目次
妊娠初期の頭痛は珍しいものではなく、多くはホルモンの変化、つわりによる脱水や空腹、睡眠不足、カフェインを急にやめたことなどが重なって起こる一次性の頭痛(片頭痛や緊張型頭痛)です。妊娠中に薬を使う場合は、アセトアミノフェン(商品名カロナールなど)が第一選択とされています。一方で、突然の激しい頭痛、手足のしびれ、見え方の異常、けいれんなどを伴う頭痛は、妊娠週数にかかわらずすぐに受診が必要です。この記事では、原因、いつまで続くか、片頭痛と緊張型頭痛の違いと対処法、使える薬と市販薬を飲んでしまったときの考え方、受診の目安を順に解説します。
Q. 妊娠初期の頭痛は大丈夫? 薬は飲める?
A. 多くは妊娠に伴う一時的な頭痛で、休息・水分・睡眠などで和らぐことが多い頭痛です。薬が必要なときは、医師に相談のうえアセトアミノフェン(カロナール)を必要最小限で使うのが基本です。ロキソプロフェン(ロキソニン)やイブプロフェンなどの解熱鎮痛薬(NSAIDs)は、妊娠週数によって注意点が変わるため自己判断で使わないでください。いつもと違う激しい頭痛や神経症状を伴う頭痛は、すぐに受診してください。
- ➤原因 → ホルモン変化、つわりによる脱水・空腹、睡眠不足、カフェインの急な中止など
- ➤いつまで → 片頭痛は妊娠中期に向けて軽くなる人が多いが、初期はまだ続くことが多い
- ➤薬 → 第一選択はアセトアミノフェン。NSAIDsは妊娠20週以降、自己判断で使用せず、妊娠後期は特に注意が必要
- ➤受診の目安 → 突然の激痛、手足のしびれ、見え方の異常、けいれん、20週以降の高血圧
1. 妊娠初期に頭痛が起こる主な原因
妊娠初期に頭がガンガン、ズキズキするのは、多くの場合、脳や血管の病気ではなく、妊娠に伴う体の変化が引き金になった一次性頭痛です。一次性頭痛とは、片頭痛や緊張型頭痛のように、ほかの病気が原因ではない頭痛のことを指します。米国産科婦人科学会(ACOG)の妊娠・産後の頭痛に関する診療ガイドラインでも、妊娠中の頭痛はまず一次性頭痛と、ほかの病気が原因の二次性頭痛とに分けて考え、予防には誘因を避けること、十分な睡眠、十分な水分、ストレスへの対処などが挙げられています[1]。
ホルモンの変化(hCG・エストロゲン・プロゲステロン)
妊娠が成立すると、胎盤のもとになる組織からhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)が分泌され、卵巣の黄体を刺激して妊娠の維持に必要なホルモンを出させます。エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)は、妊娠が進むにつれて増え続けます。以前は「妊娠するとエストロゲンが減る」と説明されることもありましたが、妊娠中はむしろ高い状態が続きます。
片頭痛は、女性ホルモンの量が変わるタイミングで起こりやすい頭痛として知られています。生理の前後に頭痛が出やすい方がいるのも同じ理由です。妊娠初期はホルモンの量が急に増え、体がまだその変化に慣れていない時期のため、頭痛が出たり、もともとの頭痛の出方が変わったりすることがあります。ただし、ホルモンと頭痛の関係は仕組みとして説明されている段階で、ある人の頭痛の原因をホルモンだけに決めつけることはできません。
つわり・脱水・空腹(低血糖)
つわりと頭痛は、同じ時期に重なりやすい症状です。吐き気で水分や食事が十分にとれないと、脱水や空腹の状態になり、それ自体が頭痛の引き金になります。吐いてしまった日や、食べられるものが限られている日に頭痛がひどくなる場合は、脱水や空腹が関わっている可能性があります。
つわりの時期には、一度にたくさん飲もうとせず、少量ずつこまめに水分をとる、食べられるときに食べられるものを口にする、といった工夫が頭痛の予防にもつながります。水分がほとんどとれない、尿の量が明らかに少ない、体重が急に減っているといった状態は、つわりが重くなっているサインのこともあるため、頭痛の有無にかかわらず産婦人科で相談してください。つわりの時期の見通しについてはつわりはいつからいつまで?で詳しく解説しています。
