この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

ベルナール・スーリエ症候群(ベルナールスーリエ症候群・Bernard-Soulier syndrome)は、血小板が大きくなり(巨大血小板)、数が減り、血が止まりにくくなる生まれつきの病気です。血小板の数が少ないことから、免疫性血小板減少症(ITP)と診断され、効かない治療を受けてしまった方がいることが、複数の研究で報告されています[3][4]。原因の遺伝子がわかれば、診断までの回り道を終わらせ、手術・抜歯・出産の前にどう備えるかを決める手がかりになります。このページでは、巨大血小板ができるしくみ、ITPとの見分け方、遺伝のしかたと、GP1BA・GP1BB・GP9の3つの遺伝子を調べる検査でわかることを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. この検査で何がわかりますか?
ベルナール・スーリエ症候群の原因になるGP1BA・GP1BB・GP9の3つの遺伝子に、病気の原因となる変化があるかを一度に調べます。巨大血小板と血小板の減少が、この病気によるものかを確かめる手がかりになります。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
血液検査で大きな血小板と血小板の減少を指摘された方、ITPと診断されたが治療が効かなかった方、ご家族にこの病気の方がいる方、手術や出産の前に原因をはっきりさせたい方です。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の粘膜などで、オンライン診療でも受けられます。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。多くは常染色体潜性(劣性)遺伝で、ご両親がともに保因者なら、きょうだいがこの病気になる確率は4分の1です。意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。
1. ベルナール・スーリエ症候群とは:巨大血小板と出血しやすさの原因
ベルナール・スーリエ症候群は、血小板の表面にある「GPIb-IX-V複合体」というたんぱく質がうまく作られないために、血小板が大きくなって数が減り、血小板が傷口にくっつきにくくなる生まれつきの病気です[1]。表記は「ベルナール・スーリエ」「ベルナールスーリエ」「ベルナール・スリエ」などがあり、英語の頭文字をとってBSSとも呼ばれます。
小児慢性特定疾病情報センターは、この病気を、生まれつき出血しやすく、巨大血小板を伴う血小板減少と血小板の凝集の異常を特徴とする「血小板機能異常症」のひとつと説明しています。
血小板が大きくなり、数が減るのはなぜ?
血小板が大きくなり数が減るのは、血小板の表面にあるGPIb-IX-V複合体(小児慢性特定疾病情報センターの表記ではGPIb/IX複合体)が欠けていることによります。小児慢性特定疾病情報センターは、この欠損による巨大血小板を伴う血小板減少を、この病気の特徴としています。GPIb-IX-V複合体は、血管が傷ついたところで、フォン・ヴィレブランド因子(VWF)というたんぱく質を足がかりに血小板をくっつける「受け手」です[2]。この複合体は複数の部品からできていて、その部品を作る遺伝子が別々の染色体にあります(GPIbαは17番、GPIbβは22番、GPIXは3番)[1]。
部品のどれか1つの遺伝子に原因となる変化があると、多くの場合、複合体全体が血小板の表面に出てこなくなります[2]。その結果、血小板が傷口にくっつく最初の段階がうまく働かず、血が止まりにくくなります。
主な症状と、出血が起きやすい場面
小児慢性特定疾病情報センターによると、幼いころから点状出血(皮膚の小さな赤い点)、紫斑(あざ)、鼻血、歯ぐきからの出血がみられます。解説論文では、次のような場面で重い出血が起こりうるとされています[1]。
- ●抜歯のとき
- ●月経(月経の量が多い・長引く)
- ●けが(外傷)や手術のとき
- ●出産のとき(妊娠についての系統的レビュー[7]。第7章で詳しく説明します)
出血の重さは人によって違います。イタリアの13人の患者さんを調べた研究では、出血の程度が血小板の数から予想されるより重く、約半数の方が重い出血(WHOの出血の重さの分類で3〜4度)を経験していました[3]。一方で、よく説明を受け、適切な手当てを受け、けがを避ける工夫をすれば、ほぼふつうの生活を送ることができるとされています[1]。
血液検査でわかる特徴:血小板数・血小板の大きさ・リストセチン凝集
血液検査では、①血小板の数が少ない、②血小板がとても大きい、③リストセチンという薬を加えたときの血小板の凝集が欠如・低下している、の3つがそろうのが典型的な潜性の型です[1]。
🩸 ベルナール・スーリエ症候群の血液検査の特徴
※数値は文献[1][5][6]による。検査の方法や機械によって値は変わります。
