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ダウン症は21番染色体の異常(21トリソミー)が原因で発症する疾患で、筋肉の緊張度の低さや、知的発達の遅れなどが特徴です。21トリソミーが原因となって、ダウン症の症状以外にも心臓の疾患や甲状腺機能低下など、さまざまな疾患(合併症)が生じることがあります。
本記事では、ダウン症の方に発症しやすい合併症の症状や治療法、発症率について解説していきます。
ダウン症は何が原因で発生するのか
ダウン症の原因は21番染色体の異常(21トリソミー)です。人間の細胞には22種類の常染色体と1種類の性染色体が存在します。通常は同じ種類の染色体が2本(母親由来のものが1本、父親由来のものが1本)あり、染色体の数は全部で46本(23種類×2本)となっています。
同じ種類の染色体が通常よりも1本多く、3本になっている状態を、トリソミーといいます(「トリ=3」)。22種類の常染色体のうち21番目の常染色体(21番染色体)がトリソミーになっていると、ダウン症が発症します。
ダウン症の子供が生まれる確率は、母親の出産年齢が上がるほど増えます。例えば、出産年齢25歳の場合の確率が1/1350(1,350人に1人)であるのに対し、35歳の場合は1/350(350人に1人)、45歳だと1/35(35人に1人)となります。ダウン症の原因となるトリソミーには、「標準型」「モザイク型」「転座型」の3タイプがあります。
標準型トリソミー
標準型のトリソミーは、卵子や精子が作られる際に生じます。卵子は卵母細胞が2回分裂することによって作られます。下の図はそのときの様子です。
まず、卵母細胞の中で染色体が2倍になります。図の1番上は、卵母細胞の中で21番染色体が2本から4本に増えた状態を示しています。
卵母細胞が2回分裂して4つの卵子ができます(図の1番下)。2回とも正常に分裂すれば、21番染色体が1本ずつ入った卵子ができます(図の左側)。
どこかの段階で染色体がうまく分離しない現象(不分離)が起こると、21番染色体が2本入った卵子ができ、これが精子と受精すると、21トリソミーを持つ受精卵になります。
赤ちゃんの体を作る細胞はすべて1個の受精卵から発生するので、全細胞が21トリソミーを持つことになります。精母細胞から精子が作られる際にも、同じような不分離が起き、21トリソミーの原因となることがあります。ダウン症のほとんど(約95%)はこのタイプのトリソミーが原因です。
モザイク型トリソミー
モザイク型トリソミーは、正常な受精卵が分裂して赤ちゃんの体が作られる際に発生します。受精卵が分裂すると、染色体が2倍に増えて2つの細胞に分かれます。こうした分裂が何回も繰り返されて赤ちゃんの体ができていくわけですが、どこかで21番染色体がうまく分かれず、不分離が起きると、21トリソミーを持つ細胞ができます。
21トリソミーを持つ細胞からは21トリソミーを持つ細胞が増えていきますが、不分離が起きなかった細胞は正常なまま増えていきます。その結果、21トリソミーがある部分とない部分がモザイクのように混在した状態(モザイク型トリソミー)になります。モザイク型のダウン症は珍しく、全体の3%程度です。
転座型トリソミー
21番染色体のうちの1本が、別の染色体(14番や21番)に移動してくっついてしまう(転座する)ことが原因で生じるのが、転座型トリソミーです。卵母細胞・精母細胞が分裂する際に転座が起こると、21番染色体を2本持つ卵子や精子ができることがあり、これが受精するとダウン症が発症します。
もともと母親または父親の細胞で転座が起きていて、それが原因で21番染色体を2本持つ卵子や精子ができる場合もあります。転座型のダウン症は稀で、全体の1%程度です。
ダウン症に発症しやすい主な合併症とその治療法
ダウン症に発症しやすい主な合併症の発症率、症状、治療法などを解説します。
心疾患
心疾患(心臓の疾患)はダウン症全体の約50%で見られます。健康に重大な影響を及ぼす恐れがあるため、生後1か月以内に心疾患の検査を受ける必要があります(できれば赤ちゃんがお腹の中にいるうちに心臓超音波検査を受けておくのが望ましいです)。
病名 | 症状 | 治療法 |
房室中隔欠損 (心室中隔欠損を伴う「完全型」) |
