目次
絨毛膜下血腫(じゅうもうまくかけっしゅ)は、赤ちゃんを包む袋(胎嚢)の外側の膜と子宮の壁の間に血液がたまった状態で、妊娠初期の超音波検査で見つかることの多い所見です。多くは時間とともに吸収され、そのまま妊娠を続けられます。「動きすぎたから」「仕事を続けたから」血腫ができたと示した研究はありません。この記事では、絨毛膜下血腫とは何か、なりやすい人、症状、流産のリスク、安静や仕事の考え方、受診の目安を、研究データをもとに解説します。
Q. 絨毛膜下血腫は動きすぎが原因ですか?赤ちゃんは大丈夫ですか?
A. 動きすぎや仕事が原因で血腫ができると示した研究はなく、原因そのものはまだわかっていません。研究をまとめた解析では、血腫がない場合に比べて流産の割合は高くなるものの、血腫がある人の多くはそのまま妊娠を続けています。出血が増える、強い腹痛がある、発熱があるときは、妊婦健診を待たずに受診してください。
- ➤絨毛膜下血腫とは → 胎嚢の外側の膜と子宮の壁の間に血がたまった状態。超音波では三日月形の黒い部分に見える
- ➤なりやすい人 → 体外受精など生殖補助医療による妊娠で多いと報告。動きすぎが原因という根拠はない
- ➤流産のリスク → 研究のまとめでは血腫なし8.9%、血腫あり17.6%。研究によって差がある
- ➤安静と仕事 → 安静が流産を防ぐという質の高い根拠は不十分。主治医の指示は母健連絡カードで職場に伝えられる
1. 絨毛膜下血腫とは?エコーでの見え方と見つかる時期
絨毛膜下血腫は、妊娠初期の超音波検査で、胎嚢のまわりに血液のたまりが見つかった状態を指す名前です。妊婦健診で偶然見つかることもあれば、出血があって受けた超音波検査で見つかることもあります。病名のように聞こえますが、まずは「超音波で見えた所見の名前」と考えると、このあとの説明が理解しやすくなります。
胎嚢を包む膜と子宮の壁の間に血がたまった状態
絨毛膜下血腫とは、胎嚢を包む外側の膜(絨毛膜)と、妊娠中の子宮内膜(脱落膜)の間に血液がたまった状態です。英語では subchorionic hematoma(略してSCH)、または subchorionic hemorrhage と呼ばれます。絨毛膜の一部が子宮の壁から部分的にはがれ、その間に出血が起こると考えられています[1]。
絨毛膜の外側には、のちに胎盤になる絨毛(胎盤のもとになる組織)が伸びて、子宮内膜に根を張るように入り込んでいきます。妊娠初期はこの「根を張る」作業が進んでいる最中で、子宮内膜側では新しい血管がさかんにつくられています。総説では、絨毛の細胞が脱落膜へ入り込む過程と、脱落膜の血管づくりがうまく進まないことが重なると、膜がはがれて出血し、血腫になるという仮説が示されています[2]。
ただし、これはあくまで仮説の段階です。なぜその人に血腫ができたのかを、一人ひとりについて特定する方法はありません。血腫という言葉から「血管が切れた」「強くぶつけた」といった場面を想像しがちですが、妊娠初期の血腫の多くは、外からの力とは関係なく、胎盤ができていく過程の中で起こるものと考えられています。
💡 用語解説:絨毛膜と脱落膜
絨毛膜は、赤ちゃんと羊水を包む袋(胎嚢)のいちばん外側の膜です。表面から伸びる絨毛がやがて胎盤になります。脱落膜は、妊娠すると厚く変化した子宮内膜のことで、出産のときに胎盤と一緒にはがれ落ちる(脱落する)ことからこの名前があります。絨毛膜下血腫は、この2つの層の境目に血液がたまった状態です。
エコー(超音波検査)でどう見える?何週ごろ見つかる?
