この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

表皮水疱症(先天性表皮水疱症)は、皮膚と皮膚をつなぎとめるたんぱく質が生まれつき少ない、またはないために、少しこすれただけで水ぶくれやただれができる遺伝性の病気です。皮膚のどの層ではがれるかで型が分かれ、型によって重さ・寿命の見通し・次のお子さんへの遺伝する確率が大きく変わります。その型を決める大きな手がかりが、原因の遺伝子です。このページの検査では、表皮水疱症の原因遺伝子を中心に、関連性が研究されている遺伝子を含む13の遺伝子を一度に調べます。表皮水疱症がいつわかるのか、型ごとの原因と見通し、検査を受けたあとにできることまで、臨床遺伝専門医が解説します。遺伝子検査(遺伝学的検査)とは何かから知りたい方は、こちらもご覧ください。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. 表皮水疱症の遺伝子検査で何がわかりますか?
単純型・接合部型・栄養障害型の原因遺伝子を中心に、13の遺伝子をまとめて調べ、どの遺伝子の変化による、どの型の表皮水疱症かを確かめる手がかりにします。見通し・気をつける合併症・遺伝のしかたを考えるうえで重要な情報になります。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
お子さんやご自身に、こすれただけでできる水ぶくれ・皮膚のはがれがある方、ご家族に表皮水疱症の方がいる方、次のお子さんへの確率を知って妊娠を考えたいご両親です。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の内側の粘膜で、オンライン診療でも受けられます。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。原因がわかれば、ご家族の検査や、次の妊娠での絨毛検査・羊水検査(当院で実施)を計画できます。意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。
1. 表皮水疱症とは|生まれつき皮膚がはがれやすい遺伝の病気
表皮水疱症とは、皮膚の細胞どうしや、表皮と真皮をつなぐ「接着のためのたんぱく質」が生まれつき少ない、またはないために、日常の小さな刺激で水ぶくれやただれができる遺伝性の病気です。難病情報センターは、日本国内の患者さんを約500〜1,000人と見込み、世界的には10万〜20万人に1人の割合としています(2026年10月時点の公開情報)。
どんな症状がありますか?
抱っこやおむつ替え、歩くときのこすれなど、ふつうの刺激で水ぶくれやただれができるのが中心の症状です。型によっては、口の中や食道の粘膜にも水ぶくれができる、爪が変形したり抜けたりする(「爪がない」状態)、治ったあとの傷あとが重なって指がくっつく、といった症状が出ます。重症の潜性(劣性)栄養障害型では、のちに説明する皮膚の扁平上皮がんへの備えも大切になります[1]。
皮膚のどこではがれるかで決まる4つの型
皮膚は、外側の表皮と内側の真皮が、基底膜という薄い膜をはさんでつながっています。表皮水疱症は、はがれる場所によって、単純型・接合部型・栄養障害型の3つの大きな型に分かれ、さらにキンドラー症候群も表皮水疱症に加えられています(難病情報センター)。
🧬 表皮水疱症の4つの型と、この検査で調べる遺伝子
※型と遺伝のしかたは難病情報センターとGeneReviews[1][2][3]による。遺伝子ごとの病気は第4章の表をご覧ください。
型ごとの重さと寿命・見通し