睡眠不足・疲れ・ストレス
妊娠初期は眠気が強くなる一方で、夜中に目が覚めたり、つわりで眠りが浅くなったりしやすい時期です。睡眠が細切れになると、片頭痛・緊張型頭痛のどちらも起こりやすくなります。仕事や家事をいつもどおり続けながら体調の変化に対応していることも多く、疲れがたまりやすい状況です。
妊娠がわかったばかりの時期は、出産や仕事、これからの生活について考えることが増え、気持ちが張りつめやすい時期でもあります。肩や首の筋肉がこわばると、締め付けられるような緊張型頭痛につながります。横になれる時間をつくる、昼に短く休む、仕事量を調整するなど、睡眠と休息を確保することが頭痛の予防の基本になります。
カフェインを急にやめた・減らした
妊娠がわかってコーヒーを急にやめたあとに頭痛が出る場合、カフェインをやめたこと自体が原因のことがあります。国際頭痛分類(ICHD-3)では、1日200mgを超えるカフェインを2週間以上とっていた人が急にやめたり遅らせたりしたときに、最後の摂取から24時間以内に起こる頭痛を「カフェイン離脱頭痛」と定義しており、カフェインをとらなければ7日以内に自然に治まるとされています[2]。
💡 用語解説:カフェイン離脱頭痛
コーヒーや紅茶、エナジードリンクなどでカフェインを毎日とる習慣があった人が、急にやめたときに起こる頭痛です。頭痛のほか、だるさや眠気、集中しにくさを伴うことがあります。妊娠をきっかけにカフェインを減らす場合は、いきなりゼロにするより、数日から1〜2週間かけて少しずつ量を減らすほうが頭痛は出にくくなります。
妊娠中のカフェインは完全にやめる必要はなく、量の目安を守ればとってよいとされています(目安は第4章で説明します)。1日に何杯も飲んでいた方は、段階的に減らしていくことを意識してください。
貧血・肩こり・姿勢
妊娠中は赤ちゃんに酸素や栄養を届けるために血液の量が増えますが、血液の液体成分が先に増えるため、血液が薄まって貧血の状態になりやすくなります。貧血があると、だるさや立ちくらみとともに頭が重く感じることがあります。貧血の程度は妊婦健診の血液検査で確認できますので、気になる症状があれば健診のときに伝えてください。
また、デスクワークやスマートフォンを長時間使う姿勢が続くと、首から肩の筋肉が緊張し、緊張型頭痛の原因になります。妊娠前から葉酸の摂取がすすめられているのは、主に赤ちゃんの神経管閉鎖障害を予防するためで、詳しくは葉酸サプリメントの効果で解説しています。
2. 妊娠超初期の頭痛といつまで続くか
妊娠超初期(生理予定日のころ)に頭痛を感じる人もいますが、頭痛だけで妊娠かどうかを見分けることはできません。また、片頭痛は妊娠中期に向けて軽くなる人が多い一方、妊娠初期のうちはまだ続くことが多いというのが、これまでの研究で示されている経過です。
生理予定日前後の頭痛と生理前頭痛の違い
生理の前は女性ホルモン、とくにエストロゲンが下がるタイミングで、片頭痛が起こりやすい時期です。一方、妊娠が成立した場合もホルモンの変化によって頭痛が出ることがあります。どちらの頭痛も、痛み方や場所だけで区別できる特徴はありません。
そのため、頭痛があるかどうかで妊娠を判断するのではなく、生理予定日を過ぎても生理が来ない場合に妊娠検査薬で確認するのが確実です。こめかみが痛む、吐き気を伴うといった症状も、生理前の片頭痛と妊娠初期の頭痛の両方で起こりえます。妊娠の可能性がある時期に頭痛薬を使う場合の考え方は、第5章で説明します。胸の張りやおりもの、体温など、ほかの症状と合わせた見方は妊娠超初期の症状で整理しています。
いつまで続く? 片頭痛は妊娠中に軽くなることが多い