経腟超音波検査では、胎嚢のまわりに三日月形や三角形の黒っぽい部分として見えます。診断の基準でも、超音波で胎嚢のまわりに見える三日月形または三角形の、黒く抜けた(無エコー〜低エコーの)領域とされています[3]。血液は時間がたつと固まったり溶けたりするため、見え方は日によって変わります。
ここで知っておきたいのは、超音波で黒く見える部分が必ずしも血液とは限らないことです。日本産婦人科医会の解説によると、超音波で黒く見える部分は「水」か「新しい出血」のどちらかで、外に出血したエピソードがない場合、その黒い部分が本当に出血であるとは言い切れません[4]。健診で「血腫がありますね」と言われても、出血がなければ、血液ではない液体がたまっているだけのこともあります。
見つかる時期は、妊娠初期の健診で胎嚢や心拍を確認する頃が中心です。妊娠10〜20週の性器出血では、絨毛膜下血腫が原因として多いものの一つで、出血例の約11%を占めるとされています[1]。また、血腫が妊娠7週より前に初めて診断された場合は、20週前の流産のリスクが高かったという報告があります(調整オッズ比2.71)[5]。早い時期に見つかったからといって必ず経過が悪いわけではありませんが、医師が見つかった時期を気にするのはこのためです。
どれくらいの人に起こる?
一般の妊婦さん全体では、およそ50人に1人前後で見つかると報告されています。妊娠初期から健診を受けた4万3,660人を追跡した研究では、初期の超音波で絨毛膜下血腫が見つかったのは815人(1.87%)でした[6]。
一方で、体外受精などの生殖補助医療による妊娠では頻度が高く、日本の総説では30〜40%と自然妊娠より高いとされています[7]。出血などの症状があって超音波を受けた人だけを集めた研究でも、頻度は高くなります。どこまで小さな黒い部分を「血腫」と数えるかという診断の基準も、研究ごとに異なります。
つまり、「何人に1人」という答えは、どんな人を対象にした数字なのかで大きく変わります。インターネットで見かける数字が記事によって違うのは、このためです。ご自身が体外受精で妊娠した場合や、出血があって受診した場合には、一般の数字より見つかりやすい集団にいると考えてください。
切迫流産との違い
切迫流産は「流産になるかもしれない症状がある状態」の名前で、絨毛膜下血腫はその原因の一つになりうる「超音波の所見」です。妊娠22週未満で赤ちゃんの心拍が確認できているのに、出血や腹痛がある状態を切迫流産と呼びます。絨毛膜下血腫と性器出血は、切迫流産の徴候として扱われます[1]。
両者は重なることが多いものの、同じものではありません。出血や腹痛があって血腫も見つかれば「血腫による切迫流産」と説明されることがありますが、症状がなく健診で血腫だけが見つかった場合は、切迫流産とは呼びません。反対に、切迫流産の症状があっても、血腫が見つからないこともあります。
診断名が「切迫流産」なのか「絨毛膜下血腫」なのかで、説明の仕方や安静の指示が変わることがあります。どちらの言葉で説明されたのか、症状があるのかないのかを分けて受け止めると、ご自身の状況を整理しやすくなります。
2. 絨毛膜下血腫の原因となりやすい人|動きすぎ・仕事が原因?
絨毛膜下血腫がなぜできるのかは、まだはっきりわかっていません。関連が報告されている条件はいくつかありますが、「この人は血腫になる」と見分けられるほどの因子は知られていません。なかでも気にされることの多い「動きすぎ」「仕事」については、原因だと示した研究はありません。
はっきりした原因はまだわかっていない
医学の総説でも、絨毛膜下血腫の原因は不明とされています。絨毛膜が子宮の壁から部分的にはがれた結果として血腫ができる、という仕組みは考えられていますが、なぜはがれるのかは解明されていません[1]。
仮説として挙げられているのは、先に述べた絨毛の細胞が子宮内膜に入り込む過程と血管づくりの不十分さのほか、血管の収縮や血小板の集まりによって血液の出口がふさがれること、血液を固める成分(フィブリノゲン)が多いことなどです[2]。いずれも胎盤ができていく過程の、目に見えない場所での出来事です。
