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NIPTの偽陽性の原因:母体の染色体・がん・臓器移植・輸血など母体側の要因

目次

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医・がん薬物療法専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医として遺伝医療に携わっています。

NIPT(母体血を用いた出生前遺伝学的検査)で調べる血液中のDNAは、大部分が母親自身のものです。そのため、母親の染色体の小さな重複や欠失(コピー数変化)、母親の体の一部だけにある染色体の変化(モザイク)、母親のがん、臓器移植などがあると、赤ちゃんの染色体が正常でも結果が「陽性」や「判定不能」になることがあります。これがNIPTの偽陽性を生む「母体側の要因」です。特に、複数の染色体に同時に異常が出るパターンは、母体の悪性腫瘍が見つかるきっかけになることがあり、赤ちゃんの確定検査とは別に、母体の精査が必要になります。このページでは、母体側の要因の種類と仕組み、頻度、疑われたときの検査を、2018年以降の研究とガイドラインにもとづいて整理します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
🧬 母体CNV・モザイク・悪性腫瘍・臓器移植
★ 臨床遺伝専門医監修

Q. NIPTの偽陽性は、母親の体のせいで起こることがありますか?

A. あります。NIPTの検体に含まれるDNAの大部分は母親由来なので、母親自身の染色体の変化や腫瘍のDNAが、赤ちゃんの異常として読まれることがあります。代表的なのは、母親のコピー数変化(CNV)、母親の性染色体のモザイク、母親の悪性腫瘍、子宮筋腫、臓器移植や造血幹細胞移植です。この場合、羊水検査で赤ちゃんの染色体が正常と確認されても、母親側の原因を調べることが大切です。

  • ➤母体CNV → 母親の小さな重複がトリソミーのように見える
  • ➤母体モザイク → 性染色体の異常の偽陽性の一因
  • ➤悪性腫瘍 → 複数の染色体の異常が同時に出る
  • ➤移植・輸血 → ドナーのDNAが混ざる

⏱️ 30秒でわかる要約

🧬 Q. なぜ母親の体が結果に影響する?

妊娠初期の母体血のDNAのうち、胎盤由来は中央値で約10%にすぎません。残りの約9割を占める母親のDNAに変化があると、それが赤ちゃんの異常のように見えてしまうことがあります。

🩺 Q. がんが見つかることがある?

まれですが、あります。国際出生前診断学会は約1万件に1件と推定しています。精査に紹介された妊婦・産後の女性を対象とした米国の研究では、3本以上の染色体に増加と減少の両方がある49例中47例(95.9%)にがんが見つかりました。一般のNIPT陽性全体の確率ではありません。

🔍 Q. 疑われたらどうする?

赤ちゃんについては羊水検査などで確かめます。母親については、血液の染色体検査や、腫瘍が疑われる場合は全身MRIなどの精査を検討します。

NIPTの教科書。妊婦と女性医師、DNAと染色体のイラストで、仕組み・検査の種類・結果の読み方を示したシリーズ共通画像

第5章では、NIPTの結果が赤ちゃんの状態とずれる原因を、胎盤(胎盤限局性モザイク)、双子(バニシングツイン)、まれな染色体異常、性別の不一致、そして母体の順に見てきました。このページは、その最後の「母体側の要因」を扱います。胎盤や双子と違い、母体側の要因では赤ちゃんの確定検査だけでは原因が明らかにならず、母親自身の検査が必要になる点が大きな特徴です。

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1. 結論:母体側の要因とは、母親のDNAが赤ちゃんの結果として読まれること

母体側の要因とは、NIPTの検体に含まれる母親自身のDNA、あるいは母親の体に入った他人のDNAの変化が、胎児(胎盤)由来の変化と区別されずに結果に現れることを指します。染色体ごとのDNA量を数える方式のNIPTは母体血の中の細胞外DNA(セルフリーDNA)を染色体ごとに数えて比べる検査で、数えたDNAがどの細胞から来たのかを一つひとつ区別しているわけではありません。

