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ミネルバクリニックが骨系統疾患含むNIPT検査を始めた理由

この物語の要点
  • 一組の20代夫婦の辛い体験から、すべては始まりました
  • 日本医学会会長の個人的な依頼から見えた医療制度の問題
  • ベルギーで培った「個人の意思を尊重する」価値観
  • 世界中を探し回って実現した骨系統疾患NIPT検査
  • 患者さん主体の医療への挑戦と信念

一組の夫婦から始まった医療への挑戦
ミネルバクリニックが骨系統疾患含むNIPT検査を始めた理由

はじまりの物語

これは、一組の20代夫婦の辛い体験から始まった、
日本の医療制度に風穴を開けるまでの真実の物語です。

突然の宣告 – 20代夫婦に降りかかった現実

20代夫婦、第1子妊娠20週に突然、かかりつけの産婦人科で胎児の手足が短いと言われて、国立成育医療センターに紹介になりました。

レントゲンも撮影し、やはり骨の成長が悪い骨系統症候群だろうと診断がついました。

骨系統疾患とは

骨系統疾患は、骨や軟骨の発達や形成に異常をきたす病気の総称です。多くは遺伝子の変異が原因で、出生時から骨格の長さや形、脊椎や胸郭、頭蓋骨などに特徴的な変化が見られます。発症頻度はまれですが、生命予後や生活の質に影響を与えることがあります。

国際的には450種類以上が分類され、その中には単一遺伝子の変異が原因で起こる疾患も多く含まれます。こうした一部の疾患は海外ではNIPTや羊水検査などの出生前診断で特定できるようになってきていますが、日本では制度や技術の制限により検査可能な施設や方法が限られています。

時間のない中での決断を迫られる

何も受け止められないまま、中絶できるのは21週まで。手術室の準備の関係もあるので今日中に産むか産まないか決めるよう迫られました。

産まないことにしたが、気持ちを整理する時間も全くないまま、時間的に余裕を持たせてももらえず。

最も辛い現実

中絶と通常の出産の病棟がほとんどの医療機関ではわかれていないため、赤ちゃんが生まれて幸せそうにしている人がいる中で死産しないといけないという状況は本当につらい。

若い夫婦は二人で励ましあいながら頑張ってきました。

希望を求めてミネルバクリニックへ

第2子を妊娠したことがわかり、血相を変えてミネルバクリニックに来院。

前回こんなことがあったので、今回はなんとか無事に出産にたどり着きたい。ああいう疾患はNIPTでチェックできないんですか。

当時の私の答え

うろたえる若夫婦を前に、「現在の当院では扱っていません。次に妊娠されるときにはそういう検査が世界にあればできる体制を整えておきますのでご容赦ください」とお返事しました。当時はベリナタと言うところに検査を出していて、全染色体のトリソミーと5か所の微小欠失しか調べることができませんでした。

NIPTで何も引っかからず、中期のエコーでも骨も大丈夫そう、ということで無事にお子さんは生まれました。

約束を果たすための世界への挑戦

このご夫婦がミネルバクリニックでNIPT検査を受けた後、英語でネットサーフィンをして、世界からそういう検査をしているところがないか、毎日ずっと探しました。欧米では、骨系統疾患のうち単一遺伝子疾患であることがはっきりしているものに関して、いくつかの遺伝子を調べることができるようになっていました。

世界中を探し回った検査導入への道のり

1. アメリカ・ナテラ社との交渉と決裂

まず、アメリカの会社にミネルバクリニックの検体を受け入れてもらえないかと聞いたのですが、ナテラと言う会社は日本では名古屋の鈴森先生の会社が扱っていました。ナテラの日本担当者がわざわざわたしに会いに来てくれたのですが、鈴森先生の許可が必要だ、と言われました。

そこで、わたしは指導医を通じて鈴森先生と会えるようにしてもらい、会いに行ったのですが。鈴森先生は相手が私だと分かると顔をしかめ、「あなたはやってはいけないことをしている」と言いました。

