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卵巣がんなどの治療後や進行した子宮内膜症により、卵巣と腸が癒着する可能性があることをご存知ですか?
「婦人科系疾患の手術後、下剤を飲んでも便の出がよくならない」「腸が癒着しているかも」など、すでに身体になんらかの症状が現れている方もおられるかもしれません。
卵巣と腸が癒着してしまうと、腸閉塞や不妊症の原因になることも多く、女性のQOLを著しく低下させる要因にもなります。これらはすべての患者さんに起こるわけではありませんが、比較的起こりやすい疾患であるため、十分注意しなければいけません。
そこでこの記事では、卵巣と腸が癒着する原因と症状、進行すると起こりうる疾患とその治療法について解説します。卵巣と腸の癒着の関係が気になる方は、ぜひ最後まで読んでみてください。
卵巣と腸が癒着する原因と症状
卵巣とは、左右にひとつずつあり、卵子を成熟させたり女性ホルモンを分泌したりする、親指大の小さな内分泌器官です。
子宮や卵巣、卵管などの内性器は下腹部にあり、腸と近いところに位置しています。そのため、内性器がなんらかの原因で傷ついたり炎症を起こしたりすると、腸と癒着してしまうことも。
とくに卵巣は、腫瘍ができやすい臓器のひとつであるうえ、初期の段階では自覚症状もありません。気づいたときにはすでに症状が進行しているケースも多く、手術が必要になることもあるため、癒着が起こる可能性も比較的高いといえます。
ここではまず、癒着とはどのような状態なのか、卵巣と腸が癒着する原因と症状について解説します。
そもそも癒着とは
癒着とは、本来は離れているべき臓器が、炎症や外傷、手術などが原因でお互いに接触したまま組織の再形成が行われた状態のことです。
腸が癒着すると腸内の流れが悪くなり、腸閉塞などを引き起こしたり不妊の原因になったりする可能性もあるため、十分な対策を講じる必要があります。
ただし、癒着の程度がごく軽い場合や、腸の動きの邪魔にならない場合など、とくに症状がなければ問題ありません。実際のところ、卵巣と腸が癒着していても何の症状もなく、大腸の内視鏡検査を通常通り受けている方もいます。
つまり、卵巣と腸の癒着が起こっているからといって、必ずしも重篤な状態になるとは限らないということです。癒着の度合いが軽度の場合でも、精神的な要素により症状が強く出ているケースもありますので、不安になりすぎないようにしましょう。
卵巣と腸が癒着する原因
卵巣と腸が癒着する原因には、以下のようなものがあります。
- 卵巣の手術:卵巣嚢腫や卵巣がんなどで開腹手術を行った場合
- 子宮内膜症:子宮内膜症の中でも卵巣子宮内膜症(卵巣チョコレート嚢胞)の場合
上述したように、卵巣は数ある臓器の中でも腫瘍ができやすいとされています。腫瘍には良性と悪性がありますが、卵巣にできるものの約85%は良性だといわれているため、腫瘍があると診断されても、すべてが悪性ではありません。
しかし、比較的進行した状態で発見されるケースも少なくなく、手術が必要となることも多いので注意が必要です。
手術には開腹手術と腹腔鏡手術があり、どちらを選択するのかは患者さんの病状や年齢、既往歴、手術の難易度によって決めるのが一般的です。
開腹手術では、90%以上の確率で癒着が起こるといわれています。手術などで卵巣に傷がつくと、その周辺から傷口を修復するためにタンパク質が分泌され、そのタンパク質が腸に癒着してしまうことで、卵巣と腸の癒着が起こるのです。
一方の腹腔鏡手術はお腹に残る傷跡や痛みも少なく、腸の癒着が起こりにくいことから、癒着が起こりやすいのは開腹手術だといえます。しかし、だからといって一概に腹腔鏡手術を行えばよいというわけではないので、担当の医師とよく相談する必要があるでしょう。
また、開腹手術以外では、子宮内膜症でも卵巣と腸の癒着が起こることもあります。
とくに、卵巣内に子宮内膜症が発生し、古い血液がチョコレートのようにたまる「卵巣チョコレート嚢胞」では、出血によって卵巣と腸が癒着する可能性もあります。症状が強い場合は手術が必要となるので、早期に発見することが重要です。
卵巣と腸が癒着することで起こる症状
以下は、卵巣と腸が癒着することで起こる可能性のある症状の例です。
- 腹痛
- 悪心(おしん)
- 食欲不振