1-1. 検体のDNAの約9割は母親のもの

妊娠11〜13週の妊婦1,949人を調べた2013年の研究では、母体血のDNAのうち胎盤由来の割合(胎児分画)は中央値10.0%でした[1]。言いかえれば、検体の約9割は母親の血液細胞などから出たDNAです。

ここに母体側の要因の本質があります。胎児の21トリソミーでは、余分な21番染色体を持つのは検体の約1割を占める胎盤由来のDNAだけです。ところが母親自身が全身の細胞に染色体の変化を持っていれば、その変化は母親由来のDNAのほぼすべてに含まれます。モザイクや腫瘍の場合は、変化を持つ細胞から放出されるDNAの割合によって影響が異なります。そのため、母親の染色体のごく一部の重複でも、胎児の染色体1本分の増加と同じくらいの信号の偏りを生むことがあります。

母体血のDNA約9割が母親、約1割が胎盤
▶
母親側に変化があるCNV・モザイク・腫瘍・移植
▶
染色体の量が偏る胎児の異常と区別できない
▶
陽性・判定不能赤ちゃんは正常のことがある

1-2. 母体側の要因の全体像

NIPTの結果と赤ちゃんの染色体が食い違った例を集めた2017年のシステマティックレビューでは、22研究・206例のうち88%が偽陽性で、説明できた原因として胎盤限局性モザイク、母体のCNV、バニシングツイン、母体のがん、真の胎児モザイクが挙げられました。一方で、67%は生物学的にも技術的にも明らかな原因が見つかりませんでした[2]。2024年の総説も、胎盤限局性モザイクを最も広く認められた原因としたうえで、子宮筋腫、母親の未診断のモザイク、悪性腫瘍などの母体由来の原因を挙げています[3]。原因ごとの割合を数字で示した信頼できるデータはまだありません。

📊 NIPTに影響する母体側の要因

要因 結果への現れ方 確かめる方法
母体のCNV 特定の染色体のトリソミーや微小欠失・重複の陽性 母親の血液の染色体マイクロアレイ検査など
母体の性染色体モザイク X染色体の数の異常(モノソミーXなど)の陽性 母親の血液の染色体検査
母体の悪性腫瘍 複数の染色体の増減、常染色体のモノソミー、判定不能 全身MRI・CTなどの精査
子宮筋腫・ビタミンB12欠乏 ゲノム全体の異常パターン、判定不能 超音波検査、血液検査
臓器移植・造血幹細胞移植 性別の不一致、判定の誤り 移植歴の確認(検査前の申告)
体重・抗凝固薬・自己免疫疾患 胎児分画の低下による判定保留 再採血、別の検査方法の検討

2. 母体のコピー数変化(CNV):母親の小さな重複がトリソミーに見える

母親が健康上は問題のない染色体の小さな重複を持っていると、NIPTではその染色体のDNAが多く数えられ、胎児のトリソミーと判定されることがあります。このような染色体の一部の量の違いをコピー数変化(CNV)と呼びます。CNVは誰にでもある程度存在し、多くは健康に影響しません。

2-1. 母体CNVが偽陽性を生んだ研究

2015年に米国から報告された研究では、NIPTと赤ちゃんの結果が食い違った4例を詳しく調べ、そのうち2例で、母親が持つ18番染色体の小さな重複(1.15Mbと487kb)が18トリソミーの偽陽性の原因と考えられました。著者らは集団のCNVデータを使ったモデルから、大きな母体CNVが偽陽性の一部を説明しうるとしています[4]。