私の反論:

「どうしてですか?出生前診断を遺伝専門医が扱うのは当然ですよ。産婦人科と小児科じゃないと扱えないなんて日本だけです。先生たちこそ利権を守り患者不在じゃないですか。」

そしてわたしと鈴森先生は決裂し、当然ながらナテラの検査を入れることは出来ませんでした。しかし、わたしは、これで良かったと思っています。なぜならナテラの検査は当院がナテラに支払う部分だけで当時のレートで40万以上でしたので、皆さんにもっと安く提供したかった私は価格帯が飲めなかったからです。

2. ユーロフィンとの交渉も難航

そしてわたしは、アメリカのユーロフィンと交渉しましたがこちらも、日本法人を通せという話でした。日本法人は認証施設でないところと契約しません。厚生労働省と医学会からの圧力がかかっているからです。わたしは正式に遺伝学を学んでスキルを保証されて臨床遺伝専門医になっているのに、おかしすぎる日本の医療の現実。

3. 欧州での突破口発見

アメリカの2社に断られ、心折れそうになったのですが、アメリカがダメなら欧州に目を向けよう。そう思って探しました。

すべてのきっかけ – 日本医学会会長からの個人的依頼

運命的な出会い

そもそもわたしがNIPTに踏み出したのは、当時の日本医学会会長だった高久文麿先生から、「NIPTの仕組みがおかしいので問題点を調べるように」と指示されたからです。

そうして、患者不在で、「産婦人科学会よりも産婦人科医会(中絶医の集まりとして始まった開業医の団体)が強い」産婦人科業界の中で、大きな病院側の医師たちが主導権を握っている日本産婦人科学会が、「産婦人科医会にNIPTをさせない」ことを目的に、日本医学会の高久史麿先生に文句を言える人たちもそういないだろう、ということで、日本医学会をほとんど隠れ蓑にして産婦人科学会が運営するという形の制度を作ったのでした。

決意の瞬間

こうした実態が明らかとなり、わたしは、「初めての妊娠出産で一卵性双生児の一人を36週6日で突然失った」母親の一人、かつ、臨床遺伝専門医として、日本産婦人科学会に反旗を翻すことにしたのです。

わたしは高久先生に、「NIPTをやれる準備をしました」と宣言し、この世界に風穴と開けるのだと決心しました。

それが2017年3月のことです。実際に検査を始めたのは、2017年10月近くですので、日本医学会会長の高久史麿先生と仲の良い私が、形としては日本医学会に反旗を翻すことになることに逡巡していたということです。

そしてわたしは、NIPTの世界に踏み出しました。なので決して簡単な決意ではありませんでした。

ベルギーで培った価値観 – 個人主義への目覚め

価値観の原点

それは、わたしのお育ちに原因があるかもしれません。

ハイティーンの時にたった一人でベルギーの田舎町で高校に通いました。

個人主義の国で、「個人の意思を尊重する」ことの大切さを身に着けて帰国したからです。

約束の実現 – ついに骨系統疾患NIPTが可能に

その私のところに20代と言う若い夫婦が来て、「前のようなことがあるかもしれないと思うと怖くてたまらない、何とかしてほしい」とおっしゃっている姿を思い出して。なにがなんでも絶対、海外にはもうある検査なのだから実現せねば、と粘り強く交渉しました。当時は2019年で。AIなんてありませんでしたので、自力で一生懸命英語でメールを書いて交渉する日々でした。
ベルギーで教育を受けてよかったなと思う点は、実現したいことがある場合、どういう風に実現するかと言う経路を複数考えるというトレーニングとかもあったんです。あと、ディベートとか、交渉術とかもありました。
日本式でない教育を多感な時期に受けた私だからこそ頑張れたのかもしれない、といろんな教育を受けさせてもらった環境に心から感謝しました。

