目次
絨毛膜下血腫の「出血量」は、超音波で見える血腫の大きさで評価します。胎嚢(赤ちゃんを包む袋)に対して血腫がどのくらいの割合を占めるかが、流産や早産のリスクを考える目安になります。一方で、「50mL未満なら軽度」のように、mL(ミリリットル)で重症度を分ける国際的な基準はありません。また、ナプキンにつく出血の量と、子宮の中にたまっている血腫の大きさは別のものです。この記事では、絨毛膜下血腫の出血量の評価方法、リスクとの関係、経過観察と受診の目安を、研究データをもとに解説します。
Q. 絨毛膜下血腫は、出血量が多いと流産しやすいのですか?
A. 血腫が胎嚢に比べて大きいほど、流産や早産のリスクが上がる傾向が報告されています。ただし研究によって結果は一致しておらず、血腫の体積(mL)は形がいびつなため正確に測りにくいことも分かっています。リスクには、血腫の大きさに加えて、見つかった時期の早さ、胎盤の裏側にあるかどうか、血腫が消えずに残るかどうかも関わります。多くの絨毛膜下血腫は自然に吸収されます。
- ➤評価方法 → 胎嚢に対する血腫の大きさの割合で見るのが一般的
- ➤mLの基準 → 重症度をmLで分ける確立した基準はない
- ➤外に出る出血 → ナプキンの出血量は血腫の大きさをそのまま表さない
- ➤治療 → 予後を改善すると確立した治療法はまだない
1. 絨毛膜下血腫とは:その発生メカニズムと特徴
絨毛膜下血腫は、胎嚢を包む絨毛膜と子宮の壁(脱落膜)の間に血液がたまった状態です。超音波検査では、胎嚢のそばに三日月形の黒っぽい(低エコーの)領域として見えます[1]。妊娠初期に見つかることが多く、妊婦健診の超音波で偶然見つかる場合もあります。
どのくらいの頻度で起こるかは、研究によって大きく異なります。系統的レビューでは、対象者や定義、診断する週数の違いにより、報告された頻度は0.46〜39.5%と幅がありました[2]。一般の妊婦を対象にした前向き研究では妊娠初期の頻度は3.1%[3]、山梨大学の単胎妊娠1,305例の調査では6.1%でした[4]。
主な症状には次のようなものがあります。
- 性器出血(鮮血のこともあれば、古い血液による茶色のおりもののこともあります)
- 下腹部の痛みや張り
- 無症状(健診の超音波で偶然見つかることもあります)
血腫ができる仕組みははっきりとは分かっていません。胎盤がつくられる過程で、絨毛が子宮の壁に入り込む際に血管が傷つき、血液がたまると考えられています[4]。動きすぎが原因になるのかどうかについては、絨毛膜下血腫の原因と動きすぎ・安静の考え方で詳しく解説しています。
2. 絨毛膜下血腫の出血量:評価方法と臨床的意義
絨毛膜下血腫の出血量は、実際の血液の量を直接測るのではなく、超音波で見える血腫の大きさから推定します。大きさの測り方にはいくつかの方法があり、どれが最も予後の予測に役立つかは、いまも研究が続いています[4]。
超音波による出血量の測定方法
これまでの研究で使われてきた主な測り方は、次の3つです[4]。
📏 絨毛膜下血腫の大きさの主な測り方
| 測り方 | 内容 | 特徴 |
|---|---|---|
| 胎嚢に対する面積の割合 | 血腫が最も大きく見える断面で、胎嚢の大きさに対する血腫の大きさを比べる | 予後との関連が比較的よく示されている |
| 胎嚢の周囲に接する長さの割合 | 胎嚢の周囲のうち、血腫でもち上げられている部分の割合を見る | 「周囲の3分の2以上」を大きい血腫とした研究がある |
| 体積(mL)の推定 | 長さ×幅×高さ×0.52(だ円体の近似式)で計算する | 血腫の形はいびつなことが多く、正確に出しにくい |
体積の計算式(長さ×幅×高さ×0.52)は、血腫をだ円体とみなした近似です。しかし、妊娠初期の434件の超音波を検討した研究では、ほとんどの血腫は形がいびつなため、体積にもとづく計測では信頼できる結果が得られなかったと報告されています。この研究で妊娠初期の転帰と関連したのは、胎嚢の大きさに対する血腫の大きさの割合でした[5]。
💡 ナプキンの出血量と血腫の大きさは別のもの