2017年に中国で112,021人を対象にした研究では、確定検査まで行った陽性563例のうち74例が偽陽性で、その6例(8.1%)は、疑われたトリソミーと同じ染色体に1.76〜10.90Mbの母体の重複を持っていました。重複が大きいほどZスコアは高く、母体の重複部分の読み取りを除くとZスコアは正常範囲に戻りました[5]。Zスコアの意味と母体CNVの関係はNIPT異常なZスコアの原因は?母親の染色体が招く偽陽性で、解析の側から母親のCNVを見分ける方法はWGSベースのNIPT④:母親のコピーナンバーバリアントで詳しく解説しています。

2-2. 母親自身の健康に関わるCNVが見つかることもある

母体CNVの中には、母親自身や将来の子どもの健康に関わるものもあります。ベルギーでゲノム全体を解析するNIPTを26,123件行った2019年の研究では、デュシェンヌ型・ベッカー型筋ジストロフィーの原因となるDMD遺伝子の母体CNVが16件(妊婦1,632人に1人)見つかり、そのうち10件が病的と判定されました[6]。DMD遺伝子はX染色体にあるため、母親が保因者であれば、男児では病気が現れる可能性があります。

このように、母体CNVは「赤ちゃんの偽陽性の原因」であると同時に、「母親自身の遺伝情報の偶発的な発見」でもあります。どこまでの情報を知りたいかは人によって異なるため、ゲノム全体を調べるNIPTを受ける前に、こうした結果が出る可能性を説明しておくことが求められます。

💡 用語解説:Zスコア

NIPTで、ある染色体のDNAの量が、正常な妊娠の基準集団の平均からどれだけ離れているかを、ばらつき(標準偏差)の何倍かで表した数値です。多くの検査では3前後を超えると陽性と判定します。Zスコアは量の偏りを示すだけで、その偏りが胎盤由来か母親由来かは区別できません。

3. 母体の染色体モザイク:性染色体の異常の偽陽性の一因

母親の血液細胞の一部だけにX染色体の数の変化がある状態(母体モザイク)や、母親自身が47,XXXなどの性染色体の数の異常を持つ場合、NIPTでは胎児の性染色体の異常として判定されることがあります。母親は症状がなく、自分の染色体の変化に気づいていないことがほとんどです。

2014年に中国から報告された研究では、性染色体の数の異常でNIPT陽性となった181例のうち、16例(論文では8.6%と報告。16/181の単純計算では8.8%)は母親自身のX染色体の核型の異常が原因でした。この研究の解析方法では、X染色体のモザイクを5%の割合まで検出できました。著者らは、胎児の性染色体の異常が疑われた場合は母親の白血球の検査を行うべきだと提言しています[7]。

特にモノソミーX(モノソミーのうちX染色体が1本の状態)の陽性では、胎盤限局性モザイクと並んで、母体モザイクを考える必要があります。母体モザイクがわかった場合の受け止め方はNIPTの遺伝子検査で母体のモザイクと診断された方へにまとめています。性染色体の判定が超音波や出生時の性別と食い違う問題は、前のページNIPTにおける胎児の性別の不一致で扱っています。

4. 母体の悪性腫瘍:NIPTが母親のがんを映し出すことがある

母親の体に診断されていないがんがあると、がん細胞から血液中に出たDNAがNIPTの検体に混ざり、複数の染色体にまたがる増減として現れることがあります。頻度はまれですが、見逃してはならない母体側の要因です。この場合、問題は赤ちゃんの染色体ではなく母親の健康であり、確定検査とは別に母親の精査が必要になります。

4-1. なぜがんがNIPTに映るのか

がん細胞は、増殖の過程で染色体の一部を失ったり増やしたりする「ゲノムの不安定性」を持っています。がん細胞が壊れると、その染色体の変化を含んだDNA(循環腫瘍DNA:ctDNA)が血液中に放出されます。がんの診療では、この血液中の腫瘍DNAを調べる方法をリキッドバイオプシーと呼びます。