インターネットでは「ホルモンバランスの乱れ」「着床のときの傷」などが原因として挙げられていることがありますが、原因として確かめられたものではありません。原因がわからないということは、裏を返せば、妊娠中の過ごし方のどこかに落ち度があったと考える根拠もない、ということでもあります。
なりやすい人として報告されている条件
関連が報告されている条件として、体外受精などの生殖補助医療による妊娠があります。生殖補助医療の種類別に比べた研究では、人工授精や自然妊娠に比べ、体外受精の新鮮胚移植と凍結融解胚移植で絨毛膜下血腫の頻度が有意に高くなっていました[8]。日本の総説でも、生殖補助医療による妊娠での頻度は30〜40%とされています[7]。
このほか、子宮の形の異常、流産をくり返した経験、骨盤内の感染症が、血腫ができやすくなる素因の候補として挙げられています[1]。また、血腫がある妊婦さんのうち自己抗体(自分の体の成分に反応する抗体)が陽性だった人では、陰性の人に比べて流産の割合が高かった(28.2%対7.6%)という単一施設の報告があります[3]。
これらはいずれも「関連がみられた」という報告で、その条件が血腫の原因だと証明されたわけではありません。当てはまる条件があっても血腫ができない人のほうが多く、当てはまる条件がなくても血腫ができることがあります。なお、年齢が高いほど血腫ができやすいという根拠は、今回確認した研究では見つかりませんでした。年齢は、血腫ができたあとの経過に関わる因子として報告されています。
動きすぎ・仕事・家事が原因でできるわけではない
動きすぎ、立ち仕事、家事、通勤などの日常の活動が原因で絨毛膜下血腫ができると示した研究はありません。ふだんの活動量と血腫ができるかどうかの関係を直接調べ、動きすぎが原因だと結論づけた信頼できる研究は、今回の調査では見つかりませんでした。
仕組みの面から考えても、血腫は胎盤ができていく過程で、絨毛膜と子宮内膜の境目に起こる出来事と考えられています[2]。この境目は子宮の内側の、さらに胎嚢の外側という深い場所にあり、歩いたり家事をしたりといった体の動きで直接はがれるような場所ではありません。
一方で、血腫が見つかったあとに「激しい運動や重い物を持つのは控えてください」と言われることがあります。これは、すでにできた血腫からの出血を増やさないための「管理」の話で、血腫ができた「原因」とは別のものです。診断後の指示を聞いて「やっぱり動いたのが悪かったのか」と考える必要はありません。
🩺 院長コラム【「動いたせいで」と考えてしまう方へ】
現在の医学的知見では、日常の活動が絨毛膜下血腫を生じさせるという根拠は確認されていません。仕事、抱っこ、買い物などの個々の行動を、血腫ができた原因と断定することはできません。
一方、診断されたあとの過ごし方は、出血の量、血腫の大きさ、子宮の張りなどを踏まえた主治医の指示に合わせることが重要です。血腫ができた「原因」と、診断後の「管理」は分けて考える必要があります。
性行為やストレスとの関係
性行為やストレスが原因で絨毛膜下血腫ができるという根拠は、確認できませんでした。性行為については、出血が続いている間は控えるよう指示されることがあります。これは、子宮の収縮や刺激で出血が増えることを避けるための管理で、性行為が血腫の原因だという意味ではありません。妊娠初期の性行為と出血や流産の関係は、妊娠初期の性行為の記事で詳しく解説しています。
ストレスについても、絨毛膜下血腫の原因になると示したデータは見当たりません。流産とストレスの関係について知りたい方は、ストレスと流産の関係もあわせてご覧ください。原因がわからない出来事に対して、生活のどこかに理由を探したくなるのは自然なことですが、現在の医学で「これが原因」と言えるものはないというのが正確なところです。
3. 絨毛膜下血腫の症状|出血・腹痛・症状がないことも
