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FTH1遺伝子とは?鉄を安全に貯めるフェリチンH鎖のはたらきと、ヘモクロマトーシス5型・NBIA9を遺伝専門医が解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

鉄は、生きるために欠かせないのに、むき出しのままでは細胞を傷つけてしまう「両刃の剣」のような金属です。そこでからだは、鉄を無毒な形に変えてしまい込む小さな金庫を用意しました。その金庫の中心部品をつくるのがFTH1遺伝子(フェリチン重鎖1)です。この遺伝子の変化は、全身に鉄がたまる遺伝性ヘモクロマトーシス5型と、脳の奥に鉄がたまる神経変性症(NBIA9)という、まったく表情の違う2つの病気を引き起こします。しかも変化が起きる場所は前者が遺伝子の「読み始める前の領域」、後者が「いちばん最後のエキソン」という対照的な位置です。本記事では、フェリチンの生物学から遺伝性疾患、検査を受けるときの注意点までを、遺伝専門医がやさしく解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約18分
🧬 鉄代謝・フェリチン・フェロトーシス
臨床遺伝専門医監修

Q. FTH1遺伝子とは何をする遺伝子ですか?まず結論だけ知りたいです

A. FTH1は、鉄をしまう金庫「フェリチン」の重鎖(H鎖)という部品の設計図です。H鎖だけがもつフェロキシダーゼ活性という酵素のはたらきで、細胞のなかを漂う毒性の強い鉄を、その場で無毒な形に変えてしまい込みます。この遺伝子の変化は、全身に鉄がたまるヘモクロマトーシス5型(HFE5)と、脳の基底核に鉄がたまる神経変性症(NBIA9)という2つの遺伝性疾患の原因になります。どちらも顕性(優性)の形で伝わりますが、変異の起こる場所も、病気の現れ方もまったく異なります。

  • 基本のはたらき → 24個の部品が集まる球状の殻をつくり、内側に鉄を無毒な酸化鉄の結晶としてしまい込む
  • つくる量の調節 → 5’非翻訳領域のIREにIRPが結合し、鉄が足りないときは翻訳そのものを止める
  • ヘモクロマトーシス5型 → IRE内の1塩基置換でIRPが外れなくなり、鉄が余っても金庫を作れなくなる
  • NBIA9 → 最終エキソンの新生突然変異でE-helixが切れ、鉄を保持できない欠陥フェリチンができる
  • 検査上の注意 → 5’UTRの変異はコード領域だけの解析では見落とされ、偽遺伝子の存在も判定を難しくする

🧬 FTH1遺伝子の基本情報

項目 内容
遺伝子名 FTH1(Ferritin Heavy Chain 1)/別名 FTH・FHC・PLIF・PIG15
タンパク質 フェリチン重鎖(H鎖)/4本のαヘリックス束+C末端のE-helixからなるサブユニット
染色体上の位置 11番染色体長腕(11q12)。エキソンは4つ
OMIM番号 134770
主なはたらき 24量体のフェリチンを軽鎖(FTL)とともに形成し、フェロキシダーゼ活性で二価鉄を三価鉄へ酸化して安全に貯蔵する
主な発現部位 全身のほぼすべての細胞(ハウスキーピング遺伝子)。とくに肝臓・脾臓・骨髄のマクロファージ、脳のオリゴデンドロサイトで重要
生殖細胞系列変異と関連疾患 遺伝性ヘモクロマトーシス5型(HFE5・OMIM 615517)=5’UTRのIRE内の点変異/脳内鉄蓄積を伴う神経変性症9型(NBIA9・OMIM 620669)=最終エキソンの新生突然変異。いずれも顕性(優性)
体細胞変異 がんの原因となる体細胞変異(ドライバー変異)としての確立した報告はありません。腫瘍では変異よりも発現量の変化が問題になります
検査上の注意 HFE5の原因は5’非翻訳領域にあるためコード領域のみの解析では検出できません。またFTH1には多数の偽遺伝子があり、短い読み取り配列の割り当てを誤る原因になります

各項目の根拠と詳しい解説は、本文の該当セクションをご覧ください。

1. FTH1遺伝子とフェリチン ─ 鉄を安全にしまう「ナノの金庫」

FTH1は Ferritin Heavy Chain 1 の頭文字をとった遺伝子名で、11番染色体の長腕(11q12)にあります[1]。この遺伝子がつくるタンパク質はフェリチン重鎖(H鎖)と呼ばれ、健康診断でおなじみの「フェリチン」を構成する2種類の部品のうちの一方です。もう一方はFTL遺伝子がつくる軽鎖(L鎖)で、この2種類が合計24個集まって、サッカーボールのような球状の殻をつくります。

この殻は外径がおよそ12ナノメートル、内側の空洞は直径8ナノメートルほどで、内部には最大4,500個もの鉄原子を、水に溶けにくい酸化鉄の結晶(フェリハイドライト)としてしまい込むことができます[2]。細胞にとってフェリチンは、鉄を「持っているけれど悪さをさせない」ための金庫そのものです。血液検査で測る血清フェリチンは、この金庫が血中に漏れ出てきたものを見ているにすぎず、実際に鉄が入っているかどうかまでは反映しない、という点はあとで詳しく説明します。

H鎖とL鎖は、見た目こそ似ていますが役割分担がはっきりしています。H鎖だけが鉄を酸化する酵素のはたらき(フェロキシダーゼ活性)をもち、L鎖はその酸化された鉄を殻の内側で結晶化させ、殻全体を安定させる役目を担います。心臓や脳のように酸化ストレスにさらされやすい組織ではH鎖の比率が高く、肝臓や脾臓のように長期保存が主目的の組織ではL鎖の比率が高い、というように、組織ごとに配合が変わるのも特徴です。

💡 用語解説:フェリチンと不安定鉄プール(LIP)