表皮水疱症の寿命・見通しは、型と重症度によって大きく違います。同じ「表皮水疱症」という名前でも、成長とともに軽くなる型から、命にかかわる型まであります。
- ●単純型:GeneReviewsでは、中等症の単純型は子ども時代の後半から大人になるころに軽くなることが多く、重症の単純型も子ども時代の中ごろ以降に水ぶくれが減るとされています。ただし潜性(劣性)のKRT5・KRT14による型は、年齢とともに軽くならないことがあります[3]。
- ●接合部型の重症型(以前のヘルリッツ型):GeneReviewsでは、多くのお子さんが1歳を超えて生きることが難しいとされ、ある報告では5年間に生まれた71人のうち73%が、平均生後5か月で亡くなっていました[2]。難病情報センターも、ラミニンの遺伝子の変化による重症の接合部型は生後1年以内に亡くなることが多いとしています。
- ●栄養障害型:顕性(優性)の栄養障害型は経過とともに軽くなる場合があります(難病情報センター)。重症の潜性(劣性)栄養障害型では、生涯で進行の速い皮膚の扁平上皮がんになるリスクが90%を超えるとされ、転移しやすいことも知られています[1]。
こうした数字は、多くの患者さんをまとめた集団のデータです。お一人おひとりの見通しは、型・原因の遺伝子の変化・症状をあわせて考える必要があります。「表皮水疱症だから短命」とひとくくりにせず、まず型を確かめることが、見通しを立てる第一歩です。
指定難病・小児慢性特定疾病(2026年10月時点)
表皮水疱症は、指定難病(告示番号36)です。小児慢性特定疾病でも、皮膚疾患群の対象疾病に表皮水疱症が入っています。医療費の助成を受けるには、それぞれの制度の認定の条件を満たす必要があります。条件や手続きは、主治医や自治体の窓口でご確認ください。
2. 表皮水疱症はいつわかる?|生まれてすぐ・妊娠中
表皮水疱症は、生まれたあとに水ぶくれやただれが繰り返しできることで疑われ、皮膚の検査や遺伝子検査で型まで確かめられます。妊娠中に赤ちゃんで確かめられるのは、ふつう、ご家族の原因の遺伝子の変化がすでにわかっている場合です。
生まれてから:皮膚の検査と遺伝子検査で型を確かめる
水ぶくれがどの層でできているかは、皮膚の一部をとって調べる検査(蛍光抗体法などで、どのたんぱく質が欠けているかを見る方法や、電子顕微鏡で見る方法)と、遺伝子検査で確かめます。厚生労働省の最適使用推進ガイドライン(2025年10月)でも、栄養障害型の診断は「遺伝子検査、免疫蛍光抗原マッピング、電子顕微鏡検査」のいずれかで確定することとされています。
生まれてすぐに水ぶくれがあっても、成長とともに軽くなる型があります。COL7A1遺伝子の変化による新生児一過性表皮水疱症のように、新生児期だけ症状が目立つ型も知られています。見た目だけで重さを決めず、原因を確かめることに意味があります。
妊娠中にわかる?エコーでわかる?
GeneReviewsは、幽門閉鎖(胃の出口がふさがる病気)を伴う型では、羊水の量の変化や、羊水中のαフェトプロテインの上昇、羊水の中に高いエコーの物質が見えることから、妊娠中にまれに疑われることがあるとしています[2]。ふつうの妊婦健診のエコーだけで表皮水疱症かどうかを確かめることはできません。
一方で、ご家族の原因の遺伝子の変化がわかっていれば、出生前検査や着床前遺伝学的検査(PGT)が可能とされています[1][2][3]。妊娠中に赤ちゃんの細胞をとる方法には、絨毛検査と羊水検査があり、当院では院内で行っています。「生まれる前にわかるか」は、ご家族の原因が先にわかっているかどうかで決まります。
3. 表皮水疱症の原因と遺伝のしかた|親のせい?遺伝する確率は?
