目次
📍 クイックナビゲーション
NIPTで21・18・13トリソミーが陽性になっても、赤ちゃんの染色体は正常ということがあります。その原因の一つが、13・18・21番以外の染色体のトリソミー(まれな常染色体トリソミー:RAT)や、大きな欠失・重複といった染色体の構造の変化です。まれなトリソミーは、胎盤にだけ存在して「陽性」の信号を出すことがあるうえ、計算の物差しとして使う基準染色体に乗ると、まったく別の染色体の判定まで狂わせます。また、偽陽性の原因になったまれなトリソミーが、胎盤の働きや赤ちゃんの発育に影響していることもあります。このページでは、まれなトリソミーと構造異常がNIPTの偽陽性を起こす3つの経路と、全染色体を解析することの意味を、偽陽性の原因という視点に絞って解説します。
Q. まれなトリソミーは、なぜNIPTの偽陽性の原因になるのですか?
A. NIPTが調べるDNAのうち胎児分画は主に胎盤に由来し、しかも多くの方法が「調べたい染色体」を「基準にする染色体」と比べて判定しているためです。胎盤だけにあるトリソミーは赤ちゃんが正常でも陽性の信号になり、基準染色体にトリソミーがあると、13・18・21番に見かけ上の増減が生じます。2017年の研究では、約7万3千件の検査で基準染色体などに見つかったまれなトリソミーのうち、21件が検査対象の染色体の誤ったモノソミー判定につながっていました。
- ➤胎盤限局性モザイク → まれなトリソミーの多くは胎盤だけにあり、赤ちゃんは正常なことが多い
- ➤基準染色体のずれ → 基準側のトリソミー・モノソミーが、13・18・21番の偽の判定を生む
- ➤大きなCNV・構造異常 → お母さんや胎盤の部分的な重複が、トリソミーのように見える
- ➤全ゲノム解析 → 原因の識別に役立つ可能性がある一方、新たな所見の解釈が課題になる
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. まれな常染色体トリソミーって何?
13・18・21番、X・Y以外の常染色体のトリソミーです。すべての細胞にある完全型では、ほとんどが妊娠初期に流産になります。NIPTで見つかるものの多くは、胎盤の一部の細胞にだけある「モザイク」です。
⚖️ Q. 関係ない染色体のトリソミーが、なぜ21番の判定を狂わせるの?
NIPTの多くは、21番などのDNA量をほかの染色体(基準染色体)と比べて判定しています。基準側にトリソミーがあると21番が少なく見え(偽のモノソミー)、基準側にモノソミーがあると多く見えて(偽のトリソミー)しまいます。
🌸 Q. 偽陽性なら、もう心配いらない?
赤ちゃんの染色体が正常でも、胎盤のトリソミーが胎児発育不全などに関係したり、片親性ダイソミー(UPD)が残ったりすることがあります。原因まで確かめ、妊娠の経過を超音波で見ていくことが大切です。

1. まれな常染色体トリソミー(RAT)とは
まれな常染色体トリソミー(rare autosomal trisomy:RAT)とは、13番・18番・21番以外の常染色体(1〜22番)に起こるトリソミーのことです。性染色体(X・Y)の数の異常も含めません。NIPTが主な対象にしている13・18・21トリソミーと性染色体異数性を除いた、残りの常染色体のトリソミーをまとめて呼ぶ言葉です[1]。
トリソミーとは、本来2本ある染色体が3本になっている状態です。どの染色体にもトリソミーは起こりえますが、生まれてくる赤ちゃんで見られるのは、ほとんどが21・18・13トリソミーと性染色体の異常に限られます。トリソミーそのものの仕組みと種類はトリソミーとはで、1本少ない状態はモノソミーとはで解説しています。
完全型はほとんど生まれてこない
まれなトリソミーは、体のすべての細胞にある完全型(非モザイク型)では、通常は生命を維持できません。そのため、完全型は妊娠初期の流産で見つかることがほとんどで、羊水検査で赤ちゃんの染色体として見つかることは非常にまれです[1]。
一方、正常な細胞とトリソミーの細胞が混ざったモザイク型では、妊娠が続くことがあります。モザイク型のまれなトリソミーは、胎児発育不全、胎児死亡、赤ちゃん自身のモザイク(真の胎児モザイク)、片親性ダイソミー(UPD)と関係することが知られています[1]。これらは偽陽性の原因を考えるうえでも大切な点なので、4章で改めて取り上げます。