フェリチンは、鉄をしまうためのタンパク質の容器です。一方、細胞のなかで容器に入らずに漂っている少量の鉄を不安定鉄プール(LIP:labile iron pool)と呼びます。LIPは酵素の材料として必要な「使える鉄」であると同時に、増えすぎると活性酸素を大量に生み出す危険な鉄でもあります。細胞は、必要な分だけをLIPに残し、余った分をフェリチンにしまうことで、この綱渡りのバランスをとっています。FTH1に関わる病気の多くは、このバランスが崩れることで起こります。

図1:フェリチンという「鉄の金庫」の構造

H鎖(FTH1)

鉄を酸化して無毒化する
=フェロキシダーゼ活性

L鎖(FTL)

酸化された鉄を結晶化し
殻を安定させる

24個が集まった球状の殻(外径 約12nm)

内部の空洞に 最大約4,500個 の鉄原子を、水に溶けにくい酸化鉄の結晶としてしまい込む

ここで、健康診断でおなじみの「血清フェリチン」との関係を整理しておきます。血液中を流れるフェリチンは、細胞内の金庫がそのまま漏れ出たものというより、鉄をほとんど含まないL鎖主体の分子が中心だと考えられています。つまり血清フェリチンは、体内の鉄貯蔵量をおおまかに映す鏡ではありますが、鉄そのものを測っているわけではありません。この「間接的な指標である」という性質が、あとで出てくる高フェリチン血症の読み解きに効いてきます。

ミトコンドリア型のフェリチン(FTMT)との違い

ヒトにはもうひとつ、ミトコンドリアの内部にだけ存在するフェリチン(FTMT)があります。FTH1とよく似た配列をもちながら、遺伝子の構造も調節のされ方も対照的です。FTH1がイントロンを含む複数エキソン構成で、後述するIREによる厳密な翻訳調節を受けるのに対し、FTMTはイントロンをもたない単一エキソンの遺伝子で、IREもありません。発現する場所も、FTH1が全身のほぼすべての細胞であるのに対し、FTMTは精巣・心臓・脳といった代謝の激しい組織に限られます。同じ「鉄をしまう」機能でも、細胞質全体の鉄の流れを管理するFTH1と、ミトコンドリア内部の局所を守るFTMTとでは、担当する持ち場がまったく違うのです。

2. フェロキシダーゼ活性 ─ なぜ鉄は「毒」になるのか

鉄が危険なのは、二価鉄(Fe²⁺)の状態にあるときです。二価鉄は細胞のなかにある過酸化水素と反応して、あらゆる分子を無差別に壊してしまう活性酸素のなかでも最も攻撃的なヒドロキシラジカルを生み出します。これがフェントン反応と呼ばれる化学反応で、DNAもタンパク質も細胞膜も、手当たりしだいに傷つけられます。細胞にとって鉄は、必要だからこそ危ない、という厄介な存在なのです。

FTH1がもつフェロキシダーゼ活性は、この危険な二価鉄を、その場で反応性の低い三価鉄(Fe³⁺)へ酸化してしまう酵素のはたらきです。酸素を受け取り手として使うため、化学反応としては「4つの二価鉄と1つの酸素分子から、4つの三価鉄と2つの水ができる」という式で表されます。ここで重要なのは、この反応がフェリチンの殻の内部で起きるという点です。危険な鉄が細胞質を漂っている時間を最小にして、酸化された瞬間に金庫の中へ落とし込む。この一連の流れがあるからこそ、細胞は鉄を大量に抱えながら無事でいられます。

この反応の中心にある「フェロキシダーゼ活性中心」は、H鎖にしか存在しません。変異実験や結晶構造解析によって、活性に必須の残基として Glu27・Tyr34・Glu61・Glu62・His65・Glu107・Gln141 が同定されており、これらはH型のフェリチンにのみ保存されています[3]。なかでもTyr34は、酸素を還元する過程で一時的にラジカルを形成し、電子の受け渡しを円滑にする役目を担っています。

さらに、殻の内側の表面には、細胞質から入ってきた鉄を活性中心まで運ぶ「中継地点」があります。ヒトH鎖では Glu140 がその中継地点(サイトC)を構成しており、この残基をグルタミンに置き換えると鉄の酸化速度が明らかに低下します[2]。鉄はただ拡散して活性中心にたどり着くのではなく、決まった通り道を通って案内されているのです。この設計により、鉄が一度に流れ込みすぎて不適切なラジカルを生む事態が抑えられています。

3. IRE/IRPによる翻訳のスイッチ ─ 鉄が足りないときは作らせない

金庫をどれだけ用意するかは、細胞のなかの鉄の量にあわせて刻々と変わります。この調節は、遺伝子を写し取る転写の段階ではなく、写し取ったmRNAをタンパク質へ翻訳する段階で行われます。FTH1のmRNAの5’非翻訳領域(5’UTR)には、約30塩基がヘアピン状に折りたたまれた鉄応答エレメント(IRE)という構造があり、ここに鉄調節タンパク質(IRP1・IRP2)が結合するかどうかで、翻訳のスイッチが切り替わります[4]

鉄が足りないときは、IRPがIREにしっかり結合します。すると、翻訳を開始するためにmRNAの上を滑っていくリボソームが物理的にせき止められ、FTH1のタンパク質はほとんど作られなくなります。これは理にかなった反応です。鉄が乏しい状況で金庫ばかり増やしても、限られた鉄が金庫に取られてしまい、ヘムの合成や鉄硫黄クラスターの組み立てといった、生きるために優先すべき用途に回らなくなるからです。

逆に鉄が十分にあるときは、IRP1とIRP2がそれぞれ別のしくみでIREから外れます。IRP1は自分の中心に鉄硫黄クラスターを組み立てることで立体構造が変わり、IRE結合能を失って細胞質アコニターゼという別の酵素に変身します。IRP2のほうはクラスターを持たないかわりに、鉄が増えると特定のユビキチンリガーゼ複合体に認識され、ユビキチン‐プロテアソーム系によって速やかに分解されます。どちらの経路でもIREからIRPが外れ、翻訳のブレーキが解除されて、フェリチンが一気に増産されます。