もともと片頭痛がある人では、妊娠中期から後期にかけて頭痛が軽くなる人が多いことがわかっています。ACOGのガイドラインでは、一次性頭痛のある妊婦さんの最大80%で、妊娠中期までに頭痛の頻度が自然に減るとまとめられています[1]。
妊娠前から片頭痛(前兆のないタイプ)がある妊婦さん47人を妊娠初期から追った前向き研究では、頭痛が改善した人の割合は時期によって大きく異なっていました[3]。
📊 妊娠中の片頭痛の経過(前兆のない片頭痛の妊婦さん47人)
| 時期 | 頭痛が改善した人 | 発作がなくなった人 |
|---|---|---|
| 妊娠初期 | 46.8% | 10.6% |
| 妊娠中期 | 83.0% | 53.2% |
| 妊娠後期 | 87.2% | 78.7% |
※Sances G, et al. Cephalalgia 2003[3]による。妊娠前から片頭痛がある人を対象にした小規模な研究の値で、妊娠中に初めて起きた頭痛には当てはまりません。
この結果からわかるのは、妊娠初期の時点ではまだ半数ほどの人しか改善しておらず、発作がなくなった人は1割程度にとどまるということです。「妊娠すれば片頭痛はすぐ治まる」わけではなく、初期はつらい時期が続くことがあり、中期に入るころから楽になる人が増えていく、という経過が一般的です。同じ研究では、出産後1か月以内に半数以上で片頭痛が再発していました[3]。
つわりが落ち着く時期と頭痛が軽くなる時期が重なる人もいますが、「頭痛が治まったからつわりも終わる」「頭痛がなくなったのはつわりが終わるサイン」と言える根拠は、現時点では示されていません。頭痛の経過とつわりの経過は、それぞれ別に見ていく必要があります。また、妊娠中期以降に初めて強い頭痛が出てきた場合は、一次性頭痛とは別の原因を考える必要があります(第7章)。
🩺 院長コラム【「初期はまだ続く」を知っておく】
片頭痛は妊娠中に軽くなることが多い、という話はよく知られています。ただ、研究の数字を見ると、改善が目立ってくるのは妊娠中期からで、初期の段階ではまだ頭痛が続いている人が多くいます。
一方で、これまで経験したことのない痛み方の頭痛は、見通しの話とは別に扱う必要があります。痛みの性質が普段と違うかどうかを、一つの判断材料にしてください。
3. 片頭痛と緊張型頭痛の見分け方
妊娠初期によくみられる頭痛は、片頭痛と緊張型頭痛の2つです。この2つは対処法が逆になることがあるため、まずどちらのタイプかを見分けることが対処の第一歩になります。片頭痛は脈打つようなズキズキした痛みで、吐き気を伴ったり、光や音がつらく感じたり、体を動かすと悪化したりするのが特徴です。緊張型頭痛は、頭全体や後頭部が締め付けられる、重いと感じる痛みで、動いても悪化しにくいのが特徴です[1]。
🧠 片頭痛と緊張型頭痛の違い
| 項目 | 片頭痛 | 緊張型頭痛 |
|---|---|---|
| 痛み方 | ズキズキと脈打つ | 締め付けられる・重い |
| 場所 | 片側のこめかみ付近が多い(両側のことも) | 両側・頭全体・後頭部から首 |
| 一緒に出やすい症状 | 吐き気、光や音がつらい | 肩や首のこり |
| 体を動かすと | 悪化しやすい | 悪化しにくい |
| 楽になりやすい対処 | 暗く静かな場所で休む・冷やす | 温める・ストレッチ |
※典型的な特徴をまとめたものです。両方の特徴をあわせ持つ頭痛もあります。
片頭痛の場合は、脳の血管の周りで起こる変化が痛みに関わっていると考えられており、痛む部分を冷やしたり、刺激の少ない場所で横になったりすると楽になることがあります。反対に、温めたり体を動かしたりすると悪化することがあります。緊張型頭痛の場合は、首や肩の筋肉のこわばりが関わっているため、温めて血流をよくしたり、軽くストレッチをしたりすると楽になることが多くなります。
