目次
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全ゲノムNIPTでは、13・18・21番以外の常染色体のトリソミーが報告されることがあります。これを「まれな常染色体トリソミー(RAT:ラット)」と呼びます。陽性と言われても、多くは胎盤だけに起きている変化で、赤ちゃん自身がトリソミーであることは少数です。ただし、胎盤の変化そのものが流産や胎児の発育不全、妊娠高血圧腎症につながることがあり、染色体によっては片親性ダイソミーという別の問題が隠れていることもあります。このページはNIPTの教科書シリーズ第7章の2ページ目として、まれなトリソミーで陽性になったとき、その結果をどう読み、妊娠がどう経過しうるのか、次に何を確かめるのかを、臨床遺伝専門医の立場から整理します。
⏱ 30秒でわかる要約
Q. まれなトリソミーで陽性なら、赤ちゃんはトリソミー?
多くはそうではありません。オランダの全国研究では、まれなトリソミーの陽性的中率(胎児で確認された割合)は6%でした。大半は胎盤だけのモザイクです。
Q. 胎盤だけなら問題ない?
問題なく出産に至る妊娠も多い一方、流産、胎児発育不全、妊娠高血圧腎症のリスクが一般より高いことが分かっています。
Q. 何番かで意味は変わる?
変わります。16番は胎児発育不全、15番は流産や片親性ダイソミー、7番は胎盤だけのことが多い、といった違いがあります。
Q. 次に何をする?
超音波で妊娠の状態を確かめ、確定には羊水検査が基本です。インプリンティングに関わる染色体なら片親性ダイソミーの検査も加えます。
Q. NIPTでまれなトリソミーが見つかったら、どう考えればよいですか?
A. 「胎盤に何が起きているか」と「赤ちゃんに何が起きているか」を分けて考えます。まれなトリソミーの陽性は、多くが胎盤だけの変化で、赤ちゃんの染色体は正常です。一方で胎盤の変化は妊娠経過に影響することがあり、染色体によっては片親性ダイソミーの確認が必要です。超音波、羊水検査、必要に応じた追加検査と、妊娠後半の経過観察を組み合わせて対応します。
- ➤頻度 → 全ゲノムNIPTを受けた妊婦さんの約0.2〜0.3%
- ➤胎児で確認される割合 → 6〜11%前後。多くは胎盤だけのモザイク
- ➤起こりうる経過 → 流産、胎児発育不全、妊娠高血圧腎症、胎児モザイク、片親性ダイソミー
- ➤染色体ごとの差 → 2・4・11・16・22番は有害な経過と結びつきやすい
- ➤確認検査 → 羊水検査が基本。6・7・11・14・15・20番は片親性ダイソミーの検査も

1. まれな常染色体トリソミー(RAT)とは
標準的なNIPTが報告するのは、13・18・21番のトリソミーと、施設によっては性染色体の数の変化だけです。すべての染色体を調べる検査ではありません。これに対して、全ての常染色体(1〜22番)を解析する全ゲノムNIPTでは、13・18・21番以外の染色体が1本多い状態も報告されることがあります。この「13・18・21番以外の常染色体トリソミー」をまとめて、まれな常染色体トリソミー(rare autosomal trisomy:RAT)と呼びます。
「まれ」とつくのは、生まれてくる赤ちゃんで見ることがまれだからです。13・18・21番以外のトリソミーは、全身の細胞がトリソミーの状態ではほとんどが妊娠の早い時期に止まってしまい、出生に至ることはごくまれです。ところが妊娠初期の胎盤に目を向けると、話は変わります。妊娠初期の流産の原因として最も多いのは染色体の数の異常で、なかでも16番や22番、15番などのトリソミーは珍しいものではありません。NIPTを受ける時期は、ちょうどこうしたトリソミーがまだ胎盤に残っている時期にあたります。
13・18・21番以外は、全ゲノムNIPTでないと報告されない
