この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

脳海綿状血管腫(脳海綿状血管奇形、英語でcerebral cavernous malformation:CCM)は、脳や脊髄の細い血管がスポンジのように集まってできる「血管の形の異常」です。多くは遺伝しませんが、脳にいくつもある場合や、ご家族にもある場合は、遺伝する「家族性」の可能性があり、KRIT1・CCM2・PDCD10という3つの遺伝子のどれかの変化が原因になります。生まれ持った遺伝子は一生変わりません。一度の検査でわかったことは、ご自身の経過観察の計画だけでなく、ご家族が検査やMRIを受けるかどうか、これからの妊娠をどう考えるかにも、ずっと使える情報になります。このページでは、遺伝するタイプとしないタイプの違い、遺伝する確率、3つの遺伝子を調べる検査でわかることと、そのあとにできることを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. この検査で何がわかりますか?
遺伝する「家族性」の脳海綿状血管腫の原因となるKRIT1・CCM2・PDCD10の3つの遺伝子に、病気の原因となる変化があるかを一度に調べます。見つかれば家族性と確かめられ、ご家族も同じ変化を受け継いでいるかを調べられるようになります。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
MRIで脳や脊髄に海綿状血管腫がいくつも見つかった方、ご家族にも海綿状血管腫の方がいる方、ご家族が家族性と診断されていてご自身やお子さんのことを知りたい方、妊娠を考えていて遺伝が気になる方です。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込330,000円で、遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。結果までは2〜3週間です(至急オプション55,000円で約7日短くなります)。血液・唾液・頬の内側の粘膜で調べられ、オンライン診療にも対応しています。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。原因が見つかれば、お子さんに受け継がれる確率は1人あたり2分の1です。ご家族の検査やMRIの考え方、意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。
1. 脳海綿状血管腫(海綿状血管奇形)とは
脳海綿状血管腫は、がん(悪性腫瘍)ではなく、壁の薄い細い血管が集まってできた「血管の形の異常(血管奇形)」です。遺伝性疾患の解説書GeneReviewsでは、一般の人の0.4〜0.9%にあると推定されています[1]。脳海綿状血管奇形、海綿状血管腫、カベルノーマ(cavernoma)とも呼ばれ、英語の略称はCCMです。
「腫」とつくけれど、腫瘍ではない
名前に「腫」という字が入っているため腫瘍と思われがちですが、細胞が増え続ける腫瘍とは違い、血管そのものの形が異常になった病変です[1]。大きさは小さな点のようなものから数センチのものまであり、MRIで偶然見つかることもあります。なお「海綿状血管腫」という名前は肝臓や皮膚の病変にも使われますが、このページで扱うのは脳と脊髄にできるものです。家族性の方では、まれに肝臓・腎臓などの血管の病変や、網膜の病変(約5%)が見つかることも報告されています[1]。脳の血管奇形には、ほかに動静脈奇形(AVM)などがあり、海綿状血管腫とは原因も対応も違います。
どれくらいの人にあるか・遺伝するのはどれくらいか
GeneReviewsは、一般の人の0.4〜0.9%に海綿状血管腫があると推定しています[1]。米国の患者団体の専門家パネルがまとめた診療指針(2017年)では、全体の約20%が家族性で、常染色体顕性(優性)遺伝のしかたをとるとされています[2]。つまり、海綿状血管腫と言われた方の多くは遺伝しないタイプですが、一部の方は親から子へ伝わるタイプです。どちらなのかを見分けることが、このページの検査を考える出発点になります(第2章)。
主な症状:てんかん発作・出血・頭痛
GeneReviewsによると、家族性の方の症状は、てんかん発作が20〜40%、頭痛が10〜30%で、最初に見つかったときに症状を伴う出血がある方は30〜40%とされています。手足の動かしにくさ・しびれ・物が二重に見えるなど、病変の場所に応じた神経の症状が出ることもあります。症状が出るのは10代から40代が多い一方、症状のある方の20%は15歳未満で見つかっています。そして、家族性の方の最大50%は、一生症状が出ないまま過ごすとされています[1]。
