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18トリソミーの原因は母親?年齢と遺伝の誤解|東京青山・ミネルバクリニック

18トリソミーの原因は母親?年齢と遺伝の誤解|東京青山・ミネルバクリニック

18トリソミーの原因は母親?
年齢と遺伝の誤解を臨床遺伝専門医が解説

まず結論(ここだけ読んでもOK)

Q. 18トリソミーの原因は母親ですか?

A. いいえ、母親のせいではありません。
多くは染色体不分離という偶発的な現象で起こります。年齢は「責任」ではなく、あくまで確率に影響する要因です。

Q. 不分離は卵子側で起こりやすいのは本当ですか?

A. はい、卵子由来が多いと報告されています。
ただし、これは「母親のせい」という意味ではありません。卵子が長期間体内で待機するなど、仕組みとして影響を受けやすい事情があるためです(出典)。

Q. 父親側(精子)由来で起こることはありますか?

A. ありますが、統計的には卵子由来が多いとされています。
「父親が悪い/母親が悪い」という話ではなく、ヒトの減数分裂の特徴として理解するのが大切です(出典)。

Q. 遺伝しますか?次の妊娠でも起こりますか?

A. 大多数は遺伝しません。
ただし転座型など一部の例外があります。不安が強い場合は遺伝カウンセリングで整理するのが安心です。

Q. 何を受ければ安心できますか?

A. NIPTで「可能性」を知り、必要なら確定検査で確認します。
NIPTはスクリーニング検査です。陽性の場合は確定検査(羊水検査・絨毛検査)へ進みます。当院では
確定検査(羊水・絨毛)
も含め、相談しながら進められます。

覚えておいてほしいこと:
年齢は「責任」ではありません(確率の話です)。
原因が偶発的だからこそ、正確な検査と説明が心を守ります。

妊娠中は、少しの言葉でも胸が苦しくなります。特に「原因」「母親」「年齢」という言葉は、心を強く揺さぶりますよね。
臨床遺伝専門医として日々ご相談をお受けする中でも、まず最初にお伝えしたいのは、「あなたのせいではありません」ということです。ここでは、医学的に正しい理解へ一緒に進んでいきましょう。

染色体不分離とは何が起きているのか

結論:18トリソミーの直接的な原因は、卵子や精子が作られる過程で染色体が正しく分かれなかった「染色体不分離」です。

本来、卵子や精子が作られるときには、染色体は1本ずつに分かれて配られます。ところが、たまたまこの分配がうまくいかず、2本まとめて入ってしまうことがあります。これが「染色体不分離」です。


正常なら1本ずつに分離されるところ、分離不全が起きてトリソミーとなる

(正常な分離と、分離不全によってトリソミーが生じる仕組みを示したイメージ)

大切なこと:この図は「誰かのせい」を示すためのものではありません。起こり得る生物学的な分配ミスを、理解しやすい形にしたものです。

母体年齢との関係をどう考えるか

母体年齢が上がると、18トリソミーの確率が高くなることは事実です。しかしそれは、「年齢=責任」ではなく、「年齢=確率」という話です。


母体年齢とT18/T21の発生確率を示すグラフ

(母体年齢とトリソミーの発生確率を示す統計的なイメージ)

ここが一番大切:このグラフは「高齢出産が悪い」と言っているのではありません。卵子が長い時間をかけて成熟・待機するという、人間の生物学的構造の結果として、確率のカーブが変わることを示しています。

なぜ卵子側で起こりやすいのか

結論:18トリソミーでは、追加の18番染色体が母親由来であるケースが多いと報告されています(出典)。ただし、これは「母親のせい」という意味ではありません。

「卵子側で起こりやすい」というのは、卵子の成り立ちが“長い時間の影響”を受けやすい、という話です。誰かの性格や努力で防げるものではありません。

  • 卵子は胎児期に作られ、排卵まで何十年も体内で待機する
  • 年齢とともに染色体を支える仕組み(コヒーシンなど)が弱くなりやすい
  • 減数分裂時の交差(recombination)のパターンが分配ミスに影響する

💡 用語メモ:コヒーシン(cohesin)

染色体を正しく分けるために、姉妹染色分体を「ほどけないように支える」仕組みの一つです。年齢とともにその働きが弱くなり得ることが指摘されています(出典)。

補足:「卵子で起こりやすい」という話は、個人の努力で防げるタイプの原因ではありません。だからこそ、正確な情報と専門家の説明が、心の負担を軽くします(出典)。

18トリソミーは遺伝しますか?