表皮水疱症の原因は、皮膚をつなぎとめるたんぱく質の設計図である遺伝子の変化です。次のお子さんへ遺伝する確率は、顕性(優性)遺伝なら2分の1、潜性(劣性)遺伝でご両親とも保因者なら4分の1です。
原因は皮膚をつなぐたんぱく質の遺伝子
表皮の細胞の骨組みになるケラチン(KRT5・KRT14)、細胞の骨組みどうしをつなぐプレクチン(PLEC)、基底膜で表皮と真皮をつなぐラミニン(LAMA3・LAMB3・LAMC2)、XVII型コラーゲン(COL17A1)、インテグリン(ITGB4・ITGA3)、真皮をつなぎとめる係留線維をつくるVII型コラーゲン(COL7A1)などです。どのたんぱく質がうまく働かないかで、はがれる場所=型が決まります。単純型では、KRT5が40%超、KRT14が30%超を占めるとされています[3]。
顕性遺伝と潜性遺伝で、遺伝する確率が違う
常染色体顕性(優性)遺伝の型(単純型の多く、顕性の栄養障害型)では、変化をもつ方のお子さんは、1人ごとに2分の1の確率で同じ変化を受け継ぎます[1][3]。KRT5・KRT14の変化の多くは、変化したたんぱく質が正常なたんぱく質の働きまでじゃまする「ドミナントネガティブ」というしくみで病気を起こします。GeneReviewsは、こうした変化をもっていても症状が出ない人がいる(浸透率が100%ではない)ことにも触れています[3]。
常染色体潜性(劣性)遺伝の型(接合部型のすべて、潜性の栄養障害型、潜性の単純型)では、ご両親がどちらも症状のない保因者のとき、お子さん1人ごとに、発症する確率が4分の1、保因者になる確率が2分の1、どちらも受け継がない確率が4分の1です[1][2]。2つの変化が違う種類の組み合わせ(複合ヘテロ接合)のこともよくあります。
⚠️ 同じ「表皮水疱症」でも、遺伝する確率はご家族ごとに違います
COL7A1遺伝子の変化は、顕性の型も潜性の型も起こします。同じ遺伝子でも、変化の種類によって遺伝のしかたと確率が変わります[1]。見た目の症状や病名だけで「お子さんに遺伝するか」を判断せず、原因の変化を確かめてから考えることが大切です。
表皮水疱症は「親のせい」ではありません
表皮水疱症のお子さんが生まれたことは、ご両親のせいではありません。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。潜性(劣性)遺伝の型では、ご両親は変化を1つずつもつ保因者で、症状はありません。保因者であることは、検査をしなければふつう気づけません(保因者のしくみと子どもへの確率)。
顕性の栄養障害型の約30%は、ご両親のどちらももっていない、新しく起きたCOL7A1の変化によるものとされています[1](新生突然変異(de novo))。ただし、親御さんの卵子や精子のもとになる細胞にだけ変化がある「性腺モザイク」のこともあります。変化をもつ生殖細胞からできる卵子・精子は2分の1の確率で変化を受け継ぎます。生殖細胞のうちどれくらいが変化をもつかは実際の診療では調べられないため、お子さん1人あたりの確率は『最大で2分の1』とお伝えしています。
接合部型でも、性腺モザイクや、片方の親から同じ染色体を2本受け継ぐ片親性ダイソミーの報告があり、GeneReviewsは、ご両親が保因者かどうかを遺伝子検査で確かめることを勧めています[2]。
4. この検査で調べる13の遺伝子と、わかる病気
この検査では、CD151・COL17A1・COL7A1・DSP・ITGA3・ITGB4・KRT14・KRT5・LAMA3・LAMB3・LAMC2・MMP1・PLECの13遺伝子を一度に調べます。このうち6遺伝子は、当院の拡大版保因者スクリーニングの対象でもあります(表の右の列)。
🧬 対象の13遺伝子と、関係する病気・遺伝のしかた
※病気と遺伝のしかたはGeneReviews[1][2][3]・難病情報センター・米国国立医学図書館(MedlinePlus Genetics・NCBI Gene)による。保因者検査の対象は、拡大版保因者スクリーニング女性版787遺伝子・男性版714遺伝子の遺伝子一覧で確かめた(2026年10月)。
皮膚以外にも気をつけたい型
13遺伝子のなかには、皮膚だけでなく、心臓・筋肉・腎臓・肺・歯に関わる遺伝子があります。原因の遺伝子がわかると、皮膚以外で何を見張ればよいかがはっきりします。
- ●心臓(DSP):DSPがつくるデスモプラキンは、細胞どうしをつなぐデスモゾームの部品です。皮膚の病気がなくても起こる不整脈原性右室心筋症(ARVC)や、掌蹠角化症を伴う心筋症(カルバハル症候群)の原因にもなります。