出血しやすさは「場所」と「どう見つかったか」で変わる
海綿状血管腫の出血しやすさは、病変が脳幹にあるかどうかと、出血や神経の症状で見つかったかどうかで大きく変わります。治療をしていない海綿状血管腫の方1,620人(7つの研究)のデータをまとめた解析では、診断から5年以内に症状を伴う脳の出血が起こる割合は、全体で約16%(15.8%)でした[3]。
🩸 診断から5年以内に症状を伴う脳の出血が起こる割合
※Horneらの個人データのメタ解析[3]による。家族性と孤発性の両方を含む集団の数字で、一人ひとりの確率をそのまま表すものではありません。
家族性の方に限ると、GeneReviewsは出血の起こりやすさを100人年あたり2.8回、出血したことがある方では4.5回と紹介しています[1]。数字は研究の対象や数え方で変わるため、ご自身の病変の場所・数・これまでの経過とあわせて、脳神経の主治医と相談することが大切です。
2. 遺伝するタイプ(家族性)と、遺伝しないタイプ(孤発性)
海綿状血管腫が1つだけで、すぐそばに静脈性血管腫(発達性静脈異常:DVA)がある場合は、多くが遺伝しない孤発性です。脳や脊髄にいくつもあって静脈性血管腫を伴わない場合や、ご家族にもある場合は、遺伝する家族性を考えます[1]。
🧬 孤発性と家族性の違い
※GeneReviews[1]による。
1つだけで、そばに静脈性血管腫がある:多くは孤発性
孤発性の海綿状血管腫は、ふつう1つだけで、静脈性血管腫を伴うことが多いとされます[1]。孤発性の病変の中からはPIK3CA遺伝子やMAP3K3遺伝子の変化が見つかっていますが、これは病変ができる途中で、その場所の細胞にだけ起きた変化(体細胞変異)です[1]。生まれつき全身の細胞にある変化ではないので、お子さんに受け継がれることはふつうなく、血液や唾液の遺伝子検査でも見つかりません。
いくつもある・ご家族にもある:家族性を考える
GeneReviewsは、静脈性血管腫を伴わずに脳や脊髄に海綿状血管腫が多発していることを家族性の特徴とし、海綿状血管腫が複数ある方や、1つでもご家族に海綿状血管腫の方がいる方では、家族性と臨床的に診断できるとしています。ご家族に海綿状血管腫と言われた方がいなくても、家族性を否定することはできません[1]。ご家族が症状がないまま気づいていないこともあるからです。家族性では、時間とともに新しい病変ができることがあり、その数は1人あたり1年に0.2〜1個と報告されています[1]。「生まれつき」の病気ですが、病変は一生を通じて増えたり大きさが変わったりしうる、ということです。
家族性は常染色体顕性(優性)遺伝:お子さんへは2分の1
家族性脳海綿状血管腫は常染色体顕性(優性)遺伝で、原因の変化をもつ方のお子さんは、1人あたり2分の1の確率でその変化を受け継ぎます[1]。性別には関係なく、上のお子さんが受け継いだかどうかで下のお子さんの確率が変わることもありません。家族性と診断された方の多くは、症状のある親御さんをもつとされる一方、ご本人の代で新しく起きた変化(新生突然変異)による方の割合はわかっていません[1]。
同じ変化をもっていても、症状の出方は人それぞれ
GeneReviewsが紹介しているKRIT1の家系の研究(64家系・202人)では、原因の変化をもつ方のうち症状があったのは62%でした。症状がなかった53人のうち45人は、MRIで病変が見つかっています[1]。原因をもっていても発症しない人がいることを「浸透率が100%ではない」、同じ原因でも症状の重さが違うことを「表現型の多様性」といいます。家族性脳海綿状血管腫は、その両方がはっきりした病気です。
⚠️ 「自分が軽いから、子どもも軽い」とは言えません
親御さんが症状に気づいていなかったり、症状がほとんどなかったりしても、同じ変化を受け継いだお子さんの経過が同じになるとは限りません。症状のある方の20%は15歳未満で見つかっており、遺伝子によっては子どものうちに出血しやすい型もあります(第4章)[1]。だからこそ、ご家族の誰かが家族性とわかったときは、症状の有無だけで判断せず、知ったうえで計画することに意味があります。
病変ができるしくみ:「ツーヒット」
家族性の方は、2本ある遺伝子のうち1本に、生まれつき働きを失う変化(機能喪失型変異)をもっています。家族性の方の病変を調べた研究では、病変の中の細胞で、残りの1本にも後から変化(体細胞変異)が起きて、2本とも働かなくなっていることが示されました[4]。これをツーヒット(2段階の変化)といいます。全身の細胞に「1本目」がある家族性の方では、あちこちで「2本目」が起こりうるため、病変が多発したり、新しくできたりすると考えられています。
