目次
📍 クイックナビゲーション
NIPTの21トリソミーに対する感度(検出率)は99%を超え、特異度もほぼ99.9%です。それでもNIPTが確定検査ではないのは、陽性と判定された人が「実際に対象のトリソミーをもつ胎児を妊娠している確率(陽性的中率)」が、検査の性能だけでは決まらないからです。陽性的中率は、検査を受ける人の集団にその病気がどのくらいあるか(有病率・事前確率)によって大きく変わります。同じ検査でも、有病率0.5%の集団では陽性的中率は83.2%、3%の集団では96.8%と計算されます。このページでは、NIPTの性能を表す4つの指標を整理し、メタ解析が示した感度・特異度、10万人を想定した陽性的中率と陰性的中率の計算、トリソミーの種類によって的中率が変わる理由を解説します。
Q. NIPTの感度・特異度はどのくらいですか?
A. 単胎妊娠のメタ解析では、21トリソミーの感度は99.4%、特異度は99.9%でした。18トリソミーは感度97.7%、13トリソミーは90.6%、モノソミーX(ターナー症候群)は92.9%で、21トリソミーが最も高くなっています。ただし、陽性と出た人が本当に陽性である確率(陽性的中率)は、年齢などで決まる事前確率によって変わり、感度・特異度の数字とは一致しません。
- ➤感度・特異度 → 検査の性能。有病率を直接は含まないが、検査法や対象集団の条件で変わりうる
- ➤陽性的中率 → 陽性の人が本当に陽性である確率。有病率が低いほど下がる
- ➤陰性的中率 → 陰性の人が本当に陰性である確率。NIPTではほぼ100%
- ➤トリソミーの違い → 13トリソミーやモノソミーXは胎盤のモザイクが多く、的中率が下がりやすい
⏱️ 30秒でわかる要約
📊 Q. 感度99%なら、陽性の99%は本当に陽性?
いいえ。感度は「病気のある人のうち陽性になる割合」で、陽性の人のうち本当に病気がある割合(陽性的中率)とは別の数字です。21トリソミーでも、有病率0.5%の集団なら陽性的中率は83.2%と計算され、陽性の6人に1人ほどは偽陽性です。
🧬 Q. なぜ13トリソミーは的中率が低いの?
13トリソミーはもともと21トリソミーより少なく、さらに胎盤だけに異常がある「胎盤限局性モザイク」が起こりやすいためです。NIPTが調べているDNAは胎盤に由来するので、赤ちゃんが正常でも陽性になることがあります。
🌸 Q. 陰性なら安心してよい?
NIPTの陰性的中率はほぼ100%で、陰性の結果の信頼性は高いといえます。ただし偽陰性はゼロではなく、調べていない病気については何も分かりません。超音波検査で所見がある場合は、NIPTが陰性でも確定検査を検討します。

NIPTの教科書シリーズの共通画像。本記事では、検査の性能と結果の的中率の違いを解説します。
1. NIPTの性能を表す4つの指標
NIPTの性能は、感度・特異度・陽性的中率・陰性的中率の4つの指標で表されます。このうち感度と特異度は検査そのものの性能を、陽性的中率と陰性的中率は結果を受け取った人にとっての意味を表します。前者の計算式に有病率は直接含まれませんが、検査法や胎児分画などの条件で実測値は変わりえます。後者は、同じ感度・特異度でも集団の有病率によって変わります[1]。
4つの指標は、検査の結果(陽性・陰性)と実際の状態(トリソミーあり・なし)を組み合わせた2×2の表から計算します。トリソミーがあって陽性になったものを真陽性、トリソミーがないのに陽性になったものを偽陽性、トリソミーがあるのに陰性になったものを偽陰性、トリソミーがなく陰性になったものを真陰性と呼びます。
📐 2×2表と4つの指標の計算式
| NIPTの結果 | トリソミーあり | トリソミーなし | 結果から見た指標 |
|---|---|---|---|
| 陽性 | 真陽性(TP) | 偽陽性(FP) | 陽性的中率=TP÷(TP+FP) |
| 陰性 | 偽陰性(FN) | 真陰性(TN) | 陰性的中率=TN÷(TN+FN) |
| 検査の性能 | 感度=TP÷(TP+FN) | 特異度=TN÷(TN+FP) | 偽陽性率=1-特異度 偽陰性率=1-感度 |