- ●筋肉・胃の出口(PLEC):潜性のPLECによる型には、筋力がだんだん弱くなる筋ジストロフィーや命にかかわる心筋症を伴う型、新生児期に命にかかわる幽門閉鎖を伴う型があります[3]。
- ●腎臓(CD151・ITGA3):CD151による型はたんぱく尿の出る腎臓の病気を伴います[3]。CD151はアルポート症候群の遺伝子パネル検査にも入っている遺伝子です。ITGA3による型は、肺の病気(間質性肺疾患)とネフローゼ症候群を伴います。
- ●歯(接合部型の遺伝子):接合部型では、歯のエナメル質に小さなくぼみができるエナメル質の形成不全がよくみられます。COL17A1・LAMB3などの変化を1つだけもつ保因者でも、エナメル質の形成不全やくぼみがみられることがあるとされています(保因者が表皮水疱症になるわけではありません)[2]。
5. 表皮水疱症の遺伝子検査を受けるとよい人
こすれただけで水ぶくれができる症状があり型を確かめたい方、ご家族に表皮水疱症の方がいる方、そして次のお子さんへの確率を知りたいご両親に向く検査です。
受けるとよい場面
- ●お子さん(またはご自身)に、生まれつき、またはこすれたところに水ぶくれ・ただれが繰り返しできる
- ●爪の変形や脱落、口の中の水ぶくれ、歯のエナメル質の異常がある
- ●表皮水疱症と言われたが、どの型か、どの遺伝子が原因かがまだわかっていない
- ●ご家族(お子さん・きょうだい・親)に表皮水疱症の方がいて、ご自身が変化をもっているか知りたい
- ●表皮水疱症のお子さんがいて、次の妊娠を考えている
とくに重い型のお子さんがいるご両親にとって、原因がわかることには大きな意味があります。原因がわかれば、次のお子さんで同じことが起こる可能性がどれくらいあるか、そして次の妊娠でどう備えられるかを、具体的に考えられるようになります。原因がわからないままでは、妊娠中に赤ちゃんで何を調べればよいかを決められません。
この検査より別の検査が向いている場合
症状の中心が水ぶくれではない場合や、大人になってから急に水ぶくれが出てきた場合は、別の検査のほうが向いていることがあります。比べる相手は検査の種類です。
6. 検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、13遺伝子の中の小さな変化(1文字の置き換わりや、小さな挿入・欠失)と、一部の大きめの欠失・重複です。陰性でも、表皮水疱症を完全に否定することはできません。
次世代シークエンサー(NGS)で、遺伝子のうちたんぱく質をつくる部分(エクソン)と、その境目(エクソンに接するイントロンの10塩基程度)を読みます。欠失・重複の解析では、遺伝子まるごと1つ分の欠失・重複(頬粘膜・血液の検体)と、2つ以上続いたエクソンの欠失・重複(血液の検体のみ)を見つけられます。エクソン1つだけの欠失・重複は、見つかることはありますが、ふつうは見つけられません。見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します。
次のような変化は、この検査では見つけられません。
- ●染色体の一部が入れ替わる転座や、向きが逆になる逆位
- ●同じ配列の繰り返しが長くなる変化(リピート伸長)
- ●遺伝子の働きを調節する場所(プロモーター)の多くや、エクソンから遠く離れたイントロンの変化
- ●体の一部の細胞にだけある変化(体細胞モザイク)。腫瘍の組織の検査には使えません
- ●13遺伝子以外の原因。キンドラー症候群の原因のFERMT1遺伝子は含まれていません
また、病気の原因かどうかがまだわからない変化(VUS)が見つかることがあります。調べた目的とは別の病気に関わる変化(二次的所見)の扱いは、当院の二次的所見の開示方針のとおりです。
7. 病的変異が見つかったら、次にできること
原因の遺伝子の変化が見つかると、型や見通しを考える重要な手がかりとなり、ご本人の見張るべき合併症、使える治療、ご家族の検査、次のお子さんの計画まで、具体的に考えられるようになります。型や重さは、遺伝子の結果と、皮膚の検査・症状をあわせて判断します。生まれ持った遺伝子は一生変わりません。一度の検査でわかったことは、この先ずっと使える情報です。
ご本人:型と見通し、合併症の見張り、治療の対象になるか