NIPTは、母体の血液中を流れるDNA断片を大量に読み取り、それぞれがどの染色体に由来するかを数えて、特定の染色体が多すぎないかを統計的に判定します。原理的には、読み取ったデータの中にすべての染色体の情報が含まれています。標準のNIPTはそのうち13・18・21番(と性染色体)だけを判定して報告し、全ゲノムNIPTは残りの常染色体も判定して報告する、という違いです。全ゲノムNIPTの仕組みと、第7章全体で扱う内容は全ゲノムNIPT:まれな常染色体トリソミーと部分的な染色体異常にまとめています。
日本の認証施設で行われるNIPTは、13・18・21番のトリソミーを対象としています[1]。そのため、まれなトリソミーという結果を受け取るのは、全ゲノムNIPTを選んだ場合に限られます。
見つかる頻度
まれなトリソミーが報告される頻度は、全ゲノムNIPTを受けた妊婦さんの約0.2〜0.3%です。オーストラリアと米国の約9万件をまとめた2017年の研究では0.34%でした[2]。全ゲノムNIPTを国の一次スクリーニングとして導入したオランダのTRIDENT-2(トライデント・ツー)研究では、7万3,239件中101件、0.18%でした[3]。16のコホート研究、68万件余りを統合した2026年のメタ解析でも、陽性の頻度は0.2%と報告されています[4]。
頻度に幅があるのは、検査を受けた集団(高リスクの方が多いか、一般の妊婦さんか)、検査を受けた週数、陽性と判定する基準が研究ごとに異なるためです。全体としては、13・18・21番のトリソミーを合わせた頻度のおよそ半分程度と考えられています[5]。NIPTの陽性が何を意味するかが集団によって変わる考え方は、高リスク集団と低リスク集団におけるcfDNA NIPTで詳しく扱っています。
2. 陽性でも「赤ちゃんがトリソミー」とは限らない理由
まれなトリソミーの陽性は、多くの場合、胎盤の一部または全体にトリソミーの細胞があることを示しているだけで、赤ちゃん自身の染色体は正常です。オランダのTRIDENT-2研究では、まれなトリソミーの陽性のうち胎児で確認されたのは6%でした[3]。2026年のメタ解析でも、陽性の80%は胎児で確認されない「偽陽性」でした[4]。国際出生前診断学会(ISPD)の声明は、絨毛検査で見つかるまれなトリソミーの97%は胎盤に限られていると述べています[6]。
NIPTが測っているのは胎盤から出たDNA
NIPTで「胎児のDNA」と呼ばれているものは、実際には主として胎盤の表面をおおう合胞体栄養膜(ごうほうたいえいようまく)に由来し、母体血中に放出されたDNAです。胎盤も赤ちゃんも同じ受精卵から育ちますが、ごく早い段階で胎盤になる細胞と赤ちゃんの体になる細胞は別々の道を歩みます。そのため、胎盤の染色体と赤ちゃんの染色体が一致しないことがあり、NIPTはその違いを見分けることができません。NIPTが確定検査ではなくスクリーニング検査とされる一番の理由がここにあります。
胎盤だけのモザイクと、胎児にもあるモザイク
1人の体の中に、染色体の構成が違う細胞が混ざっている状態をモザイクと呼びます。トリソミーの細胞が胎盤にだけあり、赤ちゃんの体にはない状態が限局性胎盤モザイク(CPM)です。胎盤だけでなく赤ちゃんの体の一部にもトリソミーの細胞がある状態は、真の胎児モザイクと呼ばれます。まれなトリソミーの陽性の大半は前者で、後者は少数です。モザイクがどのように生じ、どのような種類に分かれるかは、前のページのまれな常染色体トリソミー(RAT)とは:モザイクと胎盤限局性モザイクで詳しく説明しています。
💡 用語解説:真の胎児モザイク
赤ちゃんの体の細胞の一部にトリソミーの細胞が混ざっている状態です。羊水検査で、羊水中の赤ちゃん由来の細胞にトリソミーの細胞が確認されると、真の胎児モザイクと判断されます。トリソミーの細胞がどの臓器にどれだけあるかで影響が変わり、生まれてからの経過を正確に予測することは難しいのが現状です。
トリソミーレスキューと片親性ダイソミー
胎盤にトリソミーが生じる経路は大きく2つあります。1つは、受精の時点ではトリソミーではなく、その後の細胞分裂の誤りで一部の胎盤細胞だけがトリソミーになる経路です。この場合、トリソミーの細胞は胎盤の一部にとどまることが多く、赤ちゃんへの影響も小さい傾向があります。