「出血量」という言葉は、外に出てくる性器出血の量と、子宮の中にたまっている血腫の大きさの両方を指して使われます。外に出る出血が少なくても大きな血腫が見つかることがあり、逆に出血があっても血腫は小さいこともあります。血腫が吸収される過程で、古い血液が茶色いおりものとして出てくることもあります。血腫の大きさや変化は超音波でしか分からないため、外に出た出血の量だけで経過を判断しないことが大切です。
出血量に基づく臨床的分類
「Grade 1は50mL未満、Grade 3は200mL超」といった、mLで重症度を分ける国際的に確立した分類はありません。研究では、血腫の大きさを胎嚢に対する割合で「小・中・大」に分けることが多く、何%以上を「大きい」とするかも研究ごとに異なります[4]。
たとえば、出血のある妊娠初期の女性516人を調べた研究では、血腫の大きさを胎嚢の周囲のうちもち上げられている割合で評価し、血腫の大きさ、母体の年齢、見つかった週数が転帰に関わると結論づけました[6]。日本の研究では、胎嚢に対する面積の割合が25%以上、または周囲に接する長さの割合が30%以上を「大きい血腫」の目安とする提案がされています[4]。ただしこれは1施設の後ろ向き研究で、ほかの集団でも同じように当てはまるかは、まだ確かめられていません。
3. 出血量から見た絨毛膜下血腫のリスク評価
絨毛膜下血腫があると、ない場合に比べて流産や胎盤早期剥離などのリスクが上がることが、複数の研究をまとめた解析で示されています。ただし、血腫の大きさとリスクの関係については、研究によって結果が分かれています。
出血量とリスクの相関関係
7つの研究(血腫あり1,735人、血腫なし70,703人)をまとめたメタ解析では、絨毛膜下血腫があると、流産のリスクは8.9%から17.6%に(オッズ比2.18)、胎盤早期剥離のリスクは0.7%から3.6%に(オッズ比5.71)上がっていました。死産(オッズ比2.09)、早産(オッズ比1.40)、前期破水(オッズ比1.64)のリスクも上がっていた一方で、胎児の発育が小さいことや妊娠高血圧腎症との関連は見られませんでした[7]。
📊 血腫の大きさとリスクについての主な研究
※研究ごとに対象者や血腫の測り方が異なるため、数値をそのまま比べることはできません。
Naertらの研究では、血腫があることは単純比較では流産の増加(7.5%対4.9%)と関連していましたが、週数と性器出血の影響を調整すると、その差は統計的に意味のあるものではなくなりました[8]。このように、血腫の大きさだけで流産するかどうかを予測することはできません。
大きさのほかに、血腫の位置も重要です。一般の妊婦を対象とした研究では、胎盤の裏側(胎盤後方)にある血腫で、母体と赤ちゃんの合併症が多いことが示されました[3]。画像診断のレビューでは、胎盤の裏側の血腫と、胎盤の端にある血腫とで、胎児死亡の頻度に大きな差があった報告が紹介されています[1]。
💡 「○mLで流産率○%」という情報に注意
インターネット上では、血腫のmLごとに流産率や合併症の確率を示す情報が見られますが、そうした数値を裏づける研究は確認できません。DIC(播種性血管内凝固症候群)のような重い出血の合併症は、主に妊娠後半の重い胎盤早期剥離などで問題になるもので、妊娠初期の絨毛膜下血腫の大きさから確率を示せるものではありません。
出血量の経時的変化の重要性
ある1回の検査での大きさだけでなく、血腫がその後どう変わるかも大切な手がかりです。多くの血腫は経過とともに小さくなります[1]。一方、系統的レビューでは、胎盤の裏側や子宮の底にある血腫、妊娠中期以降も消えずに残る血腫が、その後の合併症と関連するとまとめられています[2]。
- 血腫が小さくなる・消える:多くはこの経過をたどります
- 大きさが変わらない・大きくなる:出血が続いている可能性があり、より注意深い経過観察が必要です
- 妊娠中期以降も残る:早産や前期破水などに注意して経過を見ます
そのため、絨毛膜下血腫と診断されたら、主治医の指示に従って超音波で大きさの変化を確認していくことが大切です。
4. 出血量に基づく絨毛膜下血腫の管理法
現時点で、絨毛膜下血腫の予後を改善することが確立した治療法はありません。安静、子宮収縮を抑える薬、黄体ホルモンの投与などが検討されてきましたが、いずれも効果は確立していません[4]。そのため、管理は血腫の大きさや症状、週数に応じて、主治医が個別に判断します。