- ●型と見通し:第1章のとおり、型によって見通しは大きく違います。病名が決まると、受ける検査や生活の工夫、使える制度(指定難病・小児慢性特定疾病)がはっきりします。
- ●皮膚がんの見張り(栄養障害型):GeneReviewsは、受診のたびに皮膚をよく診ること、かさぶたが続く・治らない・痛い・見た目がおかしい・傷あとが盛り上がるといった部分を、10歳から少なくとも年1回は扁平上皮がんの目で確かめること、疑わしいところは組織を調べることを勧めています[1]。
- ●皮膚以外の見張り:DSPやPLECなら心臓や筋肉、CD151やITGA3なら腎臓や肺、というように、原因の遺伝子によって見張る臓器が変わります(第4章)。
- ●治療の対象になるか:難病情報センターによると、表皮水疱症を根本から治す治療はまだありませんが、2019年からは自家培養表皮(ご自身の細胞から育てた表皮のシート)による治療が保険で行われています。さらに、栄養障害型表皮水疱症に対して、VII型コラーゲンの遺伝子を傷に塗って届ける遺伝子治療薬(ベレマゲン ゲペルパベク)が2025年に日本で承認され、厚生労働省が2025年10月に最適使用推進ガイドラインを出しています。このガイドラインでは、遺伝子検査などで栄養障害型と診断が確定していることが使う条件の1つで、遺伝子検査を行うときは遺伝カウンセリングを考えることとされています。治療は皮膚科・専門の医療機関で受けるものです(当院では治療は行っていません)。
ご家族:症状のない方も、同じ変化があるかをピンポイントで調べられる
原因の変化がわかれば、きょうだい・親・お子さんなどのご家族は、13遺伝子をすべて調べ直さなくても、その変化があるかどうかをピンポイントで調べられます(症状のない方は、ご本人の同意のうえで)。あなたの1回の検査が、ご両親・きょうだい・お子さんが自分の状態を知る手がかりになります。顕性(優性)の型では、変化をもっていても症状が出ない、または軽い方がいるとされるため[3]、「家族に症状のある人はいない」だけで判断しないことが大切です。
次のお子さん:保因者検査・パートナーの検査・出生前診断
潜性(劣性)遺伝の型では、パートナーも同じ遺伝子の保因者かどうかで、お子さんへの確率が決まります。接合部型と潜性の栄養障害型の原因であるCOL17A1・COL7A1・ITGB4・LAMA3・LAMB3・LAMC2の6遺伝子は、当院の拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子)と男性版714遺伝子の対象です。妊娠中の方は、NIPTと同じ日に採血できるカップルの保因者検査「ファミリーセーフティ プラス」(単独では受けられません)もあります。
ご家族の原因の変化がわかっていれば、妊娠したときに赤ちゃんで同じ変化があるかを調べられます。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。出生前診断を行えるかは、病気の重さや国内の指針を踏まえて個別に考えますので、妊娠を考えている段階からご相談ください。出生前診断を受ける・受けない、何もしないで産むことも含めて、どの選択も尊重します。
海外でPGT-M(着床前遺伝学的検査)を考えている方へ:英語の検査結果をお渡しできます
PGT-Mは、体外受精でできた受精卵(胚)の一部の細胞を調べ、ご家族でわかっている遺伝子の変化を受け継いでいない胚を選んで子宮に戻す検査です。当院は、海外でPGT-Mを受けるときに使える英語の検査結果をお渡しできます。英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。当院は体外受精・PGT-Mを行っていません。当院でできるのは、原因遺伝子の確定、英語の検査結果のご用意、遺伝カウンセリング、ご家族の遺伝子検査、妊娠後の絨毛検査・羊水検査です。
欧州ヒト生殖胎生学会(ESHRE)の指針では、PGT-Mの準備に、①病気の原因と確かめられた遺伝子の変化があること、②どの遺伝子のどの変化かが書かれた元の報告書、③ご家族の検体、が求められています[4]。受精卵から取れるDNAはごくわずかで、変化を直接読むだけでは、2本あるうちの片方が読み取れない「アレルドロップアウト」などで判定を誤るおそれがあります。そのため、変化のある場所の両側の目印で、変化をもつ染色体を家系の中でたどる方法(ハプロタイプ解析)を組み合わせます[4]。