もう1つは、卵子や精子ができる減数分裂のときの染色体不分離によって、受精卵の時点でトリソミーだった経路です。このままでは妊娠の継続が難しいのですが、細胞分裂の途中で余分な1本が失われ、正常な本数に戻ることがあります。これをトリソミーレスキューと呼びます。赤ちゃんの体の細胞はレスキューによって正常な本数になり、胎盤にはトリソミーの細胞が多く残る、という形がしばしば見られます。
トリソミーレスキューでは、3本のうちどれが失われるかは偶然で決まります。母親由来2本と父親由来1本のトリソミーから父親由来の1本が失われると、残った2本はどちらも母親由来になります。これが片親性ダイソミー(UPD)で、理論上はレスキューの3回に1回の割合で起こります。染色体の本数も形も正常なので、通常の染色体検査では見つかりません。片親性ダイソミーが問題になるのは、親のどちらから受け継いだかで働き方が変わる遺伝子をもつ染色体の場合で、これについては、このページの「4. 何番の染色体かで意味が変わる」と「6. 結果が出たあとの確認検査と経過観察」で説明します。
3. まれなトリソミーで陽性になったあと、妊娠はどう経過するか
まれなトリソミーで陽性になった妊娠は、問題なく出産に至ることも少なくありません。一方で、流産、胎児発育不全、妊娠高血圧腎症、胎児モザイク、片親性ダイソミーのリスクは一般の妊娠より高いことが分かっています。2026年のメタ解析では、胎児で確認されなかった陽性の約35%に有害な妊娠経過が伴っていました[4]。胎児で確認されなかったことを「偽陽性で心配ない」と言い切れないのが、まれなトリソミーの難しいところです。
流産・稽留流産
2017年の研究では、転帰が分かった52件のうち22件(42%)が妊娠初期の流産または稽留流産(けいりゅうりゅうざん:お腹の中で赤ちゃんの心拍が止まっている状態)でした[2]。この割合が高いのは、検査を受けた時期が平均11週と早かったことが関係しています。全身がトリソミーの胚でも妊娠10週前後までは育つことがあり、採血の時点ではまだ流産に気づかれていない妊娠が含まれていたと考えられます。同じ研究では、15番トリソミーの14件のうち13件が11〜12週より前に流産していました[2]。
言い換えると、まれなトリソミーの陽性は、すでに止まりかけている妊娠を見つけていることがあります。NIPTの採血より前に超音波で心拍を確かめていない場合は、まず超音波で妊娠が続いているかを確認することが勧められています[5]。
胎児発育不全・妊娠高血圧腎症・胎児死亡
胎盤にトリソミーの細胞が多いと、胎盤の働きが落ちることがあります。その結果として現れやすいのが、赤ちゃんの育ちが遅れる胎児発育不全と、母体の血圧が上がる妊娠高血圧腎症です。
TRIDENT-2研究の追跡結果では、胎盤だけのモザイクと判断された189件で、妊娠高血圧腎症が8.5%に起きていました。一般の妊婦さんの0.5%と比べて約18倍です。出生体重が2.3パーセンタイル未満(同じ週数の赤ちゃんの下位2.3%)だった割合も13.6%で、一般の2.5%の約5.5倍でした[7]。この数字にはまれなトリソミー以外の胎盤の変化も含まれていますが、胎盤だけの変化でも妊娠経過に影響することをはっきり示しています。
高リスク集団を対象にした先行研究のTRIDENTでは、13・18・21番以外の染色体の変化(まれなトリソミー以外も含む)のうち、胎盤由来と判断された22件のうち13件(59%)で赤ちゃんの先天異常や発育不良(10パーセンタイル未満)がみられ、そのうち6件は2.3パーセンタイル未満の重い発育不良でした[8]。胎盤のモザイクと胎児発育不全の関係は、限局性胎盤モザイク(CPM)と胎児発育不良(FGR)の関係でも取り上げています。妊娠中期以降の胎児死亡の報告もあり、多くは重い発育不全を伴っていました[2]。
胎児にもトリソミーが残る場合