出血量別の管理アプローチ
mLのグレードで管理法を分ける根拠はないため、ここでは状態ごとの一般的な考え方を示します。
🩺 状態ごとの一般的な考え方
| 状態 | 一般的な考え方 |
|---|---|
| 小さい血腫・出血が少ない | 多くは自然に吸収される。主治医の指示どおりの健診で大きさの変化を確認する |
| 血腫が大きい・出血が続く | 受診の間隔を短くするなど、より注意深く経過を見る。活動の目安は主治医と相談する |
| 出血が多い・強い痛みがある | すぐに受診し、入院管理が必要かどうかを判断してもらう |
黄体ホルモンについては、妊娠初期に出血のあった女性4,153人を対象とした大規模な試験があります。全体では、黄体ホルモンを使った群と使わなかった群で生児を得た割合に統計的な差はなく(75%対72%)、過去に流産を経験した女性で効果が示唆されました[9]。この試験は絨毛膜下血腫に限ったものではないため、使うかどうかは主治医が個別に判断します。
🚨 すぐに受診したほうがよいサイン
- ナプキンが1時間もたずにいっぱいになるような出血が続く
- レバーのような大きな血の塊が出る
- がまんできない腹痛や、だんだん強くなる痛みがある
- めまい・立ちくらみ・冷や汗がある
- 発熱がある、水っぽいおりものが続く
長期的な経過観察のポイント
絨毛膜下血腫と診断された場合、出血が落ち着いても、血腫が吸収されたことを超音波で確認するまでは経過を見ていきます。
- 超音波による血腫の大きさと位置の確認
- 赤ちゃんの発育の確認
- お腹の張りや出血など、早産の兆候に注意する
- 前期破水や胎盤早期剥離の症状を知っておく
メタ解析では、絨毛膜下血腫は早産・前期破水・胎盤早期剥離とも関連していました[7]。初期に大きな血腫があった場合や、血腫が長く残った場合は、妊娠後半まで健診で経過を見ていくことになります。
5. 絨毛膜下血腫の出血量に関する最新研究
近年の研究の焦点は、「どのくらいの大きさから注意が必要か」という基準づくりです。2024年の日本の研究は、胎嚢に対する割合で「大きい血腫」の目安を示した一方、全体としては血腫あり群と血腫なし群で合併症の頻度に差がなかったことも報告しています[4]。小さな血腫の多くは妊娠経過に影響しない、という点は、これまでの研究とも一致しています。
- 大きさの測り方:体積よりも、胎嚢に対する割合のほうが予後と関連しやすいとする報告があります[5]
- 見つかった時期:早い時期(7週以前)に見つかった血腫ほど、流産率が高い傾向が報告されています[5]
- 血腫ができる仕組み:脱落膜の血管の炎症や酸化ストレスなどの仮説が挙げられていますが、まだ解明されていません[4]
遺伝的要因と絨毛膜下血腫
血液の固まり方に関わる遺伝子のバリアントがあると、絨毛膜下血腫ができやすく、出血量も増えるのではないかと心配される方がいます。しかし、遺伝的な体質と絨毛膜下血腫の起こりやすさや大きさとの関係は、現時点でははっきりしていません。絨毛膜下血腫があるというだけで、遺伝子の検査が必要になるわけではありません。
一方で、絨毛膜下血腫と診断され、赤ちゃんの染色体のことまで心配になる方もいます。血腫と赤ちゃんの染色体の病気との関係については、絨毛膜下血腫とダウン症の関連性で整理しています。
絨毛膜下血腫の出血量に関するよくある質問
Q1. 絨毛膜下血腫の出血量はどのように測定されますか?
超音波で血腫の大きさを見て評価します。胎嚢の大きさに対する血腫の割合や、胎嚢の周囲のうち血腫に接している長さの割合で評価する方法がよく使われます。長さ×幅×高さ×0.52で体積を計算する方法もありますが、血腫は形がいびつなことが多く、正確な値を出しにくいとされています。
Q2. どの程度の出血量で心配すべきですか?
mLで「ここから危ない」という確立した基準はありません。研究では、胎嚢に比べて血腫が大きい場合、早い週数で見つかった場合、胎盤の裏側にある場合に、リスクが高い傾向が報告されています。外に出る出血については、ナプキンが1時間もたないほどの出血、大きな血の塊、強い腹痛があるときはすぐに受診してください。
Q3. 絨毛膜下血腫の出血量は時間とともに変化しますか?