ご本人の検査結果だけでは、PGT-Mの準備はふつう整いません。指針の目安は、顕性(優性)遺伝の型では患者さん少なくとも1人(できれば2人)および/または発症していない方1人、潜性(劣性)遺伝の型では患者さん(2つの変化をもつ方)・保因者・保因者でない方の検体です[4]。血縁者がいない場合は、ご夫婦で目印を調べたうえで、治療周期の受精卵や1個の精子を調べる方法も挙げられていますが、できるかどうかは施設や家系の状況で大きく変わり、受けられないこともあります。また、新しく起きた変化(de novo)で、これまでに妊娠歴のないご夫婦では、一般的なハプロタイプ解析の方法は使えないとされています[4]。顕性の栄養障害型の約30%は新しく起きた変化とされているため[1]、この点はとくに大切です。海外でPGT-Mを考えている方は、ご本人の検査の段階から、検査に協力していただけるご家族(とくに同じ変化をもつ方)がいるかを考えておくことが大切です。当院では、ご家族の遺伝子検査も、遺伝カウンセリングのうえでお受けしています。
臨床遺伝専門医としての判断では、意義がまだわからない変化(VUS)は病気の原因と確かめられていないため、そのままPGT-Mの対象にするのは難しいと考えます。潜性の型では、ご夫婦それぞれがどの変化をもっているかを確かめておく必要があります。海外の施設によって求められる書類や検体は違うので、受ける予定の施設にも前もって確認してください。くわしくは遺伝性疾患をお持ちで海外でPGT-Mを考えている方へで解説しています。
⚠️ PGT-Mは診断ではなく、スクリーニング検査です
PGT-Mは受精卵のごく一部の細胞を調べる検査で、結果が赤ちゃんの状態と食い違うことがあります。ESHREの指針は、多くの施設で誤った結果になる割合は全体で1〜3%まで下げられているとしたうえで、PGTのあとに妊娠したすべての方に出生前診断を提案すべきとしています[5]。当院では、PGT-Mで選んだ胚で妊娠した場合も、妊娠中に赤ちゃんそのものを調べる確定検査(絨毛検査・羊水検査)で確かめることが望ましいと考えています。絨毛検査・羊水検査は院内で行っており、海外でPGT-Mを受けたあとの妊娠でもご相談いただけます。
日本では、日本産科婦人科学会の「重篤な遺伝性疾患を対象とした着床前遺伝学的検査(PGT-M)に関する指針」(2026年9月改定)にもとづき、PGT-Mは症例ごとに学会の審査を受け、そのうえで実施施設の倫理委員会が承認して行われます。この指針の「重篤」は、原則として、成人に達する前に日常生活が著しく損なわれる、または生存が危ぶまれる状態になる疾患で、申請の時点で有効な治療法がないか、治療法があっても高度かつ侵襲度の高いもの、とされています。成人に達する前に生存が危ぶまれるわけではないが日常生活が著しく損なわれる状態が現れる疾患は、その病気の専門医の意見書などを追加で出す仕組みになっています。対象になるかどうかは、審査で個別に決まります。
PGT-Mの対象になる病気は、国によって違います。日本では学会が症例ごとに審査し、審査が続いている申請も多くあります(学会の発表では、2025年7月〜2026年6月の1年間に審査した73件のうち37件が審査継続中。2026年9月発表)。英国では公的機関(HFEA)が、PGT-Mを使える病気の一覧(2026年9月17日更新で2,067の病気)を公表しており、一覧にない病気は施設を通じて申請し、HFEAが審査します。米国では、PGTを直接規制する連邦や州の法律はなく、主に医師・施設の判断で行われています[6]。どの病気がPGT-Mの対象になるかは、国や制度、施設によって違います。同じ病気でも、ある国では対象になり、別の国では個別の審査が必要になることがあります。受ける国の制度と、施設の条件を前もって確かめてください。
陰性・VUSだったとき
陰性のときは、13遺伝子以外の原因(キンドラー症候群のFERMT1など)、この検査では見つけにくい種類の変化、または遺伝ではない水ぶくれの病気(後天性表皮水疱症などの自己免疫の病気)が考えられます。皮膚の検査の結果とあわせて、全エクソーム検査など次の選択肢をご説明します。VUSが見つかったときは、それだけで診断を決めたり、ご家族の検査や出生前診断に使ったりはしません。研究が進んで、意味がわかるようになることもあります。
8. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の内側の粘膜で、どれでもオンライン診療でお受けできます。
ご予約
▶
遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