胎児で確認される割合は、TRIDENT-2研究で6%[3]、ISPDの声明が引用した系統的レビューでは統合した陽性的中率が11.46%でした[6]。多くは全身ではなくモザイクの形です。TRIDENTでは、胎児由来と判断された10件(まれなトリソミー以外の変化も含む)のうち9件で、赤ちゃんに何らかの異常が見られています[8]。少数ではあっても、胎児で確認された場合の影響は小さくありません。
片親性ダイソミー
赤ちゃんの染色体の本数が正常でも、トリソミーレスキューの結果として片親性ダイソミーになっていることがあります。2026年のメタ解析では、片親性ダイソミーは15番と16番のトリソミーで多く報告されていました[4]。ISPDの声明によると、インプリンティングに関わる染色体で胎盤だけのモザイクがある妊娠では、片親性ダイソミーの全体のリスクは2.1%です[6]。代表的なのが15番で、2本とも母親由来になるとプラダー・ウィリー症候群になります。羊水の染色体検査で「正常な男の子(女の子)」と出ても、この診断は別に調べなければ分かりません。
問題なく経過する妊娠
一方、TRIDENTでは胎盤由来の22件のうち9件(41%)は妊娠経過に問題がありませんでした[8]。メタ解析の「約35%に有害な経過」という数字も、裏を返せば3分の2近くでは目立った問題がなかったことを意味します[4]。22番トリソミーで陽性になったものの羊水検査では正常で、胎盤のモザイクが疑われた具体的な経過は、トリソミー22のNIPT陽性から羊水検査陰性へで紹介しています。
🩺 院長コラム【「偽陽性」という言葉の落とし穴】
13・18・21番のNIPTでは、羊水検査で赤ちゃんの染色体が正常なら「偽陽性だった」で話が終わることがほとんどです。まれなトリソミーでは、そうはいきません。赤ちゃんの染色体が正常でも、胎盤には確かにトリソミーの細胞があり、それが妊娠後半の赤ちゃんの育ちや母体の血圧に影響することがあるからです。
そのため、まれなトリソミーの結果は「当たりか外れか」ではなく、「胎盤からの注意信号」として受け取るのが実態に合っていると考えています。羊水検査で正常だったあとも、妊娠を見守る産科の先生とこの結果を共有しておくことが大切です。
4. 何番の染色体かで意味が変わる
まれなトリソミーは、ひとくくりにすると誤解を生みます。どの染色体のトリソミーかによって、流産しやすさ、胎盤への影響、胎児に残りやすいか、片親性ダイソミーが問題になるかが大きく異なります。2026年のメタ解析では、有害な経過と結びつきやすいのは2・4・11・16・22番で、とくに16番と4番のリスクが高いとされました[4]。主な染色体の特徴を表にまとめます。
📊 NIPTで見つかる主なまれなトリソミーの特徴
| 染色体 | NIPTで見つかったときの特徴 | 確認・見守りのポイント |
|---|---|---|
| 2番 | 受精後に胎盤で生じることが多いとされる一方、有害な経過との関連が報告されている | 胎児発育の見守り |
| 7番 | NIPTで最も多く見つかる染色体の一つ。多くは胎盤だけで、受精後に生じたもの | インプリンティングに関わるため片親性ダイソミーの検査を検討(リスクは低い) |
| 9番 | 胎児にモザイクとして残り、先天異常を伴った報告がある | 羊水検査と詳しい超音波 |
| 14番 | NIPTで見つかることは比較的少ない。インプリンティングに関わる染色体で、片親性ダイソミーではテンプル症候群などが知られる | 片親性ダイソミーの検査 |
| 15番 | 妊娠初期の流産が非常に多い。続いた妊娠では片親性ダイソミーが起こりやすい | 片親性ダイソミーの検査(プラダー・ウィリー症候群の確認) |
| 16番 | NIPTで多く見つかる。早い時期からの胎児発育不全、妊娠高血圧腎症と強く関連 | 胎児発育と母体血圧の厳重な見守り |
| 22番 | 妊娠初期の流産と関連しやすく、胎児にモザイクとして残ることもある | 羊水検査と胎児発育の見守り |
