この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

ムコ多糖症は、細胞の中でムコ多糖を分解する酵素が生まれつき働かないために、ムコ多糖が体中にたまっていく遺伝性の病気です。ハーラー症候群(Ⅰ型)、ハンター症候群(Ⅱ型)、サンフィリッポ症候群(Ⅲ型)、モルキオ病(Ⅳ型)など、原因の酵素と遺伝子の違いでいくつもの型に分かれます。型がわかると、使える治療(酵素補充療法・造血細胞移植など)と、気をつけたい合併症が決まります。このページでは、顔つきなどの症状・いつわかるか・遺伝する確率と、12遺伝子をまとめて調べるムコ多糖症の遺伝子検査でわかること、結果のあとにできることを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. ムコ多糖症の遺伝子検査で何がわかりますか?
ムコ多糖症Ⅰ〜Ⅶ型と、よく似たムコリピドーシスの原因になる12遺伝子をまとめて調べ、どの型か(どの酵素が働いていないか)と遺伝のしかたを確かめます。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
特徴的な顔つき・関節のかたさ・お腹のふくらみ・骨の変形などからムコ多糖症が疑われる方、新生児スクリーニングで再検査と言われた方、ご家族にムコ多糖症の方がいる方です。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の内側の粘膜などで、唾液・粘膜ならオンライン診療でも受けられます。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。原因がわかれば、症状のないきょうだいの検査、Ⅱ型ならお母さん・姉妹の保因者の確認、次の妊娠での出生前診断まで計画できます。意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。
1. ムコ多糖症とは:型・顔つきなどの症状・いつわかるか
ムコ多糖症とは
ムコ多糖症(MPS)は、細胞の中でムコ多糖(グリコサミノグリカン)を分解する酵素が生まれつき足りないために、全身の細胞にムコ多糖がたまっていく先天代謝異常症です。分解の場である細胞の中の小さな袋をライソゾーム(リソソーム)と呼ぶことから、ライソゾーム病のひとつに数えられます。
国立成育医療研究センターは、よく見られる症状として、発達の遅れ、低身長、骨の変形、特徴的な顔つき、固い関節、お腹のふくらみ(肝臓・脾臓が大きくなる肝脾腫)、おへそ・足のつけ根のヘルニア、心臓の弁の病気(心雑音)、中耳炎、難聴などを挙げています。どの症状が目立つかは型によって違います。
型ごとの違い:ハーラー・ハンター・サンフィリッポ・モルキオ
ムコ多糖症は、働かない酵素(原因の遺伝子)によって型が分かれ、型ごとに症状・知能への影響・使える治療が違います。型を確かめることが、見通しと治療を考える出発点になります。
🧬 ムコ多糖症の主な型と特徴
※小児慢性特定疾病情報センターの各型の概要(2015年5月更新・2026年10月に確認)と、米国国立医学図書館の遺伝性疾患解説(MedlinePlus Genetics)による。病型の名前は、今は「重い型・軽い型(重症型・軽症型)」と呼ぶことも増えています。
型ごとの病気の詳しい説明はムコ多糖症 総論とムコ多糖症Ⅵ型(マロトー・ラミー症候群)のページで解説しています。このページでは、遺伝子検査を受けるかどうかを決めるために必要なことを中心にお伝えします。
顔つきなどの症状と、ムコ多糖症がいつわかるか
ムコ多糖症の症状は、赤ちゃんの頃は目立たず、3〜5歳ごろになるとはっきりしてくることが多いとされています。国立成育医療研究センターの解説によるものです。ただし、いつわかるかは型によって大きく違います。
- ●Ⅰ型の重い型では、1歳までに症状が出はじめることが多いとされています。
- ●Ⅳ型(モルキオ病)は、2〜3歳までに骨の変化が目立ってきます。
- ●Ⅲ型(サンフィリッポ症候群)は体の特徴が比較的目立たず、はじめは原因のわからない発達の遅れ、ADHD(注意欠如・多動症)、自閉スペクトラム症と診断されることが多いと報告されています[2]。