※定義は[1]による。縦に読むと感度・特異度、横に読むと陽性的中率・陰性的中率になります。
感度と特異度:検査そのものの性能
感度(sensitivity)は、トリソミーのある赤ちゃんを妊娠している人のうち、NIPTが陽性になる人の割合です。出生前スクリーニングの分野では「検出率(detection rate)」とも呼ばれます。感度が99%なら、トリソミーのある100人のうち99人が陽性と判定され、1人は陰性と判定される(偽陰性)ことを意味します。
特異度(specificity)は、トリソミーのない赤ちゃんを妊娠している人のうち、NIPTが陰性になる人の割合です。特異度を1から引いた値が偽陽性率です。特異度99.9%なら偽陽性率は0.1%で、トリソミーのない1,000人のうち1人が誤って陽性と判定されます。
感度と特異度は、「トリソミーがある人」「ない人」をそれぞれ分母にしているため、有病率そのものを計算式に含みません。ただし、検査法や胎児分画、対象集団の条件が異なれば、実測の感度・特異度も変わりえます。だからこそ、異なる研究の結果をまとめて比べたり、検査どうしの性能を比べたりするときの物差しになります。確定検査では、胎児由来の細胞などを用いて対象の異常を直接確認します。感度・特異度が高いという理由だけで確定検査になるわけではありません[1]。スクリーニング検査と確定検査の違いはスクリーニング検査と診断的検査で解説しています。
陽性的中率と陰性的中率:結果を受け取った人にとっての意味
陽性的中率(positive predictive value:PPV)は、NIPTで陽性と判定された人のうち、実際にトリソミーのある赤ちゃんを妊娠している人の割合です。陰性的中率(negative predictive value:NPV)は、陰性と判定された人のうち、実際にトリソミーのない人の割合です。
検査を受けた人が知りたいのは、「この陽性という結果は、どのくらい確かなのか」です。感度や特異度はこの問いに直接答えていません。答えになるのは陽性的中率です。ところが陽性的中率の分母(陽性になった人全体)には、トリソミーのある人とない人の両方が含まれます。そのため、集団の中にトリソミーの人がどのくらいいるか(有病率)によって、陽性的中率は大きく変わります。
有病率は、検査を受ける本人にとっては「検査前の時点でのその人のリスク」、つまり事前確率にあたります。事前確率と、その検査結果が病気のある人・ない人で生じる確率から事後確率を求める考え方は、ベイズの定理として知られています。陽性的中率の一般的な定義と、医療全般での使われ方は陽性的中率(PPV)とはで、考え方の土台はベイズの定理で解説しています。
💡 用語解説:有病率と事前確率
有病率とは、ある集団の中でその病気をもつ人の割合です。NIPTでは、検査を受ける妊婦さんの集団のうち、トリソミーのある赤ちゃんを妊娠している人の割合を指します。一人ひとりの立場からは、検査を受ける前の時点で見積もられるリスク(事前確率)にあたり、母体の年齢や妊娠週数、超音波所見、それまでの検査結果などで変わります。
2. メタ解析で示されたNIPTの感度と特異度
複数の研究をまとめたメタ解析では、単胎妊娠でのNIPTの感度は21トリソミーで99.4%と最も高く、18トリソミー、モノソミーX、13トリソミーの順に低くなりました。特異度はいずれも99.9%以上です。NIPTの成績をまとめたメタ解析はいくつも発表されていますが、ここでは単胎妊娠を対象に二変量メタ解析を行った2017年の報告を示します[2]。メタ解析の考え方はメタアナリシスとはで解説しています。
📊 単胎妊娠でのNIPTの感度・特異度(メタ解析)
| 項目 | 21トリソミー | 18トリソミー | 13トリソミー | モノソミーX |
|---|---|---|---|---|
| 解析された検査数 | 148,344 | 146,940 | 134,691 | 6,712 |