※2017年の研究[2]、TRIDENT研究[8]、2022年の総説[5]、2026年のメタ解析[4]、ISPDの声明[6]をもとに作成。いずれも報告例が限られており、個々の妊娠の経過を予測するものではありません。
表の中で何度も出てくる「インプリンティング」は、父親由来か母親由来かによって片方だけが働く遺伝子のしくみです。この仕組みをもつ遺伝子は6・7・11・14・15・20番に多く、これらの染色体で片親性ダイソミーが起きると、本数は正常でも遺伝子の働きが偏って病気につながることがあります[6]。仕組みと代表的な病気はゲノムインプリンティングのページで解説しています。
7番は、NIPTで見つかる頻度が高い割に、流産や片親性ダイソミーとの結びつきが弱い染色体です。受精後の細胞分裂で胎盤の一部に生じたものが多いため、赤ちゃんに影響しにくいと考えられています[5]。反対に16番は、多くが卵子の減数分裂の誤りから始まるとされ、胎盤全体にトリソミーの細胞が広がりやすい染色体です[5]。ISPDも16番の陽性には胎児の見守りが必要だとしています[6]。
羊水検査で赤ちゃんにモザイクが確認された場合の経過も、染色体ごとに異なることが知られています。羊水で見つかったまれなトリソミーのモザイクを集計した研究では、超音波で異常がない場合でも、有害な経過の割合は染色体によって大きく違っていました[9]。それぞれの染色体の病気の特徴や、生まれてからの経過については、表のリンク先の各染色体のページで詳しく説明しています。
5. 結果の読み方:トリソミー分画と胎児分画の比
まれなトリソミーの意味を考えるうえで手がかりになるのが、「胎盤のうちどれくらいの割合がトリソミーなのか」です。全ゲノムNIPTでは、母体血中の胎盤由来DNAの割合である胎児分画(胎児ゲノム率)と、トリソミーとして増えているDNAの割合(トリソミー分画)を、それぞれ推定できることがあります。
トリソミー分画を胎児分画で割った比が1.0に近いということは、胎盤由来のDNAのほぼすべてがトリソミーを示している、つまり胎盤全体がトリソミーの細胞でできていることを意味します。これは受精卵の時点でトリソミーだった(減数分裂の誤りで生じた)可能性が高い状態で、その後の流産、胎児モザイク、片親性ダイソミー、胎児発育不全のリスクが高くなります。2017年の研究でも、流産や胎児モザイク、片親性ダイソミー、発育不全に至った例では、この比が1.0に近い傾向がありました[2]。
一方、比が低い場合は、胎盤の一部だけがトリソミーであることを示します。受精後に一部の細胞で生じたモザイクであることが多く、赤ちゃんの染色体は正常で、経過も良好なことが多いと考えられています[2]。
💡 用語解説:トリソミー分画
母体血中のDNAのうち、トリソミーの染色体として増えている分の割合を推定した値です。胎児分画が10%で、胎盤のすべてがトリソミーなら、トリソミー分画もおよそ10%になります。胎盤の半分だけがトリソミーなら、およそ5%になります。この比を見ることで、胎盤のどれくらいがトリソミーなのかを大まかに推定できます。
ただし、この比をどこで区切れば安全と言えるかという基準はまだ確立していません。すべての検査会社がこの値を報告するわけでもなく、比が低くても確認検査が不要になるわけではありません。結果報告書に胎児分画やトリソミー分画の記載がある場合は、その数字がどの程度の割合を示しているのかを、検査を実施した医療機関で確認することが重要です。
🩺 院長コラム【同じ「16番陽性」でも中身は違う】
同じ16番トリソミーの陽性でも、胎盤の一部だけがトリソミーの場合と、胎盤のほぼ全体がトリソミーの場合とでは、その後に起こりうることがまるで違います。後者は、受精卵の時点でトリソミーだったものが赤ちゃんの側だけ正常に戻った状態であることが多く、胎盤の働きが落ちやすいうえに、片親性ダイソミーの可能性も残ります。
「何番か」に加えて「どのくらいの割合か」を見ることで、結果の重みはかなり読み分けられると考えています。この比は1つの数字で白黒を決めるものではありませんが、確認検査の結果と組み合わせて、妊娠後半の見守りをどこまで手厚くするかを考える材料になります。