染色体ごとのDNA量を数える方式のNIPTは、血液中の細胞外DNAを解析するという点で、リキッドバイオプシーと共通しています。がんのリキッドバイオプシーには遺伝子変異などを調べる方法もあり、解析対象や目的は同一ではありません。そのため、腫瘍DNAが一定量以上あると、腫瘍の染色体の増減がNIPTのデータに重なって現れます。胎児のトリソミーでは1本の染色体だけが増えるのに対し、がんでは多くの染色体で増加と減少が入り混じるため、パターンの違いが手がかりになります。

4-2. どのくらいの頻度で起こるのか

国際出生前診断学会(ISPD)は2023年の声明で、NIPTで母体の隠れた悪性腫瘍が見つかるのはおよそ1万件に1件と推定し、検査前にこの可能性を説明するよう求めています[8]。米国の検査会社で45万人超の妊婦のNIPTを解析した2018年の研究では、胎児の異常では説明できない異常なパターンは10万件あたり約10件でした[9]。オランダで231,896人を対象にした全国研究では、ゲノム全体を調べるNIPTの0.03%が悪性腫瘍を疑わせる結果でした[10]。

妊娠中にがんと診断される人の頻度は、欧州臨床腫瘍学会(ESMO)のガイドラインで妊婦1,000人に1人と推定されています[11]。一方、米国臨床遺伝・ゲノム学会(ACMG)の2023年のガイドラインは、妊娠中に悪性腫瘍を経験するのは10万人あたり25〜27人としています[12]。数字の違いは、産後1年までを含めるかどうかなど、定義の違いによるものと考えられます。

4-3. どんな結果のときにがんを疑うのか

がんを強く疑うのは、複数の染色体に同時に異常が出た場合、胎児では生存がまれな常染色体のモノソミーが出た場合、多くの染色体に部分的な増減がまたがる場合です。ACMGは、確定検査で胎児に確認されない複数の異数性や常染色体モノソミーで、母体の悪性腫瘍の可能性が最も高いとしています[12]。

このパターンでどのくらいがんが見つかるかは、研究によって大きく異なります。2015年の米国の研究では、複数の異数性が検出された39例のうちがんは7例(18%)でしたが、2022年のオランダの研究では23例中16例(69.6%)、2024年の米国の前向き研究では、異常な結果のため精査に紹介された妊婦・産後の女性のうち、研究用解析で3本以上の染色体に増加と減少の両方を認めた49例中47例(95.9%)でがんが見つかりました[13][10][14]。ベルギーの研究では、ゲノム全体の異常または単独の8トリソミーを示した15例の陽性的中率は73%でした[15]。

数字がこれほど違うのは、検査の方法(ゲノム全体を解析するか、特定の染色体だけを報告するか)や、どのパターンを「がんの疑い」とするかの基準が研究ごとに異なるためです。ISPDも、検査の方法によっては疑いが確認されないことが多いとしています[8]。ACMGは、NIPTで母体の腫瘍を見つける感度や特異度のデータはないとしており、NIPTが陰性でもがんがないことにはなりません[12]。NIPTはがん検診ではありません。

4-4. 見つかったがんの種類

これまでの研究で見つかったがんは、リンパ腫などの血液のがんが最も多いという点で共通しています。血液のがんは血液中に腫瘍DNAを放出しやすく、妊婦の年代に多い悪性腫瘍でもあるためと考えられます。

📊 NIPTをきっかけに母体の悪性腫瘍が見つかった主な研究

研究 対象 見つかった悪性腫瘍 主ながんの種類
2015年 米国 125,426検体、陽性3,757件 10例 B細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、大腸がんなど
2018年 米国 判定不能で異常なパターンを示した43例 18例(ほかに子宮筋腫20例) 悪性腫瘍と良性の子宮筋腫が混在
2021年 ベルギー 88,294件、疑い15例 11例 血液のがん7例、固形がん4例
2022年 オランダ 231,896人、疑い51例 18例 ホジキンリンパ腫7例、縦隔大細胞型B細胞リンパ腫4例、乳がん4例など
2024年 米国 結果が通常と異なる107人 52例(48.6%) リンパ腫31例、大腸がん9例、乳がん4例など

