この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

遺伝性血栓症は、生まれつきの遺伝子の変化で「血液を固まりすぎないようにするしくみ」が弱く、血栓(血のかたまり)ができやすい体質です。このページの検査では、プロテインS欠乏症・プロテインC欠乏症・アンチトロンビン欠乏症の原因遺伝子を含む18の遺伝子を、一度に調べます。生まれ持った遺伝子は一生変わりません。一度の検査でわかったことは、ピルを飲むか、妊娠・出産や手術にどう備えるか、ご家族が自分の体質を知るかどうかを考えるときに、この先ずっと使える情報になります。病気のしくみ、日本人に多いタイプ、検査でわかること・わからないことを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. この検査で何がわかりますか?
血栓ができやすい体質(遺伝性血栓症)の原因が遺伝子にあるかを調べます。プロテインS(PROS1)・プロテインC(PROC)・アンチトロンビン(SERPINC1)を含む18遺伝子をまとめて調べます。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
若いうちに、またははっきりしたきっかけなく血栓ができた方、血栓をくり返す方、ご家族にプロテインS・C・アンチトロンビン欠乏症の方がいる方などです。健康な方がピルを始める前に、一律に受ける検査ではありません。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込330,000円で、遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・口の内側の粘膜で、オンライン診療でも受けられます。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。原因が見つかれば、お子さんが受け継ぐ確率は多くの場合1人あたり2分の1で、ご家族が自分の体質を知る手がかりになります。意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。
1. 遺伝性血栓症(血栓ができやすい体質)とは
遺伝性血栓症とは、生まれつきの遺伝子の変化によって、血液を固まりすぎないようにするしくみが弱く、若いうちから血栓ができやすい体質のことです。主な原因は、プロテインC・プロテインS・アンチトロンビンという3つのたんぱく質が、生まれつき少ない(または働きが弱い)ことです。日本では指定難病327「特発性血栓症(遺伝性血栓性素因によるものに限る。)」として扱われています。
血液を固まりすぎないようにする3つのしくみ
血液には、ケガをしたときに血を固めて止める働きと、必要のないところで血が固まらないように抑える働きの両方があります。抑える側の中心が、プロテインC・プロテインS・アンチトロンビンです。プロテインSはプロテインCの働きを助け、アンチトロンビンは血を固める酵素(トロンビンなど)を直接止めます。アンチトロンビンは、セルピンと呼ばれるたんぱく質の仲間です。
どれか1つが生まれつき少ないと、抑える力が弱くなり、天秤が「固まる」側に傾きます。すると、脚の深いところの静脈に血栓ができる深部静脈血栓症や、その血栓が肺に流れて血管をふさぐ肺血栓塞栓症が起こりやすくなります。
指定難病327と患者数
難病情報センターによると、指定難病327の原因は、プロテインC・プロテインS・アンチトロンビンの遺伝子の変化によって、これらが生まれつき欠乏することと考えられています。患者数は全国で2,000人程度と推定されています(2026年10月時点で確認)。遺伝のしかたは常染色体顕性(優性)遺伝です。ただし、遺伝子の変化があって実際に発症する割合(浸透率)は、まだわかっていないとされています。
日本人と欧米人の違い:プロテインS欠乏症が多く、第V因子ライデン変異はみられない
日本人では、プロテインS欠乏症が3つの中で目立って多いことがわかっています。日本人の一般集団での欠乏症の頻度は、プロテインSが1.12%、プロテインCが0.13%、アンチトロンビンが0.15%と推定されています[1]。