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検体の採取唾液・粘膜・血液
▶
結果のご説明2〜3週間後・マイページへ
この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
💴 費用・日数・検体
※ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
オンライン診療(ビデオ通話での診療)で遺伝カウンセリングを行ったあと、検体を当院にお送りいただく流れです。オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいたあとにお送りします。検体の取り違えや品質の問題を防ぐため、ご自身で勝手に検体を採取しないでください。
結果は、遺伝カウンセリングで臨床遺伝専門医が直接ご説明してから、マイページにアップします。結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。報告書の見かたはNIPT/遺伝子検査結果の見かたで解説しています。
検査の前には、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行い、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。
9. 院長コラム|型がわかると、次の一手が決まる
🩺 院長コラム【「表皮水疱症」という名前だけでは、計画は立てられない】
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。
遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。表皮水疱症は、同じ名前でも、成長とともに軽くなる型から命にかかわる型まであり、同じCOL7A1という遺伝子でも、顕性の型と潜性の型があります。だからこそ、病名だけで将来を決めず、どの遺伝子のどの変化なのかを確かめることが、見通しを立てる出発点だと考えています。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。たとえば、きょうだいのお子さんの病気をきっかけに念のため検査を受けた方に、まったく別の遺伝子の病的な変化が、体の一部の細胞だけにある状態(モザイク)で見つかったことがあります。ご本人は発症していませんでしたが、卵子や精子のもとになる細胞にもその変化があれば、お子さんが発症することがある病気でした。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。原因がわかれば、ご家族の検査も、次のお子さんの出生前診断も計画できます。知ったうえで結婚や妊娠を考えたい方には、出生前診断まで当院で続けて支えられる体制を整えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 表皮水疱症はいつわかりますか?
多くは、生まれたあとに水ぶくれやただれが繰り返しできることで疑われ、皮膚の検査や遺伝子検査で型まで確かめます。ふつうの妊婦健診のエコーだけで確かめることはできません。ご家族の原因の遺伝子の変化がすでにわかっていれば、妊娠中に絨毛検査や羊水検査で赤ちゃんを調べることができます。
Q2. 表皮水疱症の寿命はどれくらいですか?
型と重症度によって大きく違います。単純型の多くや顕性の栄養障害型は、経過とともに軽くなる場合があります。一方、重症の接合部型(以前のヘルリッツ型)は生後1年以内に亡くなることが多く、重症の潜性栄養障害型では生涯で皮膚の扁平上皮がんになるリスクが90%を超えるとされています。まず型を確かめることが、見通しを立てる第一歩です。
Q3. 表皮水疱症は親のせいですか?遺伝する確率は?
親のせいではありません。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、潜性(劣性)遺伝の型ではご両親は症状のない保因者です。遺伝する確率は、顕性(優性)遺伝ならお子さん1人ごとに2分の1、潜性遺伝でご両親とも保因者なら4分の1です。新しく起きた変化と思われる場合も、性腺モザイクの可能性があるため、次のお子さんへの確率は最大で2分の1と考えます。
Q4. 表皮水疱症はうつりますか?