3. どんな人がこの検査を受けるとよいか
2017年の診療指針は、静脈性血管腫を伴わない多発性の海綿状血管腫がある場合(頭部の放射線治療歴がない場合)や、家族歴がある場合に、KRIT1・CCM2・PDCD10の遺伝子検査を考えるよう勧めています[2]。新しく診断されたときに、3世代の家族歴を確かめることも勧められています[2]。
- ●MRIで、脳や脊髄に海綿状血管腫がいくつも見つかった方(静脈性血管腫を伴わない)
- ●海綿状血管腫が1つでも、ご家族(親・きょうだい・お子さん・祖父母・おじおば など)にも海綿状血管腫の方がいる方
- ●若いうちに、出血やてんかん発作をきっかけに海綿状血管腫が見つかった方
- ●皮膚の血管の病変(第4章)を伴う海綿状血管腫の方
- ●ご家族が家族性と診断されていて、ご自身やお子さんが受け継いでいるか知りたい方
- ●結婚・妊娠を考えていて、お子さんへの遺伝を知っておきたい方
見た目や症状、ご家族の様子だけでは、遺伝するタイプかどうかを決められないことがあります。ご家族に症状のない方が多い病気だからこそ、迷ったら、まず遺伝カウンセリングで状況をお聞かせください。
症状のないご家族が受ける場合(発症前の検査)
ご家族の中で原因の変化がわかっていれば、症状のない方も、同じ変化を受け継いでいるかを遺伝子検査で確かめられます。2017年の診療指針は、リスクのある成人のご家族に遺伝子検査を提案できるとしたうえで、症状のない方の検査には倫理的な配慮が必要だとしています[2]。GeneReviewsは、症状のない年上・年下のご家族の状態をはっきりさせることは適切だとし、ご家族の変化がわかっていない場合は、SWIなどの撮り方を含む脳(と脊髄)のMRIで調べるとしています[1]。
症状のない方が将来の発症の可能性を調べる検査を「発症前の検査(予測的検査)」といいます。当院は、ライフステージごとに患者さんの人生をサポートするという考え方で診療しており、知りたいと願う方を拒むことはしません。遺伝カウンセリングで十分に考えたうえで、ご本人が知りたいと決めた場合は、その意思を尊重して検査まで行います。知らないでいる選択も、同じように尊重します。
先が見えないまま過ごすより、わかったうえで、MRIを受ける時期、仕事、結婚や出産、住まいなどを計画したいと考える方もいます。英国でハンチントン病の発症前検査を受けた人の理由として最も多かったのは「不確実さを減らすため」(70.5%)でした[5]。病気は違いますが、「知って計画を立てたい」という思いは、海綿状血管腫のご家族にも通じるものだと考えています。一方で、結果を知ったあとの気持ちの変化は、受け継いでいてもいなくても起こりえます。当院では、結果をお伝えしたあとも遺伝カウンセリングで相談を続けていただけます。
お子さんについては、家族性では子どものうちに症状が出ることもあるため(症状のある方の20%は15歳未満[1])、検査を考える時期は、お子さんの年齢・症状・ご家族の遺伝子の型によって変わります。小さなお子さんのMRIでは、正確に撮るために眠くなる薬が必要になることもあります[2]。お子さんの検査を考えている場合も、遺伝カウンセリングでご相談ください。
結婚・妊娠を考えている方
結婚するか、子どもを持つかは、その人の生き方そのものに関わる大きな選択です。2017年の診療指針は、家族性や多発性の海綿状血管腫の方は、妊娠の前に遺伝カウンセリングを受けることを考えてよいとしています[2]。ご家族の原因の変化がわかっていれば、妊娠中の出生前診断や、着床前の検査(PGT)も可能とされています[1]。知ってから選べるように、検査・遺伝カウンセリング・出生前診断まで、当院で続けて支えられます(第6章)。
この検査より別の検査が向いている場合
脳や脊髄の海綿状血管腫について、遺伝するタイプかどうかを確かめたいなら、まずこの検査です。一方、ほかの血管の病気も考えたい場合や、海綿状血管腫ではない脳卒中が心配な場合は、次の検査のほうが向いていることがあります。
🔍 状況に合わせた検査の選び方
※海綿状血管腫が1つだけで、そばに静脈性血管腫がある場合は、多くが孤発性で、血液や唾液の遺伝子検査では原因が見つからないことがふつうです(第2章)。ご家族の状況を含めて、遺伝カウンセリングで検査が役に立つかどうかからご説明します。
4. 調べる3つの遺伝子と、それぞれの特徴
家族性脳海綿状血管腫の原因は、KRIT1が53〜65%、CCM2が約20%、PDCD10が10〜16%で、残りの5〜15%は原因の遺伝子がまだわかっていません[1]。この検査では、この3つの遺伝子をまとめて調べます。3つの遺伝子の働きが失われると、血管の内側をおおう細胞(内皮細胞)どうしのつながりが保てなくなり、もろい血管の集まりができると考えられています。