| 感度(95%信頼区間) | 99.4%(98.3〜99.8) | 97.7%(95.2〜98.9) | 90.6%(82.3〜95.8) | 92.9%(74.1〜98.4) |
| 特異度(95%信頼区間) | 99.9%(99.9〜100.0) | 99.9%(99.8〜100.0) | 100.0%(99.9〜100.0) | 99.9%(99.5〜99.9) |
※[2]による。21・18トリソミーとモノソミーXは二変量、13トリソミーは単変量メタ解析の推定値です。特異度100.0%は丸めた値であり、偽陽性が起こらないことを意味しません。判定不能例の報告も不十分で、すべての受検者への成績とは区別が必要です。
このメタ解析では、検査法が感度・特異度に影響する一方、対象集団の事前リスク(高リスクか低リスクか)による影響を示す証拠は認められませんでした[1][2]。ただし、差を示す証拠がないことは、どの集団や検査法でも性能が同一であることの証明ではありません。
トリソミーごとに感度が違う理由
このメタ解析で感度が21トリソミーで高く、13トリソミーで低く推定された背景には、主に3つの点が考えられます。1つ目は推定値の不確かさに関わる症例数です。13トリソミーやモノソミーXは21トリソミーよりずっと少なく、解析に含まれる症例が少ないぶん、推定値の幅(信頼区間)が広くなります。症例数が少ないこと自体が、検査の感度を低くするわけではありません。モノソミーXの感度の95%信頼区間が74.1〜98.4%と広いのはこのためです。
2つ目は胎盤の大きさと胎児分画です。NIPTは母体の血液中にある胎盤由来のDNAの割合(胎児分画)が十分にあることを前提にしています。18・13トリソミーの妊娠では胎盤が小さいことが多く、胎児分画が低くなりやすいため、検出が難しくなったり、判定不能になったりします。
3つ目は、胎盤と赤ちゃんの染色体の食い違い(胎児胎盤モザイク)です。NIPTが調べているDNAは胎盤の栄養膜細胞に由来します。赤ちゃんにはトリソミーがあるのに胎盤の表面の細胞が正常であれば、NIPTは陰性になります。個々の研究で偽の結果の原因として最も多く挙げられていたのは、あらかじめ決めた基準値を下回る胎児分画、胎盤限局性モザイク、母体のコピー数バリアント(CNV)でした[1]。
臨床転帰を確認できた研究だけで見ると
妊娠の転帰を85%を超える症例で報告し、侵襲的検査の核型または出生後の臨床所見で結果を確認した研究をまとめた2017年のメタ解析では、検出率は21トリソミーで99.7%、18トリソミーで97.9%、13トリソミーで99.0%、モノソミーXで95.8%でした。偽陽性率は21・18・13トリソミーでいずれも0.04%、モノソミーXで0.14%です[3]。
前述のメタ解析と検出率が異なる背景には、採用した研究や解析方法の違いがあります。追跡が不十分な研究では、見逃された症例(偽陰性)や、流産などで結果が分からなくなった症例が正しく数えられないことがあります。どの研究を含めるかで数字が少しずつ変わることは、メタ解析の値を読むときに知っておきたい点です。研究デザインによる違いはコホート研究と症例対照研究の違いで扱っています。
いずれのメタ解析でも、21トリソミーに対する感度・特異度は高い値を示しています。ただし、高い感度・特異度だけでは、胎児の異常を直接確認したことにはなりません。それでもNIPTが確定検査に分類されないのは、偽陽性・偽陰性が現実に起こり、その多くが胎盤や母体に由来する生物学的な理由によるものだからです[1]。
3. 陽性的中率は有病率で変わる:10万人での計算
同じ感度99.4%・特異度99.9%の検査でも、21トリソミーの有病率が0.5%の集団では陽性的中率は83.2%、3%の集団では96.8%になります。感度と特異度だけを見ていると気づきにくい、この変化を具体的な数字で確かめてみます[1]。
一般の妊婦さんを想定した仮想集団(有病率0.5%)
妊婦さん10万人の集団で、21トリソミーの有病率を0.5%と仮定します。この集団では500人が21トリソミーの赤ちゃんを妊娠しています。感度99.4%なので、497人が陽性と判定され、3人は陰性と判定されます(偽陰性)。残りの99,500人は21トリソミーではありませんが、特異度99.9%(偽陽性率0.1%)なので、約100人(99,500×0.001=99.5人)が誤って陽性と判定されます。