・心臓内の結合組織や壁に穴があいている ・重度の心不全による息切れ、哺乳不良、低体重など ・放置すると肺高血圧症を生 じる |
・薬で心不全を抑制し、生後6か月前後までに外科手術を行う |
房室中隔欠損症 (心室中隔欠損を伴わない「不完全型」) |
・心臓内の結合組織に穴があいている ・通常、小児期は無症状で、 青年期・成人期に動悸や息 切れなどの心不全症状が現れる |
・ある程度成長してから(目安として は小学校就学前に)外科手術を行う |
心室中隔欠損 | ・心臓内の壁に穴があいている ・重度の場合、生後数か月で重い心不全 ・軽度の場合、症状は無いか軽く、自然に穴が閉じることも |
・軽度の場合、基本的に治療不要(た だし感染症に気をつける) ・重度の場合、薬で心不全を抑制し、 症状に応じて乳児期早期~小児期に 外科手術を行う |
動脈管開存症 | ・生後に閉じるはずの動脈管が開いたまま ・重度の場合、乳児期から心 不全をきたす |
・心不全がある場合、薬で心不全を抑 制しカテーテル手術や外科手術を行 う |
消化器疾患
喉から胃につながっている管(食道)や胃と小腸を結ぶ管(十二指腸)が、生まれつき正常につながっていない場合があります。生後すぐの検査・処置が必要です。
病名 | 症状 | 治療法 |
食道閉鎖症 | ・食道が途切れている(気管の方につな がってしまっている場合もある) ・ミルクを飲み込めない(むせる) 唾液などが気管に入り、肺炎を引き起 こすことも |
・生後すぐに外科手術 |
十二指腸閉鎖症・狭窄症 | ・十二指腸が途切れているか、狭くなっ ている ・飲み込んだ物や胃液が腸に流れずにた まり、脱水症状や腹部膨満などをきた す |
・生後すぐに外科手術 |
血液の疾患
ダウン症は非ダウン症と比べて急性骨髄性白血病のリスクが10~20倍、急性巨核芽球性白血病のリスクが400~500倍高まります(ただし、白血病はそもそも非常にまれな病気なので、ダウン症でも発症する人はまれです)。生後1か月までに白血病の検査を受ける必要があります。
参照:京都大学 | ダウン症候群に合併した急性巨核芽球性白血病の新規原因遺伝子を発見 -ダウン症候群児に発症する血液がんの大規模遺伝子解析を実施
症状 | 治療法 | |
急性骨髄性白血病 | ・血液のがん ・感染症にかかりやすく、治りにくい |
・化学療法(薬物による治 療) |
一過性異常骨髄増殖症 | ・生後すぐに白血病の症状が出て、多くは自然に治る | ・化学療法 |
急性巨核芽球性白血病 | ・血液のがん(一過性異常骨髄増殖症にかかって自然に治った人の20~30%が発症) | ・化学療法 |
鉄欠乏性貧血 | ・鉄不足により血液中のヘモグロビンが減り、 動悸・息切れ・疲労感などの症状が出る | ・鉄不足の原因(偏った食事 など)をなくす ・重度の場合は治療薬を服用 |
代謝・内分泌系の疾患
新生児期から成人期にかけて、甲状腺機能低下症を発症するリスクがだんだんと高まり、30%の人が20歳までに発症します。1%の人は先天性甲状腺機能低下症を持って生まれます。また、ダウン症の人は糖尿病にかかるリスクが高いと言われています。
病名 | 症状 | 治療法 |
甲状腺機能低下症 | ・無気力、動作緩慢、疲労感 むくみ、寒がり、体重増加 記憶力低下、便秘など |
・治療薬の内服 |
先天性甲状腺機能低下症 | ・無気力、哺乳不良、体重が増えにくい、便秘、手足がつめたい、泣き声がかすれ る、身体能力・知的能力の発達の遅れなど | ・治療薬の内服 |
糖尿病(1型・2型) | ・高血糖が慢性的に続き、網膜症・腎症・神経障害・心臓病・脳卒中などのリスクが高まる | ・1型はインスリン自己注射 ・2型は食事療法、運動療法、内服薬、インスリ ン自己注射 |
眼科系の疾患
ダウン症の10%~25%の人が白内障を発症します。生まれつき(先天性白内障)の場合と、思春期までは正常で成人期になって(まだ若いうちに)発症する場合があります。30%程度の人に斜視、約半数の人に屈折異常が見られます(ダウン症以外の人よりもやや多いというくらいです)。
白内障や斜視は視力の発達に悪影響を及ぼす恐れがあるため、生後6か月くらいまでに検査を受ける必要があります。
病名 | 症状 | 治療法 |