🧬 調べる遺伝子と、関係する病気
※対象遺伝子は当院の検査内容による。割合と遺伝のしかたはGeneReviews[1]、染色体の位置は米国国立医学図書館の遺伝子データベースによる。原因の遺伝子がわからない家族が5〜15%あります。
KRIT1(CCM1):いちばん多い原因。脊髄や皮膚の病変にも注意
KRIT1は家族性のいちばん多い原因です。GeneReviewsによると、KRIT1の変化をもつ方の最大70%で、脊髄にも海綿状血管腫が少なくとも1つ見つかるとされています。また、家族性の方の9〜20%に皮膚の血管の病変がみられ、KRIT1の変化をもつ方で多いとされています[1]。皮膚の病変が、家族性に気づくきっかけになることもあります。
CCM2:遺伝子の一部がまるごとなくなる変化が多い
CCM2の原因の変化は、遺伝子の文字(塩基)を読む方法で見つかるのが40〜70%で、遺伝子の一部や全体がなくなる・増える変化(欠失・重複)を調べる方法で見つかるのが30〜60%とされています[1]。当院の検査は、塩基の配列に加えて欠失・重複も料金に含めて調べます。なお、エクソン(遺伝子の中の区切り)2つ以上にわたる欠失・重複まで見られるのは血液の検体だけなので、どの検体にするかは遺伝カウンセリングでご相談ください(第5章)。
PDCD10(CCM3):子どものうちに症状が出やすい型
PDCD10は、細胞が自ら死ぬしくみ(アポトーシス)に関わるたんぱく質として見つかった遺伝子で、名前の「programmed cell death 10」はそこから来ています。GeneReviewsでは、PDCD10の変化をもつ方は、15歳未満のうちに出血で見つかることが多いとされています。症状を伴う脳の出血が起きた平均年齢は、PDCD10で12.9歳、KRIT1で22.9歳、CCM2で38.5歳と報告されています[1]。少人数(18人)の報告ですが、側弯症(39%)や、髄膜腫などの脳の腫瘍(18人中5人)がみられたことも紹介されています[1]。一方で、PDCD10の家系ではKRIT1より浸透率が低い可能性も指摘されています[1]。どの遺伝子かがわかると、お子さんのことを含めて、何に気をつけるかを具体的に考えやすくなります。
5. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、KRIT1・CCM2・PDCD10の遺伝子の小さな変化と、遺伝子の一部や全体がなくなる・増える変化(欠失・重複)です。一方で、遺伝子検査には必ず限界があります。
わかること
- ●遺伝子の小さな変化:次世代シークエンサー(NGS)で、たんぱく質の設計図にあたる部分(コード領域)と、その切れ目(スプライス部位)の塩基の変化を調べます。読み取りの質が十分でない場所は、サンガー法という別の方法で確かめます。
- ●欠失・重複:遺伝子1つまるごとの欠失・重複は、血液と頬の粘膜の検体で調べられます。エクソン2つ以上にわたる欠失・重複は、血液の検体の場合に調べられます。見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します。
- ●読み取りの精度:調べる遺伝子の領域の99%以上を、20回以上重ねて読み取ります(カバレッジ≥99% at 20x)。同じ場所を何度も読むほど、読み間違いを見分けやすくなります。
わからないこと(検査の限界)
- ●エクソン1つだけの欠失・重複:見つかることもありますが、ふだんは検出できません。
- ●調べていない種類の変化:染色体の一部が入れ替わる変化(転座・逆位)、繰り返し配列が伸びる変化、遺伝子のスイッチにあたる部分(プロモーター)の多く、エクソンから20塩基以上離れたイントロンの奥の変化(深部イントロン変異)は対象外です。
- ●体の一部の細胞だけにある変化:この検査は、体細胞モザイクや、病変の中だけに起きた変化(孤発性のPIK3CA・MAP3K3や、家族性の病変の「2本目」の変化)を見つけるためのものではありません。手術で取った病変の組織での検査は対象外です。
- ●3つ以外の原因:家族性の5〜15%は原因の遺伝子がまだわかっていません[1]。
- ●意義がまだわからない変化(VUS):病気の原因かどうか、まだ判断できない変化が見つかることがあります。VUSは、それだけで家族性と決めることも、否定することもできません[1]。
- ●陰性でも否定はできません:原因が見つからなくても、家族性を完全に否定することはできません。孤発性の場合は、原因が見つからないのがふつうです。
6. 結果が出たあと
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。原因が見つかった・見つからなかった・VUSが見つかった、のそれぞれで、次にできることが違います。