- ●軽い型では、軽い低身長や心雑音だけで、大人になるまで診断されないこともあるとされています。
「顔つき」は、ご家族が最初に気づくきっかけになることがあります。ただし、顔つきだけでムコ多糖症と決めることはできません。尿のムコ多糖や酵素の検査、遺伝子検査を組み合わせて確かめます。
日本ではⅡ型(ハンター症候群)が多い
日本では、ムコ多糖症の半数以上がⅡ型(ハンター症候群)です。各国の報告をまとめた2021年の論文によると、日本で1982〜2009年に生まれた赤ちゃんでのムコ多糖症の頻度は、出生10万人あたり1.53人でした。型の内訳はⅡ型が半数以上(55%)、Ⅰ型15%、Ⅲ型16%、Ⅳ型10%、Ⅵ型1.7%、Ⅶ型1.3%と報告されています[1]。
Ⅱ型はX連鎖の遺伝のしかたをとるため、患者さんのほとんどが男の子です。ご家族の中でⅡ型がわかったときに、お母さんや姉妹が保因者かどうかが大切な問題になるのはこのためです(第4章・第6章)。
ムコ多糖症と似ている病気:ムコリピドーシス・GM1ガングリオシドーシス
この検査では、ムコ多糖症とよく似た症状を示す病気の遺伝子も一緒に調べます。ムコリピドーシスⅡ型(I細胞病)は生後1年以内に発症し、小児期の早い時期に亡くなることが多い重い病気です。同じGNPTAB遺伝子の変化で、より軽いムコリピドーシスⅢ型(αβ)も起こります。GNPTG遺伝子によるムコリピドーシスⅢ型γは3歳ごろに症状が出ることが多く、大人まで生きる方が多いとされています。
また、Ⅳ型Bの原因であるGLB1遺伝子の変化は、GM1ガングリオシドーシスという別のライソゾーム病の原因にもなります。症状が似ている病気をまとめて調べられるのは、この検査の利点です。
2. どんな人がこの検査を受けるとよいか
ムコ多糖症が疑われて型を確かめたい方、新生児スクリーニングで再検査と言われた方、ご家族にムコ多糖症の方がいる方に向く検査です。原因がわからないまま病院をいくつも回る時間を、1回の検査で短くできる可能性があります。
症状から疑われ、型を確かめたい方
特徴的な顔つき、低身長、骨の変形、関節のかたさ、お腹のふくらみ、ヘルニア、心雑音、くり返す中耳炎・難聴などが重なってムコ多糖症が疑われる方です。尿のムコ多糖の検査で疑いがあり、酵素の検査のあとに型を確かめたい方も含みます。
とくにⅢ型は、はじめは発達の遅れやADHD・自閉スペクトラム症と診断されることがあると報告されています[2]。発達の遅れに加えて、行動の変化や、いったんできていたことができなくなる様子があるときは、主治医と相談のうえで検査を考える意味があります。
新生児スクリーニングで「再検査」「要精密検査」と言われた方へ
新生児スクリーニングは病気の可能性のある赤ちゃんを見つけるための検査で、陽性でもムコ多糖症とは限りません。酵素の働きだけを測る方法では、病気ではないのに酵素の値が低く出る「偽欠損」などのために、陽性でも病気でない赤ちゃんが多く含まれることが報告されています。そのため、2段目の検査(血液のムコ多糖や遺伝子検査)で確かめる方法がとられています[6]。
東京都は、もともとの対象の病気に加えて、2025年3月からポンペ病、ムコ多糖症Ⅰ型・Ⅱ型を新生児マススクリーニングの検査対象に加え、検査費用は無料(採血料は保護者の負担)としています(東京都の説明書2025年3月版。2026年10月に確認)。お住まいの地域の対象の病気は、自治体や出産した医療機関でご確認ください。新生児スクリーニングのしくみはこちらで解説しています。
再検査と言われたら、まずは精密検査を行う医療機関の説明を受けてください。酵素の検査などで確かめたあと、型の確定やご家族の検査のために遺伝子検査を使うことがあります。当院では、その段階からご相談いただけます。
ご家族にムコ多糖症の方がいる方
きょうだいやいとこ、お母さんの兄弟(おじ)などにムコ多糖症の方がいる場合、ご自身が保因者かどうか、これから生まれるお子さんへの影響はどうか、を考えるきっかけになります。ご家族がすでに遺伝子検査を受けていて原因がわかっていれば、その結果がいちばんの手がかりになります(報告書をお持ちください)。わかっていなければ、ご自身の検査を考えます。保因者かどうかを調べる場合は、拡大版保因者スクリーニングが向くこともあります(第6章)。