💡 用語解説:巨大血小板
ふつうより大きな血小板のことです。機械で測る「平均血小板容積(MPV)」と、顕微鏡で血液の標本を見た大きさの両方で確かめます。イタリアの多施設研究は、生まれつきの血小板減少症とITPを見分けるには、適切な機械で測ったMPVと、顕微鏡での確認を組み合わせることを勧めています[5]。
どれくらいまれな病気か
小児慢性特定疾病情報センターは、日本では最近の疫学調査がなく正確な頻度は不明としたうえで、100万人に1人程度の発症とされる非常にまれな病気と説明しています。解説論文も有病率を100万人に1人未満と推定していますが、誤診や報告漏れがあるため、実際はもっと多い可能性があるとしています[1]。
2. ITP(免疫性血小板減少症)と間違われやすい理由と、遺伝子検査で見分ける意味
ベルナール・スーリエ症候群は、血小板の数が少ないことから、ITPと診断されやすい病気です。間違われると、ステロイドや脾臓(ひぞう)をとる手術など、この病気には効かない治療を受けてしまうことがあります[1]。遺伝子検査で原因が見つかれば、診断までの回り道を終わらせる手がかりになります。
なぜITPと間違われるのか
ITPは、自分の免疫が血小板を壊してしまう病気です。どちらも「血小板が少ない」「あざができやすい」という点で似ています。
見分けにくい理由のひとつは、検査の機械にあります。イタリアの多施設研究は、とても大きな血小板は機械で血小板として数えられないことがあり、その結果、血小板の数が実際より少なく出たり、大きさの手がかり(MPV)が正しく出なかったりすることを報告しています[5]。顕微鏡で血液の標本を見て大きさを確かめないと、大きな血小板があることに気づきにくいのです。
間違われると起きること
ITPと誤って診断された方の経過は、複数の研究で報告されています。
- ●ベルナール・スーリエ症候群は、これまでたびたびITPと誤診され、ステロイドや脾臓をとる手術を受けても効果がなかったと報告されています[1]。
- ●イタリアの13人の患者さんのうち4人は、はじめ自己免疫性の血小板減少症と診断され、効果のない治療を受けていました[3]。
- ●GP1BA遺伝子の片方だけの変化(ボルツァーノ変異)による軽い型の103人を調べた研究では、13人が以前にITPと診断されており、そのうち5人はステロイド・免疫グロブリン(点滴)・脾臓をとる手術のいずれかを受けていました[4]。
ITPと言われて治療を受けているのに効かない、ご家族にも血小板が少ない人がいる、血液の標本で大きな血小板を指摘された、という場合は、生まれつきの病気の可能性を考える理由になります。ただし、ITPかどうか、ほかの病気かどうかの判断は、血液内科の主治医が検査結果を総合して行います。遺伝子検査は、その判断を支える材料のひとつです。
ほかの巨大血小板の病気との見分け方
大きな血小板と血小板の減少を起こす生まれつきの病気は、ベルナール・スーリエ症候群のほかにもあり、見た目の検査だけで区別するのは難しいことがあります。主なものは次のとおりです。
- ●MYH9関連疾患:MYH9という別の遺伝子の変化で起こる、大きな血小板を伴う血小板減少症です。このページの検査の対象には入っていません。
- ●血小板型フォン・ヴィレブランド病:同じGP1BA遺伝子の変化で起こる、常染色体顕性(優性)遺伝の病気です(OMIM 177820)。この検査で調べるGP1BAに含まれます。名前は似ていますが、VWFというたんぱく質そのものの病気であるフォン・ヴィレブランド病とは別の病気です。
- ●凝固因子の病気:血友病やフォン・ヴィレブランド病など、血小板ではなく血を固めるたんぱく質の病気が疑われる場合は、血友病・フォン・ヴィレブランド病の遺伝子検査が向いています。
MYH9関連疾患なども含めて、血小板の病気をまとめて調べたい場合は、血小板障害パネル(44遺伝子)を選べます(第4章の選び方の表もご覧ください)。
3. 遺伝のしかたと原因遺伝子(GP1BA・GP1BB・GP9)
ベルナール・スーリエ症候群の多くは常染色体潜性(劣性)遺伝で、GP1BA・GP1BB・GP9のどれか1つの遺伝子で、2本ある遺伝子の両方に原因となる変化があると発症します[1]。まれに、GP1BAまたはGP1BBの片方だけの変化で症状が出る型(常染色体顕性〔優性〕遺伝)もあります(米国国立医学図書館 MedlinePlus Genetics の解説。GP1BAの例は文献[4])。
国際的な研究グループが211家系の遺伝子の情報をまとめた研究では、112種類の変化が見つかり、発端者(家系で最初に診断された方)の85%は、両方の遺伝子に同じ変化をもつ「ホモ接合」でした。地域によっては、共通の祖先から受け継がれた変化(創始者効果)が集まっていることも示されています[2]。
常染色体潜性(劣性)遺伝:ご両親が保因者のとき
常染色体潜性(劣性)遺伝では、対になった2本の遺伝子のうち1本だけに変化がある人を「保因者」といいます。ご両親がともに同じ遺伝子の保因者の場合、お子さん1人ごとの確率は次のとおりです。2本に別々の変化をもつ場合(複合ヘテロ接合)も、同じように発症します。