🧮 有病率0.5%の10万人での結果
| NIPTの結果 | 21トリソミーあり(500人) | 21トリソミーなし(99,500人) | 合計 |
|---|---|---|---|
| 陽性 | 497人(真陽性) | 約100人(偽陽性) | 約597人 |
| 陰性 | 3人(偽陰性) | 約99,400人(真陰性) | 約99,403人 |
※感度99.4%・特異度99.9%[2]を用いた仮想の計算。陽性的中率=497÷597≒83.2%、陰性的中率=99,400÷99,403≒99.997%。人数を丸める前の値では、陽性的中率=497÷596.5≒83.3%です。本記事の83.2%は人数を丸めて計算した値です。
陽性と判定された約597人のうち、本当に21トリソミーなのは497人です。陽性的中率は497÷597で83.2%になります[1]。感度・特異度が99%を超えていても、陽性の結果を受け取った人のおよそ6人に1人は偽陽性という計算です。偽陽性の数(約100人)が真陽性の数(497人)に比べて無視できない大きさになるのは、トリソミーのない人が99,500人と圧倒的に多く、そのわずか0.1%でも人数としては多くなるためです。
高リスク集団(有病率3%)
次に、21トリソミーの有病率が3%の高リスク集団を考えます。10万人のうち3,000人が21トリソミーの赤ちゃんを妊娠しており、そのうち2,982人が陽性、18人が陰性と判定されます。21トリソミーでない97,000人のうち、偽陽性は97人です。
🧮 有病率3%の10万人での結果
| NIPTの結果 | 21トリソミーあり(3,000人) | 21トリソミーなし(97,000人) | 合計 |
|---|---|---|---|
| 陽性 | 2,982人(真陽性) | 97人(偽陽性) | 3,079人 |
| 陰性 | 18人(偽陰性) | 96,903人(真陰性) | 96,921人 |
※感度99.4%・特異度99.9%[2]を用いた仮想の計算。陽性的中率=2,982÷3,079≒96.8%、陰性的中率=96,903÷96,921≒99.98%。
陽性的中率は2,982÷3,079で96.8%です[1]。有病率が0.5%から3%に上がっただけで、偽陽性の割合は約6人に1人から約30人に1人に減りました。検査の性能は何も変わっていません。変わったのは、検査を受けた集団の事前確率だけです。
従来のスクリーニング検査と比べると
NIPTの陽性的中率の高さは、偽陽性率の低さによるところが大きいものです。妊娠初期のコンバインド検査は、21トリソミーの検出率がおよそ85〜90%、偽陽性率が約5%とされています[4]。同じ有病率0.5%の10万人に当てはめると、21トリソミー500人のうち約450人が陽性になる一方で、21トリソミーでない99,500人の5%にあたる約4,975人が偽陽性になります。陽性的中率は450÷5,425で約8%にとどまります。
検出率だけを比べると、NIPTとコンバインド検査の差は10ポイントほどです。ところが偽陽性率は0.1%と5%で、50倍の開きがあります。陽性的中率に大きな差がつくのはこのためです。偽陽性が少ないことは、本来は必要のなかった羊水検査や絨毛検査を受ける人を減らすことにもつながります。コンバインド検査の仕組みはコンバインド検査とはで解説しています。
年齢によって陽性的中率が変わる理由
母体の年齢によってNIPTの陽性的中率が変わるのは、年齢によって21トリソミーの事前確率が変わるからです。上の計算と同じ理屈で、20代の妊婦さんは事前確率が低いため陽性的中率は低めに、40代の妊婦さんは事前確率が高いため陽性的中率は高めになります。同じ「陽性」でも、その重みは一人ひとり違うということです[1]。
