前期破水とは分娩開始前に生じる破水のことです。子宮内感染症や羊水過多、多胎妊娠などが原因と考えられるものの、詳しい理由が判明しないケースもあります。前期破水があった際は速やかに病院への連絡が必要です。その後の対応は妊娠週数や胎児の状況により異なります。
本記事では、前期破水とは何か、原因・対処法・予防法を解説します。
前期破水とは?分娩開始前の破水のこと
破水とは、胎児を包んでいる卵膜が破れて、中の羊水が漏れ出すことです。なかでも、陣痛があり、子宮口が全開大のときに起こる破水を「完全破水」や「適時破水」といいます。
一方、陣痛が始まっておらず、子宮口も開いていない状態で起こる破水が前期破水です。前期破水が起きると母子ともに感染症のリスクが高まり、起きる時期により対処方法も大きく異なります。
前期破水後の対応
正期産にあたる妊娠37週目以降の前期破水では、感染症の兆候の有無により病院での対応が異なります。
子宮内感染が疑われる前期破水では、すぐに陣痛を誘発して分娩を促すか、帝王切開により分娩するケースが多いでしょう。
一方、感染症の兆候がないときは抗生剤を投与したうえで経過観察を行います。前期破水後は多くの場合24時間以内に陣痛があり、出産に至るため、自然に陣痛が起きるのを待つことが多くなります。
もし、1日様子を見ても陣痛が起きない場合、妊婦さんと相談し、分娩誘発を行うか、もう1日様子を見るか判断します。
早期前期破水とは妊娠37週未満の破水のこと
前期破水の中でも、妊娠37週未満の破水は「早期前期破水」と呼び区別します。早期前期破水時の対応は妊娠週数と胎児の発育状況、また、入院施設によっても異なります。なお、妊娠37週未満の出産は早産になるため、入院により母子の管理を行い経過観察、または出産となります。厳重な対応が必要であればNICU(新生児集中治療室)のある病院への転入が必要です。
妊娠34週以降で肺などの胎児の発育が確認できるときは、分娩誘発により出産するケースもあります。
妊娠34未満で胎児が十分に発育していないときは、入院による経過観察が必要です。その後、胎児の発育を助ける薬剤を投与したり、早産を防止する子宮収縮抑制薬を投与したりします。
前期破水と早期破水の違い
早期破水とは、陣痛はあるものの子宮口が全開大になる前に起こる破水です。
早期破水も前期破水に含まれるものの、陣痛後の破水であればその後の分娩がスムーズに進み、出産上の影響も少ないため区別して呼ばれています。なお、早期破水は正常な妊娠であっても起こりえます。
前期破水の確認方法
前期破水では、尿漏れやおりものとの区別がつかず、受診が遅れることがあります。そのため、以下の破水の特徴を理解し、疑わしい場合はすぐに病院を受診しましょう。
- ・腹部に破裂音や衝撃を感じた後に漏れ出した
- ・少量ではなく一気に水分が流出する
- ・ニオイは無臭もしくは生臭い(アンモニア臭はない)
- ・色は無色透明か薄い乳白色でサラサラしている(粘性はない)
尿漏れであればアンモニア臭があり、おりものであればネバつきがあるため目安になりますが、見分けられないことも多くあります。
前期破水の原因
前期破水の主な原因は子宮内感染や子宮内圧の上昇です。そのほかに考えられる原因もあわせると以下が挙げられます。
- ・子宮内感染
- ・羊水過多
- ・多胎妊娠
- ・腹圧
- ・性行為
- ・羊水検査
それぞれ、詳しく解説します。
子宮内感染
子宮内感染が進行すると、絨毛膜羊膜炎など、卵膜の感染に発展することがあります。卵膜に炎症があるとその部分がもろくなるため、腹圧などがかかれば破れて破水しやすくなります。
羊水過多
通常よりも羊水が多いと、子宮内圧が上昇するため、破水や早産が起きやすくなります。羊水過多は超音波検査で確認ができ、対処方法は安静が基本です。程度によっては入院が必要です。
多胎妊娠
双子や三つ子の妊娠も、子宮内の量が多くなることから前期破水が起きやすくなります。なお、多胎妊娠では、つわりや妊娠高血圧症候群、早産などのリスクも高まるため、かかりつけ医の指示に従い経過を観察しましょう。
腹圧
くしゃみなどで腹圧がかかったときも卵膜が破れ、破水が起きることがあります。とはいえ、卵膜は丈夫な作りのため、軽度の腹圧で破れる心配はありません。
子宮内感染にかかり卵膜が弱くなっていたり、妊婦さんが風邪をひいて激しい咳が出ていたりする際は注意が必要です。
性行為
性行為では、腹圧がかかること、感染症のリスクがあること、2つの理由から前期破水につながる恐れがあります。妊娠中は過剰な行為を避け、コンドームを着用し感染症を予防しましょう。また、経過が順調で、医師に安静を指示されていないことも必要です。
羊水検査