👪 ご両親がともに保因者のとき(お子さん1人ごと)
※性別には関係しません。上のお子さんの結果で、下のお子さんの確率が変わることはありません。
片方の変化だけで症状が出る型と、保因者の血小板
GP1BAの片方だけの変化で症状が出る型は、OMIMでは「ベルナール・スーリエ症候群A2型(顕性)」(OMIM 153670)として登録されています。イタリアの42家系103人を調べた研究では、GP1BAのボルツァーノ変異を片方だけもつ方の血小板の数は平均で1μLあたり約8.1万個と軽い減少で、血小板の直径は健康な人より50%大きくなっていました。41.7%の方がくり返す出血を経験していた一方、58.2%の方は出血の経験がありませんでした。この研究は、この型をイタリアで最も多い生まれつきの血小板減少症の原因としています[4]。
潜性の型の保因者(片方だけ変化をもつヘテロ接合の方)については、研究によって結果が違います。
- ●患者さん14人・保因者30人・健康な人29人を比べた研究では、保因者は健康な人より血小板の数が少なく、MPVが大きく(平均9.7fL)、軽い出血の傾向がありました[6]。
- ●イタリアの研究では、保因者7人に出血の傾向はなく、多くは血小板の数も正常でした[3]。
つまり、保因者でも血小板が少し少ない・少し大きいことがありますが、血液検査だけで保因者かどうかを決めることはできません。保因者かどうかを確かめるには、遺伝子を調べる必要があります。
22q11.2欠失症候群とGP1BBの関係
GP1BB遺伝子は、22番染色体の22q11.2という場所にあります。この場所が欠けて起こる22q11.2欠失症候群(ディジョージ症候群)の方では、欠失の範囲にGP1BBが含まれる場合、GP1BBの片方がありません。そのため、もう片方のGP1BBに原因となる変化があると、ベルナール・スーリエ症候群を合わせもつことになります。こうした例は複数報告されています[1]。
このしくみは、遺伝子検査の結果を読むときにも大切です。この検査でも遺伝子1つまるごとの欠失は調べますが、欠けている範囲がどこまで広がっているか(22q11.2欠失症候群にあたるかどうか)まではわかりません。そのため、必要に応じてマイクロアレイ染色体検査などを組み合わせて考えます。
4. どんな人がこの検査を受けるとよいか
血液検査で大きな血小板と血小板の減少を指摘された方、ITPと言われたが治療が効かなかった方、ご家族にこの病気の方がいる方に向く検査です。見た目や家族歴だけでは判断できないことが多いので、迷ったら、まず遺伝カウンセリングで状況をお聞かせください。
- ●血液の標本で大きな血小板を指摘され、血小板の数も少ない方
- ●リストセチンによる血小板の凝集がないと言われた方
- ●ITPと診断されたが、ステロイドなどの治療が効かなかった方
- ●幼いころから鼻血・歯ぐきの出血・あざができやすい、月経の量が多い方
- ●ご家族にベルナール・スーリエ症候群の方や、血小板が少ないと言われている方がいる方
- ●結婚や妊娠を考えていて、ご自身が保因者かどうかを知りたい方
血小板の病気は、検査をしてはじめてわかることが少なくありません。院長は「遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです」と考えています(院長コラムもご覧ください)。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
この検査より別の検査が向いている場合
検査の結果がそろっていて、ベルナール・スーリエ症候群がはっきり疑われるなら、このページの検査です。一方で、病気をまだ絞り込めない場合は、もっと多くの遺伝子を調べる検査のほうが向いています。当院の血小板障害パネル(44遺伝子)と包括パネル(82遺伝子)は、どちらもこの検査の3つの遺伝子を含み、今の料金と結果までの日数はこの検査と同じ(税込330,000円・2〜3週間)です。
🔍 症状に合わせた検査の選び方
※料金・日数は2026年10月時点の各検査ページの記載です。どの検査が合うかは、検査結果やご家族の情報で変わります。遺伝カウンセリングで一緒に決めましょう。
5. 調べる3つの遺伝子と、それぞれでわかる病気
この検査では、GPIb-IX-V複合体の部品を作る3つの遺伝子(GP1BA・GP1BB・GP9)をまとめて調べます。
🧬 対象遺伝子(3遺伝子)
※病名・遺伝のしかたはOMIM(GP1BAの遺伝子と病気の対応表)、米国国立医学図書館(MedlinePlus Genetics)の解説、文献[1]による。GP1BAはOMIMで、ほかに非動脈炎性前部虚血性視神経症のなりやすさとの関連も登録されています(この検査の目的ではありません)。
常染色体顕性(優性)遺伝の型では、親から子へ受け継がれる確率はお子さん1人ごとに2分の1です。どの型かは、見つかった遺伝子と変化の種類、ご家族の状況で変わるため、結果は遺伝カウンセリングで一つずつご説明します。
6. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、3つの遺伝子の小さな変化(1文字の置き換わり、小さな挿入・欠失)と、遺伝子全体などの大きめの欠失・重複です。一方で、遺伝子検査には必ず限界があります。
🔬 わかること・わからないこと
※当院の検査の記載による。
- ●陰性でも否定はできません:原因が見つからなくても、この検査で検出できない変化や、まだわかっていない原因が残る可能性があります。症状と血液検査の結果にもとづく診断と管理は、引き続き大切です。
- ●意義がまだわからない変化(VUS):病気の原因かどうか、まだ判断できない変化が見つかることがあります。
- ●二次的所見:調べた目的と別の病気の手がかりが見つかったときの扱いは、当院の二次的所見の開示方針をご覧ください。
- ●22q11.2の欠失:第3章のとおり、GP1BBを含む欠失が見つかった場合、欠失の広がりは別の検査(マイクロアレイ染色体検査など)で確かめることがあります。
7. 結果が出たあと
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。生まれ持った遺伝子は一生変わらないので、一度わかったことは、ご自身の備えにも、ご家族のこれからにも、ずっと役立つ情報になります。
病的な変化が見つかったとき:診断がつくと決まる次の一手
ベルナール・スーリエ症候群と確定すると、病名がはっきりし、ITPに対する治療を続けるかどうかを主治医と見直すきっかけになります。そのうえで、次のような備えを主治医(血液内科)と前もって決めておけます。
- ●手術・抜歯の前の準備:出血したときや手術の前には、ふつう血小板の輸血が必要になります。ただし輸血をくり返すと、輸血された血小板に対する抗体ができるおそれがあります[1]。いつ・どう使うかを前もって決めておくことが大切です。
- ●止血を助ける薬:デスモプレシンや遺伝子組み換え活性型第VII因子で、出血時間が短くなった患者さんがいると報告されています[1]。効き方には個人差があり、使うかどうかは主治医が判断します。
- ●避けたい薬:アスピリンなど、血小板の働きを弱める薬は避けるよう勧められています[1]。ほかの病院や歯科、薬局でも、この病気のことを伝えてください。
- ●ふだんの生活:小児慢性特定疾病情報センターは、治療でいちばん大切なのは、重い出血を避けるための生活の工夫だとしています。
- ●使える制度:小児慢性特定疾病の対象です(第8章)。
妊娠・出産を考える女性へ
ベルナール・スーリエ症候群の女性の妊娠・出産では、お母さんと赤ちゃんの両方に出血のリスクがあると報告されています。症例報告をまとめた系統的レビュー(18人・30回の妊娠)では、出産直後の大量出血(一次性の産後出血)が30回のうち10回(33%)、その後の時期の出血(二次性の産後出血)が12回(40%)でみられ、15回で輸血が必要でした。赤ちゃんでは、6人に同種免疫による血小板減少(お母さんの抗体が赤ちゃんの血小板に影響する状態)がみられました[7]。このレビューは、出産を個別の計画にもとづき、複数の診療科のチームで管理することを勧めています[7]。
症例報告のまとめなので、重い経過が報告されやすい面があり、この数字がそのまま一人ひとりの確率になるわけではありません。それでも、妊娠がわかる前から、血液内科とかかりつけの産科に病名を伝え、出産の計画を一緒に立てておくことが大切です。当院は分娩を行っていないため、出産の管理はかかりつけの産科・主治医にお願いしています。
ご家族・次のお子さんへの影響
常染色体潜性の型と確定した場合、ご両親はそれぞれ保因者と考えられ、きょうだいがこの病気である確率は4分の1、保因者である確率は2分の1です(第3章の表)。原因の遺伝子の変化がわかっていると、ご家族は同じ場所を調べることで、自分が保因者かどうかを確かめられます。原因がわかれば、次のお子さんで同じことが起こる可能性がどれくらいあるか、次の妊娠でどう備えられるかを、具体的に考えられるようになります。
ご本人がこの病気の場合、お子さんは全員、少なくとも保因者になります。パートナーも同じ遺伝子の保因者なら、お子さんがこの病気になる確率は2分の1です。パートナーが保因者かどうかは、パートナーの遺伝子検査で確かめられます。
妊娠前のカップルが受けられる拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子)と男性版(714遺伝子)には、GP1BAとGP9が含まれています。GP1BBは含まれていません(2026年10月時点の遺伝子一覧で確認)。妊娠中の方には、NIPTと同じ日に採血するカップルの保因者検査「ファミリーセーフティ プラス」もあります(単独では受けられません。対象の遺伝子は遺伝カウンセリングでご案内します)。結婚前・妊娠前の検査全体は遺伝子ブライダルチェックのページで紹介しています。