主な症状は、性器出血と、子宮の収縮による下腹部の痛みや張りです。ただし症状の出方には幅があり、まったく症状がなく、健診の超音波だけで見つかることも少なくありません。症状があるかないかで、その後の考え方も変わります。
出血の色と性状(鮮血・茶色・塊)
出血は、鮮やかな赤い血のこともあれば、茶色いおりもののように見えることもあります。赤い血は比較的新しい出血、茶色や黒っぽい色は時間がたってから出てきた古い血と考えられます。血腫にたまっていた血液が少しずつ外に出てくると、茶色いおりものが何日も続くことがあります。
ときにはレバーのような塊が出ることもあります。固まった血液が出てきたもので、それだけで経過が悪いと決まるわけではありませんが、量が多い、塊が続けて出る、腹痛を伴うといった場合は受診の目安になります。血腫のある妊婦さんの管理では、出血や子宮の収縮があるかどうか、どのくらいの間隔で起こるかを問診で確認することが基本とされています[9]。
どのくらいの量なら様子を見てよいのか、どんな出血なら急いで受診すべきかは、絨毛膜下血腫の出血量の目安の記事で詳しく解説しています。この記事では、第6章で受診のタイミングを整理します。
腹痛・お腹の張り
出血とあわせて、生理痛のような下腹部の痛みや、お腹の張りを感じることがあります。血腫があると、子宮の中の圧力が変わったり、たまった血液が刺激になったりして、子宮が収縮しやすくなると考えられています。出血と子宮の収縮をくり返すのが、この状態の特徴の一つです。
痛みの強さは人によってさまざまで、軽い張りだけの人もいれば、出血の前後に痛みがはっきり出る人もいます。管理の場面では、子宮の収縮の有無と間隔を確認し、悪化していないかをみます[9]。痛みがだんだん強くなる、規則的に張る、休んでもおさまらないといった場合は、妊婦健診を待たずに受診してください。
妊娠初期の腹痛には、血腫以外にもさまざまな原因があります。痛みの種類と受診の目安については、妊娠初期の腹痛の記事でまとめています。
症状がなく健診で見つかることも多い
出血も腹痛もなく、妊婦健診の超音波で偶然見つかる血腫は珍しくありません。日本産婦人科医会の解説では、妊娠初期に胎嚢のまわりに黒い部分(エコーフリースペース)が見えても、それがあるかないかで、その後の流産率に大きな違いはないと考えられています[4]。
同じ解説では、そもそも妊娠12週までに15〜20%の妊娠は流産に至るため、黒い部分があってもなくても違いはないこと、出血や腹痛といった症状がないのに血腫があると説明する必要はないこと、止血薬や子宮収縮を抑える薬も必要ないことが述べられています[4]。
症状がないのに血腫と言われて不安になった方は、この見解を知っておいてください。症状のない小さな黒い部分は、出血ではない液体であることもあり、経過に大きな影響を与えないことが多いと考えられています。安静の指示がなかった場合も、こうした判断に基づくものと受け止めてよいでしょう。
妊娠初期の出血は血腫だけが原因ではない
妊娠初期の性器出血はよくある症状で、原因は絨毛膜下血腫だけではありません。妊娠初期の性器出血は、妊娠の16〜25%でみられるとされています[1]。
まだ超音波で胎嚢が見えない時期の出血には、受精卵が子宮内膜に根を張るときの着床出血のように、心配のいらないものもあります。一方で、流産の始まりや、子宮の外に妊娠する子宮外妊娠のように、早めの対応が必要なものもあります。出血の量や色だけで、自分で原因を見分けることはできません。
妊娠初期の出血の原因と見分け方の全体像は、妊娠初期の出血の原因と赤ちゃんへの影響の記事でまとめています。生理のような量の出血があった場合や、まだ妊娠が確認できていない時期の出血は、そちらもあわせてご覧ください。
4. 赤ちゃんへの影響と流産のリスク
絨毛膜下血腫があると、血腫がない場合に比べて流産の割合は高くなると報告されています。ただし、血腫がある人の多くはそのまま妊娠を続けています。ここでは、研究で示されている数字と、その数字の読み方を説明します。数字はいずれも多くの人を集めた集団のデータで、一人ひとりの確率を示すものではありません。
流産のリスクはどのくらい上がる?