6. 結果が出たあとの確認検査と経過観察
まれなトリソミーで陽性になったら、まず超音波で妊娠の状態を確かめ、赤ちゃんの染色体の確認には羊水検査を行うのが基本です。インプリンティングに関わる染色体なら片親性ダイソミーの検査を加え、妊娠を続ける場合は胎児の発育と母体の血圧を見守ります。
まず超音波で妊娠の継続を確認する
「3. 妊娠はどう経過するか」で見たように、まれなトリソミーの陽性には、すでに止まりかけている妊娠が含まれることがあります。NIPTの採血より前に超音波で赤ちゃんの心拍を確認していない場合は、まず超音波で妊娠が続いているか、明らかな形の異常がないかを確かめます[5]。稽留流産と分かった場合は、その時点で確認検査の意味が変わります。
確定には羊水検査が基本
ISPDの声明は、まれなトリソミーの陽性後に赤ちゃんの状態を調べる検査として、羊水検査を第一に挙げています[6]。理由は、陽性の大半が胎盤だけのモザイクだからです。絨毛検査は胎盤の組織を調べる検査なので、NIPTと同じ胎盤のトリソミーをもう一度見つけるだけで終わることが多く、赤ちゃん自身の染色体を確かめるには不十分なことがあります。羊水中の細胞は主に赤ちゃんの皮膚や尿路などに由来するため、赤ちゃんの染色体をより直接反映します。
羊水の解析には、通常の染色体検査(Gバンド法)に加えて、染色体マイクロアレイが使われることがあります。マイクロアレイは低い割合のモザイクや部分的な欠失・重複も見つけやすく、次に述べる片親性ダイソミーの手がかりも得られる方法があります。羊水検査は妊娠15〜16週以降に行うため、結果が出るまでには待機期間が生じます。確認検査の選び方や結果が出るまでの流れについては、遺伝カウンセリングで具体的に確認できます。
羊水の染色体が正常でも、片親性ダイソミーの検査が必要な場合
陽性になったのが6・7・11・14・15・20番のいずれかであれば、羊水検査で染色体の本数が正常でも、片親性ダイソミーを調べる検査を加えることが勧められています[6]。片親性ダイソミーは本数も形も正常なため、通常の染色体検査では分かりません。調べるには、両親と赤ちゃんの遺伝子の型(SNP)を比べる方法や、遺伝子の働きの目印であるメチル化を調べる方法を使います。前者に使われるSNPアレイは、2本の染色体が同じ親に由来する部分を見つけることができます。
これらの染色体以外のトリソミーでも片親性ダイソミーは起こりますが、インプリンティングに関わる遺伝子がないため、それだけで病気になることは基本的にありません。ただし、片親性ダイソミーによって、親が保因している潜性(劣性)の遺伝子の変化が2本そろって受け継がれることはまれにあります。
妊娠を続ける場合の見守り
羊水検査で赤ちゃんの染色体が正常でも、胎盤のトリソミーは妊娠の終わりまで残ります。そのため、妊娠後半の胎児の発育と母体の血圧を、通常より注意して見守ることが勧められます。とくに16番は、早い時期からの胎児発育不全と関連するため、ISPDも胎児の見守りが必要だとしています[6]。胎盤だけのモザイクの妊娠で妊娠高血圧腎症が一般の約18倍に増えていた[7]ことを考えると、血圧の変化にも気を配る必要があります。
16番トリソミーなどの胎盤のモザイクがある妊娠では、妊娠初期の血清マーカーであるPAPP-A(パップエー)が低い値になりやすいことも知られています。コンバインド検査を受けていてPAPP-Aが低かった場合は、その情報も妊婦健診を担当する産科の先生と共有しておくと、見守りの計画に役立ちます。妊娠初期の超音波が正常でも、その後に発育の遅れが現れることがあるため、1回の正常所見で見守りを終えないことが大切です。出産後に胎盤の複数の場所を検査すると、胎盤だけのモザイクだったことを確かめられる場合があり、次の妊娠を考えるうえでの情報にもなります。
7. まれなトリソミーが他の結果をゆがめることもある
