつう症状がありませんが、X染色体の働き方の偏りによって症状が出ることもまれにあるとされています[9]。
6. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、44遺伝子の小さな変化(1文字の置き換わりや、小さな挿入・欠失)と、条件によっては遺伝子単位の欠失・重複です。一方で、遺伝子検査には必ず限界があります。
わかること
遺伝子の配列を一度にたくさん読む次世代シークエンサーを使い、44遺伝子のタンパク質を作る部分(エクソン)と、そのつなぎ目のまわりを調べる遺伝子パネル検査です。読み取りの質が十分でない部分は、別の方法(サンガー法)で確かめます。欠失・重複の解析では、遺伝子1つ分まるごと(頬の粘膜・血液)や、2つ以上続くエクソンの大きさ(血液のみ)の変化を見つけられ、見つかった欠失・重複は別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します。
読み取りの精度(カバレッジ)について
調べる遺伝子の領域の99%以上を、同じ場所について20回以上読み取ります(≥99% at 20x)。同じ場所を何回も読むほど、読み間違いの影響を小さくできます。
わからないこと
- ●調べていない遺伝子:44遺伝子以外が原因の病気はわかりません。たとえばETV6など、血小板の病気の原因として知られていても、この検査に含まれていない遺伝子があります。
- ●見つけにくい変化:染色体の転座や逆位、繰り返し配列の伸び、遺伝子の働きを調節する部分(プロモーター)やエクソンから離れたイントロンの変化は対象外です。1つのエクソンだけの欠失・重複も、いつも見つかるわけではありません。
- ●特殊な原因の病気:ケベック血小板障害は、PLAUを含む約78kbの区間が2つ並ぶ重複で起こるとされています[14]。TAR症候群の働きを弱める変化も、5′非翻訳領域やイントロンにあることが多いとされています[10]。こうした変化が見つけられるかどうかは、変化の種類によって変わります。
- ●ANKRD26の5′非翻訳領域:ANKRD26による血小板減少症の原因として最初に報告された変化は、遺伝子の5′非翻訳領域(5′UTR)という、タンパク質を作らない部分の短い区間に集まっていました[5]。この検査はタンパク質を作る部分とそのつなぎ目を調べるように作られており、検査の仕様にはこの領域を調べるという記載がありません。そのため、ANKRD26の5′UTRの変化は、この検査では見つけられない可能性があります。ANKRD26による血小板減少症を強く疑う場合は、遺伝カウンセリングで検査の選び方をご相談ください。
- ●モザイク:体の一部の細胞にだけ変化がある状態(モザイク)を見つけることは目的としていません。がんなどの腫瘍の組織は、この検査の対象外です。
陰性でも否定できない理由と、VUS
原因が見つからなかった(陰性)からといって、遺伝性の病気ではないとは言い切れません。上の研究でも、血小板の働きの異常で遺伝子の原因が見つかったのは26.1%でした[3]。まだ見つかっていない原因遺伝子もあると考えられています。
また、病気の原因かどうかまだ判断できない変化(VUS)が見つかることがあります。当院では、ご希望によりVUSを報告から除く選択(無料)もあります。
7. 結果が出たあと:わかると、次に何ができるか
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。原因がわかると、病名がはっきりし、避けたい薬・手術や出産の準備・合併症の見張り・ご家族の検査を具体的に考えられるようになります。
陽性のとき:診断の確定と、避けたい薬・治療
英国血友病センター医師会の指針は、重い血小板の病気では、アスピリンなど血小板の働きを妨げる薬を避けるよう勧めています。痛み止めとしてよく使われる非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、薬による血小板の働きの低下の最も多い原因とされています[13]。ヘルマンスキー・パドラック症候群のレビューでも、イブプロフェン・アスピリン・ワルファリンなど、血を止まりにくくする薬は避けるべきとされています[7]。トラネキサム酸は、月経の量の多さや軽い出血に役立つとされています[13]。
血小板輸血は、体が輸血した血小板に対する抗体を作ることがあるため、はっきりした必要があるときに限るとされています[13]。グランツマン血小板無力症では最大30%で抗体ができると報告されています[6]。病名がわかっていれば、こうした治療の選び方を主治医と前もって話し合えます。
手術・抜歯・出産の前の準備