日本人のプロテインS欠乏症では、K196E(プロテインS徳島)というミスセンス変異がよく知られています。日本人のアレル頻度は0.86%で、約58人に1人が片方の遺伝子にこの変化をもつとされています。日本人を対象にした3つの研究では、静脈血栓症のオッズ比は3.74〜8.56で、論文はリスクを「比較的軽い」と表現しています[2]。ある集団に特定の変化が多く残るしくみは、創始者効果で説明されることがあります。
一方、欧米で最も多い遺伝的な血栓のなりやすさである第V因子ライデン変異(F5遺伝子の変化)は、東アジアの集団ではみられないとされています[2]。インターネットで見つかる海外の情報は、第V因子ライデン変異を前提にしていることが多く、日本人にはそのまま当てはまりません。日本人では、プロテインS・C・アンチトロンビンの遺伝子を中心に調べることに意味があります。
主な症状
小児慢性特定疾病情報センターの解説によると、学童期から思春期以降は、大人と同じように脚の深部静脈血栓症(むくみ・痛み・赤紫色の腫れ)や肺血栓塞栓症(胸の痛み・息苦しさ)が起こります。脳の静脈や腸の静脈など、ふつうは血栓ができにくい場所に起こることもあります。
両親から1つずつ変化を受け継いだ重い型では、生まれてすぐの赤ちゃんに、脳梗塞や出血、手足の先の皮膚が急に紫色になって壊死する電撃性紫斑病が起こることがあります。重いプロテインC欠乏症は、生まれて数時間のうちに症状が出ることが多いとされています[3]。
2. プロテインS欠乏症・プロテインC欠乏症・アンチトロンビン欠乏症の違い
3つとも常染色体顕性遺伝で、片方の遺伝子の変化だけで血栓ができやすくなります。違いは、日本人での多さと、重い型があるかどうかです。この検査は、3つの原因遺伝子をすべて含んでいます。
🩸 3つの欠乏症の比較
※頻度は文献[1]、K196Eは文献[2]、プロテインCの重い型は文献[3]、妊娠中の予防は文献[4]による。遺伝のしかたはOMIMの登録による。
「1.12%」と「約58人に1人」は、数え方が違います。K196Eをもつ方のプロテインSの働き(活性値)は40〜110%と幅があり、もっていない方より平均で16%低いと報告されています[2]。つまり、K196Eをもっていても、血液検査で「欠乏」と判定されない方がいます。血液検査の値だけでは体質を決めきれないことがあり、ここが遺伝子検査の出番です。
プロテインC欠乏症について、海外の報告では、片方だけ変化をもつ方は健康な人の200〜500人に1人で、大人では血栓のリスクが一般の約10倍とされています。両親から受け継ぐ重い型は、新生児の50万〜75万人に1人と推定され、治療の第一選択はプロテインC製剤です[3]。
3. どんな人がこの検査を受けるとよいか
血栓ができたことがあり原因を知りたい方と、ご家族にプロテインS・C・アンチトロンビン欠乏症の方がいる方に向く検査です。名前がつくと、ピルやホルモン療法を使うか、妊娠・出産や手術にどう備えるかといった、次の一手が決めやすくなります。
この検査を考えるとよい場面
- ●若いうちに、またははっきりしたきっかけがないのに、深部静脈血栓症や肺血栓塞栓症になった
- ●血栓をくり返している
- ●脳の静脈や腸の静脈など、ふつうはできにくい場所に血栓ができた
- ●血液検査で、プロテインS・プロテインC・アンチトロンビンの値(活性)が低いと言われた
- ●ご家族がプロテインS・C・アンチトロンビン欠乏症と診断されている(とくに、ピル・ホルモン療法や妊娠・出産を考えている女性)
血液検査(活性値)と遺伝子検査の違い
プロテインS欠乏症などは、まず血液検査で「働き(活性値)」を測って疑います。ただ、血液検査の値は年齢や体の状態で変わるため、それだけで生まれつきの体質かを決めきれないことがあります。
難病情報センターによると、生まれてすぐの赤ちゃんは、肝臓でこれらのたんぱく質を十分に作れず、活性値が大人の約40%まで下がるため、血液検査では遺伝性かどうかを判断しにくいとされています。一方で、遺伝子検査は年齢に関係なく、いつでもできるとされています。前の章で見たように、K196Eをもつ方の活性値にも幅があります[2]。遺伝子の変化を確かめると、血液検査の値が揺れても変わらない「体質の根拠」が得られます。
この検査より別の検査が向いている場合
🔍 症状に合わせた検査の選び方
※どの検査が合うかは、症状・血液検査の結果・ご家族の情報で変わります。遺伝カウンセリングでご説明します。
検査を勧めすぎない考え方