一般の妊婦さんを対象にした大規模な前向き研究でも、この関係は確かめられています。約1万6千人を対象にした研究では、21トリソミーの陽性的中率はNIPTで80.9%、従来のスクリーニング検査で3.4%でした[5]。事前確率の低い集団では陽性的中率が下がるものの、NIPTは従来法と比べて桁違いに高い陽性的中率を保っています。
日本のデータもあります。高年妊娠の妊婦さん21,610人を対象にした全国研究では、21トリソミーでNIPT陽性となった188人のうち180人が真陽性でした。この研究は、実測の陽性的中率が感度・特異度から計算した理論上の値より高くなる可能性を指摘しています[6]。年齢別の陽性的中率の目安は、一般の方向けにNIPTの精度・確率と陽性的中率の罠で、高リスク・低リスク集団での成績は高リスク・低リスク集団でのcfDNA NIPTで詳しく扱っています。
4. トリソミーの種類で陽性的中率が違う理由
NIPTの陽性的中率は、21トリソミーで最も高く、18トリソミー、13トリソミー、モノソミーXでは低くなる傾向があります。理由は大きく2つあります。調べる病気そのものの有病率の違いと、胎盤だけに染色体異常がある胎盤限局性モザイクの起こりやすさの違いです。
有病率の違い
13トリソミーは21トリソミーよりはるかにまれなため、偽陽性率が同じでも陽性的中率は低くなります。先ほどの計算と同じ考え方で確かめてみます。ここでは説明のために、ある集団での13トリソミーの有病率を5,000人に1人、感度を99%、偽陽性率を21トリソミーと同じ0.04%と仮定します。
10万人のうち13トリソミーは20人で、そのうち約20人が陽性と判定されます。一方、13トリソミーでない99,980人のうち0.04%にあたる約40人が偽陽性になります。陽性になった約60人のうち本当に13トリソミーなのは約20人なので、陽性的中率はおよそ3分の1です。同じ0.04%の偽陽性率でも、有病率が低い病気では偽陽性の割合が大きくなることが分かります。この数字は仮定に基づく計算例で、実際の陽性的中率は集団や検査法によって異なります。
胎盤限局性モザイクの頻度の違い
13トリソミーとモノソミーXでは、胎盤の細胞にだけ異常がある胎盤限局性モザイクが多いことも、陽性的中率を下げる大きな理由です。NIPTが調べるDNAは胎盤の栄養膜細胞から出たものなので、胎盤にだけトリソミーがあれば、赤ちゃんが正常でも陽性になります。
52,673件の絨毛検査データから、NIPTで各項目が陽性になった場合に絨毛検査でモザイクが見つかり、羊水検査が必要になる割合を推定した研究では、21トリソミーで2%、18トリソミーで4%と少ないのに対し、13トリソミーでは22%、モノソミーXでは59%にのぼります。絨毛でモザイクが見つかった場合に、羊水検査で赤ちゃんの異常として確認された割合は、21トリソミー44%、18トリソミー14%、13トリソミー4%、モノソミーX26%でした[8]。これらは絨毛検査データに基づく推定で、NIPT陽性者全体の陽性的中率を直接示す値ではありません。21トリソミーで陽性的中率が高いのは、胎盤でのモザイクがまれで、しかもモザイクがあった場合も赤ちゃんで確認されやすいためです。
こうした違いから、13トリソミーやモノソミーXでNIPTが陽性になった場合は、特に超音波で異常所見がない場合、胎盤の影響を受けにくい羊水検査が優先されます。超音波で異常所見がある場合は絨毛検査も選択肢となり、モザイクが見つかれば羊水検査による追加確認が必要です[8][9]。胎盤限局性モザイクが生じる仕組みはNIPTの偽陽性の原因:モザイクで、染色体ごとの陽性的中率の違いはNIPTの陽性的中率が染色体異常によって異なる理由でも解説しています。
💡 用語解説:胎盤限局性モザイク(CPM)
胎盤限局性モザイクとは、1つの受精卵から育った胎盤と赤ちゃんのうち、胎盤の一部の細胞にだけ染色体異常がある状態です。受精後の細胞分裂の誤りや、トリソミーの受精卵から余分な染色体が失われる「トリソミーレスキュー」によって起こります。NIPTが偽陽性になる最も重要な生物学的原因の一つで、逆に胎盤が正常で赤ちゃんに異常がある場合は偽陰性の原因になります。