図2:IRE/IRPによる翻訳スイッチ

🔽 鉄が足りないとき

IRPが5’UTRのIREに結合

リボソームが進めない

フェリチンを作らない

=限られた鉄をヘム合成などに回す

🔼 鉄が余っているとき

IRP1は鉄硫黄クラスターを獲得/IRP2は分解

IREから外れる

フェリチンを一気に増産

=余った鉄をすぐ金庫にしまう

ヘモクロマトーシス5型では、この右側の「外れる」動作が起こらなくなります。

この回路には、もうひとつ知っておきたい性質があります。IRP1の鉄硫黄クラスターは、炎症のときに出てくる活性酸素や一酸化窒素によって壊されてしまうため、実際には鉄が足りていても、IRP1がIRE結合型に戻ってしまうことがあります。つまりIRE/IRP回路は、鉄のセンサーであると同時に炎症のセンサーでもあるわけです。慢性炎症のある方でフェリチンの値が思ったように動かないことがあるのは、こうした背景も関係しています。

4. フェリチノファジーとフェロトーシス ─ 金庫を壊しすぎると細胞が死ぬ

しまった鉄を再び使いたくなったとき、細胞はフェリチンごと分解して中身を取り出します。この専用の分解経路がフェリチノファジーで、オートファジーの特殊な一形態にあたります。目印となるのが NCOA4 というタンパク質で、フェリチンの殻の外側に露出したFTH1に直接くっつき、オートファゴソームへ運び込む運搬役として働きます[5]

この結合はかなり精密です。NCOA4のC末端側の限られた領域(383〜522番のアミノ酸)と、FTH1の表面に出ている23番目のアルギニンが接点になっており、どちらを人工的に変えても運搬が成立しなくなります[6]。しかもNCOA4自身の量も鉄によって管理されていて、鉄が十分にあるときはHERC2というユビキチンリガーゼに認識されて分解され、フェリチノファジーにブレーキがかかります。「鉄が余っているのに金庫を壊しに行く」という無駄が起きないよう、二重の安全装置が働いているわけです。

問題は、この分解が暴走したときです。リソソームのなかで殻が壊されると、中に閉じ込められていた大量の鉄が二価鉄として細胞質に放出されます。細胞の抗酸化システム(グルタチオンやGPX4)が弱っている状況でこれが起きると、不安定鉄プールが爆発的に増え、細胞膜の多価不飽和脂肪酸が次々と過酸化されていきます。膜が物理的にも化学的にも破綻して細胞が死ぬ、この鉄依存性の細胞死がフェロトーシスです。

💡 用語解説:フェロトーシス

細胞の死に方にはいくつも種類がありますが、フェロトーシスは「鉄が引き金になり、細胞膜の脂質が過酸化されて壊れる」タイプの死に方です。アポトーシスのように細胞が自ら畳まれていくのではなく、膜が破れて中身が漏れ出すため、周囲に炎症を広げやすい性質があります。FTH1の量は、この死に方に対する抵抗力そのものを決めています。金庫が多ければ鉄は封じ込められ、金庫が少なければ同じ量の鉄でも致命的になります。

この「FTH1の量=フェロトーシスへの抵抗力」という関係は、これから述べる病気の理解にも、がん治療の研究にも一貫して登場します。FTH1をあえて減らして細胞を死にやすくする、逆にFTH1を増やして細胞を守る、という両方向の戦略が研究されているのは、この性質があるからです。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「フェリチンが高い=鉄が多い」とは限りません】

外来では「フェリチンが高いと言われたのですが、鉄が多すぎるのでしょうか」というご相談をよくいただきます。ここは丁寧に切り分ける必要があるところです。血清フェリチンは鉄の貯蔵量をおおまかに反映しますが、同時に炎症や肝細胞の障害でも上がります。実際、IRP1のセンサーは炎症でも作動してしまうことを、この記事の3章でご説明しました。

ですから、フェリチンの数値ひとつで鉄過剰と判断することはできません。血清鉄やトランスフェリン飽和度、炎症の指標、肝機能などを一緒に見て、それでも説明がつかないときにはじめて遺伝性の鉄代謝異常を考えます。数字が動いた理由を一つずつ確かめていく作業こそが診断であり、遺伝子検査はそのなかの一手段にすぎない、と私は考えています。

5. 遺伝性ヘモクロマトーシス5型(HFE5) ─ 「読み始める前」の1文字が起こす鉄過剰

遺伝性ヘモクロマトーシスは、腸からの鉄の吸収が過剰になり、長い年月をかけて肝臓・心臓・膵臓などに鉄がたまっていく病気の総称です。原因となる遺伝子によって型が分けられており、そのうち5型(HFE5)がFTH1の変異によるものです[7]。頻度の高い1型(HFE遺伝子)や、若年発症の2型(HAMP遺伝子)、3型(TFR2遺伝子)、4型(SLC40A1遺伝子)と比べると、5型は報告がきわめて少ない稀な型です。

HFE5の分子的なしくみは、3章でご説明したIREのスイッチが「壊れたまま固定される」というものです。報告された日本人家系では、FTH1 mRNAのIREのループ部分にあたる49番目の塩基が1文字だけ置き換わっていました[4]。ゲルシフト法による解析では、この変異したIREはIRPに対して通常より高い親和性を示しました。つまり本来なら鉄が満ちた時点で外れるはずのIRPが、外れなくなってしまうのです。

その結果、細胞は鉄が余っていることを感じ取っているのに、金庫を作ることができません。しまう場所がないまま鉄が細胞にあふれ、やがて血中へも不適切に流れ出し、全身の実質臓器へ沈着していきます。遺伝性ヘモクロマトーシスに共通する経過として、若いうちは無症状のまま数十年かけて鉄が蓄積し、中年以降に肝硬変・心筋症・糖尿病・関節症・性腺機能低下といった形で現れます。