まれなトリソミーは、それ自体が報告されるだけでなく、13・18・21番の判定を狂わせる原因になることもあります。NIPTは、調べたい染色体のDNA量を、ほかの染色体(参照染色体)のDNA量と比べて判定します。参照に使う染色体がトリソミーになっていると、比べる基準そのものがずれてしまい、調べたい染色体が実際より少なく、あるいは多く見えることがあります。標準のNIPTではまれなトリソミーは報告されないため、こうした場合は原因が分からないまま、思いがけない判定や判定保留として現れます。この仕組みはNIPTの偽陽性の原因:珍しい常染色体のトリソミーや染色体の構造異常で詳しく説明しています。
トリソミーの原因が胎盤ではなく母体にある場合もあります。母親自身の血液細胞の一部にトリソミーの細胞が混ざっている母体モザイクでは、胎盤とは関係なくNIPTで増加が検出されます。さらに、複数の染色体に同時に増減が見られる複雑なパターンでは、母体の悪性腫瘍が見つかることがあります。TRIDENT-2研究では、こうした母体の悪性腫瘍を示唆するパターンが0.02%に見られ、その陽性的中率は64%でした[3]。2026年のメタ解析では、複数の染色体にまたがる複雑な所見の40%が母体の悪性腫瘍で、乳がんとリンパ腫が多くを占めていました[4]。詳しくは母体悪性腫瘍とNIPTをご覧ください。
8. 日本でまれなトリソミーまで調べるということ
海外の主な学会は、現時点では、まれなトリソミーをすべての妊婦さんに一律に調べることを勧めていません。米国臨床遺伝・ゲノム学会(ACMG)は2023年のガイドラインで、まれなトリソミーのためのNIPTについては「推奨するにもしないにも根拠が不十分」とし、日常的な使用は害が利益を上回る可能性があるとしました[10]。ISPDも2023年の声明で、性能と臨床的な有用性を評価するデータが不十分なため、一般の妊婦さんへの日常的な検査としては推奨しないとしています[6]。
これは「まれなトリソミーの情報に価値がない」という意味ではありません。胎盤の変化を早く知ることで妊娠後半の見守りに生かせる可能性がある一方、多くの陽性は赤ちゃんの染色体の異常ではなく、結果を受け取った妊婦さんに不安と追加検査の負担を生む、という両面があるからです。オランダのように国の制度として全ゲノムNIPTを提供し、妊婦さんが13・18・21番以外の結果を知るかどうかを選べる国もあります[3]。
日本では、認証施設のNIPTは13・18・21番を対象としており[1]、それ以外の染色体を調べる検査は認証の枠の外で提供されてきました。2026年には、すべての染色体の数の変化と部分的な欠失・重複を調べる多機関共同の臨床研究が始まっており、陽性の場合は羊水検査などで確認する計画とされています[11]。全ゲノムNIPTで分かる微細な欠失・重複については全ゲノムNIPTで分かる微細な欠失・重複(CNV)で、受ける前と結果が出たあとの学会の推奨は全ゲノムNIPTを受ける前と結果が出たあと:学会の推奨と対応で扱います。全染色体を調べる検査を選ぶかどうかの考え方は、NIPT全染色体検査の真実:偽陽性問題と実用的検査選択でも解説しています。
🩺 院長コラム【受ける前に「陽性だったら」を考えておく】
全ゲノムNIPTを選ぶときに大切なのは、検査で分かる範囲の広さよりも、まれなトリソミーで陽性になったときに何が起こるかを先に知っておくことだと考えています。陽性の多くは赤ちゃんの染色体の異常ではなく、羊水検査まで数週間待ち、そのあとも胎盤の影響を見守り続けることになります。
その流れを理解したうえで「胎盤の情報も含めて知りたい」と考える方にとって、まれなトリソミーの結果は妊娠を見守るための手がかりになります。反対に、はっきりした答えが出ない情報で不安が続くことを避けたい方は、調べる範囲を絞るという選択もあります。どちらが正しいということはなく、検査の前に考えておくことが大切です。
よくある質問(FAQ)
Q1. まれなトリソミーで陽性なら、赤ちゃんに障害がありますか?