ついに実現

そしてついに、2020年7月から、骨系統疾患を含む25遺伝子のNIPTを取り扱うことができるようになったのです。

現在では、56遺伝子に増えたNIPTを取り扱うことができています。

世界は臨床遺伝専門医の私に対して、「この検査を扱うな、産婦人科じゃないんだから」なんて絶対言いません。

むしろ、わたしががん薬物療法専門医と言う日本のがんの専門医も持っていることに対して、すごく敬意を払っていただけます。こんなマニアックな医者は世界でも珍しいので。

患者主体の医療への信念

こうしてわたしは、日本の「産婦人科と小児科がこれがいいと思うことを押し付ける出生前診断」を打破し、「自分たちがファミリーとして歩んでいくために主導権選択権が患者側にある出生前診断」を提供すべく頑張ってきました。

欧州で学んだ教育哲学

わたしに向かって、「寄り添ってくれない」「冷たい」と言う意見があることも知っています。

しかし。欧州では、日本のように転んだ子供を抱きかかえて起こしたりしません。自分で立ち上がったら、ほめたたえて抱きしめるのです。そんな小さなころから自分の人生は自分で歩むんだということを教えているのです。

なので、何もかも教えて、他の人はどうしているの、とかいう人とわたしは合わないかもしれません。

ですが本当に困難に直面したら、わたしの良さはわかっていただけると思っています。

私たちの基本理念

あなたの人生ですから、ご自分で決めてください

その代わり決めるにあたり必要な情報は余すことなくお伝えします

患者さんと築いてきた信頼関係

そうしてわたしは障害のあるお子さんがいるご家庭の状況や、どういうクリニックに行って何を言えばいいのかとかお伝えしています。

陽性になってもいないのに、どういうクリニックを紹介しているのかと聞きたがる人がいるのですが、お伝えしていません。

どういうクリニックがいいのかということは、今までミネルバに来た患者さんたちが、ここがよかった、ここはこうだったとかわたしに伝えてくれたからこその財産です。

適切なタイミングでの情報提供

物事には段階があるので、陽性になっていないのに、うちが大切にしているそうしたクリニックの固有名詞をお伝えすることはしておりません。

物語の完結 – そのご夫婦のその後

感動の再会

あの20代ご夫婦の2回目の来院

「ついに検査していただけるんですね」

このご夫婦は、3回目の妊娠時に再度ミネルバクリニックを訪れました。今度は骨系統疾患が検査できるようになっていたので、涙ぐんで喜ばれていました。

全体として現在までに3人のお子さんを無事にお迎えになりました。

おわりに – 患者さん主体の医療への挑戦は続く

あの20代のご夫婦との出会いから始まった私たちの挑戦は、今では多くの患者さんに新しい選択肢を提供できるまでになりました。一人ひとりの患者さんが、ご自身の価値観に基づいて最良の選択ができるよう、私たちはこれからも最新の医療技術と正確な情報を提供し続けてまいります。

この物語に込めた想い

一組のご夫婦の辛い体験から始まった小さな約束が、
やがて日本の医療制度に小さな風穴を開けるかもしれない大きな挑戦となりました。
現在では、ミネルバクリニックは2025年6月より自院で羊水・絨毛検査が可能な体制をとることができるようになっています。

患者さんの人生はその方のものです。私たちにできることは、
その大切な決断を支える正確な情報と、必要な時の適切なサポートを提供することです。

これからも、この信念を貫いてまいります。

ミネルバクリニックについて詳しく見る

よくある質問(FAQ)

骨系統疾患とは何ですか?

骨や軟骨の発達・形成に異常をきたす疾患群の総称で、多くは単一遺伝子の変異が原因です。四肢長の短縮や頭蓋・脊椎・胸郭の形態変化などを示します。

NIPTで骨系統疾患はどこまでわかりますか?