NIPTで見つかる頻度
全染色体を解析するNIPTでは、まれなトリソミーは検査を受けた人の0.2〜0.4%前後で見つかります。[2]2019年に報告されたオランダの全国研究(TRIDENT-2)では、参加者73,239人のうち追加所見の報告を選択した56,818人を主な対象として、101人(約0.18%)にまれなトリソミーが見つかりました。同じ研究で21トリソミーは239人(0.33%)、18トリソミーは49人(0.07%)、13トリソミーは55人(0.08%)です[3]。
2017年の研究では、アメリカの72,972件とオーストラリアの16,885件の検体を全染色体で解析し、まれなトリソミーのなかでは7トリソミーが最も多く、15・16・22トリソミーが続きました[2]。大規模な集団研究をまとめると、まれなトリソミーは13・18・21トリソミーを合わせた頻度のおよそ半分の頻度で見つかると整理されています[4]。決して「めったに出会わない」所見ではありません。
📊 全染色体NIPTで見つかった所見と陽性的中率(2019年・TRIDENT-2)
| NIPTで見つかった所見 | 人数(頻度の分母は注記参照) | 陽性的中率 |
|---|---|---|
| 21トリソミー | 239人(0.33%) | 96% |
| 18トリソミー | 49人(0.07%) | 98% |
| 13トリソミー | 55人(0.08%) | 53% |
| まれな常染色体トリソミー | 101人(0.18%) | 6% |
| 構造異常(部分的な欠失・重複) | 95人(0.16%) | 32% |
※[3]より作成。13・18・21トリソミーの頻度は参加者73,239人、まれなトリソミーと構造異常の頻度は追加所見の報告を選んだ56,818人を主な分母とします。陽性的中率は追跡確認できた症例から算出され、まれなトリソミーの6%(6/97)には胎児モザイク3例とUPD3例が含まれます。同じトリソミーが胎児で確認された割合だけを示す数値ではありません。残りの多くは胎盤限局性モザイクと考えられています。
この研究のまれなトリソミー陽性例では、追跡できた97例中6例(6%)で胎児モザイクまたはUPDが確認されました。多くの例では、NIPTが示したトリソミーは胎児では確認されていません。2024年に発表された総説でも、まれなトリソミーでフラグが立った赤ちゃんの約90%は実際には異常がなく、胎盤限局性モザイクがその説明として最も考えやすいとまとめられています[5]。この「赤ちゃんにはないのに検査に出る」という性質こそが、まれなトリソミーを偽陽性の原因として考えなければならない理由です。
2. まれなトリソミーと構造異常が偽陽性を起こす3つの経路
まれなトリソミーや構造異常がNIPTの偽陽性を起こす経路は、大きく3つに分けられます。①胎盤だけにあるトリソミーが陽性の信号を出す経路、②基準染色体の異常が13・18・21番の判定をずらす経路、③大きなコピー数の変化(CNV)や構造異常がトリソミーのように見える経路です。
3つの経路に共通しているのは、NIPTが「赤ちゃんの染色体」を直接見ているわけではないという点です。NIPTが測っているのは、お母さんの血液中を流れるDNA断片の量で、そのうち赤ちゃん側のDNAの大部分は胎盤の栄養膜細胞から出たものです。さらに、血液中のDNAの大部分はお母さん自身のものです。胎盤の染色体、お母さんの染色体、そして計算の仕組みのどれかがずれれば、赤ちゃんが正常でも陽性になりえます[1]。
経路①:胎盤だけにあるトリソミー(胎盤限局性モザイク)
まれなトリソミーがNIPTで見つかる最も多い理由は、トリソミーが胎盤にだけあり、赤ちゃんの体にはない「胎盤限局性モザイク(confined placental mosaicism:CPM)」です。胎盤限局性モザイクは妊娠の1〜2%に見られるとされ、NIPTの偽陽性の原因として最もよく知られています[5]。
