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全ゲノムNIPTを受ける前と結果が出たあと:学会の推奨と、全染色体NIPTで陽性が出たときの確定検査

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医として遺伝医療に携わっています。

全染色体(全ゲノム)NIPTで陽性が出たら、異常の種類によって次に行う確定検査が変わります。まれなトリソミーなら羊水検査、インプリンティングに関わる染色体なら片親性ダイソミーの検査を加え、部分的な欠失・重複ならマイクロアレイで確かめます。一方で、主要な学会は全染色体NIPTを一般の妊婦全員に勧めておらず、日本の認証制度の対象も13・18・21番に限られています。受ける前に、陽性の意味と陽性後の道筋を知っておくことが欠かせない検査です。このページでは、学会の推奨と、結果が出たあとの対応を整理します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約14分
🧬 RAT・CNV・UPD・学会の推奨
★ 臨床遺伝専門医監修

Q. 全染色体NIPTで陽性が出たら、何をすればよいですか?

A. 結果の種類に合わせて確定検査を選びます。まれなトリソミーはまず超音波で胎児を確認し、羊水検査で胎児の染色体を調べます。6・7・11・14・15・20番のトリソミーでは片親性ダイソミーの検査も行います。部分的な欠失・重複は、絨毛検査か羊水検査の検体をマイクロアレイで解析して確かめます。

  • ➤学会の推奨 → ACOG・ACMG・ISPDはいずれも一般集団へのルーチンの実施を勧めていない
  • ➤日本の現状 → 認証制度の対象は13・18・21番。全染色体は臨床研究として評価中
  • ➤陽性の意味 → まれなトリソミーの陽性は多くが胎盤だけの変化。胎児の異常とは限らない
  • ➤確定検査が正常でも → 胎盤の変化が胎児の発育に影響することがあり、経過観察を続ける

⏱️ 30秒でわかる要約

🧬 Q. 全染色体NIPTの陽性は、赤ちゃんの異常を意味しますか?

必ずしも意味しません。NIPTが読んでいるのは胎盤由来のDNAです。オランダの全国調査では、まれなトリソミーの陽性で胎児にも異常が確認されたのは6%、部分的な欠失・重複では32%でした。胎児の結果は確定検査で初めて分かります。

🔬 Q. 羊水検査と絨毛検査、どちらで確かめますか?

まれなトリソミーは、胎盤だけの変化を胎児の異常と取り違えないよう、羊水検査が最も情報の多い検査とされています。部分的な欠失・重複は、絨毛検査か羊水検査の検体をマイクロアレイで調べます。

📋 Q. 学会は全染色体NIPTを勧めていますか?

米国のACOG・ACMG、国際的なISPDはいずれも、13・18・21トリソミー以外を含む拡張NIPTについて一般集団へのルーチン実施を支持していません。日本では2026年から、全染色体を調べる臨床研究が始まっています。

NIPT教科書シリーズ 全ゲノムNIPTを受ける前と結果が出たあと

1. 全染色体(全ゲノム)NIPTで分かること・分からないこと

全染色体NIPTは、13・18・21番だけでなくすべての染色体について、数の増減と、数Mb(数百万塩基)以上の部分的な欠失・重複を推定するスクリーニング検査です。確定診断ではありません。母体の血液に含まれるDNA断片を読み取り、染色体ごと、あるいは染色体の区間ごとに数えて、期待される量からのずれを統計的に判定します。仕組みとしては標準的なNIPTと同じで、調べる範囲をゲノム全体に広げたものです。

オランダでは2017年から、全染色体NIPTを公的な一次スクリーニングとして提供してきました。全国調査(TRIDENT-2)では、73,239人が検査を受け、13・18・21番以外の追加所見が0.36%に見つかりました。内訳は、まれなトリソミーが0.18%、部分的な染色体の構造異常が0.16%、母体の悪性腫瘍を示す複雑な所見が0.02%でした[1]。追加所見は少ないながら、一定の頻度で出てくるということです。

まれなトリソミー(RAT)と部分的な欠失・重複(CNV)