表の出典は、2015年の米国の研究[13]、2018年の米国の研究[9]、2021年のベルギーの研究[15]、2022年のオランダの研究[10]、2024年の米国の研究[14]です。2018年の米国の研究では、異常なパターンの原因として悪性腫瘍と同じくらい良性の子宮筋腫が多かったことにも注意が必要です。2015年の研究で詳細に解析された8例には、B細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、大腸がんなどが含まれています。

4-5. がんが疑われたときの精査

NIPTで母体の悪性腫瘍が疑われた場合、全身MRI検査の有用性が前向き研究で示されています。妊娠中は原則として造影剤を使わない方法を検討し、必要な検査を担当医が選択します。2024年に米国国立衛生研究所(NIH)のチームが報告した前向き研究では、全身MRIのがん検出の感度は98.0%、特異度は88.5%でした。これに対して、身体診察の感度は17.3%、血液の腫瘍マーカーの感度は68.0%にとどまり、便潜血検査は大腸がん8例のうち4例でしか陽性になりませんでした[14]。オランダの研究でも、MRIとCTが最も有用で、全身MRIを受けた5人では全員で悪性腫瘍が見つかっています[10]。

ただし、2023年のACMGガイドラインは、こうした場合の評価について当時は検証された臨床的な方法がないとしています[12]。ISPDは、悪性腫瘍が疑われた場合の確認と結果の伝え方について検査機関が手順を定めること、母体の偶発的所見があった場合は遺伝の専門家に紹介することを推奨しています[8]。2024年には、悪性腫瘍が疑われる結果を受けた妊婦の管理についての推奨もまとめられています[16]。

4-6. 妊娠中にがんが見つかった場合の考え方

妊娠中にがんが見つかることは、必ずしも妊娠の継続をあきらめることを意味しません。ESMOのガイドラインは、抗がん剤は先天異常のリスクが高い妊娠初期(第1三半期)には投与すべきでないとしたうえで、妊娠中期・後期には、薬剤・治療法を選択して化学療法を検討できるとしています[11]。すべての抗がん剤が使用できるわけではなく、胎児への影響や長期的な安全性が完全に否定されたわけでもありません。妊娠中にがんと診断された母親から生まれた129人の子どもを、同数の対照と比べた2015年の研究では、治療の有無にかかわらず、出生前のがんへの曝露は幼児期の認知・心臓・全身の発達を損なっていませんでした。この研究では、早産が認知発達の低下と関連し、その関連はがん治療とは独立していました[17]。

がんの種類、病期、妊娠週数によって治療の選択肢は大きく変わるため、腫瘍内科・産科・新生児科などが連携して方針を決めることになります。なお、母親のがんが原因でNIPTが陽性になった場合、その結果は赤ちゃんの染色体の異常を示すものではありません。赤ちゃんについては羊水検査などで別に確認したうえで判断します。母親のがんとNIPTの関係は、一般向けにNIPTで母親の「がん」発見?腫瘍DNAが与える影響でも解説しています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【NIPTの「複数の染色体の異常」は、赤ちゃんより先に母親を診るサイン】

NIPTで複数の染色体に同時に増減が出た場合、胎児の染色体異常だけでは説明しにくいパターンもあり、母親側の原因を速やかに検討する必要があります。ただし、胎盤限局性モザイクや胎児由来の原因も除外せずに評価します。2024年の研究で全身MRIの感度が98.0%と示されたことは、こうした結果を受けた後の精査の道筋を具体的にしました。

一方で、この結果は「がんが確定した」という意味ではありません。子宮筋腫やビタミンB12欠乏などの良性の原因でも似たパターンになることがあり、検査の方法によっては疑いが確認されないことも多いとされています。遺伝医学とがん薬物療法の両方の視点から見ると、大切なのは、赤ちゃんの確定検査と母親の精査を同時に進め、どちらの結果も妊娠の判断に反映させることです。

