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婦人科検診などをきっかけに、卵巣に水が溜まっていると言われた方は、驚かれることでしょう。
卵巣に水が溜まっている場合、「卵巣腫瘍」の可能性があります。卵巣腫瘍にはいくつかの種類がありますが、その中でもサラサラの液体が溜まるのは「漿液性嚢腫」です。
あまり知られていませんが、女性の約5〜7%は人生の中で卵巣腫瘍が発生するといわれています。しかし実際のところ、卵巣にできる腫瘍の多くが良性であるため、それほど心配することはありません。
ただし、良性の腫瘍でも大きくなりすぎると、激しい腹痛を伴う「卵巣茎捻転」になりかねないので注意が必要です。
この記事では、卵巣嚢腫の種類と漿液性嚢腫の詳しい情報、漿液性嚢腫への対応を女性のライフステージ別にご紹介します。卵巣が腫れている、水が溜まっていると医師に指摘された方や、卵巣付近になんらかの症状を感じている方は、ぜひ最後まで読んでみてください。
卵巣嚢腫の種類
一般的に、腫瘍というと女性であれば更年期以降に多くみられるイメージもありますが、卵巣にできる腫瘍は若い世代にも多いことから、どの世代でも罹患する可能性があるといえる疾患です。
卵巣腫瘍には良性のものと悪性のもの、その中間の境界悪性と呼ばれるものがあり、そのうちの約8〜9割が「卵巣嚢腫(らんそうのうしゅ)」だといわれています。
さらに、卵巣嚢腫はその内容物によって以下のような種類にわけられます。
- 漿液性嚢腫(しょうえきせいのうしゅ):卵巣の表面を覆っている上皮から発生し、中にサラサラの液体が溜まっている嚢腫。
- 粘液性嚢腫(ねんえきせいのうしゅ):どろどろとした粘液が溜まっている嚢腫。
- 皮様嚢腫(ひようのうしゅ):卵巣の中に脂肪が溜まり、時には歯や髪の毛も含まれている嚢腫。
- チョコレート嚢腫:子宮内膜症の一種で、卵巣内に血液が溜まってチョコレートのようにみえる嚢腫。
卵巣嚢腫は、水や脂肪などの分泌物が卵巣に溜まる疾患です。大きさは小さいものから大きなものまでさまざまで、中には10〜20kg以上の巨大な腫瘍になることもあります。
本来は体の外に代謝されなければならない液体が溜まった状態のことを、一様に卵巣嚢腫と表現する場合もありますが、その中でもとくに「漿液性嚢腫」はサラサラの液体が溜まる疾患であるため、「水が溜まっている」と表現することもあります。
卵巣に水が溜まる漿液性嚢腫とは
卵巣にサラサラの水が溜まる漿液性嚢腫は、非常に一般的な卵巣腫瘍の一種です。
ほとんどの場合悪性ではありませんが、サイズがとても大きくなるケースもあり、結果的に患者さんの身体へ重大な症状を引き起こす恐れもあるので注意が必要です。
ここでは、漿液性嚢腫の特徴と原因、症状についてご紹介します。
漿液性嚢腫の特徴
そもそも卵巣とは、卵管を通じて子宮につながっている女性の生殖管の一部です。卵巣の外側は、上皮という特殊な薄い組織によって裏張りされて守られています。
以下は、漿液性嚢腫の特徴です。
- 10〜30代の女性に多くみられる
- 上皮から発生することが多い
- 両側の卵巣に発生することが多い
- 内容液のほとんどは無色か薄い黄色でサラサラの液体
漿液性嚢腫は、卵巣嚢腫の中でもっとも多い種類です。一部の症例では外観が異なる場合もありますが、ほとんどの漿液性嚢腫は表面が滑らかで、正常な細胞と非常によく似ています。
上述の通り、漿液性嚢腫のほとんどは良性であるものの、稀に悪性の場合もあるので注意しましょう。
漿液性嚢腫の原因
卵巣嚢腫のうち、チョコレート嚢腫は本来卵巣に発生するはずのない子宮内膜が卵巣に発生し、増殖を繰り返したことによって溜まった月経血が原因です。
それに対して漿液性嚢腫の原因は、卵巣の表層部分が変化して腫れ、中に水分が入り込んでしまったことで発生すると考えられていますが、はっきりとわかっていないのが現状です。肝臓や腎臓にできる嚢胞と同じような要因ではないかともいわれています。
漿液性嚢腫の症状
漿液性嚢腫に限らず、卵巣腫瘍は大きくなるまで症状が現れないのが特徴です。そのため、婦人科検診や他の疾患の疑いで受診した際に見つかることも多くあります。
以下は、漿液性嚢腫の症状です。
- 下腹部の痛み
- 腹部膨満感
- 腰痛
- 便秘
- 頻尿