7つの研究をまとめた解析では、流産の割合は血腫がない人で8.9%、血腫がある人で17.6%でした。この解析は、血腫のある1,735人と、血腫のない7万703人を比べたものです。流産のオッズ比は2.18、死産は0.9%から1.9%(オッズ比2.09)に増えていました[10]。
同じ解析では、血腫と診断された11人あたり1人、流産が余分に起こる計算になると示されています[10]。言い換えると、血腫があっても8割以上の人は流産せずに妊娠を続けている、ということです。
📊 絨毛膜下血腫の有無と妊娠経過(7研究のまとめ)
| 経過 | 血腫なし | 血腫あり | オッズ比 |
|---|---|---|---|
| 流産 | 8.9% | 17.6% | 2.18 |
| 死産 | 0.9% | 1.9% | 2.09 |
| 常位胎盤早期剥離 | 0.7% | 3.6% | 5.71 |
| 早産 | 10.1% | 13.6% | 1.40 |
| 前期破水 | ― | ― | 1.64 |
※血腫あり1,735人、血腫なし70,703人の解析[10]。集団の数字であり、個人の確率ではありません。早産については、妊娠初期の血腫に限ると関連がなかったとする解析もあります[11]。
ただし、研究によって結論には幅があります。妊娠6〜13週の超音波を全員に行った単一施設の研究では、血腫がある人の20週前の流産は7.5%、ない人は4.9%でしたが、妊娠週数と性器出血の有無で補正すると、この差は統計的に意味のあるものではなくなりました(調整オッズ比1.13)[12]。一方、別の研究では補正後も関連が残っています(調整オッズ比1.94)[5]。
こうした違いから、流産のリスクに関わっているのは「血腫があること」そのものより、「出血があること」や「血腫が見つかった時期」なのかもしれない、と考えられています。症状のない血腫と、出血を伴う血腫とでは、意味合いが違う可能性があるということです。
💡 用語解説:オッズ比
オッズ比は、ある条件がある人とない人で、出来事の起こりやすさを比べる指標です。1なら差がなく、1より大きいほど条件がある人で起こりやすいことを表します。オッズ比2.18は「起こりやすさが約2倍」という目安ですが、「流産する確率が2倍の35%になる」という意味ではありません。もともとの割合(8.9%)が低いため、増えたあとの割合も17.6%にとどまっています。
妊娠中期以降への影響(早産・前期破水・常位胎盤早期剥離)
血腫は、妊娠中期以降の合併症との関連も報告されています。ただし、早産については研究によって結論が分かれます。先ほどのまとめの解析では、常位胎盤早期剥離(オッズ比5.71)、早産(1.40)、前期破水(1.64)のリスクが高くなっていました[10]。
一方、妊娠初期の血腫と単胎妊娠に絞った新しい解析では、早産との間に意味のある関連はみられませんでした(オッズ比1.11)[11]。同じ解析では流産との関連は認められ、自然妊娠でオッズ比3.07、生殖補助医療による妊娠で1.45でした[11]。初期の血腫が早産にまでつながるかどうかは、まだはっきりしていないと考えてください。
日本産婦人科医会の解説では、妊娠初期にできた血腫は1〜2か月で自然に消えることが多い一方、中には妊娠中期まで残り、急な常位胎盤早期剥離や前期破水などの合併症を起こすことがあるとされています[13]。また、血腫は妊娠12週未満の早期流産よりも、それ以降の後期流産の原因になることが多いとされています[9]。
中期以降の出血やお腹の張りが気になる方は、切迫早産や、感染が関わる前期破水と絨毛膜羊膜炎についての記事も参考にしてください。
注意が必要なケース(大きい血腫・早い時期に出現・出血が続く)
経過に関わる因子として、血腫の大きさ、見つかった時期、血腫が消えずに残ること、感染の合併が挙げられています。血腫が胎嚢の体積の25%以上を占める場合は、流産のリスクが高くなるとされています[1]。また、血腫が妊娠7週より前に初めて診断された場合に、20週前の流産が多かったという報告もあります[5]。
日本産婦人科医会は、流産や早産のリスク因子として、血腫が消えないこと、絨毛膜羊膜炎(子宮の中の膜の感染)を合併することを挙げています。そのため管理では、超音波で血腫の大きさを時間をおいて評価し、おりものの検査や症状から感染がないかを確認します[9]。
なお、「何センチ以上なら危険」という一つの基準はありません。大きさの測り方は、胎嚢との体積の比、直径、推定の量など研究ごとに異なり、そのまま比べることができないためです。医師から大きさについて説明を受けたら、前回と比べて大きくなっているのか小さくなっているのか、という変化に注目してください。
【遺伝の視点】血腫が赤ちゃんの染色体を変えることはない