全染色体NIPTの追加所見は、大きく2種類に分かれます。1つは、13・18・21番以外の染色体が1本多い「まれな常染色体トリソミー(RAT)」です。完全なRATは胎児がほとんど育たないため、妊娠初期の検査で見つかるものの多くは、胎盤の一部の細胞だけがトリソミーになっているモザイクです。仕組みはまれな常染色体トリソミー(RAT)とは、結果の読み方はNIPTで見つかるまれなトリソミーで扱っています。

もう1つは、染色体の一部が欠けたり増えたりしている部分的な欠失・重複です。ゲノムの一定の区間のコピー数が変わっている状態で、CNV(コピーナンバーバリアント)と呼ばれます。全染色体NIPTで拾えるのは比較的大きなものに限られ、小さな欠失・重複は見逃されます。検出できる大きさの考え方は全ゲノムNIPTで分かる微細な欠失・重複で説明しています。

胎盤の検査であること:胎盤限局性モザイクと母体側の所見

全染色体NIPTの結果を読むうえで最も大事なのは、NIPTが調べているのは胎児そのものではなく胎盤由来のDNAだという点です。母体血中の「胎児」DNAは、胎盤の表面を覆う栄養膜の細胞から出ています。胎盤の一部だけに染色体の変化がある胎盤限局性モザイクでは、胎児が正常でもNIPTは陽性になります。まれなトリソミーでこの現象が特に多いのは、胎児では生き残れない染色体の変化でも、胎盤では保たれることがあるためです。

さらに、母体血の中では母親自身のDNAが大部分を占めます。母親にCNVがある場合や、母親の体の中に気づかれていない腫瘍がある場合、その変化がNIPTの結果に現れることがあります。こうした母体側の所見の仕組みはNIPTの偽陽性の原因:母体側の要因で解説しています。調べる範囲がゲノム全体に広がると、胎児とは関係のない、こうした所見に出会う機会も増えます。

💡 用語解説:胎盤限局性モザイク(CPM)

胎盤限局性モザイクは、染色体の変化が胎盤の細胞だけにあり、胎児の体の細胞は正常である状態です。受精卵が分かれていく途中で一部の細胞系列だけに変化が起こったり、反対にトリソミーの受精卵から胎児の側だけ余分な染色体が失われたりして生じます。NIPTや絨毛検査は胎盤を調べるため影響を受けますが、羊水検査は胎児の細胞を調べるため影響を受けにくい検査です。

2. 学会の推奨:全染色体NIPTはどう位置づけられているか

主要な学会は、全染色体NIPTを一般の妊婦全員にルーチンで行うことを勧めていません。理由は共通していて、まれなトリソミーや部分的な欠失・重複について、検出率や偽陽性率、検査を受けることで妊娠の結果がよくなるかどうかを示すデータが、まだ十分ではないためです。一方で、陽性になった場合にどう対応すべきかについては、具体的な推奨が出されています。

ACOG(2026年)とACMG(2023年)

米国産科婦人科学会(ACOG)は2026年のPractice Advisoryで、2025年に公表されたSMFM Consult Series #74を正式に支持し、従来のPractice Bulletin No. 226を置き換えました。現行指針では、一般集団に対する微小欠失のルーチンスクリーニングを推奨せず、ゲノム全体の大きなコピー数欠失・重複を対象とするcfDNA検査についてもルーチン使用を推奨していません[2]。

米国臨床遺伝・ゲノム学会(ACMG)は2023年に、エビデンスの系統的な検討に基づくガイドラインを公表しました。13・18・21番のトリソミーと性染色体の異数性については、すべての妊婦へのNIPTを強く推奨しています。その一方で、22q11.2欠失を除くCNVと、まれなトリソミーについては、NIPTを推奨するにはエビデンスが不十分だとしています[3]。

ISPD(2023年)の見解:勧めないことと、陽性後の推奨

国際出生前診断学会(ISPD)は2023年の見解で、選別されていない集団に対するまれなトリソミーのNIPTは、ルーチンの診療としては推奨しないとしました。部分的な欠失・重複についても、全ゲノムを対象としたNIPTはすべての病的なCNVを網羅するスクリーニングではないとして、前向きの研究データがそろうまでは一般集団への実施を勧めていません[4]。