この検査より別の検査が向いている場合
ムコ多糖症がほぼ疑われていれば、まずこの検査です。一方で、症状からムコ多糖症かどうかしぼれないときは、次の検査のほうが向いていることがあります。
🔍 目的に合わせた検査の選び方
※ライソゾーム病パネルの中にはムコ多糖症の遺伝子も含まれます。病名がほぼ決まっていれば対象をしぼったこの検査、決まっていなければ広い検査、という考え方です。どれが合うかは、遺伝カウンセリングで症状やご家族の情報を伺って一緒に決めます。
3. 調べる12遺伝子と、それぞれでわかる病気
ムコ多糖症の原因の遺伝子は型ごとに違います。この検査では、ムコ多糖症Ⅰ〜Ⅶ型とムコリピドーシスの原因になる12遺伝子をまとめて調べます。1つずつ順番に調べるより、1回で型の候補を確かめられます。
🧬 ムコ多糖症の遺伝子検査で調べる12遺伝子
※遺伝子と病気・遺伝のしかたは、米国国立医学図書館の遺伝性疾患解説(MedlinePlus Genetics)と小児慢性特定疾病情報センターの概要で確かめたもの(2026年10月)。ムコ多糖症Ⅸ型の原因のHYAL1遺伝子は、この検査には含まれていません。
4. ムコ多糖症の遺伝のしかた:遺伝する確率と「親のせい?」
ムコ多糖症は、Ⅱ型だけがX連鎖潜性(劣性)遺伝で、それ以外の型とムコリピドーシスは常染色体潜性(劣性)遺伝です。遺伝のしかたによって、ご家族の中で誰が影響を受けうるかが変わります。くわしくは遺伝形式のページもご覧ください。
最初にお伝えしたいのは、遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもないということです。保因者にはふつう症状がないため、調べなければ、自分が保因者かどうかはわかりません。
Ⅰ・Ⅲ・Ⅳ・Ⅵ・Ⅶ型とムコリピドーシス:常染色体潜性(劣性)遺伝
常染色体潜性遺伝では、対になった2つの遺伝子の両方に変化があると発症します。1つだけ変化をもつ人は「保因者」で、ふつう症状はありません。ご両親がともに同じ遺伝子の保因者の場合、お子さん1人あたりの確率は次のとおりです。
- ●発症する:4分の1(25%)
- ●保因者になる:2分の1(50%)
- ●変化を受け継がない:4分の1(25%)
この確率は妊娠のたびに同じで、上のお子さんが発症したかどうかで変わりません。しくみは劣性遺伝(潜性遺伝)と保因者のしくみで詳しく解説しています。
Ⅱ型(ハンター症候群)はX連鎖:お母さん・姉妹も関係します
Ⅱ型の原因のIDS遺伝子はX染色体にあります。男性はX染色体が1本なので、変化が1つあると発症します。そのため患者さんはほとんどが男の子で、女の子での発症はごく少数の報告にとどまります。
- ●お母さんが保因者の場合:息子が発症する確率は2分の1、娘が保因者になる確率は2分の1です。
- ●お父さんがⅡ型の場合:父から息子へはX染色体が伝わらないため、お父さんの原因の変化が息子に受け継がれることはありません。娘には父のX染色体が必ず伝わるため、娘は全員が保因者になります。
お子さんでⅡ型がわかっても、お母さんが保因者とは限りません。お子さんの代で新しく変化が起きた場合もあります。お母さんが保因者かどうかで、次のお子さんや、お母さんの姉妹・その子どもたちへの影響が変わるため、確かめることに意味があります。
保因者の女性は、ふつう症状がありません。ただし、スペインで保因者の女性10人を調べた研究では、3人(38歳・42歳・52歳)に尿のムコ多糖の増加と、Ⅱ型でみられる症状が確認されました。著者らは、年齢とともに軽い症状が出てくる可能性を示したうえで、対照群のない小規模な研究であり、より大きな研究が必要としています[5]。
保因者は誰にでもいる:結婚・いとこ婚と潜性遺伝
保因者には症状がないため、多くの場合、調べるまで自分が保因者かどうかはわかりません。ご自身やご家族がムコ多糖症の保因者とわかっても、それだけで結婚や出産をあきらめる理由にはなりません。常染色体潜性(劣性)遺伝の型では、ご夫婦が同じ遺伝子の保因者だった場合、お子さんが発症する可能性があります。Ⅱ型はX連鎖遺伝のため、お母さんが保因者であれば、お父さんに病気の原因となる変化がなくても、息子が発症する可能性があります。