胎盤限局性モザイクは、受精後の細胞分裂の誤りで胎盤の一部にトリソミーの細胞ができる場合と、もともとトリソミーだった受精卵から余分な1本が失われる「トリソミーレスキュー」で、赤ちゃんの体だけが正常に戻った場合とがあります。まれなトリソミーの完全型では通常は妊娠の継続が難しいため、妊娠が続いているときは、赤ちゃんの側はトリソミーでないことが多いのです。
2014年の研究では、約5万3千件の絨毛検査のデータから、胎盤と赤ちゃんの染色体の食い違いがNIPTの結果にどう影響するかを推定しています。13・18・21トリソミーに限っても、胎盤のモザイクによる偽陽性は1,065〜3,931件に1件と見積もられ、この研究は、生物学的な仕組みがある以上NIPTの感度と特異度は100%にはならないと結論づけています[6]。13・18・21トリソミーでの胎盤限局性モザイクの仕組みはNIPTの偽陽性の原因:モザイクで詳しく解説しています。
💡 用語解説:胎盤限局性モザイク(CPM)
1つの受精卵から育った胎盤と赤ちゃんのうち、胎盤の一部の細胞にだけ染色体異常がある状態です。NIPTが調べるDNAのうち胎児分画は主に胎盤の栄養膜細胞に由来するため、胎盤にだけトリソミーがあると赤ちゃんが正常でも陽性になります。用語としての定義は限局性胎盤モザイクで解説しています。
ここで注意したいのは、13・18・21番だけを調べるNIPTでは、胎盤にまれなトリソミーがあっても、それ自体は報告されないことです。それでも、まれなトリソミーが偽陽性の原因になるのは、次に説明する「基準染色体」の仕組みがあるからです。
経路②:基準染色体のずれが13・18・21番の判定を狂わせる
NIPTの多くは、21番などの「調べたい染色体(標的染色体)」に由来するDNAの量を、「基準にする染色体(基準染色体)」のDNAの量と比べることで判定しています。基準染色体に余分な1本や欠けた1本があると、比べる物差しそのものが伸び縮みし、標的染色体が実際より多く、あるいは少なく見えてしまいます[1]。
大量並列シークエンス法によるNIPTでは、血液中のDNA断片を読み取り、どの染色体に由来する断片かを数えます。このとき、21番に由来する断片の数をそのまま使うのではなく、ほかの染色体の断片数で割って「割合」に直し、正常な妊娠の集団と比べてどれだけ外れているか(Zスコア)を計算します。割り算の分母になるのが基準染色体です。Zスコアの計算の仕組みはWGSベースのNIPT⑥:Zスコアとは?で解説しています。
⚖️ 基準染色体の異常が標的染色体の判定に与える影響
| 基準染色体の状態 | 分母(物差し) | 標的染色体の見え方 | 起こりうる誤り |
|---|---|---|---|
| トリソミー(1本多い) | 大きくなる | 実際より少なく見える | 偽のモノソミー判定 |
| モノソミー(1本少ない) | 小さくなる | 実際より多く見える | 偽のトリソミー判定 |
| 大きな重複・欠失 | ずれの程度に応じて変わる | わずかに増減して見える | 判定の境界付近での誤り・判定保留 |
※[1][2]をもとに作成。実際の影響の大きさは、検査会社ごとの解析アルゴリズムや、基準染色体として何本の染色体を使うかによって異なります。
2017年の研究では、アメリカの約7万3千件の検査で、検査対象外の染色体に246件のまれなトリソミーが記録されました。そのうち172件は基準染色体に起きており、21件では13・18・21番のいずれかに誤ったモノソミーの判定が出ていました。同じ研究のオーストラリアの16,885件では、基準染色体などのトリソミー60件のうち24件で、誤った判定を出す代わりに検査を中止する設計がとられていました。追跡できた例では、胎盤や赤ちゃんにまれなトリソミーがあり、流産や胎児発育不全、真の胎児モザイク、片親性ダイソミーを伴うことがあった一方、正常に出産した例もありました[2]。
2016年の研究では、113,415件のNIPTのうち138件(0.12%)で、常染色体のモノソミーや複数の染色体の異数性が報告されていました。赤ちゃんの染色体を確認できた67件では、47件(70%)が正常で、4件(6%)では検査対象ではない基準染色体側に異数性が見つかりました[7]。常染色体のモノソミーという結果は、赤ちゃんに本当にモノソミーがあるより、基準染色体側の変化や母体の要因で説明されることのほうが多いということです。複数の染色体に異常が出る結果については常染色体モノソミーや複数の染色体の異数性でも解説しています。