絨毛膜下血腫ができたことで、赤ちゃんの染色体が変わることはありません。染色体の数は、卵子や精子がつくられるときや、受精直後の細胞分裂の時点で決まります。血腫はその後、胎盤ができていく過程で起こる出来事なので、すでに決まっている赤ちゃんの染色体に影響することはありません。染色体の数の変化がどのように起こるかは、染色体の数的異常の解説で詳しく説明しています。
流産全体に目を向けると、妊娠初期の流産の約半数は、胎児の染色体の異常によるものとされています[14]。その割合は母体の年齢と強く関係し、35歳未満の方の流産では約50%、40歳を超える方の流産では約75%で染色体の数の異常が見つかると報告されています[15]。こうした染色体の数の異常は、ほとんどが偶然に起こるもので、お母さんの行動によって起こるものではありません。
ただし、ここで二つのことを混同しないでください。「血腫が染色体を変えることはない」ことと、「血腫がある妊娠の流産は染色体の異常によるものだ」ということは別の話です。着床前検査で染色体の数が正常と確かめた胚を移植した妊娠でも、血腫があると早期流産が多かった(10.1%対5.6%)という報告があります[16]。血腫そのものが、染色体とは別の経路で経過に関わっている可能性があるということです。
血腫とダウン症など染色体の病気との関係について詳しく知りたい方は、絨毛膜下血腫とダウン症の関連性の記事をご覧ください。
🩺 院長コラム【流産の原因を一つの行動に求めないでほしい理由】
妊娠初期の流産の約半数は胎児の染色体異常によるもので、その多くは受精の前後に偶発的に生じます。こうした染色体異常は、妊娠がわかってからの日常の過ごし方によって生じるものではありません。
絨毛膜下血腫についても原因はまだ十分に解明されておらず、日常の活動が原因だという根拠は確認されていません。血腫や流産については、医学的に確認されていることと、まだ確認されていないことを分けて考えることが重要です。
5. 治療と安静の考え方|仕事は続けてもいい?
絨毛膜下血腫には、血腫を直接取り除いたり、確実に小さくしたりする治療はありません。基本は経過観察で、症状の変化と血腫の大きさを定期的に確認していきます。安静や仕事についても、根拠がはっきりしていることと、していないことがあります。
基本は経過観察(症状が強い場合の入院・薬)
管理の基本は、出血や子宮の収縮の様子と、血腫の大きさを時間をおいて確認することです。日本産婦人科医会の研修資料では、問診で性器出血や子宮の収縮の有無と間隔を確認し、超音波で血腫の大きさを経時的に評価するとともに、おりものの検査などで絨毛膜羊膜炎がないかを確認するとされています。出血や子宮の収縮が強くなったり、血腫が大きくなったり、感染が疑われたりした場合は、必要に応じて腟の洗浄や抗菌薬の投与が行われます[9]。出血が多い場合や痛みが強い場合は、入院して経過をみることもあります。
薬については、黄体ホルモン(妊娠を維持するはたらきのあるホルモン)が処方されることがあります。妊娠初期に出血のあった約4,000人を対象にした大規模な試験では、黄体ホルモンを使っても、全体としては34週以降に生まれた赤ちゃんの割合に意味のある差はみられませんでした。ただし、過去に3回以上流産した人のグループでは、生まれた割合が72%と、使わなかった人の57%より高く、効果がある可能性が示されています[17]。
この試験は出血のある妊婦さん全体を対象にしたもので、血腫のある人に限った結果ではありません。血腫のある人で、黄体ホルモンの一種を使った人に流産が少なかったという報告もありますが、くじ引きで割り振った試験ではないため、薬の効果とまでは言えません[5]。現時点では、絨毛膜下血腫の流産を防ぐ効果が確立した薬はない、と考えてください。
安静は必要?根拠と実際の指示の受け止め方
安静にすることで流産を防げるという、質の高い根拠は十分ではありません。妊娠前半に出血があり、赤ちゃんの心拍が確認できている女性を対象にした研究をまとめたコクランレビューでは、安静にした群としなかった群で、流産のリスクに統計的な差はみられませんでした(リスク比1.54、95%信頼区間0.92〜2.58)。病院での安静でも、自宅での安静でも、流産の予防に差はありませんでした[18]。
ただし、このレビューに含まれた研究は2件、計84人と小規模で、「安静に効果がないことが証明された」わけでもありません。血腫のある切迫流産の妊婦さんを調べた研究では、安静を守った人のほうが流産が少なかったという報告もあります。ただしこれは、安静にするかどうかをくじ引きで決めた研究ではないため、安静の効果なのか、もともとの経過の違いなのかを区別できません[19]。
こうした状況なので、主治医から安静の指示が出た場合は、その指示に従ってください。指示の内容は、出血の量、血腫の大きさ、子宮の張り、仕事や家庭の状況などをふまえて決められています。逆に、症状がない場合に安静の指示が出ないのも、根拠に沿った判断です。安静の取り方や期間の目安は、絨毛膜下血腫を早く治す方法の記事で詳しく解説しています。
仕事・家事・運動はどうする?