モノソミーXと母体の要因
モノソミーX(ターナー症候群)では、胎盤のモザイクに加えて、お母さん自身の染色体の変化も偽陽性の原因になります。母体の血液中のDNAの大部分はお母さんの白血球に由来します。年齢とともに一部の細胞でX染色体が失われることがあり、これがX染色体の減少として読まれると、胎児のモノソミーXと区別がつきにくくなります[1]。
母体の要因には、ほかにもお母さんがもつコピー数バリアント(CNV)、まれに母体の悪性腫瘍などがあります。こうした要因は、トリソミーの種類を問わず偽陽性の原因になりえます。詳しくはNIPTの偽陽性の原因:母体側の要因で解説しています。
🩺 院長コラム【「99%」は誰にとっての99%か】
NIPTの説明でよく目にする「99%」は、多くの場合、感度か特異度を指しています。これは「病気のある人をどれだけ見つけるか」「病気のない人をどれだけ陰性にするか」という検査の側から見た数字です。陽性の結果を受け取った人が知りたい「自分の結果がどれだけ確かか」とは、別の問いへの答えです。
NIPTの結果を読むときには、どの染色体についての結果なのか、その人の事前確率はどのくらいか、という2つの情報を重ねることが欠かせません。同じ陽性でも、21トリソミーと13トリソミーでは陽性的中率が異なります。
5. 陰性的中率がほぼ100%になる理由と、その限界
NIPTの陰性的中率は、高リスク集団でも低リスク集団でも、ほぼ100%になります。一般的な受検集団ではトリソミーのない妊娠が大部分を占め、感度が高く偽陰性が少ないことに加え、特異度も高いためです[1]。
なぜ陰性的中率は高いのか
陰性的中率の分母は「陰性と判定された人全体」で、その大部分はトリソミーのない人です。有病率0.5%の計算例では、陰性と判定された約99,403人のうち、偽陰性はわずか3人でした。陰性的中率は約99.997%です。有病率3%の集団でも、陰性96,921人のうち偽陰性は18人で、陰性的中率は約99.98%です。
陽性的中率が有病率によって大きく動くのに対し、陰性的中率がほとんど動かないのは、この分母の違いによります。陰性の人のほとんどは「もともとトリソミーのない人」で、感度が99%を超えていれば、そこに紛れ込む偽陰性はごく少数にとどまります。日本の出生前検査認証制度等運営委員会が公表した約10万人の追跡調査でも、NIPTを受けた人のうち陽性または判定保留になるのは約50人に1人で、大多数は陰性の結果を受け取っています[7]。
それでも偽陰性はゼロではない
陰性的中率がほぼ100%でも、偽陰性が起こらないわけではありません。偽陰性の原因の一つは、検査に必要な量に対して胎児分画が足りないことです。母体の体重が多い場合や妊娠週数が早い場合、低分子量ヘパリン使用などでは低胎児分画や判定不能との関連が報告されています。検体の保存・輸送中に母体の白血球が壊れることも母体DNAを増やし、胎児分画を低下させる原因になります。赤血球の溶血とは区別が必要です。通常、基準を下回る胎児分画では判定不能とされ、陰性とは扱いません[1][9]。
もう一つの原因は、胎盤の表面の細胞は正常なのに赤ちゃんには異常があるタイプのモザイクです。この場合、胎盤由来のDNAを調べるNIPTでは異常が見えません[1]。また、NIPTが「陰性」と言えるのは調べた染色体についてだけで、調べていない染色体異常や、染色体の検査では分からない病気については何も分かりません。
そのため、NIPTが陰性でも、超音波検査で胎児の形態異常やNT(首の後ろのむくみ)の肥厚などの所見がある場合は、羊水検査などの確定検査が検討されます。偽陰性の確率と原因はNIPTの偽陰性で詳しく解説しています。
6. NIPTの数字を正しく読むために
NIPTの成績を示す数字は、それぞれ別の問いに答えています。感度・特異度は検査の性能、陽性的中率・陰性的中率は結果の確かさを表し、後者は事前確率によって変わります。この違いを押さえておくと、検査の広告や説明で目にする数字を、自分にとっての意味に置き換えて読めるようになります。
「99%」が意味すること・しないこと