いとこ同士など血のつながりのあるご夫婦では、同じご先祖から同じ遺伝子の変化を受け継いでいる可能性があるため、同じ遺伝子の保因者どうしになる確率が、血縁のないご夫婦より高くなります。だからこそ、気になることがあれば結婚や妊娠の前に、パートナーも含めて保因者かどうかを調べておくと、選べることが増えます。病気やご家族の病気を理由に結婚を反対されて悩んでいる方も、まずは何がわかるのかを知るところから始めてみてください。
5. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、12遺伝子の中の小さな変化(1文字の置き換わりや、小さな挿入・欠失)と、遺伝子のまとまった欠失・重複です。一方で、遺伝子検査には必ず限界があります。
- ●読む場所:遺伝子のうちタンパク質の設計図になる部分(エクソン)と、その境目の近く(エクソンに接する10塩基程度)を読みます。遺伝子の働きを調節する領域や、境目から離れたところ(深いイントロン)の変化は調べていません。
- ●欠失・重複:遺伝子全体や、2つ以上続くエクソンの欠失・重複を見つけられます(2つ以上続くエクソンは血液の検体の場合)。エクソン1つだけの欠失・重複は、見つかることもありますが、ふだんは検出の対象外です。見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します。
- ●見つからない変化:染色体の転座や逆位、くり返し配列の伸び、体の一部の細胞だけにある変化(モザイク)は、この検査の対象外です。
- ●調べていない遺伝子:ムコ多糖症Ⅸ型(HYAL1遺伝子)や、ほかのライソゾーム病の遺伝子は含まれていません。
- ●意義がまだわからない変化(VUS):病気の原因かどうか、まだ判断できない変化が見つかることがあります。
- ●陰性でも否定はできません:原因が見つからなくても、この検査で検出できない変化が残っている可能性があります。尿のムコ多糖や酵素の検査の結果とあわせて判断します。
調べた目的とは別の病気の原因が見つかること(二次的所見)の扱いは、当院の二次的所見の開示方針に沿ってご説明します。
専門的な補足:読み取りの深さ(カバレッジ)
対象の遺伝子の領域の99%以上を、同じ場所について20回以上読み取ります(≥99% at 20x)。同じ場所を何度も読むほど、読み間違いと本当の変化を区別しやすくなります。
6. 病的変異が見つかったら、次にできること
遺伝形式に合った原因の遺伝子の変化(病的変異)が確認され、症状や酵素の検査の結果とあわせてムコ多糖症の型が確定すると、ご本人の治療と合併症への備え、ご家族の検査、次の妊娠の計画まで、具体的に考えられるようになります。結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してからマイページにアップし、次に何をするかを一緒に考えます(遺伝カウンセリング料は第9章のとおり)。
ご本人:型によって使える治療が決まる
難病情報センターは、酵素補充療法がムコ多糖症Ⅰ型・Ⅱ型・ⅣA型・Ⅵ型で行われていること、いくつかの病気で造血細胞移植が行われていることを示しています(2026年10月に確認)。酵素補充療法は、足りない酵素を点滴で毎週補う治療です。
- ●Ⅰ型:欧州の専門家の合意では、重い型(ハーラー症候群)と考えられ2.5歳より前に診断された場合は、造血幹細胞移植が望ましい治療とされています。移植は早く行うほど成功しやすく、酵素補充療法も診断した時点で始めることが勧められています[3]。
- ●Ⅱ型:日本では2021年3月に、血液脳関門(血液から脳へ物質が入るのを制限するしくみ)を通るように工夫した酵素製剤(パビナフスプ アルファ)がムコ多糖症Ⅱ型に承認されました(製造販売元の発表、2021年3月23日)。
- ●ⅣA型:日本では2014年に酵素補充療法が承認されています。
- ●Ⅲ型:造血幹細胞移植が考えられることはあるものの、効果は明らかではないとされています。
小児慢性特定疾病情報センターのⅡ型の解説では、早く見つかって早く治療を始めた方は比較的予後がよいとされる一方、治療を行っても病気の進行を完全に止めることはできないとされています。治療は、ムコ多糖症を専門とする医療機関で、主治医と相談して決めます。当院は治療そのものは行っていませんが、型を確定することで、治療の相談へ進むための材料をそろえられます。
