侵襲的な出生前検査(診断)についてご説明します
さて,最近の出生前検査、どんな種類の検査があるでしょう(非侵襲的検査編)では
非侵襲的な出生前検査についてご紹介しました.
このページでは,侵襲的な出生前検査(出生前診断)についてご紹介します.
上の図の一番下にあります, 絨毛検査と羊水検査 です.
この検査は確定診断となる検査です.
※ここでは,遺伝学的検査に関係する内容についてご紹介します.
絨毛・羊水検査では遺伝子の検査を行うことがありますが,
このページでは〈染色体〉に注目してお話します.
〇羊水検査
妊娠15週~18週頃に行います.
羊水の中には胎児の皮膚・口腔・消化器粘膜・羊膜由来の脱落細胞など,
色々な種類の胎児細胞が浮遊しています.
この羊水に含まれている胎児の細胞を約2週間培養して増やし,
細胞に含まれている染色体がよく観察される時期(細胞分裂中期)に処理・染色体の染色などを行い,
胎児の染色体の分析を行います.
検査結果が出るまで,3~4週間程度かかります.
羊水検査では羊水を採取する必要があり,そのために侵襲的な方法を用います.
・羊水採取法(羊水穿刺)
エコーで胎児と胎盤の位置を確認しながら妊婦のお腹に針を刺します.
そして,羊水を採取します.長い注射をお腹に刺すようなイメージです.
お腹に針を刺すので,どうしてもリスクが伴います.
*羊水検査によるリスク
流産(0.3%:300人に1人ぐらいの割合で起こります)
感染症
羊水漏出
胎児損傷
〇絨毛検査
妊娠10週~13週頃に行います.
〈絨毛〉とは胎盤の一部で,胎児と同じ遺伝情報を持っていると考えられています.
羊水検査とは違い,細胞の数が多く,また,生きている細胞を採取するため
羊水検査に比べると検査結果が出るのが早いです.
検査結果が出るまで,約2~3週間程度と言われています.
・絨毛採取法
膣(経膣的)もしくはお腹(経腹的)から絨毛を採取します.
膣からはカニューレと呼ばれる柔らかい管を使って,
お腹からは針を刺して絨毛を採取します.
絨毛検査も侵襲的な方法で絨毛を採取するので,リスクがあります.
*絨毛検査によるリスク
流産(1%:100人に1人くらいの割合で起こります)
破水
出血
母体損傷
Q.羊水検査と絨毛検査,どちらが良い?
絨毛検査は羊水検査に比べ,
- ①検査を行う時期が早い
- ②もし妊娠を諦める場合,中絶が妊娠初期に行える
- ③検査結果が出るのが早い)
などの理由から,妊婦の精神的肉体的負担が少ないと言われています.
じゃあ,もう出生前診断するなら絨毛検査で良いのでは?と
疑問に思われる方もいらっしゃるかと思います.
ですが,絨毛検査にもデメリットがあります.
・絨毛検査のデメリット
まずは,流産のリスクが羊水検査の0.3%に比べ絨毛検査では1%であること.
モザイクがあること.(詳しい説明が知りたい方は,左のモザイクをクリックしてください)
絨毛検査を行った場合,絨毛の染色体の情報と胎児の染色体の情報が一致しないことがあります.
大体1%前後と言われています.
そのため,絨毛検査の結果で胎児にトリソミーがあるよ,と出ても,
実は絨毛(胎盤)だけで胎児にトリソミーは見つからないこともあります.
その逆の,絨毛(胎盤)はトリソミーが見つからなかったけれど,
胎児は実はトリソミーを持つ赤ちゃんでした,ということもあります.
また,細胞を培養しているうちにトリソミーの染色体をもつ細胞ができたけれど,
胎児は正常であった,など,モザイクにも色々と種類があります.
どの検査もよい点・悪い点(苦手な点)があるので,きちんとした説明を受けて
納得して検査を受けてみてください.
長々と説明してしまい,すみませんでした.
最後に,羊水や絨毛を使って染色体検査を行ったときにわかることをご紹介します.
☆染色体検査で分かること☆
染色体の数の異常と,大きな構造の異常が分かります.
一般的に行われる染色体検査はGiemsa(ギムザ)染色法です.
(G-banding:Gバンドと略して呼んだりします)
ダウン症(21トリソミー)の染色体核型
話が逸れましたね,すみません.
これは,ダウン症(21トリソミー)の男性の染色体の写真です.
通常1番~22番の常染色体は,父親から受け継いだ1本と母親から受け継いだ1本の
合計2本でペアになっています.
しかし,ダウン症(21トリソミー)の方では,21番染色体が1本多い3本になっています.
このように染色体を並べて数の異常や,無くなっていたり追加している部分がないか,
形は丸くなっていたりしないかなどをみます.
この Gバンドの染色体検査では,染色体の数の異常と大きな構造の異常は分かりますが,
小さな構造の異常や遺伝子レベルでの変化は分かりません.
*染色体核型の参考文献
トンプソン&トンプソン 遺伝医学第2版 図5.9A より引用