ごく稀に、羊水検査の穿刺(せんし)で前期破水が起きます。出生前診断を希望するなら最初から羊水検査をするのではなく、NIPT(新型出生前診断)などで事前検査を行い、確率が高い場合のみにしたほうが安全でしょう。
前期破水が起きたときの対処法
前期破水が起きたときはすぐにかかりつけ医に連絡しましょう。その後はシャワーを浴びたり、動き回ったりせず、タオルなどで羊水が漏れ出ないように抑えて、すぐにタクシーで病院に向かいます。
かかりつけの病院に連絡する
破水の疑いがあるときは、すぐにかかりつけ医に連絡しましょう。前期破水後は陣痛がすぐあり出産になることもあるため、夜間・祝日を問わず連絡が必要です。
連絡するときは妊娠週数や出産予定日、破水時の状況を説明しましょう。
清潔なタオルを当てる
清潔な衣類に着替え、下着にはパットを当てるなどして、羊水が漏れ出ないようにします。量が多いときはタオルなどで覆いましょう。
車で病院まで向かう
病院に向かう際は、徒歩や公共交通機関ではなく、自家用車を運転してもらい向かいましょう。車がないときはタクシーを手配します。
なお、タクシー会社の中には、破水や陣痛時の利用を想定した「陣痛タクシー」を提供している場合があります。事前登録制のサービスもあるため、利用したいときは事前に確認しましょう。
入浴やシャワーは厳禁
破水時は、入浴・シャワー・ウォシュレットの利用は厳禁です。胎児が外界と接しており、感染症のリスクが高まるためです。
水分が気になる際はタオルで拭き取るようにしましょう。また、体に水がかからないようにすれば、足だけなら洗い流しても問題ありません。
安静にして動かない
破水後に動き回ると、羊水が漏れ出してしまうので、できるだけ安静にして病院に向かいましょう。車の中では横になって羊水が漏れ出ないようにします。
緊急性が高ければ救急車を手配する
通常の破水であれば、救急車を手配する必要はありません。しかし、破水と同時に大量の出血がある、胎児の頭やへその緒が出ている、動けないほどの腹痛や頭痛があるなど、緊急性が明らかに高いときは救急車の手配も必要です。
また、病院に連絡する際も、緊急性が高いことを伝えましょう。
前期破水は予防できる?
前期破水が起こる原因は一人ひとり異なるため、完全な予防方法はありません。しかし、食生活や生活習慣を整える、感染症を防ぐなどの基本の徹底はリスクを減らすうえでも役立ちます。ここでは、前期破水を防止するためにも取り組みたい基本事項を解説します。
妊婦検診を受ける
妊婦検診では羊水量なども超音波検査でわかるため、いくつかの前期破水の兆候は調べることができるでしょう。また、血液検査では妊婦糖尿病などの確認もできます。
出産・育児に向けた取り組みや生活習慣の指導もあるので、安全な出産のためにも必ず受けるようにしましょう。
栄養バランスのとれた食事を心がける
早産や前期破水は糖尿病だけでなく、妊娠時の低体重や栄養失調も原因のひとつと考えられています。そのため、妊娠中は妊娠前のBMIを目安にした適正体重(体重増加の目安)も設けられています。
妊娠中の適正体重を目安にして、栄養バランスのとれた食事を心がけましょう。
禁煙し受動喫煙を避ける
妊婦さんの喫煙は前期破水だけでなく、前置胎盤、低体重児、流産など胎児のあらゆる健康リスクの原因です。また、受動喫煙も早産などのリスクにつながります。
禁煙や分煙を徹底しましょう。
激しい運動は控える
妊娠中期以降はお腹も大きくなるため、激しい運動は控えましょう。また、たくさんの汗をかくホットヨガなども、脱水症状になりやすいため注意が必要です。お腹を圧迫する動きも良くありません。
ただし、ウォーキングのような適度な運動は、体力・筋力維持や気分転換になります。医師と相談し、問題のない範囲で取り入れましょう。
ストレスを溜めない
ストレスも前期破水や早産につながると考えられています。趣味を楽しむなど、適切な方法でストレスを発散しましょう。
また、仕事をしている妊婦さんは、業務量を減らしてもらう、産休を取るなどして、体を労わりましょう。
性感染症は治療・対策する
子宮内感染症は何らかの理由で膣内の細菌が増えるため発症します。そのため、対策が難しい部分もあります。
なお、性感染症も前期破水の一因と考えられるため、妊娠中も心配があれば検査をしましょう。妊娠前に感染がわかっていれば治療が必要です。
【まとめ】前期破水はすぐに病院に向かおう
前期破水とは陣痛や子宮口開大などの分娩準備が整う前に起きる破水です。子宮内感染や子宮内圧の上昇などが原因になるものの、詳しい理由が特定できないことも多くあります。
正産期の前期破水であればその後に陣痛があり、出産することが多くなります。正産期以前であれば入院による経過観察が必要です。どちらの場合でも、胎児の感染症リスクが高まるため、破水した際は夜間・休日を問わずすぐに医師や助産師に連絡し、安全な方法で病院に向かいましょう。