なお、片頭痛の中には、頭痛の前に目の前がチカチカする、視野の一部が見えにくくなるといった「前兆」を伴うタイプがあります。妊娠前から同じ前兆があり、いつもと同じ経過であれば片頭痛のことが多いものの、妊娠中に初めて前兆のような症状が出た場合や、前兆がいつもより長く続く場合は、ほかの病気との区別が必要なため受診してください。
4. 薬を使わずにできる対処法(セルフケア)
妊娠初期の頭痛の多くは、頭痛のタイプに合った休み方と、水分・食事・睡眠を整えることで和らぎます。薬を使うかどうかを考える前に、まず試せるセルフケアを紹介します。
片頭痛タイプ:暗く静かな場所で休み、冷やす
ズキズキする片頭痛のときは、照明を落とした静かな部屋で横になるのが基本です。光や音、においの刺激が痛みを強めることがあるため、カーテンを閉める、スマートフォンの画面を見ないようにするなど、刺激を減らす工夫をしてください。こめかみや額を保冷剤や冷却シートで冷やすと、楽に感じる人もいます。冷やしすぎないよう、保冷剤はタオルで包んで使ってください。
緊張型タイプ:温める・ストレッチ・ツボ
締め付けられるような緊張型頭痛のときは、首から肩を蒸しタオルなどで温めたり、入浴で体全体を温めたりすると、筋肉のこわばりがほぐれて楽になることがあります。長時間同じ姿勢でいることが多い方は、1時間に1回程度は立ち上がって首や肩を回す、肩甲骨を寄せる運動をするなど、こまめに体を動かしてください。
頭のてっぺんにある百会(ひゃくえ)や、首の付け根と肩先の中間にある肩井(けんせい)といったツボを、気持ちよいと感じる程度の強さで押す方法もあります。ツボ押しの頭痛への効果を示す質の高い研究は多くありませんが、リラックスして体をほぐす一つの方法として取り入れるのは差し支えありません。強く押しすぎないようにしてください。
水分・食事・睡眠を整え、カフェインは適量に
つわりの時期は、少量ずつこまめに水分をとり、空腹の時間を長くしないことが頭痛の予防につながります。一度に食べられないときは、小分けにして回数を増やしてください。睡眠は、夜に十分とれない分を昼の短い休息で補うのも一つの方法です。
妊娠中のカフェインは、1日200mg未満を一つの目安として控えめにするのが実務的です。厚生労働省は日本独自の上限値を定めておらず、海外機関の目安として、世界保健機関(WHO)がコーヒーを1日3〜4杯まで、英国食品基準庁が1日200mgまで、カナダ保健省が1日300mgまでとしていることを紹介しています[4]。ACOGも、1日200mg未満の適度なカフェイン摂取は流産や早産の主な要因にはならないとしています[5]。
☕ 飲み物に含まれるカフェインの目安
| 飲み物 | カフェイン量の目安 |
|---|---|
| コーヒー(浸出液) | 100mLあたり60mg |
| インスタントコーヒー | 1杯(顆粒2g)あたり80mg |
| 紅茶(浸出液) | 100mLあたり30mg |
| せん茶・ほうじ茶・ウーロン茶 | 100mLあたり20mg |
| カフェインを多く添加した清涼飲料水 | 100mLあたり32〜300mg(製品により異なる) |
※厚生労働省「食品に含まれるカフェインの過剰摂取についてQ&A」[4]の表による。
カフェインには血管を収縮させる作用があり、片頭痛の痛みを和らげる目的で使われることもあります。ただ、「頭痛にカフェインが効くから」とコーヒーを増やすのはおすすめできません。飲む量と時間がばらばらになると、前の章で説明したカフェイン離脱頭痛を起こしやすくなるためです。飲む場合も1日200mg未満を目安にし、摂取量が大きく変動しないようにしてください。飲み物の選び方は妊娠中におすすめの飲み物・注意したい飲み物で詳しく紹介しています。
5. 妊娠初期に頭痛薬は飲める? カロナールと市販薬の注意点