💡 なぜ「関係ない染色体」が問題になるのか
21番の判定を例にすると、基準染色体が16番を含む複数の染色体で、胎盤に16トリソミーがある場合、分母に16番の余分な断片が加わります。21番の断片数は変わらなくても、割合は小さくなり、21番が「少ない」側に外れます。逆に基準側にモノソミーがあれば、21番が「多い」側に外れ、21トリソミー陽性に近づきます。調べていない染色体の異常が、調べている染色体の結果を左右するのはこのためです。
経路③:大きなコピー数の変化(CNV)と構造異常
染色体の一部だけが重複・欠失している大きなコピー数の変化(copy number variation:CNV)も、NIPTではトリソミーやモノソミーのように見えることがあります。13・18・21番の上に大きな重複があれば、その染色体に由来する断片が増え、トリソミー側に判定が傾きます。基準染色体の上にあれば、経路②と同じように物差しをずらします[1]。
CNVの持ち主は赤ちゃん(胎盤)とは限りません。血漿中のcfDNAの大部分はお母さんに由来するため、お母さん自身がもつ重複は、同じ重複が胎盤だけにある場合より大きな信号として現れることがあります。2015年の研究では、18トリソミー陽性で赤ちゃんは正常だった例を調べ、お母さんの18番染色体の短腕にある1.15 Mb(メガ塩基)と487 kb(キロ塩基)の重複が偽陽性の原因と考えられました。1.15 Mbの重複は、この研究のモデル条件では、重複がない場合に比べて偽陽性の確率を約15,650倍に高めると計算されています[8]。2024年の総説では、13・18・21トリソミーの偽陽性のうち8.1%がお母さんの部分的な重複やCNVで説明され、500 kbを超えるCNVは健康な人にも存在しますが、その頻度や影響は大きさ・位置・集団によって異なります[5]。
💡 用語解説:CNV(コピー数バリアント)
CNVは、ゲノムのある区間(一般に1 kb以上)のコピー数が、欠失によって減ったり重複によって増えたりしている状態です。短い配列の繰り返し回数の違い(リピート伸長)とは通常区別して扱いますが、反復配列を含む領域のコピー数変化もあります。健康な人も多くのCNVをもっており、その大部分は病気とは関係しません。詳しくはCNV コピーナンバーバリアントで解説しています。
赤ちゃん側の構造異常が、判定と実際の食い違いを生むこともあります。たとえば不均衡型の転座で18番の一部だけが3本分ある場合、NIPTは「18トリソミー陽性」と報告しても、赤ちゃんの実際の状態は部分トリソミーです。これは厳密な意味の偽陽性ではありませんが、全体のトリソミーと部分トリソミーでは、赤ちゃんの症状も、両親の染色体を調べる必要性も変わります。構造異常の種類は染色体の構造異常:不均衡型構造異常で解説しています。
お母さんのCNVや母体の染色体モザイク、母体の悪性腫瘍などは、まれなトリソミーとは別に、母体側の偽陽性の原因としてまとめて扱われます。これらはNIPTの偽陽性の原因:母体側の要因で解説し、このページでは染色体の数と構造の変化が判定をずらす仕組みに絞っています。
4. 偽陽性でも「何もない」とは限らない
まれなトリソミーが原因の偽陽性では、赤ちゃんの染色体は正常でも、胎盤のトリソミーが妊娠の経過に影響していることがあります。「偽陽性だったから終わり」とはせず、原因がまれなトリソミーだと分かった時点で、妊娠の経過を見守る理由が生まれます。
胎盤の働きと胎児発育不全
胎盤の細胞の多くがトリソミーである場合、胎盤の働きが落ち、胎児発育不全や流産、死産につながることがあります。2018年に報告されたオランダの研究(TRIDENT)では、13・18・21トリソミーのリスクが高い妊婦さん2,527人に全染色体のNIPTを行い、41人(1.6%)に13・18・21トリソミー以外の染色体異常が見つかりました。その内訳は、赤ちゃん由来10人、胎盤由来22人、お母さん由来1人、由来不明7人で、胎盤由来の22人のうち13人(59%)が、赤ちゃんの先天異常や発育の遅れ(10パーセンタイル未満)を伴っていました[9]。胎児発育不全については胎児発育不全(FGR)とはで解説しています。