染色体数の異常とは別に、単一遺伝子が原因と分かっている一部の骨系統疾患について、対象遺伝子を限定してスクリーニングできます。検出範囲と限界は検査設計に依存します。

陽性(疑い)時はどうなりますか?

NIPTはスクリーニング検査です。結果に応じて羊水検査や出生前超音波などの確定診断を検討します。最終判断は確定検査の所見を踏まえて行います。

妊娠のどの時期に受けられますか?

一般に胎児由来DNAが十分になる妊娠初期から可能です。適切な採血時期は個々の状況で異なるため、事前に医師の指示に従ってください。

偽陰性・偽陽性はありますか?

あります。胎盤と胎児の差(胎盤モザイクなど)や胎児分画の低さ、技術的要因で起こり得ます。NIPT単独で診断は確定できません。

日本の制度上の課題は?

提供体制や適応範囲が限定されやすく、情報提供の質とタイミングが施設間で不均一になり得ます。患者主体の意思決定を支える情報整備が重要です。

個別の受診先や支援先の情報は教えてもらえますか?

固有名詞の情報は、必要性が生じた段階で適切なタイミングに提供します。患者さんのプライバシーと情報の正確性を重視しています。

骨系統疾患NIPTで対象となる遺伝子は何ですか?

現在、以下の56遺伝子に関連する30種類以上の単一遺伝子疾患についてスクリーニングが可能です。これらには骨や軟骨の形成異常、頭蓋骨癒合症、発達遅延や特徴的顔貌を伴う症候群などが含まれます。

対象遺伝子一覧:ASXL1, BRAF, CBL, CD96, CDKL5, CHD7, COL10A1, COL11A1, COL1A1, COL1A2, COL2A1, EBP, EFNB1, ERF, FGFR1, FGFR2, FGFR3, FLNB, FREM1, GLI3, HDAC8, HNRNPK, HRAS, KAT6B, KMT2D, KRAS, LMNA, MAP2K1, MAP2K2, MECP2, NIPBL, NRAS, NSD1, NSDHL, PTPN11, RAD21, RAF1, RIT1, RUNX2, SHOC2, SKI, SLC25A24, SMC1A, SMC3, SNRPB, SOS1, SOS2, SOX9, SPECC1L, STAT3, TCF12, TRAF7, TSC1, TSC2, TWIST1, ZIC1。

この56遺伝子でわかる疾患には何がありますか?

主に以下の疾患群が含まれます:

  • 軟骨無形成症や低形成症(FGFR3関連など)
  • オピッツG/BBB症候群(MID1, EFNB1関連)
  • クルーゾン症候群、アペール症候群など頭蓋骨癒合症(FGFR2, TWIST1, TCF12関連)
  • マルファン症候群様疾患(FBN1, COL系遺伝子関連)
  • ラセミック症候群、ノオナン症候群群(PTPN11, SOS1, RAF1, KRAS, NRAS関連)
  • ルービンシュタイン・テイビ症候群(CREBBP, EP300など関連)
  • コフィン・シリス症候群(ARID1B, SMARCA4など関連)
  • その他、多発奇形・発達遅延を伴う症候群(CHD7, MECP2, NIPBL, KMT2Dなど関連)

検出可能な範囲や疾患名は、検査プラットフォームの設計に依存しますので、詳細は事前にご確認ください。

詳しくは「父親の加齢で増える赤ちゃんの疾患を検査|56遺伝子de novo変異NIPT|ミネルバクリニック」をご覧ください。


プロフィール

この記事の筆者:仲田 洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、1995年に医師免許を取得して以来、のべ10万人以上のご家族を支え、「科学的根拠と温かなケア」を両立させる診療で信頼を得てきました。『医療は科学であると同時に、深い人間理解のアートである』という信念のもと、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医としての専門性を活かし、科学的エビデンスを重視したうえで、患者様の不安に寄り添い、希望の灯をともす医療を目指しています。


仲田洋美の詳細プロフィールはこちら

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