出血しやすい病気がわかっていれば、手術・抜歯・出産の前に、止血の準備を計画できます。グランツマン血小板無力症では、出産後の大量出血がよく起こると報告されています[6]。英国の指針は、妊娠は血友病センターと密に連携し、母子それぞれについて書面の計画を立てて管理するよう勧めています[13]。
先天性血栓性血小板減少性紫斑病(ADAMTS13の病気)では、妊娠が発作のきっかけになることがよく知られています[11]。国際血栓止血学会の指針は、症状のない先天性の方にも、妊娠中は予防のための血漿の投与を強く勧めています[12]。日本では2024年3月に、先天性血栓性血小板減少性紫斑病の治療薬として遺伝子組換えADAMTS13製剤が承認されています(2026年10月時点)。当院は分娩・手術を行っていないため、準備はかかりつけの産科・血液内科などの主治医と進めていただきます。結果の内容を主治医に伝えるための説明は、遺伝カウンセリングでお手伝いします。
RUNX1・ANKRD26:血液のがんへの見張りと、骨髄移植のドナー選び
RUNX1の変化による家族性血小板異常症では、生涯に血液のがんになる確率が35〜50%とされ、発症の年齢は生後数か月から70歳以上まで幅があります[4]。見張りの方法について正式な合意はまだありませんが[4]、北欧の指針は、骨髄性腫瘍になりやすい生まれつきの変化をもつ大人の方について、はじめに骨髄の検査を含む評価を行うこと、とくにリスクの高い方では6か月ごとに血液検査をくり返すこと、血液検査の値が安定していれば骨髄の検査は決まってくり返さないことを勧めています[23]。
治療に造血幹細胞移植が必要になったとき、発症しているご家族や、症状のない保因者とわかっているご家族をドナーにしないこと、ドナーの候補の方には遺伝子検査を行うことが勧められています[23]。ANKRD26による血小板減少症でも、生涯に骨髄性腫瘍になる確率は約8%とされています[23]。ご本人の原因がわかっていることが、ご家族を守ることにもつながります。
腎臓・耳・肺の合併症への備え
MYH9関連疾患では、レニン・アンジオテンシン系を抑える薬(血圧の薬の一部)で尿たんぱくが減ることが報告されていますが、腎臓の悪化を長い目で防げるかはまだわかっていません。重い難聴には人工内耳がとても効果的とされ、予定した手術の前に、血小板を増やす薬(エルトロンボパグ)で準備した報告もあります[2]。遺伝性血小板減少症の方を対象にした臨床試験では、評価できた23人のうち11人で血小板が大きく増えました。ただし、白血病になりやすい遺伝性血小板減少症(ANKRD26・RUNX1など)では、この種類の薬を使うときに注意が必要とされています[22]。ヘルマンスキー・パドラック症候群では、HPS1・HPS4関連の型で成人期に肺線維症が起こることがあり、AP3B1関連の2型では小児期から起こることもあります[7][24]。原因の型がわかれば、どの臓器を定期的に確かめればよいかが決まります。
ご家族が検査を受けるとき
ご本人の原因がわかっていると、ご家族は同じ場所を調べることで、受け継いでいるかどうかを確かめられます。症状のないご家族が、将来の血液のがんのなりやすさなどを知るための検査は、発症前の検査になります。当院は、ライフステージごとに患者さんの人生をサポートするという考え方で診療しており、知りたいと願う方を拒むことはしません。遺伝カウンセリングで十分に考えたうえで、ご本人が知りたいと決めた場合は、その意思を尊重して検査まで行います。知らないでいる選択も、同じように尊重します。
陰性・VUSのとき
原因が見つからなかった場合は、症状や検査値に合わせて、出血・血栓をまとめて調べる82遺伝子のパネルや全エクソーム検査などを考えます。VUSは、それだけで診断や、ご家族の発症リスクを判断する根拠にはしません。ただし、その変化の意味を確かめるために、ご家族の検査を行うことがあります。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。結果の伝え方については、当院の二次的所見の開示方針もご覧ください。
妊娠を考えている方へ:保因者検査と出生前診断
グランツマン血小板無力症やヘルマンスキー・パドラック症候群などの潜性の病気では、パートナーが保因者かどうかで、お子さんの確率が変わります。妊娠の前ならブライダルチェック(保因者検査)、妊娠中ならNIPTと同じ日に採血できるカップルの保因者検査「ファミリーセーフティ プラス」(女性787遺伝子・男性714遺伝子。単独では受けられません)があります。