結論:18トリソミーの大多数は遺伝しません。ただし、一部の型(例:転座型)では例外があり得ます。

「次の妊娠でも同じことが起きたら…」という不安は当然です。ネットの断片情報だけで判断せず、状況に合わせて遺伝カウンセリングで整理することが、安心につながります。

検査と次の一歩

原因が偶発的である以上、妊娠中にできることは、正確に状況を把握し、必要なら次の手を準備することです。

NIPTについて

NIPTは確定診断ではありません。あくまで「可能性」を知るスクリーニング検査です。陽性の場合は確定検査で確認することが推奨されます(出典)。

検査 位置づけ 意味
NIPT スクリーニング 「可能性」を知る検査。結果の解釈と次の手順が重要。
羊水検査・絨毛検査 確定検査 確定診断が可能。医療機関で説明を受けて進める。
父親由来の遺伝子変異が子へ伝わるイメージ

(「情報の整理」と「支援」で、不安は軽くできます。ひとりで抱え込まないでください)

🏥 一人で抱え込まないでください

原因が偶発的だからこそ、
正確な検査と、心を守る説明が必要です。

よくある質問(FAQ)

Q1. 18トリソミーの原因は母親ですか?

A. いいえ。母親のせいではありません。多くは染色体不分離という偶発的な現象です。年齢は「責任」ではなく「確率」に影響する要因です。

Q2. 卵子側で起こりやすいのは、母親の体質のせいですか?

A. 体質や性格のせいではなく、生物学的な仕組みの影響です。卵子は長期間待機し、年齢とともに分配ミスが起こりやすくなる要因(コヒーシン低下など)が整理されています(出典)。

Q3. 父親側(精子)由来で起こることはありますか?

A. ありますが、統計的には卵子由来が多いとされています。「父親が悪い/母親が悪い」という話ではなく、ヒトの減数分裂の特徴として理解するのが大切です(出典)。

Q4. 18トリソミーは遺伝しますか?

A. 大多数は遺伝しません。ただし転座型など一部の例外があります。不安が強い場合は遺伝カウンセリングで整理することが大切です。

Q5. NIPTで陽性なら、必ず18トリソミーですか?

A. NIPTは確定診断ではありません。陽性の場合は確定検査(羊水検査・絨毛検査)で確認します。当院の確定検査もご参照ください。

出典

  • Fisher JM, et al. Trisomy 18: studies of the parent and cell division of origin and the effect of aberrant recombination on nondisjunction. Am J Hum Genet. 1995. PubMed
  • Nagaoka SI, Hassold TJ, Hunt PA. Human aneuploidy: mechanisms and new insights into an age-old problem. Nat Rev Genet. 2012. PubMed
  • Hassold T, Hunt P. To err (meiotically) is human: the genesis of human aneuploidy. Nat Rev Genet. 2001. PubMed
  • Dungan JS, et al. Noninvasive prenatal screening (NIPS) for fetal chromosome abnormalities in a general-risk population: An evidence-based clinical guideline of the ACMG. Genet Med. 2023. PubMed
  • International Society for Prenatal Diagnosis (ISPD): Professional Communications / Position Statements. ISPD


プロフィール

この記事の筆者:仲田 洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、1995年に医師免許を取得して以来、のべ10万人以上のご家族を支え、「科学的根拠と温かなケア」を両立させる診療で信頼を得てきました。『医療は科学であると同時に、深い人間理解のアートである』という信念のもと、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医としての専門性を活かし、科学的エビデンスを重視したうえで、患者様の不安に寄り添い、希望の灯をともす医療を目指しています。


仲田洋美の詳細プロフィールはこちら

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