遺伝性血栓症の検査は、誰にでも勧める検査ではありません。米国血液学会(ASH)の2023年のガイドラインは、健康な一般の方がピル(エストロゲンとプロゲスチンを含む経口避妊薬)を始める前に、一律に血栓性素因を調べることを強く勧めないとしています。ご家族に静脈血栓症の方がいても、原因の体質がわかっていない場合は、調べないことを提案しています[4]。
一方で、ご家族の原因がプロテインC・プロテインS・アンチトロンビンの欠乏症とわかっている場合は、ご本人も調べて、その結果で予防の方針を決めることを提案しています[4]。ご家族の原因が第V因子ライデン変異やプロトロンビン遺伝子の変化の場合は、調べないことを提案する項目が多くなっています。ただし、これらの推奨の多くは、根拠の確かさが「非常に低い」とされています[4]。
臨床遺伝専門医としては、「わかったら何をするか」が決まっている方ほど、この検査を受ける意味が大きいと考えています。受けるべきかどうか迷う方には、遺伝カウンセリングで、ご家族の状況と、結果をどう使うかを一緒に確かめてから決めていただきます。
4. ピル・ホルモン療法・妊娠・手術の前に知っておくこと
遺伝性血栓症は、ふだんは何も起こらなくても、女性ホルモン剤・妊娠と出産・手術・長く動けない状態などが重なったときに血栓ができやすくなります。難病情報センターも、妊娠・出産や経口避妊薬などの女性ホルモン剤がきっかけで発症することがある、としています。前もって体質がわかっていれば、その場面の前に主治医と備えを相談できます。
ピル(経口避妊薬)・ホルモン補充療法
米国の避妊法の使用基準(2024年版)は、血栓性素因のある方では、エストロゲンを含むピル・パッチ・リング(複合ホルモン避妊法)を「使うべきでない」区分(カテゴリー4)にしています。一方、銅付き子宮内避妊具はカテゴリー1、黄体ホルモンだけのピル・インプラント・黄体ホルモンを出す子宮内システムはカテゴリー2で、扱いが違います。同じ基準も、避妊を始める前に一般の方を一律に調べることは勧めていません[5]。
ASHのガイドラインは、静脈血栓塞栓症の家族歴があり、ご家族にプロテインC・S・アンチトロンビン欠乏症がわかっている女性について、検査をして欠乏があればピルとホルモン補充療法を避けることを提案しています[4]。ピルや更年期のホルモン療法を考えている方は、検査結果とご家族の病歴を、処方する医師に必ず伝えてください。
妊娠・出産
難病情報センターは、遺伝性血栓性素因は不妊症の原因ではなく、妊娠は可能だとしています。ただし、妊娠中や出産のあとは血栓ができやすく、予防のための抗凝固薬(血を固まりにくくする薬)が必要になることがあるとされています。
ASHのガイドラインは、静脈血栓塞栓症の家族歴があり、ご家族にプロテインC・S・アンチトロンビン欠乏症がわかっている女性について、次のように提案しています。以下の産後の推奨は、親・きょうだい・子に静脈血栓塞栓症の既往がある場合を対象としています[4]。
- ●出産のあと:プロテインC・S・アンチトロンビン欠乏症の家系では、ご本人も調べて、陽性なら予防する
- ●妊娠中:アンチトロンビン欠乏症の家系では、調べて陽性なら妊娠中から予防する。プロテインC・S欠乏症の家系では、調べても調べなくてもよい
当院は分娩を行っていません。妊娠中・出産のあとの予防の方法は、検査結果をもとに、かかりつけの産科・主治医とご相談ください。流産をくり返す方の検査については、欧州ヒト生殖医学会(ESHRE)の不育症ガイドライン(2022年版)が、研究として行う場合や、血栓症の既往・遺伝性血栓性素因の家族歴などの追加のリスク因子がある場合を除き、遺伝性血栓性素因を調べないことを提案しています(2026年10月時点で確認)。不育症の検査は、不育症の診療をしている医師とご相談ください。
手術・ケガ・長く動けないとき
ASHのガイドラインは、静脈血栓塞栓症の家族歴があり、ご家族にプロテインC・S・アンチトロンビン欠乏症がわかっている方について、ご本人も調べて、陽性なら、ケガ・病気・長く動けない状態など一時的に血栓ができやすい時期に予防することを提案しています[4]。手術や入院、長時間の移動の予定があるときは、体質を主治医に伝えて、予防が必要かを相談してください。
治療は主治医と
血栓ができたときの治療や、再発を防ぐための抗凝固療法は、血液内科や循環器内科などの主治医が行います。小児慢性特定疾病情報センターの解説によると、日本ではアンチトロンビン欠乏症にアンチトロンビン製剤、プロテインC欠乏症に活性化プロテインC製剤が使えます。遺伝子検査の結果は、こうした治療を選ぶときの手がかりの1つになります。