実際に報告された家系では、発端者は50代の女性で、別の病気の検査中にMRIで肝臓・心臓・骨髄の信号が低いことに気づかれ、鉄の沈着が疑われました。血液検査では血清フェリチンが高値で、血清鉄とトランスフェリン飽和度も上昇しており、肝生検では多くの肝細胞に強い鉄沈着が確認されています[7]。血液の一般的な検査には異常がなく、貧血もありませんでした。この「貧血がないのに鉄がたまる」という組み合わせは、鉄過剰症を疑ううえで大切な手がかりになります。

ヘモクロマトーシスの型を整理しておくと、5型の位置づけが分かりやすくなります。1型(HFE)は全体の大多数を占め、2型(HJVとHAMP)は10代から30代で重い鉄過剰を起こす若年性、3型(TFR2)は1型に似てやや軽症、4型(SLC40A1)はフェロポルチン病と呼ばれます。遺伝形式は1〜3型が潜性(劣性)で、顕性(優性)の形をとるのは4型と、FTH1による5型です。同じ「鉄がたまる病気」でも、家族のなかでの伝わり方が型によって変わるという点は、ご家族への説明でとくに丁寧にお伝えしたいところです。

また鉄過剰症では、男女で症状の出方に差が生じます。月経や妊娠によって鉄が失われる分、女性では蓄積のペースが緩やかになり、症状が現れるのは閉経後になることが多いためです。5型についても、報告された家系で若い女性が正常範囲の血清フェリチンを示していた背景として、出産と授乳による生理的な鉄の喪失が指摘されています[7]。ある時点の数値だけで保因の有無を判断できない、という好例です。

💡 用語解説:トランスフェリン飽和度

血液中の鉄は、トランスフェリンという運搬タンパク質に結合して運ばれます。トランスフェリン飽和度は、その運搬車の座席のうち何%が鉄で埋まっているかを示す指標です。鉄過剰症ではこの値が上がりやすく、血清フェリチンと組み合わせて評価されます。一方、炎症だけでフェリチンが上がっている場合は、飽和度は通常上がりません。両者を並べて見ることで、鉄が本当に多いのか、それとも炎症の影響なのかを見分けやすくなります。

鉄過剰症の治療の基本は、定期的な採血によって鉄を抜く瀉血療法で、貧血などで瀉血が難しい場合には鉄キレート療法が検討されます。ただしHFE5は報告例がごく限られるため、5型そのものに対する治療成績のまとまったデータは、現時点では明確に示されていません。実際の診療では、遺伝性ヘモクロマトーシス全体に共通する鉄除去の考え方に沿って、臓器障害の程度を見ながら方針が組み立てられます。

6. 脳内鉄蓄積を伴う神経変性症9型(NBIA9) ─ 「いちばん最後」の変異

NBIA(neurodegeneration with brain iron accumulation)は、脳の基底核を中心に鉄が異常にたまり、運動や認知の機能がゆっくり失われていく一群の病気です[8]。原因遺伝子ごとに型番が振られており、そのなかでFTH1の変異によるものが9型(NBIA9)として登録されています[9]。FTH1と神経疾患の関連が確立したのは比較的最近のことです。ここでは遺伝子の側から要点をご説明しますので、疾患としての症状・診断・経過については脳内鉄蓄積を伴う神経変性症9型(NBIA9)のページをあわせてご覧ください。

報告の中心になったのは、血縁関係のない5人の小児例の解析です。全エクソーム解析により、いずれもFTH1の最終エキソン(エキソン4)に、両親には認められない新生突然変異のヘテロ接合性変異が見つかりました。1人は p.Ser164Ter、残る4人は同じ p.Phe171Ter というナンセンス変異で、いずれも公的な集団データベースには登録されていませんでした[10]。臨床像は発達の遅れ、てんかん、そして進行性の神経学的な退行でした。

なぜ「最後のエキソン」だと重いのか

通常、途中で終止コドンができてしまった不良品のmRNAは、NMD(ナンセンス変異依存mRNA分解)というしくみで壊され、異常なタンパク質が作られないよう守られています。ところがこの見張りは、終止コドンが最終エキソンにある場合には働きません。NBIA9の変異がまさにこの位置にあるため、異常なmRNAは分解を免れ、短くなったタンパク質がそのまま作られてしまいます[10]

できあがった短いFTH1は、C末端のE-helixという部分を失っています。それでも野生型のFTH1やFTLと一緒に24量体の殻を組み立てる能力は残っているため、正常な部品にまじって欠陥部品が組み込まれた、いわば「穴のあいた金庫」ができあがります。E-helixは殻の4回対称の孔をかたちづくる部分なので、これが欠けると孔の構造が崩れ、鉄を内側に留めておけなくなると考えられています。実際、患者さん由来の線維芽細胞では、フェリチンのタンパク質量がむしろ増えているにもかかわらず、細胞質に異常なフェリチンの凝集が現れ、鉄を負荷すると通常より傷害を受けやすく、酸化ストレスの指標も上昇していました[10]。金庫の数ではなく、金庫の質が損なわれている状態です。

図3:同じFTH1でも、変異の場所で病気がまったく変わります

📍 5’非翻訳領域(読み始める前)

IRE内の1塩基置換

IRPが外れなくなる

フェリチンが作れない

=ヘモクロマトーシス5型
(全身の鉄過剰・成人期)

📍 最終エキソン(いちばん最後)

新生突然変異でE-helixが切断

NMDを回避して翻訳される

鉄を保持できない欠陥フェリチン

=NBIA9
(脳内鉄蓄積・小児期発症が中心)

画像所見では、びまん性の脳容積の減少に加え、橋小脳形成不全に似た特徴と、基底核への鉄の蓄積が描出されます。剖検では脳内に広くフェリチンの封入体が確認されました[10]。病態の解釈については、優性阻害(ドミナントネガティブ)として説明する立場と、毒性を獲得した機能獲得型として説明する立場の両方が示されており、まだ議論が続いています。