仕事を続けてよいかどうかは、症状と主治医の指示しだいです。指示を受けたら、「母性健康管理指導事項連絡カード」で職場に伝えることができます。男女雇用機会均等法第13条により、妊娠中の女性が健診で医師から指導を受けた場合、事業主は、その指導を守れるよう勤務時間の変更や勤務の軽減などの措置をとらなければなりません[20]。
母性健康管理指導事項連絡カード(母健連絡カード)は、医師の指導内容を職場に正確に伝えるための書式で、主治医に記入してもらって職場に提出します[20]。厚生労働省のQ&Aでは、医師の指導によって軽減の対象となる作業の例として、重量物を扱う作業(継続作業で6〜8kg、断続作業で10kg以上)、外回りなど連続的な歩行を強いられる作業、頻繁な階段の昇り降り、腹部を圧迫する不自然な姿勢を強いられる作業などが挙げられています[21]。
これらは妊婦さん一般の目安で、血腫に特有の基準ではありません。家事や運動についても、出血が続いている間は激しい運動や重い物を持つことを控えるよう言われることが多いものの、具体的な範囲は人によって異なります。職場への伝え方や、休むときの制度については、妊娠初期に仕事がしんどいときの法律と職場への報告の記事で詳しく解説しています。
血腫が吸収されるまでの目安
妊娠初期にできた血腫は、1〜2か月で自然に消えることが多いとされています。日本産婦人科医会の解説によると、多くは自然に消える一方、一部は妊娠中期まで残り、合併症につながることがあります[13]。
血腫が小さくなっていく過程では、たまっていた古い血液が茶色いおりものとして少しずつ出てくることがあります。出血が続くと不安になりますが、茶色の少量の出血が続くことは、血腫が吸収されていく過程でもみられます。ただし、鮮やかな赤い血が増えてくる場合は、新しい出血の可能性があるため受診してください。
どのくらいで吸収されるか、吸収されないときにどう考えるかは、絨毛膜下血腫を早く治す方法・吸収までの期間の記事で詳しく解説しています。
6. 出血量の目安と受診のタイミング
血腫があると言われたあとは、出血の増え方と、痛みや発熱の有無に注意してください。少量の茶色いおりものが続くだけなら次の健診で相談すれば足りることが多い一方、急いで受診したほうがよい症状もあります。
出血量でみる目安
出血の量そのものより、「増えてきているか」「鮮やかな赤い血が続くか」に注目してください。茶色や黒っぽい少量の出血は、血腫にたまっていた古い血が出てきたものであることが多く、これまでと変わらなければ様子をみることが多いものです。一方、鮮やかな赤い血の量が増えてくる、生理の多い日のように下着やナプキンがすぐに汚れる、塊が続けて出るといった場合は、新しい出血が起きている可能性があります。
出血の量を数字で決めて判断する方法は、血腫に特有の基準として確立したものはありません。量や色の具体的な目安、記録のつけ方については、絨毛膜下血腫の出血量と妊娠経過の記事で詳しく解説しています。迷ったときは、受診している産婦人科に電話で状況を伝えて指示を受けてください。
すぐ受診すべきサイン
次のような症状があるときは、妊婦健診の日を待たずに受診してください。特に発熱は、子宮の中の感染(絨毛膜羊膜炎)が起きているサインのことがあり、流産や早産のリスク因子とされています[9]。
🚨 妊婦健診を待たずに受診したい症状
・鮮やかな赤い出血が増えてくる、生理の多い日のような量になる
・レバーのような塊が続けて出る
・強い腹痛がある、痛みがだんだん強くなる、規則的にお腹が張る
・38℃以上の発熱、寒気がある
・めまいやふらつき、気が遠くなる感じがある
・水のようなおりものが流れ出る(妊娠中期以降)
夜間や休日に症状が出た場合も、かかっている産婦人科に連絡し、指示に従ってください。受診のときは、出血が始まった時刻、量や色の変化、痛みの有無を伝えると、状況が伝わりやすくなります。出血したナプキンの様子をスマートフォンで記録しておくのも一つの方法です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 絨毛膜下血腫は何週ごろまでに消えますか?出産まで残ることはありますか?