「NIPTの精度は99%」という表現は、多くの場合21トリソミーの感度か特異度を指しています。これは「21トリソミーのある赤ちゃんの99%以上が陽性と判定される」「21トリソミーのない赤ちゃんの99.9%が陰性と判定される」という意味です。
一方で、「陽性と出たら99%の確率で21トリソミー」という意味ではありません。陽性的中率は事前確率によって変わり、一般の妊婦さんの集団では80%台になることもあります。また、18トリソミー、13トリソミー、性染色体の異常、微小欠失などでは、21トリソミーより陽性的中率が低くなります。検査項目ごとに数字が違うことを前提に読む必要があります。一般の方向けの解説はNIPTの精度で、偽陽性の確率と原因はNIPT偽陽性の確率で扱っています。
陽性なら確定検査、陰性でも超音波を
NIPTで陽性になった場合は、陽性的中率がどれだけ高くても、羊水検査や絨毛検査による確定検査で確かめることが原則です。偽陽性の多くは胎盤や母体に由来するため、NIPTを繰り返しても原因を取り除くことはできません。確定検査を経ずに妊娠の継続について決めることは、取り返しのつかない判断につながるおそれがあります[1]。
どちらの確定検査を選ぶかも、陽性になった染色体によって変わります。前述のとおり、13トリソミーやモノソミーXでは胎盤のモザイクが多いため、超音波で異常所見がない場合は羊水検査が優先されます。異常所見がある場合は絨毛検査も選択肢となり、妊娠週数や本人の希望も踏まえて決定します。確定検査の選び方はNIPTで陽性の結果がでたときの確定診断で解説しています。
陰性の場合も、超音波検査による形態の評価は引き続き大切です。NIPTの陰性的中率が高いのは調べた染色体についてであり、赤ちゃんの健康全体を保証するものではないからです。検査を受ける前に、結果がどのような意味を持つのかを理解しておくことが、陽性・陰性どちらの場合にも落ち着いて次の判断をするための準備になります。
🩺 院長コラム【数字を自分の言葉に置き換える】
陽性的中率は、計算の仕方さえ分かれば、一人ひとりの状況に置き換えて考えられる数字です。事前確率が低い人ほど、陽性の結果には偽陽性が混じりやすくなります。だからこそ、陽性の結果だけで結論を出さず、確定検査で確かめることが必要になります。
検査前の遺伝カウンセリングで、感度・特異度と陽性的中率の違いを理解しておくことは、結果を受け取ったときに数字に振り回されないための土台になります。
よくある質問(FAQ)
Q1. NIPTの感度と特異度の違いは何ですか?
感度は、トリソミーのある赤ちゃんを妊娠している人のうちNIPTが陽性になる割合(検出率)です。特異度は、トリソミーのない赤ちゃんを妊娠している人のうちNIPTが陰性になる割合です。単胎妊娠のメタ解析では、21トリソミーの感度は99.4%、特異度は99.9%でした。
Q2. NIPTの陽性的中率は何%ですか?
陽性的中率は検査を受ける人の事前確率によって変わるため、一つの数字では表せません。21トリソミーでは、有病率0.5%の集団で83.2%、3%の集団で96.8%と計算されます。一般の妊婦さん約1万6千人を対象にした研究では80.9%でした。
Q3. 年齢によって陽性的中率が変わるのはなぜですか?
母体の年齢によって21トリソミーの事前確率が変わるからです。事前確率が低いと、トリソミーのない人がわずかな割合で偽陽性になるだけでも、陽性の人全体に占める偽陽性の割合が大きくなります。同じ感度・特異度を仮定しても、事前確率の違いだけで陽性的中率は変わります。実際の検査性能は、検査法や胎児分画などの条件でも変わりえます。
Q4. NIPTで陰性なら100%安心できますか?
NIPTの陰性的中率はほぼ100%で、陰性の結果の信頼性は高いといえます。ただし、胎児分画の不足や胎盤と赤ちゃんの染色体の食い違いによって、偽陰性はまれに起こります。また、調べていない染色体異常や病気については分かりません。超音波検査で所見がある場合は、NIPTが陰性でも確定検査が検討されます。
Q5. 13トリソミー陽性の陽性的中率が低いのはなぜですか?