発症年齢は小児期が中心ですが、それだけではありません。最終エキソンにフレームシフトを起こす新生突然変異をもち、橋小脳形成不全と成人期発症の経過を示した25歳女性の報告もあります[11]。報告例の蓄積はまだ途上であり、NBIA9の臨床像は今後さらに広がる可能性があります。治療研究の方向としては、変異した側の転写産物だけを狙って減らすアンチセンスオリゴヌクレオチドにより、培養細胞レベルで異常が部分的に改善したことが報告されています[10]。ただし、これは細胞を用いた研究段階の知見であり、患者さんへの治療として確立したものではありません。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「新しく分かった病気」をどう受け止めるか】

NBIA9は、報告された症例数がまだ非常に少ない病気です。こういう病気の説明では、分かっていることと分かっていないことの線引きを、あいまいにしないよう気をつけています。5人の小児例と、その後に加わった数例。この規模で語れることには限りがあり、たとえば「何歳ごろにどこまで進むのか」という見通しは、今後の報告を待つしかありません。

ただ、症例が少ないことは「調べても意味がない」ということではありません。診断がつけば、原因不明のまま検査を重ねる時間が終わり、同じ診断のご家族とつながる道も開けます。何より、新生突然変異と分かればきょうだいへの再発リスクの説明が大きく変わります。診断の価値は、治療法の有無だけでは測れないと考えています。

7. 似た名前の病気と区別する ─ 神経フェリチン病・HHCSとの違い

ここは、患者さんとご家族がもっとも混乱されやすいところです。「フェリチンの病気」と呼ばれるものには複数あり、原因遺伝子がH鎖(FTH1)なのかL鎖(FTL)なのかで、まったく別の病気になります。

日本語で「神経フェリチン病(ニューロフェリチノパチー)」というとき、通常はFTLの最終エキソンの変異によって起こるNBIA3を指します。成人期に不随意運動などで発症することが多い病気で、NBIA9とは原因遺伝子が異なります[8]。しかも興味深いことに、FTH1でもFTLでも、病気を起こす変異は同じ「最終エキソンでE-helixを壊す」タイプです。殻の孔をかたちづくる部分が壊れると鉄が漏れる、という共通の理屈が、H鎖側とL鎖側の両方で成立していることになります。

もうひとつ区別が必要なのが、遺伝性高フェリチン血症・白内障症候群(HHCS)です。こちらはFTLの5’UTRにあるIREの変異が原因で、IRPが結合しにくくなるためL鎖が作られ続けます。その結果、鉄過剰を伴わないのに血清フェリチンだけが高値になり、特徴的な白内障を生じるという、鉄代謝の病気としては一風変わった姿をとります[12]。同じ「IREの変異」でも、FTH1で起きれば鉄過剰、FTL で起きれば鉄過剰を伴わない高フェリチン血症になるという対比は、フェリチンのH鎖とL鎖の役割の違いをよく表しています。

🔍 フェリチンに関わる遺伝性疾患の整理

病名 遺伝子と変異部位 特徴
ヘモクロマトーシス5型 FTH1/5’UTRのIRE 全身の鉄過剰。成人期に肝・心・膵の障害
NBIA9 FTH1/最終エキソン 脳内鉄蓄積。発達の遅れ・てんかん・進行性の退行
神経フェリチン病(NBIA3) FTL/最終エキソン 脳内鉄蓄積。成人期の不随意運動が中心
HHCS FTL/5’UTRのIRE 鉄過剰を伴わない高フェリチン血症と白内障

8. からだのあちこちで働くFTH1 ─ 発生・神経・免疫・腎臓・卵子

FTH1は、全身のほぼすべての細胞で常に働いているハウスキーピング遺伝子です。その必須性がもっとも劇的に示されたのは、マウスでFth1を完全に欠損させた実験でした。両方のアレルを失った胚は、器官がかたちづくられる前の非常に早い時期(受精後3.5〜9.5日ごろ)に死亡します[13]。しかもL鎖が残っていても代わりにはなりません。鉄を酸化して安全にしまうというH鎖の働きは、生命の成り立ちそのものに必要だということです。

一方、片方のアレルだけを失ったマウスは健康で妊孕性も保たれ、外見上は正常な仲間と区別がつきません[14]。これは「半分あれば足りる」ことを示しています。ただし、それは平時の話です。強い酸化ストレスなどの負荷がかかった条件では、ヘテロ欠損でも表現型が現れることが報告されており、余力の少なさが問題になる場面はあります。H鎖とL鎖それぞれのノックアウトを比較した研究でも、両者の役割分担と、H鎖欠損の致死性があらためて確認されています[15]

神経系での役割 ─ 髄鞘をつくる細胞にとっての鉄

脳のなかでもっとも鉄を必要とする細胞のひとつが、神経の軸索にミエリン(髄鞘)を巻きつけるオリゴデンドロサイトです。脂質を大量に合成するために鉄依存性の酵素をフル稼働させる必要があり、その分だけ鉄の毒性にもさらされます。動物実験では、この細胞でFth1を失わせると髄鞘の形成が障害されることが報告されており、末梢神経のシュワン細胞でも同様の所見が示されています。NBIA9で白質を含む広い範囲に変化が及ぶ背景には、こうした細胞の鉄依存性があると考えられます。

神経変性との関わりでは、多系統萎縮症(MSA)に関する研究が注目されています。オリゴデンドロサイトの内部でαシヌクレインが蓄積すると、フェリチノファジーの運搬役であるNCOA4が分解されずに残り続け、FTH1が過剰に分解されてしまいます。その結果として放出された鉄が脂質過酸化を引き起こし、オリゴデンドロサイトが選択的にフェロトーシスに陥る、という道筋が示されました。同じ研究では、血漿中に流れ出したFTH1を含むオリゴデンドロサイト由来の細胞外小胞を数える手法が開発され、MSAではパーキンソン病や健常者と比べてこの小胞が減っていることが報告されています[16]。鑑別が難しい両者を血液で見分ける手がかりとして期待されていますが、研究段階の知見であり、現時点で一般診療に用いられる検査ではありません。

