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miRNA (MicroRNA)
miRNA(マイクロRNA)は、21-25ヌクレオチドの1本鎖RNA分子であり真核生物において細胞が作るタンパク質の種類や量をコントロールするのに役立つ分子群の総称である。細胞はマイクロRNAを利用して遺伝子発現を制御している。マイクロRNAの分子は、細胞内や血流に存在する。
ヒトゲノムには1000以上のmiRNAがコードされ、miRNAはその標的遺伝子の3’UTR(untranslated resion 非翻訳領域)を認識に対して完全とは言えない相補性で結合する。このため1つのmiRNAで非常に多くの遺伝子を標的とすることが可能となっている。miRNAが関係する遺伝子の転写抑制は、個体発生、細胞増殖やその分化、アポトーシスなどの幅広い細胞の機能に重要な役割を担っている(文献)。
遺伝子発現とは、ある特定の遺伝子が、ある特定の時期に、そのタンパク質を作っていることをさす。
タンパク質合成のプロセスは以下の4段階である。
- 1.遺伝子の活性化:転写因子と呼ばれるタンパク質が遺伝子に結合し、遺伝子を活性化。タンパク質の情報を持つ遺伝子を活性化することで、タンパク質の合成を開始する。
- 2.遺伝子転写:活性化された遺伝子のDNAが開き、遺伝子のDNA配列が露出する。遺伝子のDNA配列は、RNAの形でコピーされる。この遺伝子のRNAコピーは、メッセンジャーRNA(mRNA)と呼ばれる。
- 3.mRNAの編集:mRNAの不要な部分が切り取られ、除去(スプライシング)される。残った成熟mRNA分子は、細胞核を離れ、細胞質へと運ばれる。
- 4.翻訳:細胞質では、リボソームと呼ばれる小さな構造物(分子機械)がmRNAに付着する。リボソームは片方の端から始まり、mRNAの鎖に沿って動き、塩基配列(つまり遺伝子のコピー)を「読む」。その際、アミノ酸を1つ1つ結合し、最終的なタンパク質となる鎖を成長させる。microRNAは、細胞質で遺伝子のmRNAと結合することで機能する。これにより、その翻訳を阻止したり遅らせたりする。
miRNA (MicroRNA)の合成経路
- 1.miRNA遺伝子は、まず核内でRNAポリメラーゼIIにりprimary miRNA(pri-miRNA)に転写される。
- 2.pri-miRNAは、RNase III系の酵素であるDroshaによって70〜100ヌクレオチドのヘアピン前駆体miRNA(pre-miRNA)へと処理される。
- 3.Exportin-5はpre-miRNAを細胞質へ移送される。
- 4.細胞質で再びリボヌクレアーゼDicerによって切断され成熟したmiRNA二重鎖となる。この二重鎖はRNA-induced silencing complex (RISC)に結合し、相補的なmiRNA鎖は放出され分解される。RISCでは、成熟した一本鎖のmiRNAが標的mRNAに結合し、結合の相補性のレベルに応じて、その分解を誘導するか、またはその翻訳を阻害する。
マイクロRNAが遺伝子発現を制御する仕組み
microRNAは、主に細胞質でメッセンジャーRNA(mRNA)と結合することで遺伝子の発現を制御する。マークされたmRNAは、すぐにタンパク質に翻訳されるのではなく、破壊されてその成分が再利用されるか、保存されて後で翻訳される。ある特定のマイクロRNAの発現量が不足(細胞内のレベルが異常に低い)すると、そのmiRNAが通常制御しているタンパク質が過剰に産生されることがあり、マイクロRNAが過剰発現すると、そのタンパク質は過小産生されることになる。
マイクロRNAとがん
細胞には、タンパク質を作るための情報を持つ遺伝子と同時に、マイクロRNAを作るための情報を持つ遺伝子も存在する。がん細胞では、マイクロRNAの遺伝子に突然変異がある場合がある。マイクロRNA遺伝子に変異が生じると、細胞内に特定のマイクロRNAが存在しなくなったり、細胞内のレベルが低くなったりする。マイクロRNAのレベルが異常に低いと、そのマイクロRNAが制御している遺伝子の過剰発現を引き起こし、がんの発生や進行につながる可能性がある。マイクロRNAの発現の異常は、多くのヒトのがんに関与している。
この記事の著者:仲田洋美医師
医籍登録番号 第371210号
日本内科学会 総合内科専門医 第7900号
日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医 第1000001号
臨床遺伝専門医制度委員会認定 臨床遺伝専門医 第755号