5. 調べる18遺伝子と、それぞれでわかる病気
この検査で調べるのは、F11・F13A1・F13B・F2・F5・F9・FGG・HRG・MPL・MTHFR・PLAT・PROC・PROS1・SERPINC1・SERPIND1・SERPINE1・THBD・VWFの18遺伝子です。血栓のなりやすさに強く関わる遺伝子のほかに、変化の種類によっては出血の病気の原因になる遺伝子も含まれています。
🧬 調べる18遺伝子と関係する病気
※遺伝子と病名・遺伝のしかたは、OMIM(ヒトの遺伝性疾患のデータベース)の登録による(2026年10月確認)。「出血」と書いたものは、血栓ではなく出血しやすくなる病気。
血栓に強く関わる3遺伝子(SERPINC1・PROC・PROS1)
指定難病327の原因となる、アンチトロンビン・プロテインC・プロテインSの遺伝子です。日本人の遺伝性血栓症を考えるときの中心で、このパネルを受ける大きな理由になります。日本人に多いプロテインSのK196Eも、PROS1の変化として調べます。
凝固因子の遺伝子は、出血の病気にも関わる
F2・F5・F9・F11・F13A1・F13B・FGG・VWFは、血を固める側の「凝固因子」を作る遺伝子です。変化の種類によって、血栓ができやすくなるものと、反対に血が止まりにくくなるものがあります。たとえばF9の変化の多くは血友病B(出血の病気)の原因になり、VWFはフォン・ヴィレブランド病の原因遺伝子です。出血の症状が気になる方は、出血・血栓・血小板をまとめて調べる包括パネルのほうが向いています。
そのほかの遺伝子
HRG・SERPIND1・THBDは、OMIMで血栓性素因との関係が登録されている遺伝子です。SERPINE1は、血栓を溶かすしくみ(線溶)を抑えるPAI-1を作る遺伝子で、その欠乏症は出血しやすい病気です。MPLは血小板を作るしくみに関わる遺伝子です。PLATはOMIMに病名の登録がなく、病気との関係を研究中の遺伝子として調べます。
MTHFRのよくある多型(C677T・A1298C)を報告しない理由
MTHFR遺伝子の2つのよくある多型、c.665C>T(別名c.677C>T、p.Ala222Val)とc.1286A>C(別名c.1298A>C、p.Glu429Ala)は、この検査では報告しません。米国臨床遺伝・ゲノム学会(ACMG)の指針は、MTHFRの多型の検査を、血栓性素因のふつうの検査に入れるべきでないとしています。多型と静脈血栓症との関係が、メタ解析で支持されなかったためです[6]。多型についてはMTHFR遺伝子のページで解説しています。
6. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、18遺伝子のたんぱく質を作る部分(エクソン)とその境目にある、小さな変化(1文字の置き換えや、小さな挿入・欠失)です。次世代シークエンサーで読み、対象の領域の99%以上を、同じ場所を20回以上読む深さで調べます。読みにくい部分は、別の方法(サンガー法)で読み直して補います。
見つけにくい・調べていない変化
- ●大きな欠失・重複:遺伝子まるごとや、続いた2つ以上のエクソンの欠失・重複は調べられます(2つ以上のエクソンは血液の検体の場合)。1つのエクソンだけの欠失・重複は、いつも見つけられるわけではありません。見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します。
- ●調べていない種類の変化:染色体の転座や逆位、繰り返し配列が長くなる変化、遺伝子の働きを調節する領域(プロモーター)の多く、エクソンから20塩基以上離れた深部イントロン変異は調べていません。
- ●モザイク:体の一部の細胞にだけ変化があるモザイクを見つける目的では作られていません。がんの組織の検査にも使えません。
- ●似た配列:よく似た配列(偽遺伝子など)があると、変化を正しく読み分けにくいことがあります。
- ●18遺伝子以外:このパネルに入っていない遺伝子は調べていません。
陰性でも、体質を否定できるわけではありません
原因となる変化が見つからなくても、上のように調べていない変化や、18遺伝子以外の原因が残る可能性があります。血栓ができやすいかどうかは、血液検査の値と、これまでの血栓の起こり方もあわせて判断します。
意義がまだわからない変化(VUS)が見つかることがあります