ご家族で原因の遺伝子の変化がわかっていれば、妊娠したときに赤ちゃんで同じ変化があるかを調べられます。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。当院では羊水検査・絨毛検査を院内で行っています(2025年6月から産婦人科を併設)。なお、出生前に胎児の検体を採る手技(臍帯血の採取や絨毛の採取)には出血や流産のリスクが高いとする解説もあります[1]。出生前診断ができるかどうかは、病気の重さや国内の指針を踏まえて個別に判断しますので、妊娠を考えている段階からご相談ください。
日本でも、日本産科婦人科学会の指針にもとづく審査を経て、PGT-M(着床前遺伝学的検査)が行われています(当院は体外受精・PGT-Mを行っていません)。準備に必要なことは遺伝性疾患をお持ちで海外でPGT-Mを考えている方へで解説しています。
変化が見つからなかったとき・意義がわからない変化(VUS)のとき
3つの遺伝子に原因が見つからなかった場合でも、ベルナール・スーリエ症候群を完全に否定することはできません(第6章)。症状と血液検査の結果をもう一度見直し、必要に応じて血小板障害パネルなど、より広い検査を考えます。
VUSは、それだけで診断やご家族の発症リスクの判断には使いません。ただし、その変化が病気に関係するかを検討するために、ご家族の検査を行うことがあります。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。
8. 日本の制度(2026年10月時点)
ベルナール・スーリエ症候群は、小児慢性特定疾病の対象です(血液疾患・血小板機能異常症の区分)。小児慢性特定疾病情報センターの対象疾病の一覧に掲載されています(2026年10月時点で確認)。一方、難病情報センターの指定難病の五十音索引には、2026年10月時点で見当たりませんでした。
医療費の助成を受けるには、制度の認定の条件を満たし、申請する必要があります。認定の基準や申請の方法は、小児慢性特定疾病情報センターや、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。
9. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。唾液・頬の粘膜・血液のどれでも検査でき、オンライン診療でも受けられます。
ご予約
▶
遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
▶
検体の採取唾液・頬の粘膜・血液
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結果のご説明2〜3週間後・マイページへ
💴 費用・日数・検体
※当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。
オンライン診療(ビデオ通話)で遺伝カウンセリングを行ったあと、検体を当院にお送りいただく流れです。オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいたあとにお送りします。検体の取り違えを防ぎ、検査に使える品質を保つため、ご自身の判断で先に検体を採らないでください。
遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。
結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。報告書の読み方は遺伝子検査結果の見かたで解説しています。
10. 院長コラム
🩺 院長コラム【「血小板が少ない」の先にある原因を知る】
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。
ベルナール・スーリエ症候群は、「血小板が少ない」という同じ結果から、別の病気と考えられてしまうことがある病気です。病名が違えば、選ぶ治療も、手術や出産の前の備えも変わります。原因がわからないまま、効くかどうかわからない治療を続けるより、原因を確かめてから次を考えるほうが、ご本人にとって前に進める道だと考えています。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。たとえば、きょうだいのお子さんの病気をきっかけに念のため検査を受けた方に、まったく別の遺伝子の病的な変化が、体の一部の細胞だけにある状態(モザイク)で見つかったことがあります。ご本人は発症していませんでしたが、卵子や精子のもとになる細胞にもその変化があれば、お子さんが発症することがある病気でした。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。知ったうえで結婚や妊娠を考えたい方には、出生前診断まで当院で続けて支えられる体制を整えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. ベルナール・スーリエ症候群で巨大血小板ができるのはなぜですか?