13トリソミーは21トリソミーよりはるかにまれなことと、胎盤だけに異常がある胎盤限局性モザイクが起こりやすいことが理由です。絨毛検査データに基づく研究では、NIPTで13トリソミー陽性の場合、絨毛検査でモザイクが見つかり羊水検査が必要になる割合は22%と推定されました。絨毛でモザイクが見つかった場合に胎児でも異常が確認された割合は4%であり、NIPT陽性者全体の的中率ではありません。超音波で異常所見がない場合は羊水検査が優先され、所見がある場合は絨毛検査も選択肢になります。
まとめ
NIPTの性能は、感度・特異度・陽性的中率・陰性的中率の4つの指標で表されます。単胎妊娠のメタ解析では、21トリソミーの感度は99.4%、特異度は99.9%で、18トリソミー、モノソミーX、13トリソミーの順に感度が下がりました[2]。臨床転帰を確認できた研究だけをまとめると、21トリソミーの検出率は99.7%、偽陽性率は0.04%です[3]。
一方、陽性的中率は有病率(事前確率)によって大きく変わり、同じ検査でも有病率0.5%なら83.2%、3%なら96.8%になります[1]。13トリソミーやモノソミーXは有病率が低いうえに胎盤限局性モザイクが多く、陽性的中率が下がりやすくなります。陰性的中率はどの集団でもほぼ100%ですが、偽陰性はゼロではありません。陽性の結果は必ず確定検査で確かめ、陰性の場合も超音波での評価を続けることが基本です。第5章のほかのページはなぜNIPTは非確定的検査なのかの目次からご覧ください。
🧬 NIPTをお考えの方へ
ミネルバクリニックでは、常駐する臨床遺伝専門医が、感度・特異度と陽性的中率の違い、検査項目ごとの的中率、陽性や判定保留になった場合の流れを含めて検査前の遺伝カウンセリングを行い、NIPTを実施しています。陽性の結果が出た場合の確定検査についても、事前に流れをご説明しています。
📚 NIPTの教科書 第5章のページ
参考文献
- [1] Harasim T, Wagner A. Why Cell-Free DNA-Based Noninvasive Prenatal Testing for Fetal Chromosome Anomalies Is Not Diagnostic. In: Page-Christiaens L, Klein HG, eds. Noninvasive Prenatal Testing (NIPT): Applied Genomics in Prenatal Screening and Diagnosis. Academic Press (Elsevier); 2018:67-82. [DOI 10.1016/B978-0-12-814189-2.00005-0]
- [2] Mackie FL, Hemming K, Allen S, Morris RK, Kilby MD. The accuracy of cell-free fetal DNA-based non-invasive prenatal testing in singleton pregnancies: a systematic review and bivariate meta-analysis. BJOG. 2017;124(1):32-46. [DOI 10.1111/1471-0528.14050]
- [3] Gil MM, Accurti V, Santacruz B, Plana MN, Nicolaides KH. Analysis of cell-free DNA in maternal blood in screening for aneuploidies: updated meta-analysis. Ultrasound Obstet Gynecol. 2017;50(3):302-314. [DOI 10.1002/uog.17484]
- [4] Sacco A, Pandya P. Prenatal Screening for Common Aneuploidies Before and After the Introduction of Cell-Free DNA-Based Prenatal Testing. In: Page-Christiaens L, Klein HG, eds. Noninvasive Prenatal Testing (NIPT): Applied Genomics in Prenatal Screening and Diagnosis. Academic Press (Elsevier); 2018:51-66. ISBN 978-0-12-814189-2.
- [5] Norton ME, Jacobsson B, Swamy GK, et al. Cell-free DNA analysis for noninvasive examination of trisomy. N Engl J Med. 2015;372(17):1589-1597. [DOI 10.1056/NEJMoa1407349]
- [6] Yamada T, Sekizawa A, Fujii Y, et al.; Japan NIPT consortium. Maternal age-specific risk for trisomy 21 based on the clinical performance of NIPT and empirically derived NIPT age-specific positive and negative predictive values in Japan. J Hum Genet. 2018;63(10):1035-1040. [DOI 10.1038/s10038-018-0453-8]
- [7] 出生前検査認証制度等運営委員会. NIPTを受けた10万人の妊婦さんの追跡調査. [出生前検査認証制度等運営委員会]
- [8] Grati FR, Bajaj K, Malvestiti F, et al. The type of feto-placental aneuploidy detected by cfDNA testing may influence the choice of confirmatory diagnostic procedure. Prenat Diagn. 2015;35(10):994-998. DOI: 10.1002/pd.4659. PMID: 26211640. [PubMed]
- [9] Society for Maternal-Fetal Medicine (SMFM), Rink BD, Dugoff L, Kuller JA, SMFM Publications Committee. Society for Maternal-Fetal Medicine Consult Series #74: Cell-free DNA screening for aneuploidies: Updated guidance. Pregnancy. 2025;1(6):e70139. DOI: 10.1002/pmf2.70139. [SMFM]