ご家族で原因の遺伝子の変化がわかっていれば、妊娠したときに赤ちゃんで同じ変化があるかを調べられます。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。その病気で出生前診断を行えるかは、病気の重さや国内の指針を踏まえて個別に考えますので、妊娠を考えている段階からご相談ください。
海外でPGT-M(着床前遺伝学的検査)を考えている方へ:英語の検査結果をお渡しできます
PGT-Mは、体外受精でできた受精卵(胚)の一部の細胞を調べ、ご家族でわかっている遺伝子の変化を受け継いでいない胚を選んで子宮に戻す検査です。海外でPGT-Mを受けたいというお問い合わせは少なくありません。当院は体外受精・PGT-Mを行っていません。当院でできるのは、原因遺伝子の確定、英語の検査結果のご用意、遺伝カウンセリング、ご家族の遺伝子検査、妊娠後の絨毛検査・羊水検査です。英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。
欧州ヒト生殖医学会の指針は、PGT-Mの準備として、病気の原因と確かめられた変化があること、変化の内容が書かれた元の報告書、そしてご家族の検体を挙げています[18]。受精卵から取れるDNAはごくわずかで、変化を直接読むだけでは2本あるうちの片方が読み取れず判定を誤るおそれがあるため、変化の両側にある目印で「変化の乗った染色体」を家系の中でたどる方法を組み合わせます。そのため、ご本人の検査結果だけでは、PGT-Mの準備はふつう整いません。指針が挙げる血縁者の検体の目安は、顕性遺伝なら患者さん少なくとも1人(できれば2人)および/または発症していない方1人、潜性遺伝なら患者さん・保因者・保因者でない方、X連鎖なら患者さんおよび/または発症していない方(保因者と確かめられた方が望ましい)です[18]。
血縁者がいない場合、指針はご夫婦の目印を調べたうえで、治療周期の受精卵や1個の精子を調べる方法を挙げていますが、施設や家系の状況によっては受けられないこともあります。新しく起きた変化(de novo)で、これまでに妊娠歴のないご夫婦では、一般的な家系をたどる方法は使えないとされています[18]。MYH9関連疾患のように新しく起きた変化が少なくない病気では、この点が大切です。海外でPGT-Mを考えている方は、ご本人の検査の段階から、検査に協力していただけるご家族(とくに同じ変化をもつ方)がいるかを考えておくことが大切です。当院では、ご家族の遺伝子検査も、遺伝カウンセリングのうえでお受けしています。
臨床遺伝専門医としての判断として、意義がまだわからない変化(VUS)は病気の原因と確かめられていないため、そのままPGT-Mの対象にするのは難しいと考えます。潜性遺伝の病気では、ご夫婦それぞれがどの変化をもっているかを確かめておく必要があります。求められる書類や検体は海外の施設ごとに違うので、受ける予定の施設にも前もって確認してください。
⚠️ PGT-Mは診断ではなく、スクリーニング検査です
受精卵のごく一部の細胞を調べる検査なので、結果が赤ちゃんの状態と食い違うことがあります。欧州ヒト生殖医学会の指針は、多くの施設で誤った結果になる割合は全体で1〜3%まで下げられているとしたうえで、PGTのあとに妊娠したすべての方に出生前診断を提案すべきとしています[19]。当院では、PGT-Mで選んだ胚で妊娠した場合も、妊娠中に赤ちゃんそのものを調べる確定検査(絨毛検査・羊水検査)で確かめることが望ましいと考えています。絨毛検査・羊水検査は院内で行っており、海外でPGT-Mを受けたあとの妊娠でもご相談いただけます。
日本では、日本産科婦人科学会の「重篤な遺伝性疾患を対象とした着床前遺伝学的検査(PGT-M)に関する指針」(2026年9月改定)にもとづき、症例ごとに学会の審査を受け、実施施設の倫理委員会の承認を経て行われます。この指針の「重篤」は、原則として、成人に達する前に日常生活が著しく損なわれる、または生存が危ぶまれる状態になる病気で、申請の時点で有効な治療法がないか、治療法があっても高度で体への負担が大きいものとされています。成人に達する前に生存が危ぶまれるわけではないものの日常生活が著しく損なわれる病気では、その病気の専門医の意見書などを追加で出す仕組みもあります。その病気が日本で対象になるかは、審査で個別に決まります。