妊娠中に頭痛薬が必要なときは、アセトアミノフェン(カロナールなど)が第一選択とされています。セルフケアで治まらない頭痛を無理に我慢する必要はなく、痛みが強いときは産婦人科で相談して薬を使うことも選択肢です。一方、ロキソプロフェン(ロキソニン)やイブプロフェンなどのNSAIDsは、妊娠週数によって注意点が変わるため、自己判断では使わないでください。
💡 用語解説:NSAIDs(エヌセイズ)
NSAIDsは「非ステロイド性抗炎症薬」の略で、痛みや熱、炎症を抑える薬のグループです。ロキソプロフェン(ロキソニン)、イブプロフェン、アスピリン、ジクロフェナクなどが含まれ、市販の頭痛薬にも多く使われています。体内のプロスタグランジンという物質の働きを抑えることで効果を出しますが、この物質は胎児の腎臓や血管(動脈管)の働きにも関わっているため、妊娠中期以降の使用には注意が必要です。アセトアミノフェンは作用の仕組みが異なり、NSAIDsには含まれません。
第一選択はアセトアミノフェン(カロナール)
アセトアミノフェンは、長年にわたり妊娠中の痛みや発熱に使われてきた薬です。医師が必要と判断した場合に、効果が得られる最小限の量を、必要な期間だけ使うのが基本です。
2025年9月、米国食品医薬品局(FDA)が、妊娠中のアセトアミノフェン使用と子どもの自閉スペクトラム症などとの関連の可能性を理由に、添付文書の表示変更の手続きを始めると発表し、話題になりました。これに対してACOGと米国母体胎児医学会(SMFM)は、アセトアミノフェンが子どもの発達障害を引き起こすという因果関係は示されていないとして、妊娠中の痛みと発熱に対する第一選択の推奨を維持しています[6][7]。
根拠の一つとなっているのが、スウェーデンで1995〜2019年に生まれた約248万人を対象にした研究です。兄弟姉妹どうしを比べる方法(家庭環境や遺伝的な背景の影響を取り除くための分析)では、妊娠中のアセトアミノフェン使用と、子どもの自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症(ADHD)、知的障害との関連は認められませんでした[8]。痛みや発熱を我慢することにもからだへの負担があるため、必要なときには医師の指示のもとで使ってください。
市販の頭痛薬には、NSAIDsやカフェインなどを組み合わせたものもあるため、妊娠中は成分を薬剤師に確認するか、産婦人科で処方を受けてください。
ロキソニン・イブなどNSAIDsと妊娠週数
NSAIDsは、妊娠20週以降は自己判断で使用せず、必要な場合も医師の管理下で最小量・最短期間にとどめることが重要です。FDAは20〜30週では必要時に限って最小量・最短期間とし、30週以降は胎児動脈管の早期閉鎖リスクのため避けるよう勧告しています。日本ではロキソプロフェンは妊娠後期の女性には禁忌です。FDAは2020年に、妊娠20週ごろ以降にNSAIDsを使うと、胎児の腎臓の働きが落ちて羊水が少なくなる(羊水過少)ことがあるとして、20週以降は避けるよう勧告しました。医師が必要と判断した場合でも、20〜30週では最小量・最短期間にとどめるとしています[9]。
日本でも、ロキソプロフェンは妊娠後期の女性には禁忌とされています。さらに2024年10月の添付文書改訂で、妊娠中期にNSAIDsを使った妊婦さんで胎児の動脈管(胎児期に肺を迂回して血液を流す血管)が収縮したという報告があることが追記されました[10]。
妊娠初期については、NSAIDsの使用と流産との関連を示した観察研究があります[11]。ただし、この研究は処方の記録をもとにしたもので、流産の前触れとしての腹痛があったために薬を使った可能性などを完全には取り除けておらず、因果関係は確定していません。いずれにしても、妊娠がわかっている時期にNSAIDsを自己判断で使うのは避け、痛み止めが必要なときはまず産婦人科に相談してください。
妊娠に気づかず市販薬を飲んでしまったら