ご本人:麻酔・首の骨(環軸椎)・呼吸・心臓の弁で気をつけること
ムコ多糖症では、手術や検査で麻酔をかけるときに注意が必要なことがあります。ⅣA型(モルキオ病A型)の国際的な管理の推奨では、首の上のほうの骨(第1・第2頸椎)の不安定さと脊髄の圧迫がとても多いこと、マスクでの換気や気管への管の挿入が難しくなりうるため麻酔は高リスクとされることが示され、麻酔の前に首を曲げ伸ばしした状態の画像で不安定さを確かめることが勧められています[4]。
型が確定していれば、ほかの診療科や歯科で処置を受けるときにも、主治医の指示のもとで前もって注意点を伝えられます。心臓の弁の病気、中耳炎・難聴、呼吸の状態など、型ごとに見ていくべき合併症も、主治医と相談して定期的に確かめていきます。
症状のないきょうだいを早く見つける
ムコ多糖症は症状が少しずつ進む病気で、Ⅰ型では治療を早く始めるほど効果が期待できるとされています[3]。ご本人の原因の変化がわかっていれば、まだ症状のないきょうだいが同じ変化をもっているかを、その場所だけを調べることで確かめられます。あなたの1回の検査が、ごきょうだいの早い治療につながる手がかりになります。
Ⅱ型ならお母さん・姉妹、潜性の型ならご両親とパートナーの保因者の確認
Ⅱ型の場合は、お母さん、お母さんの姉妹、患者さんの姉妹が保因者かどうかを確かめることで、それぞれの将来のお子さんへの影響がわかります。潜性の型の場合は、ご両親それぞれが保因者かを確かめると、次のお子さんの確率がはっきりします。症状のないご家族の検査は、ご本人の同意のうえで行います。
結婚・妊娠を考えている方で、ご家族の原因がわかっていない場合は、拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子)で、この検査の12遺伝子すべてを含めて調べられます。男性版714遺伝子には、IDSを除く11遺伝子が含まれています(IDSはX連鎖のため、保因者の確認は女性が対象です)。妊娠中の方には、NIPTと同じ日に採血できるカップルの保因者検査「ファミリーセーフティ プラス」(女性787遺伝子・男性714遺伝子。単独では受けられません)もあります。
次のお子さんへの備え
原因がわかれば、次のお子さんで同じことが起こる可能性がどれくらいあるか、そして次の妊娠でどう備えられるかを、具体的に考えられるようになります。原因がわからないままでは、出生前に調べる的を決められません。
ご家族で原因の遺伝子の変化がわかっていれば、妊娠したときに赤ちゃんで同じ変化があるかを調べられます。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。当院では羊水検査・絨毛検査を院内で行っています(2025年6月から産婦人科を併設)。その病気で出生前診断を行うかどうかは、病気の重さや国内の指針を踏まえて個別に考えますので、妊娠を考えている段階からご相談ください。出生前診断を受けずに出産することも、そのまま選べる選択肢です。
海外でPGT-M(着床前遺伝学的検査)を考えている方へ:英語の検査結果をお渡しできます
PGT-Mは、体外受精でできた受精卵(胚)の一部の細胞を調べ、ご家族でわかっている遺伝子の変化を受け継いでいない胚を選んで子宮に戻す検査です。海外でPGT-Mを受けたいというお問い合わせは少なくありません。当院は体外受精・PGT-Mを行っていません。当院でできるのは、原因の遺伝子の確定、英語の検査結果のご用意、遺伝カウンセリング、ご家族の遺伝子検査、妊娠後の絨毛検査・羊水検査です。英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。
欧州ヒト生殖医学会(ESHRE)の推奨では、PGT-Mの準備には、①病気の原因と確かめられた遺伝子の変化、②どの遺伝子のどの変化かが書かれた元の報告書、③ご家族の検体、が必要とされています[7]。受精卵から取れるDNAはごくわずかで、変化を直接読むだけでは2本のうち片方が読み取れない「アレルドロップアウト」などで判定を誤るおそれがあります。そのため、変化のある場所の両側にある目印(多型マーカー)で「変化をもつ染色体」を家系の中でたどる方法(ハプロタイプ解析)を組み合わせます。