PGT-Mの対象になる病気は、国によって違います。日本では学会が症例ごとに審査しており、2025年7月〜2026年6月の1年間に審査した73件のうち37件が審査継続中でした(2026年9月発表)。英国では公的機関(HFEA)が対象の病気の一覧を公表しており、2,000を超える病気が載っています(2026年9月17日更新の一覧で2,067)。ウィスコット・アルドリッチ症候群は、この一覧に承認済みとして載っています。一覧にない病気も、施設を通じて申請できます。米国では、PGTを直接規制する連邦や州の法律はなく、主に医師・施設の判断で行われており[20]、米国生殖医学会の倫理委員会は2024年、大人になってから発症する病気に対するPGT-Mも倫理的に許容されうるとの意見を出しています[21]。どの病気がPGT-Mの対象になるかは、国や制度、施設によって違います。同じ病気でも、ある国では対象になり、別の国では個別の審査が必要になることがあります。受ける国の制度と、施設の条件を前もって確かめてください。くわしくは海外でPGT-Mを考えている方へ(必要な遺伝子検査・家族の検体・英語の検査結果)で解説しています。
💡 結果の報告書の言語について
結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。報告書の読み方は遺伝子検査結果の見かたをご覧ください。
8. 日本の制度(2026年10月時点)
遺伝性の血小板の病気のいくつかは、小児慢性特定疾病や指定難病の対象に含まれています。2026年10月に、小児慢性特定疾病情報センターと厚生労働省の公式ページで次のことを確認しました。
- ●小児慢性特定疾病(血液疾患):血小板無力症、ベルナール・スーリエ症候群、血小板放出機構異常症、そのほかの血小板機能異常症、メイ・ヘグリン異常症(MYH9異常症とも呼ばれる)、先天性無巨核球性血小板減少症、血栓性血小板減少性紫斑病(先天性のアップショー・シュールマン症候群を含む)
- ●小児慢性特定疾病(免疫疾患):ウィスコット・オルドリッチ症候群(ウィスコット・アルドリッチ症候群)、チェディアック・東症候群
- ●指定難病:64「血栓性血小板減少性紫斑病」(先天性も含み、中等症以上が医療費助成の対象)。65「原発性免疫不全症候群」に、ウィスコット・オルドリッチ症候群とチェディアック・東症候群が含まれます。
医療費の助成を受けるには、それぞれの制度の認定の条件を満たし、申請する必要があります。認定の基準や申請の方法は、小児慢性特定疾病情報センター・難病情報センターや、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。
9. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。唾液・頬の内側の粘膜・血液のいずれでも、オンライン診療で受けていただけます。
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結果のご説明2〜3週間後・マイページへ
💴 費用・日数・検体
※当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。
オンライン診療(ビデオ通話)で遺伝カウンセリングを行ったあと、検体を当院にお送りいただきます。オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいた後にお送りします。検体の取り違えや品質の問題を防ぐため、ご自身で勝手に検体を採取しないでください。
遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。
10. 院長コラム
🩺 院長コラム【「ずっとITPだと思っていた」を終わらせるために】
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。
血小板が少ないという同じ検査結果でも、免疫の病気なのか、生まれつきの遺伝子の変化なのかで、選ぶべき治療も、気をつけることも、ご家族への意味もまったく違います。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。だからこそ、「昔からこうだから」「家族もそうだから」とあいまいなままにせず、原因を確かめてから次を考えてほしいと思っています。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。たとえば、家族歴が濃いものの、ご本人は大学を卒業して会社に勤めていた方が、念のため検査を受けたところ、染色体の微小欠失が見つかったことがあります。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。知ったうえで手術や出産に備えたい方、結婚や妊娠を考えたい方には、ご家族の検査から出生前診断まで、当院で続けて支えられる体制を整えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 血小板が少ないのは遺伝しますか?