一方で、2019年の全国研究では、まれなトリソミーの94%が赤ちゃんでは確認されず、その多くが胎盤限局性モザイクと考えられました。著者らは、胎盤限局性モザイクが赤ちゃんとお母さんの経過に影響しうることから、まれなトリソミーが見つかった場合には専門的な超音波検査を勧めています[3]。ただし、胎盤にまれなトリソミーがあっても、多くの妊娠は問題なく経過します。どの染色体か、胎盤のどのくらいの割合の細胞がトリソミーかによって、影響の大きさは変わります。染色体ごとの経過の違いはNIPTで見つかるまれなトリソミー:結果の読み方と妊娠の経過で扱います。
真の胎児モザイク
胎盤だけでなく赤ちゃんの体の一部にもトリソミーの細胞が残っている「真の胎児モザイク」では、先天異常や発達への影響が問題になります。モザイク型のまれなトリソミーは、完全型と違って出生に至ることがあり、症状の程度はトリソミーの細胞がどの臓器にどれくらいあるかで大きく変わります[1]。モザイクの基本的な考え方と、まれなトリソミーのモザイクの背景はまれな常染色体トリソミー(RAT)とは:モザイクと胎盤限局性モザイクで解説します。
片親性ダイソミー(UPD)
片親性ダイソミー(uniparental disomy:UPD)とは、1対の染色体の2本が、両方とも同じ親から受け継がれている状態です。トリソミーの受精卵からトリソミーレスキューで1本が失われるとき、残った2本が同じ親に由来すると、染色体の数は正常でもUPDになります。まれなトリソミーが胎盤に見つかった妊娠は、トリソミーレスキューを経ている可能性があるため、UPDを考える必要が出てきます[1]。
UPDが問題になる理由は2つあります。1つは、父由来か母由来かで働き方が変わる遺伝子(ゲノムインプリンティングを受ける遺伝子)が、片方の親の型だけになることです。米国臨床遺伝・ゲノム学会(ACMG)の2020年の声明では、臨床的に重要なインプリンティングをもつ染色体として6・7・11・14・15・20番を挙げ、これらの染色体のトリソミー・モノソミーのモザイクが羊水や絨毛で見つかった場合、また絨毛でモザイクが見つかり羊水の核型が正常だった場合にも、UPDの検査を勧めています[10]。15番の母性UPDによるプラダー・ウィリー症候群や、7番の母性UPDによるシルバー・ラッセル症候群などがその例です。
もう1つは、同じ親の同じ染色体のコピーが2本になる「イソダイソミー(isodisomy)」の区間で、その親がもっていた劣性(潜性)の病的バリアントが2本そろってしまうことです。UPDならどの場合でも劣性遺伝病のリスクが上がるわけではなく、同じコピーが重なった区間にその親の病的バリアントがあった場合に限られます。UPDの仕組みは片親性ダイソミーで、インプリンティングはゲノムインプリンティング関連疾患で解説しています。
🩺 院長コラム【「偽陽性」という言葉の落とし穴】
NIPTの偽陽性は「検査で陽性とされた対象の異常が赤ちゃんでは確認されなかった」という意味で、「何も起きていなかった」という意味ではありません。胎盤限局性モザイクが原因なら、胎盤にはトリソミーの細胞があり、受精卵の段階ではトリソミーだった可能性もあります。そこから胎盤の働きやUPDの可能性を考えていくのが、遺伝医学の視点です。
偽陽性の原因を「たまたま」で片づけず、どの経路で起きたのかを確かめることが、その後の妊娠の経過観察の方針を決めるうえで重要です。
5. 全ゲノム解析で偽陽性の原因を見分ける理由と、その限界
全染色体を解析するNIPTは、検出可能なまれなトリソミーや大きなCNVの位置を推定でき、それらが原因の判定のずれを見分ける手がかりになります。ただし、全染色体解析だけで偽陽性率が一律に下がるとはいえません。ゲノム全体に由来するDNA断片の分布を解析することで、異常な結果の背景にある生物学的な原因を理解できるようになるからです[1]。
全染色体を見ることで見分けられること