- 腹部膨満感
- 腹部不快感
- 腰痛
- 便秘
- 不眠
- 不安感
- 全身の倦怠感
卵巣と腸が癒着することによって起こる症状は、人によって程度が違います。激しい痛みを訴える方もいれば、鈍痛を訴える方もいますが、嘔吐や発熱、吐き気を伴う場合は速やかにかかりつけの医療機関を受診しましょう。
子宮内膜症の場合は、出血が体外へ出られなくてお腹の中に血がたまり、卵巣と腸が癒着して卵管が狭くなったり閉じたりすることもあります。チョコレート嚢胞の場合、卵巣がんになりやすいこともわかってきているので、大きくなってきたら手術で取り除かなければいけません。
初期の段階では、生理痛以外に強い症状はありませんが、進行すると腰痛や下腹部痛、性交痛や排便痛などが現れます。そのような症状がある場合は、早めに受診することをおすすめします。
卵巣と腸の癒着が進行すると起こりうる疾患と治療法
卵巣と腸の癒着が進行してしまうと、腸が自由に蠕動運動をできなくなってしまうため、腸閉塞になる可能性があります。
また、卵巣にチョコレート嚢胞がある場合はそれだけでも妊娠率に影響があるとされていますが、腸との癒着が卵管まで進行してしまうと卵管の動きが悪くなるため、不妊症になる恐れも。
ここでは、卵巣と腸の癒着が進行すると起こりうる、腸閉塞と不妊症について解説していきます。
腸閉塞
卵巣の手術が原因で腸の癒着が起きた場合、癒着した部分を中心に腸が折れたり捻れたりすることで腸が塞がってしまい、腸閉塞になる可能性があります。
癒着性の腸閉塞は、腸の内容物がうまく通過できず腹痛や吐き気、嘔吐、腹部の張りが起こります。最悪の場合は腸が破裂して腹膜炎と呼ばれる状態になることも。腹膜炎になると命に関わる可能性も考えられるので、早めに対処しなければいけません。
まずは癒着によって腸閉塞にならないよう、病院で処方された薬をきちんと飲み、多めに水分や繊維質を摂取するなど食事に気をつけたり適度な運動を心がけたりして、排便のコントロールを図ることが大切です。
万が一腸閉塞を繰り返すなどの場合は手術の適応となりますが、癒着を進行させる可能性もあるため、出来るだけ行わないことをおすすめします。
最近では、手術の際に癒着防止シートを使用する病院も増えてきています。
癒着防止シートとは、手術した部位を吸収性の布状のシートで覆い、卵巣と腸が物理的にくっつかないように分けるものです。ひと月ほど経つと自然と吸収されてなくなるため、再度開腹して取り除く必要もありません。腸閉塞で手術が必要になった場合は、使用できるか医師に相談してみるとよいでしょう。
不妊症
子宮内膜症によって卵巣と腸との癒着が起こり不妊症になった場合は、腹腔鏡手術を行って癒着を剥がしたり、内膜症病変を切除したりすることで妊娠率の改善を図るか、体外受精で妊娠を目指すことになります。
チョコレート嚢胞に対しても、腹腔鏡手術で嚢胞内の血液を排除し嚢胞を切除することで、術後の妊娠が期待できる可能性も。
嚢胞の大きさや患者さんの年齢、希望によっては卵巣の全摘出か部分切除か選択します。妊娠を望んでいる方は、嚢腫の部分のみを切除する方法を選択できる可能性もあるので、早めに受診しましょう。
手術後の癒着については、腹腔鏡手術を選択することでリスクを抑えられます。手術の必要がある場合は、医師と相談してできるだけ腹腔鏡手術を選択するようにしましょう。
また、子宮内膜症によって、卵巣の予備能力や卵子の質が低下していることも考えられます。体外受精をお考えの方は、女性の年齢が高くない場合でも、早めにステップアップを検討することをおすすめします。
まとめ
卵巣と腸が癒着する原因と症状、進行すると起こりうる疾患とその治療法について解説しました。
卵巣は、女性にとって非常に大切な臓器のひとつです。卵巣になんらかの疾患がある場合や開腹手術後は、卵巣と腸が癒着する可能性もあるため、担当医の指示に従ってできるだけ癒着しないように対処することが大切です。
万が一すでに癒着がはじまっていたとしても、体に症状がない場合はそのまま経過観察のみで済む可能性も高いですが、癒着が進行していたり繰り返したりする場合は、手術が必要になることもあります。
とくにこれから妊娠を希望する可能性のある方は、女性の妊娠能力をできるだけ損なわないようにするためにも、自身の状態をしっかりと理解し、適切な治療を受けるようにしましょう。