妊娠に気づく前に市販の頭痛薬を1〜2回飲んだという場合、それだけで赤ちゃんに影響が出る可能性を過度に心配する必要はないことがほとんどです。ただし、評価は飲んだ時期と薬の種類、量によって変わるため、不安があれば飲んだ薬の名前と日付を控えて、産婦人科で相談してください。
薬の影響を考えるうえで大切なのは、飲んだ時期です。受精から2週間ほど(妊娠3週の終わりごろ)までは、影響を受けた場合は妊娠が成立しないか、影響を残さず妊娠が続くかのどちらかになると説明されることが多く、「all or none(全か無か)」と呼ばれています。一方、妊娠4週から7週の終わりまでは、赤ちゃんの中枢神経、心臓、消化器、手足などの重要な器官がつくられる時期で、薬の影響を最も受けやすい「絶対過敏期」にあたります[12]。この時期は、妊娠にまだ気づいていないことも多い時期です。
また、薬を飲んでいなくても、赤ちゃんの先天異常は小さなものを含めて3〜5%程度の割合で起こるとされています[13]。万が一何らかの異常がみつかったとしても、それが薬によるものかどうかは、この自然な頻度をふまえて考える必要があります。妊娠中の薬について専門的な相談を受けたい場合は、厚生労働省の事業として国立成育医療研究センターに設置されている「妊娠と薬情報センター」と、全国の拠点病院の「妊娠と薬外来」を利用できます[14]。薬の影響の考え方全般は妊娠中の薬との付き合い方、薬や環境要因が胎児に与える影響については催奇形因子(テラトゲン)とはで詳しく解説しています。
🩺 院長コラム【薬の不安は「時期」と「種類」で整理する】
「妊娠に気づかずに頭痛薬を飲んでしまった」という心配は、妊娠初期にとても多いものです。こうした不安は、いつ飲んだのか、何という薬をどれくらい飲んだのかを確認するだけで、かなり具体的に整理できます。
薬の名前がわからないときは、箱や説明書を捨てずに取っておいてください。受診のときに実物を見せていただくと、成分を正確に確認できます。自然に起こる先天異常の頻度も合わせて知っておくと、数字を落ち着いて受け止めやすくなります。
6. 妊娠初期の頭痛は流産や赤ちゃんに影響する?
妊娠初期の頭痛そのものが流産の前触れであることを示すデータは、現時点ではありません。頭痛は妊娠初期によくみられる症状の一つで、頭痛があるからといって赤ちゃんの状態が悪いということにはなりません。
妊娠初期の流産や切迫流産で主にみられる症状は、性器からの出血と下腹部の痛みや張りです。頭痛とは別に、出血が続く、生理のような強い下腹部痛がある、といった症状がある場合は、早めに産婦人科を受診してください。妊娠初期の流産の多くは赤ちゃん側の染色体の変化によるものと考えられており、お母さんの頭痛や日常の行動が原因になるものではありません。流産の原因やサインについては妊娠初期に起きる流産の原因、サインで詳しく解説しています。
赤ちゃんへの影響で考えておきたいのは、頭痛そのものよりも、どの薬を使うかです(第5章)。また、頭痛と一緒に高い熱が出ている場合は、熱の原因となる感染症の治療が必要なこともあります。熱が続くときや、寒気が強いときも、自己判断で様子をみず受診してください。妊娠初期の寒気の原因や受診の目安は妊娠超初期に寒気を感じる理由で解説しています。
7. すぐ受診すべき危険な頭痛のサイン
妊娠中の頭痛の多くは一次性頭痛ですが、次のようなサインがある頭痛は、ほかの病気が原因の二次性頭痛を考えて、すぐに受診する必要があります。ACOGのガイドラインや、二次性頭痛を見逃さないための国際的なチェックリスト(SNNOOP10)でも、妊娠中や産後であること自体が注意すべき背景の一つとして挙げられています[1][15]。
危険な頭痛のサイン一覧
🚨 すぐに受診・連絡が必要な頭痛
・突然始まり、数秒〜1分ほどで最も強くなった激しい頭痛
・これまで経験したことのない強さや性質の頭痛
・手足のしびれや動かしにくさ、ろれつが回らない、意識がぼんやりする