白内障 | ・眼球のレンズが白く濁る(程度はさまざま、軽度であれば視力に影響しない。先天性白内障はあまり進行しないことが多い) | ・点眼薬で症状の進行を抑える ・重度の場合は外科手術 |
斜視 | ・左右の眼の向きが同じにならない 一方の眼だけがよく使われ、反対の眼が使われずに弱視になってしまうこがある |
・よく使う方の眼を眼帯で隠し、反対の眼を使うトレーニングをする ・外科手術で矯正 |
屈折異常 | ・近視、遠視、乱視 | ・眼鏡・コンタクトレンズの装用 ・外科手術で矯正 |
耳鼻科系の疾患
滲出性中耳炎が40%~70%の人に見られます。とくに新生児期~小児期に多く、年齢とともに症状が軽くなる傾向があります。滲出性中耳炎は伝音難聴の原因となるため、定期的な検査と早期からのケアが必要です。感音難聴は小児期にはまれですが、成人期になると年齢とともに増えます。
病名 | 症状 | 治療法 |
滲出性中耳炎とそれに伴う伝音難聴 | ・鼓膜の奥の空間に液体がに じみ出てたまり、難聴、耳の詰まった感じ、耳鳴りなどが起こる | ・鼓膜チューブ留置(鼓膜に小さな穴を空けてチューブを挿す) ・補聴器の装用 |
感音難聴 | ・耳の奥~脳のどこかに障害 があり、音が感知されにくくなる | ・補聴器の装用 |
精神疾患・神経疾患
ダウン症の基本症状として軽度~中度の精神発達遅滞(知的障害)があり、言語能力・学習能力の発達や精神的な成長が遅い傾向があります。
合併症としては、約半数の人にうつなどの精神疾患が見られます。ダウン症児の約16%が自閉スペクトラム症を発症し、乳幼児期または成人期に約8%の人がてんかんを発症します。これらの症状の程度はさまざまです。
病名 | 症状 | 治療法 |
うつ | ・気分の落ち込みや何をしても楽しめない状態が続く(落ち込ませるような出来事が起こったせいではなく、とくに理由が なくてもそうした状態が続く) | ・休養 ・治療薬の内服 ・認知行動療法 |
自閉スペクトラム症(自閉症) | ・言葉・表情・身振りなどから他人の考え・気持ちを読み取るのが困難 ・自分の考え・気持ちを他人に伝えるのが困難 ・特定のことへのこだわりが強い |
・医療機関・支援機関が家族と協力しながら成長を支援 ・特定の症状を抑える治療薬 の内服 |
てんかん | ・突発的な発作により、感覚・運動機能の異常、意識障害、けいれん、脱力などが起こる | ・治療薬の内服 ・外科手術 |
合併症がない場合もある?ダウン症の合併症が起きる確率
合併症の有無や症状の程度には大きな個人差があり、出生直後に手術が必要になる人もいれば、合併症がほとんどない(症状が軽く、とくに治療がいらない)人もいます。起きる確率の高い合併症をまとめると、以下のようになります。
- 滲出性中耳炎および難聴……40%~70%
- 心疾患……約50%
- 眼の屈折異常……約50%
- うつなどの精神疾患……約50%
- 甲状腺機能低下症……20歳までに約30%
- 斜視……約30%
- 白内障……10~25%(調査によって幅がある)
- 自閉スペクトラム症……約16%
標準型・転座型のダウン症ではすべての細胞に21トリソミーがありますが、モザイク型のダウン症では21トリソミーのある細胞と正常な細胞が混在しています。そのため、モザイク型のダウン症では他の型にくらべて合併症が少ない(軽い)場合が多いです。
まとめ
ダウン症は21トリソミー(21番染色体が通常よりも1本多い状態)が原因で発症します。21トリソミーは心疾患、食道・十二指腸閉鎖、白血病、甲状腺機能低下症、白内障、滲出性中耳炎、難聴、うつ、自閉スペクトラム症などの合併症を引き起こすことがあります。
発症する合併症の種類や症状の程度は一人ひとり異なり、手術が必要なケースもあれば治療が不要なケースもあります。合併症の検査法・治療法はかなり進んでおり、適切なタイミングで検査を行い、早期に治療を実施すれば、健康への影響を小さく抑えられる場合が多いです。
また、当院ミネルバクリニックでは、ダウン症をはじめとする染色体異常の有無を検査できるNIPT(新型出生前診断)を実施しています。出産前に染色体異常を調べることで、事前に合併症の知識を得ることや心の準備ができるでしょう。NIPTをご検討の際は、ミネルバクリニックまでお気軽にご相談ください。
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