そのうえでISPDは、まれなトリソミーの陽性が出た場合には、羊水検査が胎児の核型を知るうえで最も情報の多い検査であること、インプリンティングに関わる染色体では片親性ダイソミーを調べる検査を加えること、16トリソミーでは胎児の経過観察が必要であることを示しています。また、検査前の説明に含めるべき内容として、母体の悪性腫瘍(約1万人に1人)、母体の染色体の変化、胎盤限局性モザイクを挙げています[4]。「勧めない」と「受けた人への対応」が、セットで示されている点が重要です。

📋 全染色体NIPTに対する主な学会の立場

学会・指針 まれなトリソミー 部分的な欠失・重複
ACOG(2026年) 全染色体RATを一般集団へルーチン実施する推奨は示していない 微小欠失および大きなゲノムワイド欠失・重複のルーチンスクリーニングを推奨しない
ACMG(2023年) エビデンス不十分 22q11.2欠失以外はエビデンス不十分
ISPD(2023年) 一般集団へのルーチン実施は推奨しない 一般集団への実施は前向き研究を待つ
日本医学会の指針(2022年) 認証制度の対象は13・18・21番のみ。ほかは臨床研究などで評価

※出典:ACOG[2]、ACMG[3]、ISPD[4]、日本医学会[5]。

日本の現状:指針の対象は13・18・21番、全染色体は臨床研究へ

日本医学会が2022年に定めた指針では、認証制度のもとで行うNIPTの対象を13・18・21番のトリソミーに限っています。指針はその理由として、3つ以外の疾患は分析的妥当性や臨床的妥当性が十分に確立されていないことを挙げ、対象の拡大はまず臨床研究などの形で評価し、倫理的・社会的な影響も考えて慎重に検討すべきだとしています[5]。

この方針に沿って、こども家庭庁のNIPT等の出生前検査に関する専門委員会は、2023年12月の会議で、対象拡大を臨床研究で評価する枠組みを議論しました[6]。そして2026年2月から、全国11の医療機関が、すべての染色体を調べる臨床研究を始めています[7]。研究代表機関は兵庫医科大学病院で、母体血から「すべての染色体の数の変化や部分的な欠失・重複」を調べ、陽性のときは羊水検査などで確認するとしています[8]。研究の対象は胎児の病気が疑われる妊婦で、一般の妊婦が希望して受けられる仕組みではありません。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「勧めない」の中身を読む】

学会が全染色体NIPTを「推奨しない」と書くと、検査そのものに意味がないように受け取られがちです。けれども各学会の文書を読むと、問題にしているのは「一般の妊婦全員に、ルーチンとして」行うことであり、エビデンスが不足しているという理由です。同時に、陽性になった人への対応は具体的に書かれています。

全染色体NIPTを受けるかどうかは、この限界と、陽性になった場合の道筋を理解したうえで決めるものだと考えています。受ける場合に欠かせないのは、陽性の意味を説明でき、確定検査までつなげられる体制です。

3. 全染色体NIPTを受ける前に知っておくこと

全染色体NIPTでは、標準的なNIPTよりも「確定検査を勧められる結果」が出る機会が増え、その結果が胎児の異常を意味しない割合も高くなります。受ける前に知っておきたいのは、陽性の頻度、陽性的中率、結果が不確かなまま残る可能性、そして母体側の所見です。

陽性が出る割合と陽性的中率

TRIDENT-2では、まれなトリソミーの陽性は0.18%、部分的な構造異常の陽性は0.16%でした。それぞれについて胎児で異常が確認された割合、つまり陽性的中率は、まれなトリソミーが6%、部分的な構造異常が32%でした[1]。同じ調査で21トリソミーの陽性的中率が96%だったことと比べると、追加所見の陽性の多くは胎児の異常ではないことが分かります。

まれなトリソミーの陽性的中率が低いのは、検査の誤りというより、胎盤限局性モザイクという生物学的な現象によるものです。胎盤だけにトリソミーがあっても、胎盤の働きが損なわれて胎児の発育に影響することがあります。そのため、「胎児の染色体は正常」という確定検査の結果が、そのまま「何も心配はない」を意味するわけではありません。この点は第5章で改めて扱います。