免疫・腎臓、そして卵子

マクロファージにとってのFTH1は、感染防御の道具でもあります。細菌が増えるには鉄が必要なので、マクロファージは感染時にFTH1を増やして鉄を封じ込め、病原体に鉄を渡さないようにします。一方で、この鉄の管理が破綻すると免疫細胞そのものが傷みます。急性腎障害のモデルでは、骨髄系細胞のFtH1を欠損させると白血球の浸潤と鉄沈着が増え、障害が悪化しました。しかもFtH1が減った細胞ではαシヌクレインが強く誘導され、その単量体が三価鉄を二価鉄へ還元する酵素のような働きを示すことで、フェロトーシスをさらに加速させることが示されています[17]。パーキンソン病でおなじみのタンパク質が、腎臓の炎症のなかで鉄の悪循環を回しているという、意外なつながりです。

生殖医療の領域でも、FTH1は静かに注目され始めています。加齢したマウスの卵子をプロテオーム解析したところ、Fth1の量が明らかに低下しており、これがフェロトーシスの発生につながっていました。若い卵子でFth1を人工的に減らすと、減数分裂の成熟が失敗し、細胞骨格の動きが乱れ、ミトコンドリアの機能も落ちるという、加齢卵子と同じ変化が再現されます。逆にフェロトーシスを抑えたりFth1を発現させたりすると、加齢卵子の質が改善したことも報告されました[18]卵巣予備能早発卵巣不全(POI)を考えるうえで、鉄の管理という視点が加わりつつあるということです。ただしこれは動物実験の段階であり、ヒトの不妊治療に応用できる方法が確立しているわけではありません。

9. がんにおけるFTH1の二面性

がんの領域でFTH1が語られるとき、話題になるのは変異ではなく発現量です。4章でご説明したとおり、FTH1が多い細胞はフェロトーシスに強く、少ない細胞は弱くなります。がん細胞にとってこれは、治療への抵抗力そのものを左右する性質です。

たとえば骨肉腫では、RNAにメチル基を付ける酵素METTL1が、FTH1のmRNAと、がん抑制的なマイクロRNAであるmiR-26aの前駆体の両方を修飾します。その結果、成熟したmiR-26a-5pがFTH1のmRNAに結合して翻訳効率を大きく下げ、最終的にFTH1タンパク質が減少します。鉄を封じ込める壁が薄くなった細胞では脂質過酸化が進みやすくなり、ドキソルビシンやシスプラチンへの感受性が回復した、と報告されています[19]。「金庫を減らして、あえて弱くする」という発想です。

反対に、FTH1が高いことが予後の悪さと結びつく腫瘍もあります。頭頸部扁平上皮がんでは、公的データベースの解析と組織染色の両方でFTH1の過剰発現が確認され、リンパ節転移や予後不良との関連が示されました。細胞実験ではFTH1を減らすと上皮間葉転換(EMT)が抑えられ、転移能が低下しています[20]。同じ分子が、ある腫瘍では味方、別の腫瘍では敵として振る舞うわけです。

大切なのは、こうした知見が遺伝するかどうかとは別の話だという点です。腫瘍で問題になるFTH1の発現量の変化は、生まれつきの遺伝子の配列とは異なる次元で起きています。「FTH1ががんに関係する」という記述を、家族に受け継がれるがんのリスクと結びつけて心配される必要はありません。なお、これらはいずれも研究として報告されている段階の内容であり、FTH1を標的とした治療が確立しているわけではありません。

10. 検査上の注意と遺伝カウンセリング

FTH1は、遺伝子検査の設計と結果の読み方に特有の注意点がある遺伝子です。ここは臨床遺伝の現場でとくに気をつけているところなので、少し詳しくご説明します。

第一に、HFE5の原因はタンパク質をコードしない領域にあります。多くの遺伝子検査は、アミノ酸を決めるコード領域とその前後のスプライス接合部を対象に設計されています。ところがHFE5の変異は5’非翻訳領域のIREにあるため[7]、コード領域だけを見る設計では原理的に検出できません。鉄過剰症を疑って遺伝子検査を行う場合には、5’UTRが解析範囲に含まれているかどうかを確認する必要があります。

第二に、NBIA9の変異は「機能喪失」と自動的に解釈すると読み違えます。終止コドンを生じる変異は、多くの遺伝子ではタンパク質が作られなくなる(機能喪失)と判定されます。しかしNBIA9の変異は最終エキソンにあるためNMDを免れ、短いタンパク質が実際に作られて悪さをします[10]。バリアントの解釈では、終止コドンの位置が最終エキソンかどうかを必ず確認することが欠かせません。

第三に、偽遺伝子の問題があります。フェリチンの遺伝子ファミリーは、機能する遺伝子が4つであるのに対し、注釈された偽遺伝子は47にのぼります[21]。FTH1のmRNAが逆転写されてゲノムに挿入されたコピーが、いくつもの染色体に散らばっているのです。配列が本体とよく似ているため、短い断片を読む次世代シークエンサーでは読み取り配列の割り当てを誤ることがあり、存在しない変異が見えたり、逆に本物が隠れたりする原因になります。実際、当院で扱うヘモクロマトーシス遺伝子検査(NGSパネル)でも、検査の限界として偽遺伝子や高度に相同な配列の影響が明記されています。

💡 用語解説:偽遺伝子(pseudogene)

偽遺伝子は、本物の遺伝子とよく似た配列をもちながら、通常はタンパク質をつくらない「そっくりさん」です。FTH1のように全身で大量に発現する遺伝子は、mRNAが逆転写されてゲノムに戻る機会が多いため、偽遺伝子が生まれやすいことが知られています。検査の現場では、この「そっくりさん」を本物と取り違えないよう、解析の設計とデータの確認に手間をかけています。ロングリードシーケンサーのように長い配列を一度に読む技術は、こうした場面で有利になります。