5. 子宮筋腫・ビタミンB12欠乏・臓器移植・輸血などのその他の要因

悪性腫瘍以外にも、良性の腫瘍、血液の病気、他人の細胞やDNAが体に入る医療行為が、NIPTの結果をゆがめることがあります。いずれも頻度はまれですが、検査前の問診で把握できるものが多いのが特徴です。

5-1. 子宮筋腫

子宮筋腫は良性の腫瘍ですが、細胞の中に染色体の変化を持つことがあります。2015年には、ゲノム全体にわたる異常なパターンで判定不能となったNIPTの原因が母親の子宮筋腫で、赤ちゃんは正常だった症例が報告されました[18]。前述の2018年の研究でも、異常なパターンの原因が確認された40例のうち20例が良性の子宮筋腫でした[9]。複数の染色体の異常が出ても、すぐに悪性腫瘍と決めつけることはできません。子宮筋腫と判定保留の関係は子宮筋腫があるとNIPTで判定保留になる?で解説しています。

5-2. ビタミンB12欠乏

2016年には、母親の重度のビタミンB12欠乏による骨髄内での溶血(未熟な赤血球が骨髄の中で壊れること)が、NIPTで異常なゲノムのパターンを引き起こしうることが報告されました[19]。骨髄で異常な細胞の産生と崩壊が増えると、血液中に放出されるDNAの性質が変わるためと考えられています。症例報告にもとづく知見であり、頻度はわかっていません。

5-3. 臓器移植と造血幹細胞移植

臓器移植や造血幹細胞移植を受けた母親では、移植された臓器や細胞から出るドナーのDNAが検体に混ざるため、NIPTの結果が誤ることがあります。2018年には、男性ドナーからの肝移植を受けた母親で、移植肝由来のDNAのために、NIPTの胎児の性別が超音波検査と食い違った症例が報告され、著者らは臓器移植を受けた母親にはNIPTは勧められないとしています[20]。

造血幹細胞移植では、母親の血液細胞そのものがドナー由来に置き換わります。血液中の細胞外DNAは主に血液の細胞に由来するため、移植後は血液中のDNAの大部分がドナーのものになります。性別の異なるドナーから骨髄移植を受けた22人を調べた2002年の研究で、このことが示されています[21]。2024年に報告された男性ドナーからの幹細胞移植後の妊娠では、出産後の血漿中のDNAの94.73%がドナー由来と推定されました(妊娠中は65.80%)[22]。造血幹細胞移植そのものについては造血幹細胞移植(HSCT)で解説しています。

5-4. 輸血

輸血を受けると、一時的に他人の血液細胞が母親の体内に入ります。ただし、輸血後どのくらいの期間NIPTに影響するのか、何週間あければよいのかを示した査読付きの研究やガイドラインは確認できていません。最近輸血を受けた場合は、その事実を検査前に伝え、検査を受ける時期について相談することが大切です。

5-5. 卵子提供による妊娠

卵子提供による妊娠では、赤ちゃん(胎盤)のDNAは卵子提供者と精子の提供者に由来し、検体の大部分を占めるのは妊娠している女性のDNAです。2026年の総説は、染色体ごとのDNAの量を数える方法と、SNP(一塩基多型)の違いを使う方法では、こうした複雑な検体での振る舞いが異なり、母体由来の要因や性染色体の所見の解釈に方法ごとの限界があるとしています。卵子提供妊娠に限った判定不能率・偽陽性率の比較データは乏しく、一方の方法で必ず多いとは断定できません[23]。卵子提供の妊娠では、検査の方法が対応しているかを事前に確認する必要があります。卵子提供の概要は卵子提供の基礎知識にまとめています。