ご本人の検査結果だけでは、PGT-Mの準備はふつう整いません。どちらの染色体に変化が乗っているかを決めるため、ご夫婦に加えて、病気の有無がわかっている血縁者のDNAが必要になります。推奨の目安は、潜性遺伝の型(Ⅰ・Ⅲ・Ⅳ・Ⅵ・Ⅶ型など)では患者さん(2つの変化をもつ方)・保因者・保因者でない方、X連鎖のⅡ型では患者さん、および/または発症していない方(保因者と確かめられた方が望ましい)です[7]。血縁者がいない場合、推奨はご夫婦で目印を調べたうえで治療周期の受精卵などで変化の乗った染色体を決める方法も挙げていますが、できるかどうかは施設や家系の状況で大きく変わり、受けられないこともあります[7]。ご本人に新しく起きた変化(de novo)で、これまでに妊娠歴のないご夫婦では、一般的なハプロタイプ解析の方法は使えないとされています[7]。
海外でPGT-Mを考えている方は、ご本人の検査の段階から、検査に協力していただけるご家族(とくに同じ変化をもつ方)がいるかを考えておくことが大切です。当院では、ご家族の遺伝子検査も、遺伝カウンセリングのうえでお受けしています。臨床遺伝専門医としての判断では、意義がまだわからない変化(VUS)は病気の原因と確かめられていないため、そのままPGT-Mの対象にするのは難しいと考えます。潜性遺伝の型では、ご夫婦それぞれがどの変化をもっているかを確かめておく必要があります。海外の施設によって求められる書類や検体は違うので、受ける予定の施設にも前もってご確認ください。
⚠️ PGT-Mは診断ではなく、スクリーニング検査です
PGT-Mは受精卵のごく一部の細胞を調べる検査で、結果が赤ちゃんの状態と食い違うことがあります。ESHREの推奨は、多くの施設で誤った結果になる割合は全体で1〜3%まで下げられているとしたうえで、PGTのあとに妊娠したすべての方に出生前診断を提案すべきとしています[8]。当院では、PGT-Mで選んだ胚で妊娠した場合も、妊娠中に赤ちゃんそのものを調べる確定検査(絨毛検査・羊水検査)で確かめることが望ましいと考えています。海外でPGT-Mを受けたあとの妊娠でも、院内でご相談いただけます。
日本では、日本産科婦人科学会の「重篤な遺伝性疾患を対象とした着床前遺伝学的検査(PGT-M)に関する指針」(2026年9月改定)にもとづき、PGT-Mは症例ごとに学会の審査を受け、そのうえで実施施設の倫理委員会が承認して行われます。指針の「重篤」は、原則として、成人に達する前に日常生活が著しく損なわれる、または生存が危ぶまれる状態になる疾患で、申請の時点で有効な治療法がないか、治療法があっても高度かつ侵襲度の高いもの、とされています。成人に達する前に生存が危ぶまれるわけではないが日常生活が著しく損なわれる状態が現れる疾患では、その病気の専門医の意見書などを追加で出す仕組みになっています。審査が続いている申請も多く、学会の発表では、2025年7月〜2026年6月の1年間に審査した73件のうち37件が審査継続中でした(2026年9月発表)。
英国では公的機関(HFEA)がPGT-Mを使える病気の一覧を公表しており、2,000を超える病気が載っています(2026年9月17日更新の一覧で2,067)。一覧にない病気は、施設を通じて申請し、HFEAが審査します。米国では、PGTを直接規制する連邦や州の法律はなく、主に医師・施設の判断で行われています[9]。米国生殖医学会(ASRM)の倫理委員会は2024年、大人になってから発症する病気に対するPGT-Mも倫理的に許容されうるとする意見を出しています[10]。どの病気がPGT-Mの対象になるかは、国や制度、施設によって違います。同じ病気でも、ある国では対象になり、別の国では個別の審査が必要になることがあります。受ける国の制度と、施設の条件を前もって確かめてください。準備に必要なことは遺伝性疾患をお持ちで海外でPGT-M(着床前診断)を考えている方へで詳しく解説しています。
7. 陰性だったとき・VUSが見つかったとき
原因の変化が見つからなくても、ムコ多糖症ではないとは言い切れません。この検査で見つけられない変化や、調べていない遺伝子による病気の可能性が残るためです。尿のムコ多糖や酵素の検査の結果、症状とあわせて、ライソゾーム病NGS遺伝子パネル検査や全エクソーム検査(WES)など、次の検査を考えます。