結果が不確かなまま残ることと、母体側の所見

全染色体NIPTの陽性に対して羊水検査を行い、胎児にもモザイクが見つかった場合でも、そのモザイクが赤ちゃんの健康にどの程度影響するかを正確に予測できないことがあります。まれなトリソミーのモザイクは症例が少なく、出生後の経過についてのデータが限られているためです。結果を受け取ったあとも、答えの出ない部分が残る可能性があることは、受ける前に知っておく必要があります。

母体側の所見も、受ける前に説明を受けておくべき内容です。TRIDENT-2では、母体の悪性腫瘍を示す複雑な所見が0.02%に見られ、その陽性的中率は64%でした[1]。ISPDも、母体の悪性腫瘍を約1万人に1人として説明に含めるよう求めています[4]。妊娠中の検査で、母親自身の病気の可能性を知らされることがある、ということです。詳しくはNIPTで母親の「がん」が見つかる?をご覧ください。

全染色体NIPTは確定検査の代わりにならない

全染色体NIPTの陰性は、胎児にCNVがないことを保証しません。小さな欠失・重複は検出できず、胎児分画が低い場合や、胎盤のモザイクがある場合には、大きな異常でも見逃されることがあります。病的なCNVを高い確実性で知りたい場合は、羊水検査や絨毛検査で胎児(絨毛)のDNAを染色体マイクロアレイ(CMA)で調べることになります。

超音波検査で胎児に形の異常が見つかった場合も同じです。全染色体NIPTの結果が陰性でも、それを理由に確定検査を見送ることは勧められません。全染色体NIPTの限界と、受けるかどうかの判断についてはNIPT全染色体検査の真実:偽陽性問題と実用的検査選択でも詳しく扱っています。

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4. 陽性が出たあと:異常の種類ごとの確定検査

全染色体NIPTで陽性が出たときの確定検査は、まれなトリソミーなら超音波と羊水検査、インプリンティングに関わる染色体なら片親性ダイソミーの検査を追加、部分的な欠失・重複なら絨毛検査か羊水検査の検体をマイクロアレイで解析する、が基本です。どの検査を選ぶかは、その異常が胎盤だけに限られやすいかどうかで決まります。確定検査の一般的な考え方はNIPTで陽性の結果がでたときの確定診断にまとめています。

オランダのグループは、結果が分かっている大量の絨毛検査のデータを分析し、どの染色体の異常が胎盤に限られやすいかに基づいて、NIPT陽性後に絨毛検査と羊水検査のどちらを選ぶべきかを整理しました[9]。胎盤に限られやすい異常ほど、絨毛検査では胎盤の変化を胎児の異常と誤って判断するおそれが大きく、羊水検査で胎児の細胞を調べる必要があります。

全染色体NIPTで陽性RAT/CNV
▶
超音波で胎児を確認流産・形態・発育
▶
羊水検査・絨毛検査CMA/UPD検査
▶
結果に応じた経過観察発育・胎盤

まれなトリソミー:まず超音波、確定には羊水検査

妊娠10〜12週ごろにまれなトリソミーの陽性が出た場合、採血の直前に超音波検査を受けていなければ、まず超音波で胎児の状態を確かめます。まれなトリソミーの陽性は、すでに胎児の心拍が止まっている流産を反映していることがあり、超音波でそれが分かれば、その後の検査は変わります。胎児に形の異常が見つかった場合は、胎児にもトリソミーがある可能性が高くなります。

胎児が順調に育っている場合、確定には羊水検査を行います。ISPDは、まれなトリソミーの陽性後には羊水検査が胎児の核型を知るうえで最も情報の多い検査だとしています[4]。絨毛検査は早く結果が出るため、一部の染色体では選択肢になりますが、絨毛にトリソミーが見つかっても胎盤だけの変化である可能性が残り、結局は羊水検査が必要になることがあります。絨毛検査と羊水検査の違いは限局性胎盤モザイク(CPM)と羊水検査の役割でも扱っています。