原因が見つかったとき:経過観察と、気をつけたいことが決まる
家族性と確かめられると、「何に気をつけて過ごせばよいか」を具体的に決めやすくなります。GeneReviewsと2017年の診療指針では、次のような点が挙げられています[1][2]。
- ●MRIの撮り方:海綿状血管腫を調べるMRIには、グラディエントエコー法(GRE)か磁化率強調画像(SWI)を含めることが勧められています。SWIは小さな病変まで見つけやすく、3テスラ以上のMRIが望ましいとされています。
- ●MRIを撮る時期:新しい症状が出たときや症状が悪くなったときに撮り直すことが勧められています。症状がないときに定期的に撮ることが役に立つかは、まだ意見が分かれています。
- ●てんかん発作:海綿状血管腫による最初の発作から抗てんかん薬を使うことは妥当とされ、薬で抑えにくいてんかんでは、早めに手術を考えることが勧められています。
- ●放射線:家族性の方では、脳や脊髄への放射線で新しい病変ができることが知られており、家族性の方へのガンマナイフなどの放射線手術は勧められていません。放射線を使う検査にも小さなリスクがあるとされています。
- ●薬:GeneReviewsは、解熱鎮痛薬のうち非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は一般に避けるのがよいとし、血を固まりにくくする薬(抗血栓薬)も、命に関わる血栓症などで必要な場合を除いて避けることを勧めています。女性ホルモンの飲み薬にも注意が呼びかけられています。一方、2017年の診療指針は、抗血栓薬のリスクについてのデータは少ないとしています。
ほかの病気のために必要な薬を、自己判断でやめないでください。家族性脳海綿状血管腫であることを主治医や歯科医に伝え、薬や放射線を使う治療・検査を受けるときに相談できるようにしておくことが、結果を「使える情報」にする第一歩です。病変を小さくする薬(プロプラノロールなど)は研究が進められている段階で、効果はまだ確かめられていません[1]。
ご家族への影響と、ご家族が検査を受けるとき
原因の変化が見つかった場合、ご両親・きょうだい・お子さんも同じ変化をもっている可能性があります。ご家族の中で原因がわかっていると、ほかのご家族は同じ場所だけを調べることで、受け継いでいるかどうかを確かめられます[1]。受け継いでいなければ、そのご家族とお子さんは家族性の心配から離れられます。受け継いでいれば、MRIの撮り方や、薬・放射線で気をつけることを、ご本人と同じように考えられます。症状のないご家族の検査は発症前の検査になるため、検査の前に遺伝カウンセリングで、知ることの意味をよく考えていただきます(第3章)。
原因が見つからなかったとき
原因の変化が見つからなかった場合に考えられるのは、(1)遺伝しない孤発性である、(2)まだわかっていない遺伝子が原因である(家族性の5〜15%)、(3)この検査では見つけにくい種類の変化である、の3つです[1]。ご家族に海綿状血管腫の方がいる場合は、ご家族がMRIで確かめるという方法もあります[1]。いずれの場合も、MRIの所見と症状にもとづく経過観察が引き続き大切です。
意義がまだわからない変化(VUS)が見つかったとき
VUSは、それだけで診断に使ったり、ご家族の検査に使ったりはしません[1]。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。調べた目的とは別の病気の原因が見つかった場合の扱いは、当院の二次的所見の開示方針をご覧ください。
結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。報告書の読み方は、遺伝子検査結果の見かたで解説しています。
妊娠を考えている方:妊娠中の注意と出生前診断の相談
2017年の診療指針は、妊娠中に神経の症状が出る危険は、妊娠していないときとおそらく変わらないとしており、ほとんどの方で経腟分娩ができるとしています[2]。GeneReviewsも、妊娠中と妊娠していないときで症状を伴う出血の危険は変わらないとしたうえで、最近出血した方・てんかんのある方・頭痛のある方は妊娠中に注意深く見守ること、抗てんかん薬はお腹の赤ちゃんへの影響がより少ないものを選んで葉酸をとること、発作が起きたときは造影剤を使わないMRIを考えることを挙げています[1]。妊娠中の管理と分娩は、かかりつけの産科と脳神経の主治医にご相談ください。