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6. 胎児分画を下げる母体側の要因:判定保留の原因

母体側の要因には、偽陽性を生むものだけでなく、胎児分画を下げて「判定保留(判定不能)」の原因になるものもあります。胎児分画が低いと、胎盤由来のDNAの偏りを十分な精度で測れなくなるためです。判定保留は偽陽性とは違いますが、再採血や確定検査の判断に関わる重要な結果です。

6-1. 母親の体重

2013年の研究では、胎児分画は母親の体重が増えるほど低下し、推定値は体重60kgで11.7%、160kgで3.9%でした。胎児分画が4%未満になる割合は、60kgで0.7%、100kgで7.1%、160kgで51.1%と推定されています[1]。体重が重いほど血液の量や脂肪組織から出る母体のDNAが多く、胎盤由来のDNAが相対的に薄まると考えられています。ただし、2022年のメタ解析では、体重やBMIと胎児分画の低さとの関連は統計的に有意ではなく、有意だったのは妊娠週数だけでした[24]。ただし、このメタ解析で有意差がなかったことだけで体重の影響が否定されるわけではありません。含まれた研究の違いもあり、体重やBMIの上昇は胎児分画低下の要因として検査前に考慮します。

6-2. ヘパリンなどの抗凝固薬

不育症や血栓症の治療で使われる低分子ヘパリンも、判定保留との関連が報告されています。米国の2,890人を対象にした2017年の研究では、胎児分画の低さによる検査失敗はエノキサパリン(低分子ヘパリンの一種)の使用と強く関連し(調整オッズ比37.5)、使用者28人中5人(18%)で検査が失敗しました[25]。2015年のドイツの報告は、薬の影響を避けるため、採血は次の注射の直前に行うのが望ましいとしています。ただし自己判断で休薬や投与時刻の変更をせず、処方医と検査機関に相談してください[26]。

一方、9,867人を対象にした2018年の研究では、ヘパリンは検査失敗に影響せず、自己免疫疾患(オッズ比10.38)、母親の体重、妊娠初期の複合スクリーニングでの高いリスクが独立した要因でした[27]。ヘパリンの影響については研究によって結果が異なり、まだ結論は出ていません。ヘパリン治療中のNIPTについてはヘパリン注射とNIPTで、胎児分画の基準と再検査の考え方は胎児ゲノム率が低い=異常?4%基準と再検査の考え方で解説しています。

7. 母体側の要因が疑われたときの検査

母体側の要因が疑われた場合は、①赤ちゃんの染色体を確定検査で確かめること、②母親側の原因を母親の検査で確かめること、の2つを並行して考えます。どちらか一方だけでは、結果の意味を正しく説明できません。

赤ちゃんについては、羊水検査で胎児の細胞の染色体を調べます。母体側の要因では胎盤の染色体も正常であることが多いため、絨毛検査でも確認はできますが、胎盤限局性モザイクとの区別が必要な場合は羊水検査が選ばれます。確定検査の選び方は次のページNIPTで陽性の結果がでたときの確定診断で詳しく扱います。検査そのものについては羊水検査・絨毛検査で解説しています。

母親については、疑われる原因によって検査が変わります。母体CNVや母体モザイクが疑われる場合は、母親の血液の染色体検査や染色体マイクロアレイ検査を行います。複数の染色体の異常や常染色体のモノソミーなど、悪性腫瘍を疑うパターンでは、羊水検査の結果を待たずに母親の精査を検討することが重要です。がんの診断と治療は時間が予後に影響するためです。

また、臓器移植、造血幹細胞移植、最近の輸血、卵子提供による妊娠、抗凝固薬の使用、がんの治療歴は、検査を受ける前に申告すべき情報です。これらは結果の解釈を大きく変え、場合によってはNIPTが適さない理由になります。