病気の原因かどうか、今の知識ではまだ判断できない変化をVUS(意義がまだわからない変化)といいます。VUSは、それだけで診断やご家族の発症予測には使いません。ただし、変化の意味を調べるために、ご家族で同じ変化があるかを確かめる検査を行うことがあります。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。VUSを報告から外すオプション(無料)もあります。
7. 結果が出たあと
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。原因が見つかったときは、ご本人の備えだけでなく、ご家族が自分の体質を知る手がかりにもなります。
原因が見つかったとき:ご本人の備え
遺伝性血栓症と確定すると、ピル・ホルモン療法を避けるか、妊娠・出産や手術のときに予防をするかといった判断の根拠になります(第4章)。主治医に検査結果を伝えておくと、血栓ができやすい場面の前に、予防を前もって相談できます。原因が確定していることは、指定難病などの制度を使うときの手がかりにもなります(第8章)。結果の報告書の読み方は遺伝子検査結果の見かたで解説しています。
あなたの結果は、ご家族の手がかりになる
プロテインS・C・アンチトロンビン欠乏症の多くは常染色体顕性遺伝なので、ご本人が片方の遺伝子に原因の変化をもつ場合、お子さん1人あたり2分の1の確率でその変化を受け継ぎます。きょうだいも、ご両親のどちらかが片方の遺伝子に同じ変化をもつ場合、1人あたり2分の1の確率で受け継ぎます。ご両親が同じ変化をもつかどうかは、検査で確かめます。ご家族の中で原因の変化がわかっていれば、ほかのご家族はその1か所を調べることで、受け継いでいるかどうかを確かめられます。
ASHのガイドラインは、ご家族にプロテインC・S・アンチトロンビン欠乏症がわかっている場合、1親等の血縁者(親・きょうだい・子)は調べて、陽性なら一時的に血栓ができやすい時期に予防することを提案しています[4]。難病情報センターも、アンチトロンビン欠乏症で血栓症になった方がいる家系では、ご家族を積極的に調べることを勧めています。
症状のないご家族の検査は、将来の体質を前もって知る発症前の検査(予測的検査)になります。当院は、ライフステージごとに患者さんの人生をサポートするという考え方で診療しており、知りたいと願う方を拒むことはしません。遺伝カウンセリングで十分に考えたうえで、ご本人が知りたいと決めた場合は、その意思を尊重して検査まで行います。知らないでいる選択も、同じように尊重します。結果を知ったあとの気持ちの変化は、陽性でも陰性でも起こりえます。当院では、結果をお伝えしたあとも、遺伝カウンセリングで相談を続けていただけます。
お子さんについては、難病情報センターが、遺伝子検査は年齢に関係なくできるとしています。一方、日本医学会のガイドライン(2022年改定)は、成年期以降に発症する病気の未成年者への発症前の検査を、原則として本人が成人して自分で判断できるまで延期すべきとしています。お子さんを調べるか、いつ調べるかは、こうした考え方を踏まえて、遺伝カウンセリングでご相談ください。
原因が見つからなかったとき・VUSだったとき
原因が見つからなかった場合も、遺伝性の体質がないとは言い切れません(第6章)。血栓の起こり方や血液検査の結果をもとに、主治医と予防の方針を考えます。出血の症状もあるなど、ほかの病気が考えられるときは、包括パネルなどの検査を考えます。VUSだった場合は、それだけで診断や予防の方針を決めず、のちの再評価を待ちます。結果の伝え方については、当院の二次的所見の開示方針もあわせてご覧ください。
妊娠を考えている方:重い型と、保因者検査で調べられないこと
プロテインC欠乏症やプロテインS欠乏症には、両親から1つずつ変化を受け継ぐ複合ヘテロ接合やホモ接合の型があり、生まれてすぐに電撃性紫斑病などの重い症状が出ることがあります[3]。ご夫婦のどちらかに欠乏症がある場合は、パートナーの体質も知っておくと、妊娠の計画が立てやすくなります。
当院の拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子)には、F11・F2・F5・F9・MPL・MTHFRは入っていますが、PROC・PROS1・SERPINC1は入っていません。プロテインC・S・アンチトロンビンの遺伝子をパートナーと一緒に調べたい場合は、保因者検査ではなく、このパネルを受けていただく必要があります。妊娠中の方には、NIPTと同じ日に採血できるカップルの保因者検査「ファミリーセーフティ プラス」もあります(単独では受けられません)。