血小板が少なくなる原因の多くは免疫の病気や薬などですが、生まれつきの遺伝子の変化による遺伝性血小板減少症もあります。遺伝する病気の場合、遺伝のしかたは常染色体顕性・常染色体潜性・X連鎖のいずれかで、原因の遺伝子によって決まります。この検査では、血小板の病気に関わる44遺伝子をまとめて調べます。
Q2. ITP(免疫性血小板減少症)と遺伝性の血小板減少症はどう違いますか?
ITPは免疫の働きで血小板が壊される病気で、遺伝性血小板減少症は生まれつきの遺伝子の変化で血小板がうまく作られない、または働かない病気です。検査値だけでは区別しにくく、遺伝性の病気がITPと診断され、効かない治療を受けていたという報告があります。治療が効かない、家族にも血小板が少ない人がいる、血小板が大きい・小さいなどの場合は、遺伝性の可能性を考えます。
Q3. グランツマン血小板無力症とは?遺伝しますか?
血小板の数も大きさも普通なのに、血小板どうしがくっつき合えないために出血しやすくなる病気です。ITGA2B・ITGB3遺伝子の変化による常染色体潜性遺伝で、ご両親がともに保因者の場合、お子さん1人ごとに発症する確率は4分の1です。2つの遺伝子は、この検査と当院の拡大版保因者スクリーニングの両方で調べられます。
Q4. 巨大血小板と言われました。この検査とベルナール・スーリエ症候群の検査のどちらを受けるべきですか?
巨大血小板を伴う病気には、ベルナール・スーリエ症候群のほか、MYH9関連疾患などがあります。この検査は、ベルナール・スーリエ症候群の原因遺伝子(GP1BA・GP1BB・GP9)とMYH9などをまとめて調べます。ベルナール・スーリエ症候群がはっきり疑われる場合は専用の検査もありますので、検査値や症状をもとに遺伝カウンセリングで選びます。
Q5. 血小板が多い病気(本態性血小板血症)も調べられますか?
本態性血小板血症では、多くの場合、JAK2・CALR・MPLなどの遺伝子に、生まれたあとに血液の細胞で起きた変化がみられます。この検査は生まれ持った遺伝子を調べる検査なので、こうした変化を調べる目的には向きません。一方、THPOやMPLの生まれ持った変化で血小板が多くなる家族性の血小板増加も報告されており、この2つの遺伝子はこの検査に含まれています。
Q6. 家族も検査を受ける必要がありますか?
受けるかどうかは、ご家族ご自身が決めることです。ご本人の原因がわかっていれば、ご家族は同じ場所を調べて、受け継いでいるかどうかを確かめられます。RUNX1などの変化では、骨髄移植でご家族をドナーにする前に、同じ変化をもっていないかを調べることが勧められています。当院では、遺伝カウンセリングのうえでご家族の検査もお受けしています。
Q7. 保因者かどうかは保因者検査でわかりますか?
この検査の44遺伝子のうち、ITGA2B・ITGB3・GP1BA・GP9・HPS1・HPS3・HPS4・HPS5・HPS6・AP3B1・BLOC1S3・BLOC1S6・DTNBP1・LYST・WAS・MPL・NBEAL2の17遺伝子は、当院の拡大版保因者スクリーニングの対象にも入っています。妊娠中の方は、NIPTと同じ日に採血できるカップルの保因者検査「ファミリーセーフティ プラス」もあります。
Q8. 海外でPGT-Mを受けたいのですが、英語の検査結果はもらえますか?
はい。英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。当院は体外受精・PGT-Mを行っていません。また、ご本人の検査結果だけでは、PGT-Mの準備はふつう整いません。ご家族の検体が必要になることが多いため、検査に協力していただけるご家族がいるかも含めて、遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q9. 費用と結果までの日数は?
検査費用は税込330,000円で、結果までは2〜3週間です(至急オプション55,000円で約7日短くなります)。遺伝カウンセリング料は30分22,000円(税込)で、検査費用とは別にかかります。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
🧬 一度の検査で、血が止まりにくい理由とこれからの備えを
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。血小板の病気の原因がわかれば、避けたい薬や手術・出産の準備、血液のがんへの見張りに加え、ご家族の検査や結婚・妊娠の計画を考える手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。
お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768
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