13・18・21番だけを報告する解析でも、内部ではほかの染色体の断片も数えています。全染色体の分布を確認すれば、「21番が少なく見えるのは、基準に使った16番に余分な断片があるためだ」と原因を突き止めることができます。2017年の研究で、オーストラリアの検体では基準染色体などのトリソミーを検出したときに誤った判定を出さず検査を中止する設計がとられていたのは、この考え方に基づいています[2]。
全染色体の分布は、複数の染色体に同時に増減が見られるパターンの識別にも役立ちます。こうしたパターンは、まれに母体の悪性腫瘍の手がかりになることがあり、2024年の総説では1万件の検査に1件程度と推定されています[5]。これは母体側の要因として母体側の要因のページで扱います。
全染色体を見ることで生まれる課題
全染色体を解析すれば、まれなトリソミーそのものを結果として受け取る人も増えます。2019年のTRIDENT-2では胎児モザイクまたはUPDの確認率は6%と低く、多くは胎盤限局性モザイクと考えられました[3]。赤ちゃんの染色体は正常でも、胎盤の働きや妊娠経過との関係を考えながら追加の検査を受けることになり、その意味づけは染色体ごとに異なります。
こうした事情から、米国臨床遺伝・ゲノム学会(ACMG)の2023年のガイドラインは、一般の妊婦さんを対象にまれなトリソミーをNIPTでスクリーニングすることについて「推奨するにも推奨しないにも証拠が不十分」としています[11]。全染色体の解析は、判定のずれの原因を見分ける手がかりであると同時に、新しい所見を生む検査でもあります。どちらの面を重く見るかは、検査を受ける前に理解しておく必要があります。全染色体検査を選ぶかどうかの実際的な考え方はNIPT全染色体検査の真実:偽陽性問題と実用的検査選択で、学会の推奨は全ゲノムNIPTを受ける前と結果が出たあと:学会の推奨と対応で扱います。
6. まれなトリソミーが疑われる結果を受け取ったら
NIPTの結果がまれなトリソミーや基準染色体の影響を疑わせるものだった場合、確定検査は羊水検査を基本に考え、超音波検査で赤ちゃんの発育と胎盤を見ていきます。NIPTの結果だけで妊娠についての判断をしないことは、13・18・21トリソミーの場合と同じです[1]。
確定検査は羊水検査を基本に
偽陽性の原因が胎盤限局性モザイクである可能性が高いとき、胎盤の組織を採る絨毛検査では、NIPTと同じ胎盤の異常をもう一度見てしまうおそれがあります。赤ちゃん自身の染色体を確かめるには、赤ちゃん由来の細胞が多く含まれる羊水を調べる羊水検査が適しています。確定検査の選び方はNIPTで陽性の結果がでたときの確定診断で解説しています。
見つかった染色体が6・7・11・14・15・20番のように臨床的に重要なインプリンティングをもつ場合は、羊水の核型が正常でも、UPDの検査を追加するかどうかを検討します[10]。羊水の核型が正常でも、胎盤のトリソミーが残っていれば、その後の超音波で赤ちゃんの発育や胎盤の状態を確認していくことになります[3]。
13・18・21番の結果に違和感があるとき
13・18・21番だけを報告するNIPTで、常染色体のモノソミーが報告された場合や、判定保留・検査不成立になった場合は、基準染色体側の変化が背景にある可能性があります[2][7]。「モノソミー」や「判定保留」という結果も、陽性と同じように原因を確かめる対象です。同じ検体を別の方法で解析したり、確定検査に進んだりするかどうかは、結果の内容と妊娠週数を踏まえて決めます。モノソミーという結果の意味は常染色体モノソミーや複数の染色体の異数性で解説しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. まれな常染色体トリソミー(RAT)とは何ですか?
13番・18番・21番と性染色体(X・Y)以外の常染色体に起こるトリソミーです。体のすべての細胞にある完全型ではほとんどが流産になり、妊娠が続いている場合に見つかるのは、多くが胎盤の一部だけにあるモザイクです。全染色体を解析するNIPTでは、2019年の全国研究で0.18%に見つかっています。
Q2. 21番以外のトリソミーが、なぜ21トリソミーの判定に影響するのですか?