血小板の表面にあるGPIb-IX-V複合体というたんぱく質が、GP1BA・GP1BB・GP9のいずれかの遺伝子の変化のためにうまく作られず、血小板の表面から欠けてしまうことが原因です。この欠損によって、巨大血小板を伴う血小板減少と、血小板が傷口にくっつきにくい状態が起こります。
Q2. 巨大血小板かどうかは、どうやって判断しますか?
機械で測る平均血小板容積(MPV)と、顕微鏡で血液の標本を見た大きさの両方で確かめます。とても大きな血小板は機械で数えられないことがあるため、イタリアの多施設研究は、適切な機械で測ったMPVと顕微鏡での確認を組み合わせることを勧めています。
Q3. ITP(免疫性血小板減少症)との違いは何ですか?
ITPは自分の免疫が血小板を壊す病気で、ベルナール・スーリエ症候群は生まれつきの遺伝の病気です。ベルナール・スーリエ症候群では、とても大きな血小板と、リストセチンによる血小板の凝集の欠如・低下が典型的な特徴です。ITPと誤って診断され、ステロイドや脾臓をとる手術を受けても効果がなかった例が報告されています。
Q4. 血小板数はどれくらいになりますか?
典型的には1μLあたり2万〜10万個とされています。ただし、とても大きな血小板は機械で数えられないことがあり、機械の値が実際より少なく出ることがあります。GP1BAの片方だけの変化による軽い型では、平均で約8.1万個という報告があります。
Q5. 保因者にも症状はありますか?
研究によって結果が違います。保因者30人を調べた研究では、健康な人より血小板の数が少なく、血小板が大きく、軽い出血の傾向がありました。一方、別の研究では保因者に出血の傾向はなく、多くは血小板の数も正常でした。血液検査だけでは保因者かどうかを決められないため、確かめるには遺伝子検査が必要です。
Q6. 子どもに遺伝する確率は?
多くは常染色体潜性(劣性)遺伝です。ご両親がともに保因者なら、お子さん1人ごとにこの病気になる確率は4分の1、保因者になる確率は2分の1です。ご本人がこの病気の場合、お子さんは全員少なくとも保因者になり、パートナーも保因者なら、お子さんがこの病気になる確率は2分の1です。GP1BAなどの片方だけの変化で症状が出る型では、お子さんに受け継がれる確率は2分の1です。
Q7. 家族も検査を受けたほうがよいですか?
原因の遺伝子の変化がわかっていると、ご家族は同じ場所を調べることで、自分が保因者かどうかを確かめられます。きょうだいの方が結婚や妊娠を考えるときの手がかりにもなります。受けるかどうかは、遺伝カウンセリングで知ることの意味をよく考えてから決めていただけます。
Q8. 手術や出産の前に何を準備すればよいですか?
手術や出血のときには、ふつう血小板の輸血が必要になりますが、くり返すと抗体ができるおそれがあるため、使い方を前もって主治医と決めておくことが大切です。アスピリンなど血小板の働きを弱める薬は避けるよう勧められています。妊娠・出産ではお母さんと赤ちゃんの両方に出血のリスクが報告されているので、血液内科とかかりつけの産科で出産の計画を立ててください。
🧬 一度の検査で、ご自身とご家族のこれからに備える
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。ベルナール・スーリエ症候群の原因がわかれば、ITPとの見分け、手術・抜歯・出産の前の準備、ご家族の検査や結婚・妊娠の計画を考える手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。
お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768
参考文献
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