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妊娠中は安定期に入るまでがひとつの山場とされています。
ただ、安定期に入ったからといって体に負担をかけると、思わぬトラブルの原因になることもあります。
母子ともに健やかな出産を迎えられるよう、安定期の基礎知識や適切な過ごし方、注意点についてしっかり押さえておきましょう。
今回は、安定期の概要や時期、過ごし方、注意点について解説します。
安定期とは?
妊娠中における「安定期」とは、一般的に妊娠14週0日~27週6日までにあたる期間のことです。
妊娠期は、13週6日までを妊娠初期、14週0日~27週6日を妊娠中期、28週0日以降を妊娠末期(後期)と、全部で3つに区分されています。[注1]
このうち、妊娠初期は最も体が不安定になりやすい時期と言われており、つわりや切迫流産といったトラブルに見舞われるリスクが高くなります。
個人差はありますが、妊娠中期になると胎盤が完成し、流産のリスクが軽減されるほか、つわりの症状も徐々に治まってきます。
妊娠初期に比べると心も体も安定してくるため、この時期は一般的に「安定期」と呼ばれています。
妊娠14週0日は4ヶ月後半にあたるので、切りよく妊娠5ヶ月目以降が「安定期」とされています。
[注1]厚生労働省「2 対象特性 2-1 妊婦・授乳婦」
www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586574.pdf
安定期の状態
安定期に入ると、子宮はちょうご大人の頭くらいの大きさになります。
胎児を守るために、全体的に脂肪がついて丸みを帯びた体つきになり、お腹の膨らみも少しずつ目立ってきます。
安定期に差し掛かった段階では、ゆったりめの服を着ていればわからないほどのささやかな膨らみですが、その後、妊娠末期に向けてどんどんお腹が大きくなってくるので、安定期に入ったら妊娠線を予防するクリームの使用を検討した方がよいでしょう。
また、乳腺の発達を促す「プロラクチン」というホルモンが分泌され始めるため、バストサイズが1~2カップほど大きくなったり、乳首から母乳がにじみ出たりする方もいます。
なお、安定期に入ったあたりから胎動を感じ始める人も出てきます。
初産の場合は経産婦に比べると胎動を感じるタイミングが遅く、20週くらいが目安と言われています。
安定期に入った赤ちゃんの状態
安定期に入ったばかりの赤ちゃんは、骨がしっかり形成されるようになり、筋肉もついてきます。
全身には皮膚を守るための産毛(胎毛)が生え始めるほか、まつげや眉毛、髪の毛なども伸び始めます。
この頃の赤ちゃんの身長は20cm程度、体重は約150gとされています。
安定期とはいつからいつまで?
安定期は妊娠中期に入る14週0日または妊娠5ヶ月(妊娠16週0日)がスタート時期と説明しましたが、そもそも「安定期」は医学用語ではないため、いつからいつまでという明確な時期の定義はありません。
ただ、妊娠後期(28週以降)になると、お腹の張りを頻繁に感じたり、切迫早産になったりするリスクが高まってきます。
再びデリケートな時期を迎えることを考えると、妊娠後期に入った時点で「安定期」は終了したと考えた方がよいでしょう。
安定期の過ごし方
安定期を迎えたママが、普段の生活で心がけたい過ごし方を6つのポイントに分けて解説します。
1.栄養バランスのとれた食事を心がける
つわりがひどい時期は、ひとまず栄養のことは置いておいて、口にできるものを食べていたという方も多いでしょう。
しかし、安定期に入ってつわりが治まったのなら、栄養バランスを考えた食事に切り替える必要があります。
厚生労働省が公開している「妊娠中・産後のママのための食事BOOK」では、特に大切な栄養素量として、妊娠中期に以下の栄養素を摂取することを推奨しています。[注2]
エネルギー | 2,200kcal(18~29歳) 2,250kcal(30~49歳) |
---|---|
たんぱく質 | 60g |
脂質 | 20~30g |
カルシウム | 650mg |
鉄 | 21mg(18~29歳) 21.5mg(30~49歳) |
ビタミンA | 650μgRAE(18~29歳)) 700μgRAE(30~49歳) |
葉酸 | 480μg |
食塩相当量 | 7.0g |
食物繊維 | 18g |
中でも非妊娠時に比べて積極的に摂取したいのがたんぱく質と鉄分、葉酸の3種類です。
特に妊娠中は鉄欠乏性貧血に陥りやすいため、非妊娠時の推奨量(6.0~6.5mg)の3倍以上にあたる+15.0mgの鉄分摂取が推奨されています。
また、葉酸は細胞や血液を作る大切な栄養素であり、不足すると赤ちゃんの神経管閉鎖障害のリスクが高まると言われていることから、安定期に限らず、妊娠前からの定期摂取が望ましいとされています。
鉄分は小松菜や大豆、葉酸はブロッコリーやいちご、納豆などに多く含まれていますので、普段の食事に積極的に取り入れていきましょう。
[注2]厚生労働省「妊娠中・産後のママのための食事BOOK」
www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/column/opinion/pdf/180331_ninsanpu_recipe2.pdf
2. 適度な運動を心がける
安定期に入ったら、特に医師から禁止されていない限り、定期邸に体を動かすことを意識しましょう。