多くの場合、赤ちゃんの染色体は正常です。オランダの全国研究では、まれなトリソミーの陽性のうち胎児で確認されたのは6%でした。ただし、胎盤の変化が胎児の発育や母体の血圧に影響することがあり、染色体によっては片親性ダイソミーの確認も必要です。羊水検査と妊娠後半の見守りで状況を確かめていきます。
Q2. 羊水検査で染色体が正常なら安心してよいですか?
赤ちゃんの染色体の本数については安心材料になります。ただし、6・7・11・14・15・20番の陽性では片親性ダイソミーを別に調べる必要があります。また、胎盤のトリソミーは妊娠の終わりまで残るため、胎児の発育と母体の血圧はその後も注意して見守ります。
Q3. 陽性のあと流産が多いのはなぜですか?
NIPTを受ける妊娠10〜12週ごろは、全身がトリソミーの胚でもまだ育っていることがあり、その後に流産に至る妊娠が含まれるためです。2017年の研究では、転帰が分かった例の42%が妊娠初期の流産や稽留流産で、15番トリソミーでは14件中13件が流産していました。
Q4. NIPTはすべての染色体を調べる検査ですか?
標準的なNIPTは、13・18・21番のトリソミーと、施設によっては性染色体の数の変化だけを報告します。すべての常染色体を判定して報告するのは全ゲノムNIPTです。日本の認証施設のNIPTは13・18・21番を対象としています。
Q5. 16番や22番のトリソミーはどの検査で確定しますか?
赤ちゃんの染色体を確かめるには羊水検査が基本です。絨毛検査は胎盤を調べるため、NIPTと同じ胎盤のトリソミーを再確認するだけになることがあります。16番は胎児発育不全や妊娠高血圧腎症と関連しやすいため、羊水検査の結果にかかわらず妊娠後半の見守りが勧められます。
9. まとめ
まれな常染色体トリソミーは、全ゲノムNIPTを受けた妊婦さんの約0.2〜0.3%で報告されます[2][3]。陽性の大半は胎盤だけのモザイクで、赤ちゃん自身がトリソミーであることは少数です[4][6]。しかし胎盤の変化は、流産、胎児発育不全、妊娠高血圧腎症と結びつくことがあり、6・7・11・14・15・20番では片親性ダイソミーの確認も必要です。
結果の重みは、何番の染色体か、胎盤のどれくらいがトリソミーか、羊水検査で赤ちゃんに何が見つかるかで大きく変わります。超音波で妊娠の状態を確かめ、羊水検査で赤ちゃんの染色体を確認し、必要に応じて片親性ダイソミーを調べ、妊娠後半の発育と血圧を見守る。この順序が、まれなトリソミーという結果を受け取った後の基本的な確認手順です。
🧬 NIPTの検査内容を事前に確認したい方へ
ミネルバクリニックでは、常駐する臨床遺伝専門医が、NIPTで調べられる範囲と、結果が出たときの意味や確認検査の流れを含めて、検査前の遺伝カウンセリングを行い、NIPTを実施しています。全ゲノムの結果を受け取ることについての考え方も、検査の前にご相談いただけます。
📚 NIPTの教科書 第7章のページ
参考文献
- [1] 日本医学会 出生前検査認証制度等運営委員会. NIPT等の出生前検査に関する情報提供及び施設(医療機関・検査分析機関)認証の指針(令和4年2月). 第7回NIPT等の出生前検査に関する専門委員会 資料1. [厚生労働省]
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- [11] 兵庫医科大学病院 遺伝子医療部・産科婦人科. 全染色体NIPT臨床研究のご案内(胎児疾患に対する非侵襲性出生前遺伝学的検査による解析). [研究案内サイト]