インプリンティングに関わる染色体:片親性ダイソミーの検査を加える

6・7・11・14・15・20番のトリソミーが陽性になった場合は、羊水検査で染色体の数を調べるだけでなく、片親性ダイソミー(UPD)を調べる検査を加えます。ISPDも、インプリンティングに関わる染色体では、UPDを検出する検査を含めた羊水検査を推奨しています[4]。

片親性ダイソミーとは、1対の染色体を2本とも父親か母親の一方からだけ受け継いでいる状態です。トリソミーで始まった受精卵から余分な1本が失われて正常な数に戻るトリソミーレスキューが起こると、失われる1本がどれかによって、理論上は3分の1の確率で、残った2本が同じ親に由来することになります。胎児の染色体の数は正常に見えても、片方の親から受け継いだ遺伝子だけが働くインプリンティング疾患の原因になるのです。

染色体ごとに、関係する病気は異なります。15番の母性UPDはプラダー・ウィリー症候群、7番の母性UPDはシルバー・ラッセル症候群、14番の母性UPDはテンプル症候群、父性UPDは鏡-緒方症候群、6番の父性UPDは一過性新生児糖尿病、11番の父性UPDはベックウィズ・ヴィーデマン症候群の原因になります。UPDは通常の染色体検査では見えないため、SNPアレイやメチル化解析など、片親由来かどうかを判定できる方法が必要です。

🧬 インプリンティングに関わる染色体と主な病気

染色体 母性UPD 父性UPD
6番 ― 一過性新生児糖尿病
7番 シルバー・ラッセル症候群 ―
11番 シルバー・ラッセル症候群(11p15) ベックウィズ・ヴィーデマン症候群
14番 テンプル症候群 鏡-緒方症候群
15番 プラダー・ウィリー症候群 アンジェルマン症候群
20番 成長障害を主体とするUPD(20)mat関連表現型 偽性副甲状腺機能低下症1B型(GNAS関連)

※トリソミーレスキューで生じるUPDは、トリソミーになった受精卵がどちらの親の配偶子に由来するかによって、母性・父性のどちらになるかが決まります。

💡 用語解説:ゲノムインプリンティング

ゲノムインプリンティングは、一部の遺伝子で、父親由来か母親由来かによって働くかどうかが決まっている現象です。精子や卵子がつくられる過程で、DNAのメチル化という目印が親ごとに付けられます。そのため、同じ染色体を2本とも一方の親から受け継ぐと、働くべき遺伝子が働かない、あるいは二重に働く状態になり、病気につながります。

部分的な欠失・重複:マイクロアレイで確かめる

部分的な欠失・重複の陽性は、絨毛検査か羊水検査の検体を染色体マイクロアレイ(CMA)で解析して確かめます。NIPTで推定された区間について、胎児(絨毛)のDNAで実際にコピー数が変わっているか、その範囲がどこからどこまでかを調べます。通常の染色体検査(Gバンド法)では見えない大きさの変化も多いため、マイクロアレイが基本になります。とくにSNPアレイは、コピー数の変化と同時に、モザイクやUPDの手がかりも得られる方法です。

このとき、NIPTの報告書に変化のある区間のおおよそのゲノム上の位置が書かれていると、確定検査の解析と照合がしやすくなります。部分的な欠失・重複でも胎盤のモザイクは起こりうるため、絨毛検査でモザイクや通常と異なる結果が出た場合は、羊水検査を追加することがあります[9]。また、母親自身が同じCNVを持っていて、それがNIPTに現れている場合もあります。この場合は母親の血液を調べることで由来が分かります。全染色体を調べるNIPTで欠失・重複が見つかった当院の症例は、欠失例、重複例、母体由来のCNVによる偽陽性の例として紹介しています。

🔬 全染色体NIPTの陽性と確定検査の選び方

NIPTの結果 最初に行うこと 確定検査 追加する検査
まれなトリソミー 超音波で胎児の状態を確認 羊水検査 胎児の発育の経過観察
まれなトリソミー(6・7・11・14・15・20番) 超音波で胎児の状態を確認 羊水検査 片親性ダイソミーの検査
部分的な欠失・重複 超音波で胎児の形態を確認 絨毛検査または羊水検査+マイクロアレイ 絨毛でモザイクなら羊水検査、必要に応じて母親の検査
複数の染色体にまたがる複雑な所見 母体の所見の可能性を考える 状況に応じて判断 母体の悪性腫瘍の評価