潜性遺伝の型で、変化が1つだけ見つかった場合は、保因者である可能性と、もう1つの変化がこの検査で見つけられていない可能性の両方を考えます。酵素の検査の結果とあわせて判断します。
意義がまだわからない変化(VUS)は、それだけで診断したり、ご家族の発症の可能性や保因者かどうかを判断したりする根拠にはしません。ただし、その変化の意味を明らかにするため、ご家族の検査を検討することはあります。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。生まれ持った遺伝子は一生変わらないので、新しい知見が出たときに、同じ結果を見直すことに意味があります。
8. 日本の制度(2026年10月時点)
ムコ多糖症は、指定難病19「ライソゾーム病」に含まれています。難病情報センターのライソゾーム病のページ(情報更新日:令和6年11月)では、対象の病気として、ムコ多糖症Ⅰ型・Ⅱ型・Ⅲ型・Ⅳ型・Ⅵ型・Ⅶ型・Ⅸ型、ムコリピドーシスⅡ型・Ⅲ型、GM1ガングリオシドーシスが挙げられています。
小児慢性特定疾病でも、ムコ多糖症Ⅰ型(告示番号129)、Ⅱ型(130)、Ⅲ型(131)、Ⅳ型(132)、Ⅵ型(133)、Ⅶ型(134)、ムコリピドーシスⅡ型(135)が対象疾病として小児慢性特定疾病情報センターに掲載されています(2026年10月に確認)。医療費の助成を受けるには、それぞれの制度の認定の条件を満たし、申請する必要があります。認定の基準や申請の方法は、難病情報センター・小児慢性特定疾病情報センターや、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。
当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
9. 費用・結果までの日数・検体と検査の流れ
ムコ多糖症の遺伝子検査は税込330,000円で、結果までは2〜3週間です。唾液・頬の内側の粘膜の検体ならオンライン診療でも受けられ、血液の検体は全国の提携医療機関で採血していただけます。
ご予約
▶
遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
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検体の採取血液・唾液・頬粘膜
▶
結果のご説明2〜3週間後・マイページへ
💴 費用・日数・検体
※ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。検体を採取するキットは、検査料金をお支払いいただいた後にお送りします。検体の取り違えや品質の低下を防ぐため、ご自身の判断で検体を採取しないでください。
この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。結果の報告書の読み方はNIPT/遺伝子検査結果の見かたで解説しています。
遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。
10. 院長コラム
🩺 院長コラム【名前がつくと、次の一手が決まる】
ムコ多糖症は、赤ちゃんの頃には目立たず、少しずつ症状がそろってくることの多い病気です。型によって使える治療も、気をつけたい合併症も違います。だから私は、「ムコ多糖症らしい」で止まらず、どの型なのか、原因の遺伝子は何なのかまで確かめることに意味があると考えています。
遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。
原因がわかれば、ごきょうだいを早く調べることも、次の妊娠でどう備えるかを考えることもできます。わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。当院では、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断まで、続けて支えられる体制を整えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. ムコ多糖症は何歳でわかりますか?