📚 第5章:偽陽性の原因ページの一覧

ページ 原因 読みどころ
5-6-1 胎盤限局性モザイク 胎盤と赤ちゃんの染色体の食い違い
5-6-2 バニシングツイン 消えた双子の胎盤による偽陽性
5-6-3 珍しい常染色体トリソミー・構造異常 21・18・13番以外の異常
5-6-4 胎児の性別の不一致 性別が食い違う理由
5-6-5 母体側の要因(このページ) 母体CNV・モザイク・悪性腫瘍・移植

8. まとめ:母体側の要因では、赤ちゃんと母親の両方を確かめる

NIPTの検体の約9割は母親のDNAであるため、母親のコピー数変化、性染色体のモザイク、悪性腫瘍、子宮筋腫、臓器移植や造血幹細胞移植などが、赤ちゃんの異常として結果に現れることがあります。母体CNVは偽陽性のトリソミーの一部を説明し、母体モザイクは性染色体の異常の偽陽性の一因となり、複数の染色体の異常は母体の悪性腫瘍を見つけるきっかけになることがあります。母体側の要因が疑われたときは、羊水検査で赤ちゃんを確かめるだけでなく、母親自身の検査を並行して進めることが必要です。移植歴や持病、服薬は、検査の前に必ず伝えておきましょう。

よくある質問(FAQ)

Q1. NIPTの偽陽性は母親が原因のこともありますか?

あります。NIPTの検体に含まれるDNAの約9割は母親自身のものなので、母親の染色体の小さな重複(コピー数変化)、性染色体のモザイク、悪性腫瘍、子宮筋腫、臓器移植などがあると、赤ちゃんが正常でも陽性や判定不能になることがあります。

Q2. NIPTで母親のがんが見つかることはありますか?

まれですが、あります。国際出生前診断学会は約1万件に1件と推定しています。複数の染色体に同時に増減が出る場合に疑われ、2024年の米国の研究では、精査に紹介された妊婦・産後の女性のうち、研究用解析で3本以上の染色体に増加と減少の両方を認めた49例中47例でがんが見つかりました。一般のNIPT陽性全体に当てはまる確率ではありません。最も多いのはリンパ腫です。ただしNIPTはがん検診ではなく、陰性でもがんがないことにはなりません。

Q3. NIPTで母親のがんが疑われたら、どんな検査をしますか?

異常なNIPT結果で精査に紹介された集団を対象とする2024年の研究では、全身MRIの感度98.0%、特異度88.5%が報告されています。妊娠中は原則として造影剤を使わないMRIを検討し、担当医が検査方法を選びます。身体診察や腫瘍マーカーだけでは見逃しが多いことも示されています。あわせて、赤ちゃんの染色体は羊水検査などで確認します。

Q4. 臓器移植や輸血を受けたことがあってもNIPTは受けられますか?

臓器移植や造血幹細胞移植を受けた場合は、ドナーのDNAが検体に混ざるため、結果が誤ることがあり、NIPTは勧められないとする報告があります。輸血については、影響する期間を示した確かな研究は確認できていません。いずれも検査前に必ず申告し、検査を受けるかどうかや時期を相談してください。

Q5. ヘパリン注射をしているとNIPTは判定保留になりやすいですか?

低分子ヘパリンの使用者で胎児分画が低くなり検査が失敗しやすいとする研究がある一方、影響はないとする研究もあり、結論は出ていません。採血を次の注射の直前に行うのが望ましいとする報告があります。治療中の場合は、検査前に伝えてください。自己判断で注射を中止・延期せず、採血時刻は処方医と検査機関に相談してください。

🏥 NIPTをお考えの方へ

ミネルバクリニックでは、常駐する臨床遺伝専門医が、NIPTで分かること・分からないことを含めた検査前の遺伝カウンセリングと、結果が出た後の説明を担当しています。陽性の場合の確定検査(羊水検査・絨毛検査)についてもご案内しています。

参考文献

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NIPT教科書シリーズ

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 当サイトの記事は、院長が自ら執筆し、医学的な内容を確認してから公開しています。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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