多くのNIPTは、21番などの標的染色体のDNA量を、ほかの基準染色体のDNA量と比べて判定しているためです。基準染色体にトリソミーがあると標的染色体が少なく見えて偽のモノソミー判定に、モノソミーがあると多く見えて偽のトリソミー判定につながることがあります。
Q3. NIPTでまれなトリソミーが見つかったら、赤ちゃんもトリソミーですか?
多くの場合、赤ちゃんの染色体は正常です。2019年の全国研究では、まれなトリソミー陽性で追跡できた97例中6例(6%)に胎児モザイクまたはUPDが確認され、残りの多くは胎盤限局性モザイクと考えられました。ただし、胎盤のトリソミーが胎児発育不全に関係したり、片親性ダイソミーが残ったりすることがあるため、羊水検査や超音波検査で確かめることが勧められます。
Q4. 偽陽性だった場合、妊娠に影響はありませんか?
多くの妊娠は問題なく経過しますが、まれなトリソミーが原因の偽陽性では、胎盤のトリソミーが胎盤の働きや赤ちゃんの発育に影響することがあります。2018年の研究では、胎盤由来の染色体異常22人のうち13人で先天異常や発育の遅れが見られました。偽陽性と分かった後も、超音波で経過を見ていくことが大切です。
Q5. 全染色体を調べるNIPTなら偽陽性は減りますか?
検出可能なまれなトリソミーや大きなCNVの位置を推定できるため、それらが原因で13・18・21番に生じる判定のずれを見分ける手がかりになります。ただし、偽陽性率が一律に下がるとはいえません。一方で、まれなトリソミーそのものが結果として報告されるようになり、その陽性的中率は低いという課題があります。ACMGの2023年のガイドラインは、まれなトリソミーのスクリーニングについて推奨の可否を示すには証拠が不十分としています。
まとめ
まれな常染色体トリソミーは、13・18・21番と性染色体以外の常染色体のトリソミーで、完全型ではほとんどが流産になります。全染色体を解析するNIPTでは0.2〜0.4%前後に見つかりますが、2019年のTRIDENT-2では胎児モザイクまたはUPDの確認率は6%と低く、多くは胎盤限局性モザイクと考えられました[3]。
まれなトリソミーと構造異常がNIPTの偽陽性を起こす経路は、①胎盤だけにあるトリソミー、②基準染色体の異常による13・18・21番の判定のずれ、③大きなCNVや構造異常の3つです。2017年の研究では、基準染色体のまれなトリソミーが13・18・21番の誤ったモノソミー判定を生んでいました[2]。全ゲノム解析はこうした原因を見分ける手がかりとなる一方、新たな所見の解釈という課題も生みます[1][11]。
偽陽性の原因がまれなトリソミーだった場合も、胎盤の働き、真の胎児モザイク、片親性ダイソミーの可能性は残ります。確定検査は羊水検査を基本とし、超音波で妊娠の経過を見ていくことが大切です。第5章のほかのページはなぜNIPTは非確定的検査なのかの目次から、まれなトリソミーのくわしい解説は第7章 全ゲノムNIPTからご覧ください。
🧬 NIPTをお考えの方へ
ミネルバクリニックでは、常駐する臨床遺伝専門医が、偽陽性が起こる仕組みや、全染色体を調べる検査で見つかりうる所見の意味を含めて検査前の遺伝カウンセリングを行い、NIPTを実施しています。陽性や判定保留になった場合の確定検査の流れについても、事前にご説明しています。
📚 NIPTの教科書 第5章のページ
参考文献
- [1] Harasim T, Wagner A. Why Cell-Free DNA-Based Noninvasive Prenatal Testing for Fetal Chromosome Anomalies Is Not Diagnostic. In: Page-Christiaens L, Klein HG, eds. Noninvasive Prenatal Testing (NIPT): Applied Genomics in Prenatal Screening and Diagnosis. Academic Press (Elsevier); 2018:67-82. [DOI 10.1016/B978-0-12-814189-2.00005-0]
- [2] Pertile MD, Halks-Miller M, Flowers N, et al. Rare autosomal trisomies, revealed by maternal plasma DNA sequencing, suggest increased risk of feto-placental disease. Sci Transl Med. 2017;9(405):eaan1240. [DOI 10.1126/scitranslmed.aan1240]
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