ご家族で原因の遺伝子の変化がわかっていれば、妊娠したときに赤ちゃんで同じ変化があるかを調べられます。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。出生前診断を行えるかは、病気の重さや国内の指針を踏まえて個別に判断しますので、妊娠を考えている段階からご相談ください。当院では羊水検査・絨毛検査を院内で行っています(2025年6月から産婦人科を併設)。
結果の報告書
結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。
8. 日本の制度(2026年10月時点)
遺伝性のプロテインC・プロテインS・アンチトロンビン欠乏症による血栓症は、指定難病327「特発性血栓症(遺伝性血栓性素因によるものに限る。)」の対象です。また、小児慢性特定疾病情報センターの対象疾病(血液疾患)には、先天性プロテインC欠乏症と先天性プロテインS欠乏症が掲載されています(2026年10月時点で確認)。
医療費の助成を受けるには、それぞれの制度の認定の条件を満たし、申請する必要があります。認定の基準や申請の方法は、難病情報センター・小児慢性特定疾病情報センターや、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。
9. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
18遺伝子を一度に調べ、結果までは2〜3週間です。唾液・口の内側の粘膜・血液のどれでも検査でき、オンライン診療でも受けられます。
ご予約
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遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
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検体の採取お支払い後にキット発送
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結果のご説明2〜3週間後・マイページへ
💴 費用・日数・検体
※当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。
オンライン診療(ビデオ通話)で遺伝カウンセリングを行ったあと、検体を当院にお送りいただきます。検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいたあとにお送りします。ご自身で勝手に検体を採取しないでください。決められたキットと手順で採らないと、検体の取り違えや、検査に使えない品質になるおそれがあるためです。
遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。
10. 院長コラム
🩺 院長コラム【「知って備える」と「勧めすぎない」は両立する】
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。
遺伝性血栓症は、ふだんは何も起こらず、ピルや妊娠・出産、手術といった「きっかけ」が重なったときに、はじめて姿を現すことがある体質です。だからこそ、きっかけの前に知っておくことには意味があると考えています。体質がわかっていれば、ピルを選ぶか、出産のあとに予防をするかを、主治医と前もって決められます。
一方で、海外のガイドラインが、健康な方がピルを始める前に一律に調べることを勧めていないのにも、理由があります。調べた結果で何をするかが決まっていなければ、結果はかえって迷いを増やすからです。私は、「わかったら何をするか」をはっきりさせたうえで受ける検査こそ、人生に一度の検査として価値があると考えています。日本人ではプロテインS欠乏症が多く、海外の情報がそのまま当てはまらないことも、知っておいてほしいことの1つです。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. プロテインS欠乏症は何人に1人ですか?