・物が二重に見える、見えにくい、初めて出た光のちらつき
・高い熱と首の後ろの強いこわばりを伴う
・けいれんを起こした
・薬を飲んでも治まらず、日に日に悪化している
・妊娠20週以降で、血圧が高い、急なむくみ、みぞおちの痛みや吐き気を伴う
これらは、くも膜下出血などの脳血管の病気、髄膜炎などの感染症、妊娠中期以降であれば妊娠高血圧症候群などを見分けるための目安です。夜間や休日でも、かかりつけの産婦人科に電話で連絡するか、症状が強い場合は救急要請も考えてください。
一方で、これらのサインがなく、いつもの片頭痛や緊張型頭痛と同じような痛み方で、休息や水分補給で和らぐ頭痛であれば、次の妊婦健診のときに相談するのでもかまいません。寝ても治らない頭痛が数日続く、頭痛の回数や強さが増えている、吐き気が強く水分がとれないといった場合は、危険なサインがなくても早めに受診して原因を確認してください。
妊娠中期以降は妊娠高血圧症候群に注意
妊娠高血圧症候群は妊娠20週以降に起こる病気で、妊娠初期の頭痛の原因にはなりません。ただし、妊娠中期・後期に入ってからの頭痛では、真っ先に確認すべき病気の一つです。日本産科婦人科学会によると、妊娠中に上の血圧が140mmHg以上、または下の血圧が90mmHg以上になった場合に診断され、160/110mmHg以上は重症として厳重な管理が必要になります。妊婦さんの10〜20人に1人の割合で起こるとされています[16]。
妊娠高血圧症候群に特徴的な症状はありませんが、むくみ、頭痛、めまい、目が見えにくいといった症状には注意が必要で、とくにこれまで経験したことがないような頭痛、ろれつが回りにくい、手足が動きにくい、ふだんと違う胃の痛みや吐き気があれば、すぐに産婦人科に連絡するよう呼びかけられています[16]。重症になると、けいれん発作(子癇)、脳出血、肝機能障害・溶血・血小板減少が同時に起こるHELLP(ヘルプ)症候群などの合併症を起こすことがあります[16]。ACOGも、妊娠20週以降に血圧が高い妊婦さんの頭痛では、妊娠高血圧腎症を考えるべきとしています[1]。
妊娠高血圧症候群は、定期的な妊婦健診で血圧や尿たんぱくを確認することで早く見つけることができます。家庭で血圧を測っている方は、140/90mmHgを超えたら要注意、160/110mmHgを超えたらすぐに産婦人科へ連絡してください[16]。病気の詳しい内容は妊娠高血圧症候群とはで解説しています。
8. 妊娠初期に考えておきたい検査のタイミング(NIPT)
妊娠初期は、頭痛やつわりなどの体調の変化と並行して、妊婦健診の予定や、希望する場合は出生前検査の時期を考えはじめる時期でもあります。頭痛そのものが赤ちゃんの染色体の病気と関係するわけではありませんが、出生前検査には受けられる時期が決まっているものが多いため、早めに情報を得ておくと落ち着いて考えることができます。
NIPT(新型出生前診断)は、お母さんの血液に含まれる赤ちゃん由来のDNAの断片を調べ、ダウン症候群(21トリソミー)などの染色体の数の変化の可能性を調べる検査です。妊娠10週前後から受けられる検査で、受けられる時期や調べられる範囲は検査の種類や施設によって異なります。NIPTはスクリーニング検査であり、結果が陽性の場合は羊水検査などの確定検査で確認する必要があります。詳しくはNIPTはいつから受けられる?とNIPT(新型出生前診断)とはで解説しています。
出生前検査は受けなければならない検査ではなく、わかることとわからないことを理解したうえで、受けるかどうかを選ぶ検査です。検査でわかる範囲、結果が出るまでの期間、陽性だった場合の流れは、事前に確認しておくと見通しが立てやすくなります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 妊娠初期に頭がガンガンするのはなぜですか?