※ISPD[4]、Van Opstal 2016[9]をもとに作成。個々の判断は妊娠週数と超音波所見によって変わります。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【数が正常でも、終わりではない】

まれなトリソミーの陽性に対して羊水検査を行い、胎児の染色体の数が正常だったとき、そこで説明を終えてしまうのは不十分だと考えています。インプリンティングに関わる染色体であれば、数が正常であることは、むしろトリソミーレスキューが起こった可能性を示しているからです。

確定検査は「どの検査を受けるか」だけでなく、「その検体で何を調べるか」まで決めて初めて意味を持ちます。染色体の番号を見て、UPDの検査を加えるかどうかを最初に判断しておくことが大切です。

5. 確定検査が正常でも続けること

まれなトリソミーの陽性で確定検査が正常だった場合、多くの妊娠はそのまま順調に経過しますが、胎盤の変化が胎児の発育に影響することがあるため、その後の超音波での経過観察が勧められます。胎児の染色体が正常でも、胎盤にトリソミーの細胞が多く含まれていると、胎盤の働きが損なわれることがあるためです。

16トリソミーなどでの胎児発育の観察

ISPDは、16トリソミーの陽性では、胎児の発育が遅れる胎児発育不全と関連するため、胎児の経過観察が必要だとしています[4]。胎盤限局性モザイクと胎児発育の関係については限局性胎盤モザイク(CPM)と胎児発育不良(FGR)の関係で詳しく扱っています。

一方、超音波検査で胎児が正常に見えることが、常に安心材料になるとは限りません。胎児の形の異常がなくても、発育の遅れが妊娠後半になってから現れることがあります。確定検査の結果が正常だった場合も、発育を測る超音波検査を通常より丁寧に続け、分娩を担当する施設と情報を共有しておくことが現実的な対応です。

出生後に胎盤を調べる意義と、記録を残すこと

NIPTの陽性と羊水検査の正常が食い違った妊娠では、出生後に胎盤の組織を調べることで、胎盤限局性モザイクが実際にあったかどうかを確かめられます。モザイクは胎盤の中で場所によって割合が違うため、胎盤の離れた複数の場所から組織を採ることが勧められています。トリソミーが減数分裂(配偶子をつくる分裂)に由来するか、受精後の体細胞分裂に由来するかが分かれば、その後の妊娠についての説明にも役立ちます。

まれなトリソミーのモザイクが妊娠経過や出生後の発達にどう影響するかは、多くの染色体でまだよく分かっていません。妊娠の経過や出生時の情報を体系的に記録し、胎盤の検査結果と結びつけて蓄積していくことが、次にこの結果を受け取る人への説明を確かなものにしていきます。日本で始まった全染色体の臨床研究にも、こうしたデータを集める役割が期待されています。

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よくある質問(FAQ)

Q1. 全染色体NIPTで陽性。羊水検査と絨毛検査のどちらがよいですか?

まれなトリソミーの陽性では、胎盤だけの変化を胎児の異常と取り違えないよう、羊水検査が最も情報の多い検査とされています。部分的な欠失・重複では、絨毛検査か羊水検査の検体をマイクロアレイで調べ、絨毛でモザイクなどの結果が出た場合は羊水検査を追加します。

Q2. 片親性ダイソミーの検査が必要になるのはどんなときですか?

インプリンティングに関わる6・7・11・14・15・20番のトリソミーが陽性になったときです。トリソミーで始まった受精卵が正常な数に戻る過程で、2本とも同じ親に由来する状態になることがあり、染色体の数が正常でもインプリンティング疾患の原因になるためです。

Q3. 学会は全染色体NIPTを推奨していますか?

米国のACOG・ACMG、国際的なISPDはいずれも、13・18・21トリソミー以外を含む拡張NIPTについて一般集団へのルーチン実施を支持していません。まれなトリソミーや部分的な欠失・重複について、検出率や有用性のデータが十分でないためです。日本医学会の指針も、認証制度の対象を13・18・21番に限っています。

Q4. まれなトリソミーが陽性でも、妊娠は順調に続きますか?