GeneReviewsは、ご家族で原因の変化がわかっていれば、リスクのある妊娠で出生前検査を行えるとしています[1]。ご家族で原因の遺伝子の変化がわかっていれば、妊娠したときに赤ちゃんで同じ変化があるかを調べられます。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。当院では羊水検査・絨毛検査を院内で行っています(2025年6月から産婦人科を併設)。この病気で出生前診断をどのように考えるかは、病気の特徴や国内の指針を踏まえて個別に判断することになるため、妊娠を考えている段階からご相談ください。くわしくは単一遺伝子疾患の出生前診断でも解説しています。なお、KRIT1・CCM2・PDCD10は当院のNIPTの対象遺伝子には入っていないため、この病気はNIPTでは調べられません。
海外でPGT-M(着床前遺伝学的検査)を考えている方へ:英語の検査結果をお渡しできます
PGT-Mは、体外受精でできた受精卵(胚)の一部の細胞を調べ、ご家族でわかっている遺伝子の変化を受け継いでいない胚を選んで子宮に戻す検査です。当院は体外受精・PGT-Mを行っていません。当院でできるのは、原因の遺伝子の変化の確定、英語の検査結果の用意、遺伝カウンセリング、ご家族の遺伝子検査、妊娠したあとの絨毛検査・羊水検査です。英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。
欧州ヒト生殖学会(ESHRE)の指針は、PGT-Mの準備として、(1)病気の原因と確かめられた遺伝子の変化があること、(2)どの遺伝子のどの変化かが書かれた元の報告書(認定を受けた検査室のもの)、(3)ご家族の検体、を挙げています[6]。受精卵から取れるDNAはごくわずかで、変化を直接読むだけでは、2本あるうちの片方が読み取れない「アレルドロップアウト」などで判定を誤るおそれがあります。そのため、変化のある場所の両側にある目印(多型マーカー)で「変化をもつ染色体」を家系の中でたどる方法(ハプロタイプ解析)を組み合わせます。顕性遺伝の病気では、ご夫婦に加えて、病気のある方が少なくとも1人(できれば2人)、および/または発症していない方1人の検体が目安とされています[6]。
ご本人の検査結果だけでは、PGT-Mの準備はふつう整いません。血縁者の検体がない場合について、指針は治療周期の受精卵や1個の精子を調べて変化の乗った染色体を決める方法を挙げていますが、できるかどうかは施設や家系の状況で大きく変わり、受けられないこともあります。また、ご本人の代で新しく起きた変化で、これまでに妊娠歴のないご夫婦では、一般的なハプロタイプ解析の方法は使えないとされています[6]。海外でPGT-Mを考えている方は、ご本人の検査の段階から、検査に協力していただけるご家族(とくに同じ変化をもつ方)がいるかを考えておくことが大切です。当院では、ご家族の遺伝子検査も、遺伝カウンセリングのうえでお受けしています。
臨床遺伝専門医としての判断として、意義がまだわからない変化(VUS)は病気の原因と確かめられていないため、そのままPGT-Mの対象にするのは難しいと考えています。また、海外の施設によって求められる書類や検体は違うので、受ける予定の施設にも前もって確認してください。
⚠️ PGT-Mは診断ではなく、スクリーニング検査です
PGT-Mは受精卵のごく一部の細胞を調べる検査で、結果が赤ちゃんの状態と食い違うことがあります。ESHREの指針は、多くの施設で誤った結果になる割合は全体で1〜3%まで下げられているとしたうえで、PGTのあとに妊娠したすべての方に出生前診断を提案すべきとしています[7]。当院では、PGT-Mで選んだ胚で妊娠した場合も、妊娠中に赤ちゃんそのものを調べる確定検査(絨毛検査・羊水検査)で確かめることが望ましいと考えています。当院では絨毛検査・羊水検査を院内で行っており、海外でPGT-Mを受けたあとの妊娠でもご相談いただけます。
日本では、日本産科婦人科学会の「重篤な遺伝性疾患を対象とした着床前遺伝学的検査(PGT-M)」に関する指針(2026年9月改定)にもとづき、PGT-Mは症例ごとに学会の審査を受け、そのうえで実施施設の倫理委員会が承認して行われます。指針の「重篤」は、原則として、成人に達する前に日常生活が著しく損なわれる、または生存が危ぶまれる状態になる疾患で、申請の時点で有効な治療法がないか、治療法があっても高度かつ侵襲度の高いもの、とされています。成人に達する前に生存が危ぶまれるわけではないものの日常生活が著しく損なわれる状態が現れる疾患では、その病気の専門医の意見書などを追加で出す仕組みもあります(2026年10月時点で学会の公式ページを確認)。