遺伝形式についても整理しておきます。HFE5もNBIA9も、片方のアレルの変化で発症する常染色体顕性(優性)遺伝の形をとります。FTH1は常染色体にあるため、性別による違いはありません。ただし、実際にお子さんに伝わる確率の考え方は2つの病気で大きく異なります。HFE5は家系内で受け継がれた変異が原因なので、お子さんに伝わる確率は50%です。一方NBIA9は報告されている症例の多くが新生突然変異、つまりご本人で新たに生じた変化ですから、ご両親は通常保因者ではなく、きょうだいへの再発リスクは大幅に低くなります。とはいえ生殖細胞のモザイクという可能性は残るため、ゼロと言い切ることもできません。

当院では、FTH1を含む7遺伝子(BMP2・FTH1・HAMP・HFE・HJV・SLC40A1・TFR2)をまとめて調べるヘモクロマトーシス遺伝子検査(NGSパネル)をご用意しています。神経症状が前面に出ている場合には、脳内鉄沈着神経変性症(NBIA)の遺伝子検査パネルや、対象を広くとるクリニカルエクソーム検査全エクソーム検査(WES)が選択肢になります。どの検査が適しているかは症状や家族歴によって変わりますので、検査の前に遺伝カウンセリングで整理することをおすすめします。当院ではすべての方に臨床遺伝専門医が対応し、遺伝診療として検査前後の説明を行っています。

最後に、検査を受ける前に一緒に整理しておきたいことをお伝えします。ひとつは、意義不明のバリアント(VUS)が見つかる可能性です。FTH1のように報告例が少ない遺伝子では、初めて見つかる変化が「病気の原因かどうか判断できない」という結果になることが珍しくありません。もうひとつは、結果がご本人だけの問題では終わらないという点です。顕性(優性)の変異が確定すれば、きょうだいやお子さんの発症リスクの話に自然につながります。誰にどこまで伝えるかはご本人が決めることであり、その判断を支えるための時間を、検査の前後にきちんと確保しておくことが大切だと考えています。

11. よくある誤解

誤解①「フェリチンが高い=鉄が多い」

血清フェリチンは炎症や肝障害でも上がります。実際、鉄が余っているのに鉄過剰を伴わない高フェリチン血症を示すHHCSという病気もあります。トランスフェリン飽和度や炎症の指標とあわせて判断する必要があります。

誤解②「神経フェリチン病=FTH1の病気」

日本語で神経フェリチン病というときは、通常FTL(軽鎖)の変異によるNBIA3を指します。FTH1によるNBIA9は別の病気で、発症年齢も臨床像も異なります。名前が似ているため、診断名は原因遺伝子とセットで確認してください。

誤解③「遺伝子検査が陰性なら否定できる」

HFE5の変異は5’非翻訳領域にあるため、コード領域だけを対象とする検査では見つかりません。陰性という結果は「調べた範囲に変化がなかった」という意味であり、解析範囲を確認せずに否定することはできません。

誤解④「FTH1はがんの遺伝子だから遺伝する」

がんで問題になるのはFTH1の発現量の変化であり、生まれつきの配列の変化ではありません。遺伝性腫瘍の原因遺伝子として確立した報告もなく、家族に受け継がれるがんのリスクとは切り離して考えて差し支えありません。

よくある質問(FAQ)

Q1. FTH1遺伝子はどこにあって、何をつくる遺伝子ですか?

FTH1は11番染色体の長腕(11q12)にある遺伝子で、鉄を貯蔵するタンパク質フェリチンの重鎖(H鎖)をつくります。H鎖と軽鎖(FTL)が合計24個集まって球状の殻をかたちづくり、内部に最大約4,500個の鉄原子を無毒な酸化鉄としてしまい込みます。H鎖だけがフェロキシダーゼ活性という酵素のはたらきをもち、毒性の強い二価鉄をその場で三価鉄へ酸化します。全身のほぼすべての細胞で常に働いている遺伝子です。

Q2. 血清フェリチンが高いと言われました。FTH1の遺伝子検査を受けたほうがよいですか?

まずは鉄が本当に多いのかどうかを確かめる段階が先になります。血清フェリチンは炎症や肝細胞の障害でも上昇するため、血清鉄やトランスフェリン飽和度、炎症の指標、肝機能などを合わせて評価します。鉄過剰が確からしく、二次性の原因(頻回の輸血や鉄剤の過剰投与など)も見当たらない場合に、遺伝性の鉄代謝異常を検討します。遺伝性ヘモクロマトーシスは頻度の高い1型から評価するのが一般的で、FTH1による5型はきわめて稀です。

Q3. ヘモクロマトーシス5型はどのくらい多い病気ですか?

きわめて稀です。公的データベースOMIMには、日本の1家系が報告されていると記載されています。発端者は50代の女性で、他の病気の検査中にMRIで肝臓・心臓・骨髄への鉄沈着が疑われ、血清フェリチンと血清鉄、トランスフェリン飽和度の上昇、肝生検での強い鉄沈着が確認されました。報告例が限られるため、5型そのものの自然経過や治療成績についてまとまったデータは、現時点では明確に示されていません。

Q4. NBIA9は親から遺伝しますか?きょうだいにも起こりますか?

これまでに報告されているNBIA9の変異は、ご本人で新たに生じた新生突然変異が中心です。ご両親の血液を調べても同じ変化は見つかっておらず、ご両親が保因者である可能性は低いと考えられます。したがって、きょうだいに同じ病気が起こる確率は大幅に低くなります。ただし、ご両親の生殖細胞にだけ変化が存在するモザイクという可能性は完全には否定できないため、ゼロと言い切ることはできません。ご本人からお子さんへ伝わる確率は50%です。

Q5. 神経フェリチン病とNBIA9は同じ病気ですか?