多くの場合は胎盤だけの変化で、妊娠は順調に経過します。オランダの全国調査では、まれなトリソミーの陽性で胎児にも異常が確認されたのは6%でした。ただし、胎盤の変化が胎児の発育に影響することがあるため、超音波での経過観察が勧められます。

Q5. 確定検査が正常なら、その後の検査は不要ですか?

胎児の染色体の数が正常でも、16トリソミーなどでは胎盤の変化による胎児発育不全が起こることがあるため、発育を測る超音波検査を続けることが勧められます。インプリンティングに関わる染色体では、片親性ダイソミーの検査を行ったかどうかも確認してください。

Q6. 日本の全染色体の臨床研究には誰でも参加できますか?

2026年2月から全国11の医療機関で始まった臨床研究は、胎児の病気が疑われる妊婦を対象としており、一般の妊婦が希望して受けられる仕組みではありません。詳しくは研究の公式サイトや、研究に参加している医療機関で確認してください。

まとめ

全染色体NIPTは、13・18・21番以外の染色体の数の変化と、比較的大きな欠失・重複を推定するスクリーニング検査です。ACOG・ACMG・ISPDはいずれも、13・18・21トリソミー以外を含む拡張NIPTについて一般集団へのルーチン実施を支持しておらず、日本の認証制度の対象も13・18・21番に限られています[2][3][4][5]。追加所見の陽性的中率は、まれなトリソミーで6%、部分的な構造異常で32%と低く[1]、受ける前にその意味を理解しておく必要があります。

陽性が出た場合は、まれなトリソミーなら超音波と羊水検査、インプリンティングに関わる染色体なら片親性ダイソミーの検査を加え、部分的な欠失・重複ならマイクロアレイで確かめます[4][9]。確定検査が正常でも、胎盤の変化による発育への影響を考えて経過観察を続けます。全染色体NIPTは、陽性の後の道筋まで見通してから選ぶ検査です。

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参考文献

  • [1] van der Meij KRM, Sistermans EA, Macville MVE, et al. TRIDENT-2: National Implementation of Genome-wide Non-invasive Prenatal Testing as a First-Tier Screening Test in the Netherlands. Am J Hum Genet. 2019;105(6):1091-1101. [PubMed 31708118]
  • [2] American College of Obstetricians and Gynecologists. Screening for Fetal Chromosomal Abnormalities. Practice Advisory. January 2026. ACOG endorsement of SMFM Consult Series #74. [ACOG]
  • [3] Dungan JS, et al. Noninvasive prenatal screening (NIPS) for fetal chromosome abnormalities in a general-risk population: An evidence-based clinical guideline of the American College of Medical Genetics and Genomics (ACMG). Genet Med. 2023. [PubMed 36524989]
  • [4] Hui L, Ellis K, Mayen D, et al. Position statement from the International Society for Prenatal Diagnosis on the use of non-invasive prenatal testing for the detection of fetal chromosomal conditions in singleton pregnancies. Prenat Diagn. 2023;43:814-828. [DOI 10.1002/pd.6357]
  • [5] 日本医学会 出生前検査認証制度等運営委員会. NIPT等の出生前検査に関する情報提供及び施設(医療機関・検査分析機関)認証の指針(令和4年2月). [日本医学会]
  • [6] こども家庭庁. 第3回 NIPT等の出生前検査に関する専門委員会(令和5年12月14日). [こども家庭庁]
  • [7] 共同通信. 新出生前診断、全染色体で 11施設で2月にも開始(2026年1月30日). [琉球新報]
  • [8] 胎児疾患に対する非侵襲性出生前遺伝学的検査による解析(研究代表機関:兵庫医科大学病院 遺伝子医療部). [研究公式サイト]
  • [9] Van Opstal D, Srebniak MI. Cytogenetic confirmation of a positive NIPT result: evidence-based choice between chorionic villus sampling and amniocentesis depending on chromosome aberration. Expert Rev Mol Diagn. 2016. [PubMed 26864482]

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 当サイトの記事は、院長が自ら執筆し、医学的な内容を確認してから公開しています。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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