妊娠初期にできた血腫は、1〜2か月で自然に消えることが多いとされています[13]。一方で、一部は妊娠中期まで残り、常位胎盤早期剥離や前期破水などにつながることがあるため、消えるまでは妊婦健診で経過を確認します。吸収までの期間や過ごし方は、絨毛膜下血腫を早く治す方法の記事で詳しく解説しています。
Q2. 次の妊娠でも絨毛膜下血腫を繰り返しますか?
前の妊娠で絨毛膜下血腫があった人が、次の妊娠で再びできる割合を示した信頼できるデータは、現時点では見つかっていません。繰り返すかどうかは「わかっていない」というのが正確な答えです。次の妊娠でも、初期の超音波検査で胎嚢のまわりを確認してもらうことになります。
Q3. 絨毛膜下血腫は妊娠中期・後期にもできますか?
多くは妊娠初期に見つかりますが、初期にできた血腫が妊娠中期まで残ったり、大きくなったりする例があります[13]。妊娠後期に新しくできる頻度については、はっきりしたデータがありません。中期以降の出血やお腹の張りは、血腫の有無にかかわらず受診の対象になります。
Q4. 絨毛膜下血腫があると、障害のある子が生まれやすくなりますか?
血腫が赤ちゃんの染色体を変えることはなく、血腫があると先天異常が増えることを示した確立したデータもありません。一方で、大きさで分類した研究の中には、血腫と胎児発育不全(赤ちゃんの育ちがゆっくりな状態)との関連を報告したものがあります[22]。ダウン症との関係は、絨毛膜下血腫とダウン症の関連性の記事で詳しく解説しています。
Q5. 絨毛膜下血腫があってもNIPTは受けられますか?
絨毛膜下血腫とNIPTの結果の関係を直接調べた研究は、現時点では見つかっていません。NIPTは主に胎盤由来のcell-free DNAを母体血で調べる検査で、血腫があることだけを理由に受けられないとする根拠は確認できていません。ただし、出血が続いている時期は、NIPTとは別に妊娠経過の評価が必要なため、まず妊婦健診を担当する産婦人科で経過を確認してください。
Q6. 血腫があると言われたのに安静の指示がありませんでした。大丈夫ですか?
出血や腹痛がなく、超音波で胎嚢のまわりに黒い部分が見えるだけの場合、それが本当に出血なのかは断定できず、その後の流産率にも大きな差はないと考えられています。日本産婦人科医会の解説では、症状がない場合は止血薬や子宮収縮を抑える薬も必要ないとされています[4]。安静の指示がないのは、そうした判断に基づくものと考えてよいでしょう。出血や腹痛が出てきたときは受診してください。
まとめ
絨毛膜下血腫は、胎嚢の外側の膜と子宮の壁の間に血液がたまった状態で、妊娠初期の超音波検査で見つかることの多い所見です。原因はまだわかっておらず、動きすぎや仕事が原因でできると示した研究はありません[1]。体外受精などの生殖補助医療による妊娠で多いことが報告されていますが、関連であって原因ではありません。
研究のまとめでは、血腫がある人の流産の割合は17.6%で、ない人の8.9%より高いものの、多くの人はそのまま妊娠を続けています[10]。症状のない血腫は経過に大きな影響を与えないことが多いと考えられています。血腫が赤ちゃんの染色体を変えることはなく、妊娠初期の流産の約半数は、偶然起こる染色体の異常によるものです[14]。
出血が増える、強い腹痛がある、発熱がある場合は、健診を待たずに受診してください。安静や仕事については、主治医の指示に合わせ、必要に応じて母健連絡カードで職場に伝えてください。
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ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医がNIPTを行っています。妊娠6週からは臨床研究として早期NIPTを実施しています。全国からオンラインで受けることもできます。なお、絨毛膜下血腫の経過観察は、妊婦健診を担当している産婦人科で続けてください。
参考文献
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