日本人の一般集団では、プロテインS欠乏症の頻度は1.12%と推定されています。プロテインC欠乏症(0.13%)やアンチトロンビン欠乏症(0.15%)より多いのが日本人の特徴です。また、日本人に多いプロテインSのK196Eという変化は、約58人に1人が片方の遺伝子にもつとされています。K196Eをもっていても、血液検査の値が正常範囲に入る方もいます。
Q2. 遺伝性血栓症は指定難病ですか?
はい。プロテインC・プロテインS・アンチトロンビンの遺伝子の変化による血栓症は、指定難病327「特発性血栓症(遺伝性血栓性素因によるものに限る。)」の対象で、患者数は全国で2,000人程度と推定されています。先天性プロテインC欠乏症と先天性プロテインS欠乏症は、小児慢性特定疾病の対象疾病にも掲載されています(2026年10月時点)。医療費の助成を受けるには、認定の条件を満たして申請する必要があります。
Q3. プロテインS欠乏症は血液検査で調べられますか?
血液検査でプロテインSの働き(活性値)を測って疑うことはできます。ただし、活性値は年齢や体の状態で変わり、生まれてすぐの赤ちゃんでは大人の約40%まで下がるため、血液検査だけでは生まれつきの体質かを判断しにくいことがあります。遺伝子検査は年齢に関係なくでき、原因の遺伝子の変化を確かめられます。
Q4. 子どもに遺伝する確率はどれくらいですか?
プロテインS・C・アンチトロンビン欠乏症の多くは常染色体顕性遺伝で、親が片方の遺伝子に変化をもつ場合、お子さん1人あたり2分の1の確率で受け継ぎます。両親がともに変化をもつと、両方を受け継いだお子さんで、生まれてすぐに電撃性紫斑病などの重い症状が出ることがあります。ただし、変化を受け継いでも実際に血栓が起こるかどうかは人によって違います。
Q5. 妊娠中に気をつけることはありますか?
遺伝性血栓性素因は不妊症の原因ではなく、妊娠は可能です。ただし、妊娠中や出産のあとは血栓ができやすく、予防のための抗凝固薬が必要になることがあります。米国血液学会のガイドラインは、親・きょうだい・子に静脈血栓塞栓症の既往があり、ご家族にプロテインC・S・アンチトロンビン欠乏症がわかっている女性では、出産のあとの予防を考えるために、ご家族でわかっている欠乏症を調べることを提案しています。当院は分娩を行っていないため、予防の方法はかかりつけの産科・主治医とご相談ください。
Q6. 遺伝性血栓症でもピル(低用量ピル)は飲めますか?
米国の避妊法の使用基準(2024年版)は、血栓性素因のある方では、エストロゲンを含むピルを「使うべきでない」区分(カテゴリー4)にしています。黄体ホルモンだけの方法や銅付き子宮内避妊具は、扱いが違います。一方、健康な一般の方がピルを始める前に一律に検査することは勧められていません。体質がわかっている方は、処方する医師に必ず伝えてください。
Q7. 家族も検査を受けたほうがいいですか?
米国血液学会のガイドラインは、ご家族にプロテインC・S・アンチトロンビン欠乏症がわかっている場合、親・きょうだい・子は調べて、陽性なら一時的に血栓ができやすい時期に予防することを提案しています。ご家族の原因の変化がわかっていれば、その1か所を調べて確かめられます。症状のない方の検査になるため、検査の前に遺伝カウンセリングで、知ることの意味をよく考えていただきます。お子さんの検査の時期もご相談ください。
Q8. MTHFRの多型(C677T・A1298C)が報告されないのはなぜですか?
米国臨床遺伝・ゲノム学会(ACMG)の指針が、MTHFRのよくある多型の検査を、血栓性素因のふつうの検査に入れるべきでないとしているためです。多型と静脈血栓症との関係は、メタ解析で支持されませんでした。この検査では、c.665C>T(c.677C>T)とc.1286A>C(c.1298A>C)は報告しません。
🧬 一度の検査で、ご自身とご家族の「これから」に備える
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。血栓ができやすい体質の原因がわかれば、ピルやホルモン療法の選び方、妊娠・出産や手術への備えを主治医と前もって決められるだけでなく、ご家族が自分の体質を知る手がかりにもなります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。
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参考文献
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