国立成育医療研究センターは、症状は赤ちゃんの頃は目立たず、3〜5歳ごろになるとはっきりしてくるとしています。ただし型によって違い、Ⅰ型の重い型は1歳までに症状が出はじめることが多い一方、軽い型では大人になるまで診断されないこともあります。東京都のように、新生児マススクリーニングでⅠ型・Ⅱ型を調べている自治体もあります。
Q2. 顔つきだけでムコ多糖症とわかりますか?
特徴的な顔つきは手がかりのひとつですが、顔つきだけでは診断できません。尿のムコ多糖や酵素の検査、遺伝子検査を組み合わせて確かめます。Ⅲ型(サンフィリッポ症候群)のように、体の特徴が比較的目立ちにくい型もあります。
Q3. ムコ多糖症は親のせいですか?遺伝する確率は?
遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。Ⅱ型以外の型は常染色体潜性(劣性)遺伝で、ご両親がともに同じ遺伝子の保因者の場合、お子さん1人あたり4分の1の確率で発症します。保因者のご両親には、ふつう症状はありません。
Q4. ハンター症候群(ムコ多糖症Ⅱ型)は父親から遺伝しますか?
Ⅱ型はX連鎖潜性(劣性)遺伝です。父親から息子へはX染色体が伝わらないため、父親から息子に受け継がれることはありません。父親がⅡ型の場合、娘は全員が保因者になります。お母さんが保因者の場合、息子が発症する確率は2分の1です。
Q5. 新生児スクリーニングで再検査と言われました。この検査を受けるべきですか?
新生児スクリーニングは病気の可能性のある赤ちゃんを見つけるための検査で、陽性でもムコ多糖症とは限りません。まずは精密検査を行う医療機関の説明を受けてください。酵素の検査などで確かめたあと、型の確定やご家族の検査のために遺伝子検査を使うことがあり、当院ではその段階からご相談いただけます。
Q6. ムコ多糖症の寿命は?治りますか?
寿命は型と重さで大きく違います。米国国立医学図書館の解説では、Ⅱ型の重い型の寿命は10〜20年、軽い型は大人まで生きることが多いとされています。酵素補充療法や造血細胞移植がある型もあります。小児慢性特定疾病情報センターのⅡ型の解説では、早く治療を始めた方は比較的予後がよい一方、治療を行っても病気の進行を完全に止めることはできないとされています(2026年10月時点)。
Q7. 尿検査や酵素の検査との違いは?
尿のムコ多糖の測定はムコ多糖症を疑う手がかりに、酵素の働きの測定は診断の確定に使われます。遺伝子検査は原因の遺伝子の変化を特定するので、ご家族の保因者の確認や、次の妊娠での出生前診断の計画に使えます。
Q8. 海外でPGT-Mを受けたいのですが、英語の検査結果はもらえますか?
はい。英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。ただし、ご本人の検査結果だけでは、PGT-Mの準備はふつう整いません。ご家族の検体が必要になることが多く、当院ではご家族の遺伝子検査もお受けしています。なお、当院は体外受精・PGT-Mを行っていません。
🧬 一度の検査で、お子さんとご家族のこれからを考える
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。ムコ多糖症の型と原因の遺伝子がわかれば、治療の相談へ進む材料になるだけでなく、ごきょうだいの検査や、お母さん・姉妹の保因者の確認、次の妊娠の計画を考える手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断まで、院内で続けて受けていただけます。
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