変化します。多くの血腫は時間とともに小さくなり、吸収されていきます。吸収される過程で茶色いおりものが出ることもあります。一方で、血腫が大きくなったり、妊娠中期以降も残ったりすることもあるため、超音波で経過を確認することが大切です。
Q4. 出血量が多い場合、必ず流産するのですか?
必ず流産するわけではありません。血腫が大きいほどリスクが上がる傾向は報告されていますが、大きさと流産との関連が見られなかった研究もあり、大きさだけで結果を予測することはできません。絨毛膜下血腫の多くは自然に吸収され、そのまま妊娠を続けられます。
絨毛膜下血腫の出血量と向き合うために
絨毛膜下血腫と診断されると、「出血量」の数字が気になるものです。しかし、大切なのは1回の数値よりも、血腫の大きさの割合、位置、見つかった時期、そしてその後の変化を合わせて見ることです。
- 主治医の指示どおりに健診を受け、血腫の変化を確認する
- 日常の活動の目安は主治医と相談して決める
- すぐに受診すべきサイン(多量の出血・強い腹痛など)を知っておく
- 外に出る出血の量だけで、よくなった・悪くなったと判断しない
動き方や安静の考え方は、絨毛膜下血腫と動きすぎの関係で詳しく解説しています。
🩺 院長コラム【数字に振り回されないために】
インターネットには、絨毛膜下血腫の「出血量」をmLで区切って流産率を示す情報が出回っています。けれども、そうした分類には確かな根拠がありません。根拠のない数字は、必要以上の不安を生んでしまいます。
血腫の評価は、大きさの割合、位置、時期、経過を合わせて考えるものです。分からないことは分からないと伝えたうえで、いま確かに言えることを正しく知っていただくことが大切だと考えています。
妊娠中の健康を守るために
🧬 赤ちゃんの染色体のことは、NIPTで調べることができます
絨毛膜下血腫は赤ちゃんの染色体の病気を診断するものではありません。赤ちゃんの染色体のことが気になる方には、母体の採血で調べるNIPT(新型出生前診断)という選択肢があります。ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医が検査の前後の説明を行い、全国からオンライン診療で受けることもできます。NIPTはスクリーニング検査で、陽性の場合は羊水検査などの確定検査で確認します。
参考文献
- [1] Trop I, Levine D. Hemorrhage during pregnancy: sonography and MR imaging. AJR Am J Roentgenol. 2001;176(3):607-615. [AJR]
- [2] Xiang L, Wei Z, Cao Y. Symptoms of an intrauterine hematoma associated with pregnancy complications: a systematic review. PLoS One. 2014;9(11):e111676. [PMC4219764]
- [3] Nagy S, Bush M, Stone J, Lapinski RH, Gardó S. Clinical significance of subchorionic and retroplacental hematomas detected in the first trimester of pregnancy. Obstet Gynecol. 2003;102(1):94-100. [PubMed 12850613]
- [4] Yoshihara T, Okuda Y, Yoshino O. Quantification of the size of subchorionic hematoma causing pregnancy-related complications: a retrospective cohort study. J Med Ultrason. 2024;51(4):649-654. [Springer]
- [5] Heller HT, Asch EA, Durfee SM, et al. Subchorionic hematoma: correlation of grading techniques with first-trimester pregnancy outcome. J Ultrasound Med. 2018;37(7):1725-1732. [Wiley]
- [6] Bennett GL, Bromley B, Lieberman E, Benacerraf BR. Subchorionic hemorrhage in first-trimester pregnancies: prediction of pregnancy outcome with sonography. Radiology. 1996;200(3):803-806. [PubMed 8756935]
- [7] Tuuli MG, Norman SM, Odibo AO, Macones GA, Cahill AG. Perinatal outcomes in women with subchorionic hematoma: a systematic review and meta-analysis. Obstet Gynecol. 2011;117(5):1205-1212. [PubMed 21508763]
- [8] Naert MN, Khadraoui H, Muniz Rodriguez A, Naqvi M, Fox NS. Association between first-trimester subchorionic hematomas and pregnancy loss in singleton pregnancies. Obstet Gynecol. 2019;134(2):276-281. [PubMed 31306310]
- [9] Coomarasamy A, Devall AJ, Cheed V, et al. A randomized trial of progesterone in women with bleeding in early pregnancy. N Engl J Med. 2019;380(19):1815-1824. [PubMed 31067371]