出産は体力を使いますし、妊娠中に運動不足になると体重が増えすぎて、妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群といった合併症を引き起こす原因になることもあります。
適度な運動はむしろ母胎に良い影響をもたらしますので、無理のない範囲で日常的に運動習慣をつけることをおすすめします。
妊婦さんにおすすめの運動には、ウォーキングやマタニティスイミング、マタニティヨガなどが挙げられますが、日本臨床スポーツ医学会の基準によると、心拍数150bpm以下で「ややきつい」以下の運動が望ましいとされています。[注3]
ただし、お腹の張りを強く感じた場合などは運動を中止し、体を安静にすることを忘れないようにしましょう。
[注3]日本臨床スポーツ医学会「妊婦スポーツの安全管理基準(2019)」
www.rinspo.jp/files/proposal_28-1-01.pdf
3. 両親学級や母親学級への参加
安定期を迎えて心身の調子が良くなったら、自治体や産院で行われている両親学級や母親学級に参加してみましょう。
両親学級や母親学級では、妊娠・出産・育児に関する基本的なことを学んだり、赤ちゃんのお世話を体験したりすることができます。
安定期の過ごし方についてのアドバイスを受けられるほか、悩みや不安があればその場で質問することもできますので、ぜひ積極的に参加したいところです。
4. 出産の準備を始める
妊娠後期になると、お腹が大きくなったり、強い張りを感じたりしやすくなるので、安定期のうちに出産準備を始めるのがおすすめです。
マタニティ用の衣類やお産セット、赤ちゃんを迎えるための育児用品などは、一度に購入するとかさばるので、安定期のうちに複数回に分けて揃えていくのが理想です。
なお、お産セットについては産院が用意してくれるところもありますので、重複しないよう、あらかじめ病院に問い合わせておくとよいでしょう。
5. 周囲への報告および産休・育休の確認
妊娠初期は流産するリスクが高いため、周囲にまだ妊娠を伝えていないという人も少なくありません。
安定期に入ったら、流産リスクはある程度低下しますので、周囲の人に妊娠の報告を行いましょう。
特に働いている方は産休や育休を取得する必要がありますので、会社に報告すると共に、どんな手続きが必要なのか尋ねておくと安心です。
6. 歯の治療を済ませる
妊娠後期になるとお腹が大きくなるため、歯の治療を仰向けで受けるのが難しくなってきます。
産後は赤ちゃんのお世話で歯医者に行く時間がなかなか取れなくなりますので、歯に問題がある方は安定期のうちに治療した方がよいでしょう。
なお、歯の治療ではX線をとる場合もありますので、事前に妊娠中であることを窓口に伝えておくことが大切です。
安定期の注意点
安定期は妊娠初期や妊娠後期に比べると、体も心も安定しやすい時期とされていますが、だからと言って何のリスクもないというわけではありません。
妊娠していない時期と比較すれば、トラブルが起こる可能性が高くになりますので、安定期だからと油断しないよう注意しましょう。
ここでは、安定期に注意したいポイントを4つご紹介します。
1.旅行に行くならゆとりのある計画を立てる
安定期に入り、医師から禁止されていないのなら、旅行に行ってもOKです。
ただし、妊娠前と同じ感覚で過密なスケジュールを立てると、お腹に張りを感じたり、貧血で体調を崩したりするおそれがあります。
安定期に旅行に行く場合は、いつもよりゆとりのある計画を立て、強行軍にならないよう注意しましょう。
また、旅先で万一具合が悪くなっても対応できるよう、保険証や母子手帳は忘れずに持参します。
2.体重の増加に気をつける
安定期に入ってつわりが治まると、食事を美味しく感じられるようになり、ついつい食べ過ぎてしまうおそれがあります。
前述の通り、肥満は妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群などのリスクを高める要因になりますので、食べ過ぎによる体重増加には十分注意しましょう。
食べる量や食べるものをコントロールするのはもちろん、定期的に体を動かして消費カロリーを増やすことも肥満防止につながります。
3.ストレスや疲労に注意
妊娠中はホルモンの関係で、精神的に不安定になったり、ストレスを感じたりしやすい傾向にあります。
また、お腹が大きくなってくると体を動かすのが大変になり、いつもより疲労がたまりやすくなりますので、心身の不調を感じたら十分な休息を取ることを心がけましょう。
4.性生活は体調に配慮しながら行う
体調に問題がなく、かつ医師から禁止されていなければ、妊娠中でも性行為を行うことは可能です。
ただし、精液には子宮を収縮させる作用がありますので、性行為をする際は必ず避妊具を着用しましょう。
また、お腹や体に負担のかかる体位は避け、痛みや張りを感じたら直ちに中止することが大切です。
【まとめ】安定期に入っても日常生活の過ごし方には注意しよう
妊娠中期は、初期や後期に比べるとトラブルリスクが少ないため、比較的過ごしやすい時期とされています。
両親学級や旅行、出産の準備などはこの時期に済ませておくと、リスクを抑えて行動できます。
ただし、安定期でもトラブルリスクがゼロになるわけではなく、体に負担がかかると強い張りを感じたり、出血などを起こしたりする可能性があります。
また、食べ過ぎなどで肥満になると妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群などのリスクが高くなりますので、食生活に気をつけつつ、適度な運動を習慣づけるなど、日常での過ごし方に十分配慮しましょう。