多くは、ホルモンの変化、つわりによる脱水や空腹、睡眠不足、カフェインを急にやめたことなどが重なって起こる片頭痛や緊張型頭痛です。ただし、突然の激しい頭痛や、手足のしびれ、見え方の異常を伴う頭痛はすぐに受診してください。
Q2. 妊娠初期の頭痛は、つわりが終わるサインですか?
頭痛の変化がつわりの終わりを示すという根拠は、現時点ではありません。つわりが落ち着く時期と頭痛が軽くなる時期が重なる人はいますが、両者は別々に経過をみる必要があります。
Q3. 妊娠中の頭痛にカフェインは効きますか?
カフェインには血管を収縮させる作用がありますが、頭痛対策としてコーヒーを増やすのはおすすめできません。飲む場合は1日200mg未満を一つの目安とし、急に大量摂取したり急に中止したりしないようにしてください。
Q4. 寝ても治らない頭痛が続くときはどうすればよいですか?
水分や食事が十分にとれているか、睡眠が細切れになっていないかを見直してください。そのうえで、数日続く、回数や強さが増える、吐き気が強く水分がとれない場合は、危険なサインがなくても産婦人科を受診して原因を確認してください。
Q5. 妊娠初期の頭痛は流産のサインですか?
頭痛が流産の前触れであることを示すデータはありません。妊娠初期の流産や切迫流産で主にみられるのは、出血と下腹部の痛みや張りです。こうした症状があるときは早めに受診してください。
Q6. カロナールは何回まで飲んでよいですか?
飲む量と間隔は、痛みの程度や体重、ほかの薬との組み合わせによって変わるため、処方した医師の指示に従ってください。アセトアミノフェンは妊娠中の第一選択とされていますが、効果が得られる最小限の量を必要な期間だけ使うのが基本です。市販薬の場合も、アセトアミノフェン以外の成分が含まれていないかを確認してください。
まとめ
妊娠初期の頭痛の多くは、ホルモンの変化、つわりによる脱水や空腹、睡眠不足、カフェインを急にやめたことなどが重なって起こる片頭痛や緊張型頭痛です[1]。片頭痛は妊娠中期に向けて軽くなる人が多いものの、初期のうちはまだ続くことが多いことがわかっています[3]。まずは頭痛のタイプを見分け、片頭痛なら暗く静かな場所で休んで冷やす、緊張型頭痛なら温めてほぐす、という対処を試してください。
薬が必要なときの第一選択はアセトアミノフェンです。NSAIDsは妊娠20週以降、自己判断で使用せず、FDAは20〜30週では必要時に限って最小量・最短期間、30週以降は回避するよう勧告しています。日本ではロキソプロフェンは妊娠後期に禁忌です[9][10]。妊娠に気づかずに市販薬を飲んだ場合は、飲んだ時期と薬の名前を確認して産婦人科で相談してください。突然の激しい頭痛、神経の症状、見え方の異常、けいれん、妊娠20週以降の高血圧を伴う頭痛は、すぐに受診が必要です。妊娠初期の症状全体については妊娠超初期の症状、生活上の注意点は妊娠初期症状のチェックリストと生活上の注意点で解説しています。
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参考文献
- [1] Headaches in Pregnancy and Postpartum: ACOG Clinical Practice Guideline No. 3. Obstet Gynecol. 2022;139(5):944-972. [PubMed 35576364]
- [2] 8.3.1 Caffeine-withdrawal headache. The International Classification of Headache Disorders, 3rd edition (ICHD-3). International Headache Society. [ICHD-3]
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- [4] 厚生労働省. 食品に含まれるカフェインの過剰摂取についてQ&A. [厚生労働省]
- [5] ACOG Committee Opinion No. 462: Moderate caffeine consumption during pregnancy. Obstet Gynecol. 2010;116(2 Pt 1):467-468. [PubMed 20664420]
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