PGT-Mの対象になる病気は、国によって違います。日本では症例ごとに学会が審査し、審査が続いている申請も多くあります(学会の発表では、2025年7月〜2026年6月の1年間に審査した73件のうち、37件が審査継続中。2026年9月発表)。英国では、公的機関(HFEA)がPGT-Mを使える病気の一覧を公表しており、2,000を超える病気が載っています(2026年9月17日更新の一覧で2,067)。一覧にない病気は、施設を通じて申請し、HFEAが審査します。米国では、PGTを直接規制する連邦や州の法律はなく、主に医師・施設の判断で行われています[8]。どの病気がPGT-Mの対象になるかは、国や制度、施設によって違います。同じ病気でも、ある国では対象になり、別の国では個別の審査が必要になることがあります。受ける国の制度と、施設の条件を前もって確かめてください。くわしくは海外でPGT-M(着床前診断)を考えている方へで解説しています。
7. 日本の制度(2026年10月時点)
脳海綿状血管腫(海綿状血管奇形)という病名は、2026年10月時点で、指定難病の一覧には載っていません。難病情報センターの指定難病の一覧(五十音別索引)で確かめました。小児慢性特定疾病情報センターの「脈管系疾患」の対象疾病にも、この病名は載っていません(どちらも2026年10月16日に確認)。
ただし、てんかんや、出血のあとに残った手足の動かしにくさなど、症状に応じて使える制度がある場合があります。どの制度が使えるかは、主治医や、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。
8. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検査費用は税込330,000円で、結果までは2〜3週間です。血液・唾液・頬の内側の粘膜のいずれでも調べられ、オンライン診療にも対応しています。
ご予約
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遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
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検体の採取血液・唾液・頬の粘膜
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結果のご説明2〜3週間後・マイページへ
💴 費用・日数・検体
※当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。
オンライン診療(ビデオ通話での診療)で遺伝カウンセリングを行ったあと、検体を当院にお送りいただく流れです。オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいたあとにお送りします。検体の取り違えを防ぎ、検査に使える品質を保つため、ご自身の判断で先に検体を採取しないでください。エクソン2つ以上にわたる欠失・重複まで調べられるのは血液の検体なので(第5章)、検体の選び方も遺伝カウンセリングでご説明します。
遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。遺伝カウンセリングとはもあわせてご覧ください。
9. 院長コラム
🩺 院長コラム【「症状がないから大丈夫」では、家族の計画は立てられない】
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。
遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。家族性脳海綿状血管腫は、同じ変化をもっていても一生症状が出ない方がいる一方で、子どものうちに出血する方もいる病気です。だからこそ、「親は症状がないから」「海綿状血管腫は1つしか見つかっていないから」という印象だけで、ご家族の将来を決めてしまわないでほしいと考えています。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。たとえば、家族歴が濃いものの、ご本人は大学を卒業して会社に勤めていた方が、念のため検査を受けたところ、染色体の微小欠失が見つかったことがあります。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。原因がわかれば、どんなMRIをいつ撮るか、どんな薬や治療に気をつけるか、ご家族の誰が検査を受けるか、を具体的に決められます。知ったうえで結婚や妊娠を考えたい方には、出生前診断まで当院で続けて支えられる体制を整えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 海綿状血管腫は脳腫瘍ですか?