一般的に、患者さんが症状を自覚するのは嚢腫の大きさがにぎり拳くらいになった頃です。卵巣に水が溜まることでできた嚢腫が周囲の臓器を圧迫するため、腹痛やお腹の張り、腰痛などが起こります。さらに病状が進行すると、便秘や頻尿などの症状が現れることも。
また、お腹の外側から触れると、大きくなった嚢腫をしこりのように感じたり、太ったわけでもないのにお腹だけが膨らんだりすることもあります。
場合によっては、卵巣がねじれる「卵巣茎捻転」という状態になり、突然腹部の激痛に襲われたり嘔吐が起こったりする恐れもあります。この場合、緊急手術が必要となることも多いので、良性とはいえ早期に発見することが重要なのです。
漿液性嚢腫への対応
上述したように、漿液性嚢腫などの卵巣腫瘍は大きくなるまで自覚症状がありません。そのため、検診などで偶然早期に発見される場合を除いて、見つかった頃にはかなりの大きさになっているケースも多いです。
中には妊娠したことでたまたま発見されるケースもありますが、そのような場合医療機関ではどのように対応するのでしょうか。
ここでは、漿液性嚢腫への対応について女性のライフステージ別にご紹介します。
妊活中
漿液性嚢腫があるからといって、必ずしも不妊につながるわけではありません。
卵巣に水が溜まる漿液性嚢腫が妊活中に発見された場合、嚢腫の大きさによっては手術を行って切除することもあります。なぜなら、手術で切除、摘出しないまま妊娠してしまうと、妊娠中に嚢腫部分が破れたり卵巣がねじれたりして重症化する恐れもあるからです。
このような事態を避けるためにも、嚢腫がある程度の大きさである場合は、担当の医師とよく相談し、妊娠する前に手術を受けた方がよいでしょう。
妊娠中
妊娠中に卵巣嚢腫が発見される可能性は、0.01〜1%とあまり多くはありませんが、発見された場合は超音波検査で大きさなどを確認し、必要に応じて手術を行います。
一般的な良性の卵巣腫瘍では、10cmを超えている場合に手術が検討されます。しかし漿液性嚢腫では、多房性で6cm以上のものの場合、MRIで詳しく検査を行ったうえで手術が検討されることも。
卵巣に水が溜まる腫瘍を妊娠中に切除する場合の手術は、妊娠12週以降に行うのが望ましいといわれています。なぜなら、手術による流産の危険性や胎児に与える薬物の影響が軽減されるからです。
ただ、その反面胎児が成長して大きくなると、腹腔鏡手術が行いにくくなるので、できれば妊娠12〜16週頃までに手術を計画するとよいでしょう。
更年期〜閉経後
漿液性嚢腫は10〜30代の女性に多い卵巣腫瘍です。しかし、閉経前後の約10年間にあたる更年期でも、卵巣に水が溜まる可能性もあることから考えると、漿液性嚢腫は長きにわたり注意すべき疾患だといえます。
一般的に更年期は40代後半頃からはじまるといわれていますが、50代半ばになってからという方もいるなど、個人差が大きいものです。そのことからもわかるように、女性ホルモンの分泌量にも個人差があるため、卵巣腫瘍にも注意すべきでしょう。
また、わずかにエストロゲン分泌が持続されることにより、閉経後でも卵巣に水が溜まることもあります。消滅しないことも多いですが、閉経後は手術をせずに経過観察を続けるケースも多いです。
一般的に、卵巣に水が溜まるなどの疾患を予防するためにピルが処方されることもあります。しかし、40歳を超えると血栓症のリスクが上昇するため、使用しません。
閉経後であれば、予防的に両側の卵巣を摘出する手術を行うこともありますので、よく医師と相談して納得のいく治療を受けるようにしましょう。
まとめ
卵巣嚢腫の種類と漿液性嚢腫の詳しい情報、漿液性嚢腫への対応を女性のライフステージ別にご紹介しました。
卵巣に水が溜まる卵巣腫瘍は、卵巣嚢腫といわれるもので、その中でも漿液性嚢腫はサラサラの水が溜まる疾患です。基本的に小さな嚢腫であれば定期的に経過を観察しますが、5cmを超えるような場合は、手術も検討されます。
手術の方法は開腹手術と腹腔鏡手術があり、近年では腹腔鏡手術を行う医療機関も増えてきています。腹部に小さな穴を数箇所開けるだけなので、患者さんの負担も少なくて済むでしょう。
妊活中や妊娠中の方は、卵巣に水が溜まる疾患だと言われたら不安になってしまうかもしれませんが、多くの場合良性であり適切な治療を受けることで妊娠、出産が可能です。
卵巣の疾患は、大きくなるまで自覚症状がありません。早期に発見するためにも、定期的に婦人科検診を受けるようにしましょう。