別の病気です。日本語で神経フェリチン病(ニューロフェリチノパチー)というときは、通常はフェリチン軽鎖の遺伝子FTLの変異によるNBIA3を指します。一方NBIA9はフェリチン重鎖の遺伝子FTH1の変異によるもので、発達の遅れやてんかんを伴う小児期発症の報告が中心です。どちらも最終エキソンの変異でE-helixが壊れるという共通点がありますが、原因遺伝子も臨床像も異なりますので、診断名は原因遺伝子とあわせて確認してください。

Q6. FTH1はミネルバクリニックのどの検査で調べられますか?

ヘモクロマトーシス遺伝子検査(NGSパネル)の対象7遺伝子(BMP2・FTH1・HAMP・HFE・HJV・SLC40A1・TFR2)にFTH1が含まれています。神経症状が前面に出ている場合には、脳内鉄沈着神経変性症(NBIA)の遺伝子検査パネルや、対象を広くとるクリニカルエクソーム検査・全エクソーム検査(WES)も選択肢になります。どの検査が適しているかは症状や家族歴によって変わりますので、検査前に臨床遺伝専門医とご相談ください。

Q7. コード領域だけを調べる検査で、FTH1の変異は見つかりますか?

ヘモクロマトーシス5型の原因となる変異は、タンパク質をコードしない5’非翻訳領域のIREにあります。したがって、アミノ酸を決めるコード領域とスプライス接合部だけを対象とする設計の検査では、原理的に検出できません。鉄過剰症を疑って検査を行う場合は、5’非翻訳領域が解析範囲に含まれているかを確認する必要があります。またFTH1には多数の偽遺伝子があり、短い配列を読む方法では読み取りの割り当てを誤ることがある点にも注意が必要です。

Q8. FTH1ががんに関係すると聞きました。家族に遺伝するのでしょうか?

がんの研究で問題になっているのは、FTH1の発現量が腫瘍のなかで変化することであり、生まれつきの遺伝子配列の変化ではありません。FTH1は遺伝性腫瘍の原因遺伝子として確立していないため、ご家族に受け継がれるがんのリスクと結びつけて心配される必要はありません。骨肉腫や頭頸部扁平上皮がんで報告されている内容も、細胞や組織を用いた研究段階の知見であり、FTH1を標的とした治療が確立しているわけではありません。

🏥 鉄代謝の遺伝子診断のご相談

遺伝性ヘモクロマトーシス・脳内鉄蓄積を伴う神経変性症などに関する
遺伝子検査と遺伝カウンセリングは
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにご相談ください。

参考文献

  • [1] Entry – *134770 – FERRITIN HEAVY CHAIN 1; FTH1. Johns Hopkins University. [OMIM 134770]
  • [2] Unity in the Biochemistry of the Iron-Storage Proteins Ferritin and Bacterioferritin. Chem Rev. 2015. [Chemical Reviews]
  • [3] Comparative Fe and Zn K-edge X-ray absorption spectroscopic study of the ferroxidase centres of human H-chain ferritin and bacterioferritin from Desulfovibrio desulfuricans. JBIC Journal of Biological Inorganic Chemistry. [JBIC]
  • [4] A mutation, in the iron-responsive element of H ferritin mRNA, causing autosomal dominant iron overload. Am J Hum Genet. 2001. [PubMed 11389486]
  • [5] Quantitative proteomics identifies NCOA4 as the cargo receptor mediating ferritinophagy. Nature. 2014. [Nature]
  • [6] Ferritinophagy via NCOA4 is required for erythropoiesis and is regulated by iron dependent HERC2-mediated proteolysis. eLife. [eLife]
  • [7] Entry – #615517 – HEMOCHROMATOSIS, TYPE 5; HFE5. Johns Hopkins University. [OMIM 615517]
  • [8] Neurodegeneration with Brain Iron Accumulation Disorders Overview. GeneReviews. [NBK121988]
  • [9] Entry – #620669 – NEURODEGENERATION WITH BRAIN IRON ACCUMULATION 9; NBIA9. Johns Hopkins University. [OMIM 620669]
  • [10] Heterozygous nonsense variants in the ferritin heavy-chain gene FTH1 cause a neuroferritinopathy. HGG Adv. 2023. [PMC10510067]
  • [11] Autosomal Dominant FTH1 Variant Causing Pontocerebellar Hypoplasia and Late-Onset Neuroferritinopathy. Neurology Genetics. [Neurology Genetics]
  • [12] Novel mutations in the ferritin-L iron-responsive element that only mildly impair IRP binding cause hereditary hyperferritinaemia cataract syndrome. [PMC3585816]
  • [13] Early embryonic lethality of H ferritin gene deletion in mice. J Biol Chem. 2000. [PubMed 10652280]
  • [14] H ferritin knockout mice: a model of hyperferritinemia in the absence of iron overload. Blood. 2001. [Blood]
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  • [16] α-synuclein triggers NCOA4-FTH1-mediated ferroptosis of oligodendrocyte in multiple system atrophy. Acta Neuropathologica. [Acta Neuropathologica]
  • [17] Macrophage ferritin heavy chain/α-synuclein regulatory axis modulates ferroptosis during kidney injury. JCI Insight. [JCI Insight]
  • [18] Inhibition of ferroptosis counteracts the advanced maternal age-induced oocyte deterioration. Cell Death Differ. 2025. [Cell Death Differ]
  • [19] M7G modification of FTH1 and pri-miR-26a regulates ferroptosis and chemotherapy resistance in osteosarcoma. Oncogene. 2023. [Oncogene]
  • [20] FTH1 indicates poor prognosis and promotes metastasis in head and neck squamous cell carcinoma. [PMC10658887]
  • [21] FTH1 Pseudogenes in Cancer and Cell Metabolism. Cells. 2020. [PubMed 33260500]

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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