いいえ。脳海綿状血管腫は、細胞が増え続ける腫瘍ではなく、壁の薄い細い血管が集まってできた血管の形の異常(血管奇形)です。名前に「腫」の字が入っているため腫瘍と誤解されやすいのですが、がん(悪性腫瘍)ではありません。一般の人の0.4〜0.9%にあると推定されています。
Q2. 海綿状血管腫は遺伝しますか?
多くは遺伝しません。全体の約20%が遺伝する家族性で、常染色体顕性(優性)遺伝のしかたをとり、原因の変化をもつ方のお子さんは1人あたり2分の1の確率で受け継ぎます。脳や脊髄にいくつもある場合や、ご家族にもある場合は家族性を考え、KRIT1・CCM2・PDCD10の遺伝子検査で確かめられます。
Q3. 海綿状血管腫は放置しても大丈夫ですか?
症状がないまま見つかる方も多く、家族性の方でも最大50%は一生症状が出ないとされています。ただし、経過を見るあいだも、新しい症状が出たときや症状が悪くなったときにはMRIで確かめることが勧められています。出血しやすさは病変の場所(脳幹かどうか)や、出血・神経の症状で見つかったかどうかで変わるため、脳神経の主治医と相談してください。
Q4. 海綿状血管腫は難病(指定難病)ですか?
2026年10月時点で、脳海綿状血管腫(海綿状血管奇形)という病名は指定難病の一覧に載っていません。小児慢性特定疾病の脈管系疾患の対象疾病にも載っていません(難病情報センター・小児慢性特定疾病情報センターで2026年10月16日に確認)。症状に応じて使える制度は、主治医やお住まいの自治体の窓口でご確認ください。
Q5. 脳幹部の海綿状血管腫は出血しやすいですか?
脳幹にある海綿状血管腫は、脳幹以外より出血しやすいと報告されています。1,620人のデータをまとめた解析では、診断から5年以内に症状を伴う出血が起こる割合は、出血や神経の症状がなく見つかった場合で脳幹以外3.8%・脳幹8.0%、出血や神経の症状で見つかった場合で脳幹以外18.4%・脳幹30.8%でした。
Q6. 海綿状血管腫があっても妊娠・出産はできますか?
2017年の診療指針は、妊娠中に神経の症状が出る危険は妊娠していないときとおそらく変わらないとし、ほとんどの方で経腟分娩ができるとしています。家族性や多発性の方は、妊娠の前に遺伝カウンセリングを受けることも考えてよいとされています。ご家族の原因の変化がわかっていれば出生前診断も可能で、当院では羊水検査・絨毛検査を院内で行っています。
Q7. 海外でPGT-Mを受けたいのですが、英語の検査結果はもらえますか?
はい。英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。当院は体外受精・PGT-Mを行っていません。また、ご本人の検査結果だけでは、PGT-Mの準備はふつう整いません。ご家族の検体が必要になることが多いので、くわしくは「海外でPGT-M(着床前診断)を考えている方へ」をご覧ください。
Q8. 検査で原因が見つからなければ、遺伝ではないということですか?
そうとは限りません。家族性の5〜15%は原因の遺伝子がまだわかっていないほか、この検査では見つけにくい種類の変化もあります。一方、海綿状血管腫が1つだけの孤発性では、原因が見つからないのがふつうです。ご家族に海綿状血管腫の方がいる場合は、ご家族がMRIで確かめる方法もあります。
🧬 一度の検査で、ご自身とご家族のこれからを計画する
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。脳海綿状血管腫が遺伝するタイプかどうかがわかれば、MRIの撮り方や気をつけたい薬・放射線、ご家族の検査、結婚や妊娠の計画まで、先を見通して考えられるようになります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。
お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768
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