うつりません。表皮水疱症は、皮膚をつなぎとめるたんぱく質の遺伝子の変化による、生まれつきの病気です。水ぶくれやただれに触れても、ほかの人に病気がうつることはありません。
Q5. 表皮水疱症は治りますか?新しい治療はありますか?
根本から治す治療はまだありませんが、2019年から自家培養表皮による治療が保険で行われています。栄養障害型表皮水疱症には、2025年に日本で遺伝子治療薬(ベレマゲン ゲペルパベク)が承認されました。使う条件の1つに、遺伝子検査などで栄養障害型と診断が確定していることがあります。治療は皮膚科・専門の医療機関で受けるものです。
Q6. 後天性表皮水疱症も、この検査で調べられますか?
調べられません。後天性表皮水疱症は、VII型コラーゲンに対する自己抗体によって水ぶくれができる自己免疫の病気で、遺伝子の変化による先天性表皮水疱症とは別の病気です。指定難病では「類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む。)」に含まれます。大人になってから水ぶくれが出てきた場合は、まず皮膚科で自己抗体の検査をご相談ください。
Q7. 家族に表皮水疱症の人がいると、結婚や妊娠で何を考えればいいですか?
遺伝する確率は、型と遺伝のしかた、ご家族の変化によって違います。ご自身が変化をもっているか、潜性の型ならパートナーが同じ遺伝子の保因者かどうかを検査で確かめると、お子さんへの確率を具体的に考えられます。接合部型と潜性の栄養障害型の6遺伝子は拡大版保因者スクリーニングの対象です。知ったうえで、出生前診断やPGT-Mなどの選択肢を考えることもできます。どの選択も尊重します。
Q8. 海外でPGT-Mを受けたいのですが、英語の検査結果はもらえますか?
はい。英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。当院は体外受精・PGT-Mを行っていません。ご本人の検査結果だけでは、PGT-Mの準備はふつう整わず、ご家族の検体が必要になることが多い点にご注意ください。
🧬 人生に一度の遺伝子検査を、ご本人とご家族のこれからに
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。表皮水疱症の原因がわかれば、型と見通し、皮膚がんや皮膚以外の合併症への備え、使える治療、ご家族の検査、次のお子さんの計画まで考える手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断まで、院内で続けて受けていただけます。
お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768
参考文献
- [1] Lucky AW, Pope E, Crawford S. Dystrophic Epidermolysis Bullosa. In: GeneReviews®. University of Washington, Seattle; 2006 (Updated 2026 Aug 18). [NCBI Bookshelf NBK1304]
- [2] Pfendner EG, Lucky AW. Junctional Epidermolysis Bullosa. In: GeneReviews®. University of Washington, Seattle; 2008 (Updated 2018 Dec 20). [NCBI Bookshelf NBK1125]
- [3] So JY, Teng J. Epidermolysis Bullosa Simplex. In: GeneReviews®. University of Washington, Seattle (Updated 2022 Aug 4). [NCBI Bookshelf NBK1369]
- [4] ESHRE PGT-M Working Group, Carvalho F, Moutou C, et al. ESHRE PGT Consortium good practice recommendations for the detection of monogenic disorders. Hum Reprod Open. 2020;2020(3):hoaa018. [DOI: 10.1093/hropen/hoaa018]
- [5] ESHRE PGT Consortium Steering Committee, Carvalho F, Coonen E, et al. ESHRE PGT Consortium good practice recommendations for the organisation of PGT. Hum Reprod Open. 2020;2020(3):hoaa021. [DOI: 10.1093/hropen/hoaa021]
- [6] Nakasato K, Yamamoto BA, Kato K. Evaluating standards for ‘serious’ disease for preimplantation genetic testing: a multi-case study on regulatory frameworks in Japan, the UK, and Western Australia. Hum Genomics. 2022;16:16. [DOI: 10.1186/s40246-022-00390-3]
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